真っ暗で電灯の明かりしかない夜道を一人の女性が歩く。
だれ一人通らない暗い道をОL風の女性はヒールをコツコツを鳴らしながら歩く。
だが、途中で足音が2つになった。
女性は振り向くが、誰もいない。再び歩き出すが、やはり足音は2つ。
恐ろしくなり小走りで歩きはじめる。もうひとつの足音も小走りになる。
そして、曲がり角に差し掛かった時だった。
「・・・!?いやあっ」
女性の叫び声が響き渡った。
朝になり俺は布団の中で寝ていた。頭上の携帯電話が鳴り、俺は携帯電話をとる。
カーテンから漏れる眩しい光に逃げるかのように布団にもぐったまま。
「もしもし・・・?」
俺は寝起きで、頭がボウッとする。
「白川か?実はな、例の黒薔薇殺人事件がまたおきたんだ」
俺は仕事場の上司の声に少し目が覚めた。
そして黒薔薇殺人事件≠フ言葉には飛び起きた。
俺は布団から起き上がり、スーツに着替える。
俺はふと足元を見た。足元には5,6歳くらいの黒髪を2つに分けみつあみにし、クマのぬいぐるみを抱えた少女がいた。
これは、1ヶ月前の事。
「えぇ!?何で俺が引き取るんですかッ」
病院のベッドから起き上がり頭の痛いみを押さえ上司に言った。
上司は平然とした顔でこう答えた。
「引き取るって言っても、黒崎が捕まるまでだ。それならいいだろう?」
ただでさえ、生活感がない俺の住むボロアパートに幼い子が来るのは慌てる。
しかも、黒崎の娘だ。
あの子はテロ事件がきっかけで施設の子から仲間外れになっているらしい。
だからという理由だ。
1ヶ月経ってもこの子・・・桜は俺に心すら開いてくれない。
しかも、話した事すらない。
俺は、学生時代に調理時周をやっていたがそれ以来料理はやった事がない。
そのため、どうしてもコンビニ弁当になる。
だが、桜は文句ひとつ言わず食べてくれる。
俺は、朝食後に桜を保育園に送ってから仕事に向かった。
事件現場へ行くと、ОL風の20代後半の女性が仰向けになり血まみれで倒れている。
胸をナイフで刺され、女性や女性の周りには黒薔薇の花びらがばら撒かれている。
鑑識の人が写真を撮ったり、諮問採取をしている。
事件現場からは異臭がし、俺のような新米刑事は気分が悪くなる。
「黒薔薇殺人事件、もうこれで4件目だ。被害者はОLの柳響子29歳」
電話の中年男性の上司が渋い顔でそう言う。
そう、20代後半の女性が黒薔薇の花びらをばら撒かれ死んでいる事件が4件も起きている。
警察の間ではこれを黒薔薇殺人事件≠ニ呼ぶ。
「これ以上事件が起きれば、模倣犯もでるかもな・・・白川?」
真剣に上司の話を聞いていたが、俺は異臭に負け現場にはいられなくなってしまった。
この事件は、犯人の手掛かりになる証拠は黒薔薇だけだ。
黒薔薇は珍しく、近所では一つの花屋でしか売られていない。
何度も花屋へ行くが犯人の手掛かりになる事は一つも得られない。
俺は、被害者が勤めていた会社に聞き込みに行った。
「柳さん?あの人はすごく優しくていい人でした」
最初に聞いたのは被害者の同僚の佐々木。
被害者と同じ様な風貌のОL。
被害者は会社では評判はいい方であった。
やはり、無差別の殺人なのだと思った。
被害者4人の接点はなく、皆20代後半のОLしか共通点はない。
俺は、桜を迎えに行き家に帰る道を無言で歩いていた。
桜も何も話してくれない。
お互い手をつないだまま、ゆっくり歩く。
「ねぇ・・・桜ちゃんはどうして何も話してくれないの?」
俺は思い切って話しかけてみた。だが、何も答えてくれない。
顔すら見てくれなかった。
(何で?やっぱり父親じゃないと心を開いてくれないのか?それとも憎んでる?)
逃亡してそのせいで自分はいじめられているのだから、やはり憎んでるのかもしれない。
俺は、桜の前にしゃがみ込みこう言った。
「桜ちゃんは黒崎・・・お父さんのこと嫌い?」
妙な事を聞いた。俺は桜の気持ちが知りたかった。
桜は小さく横に首を振った。
「パパは・・・何で桜と一緒にいてくれないの?」
小さく俺に問いかける桜。初めて聞く声。
やはり、親は親だ。子供にとっては一人しかいない。
心が締め付けられた。あのテロ事件で父を失った。
そして今、目の前にいる桜の父親が父を殺した。
「お父さんは、桜ちゃんのそばにいたいけどいれないんだ・・・」
そういうと、桜は哀しそうな寂しそうな顔で言った。
「どうして?パパは悪い人じゃないよ・・・」
桜は黒崎が殺人犯と言う事は知っている。
信じたくないだろう自分の父親が人を殺しただなんて・・・。
「そう・・・だね・・・」
俺は何ていえばいいのか分からなかった。
ただ、黒崎にも必要とする人間がいると言うことが分かった気がした。
その夜、俺と桜は寝静まった時だった。
何やら、家のドアを叩く音がした。
俺は桜を起こさないようにソッと玄関へ向かった。
ドアを開けると、黒いニット帽をかぶった金髪のハーフの顔をした青年。
黒崎が立っていた。1ヶ月ぶりだった。
「やぁ久しぶりッこの間は殴ってゴメンね」
笑顔でそう俺に言う。
目の前に逃亡者が立っているのは、何だか変な気持ちもした。
「黒崎ッお前のせいで大変なんだぞ?さっさと警察へ行け、あの日だって約束したろ?」
俺は外へ出て、ドアにもたれかかり腕組をして黒崎に言った。
真夜中のため誰一人アパート前を通らない。
「したっけそんな約束?それより桜は元気?」
娘が心配なのか笑顔でそう聞いてきた。
「あぁ・・・お前の事も心配してた。少しは顔くらい出せよ」
俺は、深くため息をつきながらそう答えた。
桜の気持ちを分かってほしかった。
「今はまだ・・・今、桜に会えば離れられなくなる・・・気がする」
さっきとは違い、遠い目で言う黒崎。
どんなに人を殺しても大切な人はいるものだ。そう痛感させられた。
「それよりさぁ今、黒薔薇殺人事件の捜査してるんでしょ?これで4人目」
突然、そんな事を聞く黒崎。
黒崎がなぜ黒薔薇殺人事件を知っているのか疑問に思った。
確かにニュースや新聞に掲載されていたが、まだ4人目の被害者は公表していない。
「なぜそれを知っている。4人目は一般公開はしていないはずだ」
明らかにおかしい。俺は黒崎の問い詰めた。
一瞬、黒崎が犯人ではとも思った。
「別にいいじゃん、あっ俺は犯人じゃないよ」
黒崎は俺の心を見ぬいた顔つきで言う。
確かにわざわざ黒薔薇を買う余裕なんてないだろう。
「俺さぁ白川さんに協力してあげてもいいよ。桜の事協力してくれたしさ」
黒崎は笑顔で涼しく俺に言ってきた。
俺は意外な言葉に俺は驚いた。
逃亡者と手を組むのはもちろん言語道断。
「絶対嫌だ。いくらなんでもお前何かの力は借りたくない」
柵座に断る俺。
まぁ当たり前のことだろう。
だが、黒崎は落ち込む様子もなく俺に言った。
「えーッ俺に頼んだ方がいいと思うけどなぁ・・・」
俺の顔を覗きこみ意地悪そうな顔で言う黒崎。
俺はひるむ様子もなくこう聞き返した。
「どういう意味だ。お前に頼む方がいいとは・・・」
俺は少しイラッとはきていた。
黒崎は一瞬、真面目そうな顔をした
「殺人犯のことは殺人犯に聞いた方がいいでしょ?」
真面目そうな顔から一転し、再び笑顔に戻った。
俺は分からなかった。
(黒崎、お前は一体何者だ?逃亡しているくせに刑事の俺に協力するとか・・・
第一になぜお前の顔を見ると何か悲しくなるんだ?)
『クロちゃんッやめてぇ!』
消えかけていた遠い記憶に何かが見えた。
目の前に崩れ落ちる男。そして、血まみれのナイフを持つ少年。
その記憶の中で自分は泣き叫んでいた。
この記憶は一体何なのか、黒崎と何か関わりがあるのか、俺は不思議でしかたなかった。