ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

Devil・partner 第三話「神の許し」
作者:ひいらぎ 由衣  [Home]  2011/10/18(火) 20:46公開   ID:/dRxfOtg52o
俺の家の前に、脱獄者の黒崎がずぶ濡れで立っていた。

黒いニット帽に、濡れて肌にくっついた金髪。

ハーフの顔をして、それはとても美しい。

「黒崎・・・なぜ、お前が?」

俺は、恐ろしさで、手が震えていた。

父を殺した奴が、目の前に立っている。しかも、脱獄者だ。

黒崎は、悪魔のような笑みを浮かべ、俺にこう言った。

「何でって・・・あいつ等≠フ居場所を教えに来たんだよ」

美しくも恐ろしい顔、声も太めで、男らしい。

(あいつ等=Hまさか、テログループの事か?)

俺はすべてを悟った。こいつは、俺にテログループの事を言いに来た。

「あ・・・そうか・・・」

刑事として、それは聞いておかなければならない。

だが、場が場だ。普通なら、署で会うはずだ。

しかし、こいつは違う・・・脱獄してしまった。

俺は、こいつを逮捕しなければならない。

俺は、ゆっくり慎重に黒崎に近づく。

「ねぇ、いれてよ・・・せっかく雨の中、濡れてきたんだしさぁ・・・
白川さんだって、風邪ひいちゃうよ?」

俺の心を読んだかのように、口を開く黒崎。

犯罪者を家にあげるなんて、言語道断。

だが、下手をすれば、何をされるかは分からない。

刑事と言っても、新米刑事。訓練もそんなに受けていない。

俺は、もっと真剣に剣道や柔道をしていればよかったと、後悔した。

「あ・・・あぁ、入れたら教えてくれるのか?」

雨の雫と混ざり、汗が額から出る。

バカなことかもしれない。だが、犯人逮捕のチャンスを逃すわけにはいかない。

「いいよ、そのためにわざわざ来たんだしさ」

笑顔でこたえる黒崎。

俺は、渋々ながらも、黒崎を家に入れた。



家賃の安い、ボロアパート。

黒崎は、部屋に入るなり、周りを見渡す。

それは、呆れた表情。

「何だ?カメラや盗聴器なんて、ないけど・・・」

上着を、部屋の壁に掛けてあるハンガーに掛ける。

黒崎も、着ていた黒いコートを脱ぎながらこう言った。

「なぁ、白川さんって引っ越してきたばっか?」

変な事を問いかける黒崎。

俺は即答した。

「いや、ここにきて、もう6年にはなる」

高校を卒業し、大学へ入学する際にこっちに一人で引っ越してきた。

昔は、アルバイトをしながら、学費と家賃を貯めていた。

その言葉に黒崎は驚いた。

「えぇ!?生活感なさすぎ、白川さんって、住み込みで働いてんの?」

顔をしかめる黒崎。あまりにも驚きすぎでは?と、正直思った。

ただでさえ、入れたくない人物なのに、その言いぐさ・・・。

確かに、部屋は二つあり、一つは、台所とトイレと洗面台。

もう一つは、和室の小さなちゃぶ台と、敷きっぱなしの布団と小型テレビ。

風呂はなく、いつもは、駅前の銭湯に入っている。

食事も、外食がほとんどで、家で食べたとしても、コンビニ弁当。

何もなく、人が住んでいるとは、あまり思えない。

「な訳ないだろ?刑事をやってれば、家なんて寝るだけで、食事もしない」

当たり前のように答える俺。

ますます、理解が出来ない様子の黒崎。

「ありえない、これじゃあ、刑務所の方がよっぽどマシだ」

確かに、刑務所は美味いとは言えないが、食事も用意され、毛布もある。

たまに、本を図書室から借り、読む者もいる。

どちらかと言えば、そうだろう。

「うるさい。で?あいつらの居場所はどこだ?」

俺は、話を変え、本題に入った。

黒崎は、小さなちゃぶ台に、持ってきていたこの地区の地図を広げた。

赤の水性ののマジックペンを取りだした。

「ここが俺らの本来のアジト・・・だが、さっき行って見れば、思った通り蛻の殻だった」

黒崎は、近所の廃工場をペンで丸くかこう。

それは、あの事件のビルにも近い距離。

テログループは、警察の足取りを警戒し、場所を移したようだ。

「まぁ、行く所なら、聞かなくても分かる
奴らは、逃げている。てことは、ここと、警察がいる場所から離れた場所だ」

黒崎は、交番や警察署にバツ印を付けた。

この近辺は、交番や警察署が多い。

「まぁ、何ヶ月もたったが、そう遠くへは逃げないだろう
すぐに逃げれるように、警察の近くにいないようによれば・・・」

黒崎は、とある廃工場に丸を付けた。

そこは、そう遠い場所ではなく、駅の近所で警察がうろつきにくい場所。

「駅が近くだと、すぐ逃げれるし、警察がうろつきにくい場所が最適だ」

俺は、驚いた。

(こいつ・・・かなり、頭はいいな・・・)

少しだけ、見直した感はあったが、犯罪者と言う文字でそれはスッと消えた。

「まぁ、警察が捜査しないのも、分かるな」

黒崎は、当たり前のように言う。

一課の情報は、外部に漏れていないはず、何になぜ。

「お前、なぜそれを知っているッお前は一体・・・」

黒崎は、暗い顔つきで、口を閉じた。

なぜ、どうして、黒崎は捜査情報を知っているのか・・・不思議だった。

「まぁ、警察なら分かるだろ?警察が動かない上からの圧力とか・・・」

ボソッと呟く。黒崎は前髪を手でかきわける。

今まで、前髪で隠れていて気付かなかったが、左眉あたりに古い傷がある。

それには見覚えがあった。

(どこで見たのだろう?初めて見たはずなのに・・・なぜ?)




翌朝、いつの間にか眠りについていた俺。

隣を見れば、黒崎はいない。

手元には、置き手紙のようにメモと、ラップで包んだカツサンドがあった。

「今日、午後6時にあの廃工場前で待っている。もちろん、誰にも話すな
あと、朝くらいなんか食べなきゃ、倒れちゃうよ

                             黒崎」

俺はカツサンドを、口に入れた。

カツがサクッと音を立てる。冷えているが、肉汁は少しだけ出る。

俺はなぜか、その味なのか黒崎の優しさなのか、少しだけ涙がこぼれた。



午後6時、俺は約束通り、一人で廃工場前へ現れた。

少し、心配だが、犯人を逮捕出来るなら、それでいい。

黒崎は、もう待っていた。

「もう、来てたのか?奴らは?」

俺は、少し警戒をしつつも、黒崎を信じ、近寄る。

黒崎は、昨日と同じ黒いコートを着て、ポケットに手を突っ込んでいた。

「あぁ、ちゃんといるよ・・・拳銃持ってる?」

もちろん、今は勤務中なので、懐には、拳銃を一丁忍ばせている。

黒崎も、刑務所の監守から奪い取った拳銃を持っていた。

「じゃあ、強行突破・・・」

黒崎は俺に問いかける。

「いや・・・ここは慎重に・・・」

急に行けば、相手も何をするか分からない。

それに・・・。

「お前、あいつらを逮捕したら、潔く捕まるか?」

逃亡者にとっては、プライドも傷つく事。

俺は、コッソリ黒崎に聞いた。

「うーん、まぁいいよ。白川さんに協力してるんだし」

なぜか上機嫌に言う黒崎。

(本当に大丈夫か?)

心配だったが、俺は黒崎を信じるしかない。

「ねぇ、白川さん、一人で行って、俺はあとから行く」

そう言われ、俺は工場に忍び込んだ。

少し、鼻にツンとくる独特の匂いがする。

俺はゆっくり慎重に忍び込む。

中には、20代前半の若者が4,5人程度集まっている。

次の計画を考えている様子だ。

俺は、ゴクッと息をのみ飛び出した。

「警察だ!大人しくしろッ」

拳銃を構え、叫ぶ俺。若者は驚いた形相。

黒崎によく似た風貌の若者。

だが、一人どこかで見た事のある顔があった。

「!?神崎さんッなぜ・・・」

俺は、茶髪で、大きなアクセサリーなどを身にまとう青年を見た。

それは、総理大臣の神崎龍之介の一人息子の龍一だった。

総理大臣の息子がなぜここに・・・。

『警察が動かない上からの圧力』

俺はようやく分かった。一課は龍一が仲間と知って、捜査をおろそかにした。

「刑事さん?何でわかったんだ?しかも、一人で・・・」

龍一は、深くため息をつき、俺を睨む。

噂では、よく総理大臣のドラ息子とは、聞いていたがここまで・・・。

「黒崎から聞いたッお前かッグループのリーダーは・・・」

そういうと、龍一は大声で笑う。

「黒崎が・・・無駄なあがきを・・・まぁいい。こいつらえいればアイツも、てだしはできない」

よく見れば、奥にロープで縛られた小学校に入りたての少女がいた。

黒髪を二つに分け、みつあみをして、薄ピンクの服を着た可愛らしい少女。

(黒崎とあの子が何か関係あるのか?)

「神崎・・・桜≠返してもらおうか?」

後ろから、黒崎が現れる。

桜とは、少女の事らしい。

龍一は、小さく舌打ちをし、こう言った。

「お前の娘だ・・・コイツの命が惜しければ、お前とその刑事を殺せ」

龍一は、笑いながらそういう。

(娘?一体どういう事だ・・・)

黒崎は、動揺せず、こう答えた。

「死ぬのは、お前の方だ神崎・・・」

悪魔の微笑みで、拳銃を神崎の方に構える黒崎。

周りの仲間達も動揺する。

「何だよお前・・・拳銃・・・持ってて・・・」

焦りはしているが、動じない龍一。

俺は、事の状況が分からなく、立ち尽くすだけ。

「俺は本気だ・・・お前一人殺したとしても、罪はそう変わらない」

今にも、発砲しそうな黒崎。

俺は慌てて引きとめる。

「やめろッ殺すのはダメだ・・・こいつは、生きて罪を償わせる・・・必ず」

俺は、刑事と言う職業でも、そう習った。

人としても・・・殺すと言うのはダメだ。

「約束する・・・必ず・・・」

そう言おうとすると、黒崎は発砲した。

俺は、その銃声に心臓が止まった。

(黒崎!?)

そう、心の中だ叫ぶと、俺はある事に気がついた。

球は外れていた。

だが、龍一は気絶しているのか、伸びている。

「アンタの正義・・・面白そうだな・・・」

意地悪そうに笑みを浮かべる黒崎。

俺は、すかさず、仲間と龍一に手錠をかける。

自分で、手錠をかけるのは、初めてで少し手先がぎこちない。

俺は、ある疑問を黒崎にぶつけた。

「なぁ・・・その子って・・・」

少女からロープを外す黒崎に問いかける。

黒崎は、少しためらいつつもこう言った。

「俺の子どもだ・・・丁度7歳になる・・・名前は桜」

桜は、黒崎に笑顔で抱きつく。それは、幸せそうで無邪気な表情。

黒崎も、今までとは違う笑みを見せる。

黒崎もこんな顔をするのかと思った。

「高校時代・・・付き合っていた女との間にできた子だ
育てているのは母親だが、母親は去年死んだ。養護施設に預けていたが、突然姿を消した。龍一は、桜を人質に俺を計画に巻き込んだんだ」

淡々と答える黒崎。

犯罪者と言っても、中には被害者から加害者になる者もいる。

そう教えられた気がした。

俺は、黒崎に背を向けていると・・・。

突然、後頭部に激痛が走る。俺は、その場に倒れた。

「悪いな、白川さん・・・だけど、俺は今捕まるわけにはいかない」

拳銃で、後頭部を殴られたようだ。

「黒崎・・・待て・・・いくなぁ・・・」

俺は、意識が薄れ、ついには、気を失ってしまった。



気がつくと、俺は病室に寝ていた。まだ頭は痛い。

上司などが周りで心配そうに見つめる。

「白川・・・すまなかったな・・・神崎達は、逮捕した
だけど・・・黒崎は・・・」

黒崎は、今も逃亡中だそうだ。

そして、黒崎の子、桜も救助されたようだ。

(黒崎・・・お前は一体何者だ?敵になったり、味方になったり・・・)

そして、俺は単独行動と黒崎を取り逃がした事で、正式に処分された。

まぁ、1ヶ月の自宅待機だった。

それだけで、すむと思ったのだが・・・。

「えっとぉ・・・今何て?」

病室で、ベッドに寝たまま、俺は、上司にこう問いかけた。

「だから、あの桜って子をお前が引き取れ、これは黒崎を逃がした処分だ」



黒崎は、一体何者なのか、そして、これからの刑事人生はどうなるのか。

不安で、仕方がなかった。

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
ハウズオウ様

今回は、どことなく黒崎のヒミツを描く事が出来ました

まだ、黒崎は謎だらけですが、それから2人の間には何があるのかを書いていきたいなと思います。

二人の間には、何か接点があるのかもしれませんね

それは、また別のお話で・・・(汗

黒崎が逃げる理由は、桜だけではなさそうですね

主人公との対決(?)も書いていきたいです

まだ、いろいろ変なところもあるかもしれませんが、よろしくお願いします
テキストサイズ:9131

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.