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ショコラ・ノワール 最終章 チョコレートヌガー 静謐な呪い part2
作者:ひいらぎ 由衣  [Home]  2011/10/12(水) 18:03公開   ID:/dRxfOtg52o
今日も朝早くから仕事だ。私、枝野伊織は、願いの叶うチョコレート屋にいた。

廊下の掃除をしていると、お客様が入ってきた。

ダークチョコレート色のシェーとドレスを着た美しい、チョコレート屋の少女が、お客を招く。

見ると、それはテレビなどにもよく出る、人気モデルの鏡花だった。

幼い子供のような瞳で、ウエーブでふわふわした髪が美しい。

(モデルなら、お金持ちだし不自由なんてあるの?)

ドア越しに、耳を傾け二人の話を聞く。

「私、モデルをやってて、仕事は大好きなんです。でも、数ヶ月前から変な男に付きまとわれて、始めは無視してたんですけど、でも、だんだんエスカレートして言って・・・」

脅える口調で、話す鏡花。少女は、紫の長い髪をサラッとなびかせながら聞く。

「盗撮されていたんです。自宅での様子や着替え、どうやって撮ったのか
それが、ネット中に流されて・・・カメラが怖くて、仕事のカメラも、怖くなりはじめました・・・」

涙をこらえて、言う鏡花。私はゴクッと息をのんだ。

「カメラの恐怖を取り除いてほしいんですッ」

鏡花は少女に向かって、そう願った。

少女は、トレーにチョコレートを乗せ、鏡花へ気かづく。

「どうぞ、苦手を克服できるショコラアマンダ。アーモンドをチョコレートで包んだものよ。願いは必ずかなうわ・・・」

ウズラの卵くらいの大きさで、楕円形をしたチョコレート。黒い真珠のように光を優しく反射する。

「ただし、お代に大切な物をいただくわ。あるものは権力。美しさを失った者もいたわ。私のチョコは高いわよ」

少女はニヤリと不気味に笑う。鏡花は脅えながらもこう答えた。

「かまいません。このままじゃ、どうせ引退するしかないもの」

チョコレートを取り、口へ運ぶ。カリッと澄んだ音が鳴る。

すると、七色の光が鏡花を包む。鏡花は急いで、デジタルカメラで自分を撮る。

「怖くない!ちゃんと、写ってる!」

(すごい、本当にかなったんだッ)

すると、鏡花が携帯で話をする。

「えぇ!そんなッ待ってください。治りました。撮影できます!」

必死に弁明している。鏡花は唖然とした顔をする。

「仕事をすべて、キャンセルになりました」

少女は、ニヤリと笑った。

「お代にあなたの今のお仕事をいただいたわ。これからは、あなた自身で這い上がりなさい」

少女の手には、青緑色のガラス製で出来た小瓶がある。中では何かが光っている。

「はい・・・失礼します・・・」

鏡花は、店をあとにした。少女は、こっちに向かってくる。

「盗み聞きだなんて、感心しないわね」

私は軽く頭を下げ、こう問いかけた。

「彼女・・・どうなるんですか?」

「本当に強く願うなら、どんな代償でも厭わないはず、彼女のこれから彼女が決める事・・・」

すると、店の外で、鏡花がまた携帯で話をする。

「海外で?本当ですか!?行きます!よろしくお願いします」

嬉し涙をこぼす鏡花。

「私は、今の仕事を貰ったと言ったでしょう?」

鏡花は、新しい仕事を貰えたらしい。私は、ホッと胸をなでおろす。



翌朝、裏庭の花に水をやる。

花は水を浴びて、青々していく。観賞用は少なく、バーブやカモミールが多い。

(お店で使うのかな?)

風が吹くと、フワッとハーブの清々しい香りが広がる。

すると、後ろから、男の声がした。

「ショコラ・ノワールってここですか?」

振り返ると、二十代くらいの前髪は長く、ピアスを開けておしゃれな印象の男。

「そうですけど、お客様ですか?」

「店の入り口が分からなくて・・・教えていただけませんか?」

気弱そうな顔で、ボソボソと話す男。

「裏手なら、こちらです。ここからも入れますよ」

そういうと、男は深々とお辞儀をし、店へと入る。しばらくすると、少女が出てきた。

「ようこそ、ショコラ・ノワールへ、私はショコラティエの哀川ショコラ」

ダークブラウンの店主が手を差しだす。

「お前が店主か?」

「えぇ、そうよ」

男は先ほどまでの気弱な顔を変え、テーブルの上にあるチョコレートをなぎはらう。美しいチョコレートが床にたたき落とされる。

少女は無表情でそれを見ている。

「鏡花は海外へ行ったのは、お前の仕業だろう?」

「私は、彼女の願いを叶えたまでよ」

男は、テーブルに鏡花の写真を投げつける。

「これは、プライベート写真ですね?なぜ、あなたが?」

確かに、どれも、カメラ目線じゃない。普通の日常のようだ。

「彼女の事は毎日見ていた。写真を誰よりも撮ってあげたのに・・・」

(まさか、ストーカーはあの人!?)

「お客でないなら、お帰りになってちょうだい」

冷静に対応する少女。

「そうだ。俺は客だ。鏡花をずっとカメラに収めておきたい。誰よりもな・・・」

ニヤリと笑い。手を差しだす男。

「ではこれを。ショコラコニャックよ。中に閉じ込められたコニャックがあなたの情念に力を貸してくれるわ」

鏡花に売ったものと同じくらいの大きさで、小さいボンボンショコラ。

四、五粒を透明な袋でラッピングしてある。

(あんな奴の願いをかなえる気?ショコラさんは、何を考えているの?)

「や、やめッ―――」

止めにいこうとすると、誰かに手を掴まれた。振り返ると青年だった。

端正な顔立ちは彫刻のよう。少女と同じダークチョコレート色のスーツで、ケープの上には黒い毛皮のような物を撒いている。瞳は三日月を思わせる黄色。

「あ、あなたいつのまに・・・離してッ」

「俺はこの店の者だ。営業妨害は辞めてもらおう」

(ウソッだって、ここにはショコラさんしか・・・)

気がつくと、男はチョコレートを口にしていた。

「鏡花が見える!」

少女は冷たく笑う。コツコツと靴を鳴らしながら、男に近づく。

「では、お代をいただくわ」

「お代?」

すると、男が黒い煙に吸い込まれていく。

「愛するすべを知らぬ卑しき者・・・黒き闇に堕ちて行きなさい」

ズブズブと飲まれていく。

「ひぃいいい!」

煙が消えると、残っていたのはカメラのみ、口からは鏡花の写真が出てくる。

男は消えた。いや、カメラになったのだ私にはそう思えた。

「カメラになれば、好きなだけ写真が撮れるでしょう?いただいていくわね、あなたの人の姿・・・」

その瞬間、青年が私の手を離す。

「カカオ、御苦労様・・・」

少女は私の方へ歩よる。

「カカオって、黒猫の名前じゃ・・・」

「俺は、チョコレートの悪魔、カカオ。ショコラはチョコレートの魔女だ」

黒猫は、青年と言う事だ。悪魔と魔女。私は怖くなった。

「これは、心のエッセンス。願いの叶うチョコレートの源よ」

少女は、美しい笑みで小瓶を手に取る。

「あ・・・」

私は、恐ろしさで逃げたくなった。

「逃げるのはまだ早いぞ?お前の願いを叶えていないのだから・・・」

青年は、そう呟く。

「あら?また、あのお客様がいらしゃったわ」

少女は、入口の方をちらりと見る。そこにいたのは親友の久美だった。

いつも通り、真面目そうな風貌で、学校帰りなのか制服だ。

「久美!どうして・・・」

久美は、恐ろしい形相で、私を睨む。そして、少女に怒鳴った。

「どうして!なぜ、こいつが生きているの?私はこいつを不幸にしろと頼んだはずよ」

久美は、恐ろしい一言を口にする。

(私を・・・不幸に?)

意味が分からず、ただ呆然と久美を見る。

「えぇ、彼女の両親が事故に遭い、父親が亡くなられたわ。それで十分でしょ
う?」

少女は、クスクスと笑う。

「全然叶ってないッ私はコイツが死なないと、気が済まないッ」

久美は、私の方へ近づく。私は足がすくみ動けない。

「待ってよ久美。どうして・・・私達親友じゃない」

「親友?そんな事一度も思ったことないわッ」

思いがけない一言だった。

「私の家は、両親共働きで、兄弟の面倒も一人で見ていたわ
お弁当も作ってもらえず、いつもコンビニで買うパンだったッ
その時あんたはこう言った。『今日もパンなの?可哀そうだね、私のお弁当を分けてあげる』って」

私は覚えていなかった。そんなこと言った?と思った。

「そんな・・・だからって、両親は関係ないでしょ?」

涙が出そうになった。

「私が久美さんに売ったのは、復讐のチョコレート・ヌガーよ」

少女は、トレーにそれを乗せ、私に見せる。

それは、モナカで、フルーツなどを入れたチョコレートを焼いて、挟んだもの。

簡単に言えば、焼いたチョコレート菓子。

「ふふ、久美さん、私は願いをかなえたわ。お代をいただきましょう
人を軽んじる、怒れる者・・・黒き闇に堕ちて行きなさい」

「きゃああ!?」

その瞬間、久美は先ほどの男のように煙にのまれ消えた。残ったのは小さな光。

「いただいていくわね、あなたの魂そのもの」

(久美は・・・私のくだらない一言で傷ついた。なのに私は・・・)

「元に戻してください・・・」

私は少女にそう言った。

「でも、彼女は貴女の父を殺したわ。それでもいいの?」

「久美と仲直りするッお願い・・・久美を助けて・・・」

涙目で、少女に願った。

「そういうと思ったわ。少し待ってて」

奥から、チョコレートをトレーに乗せ、現れる。

「では、ロシェを食べなさい。これは、今まで起きた事をすべて壊してくれるわ」

それは、少し大きめの手のひらサイズの岩のようにゴツゴツとしたチョコレート。

ゴツゴツしているのは、ピスケットなどが入っているからのようだ。

「ただし、彼女を助けた後、どうなるか分からない。私のチョコは高いわよ?」

意地悪そうに笑う少女。

「いいです。私が悪いから・・・全部、私のせいだから・・・」

泣きながら、私はそれを食べた。チョコレートは口の中で粒となり口の中ではじけた。

すると、白い光の中から久美が現れた。

「久美ッ久美、大丈夫?」

「伊織・・・どうして?私、伊織にひどいことして・・・」

久美は不思議そうな顔をする。

「だって、私達、友達じゃない」

私は久美の微笑みかける。久美は泣き泣き私に抱きついた。

「いただいていくわね、あなた方の心の距離」

少女は、クスクス笑う。


家に戻ると、父と母が待っていた。

「伊織、今までどこにいたのッ心配してたのよ?」

父と母が、私に駆け寄る。

『起きた事、すべてを壊す』

少女の言葉に意味を知った。

「ゴメンなさい、お父さんお母さんッただいま!」


数日後、私は久美と登校していた。

久美は、すごく明るくなった。

森を見るたびにあの少女を思い出す。

「哀川ショコラ・・・」

私は、少女に心の中で、お礼を言った。

「伊織ぃ、どうしたの?学校遅れるよ」

久美が私を呼ぶ。

「うん、今行くぅ!」

私は、走って、久美のもとへと行った。



また、誰かがあの店に迷い込む。涙を流し、森の木々で体はボロボロ。

傷ついた心と体を癒すかのように、そびえ立つチョコレート色の古い洋館。

中世の城のようだ。中央のとがった塔のような建物がある。
党から生える壁が広がり、大きな窓がいくつもある。
木製の窓枠からは明りが漏れて、人が住んでいる気配がする。

『願いの叶うチョコレート屋 ショコラ・ノワール』

アーチ状の看板を見て、門を抜け、店へと足を入れる。

部屋中に、チョコレートの香りが漂う。

店舗には、たくさんの種類のチョコレートがある。どれも美味しそうだ。

美しく、怪しく光るチョコレートに手を伸ばすと、後ろから澄んだ鈴の音のような、深く綺麗な声がする。

振り返ると、美しい顔立ちの少女がいた。
ダークチョコレート色のショートドレスは飾りがたくさんついている。
白く美しい肌が映える。腰より長い髪は、夕闇のような紫。
瞳は、夜と同じ深いブルー。
可愛さの中に、大人びた雰囲気のある怪しい微笑み。

足元を見ると、漆黒の猫が三日月色の瞳をこちらむけている。
可愛らしい鳴き声を、出す。

「いらっしゃい、あなたの願いは何?」

店中に、少女の冷たい笑い声が響きわたる。

『人の心がある限り、チョコレートはいつだってあなたに力を貸すわ
それが、どんな代償であろうと、光に戻れるか、黒き闇に堕ちるかはあなた次第』

                        END


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■作者からのメッセージ
今回で最終回です

ハウズオウ様

感想ありがとうございます

いろんなチョコレートが登場しましたね

ラストは、主人公が、最初の願いとは違う事を願いましたね

ショコラは、主人公の願いが、変わる事を予知していたのかもしれません

次回は、オリジナルをやってみたいなと考えています

ショコラの魔法、原作の漫画もよろしくお願いします
テキストサイズ:9523

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