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コードギアス 共犯のアキト 第二十五話「王の剣」(前編)
作者:ハマシオン   2011/10/16(日) 18:33公開   ID:0A0oW1AgDOk
コードギアス 共犯のアキト
第二十五話「王の剣」(前編)





『フクオカ基地を占拠したグループの中心人物、澤崎篤は旧日本政府、第二次枢木政権で官房長官を勤めていた男です。戦後、中華連邦に亡命していましたが、ゼロの活動に伴う昨今の内情不安につけ込み、活動を起こしたものと思われます』

 ゼロとカレンが帰還して一夜明けた翌日、TVでは福岡基地を襲撃した武装グループの情報について、どこのチャンネルも大々的に報道していた。
 これまでも大なり小なりのレジスタンスによる基地襲撃は幾度もあったことだが、エリア11成立後初の国外勢力の襲撃と基地陥落ということでいつも以上に報道に熱が入っているように思われる。

『なお黒の騎士団との協力関係については不明ですが――』

「してねえっつーの!!」

「キョウトは何か言っていたか?」

「いえ、知らなかったようです。サクラダイトの採掘権のみ一方的に通告してきただけと……」

 黒の騎士団に全く何も通達せず、しかもキョウトにすら横暴な態度をとる澤崎に対し、ゼロは全く余計なことをしてくれたものだと内心で吐き捨てた。
 福岡基地はまだいい。しかし澤崎は既に大分、長崎にも支配の手を伸ばしているため、『アレ』が見つかるのは時間の問題だ。奴らがそれを見つけ、おかしなことをする前になんとしても澤崎は潰さなければ――

「扇、30分後に団員達をブリーフィングルームへ集めろ。澤崎達への対応について、皆に説明する」

「あぁ、分かった」

「黒騎士はエリアのラピスと連絡を取って、例のモノの安否を確認。ラクシャータはガヴェインの改修作業を急ピッチで進めてくれ」

「了解した」

「はいよ」

 二人は返事をすると足早に部屋を出ていった。そんな中、残った藤堂は次々と指示を飛ばすゼロに違和感を感じた。

「ゼロ、随分と焦っていないか? 何がお前をそうまで駆り立てる」

 藤堂の指摘にディートハルトを含めた残った団員達が一斉に視線をゼロに向ける。ゼロはそれに対して肩を竦めつつ、皮肉るように言葉を発した。

「焦りもするさ、福岡の近くには日本解放の切り札があるんだからな。そのためにも澤崎には――舞台を降りてもらう」





 ――同時刻、豊後水道大分湾
 灰色の雲が空を覆い尽くし、普段穏やかな海は暴風雨によって、今にも船を飲み込みそうなほどに荒れていた。
 滝のような雨によって10m先見えない中、幾線もの火線が飛び交い大きな火玉を生んでいっている。
 九州へ続く唯一の陸上路である関門大橋が破壊されたため、ブリタニアの強襲艦や輸送艦が大分湾へと進もうとするが、荒れた海がその行く手を阻み、さらには海岸線に展開した戦車や砲台が攻撃を仕掛けてくるため、ブリタニア艦は次々と沈められてしまう。
 沖合の旗艦でその様子を眺めていたコーネリアに対し、ギルフォードが忠言する。

「殿下、被害が大きすぎます。この暴風雨で爆撃機も出せませんし、攻撃は明朝まで控えた方がよろしいかと……」

「ええいっ、忌々しい!」

 相手も馬鹿ではない。澤崎も各所の基地が空から攻撃を加えられればとても維持できないと分かっているはずだ。だからこの暴風雨でブリタニアの攻撃が緩んでいる今、基地の防衛機構や戦力の充実を図る絶好の好機だ。
 元はブリタニアきっての要害。時間が経てば経つほど、基地の防衛機構が稼働しさらに攻略を難しくする。だというのに、このまま手を拱いて見ているしかないのかと、コーネリアは遠くにいる福岡基地の方を睨みつけていた。





 ――福岡基地、司令部
 ブリタニアの国旗が塗りつぶされ、支配化に置かれた基地司令部のモニターで海岸線での戦闘の一部始終を見ていた澤崎はほくそ笑んでいた。

「順調ですな。このままいけば九州ブロックの制覇も時間の問題でしょう」

「作戦と同時に嵐が来ておりますからな。正に天祐と言う他ありません」

 答えたのはスーツ姿の澤崎とは異なる、大陸風の民族衣装を身に纏った恰幅の良い年配の男だった。
 その男はツァオ将軍。澤崎が今回の件の首謀者ではあるが、ツァオ将軍こそがこの九州ブロックを襲撃している軍を率いる実質的な指令官だ。

「加えて、戦力の増強を図れたのも堯幸でしたな」

「あぁ、あの無人兵器ですかな? あんなものは日本でもブリタニアでも実用化したという話はとんと聞いたことがありませんが……まぁせっかくの兵器ですから我々で有効活用するとしましょう」

 福岡基地を占拠した際、人目を避けるように配備してあった無数の無人兵器が倉庫の一角を埋めていた。尤も、それが無人兵器と判明したのは占拠後暫くしてからのことで、防衛システムの一部が復旧した際にソレについての起動コードを探し当てたのだ。
 基地攻略の際に、なぜブリタニアがこの無人兵器群を使わなかったのかは分からないが、せっかくの戦力を放置するつもりは、澤崎には更々無かった。

「おい、基地の防衛機構はもう復旧したんだろうな?」

「はっ! 現在75%が既に稼働しています。後二時間もあれば全てのシステムを掌握できるかと」

「よし、急げよ」

 全てのシステムが復旧すればこの要害の守りは盤石になる。さらに一週間後には中華連邦から増援が来る手筈になっており、そうすればブリタニアも迂闊には九州エリアに手を出しにくくなる。恐らく関東エリアのゼロもそれに同調してくれるだろう。
 この九州エリアの制圧は新日本国成立の始まりにすぎない。例え中華連邦の傀儡と言われようとも、日本の解放のために私は全てをこの機会に賭ける。
 澤崎は己がしていることを半ば自覚しながらも、この行いを止めようとは考えることはなかった。





 ――同時刻、トウキョウ租界アッシュフォード学園
 いつ暴発するかも知れない緊張感に満ちた、九州エリアとは違い、租界はいつもと同じ平穏な時間が流れていた。
 無論租界のブリタニア市民も、九州で起こっている騒ぎをニュースで知っているが、精強なブリタニア軍ならばそう遠くない内に鎮圧してくれるだろうと高を括っていた。それはアッシュフォードの生徒会の面々も例外ではない。

「なんか九州の方大変なことになってるね、大丈夫かなぁ……」

「大丈夫じゃないって、これは戦争だよ戦争」

「戦争!?」

「日本政権を介しているとは言え、これはブリタニアと中華との全面対決だよ。大規模な戦闘は避けられないね」

 とまぁ、このようにリヴァルがしたり顔で九州での騒動を語ってはいるが、リヴァル自身も本心で戦争になるはずはないと思っている。しかし既に九州の北部全域が新日本政権の支配化にあると知れば、もっと違った反応になっていただろう。
 報道管制により九州での騒ぎこそ報道されているが、詳細はほとんど伏せられているのが実状なのだ。

「こーら、歴史が変わるかも知れない事件に関心を持つのは大いに結構だけど、私達にはもっと大事なことがあるでしょ」

「学園祭の準備でしょ? 分かってはいますけど、こう人手が足りないと……」

 ミレイに窘められ作業を再開するリヴァルであるが、机に山と積まれた書類や目の前のPCに残っている仕事量の多さにため息をついた。
 いつもならば口の悪い副会長殿が率先して片づけてくれるというのに、此処最近はとんと姿を見せなくなっている。またそれと同調するように。怪しいサングラスを着けた執事も顔を見せなくなった。

「ルルもアキトさんも最近姿見ないよねぇ……」

「去年のこの時期、アキトさんはいっつも差し入れしてくれてたのになぁ」

「アキトさんはともかく問題はルルーシュの方だよ。ったく、あの馬鹿は何処に雲隠れしてんだか」

 シャーリーはルルーシュに、ニーナはアキトと会えなくなったことに気落ちしつつ、カタカタとPCに情報を打ち込む作業を進めている。リヴァルはルルーシュがやるはずの作業のしわ寄せが自分に及んでいることに苛つき、つい悪態をつくが――

「ふーん、リヴァルはルルやアキトの事は思い出しても、私達のことは忘れるんだ」

 ポツリと呟く桃色の少女の言葉に、機嫌を悪くされてはかなわないとリヴァルは慌てて弁明する。

「いやいや! 全然姿を見せないあの二人とは違ってラピスとナナリーちゃんはしょっちゅう顔出してるじゃん!」

「ていうかラピスちゃんがいないと、生徒会は今頃パンクしちゃってるよぉ」

 実はほとんど姿を見せないルルーシュの代わりに、ラピスが普段はしない生徒会の仕事を肩代わりに処理していたりする。
 ルルーシュは黒の騎士団の活動で忙しいのはラピスも重々承知済みなのだが、彼は裏の仕事のフォローはともかく、こういった表の人間関係のフォローはほとんど手つかずなので、ラピスが仕方なしに手伝っているのだ。
 学園祭目前とあって生徒会の仕事量はかなり多く、ニーナが言うようにラピスがいなければ、机にある書類の量はこの五倍はあっただろう。IFSを備えた端末があれば、これくらいの量の仕事は一時間もかからずに終わるであろうが、流石にそれはマズイだろうと、普通にキーボードを使って地道に処理しながら、このツケはルルーシュに必ず払わせてやると密かに決めるラピスであった。

「でもいいのラピスちゃん? この前の誘拐騒ぎもあるしナナリーちゃんを一人にすると危ないんじゃ……」

 以前にあった誘拐騒ぎから、ナナリーの傍には咲世子かラピスのどちらかが傍についているので、そのラピスを生徒会の仕事で引き離すのはどうかと思っていたシャーリーだったが、その心配は無いとラピスが告げた。

「大丈夫、新しいメイドさんを雇ったから、実地研修も兼ねてその人がついている」

「へー、どんな人?」

 新しいメイドさんと聞いて、女性陣だけでなく、男のリヴァルも思わず耳を傾けた時、生徒会室の扉が開いて二人の女性がトレイを持って入ってきた。

「みなさん、お疲れさまです。お茶を煎れましたので休憩しては如何ですか?」

「おっ、噂をすれば……」

 一人はいつものように気さくに生徒会の仕事を手伝ってくれるナナリー。そして続いて現れたのはいつも傍にいる咲世子ではなく、話にあがっていた新しいメイドだった。
 長い銀髪を結ってポニーテールにして後ろに垂らし、その頭にはメイドの証ともいえるカチューシャを身につけている。着ているメイド服は咲世子が着ているの意匠とは異なり、フリルが着いたゴシック調のメイド服だ。
 同じくフリルの付いたスカートは丈こそ短いものの、扇状的な下品さは無く十分実用的な長さに収まっている。
 しかし盛り上がった胸元に僅かに覗く黒い肌とメイド服の白とのコントラスト。そして目尻が下がった穏和な顔と、ふくよかな唇が絶妙的な色気を醸し出しており、唯一の男性であるリヴァルが心の中で盛大に親指を立てていた。

「へー、ねぇナナリーちゃん。その人が新しいメイドさん?」

「あ、そういえば皆さんとは始めて会うんでしたね……」

 シャーリーの言葉にナナリーはまだ紹介していなかったことを思い出した。するとそのメイドはすっと前に出ると、トレーを机に置き深々と礼をした。

「千草と申します。皆様、至らないところがあるかと思いますが、これからよろしくお願いいたします」

 千草、と名乗ったその女性……それは紛れもなくあのヴィレッタ・ヌゥであった。





 彼女が何故ランペルージの屋敷のメイドになったのかについては、マオとの戦いまで遡る。
 夜のスタジアムでマオを倒し、スザクやドロテアを退けた後、血を流して倒れていたヴィレッタを黒騎士が発見して捕虜として基地まで連れてきたまではよかった。だが彼女の意識が戻った後尋問しようとした所、なんと記憶喪失という事が発覚。どうやら爆発の余波により頭部に衝撃を受けたことが原因のようで、事実彼女の頭には小さくない傷があった。
 そしてここで困ったのが彼女の身柄の取り扱いだ。黒の騎士団は組織としては大きくなったとはいえ、捕虜一人に多くの見張りを付けなければならないほど人材がや施設が豊潤ではない。
 更に問題なのは、彼女の身につけている軍服や所持品から、元の所属があの純血派だということが判明しており、それが団員達にも知れ渡ってしまっている事だ。
 悪名高い純血派は、エリア11の元レジスタンスにとっては不倶戴天の敵であり、憎しみの対象だ。扇を始めとした元紅月グループの面々も純血派に多くの戦友を殺されていることもあり、ヴィレッタを見る目は厳しい。
 黒の騎士団の幹部でさえこれなのだ。もしこれが一般兵なら下手をすると、拘束した後己の獣欲を満たすために抵抗できないヴィレッタに手を出しかねない。そして彼女はそれを誘発させかねないほどの美貌を持っている。

「ゼロ、流石に彼女を騎士団のアジトに置いておくのは危険だ」

 そう進言した扇と同意見のゼロではあったが、ではどこで彼女の身柄を預かるのか……そう悩んでいた時、

「ウチで預かればいいんじゃない?」

 とラピスが宣ったのだ。

「何故あの屋敷なのだ?」

「何時誰が手を出すかもしれない騎士団のアジトと違って、クラブハウスならそんな人はいないし安全でしょ? アキトも最近屋敷に戻らないから咲世子さんが掃除に時間がかかるってぼやいていたし」

「彼女は記憶を失っているとはいえブリタニアの純血派だぞ? 何かの拍子に記憶が戻ればナナリーが危険だ!」

「セキュリティは前以上に厳重にしているし、あの人には小バッタの監視をちゃんとつける。それ以前にウチ以外にあの人をちゃんと預かれる所のアテがあるの?」

「ム、ムゥ、しかし……」

「それにあの人もただ牢で放っておかれるよりは、何か仕事をした方が気が紛れるだろうし、一度ナナリーにも会わせてみたけど和やかにお喋りしてたよ?」

 良い代案が出ない上、この言葉が決定だとなりヴィレッタの身柄はアッシュフォードの屋敷で引き取ることになった。
 ほとんどクラブハウスに戻ることができずナナリーに寂しい思いをさせていたルルーシュにとっては、ナナリーの気が紛れるというラピスの言葉に抗うことはできなかったようである。尤も、ルルーシュもクラブハウスの警備はいつも以上に厳重にするよう付け加えることを忘れてはいなかった。





「千草さんは三日前まではクラブハウス内で研修をなさっていましたから、みなさんに紹介するのが遅くなってしまったんです」

「は〜、なるほどねぇ」

 千草という名前は、ブリタニア人の名前では目立つだろうと、扇がわざわざ名付けたものである。この他にもなにかと不安そうな彼女を励ましたり、日本人団員達に彼女を一捕虜として扱うよう心掛けるように注意を促したりと必要以上に気を使っていた。
 ルルーシュには何故扇が彼女にそこまで拘るのか分からず首を捻っていたが、そんなルルーシュに対してC.C.は呆れたようにこう呟いたという。

「全く、これだから頭でっかちの童貞坊やは……」

 それはさておき、ヴィレッタ……改め千草のメイドとしての腕前は、咲世子が人前に出しても遜色無いレベルに達したと判断しただけあって実に手慣れたものだった。
 加えて抜群のスタイルにエキゾチックな彼女の容姿は、かなり目を引いた。

「みなさん、どうぞ」

「ありがとうございます! いや〜、なんかこういうのいいよなぁ」

「ちょぉっとリヴァル? 気持ちは分かるけど鼻の下伸ばしすぎ!」

「でもなんか気持ちは分かる気がするなぁ。千草さんなんかカッコイイもん……」

「そうそう! なんかこう……できるオーラ? みたいなの漂ってるよね」

「い、いえ……咲世子さんに比べればまだまだですから」

 生徒会の面々の世辞を受け、千草はそう言って頬を僅かに赤く染めるが、それでもティーカップを扱う様子に狂いは無い。咲世子の教育の成果は確かなもののようだ。

「ラピス姉さん、はいどうぞ」

「ん、ありがとナナリー」

 一方でラピスはナナリーから紅茶の入ったカップを受け取っていた。千草に比べれば危なっかしい手つきだが、カップを受け渡す手つきは目が見えていないとは思えない。
 そうして皆にカップが行き渡って暫しのティータイムと相成り、デスクワークで凝り固まった目や肩をほぐしながら、皆が温かいお茶とケーキに舌鼓をうつ。

「ねぇねぇナナちゃん、最近ルルってば全然姿見せないけど、どこで何してるか知らない?」

「それが私も分からないんです。お兄さまったら近頃はアキトさんまで巻き込んで夜遊びをしているようで――」

 ここにいない人間を話の種に雑談に盛り上がる少女達。ナナリーもその輪に加わって楽しそうに雑談をしているが、ただ一人リヴァルだけが居心地悪そうにしていた。
 その様子を輪から少し離れていたミレイが何気なく眺めていたが、ふと隣に座るラピスに小さな声で尋ねた。

「ね、ラピスちゃん……ナナちゃん何か変わった?」

「なんでそう思うの?」

「んーなんていうか……ナナちゃんて今まで私達にちょっとした壁とか作ってたみたいに感じてたんだけど――あっ、別にそれを嫌だったてわけじゃないからね!?」

「うん、それは分かってる」

「……あの子、目が見えないからって、こうして集まってる時でも私達の手を煩わせたくないから、どこか遠慮した様子が目に付いたんだけど、今はなんていうか自然な感じがするのよね」

 いつもなら相槌を打ったり、話を振られた時に答えたりすることが多いナナリーだが、今日はいつにも増して饒舌で、ごく普通の会話を楽しんでいる――ようにミレイは感じていた。

「私にはいつもと同じように見えるけどね」

「んー、私より付き合いの長いラピスちゃんが言うなら、私の考え過ぎかなぁ」

 ラピスの答えにミレイは腕を組んで、唸っていたが考えてみればナナリーが積極的にしかも楽しそうに会話をしていることは結構なことだと自分を納得させ、ミレイ自らもいそいそと会話の中に加わっていった。

(全く、会長だけにいいカンしているよ)

 遠からず当たっているミレイの指摘に心の中でラピスは嘆息する。そして皆に見えないように映していた九州エリアのマップや作戦概要が書かれたファイル画面を消すと端末の画面を落とし、ラピス自らもお茶とお菓子と可愛いナナリーのために、その会話の輪に加わるのだった。





 その頃、黒の騎士団の首脳陣と実行部隊の隊長格が集まった潜水艦内の会議室ではいっそ不気味なまでの静寂さが満たされていた。
 ゼロは壇上で腕を組んだままメンバーが揃っているのを待っているが、いつもなら首脳陣だけでも作戦の概要や目的程度を話していたが、今回に限ってそれがない。沈黙を続けるゼロの様子を見て、カレンはなんだか彼が怒りを抑えているように思えて仕方なかった。
 そして最後のメンバー――ガヴェインを整備していたラクシャータが入室したのを見てゼロが重い口を開いた。

「全員集まったようだな。ではこれより作戦会議を行う」

「作戦っつーことは、九州の奴らと合流するのか?」

 玉城の声は団員達の考えを代弁したものだ。
 黒の騎士団は規模が大きくなったとはいえ、バックに中華連邦が控える澤崎の亡命政権ほど戦力を持っているわけではない。通常の考えなら澤崎と合流して戦力の拡大と九州という足場の確保に乗り出す……そう考えるだろう。
 だがゼロはそれを真っ向から否定した。

「合流? 澤崎と? 面白い冗談だなそれは」

「……えーと、それはつまり」

「澤崎の後ろには中華連邦がいる。日本を名乗っているとはいえ、所詮は傀儡政権……未来はない」

 ゼロの言葉に多くの団員はざわめき戸惑いながらも、どこかで納得していた。TVで流れるていた澤崎のバックに映っていたのはほとんどが中華製の武器で、黒の騎士団も含めたエリア11のほとんどの人間はそれを認識していたからだ。
 しかしそれに対し、四聖剣の朝比奈と卜部が意見をする。

「でもさぁ、それってブリタニアの行動を放っておくってことだよねぇ」

「いくら傀儡政権とはいえ、日本を名乗る組織を見過ごすのはマズくないか?」

 朝比奈と卜部の意見は、日本という国の解放を願う者としては至極真っ当な意見だ。傀儡とはいえ同じ日本を名乗る組織を見捨てるのは、見方によっては体裁が悪い。
 二人の意見に、傀儡でもいいからまずは日本という組織立ち上げてゆっくりと中華から距離を取ればいいのでは、という意見も出始めるが、ゼロはそれを一蹴した。

「違うな、それは間違っているぞ」

「へぇ、どう違うっていうんだい?」

「私はあの日本を無視するべきではないと言っている……寧ろ害悪だ」

「どういうことです、ゼロ?」

 ディートハルトはゼロが最後に付け加えた言葉に引っかかりを感じ、思わず口にして尋ねた。澤崎の存在はブリタニアにとっては中華との戦端を開きかねない害悪であろうが、黒の騎士団にとっては競争相手ではあっても害を為す存在とは思えなかった。

「関東エリアを始め、中部、近畿、東北エリアにも我々は小さくない影響力を持っている……無論それは九州エリアも例外ではない」

「何が言いてえんだよ!」

 回りくどい言い方に声を荒らげる玉城。その声に答えたのはゼロではなく、今まで静かに控えて立っていたアキトだった。

「九州北部の複数の軍事基地には、七年をかけて用意した対ブリタニアの兵器が保管されている」

 ザワ、と会議室に集まった面々が驚きの声を上げる。
 アキトの答えとゼロの先程の言葉を省みるに、つまりは他の複数の基地にも秘密裏に保管された兵器が存在するということだ。

「そんなこと、一体どうやって……」

「俺はなにも七年の間、ただ闇雲に各地の戦場に介入しただけじゃない。それにラピスの電子能力はおまえ達もよく知っているだろう?」

 扇の問いに静かにそう答えるアキトだが、それでも騎士団の面々は驚かずにはいられない。
 確かに七年という時間は長い。しかしその七年の間でどれだけのレジスタンスが立ち上がり、消えていったのかは言うまでもない。それほど日本占領後のブリタニアの締め付けは厳しかったのだ。
 そんな最中に、大量の兵器をブリタニアの基地の膝元に隠して保管するなど考えても実行できるとは並大抵の事ではない。

「だが、その兵器を澤崎に利用され、さらにはブリタニアに発覚すれば面倒なことになる」

「……なるほど。もし澤崎が負ければ、ブリタニアの知らない兵器が基地に保管されていることが明るみになり、他の基地にもあるのではないかと勘ぐられるようになるということだな?」

 藤堂が得心が言ったように呟くと、アキトは静かに頷いた。
 万一澤崎が勝てば九州エリアだけで事は済むかもしれないが、相手は世界の三分の一を占める超大国。嵐が過ぎればブリタニアはその力を遺憾なく発揮し、澤崎一味を駆逐するだろう。
 その前に、必ず保管した兵器をなんとかしなければならない。
 そしてゼロはマントを翻し、室内を見渡して宣言した。

「真の解放に向けての策は既に完成しつつある。だがそれを、あのような偽りの日本のために失敗させるわけにはいかん。澤崎は我々の手で引導を渡してやるのだ!」





「久しぶりだなモニカ。通信越しとはいえ、こうやって話すのは1年ぶりか」

『そうね、あなたも元気そうでよかったわ』

 小じんまりとしたあ通信室の片隅で、パイロットスーツに身を包んだドロテアは政庁に控えている同じラウンズのモニカと連絡を取っていた。

「しかしいくら黒の騎士団の勢力が大きくなったとは言え、ラウンズが二人も集まるとはな……エリア11は矯正エリアでもないし、ヨーロッパの方がまだ激戦区だろうに」

 彼らラウンズは皇帝陛下の剣として各地の戦争に引っ張りだこで、数年の間全く顔を会わさないということも珍しくはない。ましてや比較的落ち着いたエリア11で二人もラウンズが揃うことが希だ。

『あなたの役割はエリア11の平定でしょうけど、私はそうじゃなくてシュナイゼル殿下の護衛……という名の見張り役だけどね』

「シュナイゼル殿下の見張り? 何故我が国の宰相を見張る必要があるんだ?」

『さぁ……、陛下の御心は私でも分からないから』

 陛下を守る最後の盾として常にペンドラゴン宮殿に控えているモニカは、他の貴族や皇族からは『戦えないラウンズ』だの『陛下のお情けを狙う雌猫』だの陰口を叩かれている。
 過去にマリアンヌという元騎士が皇妃の座を射止めた事もあり、目麗しいモニカの容姿の事も相俟って、貴族・皇族の彼女を見る目はかなり厳しい。
 同じブリタニア人でありながら嫌悪の視線を向けられるモニカと、元ナンバーズ出身で同胞を売ってまでラウンズに成り上がったと陰口を叩かれるドロテアは、どこか馬が合い良き親友となっていた。

『それで? あなたは今回の作戦に本気で参加するの?』

「無論だ。私の弟子も参加するというのに師の私が出なければ話にならんだろう」

『……あなたもこの作戦に参加すると聞いて、本国や政庁の作戦本部は大喜びらしいわ。ラウンズが入れば勝ったも同然だってね』

「その中には、私達が目障りだからこれを機に一緒に消えてくれれば儲けもの……そんなことを考えている輩も大勢いるのだろうな」

 元ナンバーズ出身のドロテアを嫌う人間は本国だけでなくエリアの政庁にも少なくはない。何処の国の人間でも、外国人が自国の要職に就いていることに不安を覚えるし、ましてやそれが植民地国出身となれば、危険視する人間は大勢いる。
 ラウンズとしての実力は確かだが、それでも安心して背中を守らせることはできないと考える人間は、捨て石同然の役割を自ら志願したドロテアを誉め称えながら、内心で死んでくれると有り難いと考えていた。

「だがそんなことは百も承知。これくらいの窮地を打破できなければナイト・オブ・ワンなど夢のまた夢だ」

『ふぅ……あなたなら大丈夫だと思うけど、無茶はしないでね』

「あぁ、分かってい『エルンスト卿、そろそろお時間です』……っと、悪いが時間だ。それではまた政庁でな」

『えぇ、それじゃあ頑張ってね』

 ドロテアはそう言って通信のスイッチを切ると、自身の髪を結い上げながら通信室の扉を開いた。ドアの前には緊張した面もちの枢木スザクが立っており、しかし整然とした様子でドロテアを待っていた。

「待たせたな、では行こうか」

「ハッ!」

 二人が真っ直ぐと格納庫へと向かいそれへと通じる扉を開くと、そこにはロイドとセシル、それとユーフェミアの三人が揃っていた。

「ユ、ユーフェミア殿下!? 殿下は政庁にいらっしゃったはずでは……」

「あら? 私の騎士が危険な任務に赴くのです。その前に一声かけるくらい許されると思いませんか?」

「いえ、そういうことではなく! 総督と副総督が揃って戦場に出るのはいくらなんでも問題でしょう!!」

「心配入りません。私はこのアヴァロンの性能を信じていますし、そもそもそこまで深入りさせる気はありません」

「ですが万が一ということも――」

「そうであればシュナイゼルお兄さまが許すはずもありませんわ。このアヴァロンは本来ならまだ竣工していないはずの最新鋭鑑。データ取得も不十分なこれを、そう簡単に落としてしまうような愚をさせはしません。つまりはそれほどの信頼をシュナイゼルお兄さまも持っているのです」

 嘘だ、絶対それだけじゃない。スザクは内心でそう叫ばずにはいられなかった。
 どれだけ兵器の信頼性が高くとも、戦場とはその万に一つが起こり易い場所なのだ。目前のお姫様がそれを分からないはずもないが、それを無視してまでもこのアヴァロンに乗り込んだのであろう事は想像に易い。
 だがそれでも危険な場所にわざわざ乗り込んで、自分に声をかけてくれようとした事については、本当に嬉しかったのも事実。同時になんとしてもアヴァロンへの危険を排除し、この作戦を成功させなければとの意欲も沸いてくる。
 ……もしかしたらこれも彼女の思惑通りだとすると、薄ら寒いものを感じるが。

「まぁそれはともかくとして……何故お二人とも全く同じパイロットスーツを着ているのですか?」

 あれ、なんだか空気が変わったぞ? 一瞬にして変わったユーフェミアの雰囲気に、スザクはまた違った意味で薄ら寒いものを感じた。
 スザクとドロテアが着るパイロットスーツは、元が同じ設計の機体を運用する事もあってパイロットスーツも全く同じものだ。白を基調としたソレは一般兵のものと比べても高性能で、見た目も野暮ったいものではなく戦場の騎士服として見栄えするものだ。
 それを体の引き締まったスザクと、黒い肌を引き立たせるドロテアが着ると、とてもとても映えていて……ぶっちゃけユーフェミアはお揃いの服を着ている二人がペアルックのように見えてしまったのだ。

「あ〜、殿下? ランスロットとモノケロスはいわば兄弟機ですから同じパイロットスーツを使うのは至極当然の事でして……」

「えぇ、えぇ分かってます。分かってますが、こう釈然としないものが……」

 それでもむぅ〜っと可愛らしく頬を膨らませ、迫力のない顔でスザクとドロテアを睨むユーフェミア。彼女が何に対して苛立っているのか、同じ女性である故理解できたドロテアは苦笑せざるをえなかった。

「お前は将来苦労しそうだな」

「……しみじみと言わないでください」





「えー、色々とゴタゴタしましたが作戦概要を説明します」

「簡単に言えば、このアヴァロンで敵前線の上空を突破して発艦ポイントまで移動。んで、ランスロットとモノケロスでフクオカ基地を強襲して敵の本丸を攪乱しろって所だね」

「敵の空爆対策もありますし、アヴァロンが危険に晒されるのでは?」

「だ〜いじょ〜う〜ぶ。アヴァロンには高出力のブレイズ・ルミナスが搭載してあるからねぇ」

 航空艦アヴァロンは大分湾沿岸の前線を突破し、福岡県へと進入したところだ。未だ嵐の影響が強く残っていたためか沿岸からの砲撃はなく、ほぼ素通りで通過することができた。
 もし攻撃があっても、アヴァロンの下方には強力なブレイズ・ルミナスが展開が可能であり、生半可な攻撃ではびくともしない。

「フクオカ基地まではこのフロートユニットを使うのか……」

 格納庫には、何時でも発艦できるようランスロットとモノケロスの2機は既に戦闘態勢に入っていた。
 ナイトメア・フレームに単独飛行能力を持たせるフロートユニット。その性能は折り紙付きで、速度だけなら戦闘機以上。ナイトメア特有の戦闘機動を合わせれば、この上ない優秀な装備となるだろう。

「お二人のシミュレータの成績は他と比べてもダントツです。問題なく使いこなせるでしょう。ですが、モノケロスの武装は……」

「レールガンとミサイルポッドは装備できんか。まぁ構造上仕方ない」

 尤もそのフロートユニットのおかげで、モノケロスの火力は著しく減少している。コックピットを挟み込むようにして設置されたレールガンとミサイルポッドは、フロートユニットの接合部と干渉するため、やむなく外されてしまっていた。

「まぁ1機ならともかく、第七世代のナイトメアが2機も揃えば十分だ。枢木、相手は元日本人ということで貴様にも含むところがあるだろうが、今の貴様はユーフェミア殿下の筆頭騎士だ。無様な姿を見せるなよ?」

「Yes, My lord!!」

 威勢良く返事するスザクの瞳に迷いはない。ドロテアもこれなら大丈夫だろうと、スザクの肩を叩きつつモノケロスのコックピットへと乗り込んだ。
 時間から見て既に湾岸の ブリタニア艦隊は攻撃を開始している頃だろう。アヴァロンも間もなく2機の射出ポイントに到着するはずだ。

(我々が敵の本丸を攪乱する内に、オオイタ湾に展開している艦隊が前線を突破し侵攻する……か。確かに我々ならできないことはないだろうし効果的だ。なにより予想する損耗が少ない。だが、兵を半ば死地に突っ込ませるような作戦をあけすけもなく提案するとは……)

 今回の作戦はブリタニア宰相である、シュナイゼルから提案されたものだ。理にはかなってるし効果的であるが、最強戦力の二つを援護の無い敵勢力下へ送り込むなど常人では考えつかない。
 出撃前の激励で、君達の力を信じているよ、等と言われても愛国心の薄いドロテアにとってはなんの感慨も沸きはしなかった。

(まぁ、私もヤツも簡単に死ぬつもりはないがな)

 そしてそんなことを考えている内に、アヴァロンは敵の防空網に入ったようで大音量のアラートと同時にミサイル接近の報が入り、その直後、アヴァロンに僅かな振動が加わる。

『ミサイル着弾! アヴァロンにダメージ無し!』

『流石ブレイズ・ルミナス。それじゃあ第二波が来る前にさっさと発進しちゃおっか』

 これ以上進むと更に敵の対空攻撃が激しくなる。相手も流石にミサイルの飽和攻撃を無傷で耐えきれるとは思っていないだろうし、今この時が発艦のベストタイミングに違いない。
 三重に設置された格納庫のシャッターが開き、ランスロットを先頭に2機はカタパルトへと移動。ランドスピナーが加速用レールに固定され、発艦準備が整う。
 そして発艦直前、2機のコックピットのモニターにユーフェミア皇女の顔が映し出された。

『スザク、そしてドロテアさん。あなた方の無事を祈っています』

『行って参ります、ユーフェミア様!』

「ご安心を私もスザクも傷一つなく帰りますよ」

 ユーフェミアは不安の顔を浮かべては二人に心配をかけるだろうと、精一杯の笑顔を浮かべ、二人を送り出した。ドロテアはともかく、スザクは彼女の笑顔を守るためにに己の心を奮い立たせ、セシルの合図と共にランスロットを加速させ、勢いよく発艦した。

『ランスロットの発艦を確認、続けてモノケロス、どうぞ!』

「了解。モノケロス・エアキャヴァルリー……発艦!」

 唸るスピナーがレールの間を加速し、モノケロスは一気に夜空へと飛び出した。そして両翼のフロートウイングを展開し、機体を安定させてランスロットの傍へと近寄る。

「では行くぞ枢木、無様な真似を見せるなよ!」

「Yes, My load!」

 白い騎士と青い騎士は新たな翼を手にし、勝利の為へと福岡基地を目指し翔けていった。






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