〜『ファイル3』〜
GS計画、ガスの複製を作るべくして科学者たちが立ち上げた計画、半年ほど前にガスがその組織を完全に撲滅させていたがその残党はまだ消し切れていなかったらしい。
その生き残りの沙耶、GS計画の被害者で失敗作の彼女にガスは救いの手を差し伸べ、姑息な手段を使うブレイブに報復を決意
アークは満身創痍の状態でマシニングとセンタを迎撃し、勝利した。
パウラを救出するべくアークは止まることは無かった。
大統領は、ブレイブの独断行動を知ることはなかった。
〜12月26日7時40分『留置場 付近』〜
体中が悲鳴を上げている、寒さのおかげか痛みは鈍くいささかましだった。
アークはため息を吐き、バレットM82を構える。
残弾は五発程度、マガジンは無く使い切ったら新しい銃を拾う必要がある状況だった。
「ガス、オレはいつもどうりの援護は無理だ、怪我もしているがそれ以上に弾がない」
「わかった、オレが切り開く、安心しろ上にはフライスがいる」
耳にある無線をガスは指差す。
その後、抱きかかえていた沙耶という少女を降ろし自分のコートを着させる。M61を背負い直し吹雪の中に消えていく。
「お前、名前は?」
「沙耶」
小さく言った。
「おい、こっちに来てくれ頼みがある」
こくりと沙耶は頷きアークのもとに行く。
「オレは監視塔に上って狙撃をする、その間にそこらに落ちている銃を片っ端から集めてくれないか?」
「わかった、銃なら何でもいいのね」
そういって沙耶も吹雪の中に消えて行った。
ダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!
耳に強烈な連射音が響く、どうやらガスがドンパチを始めたらしい。
バシュンッ!!
アークの足元に銃弾が飛んでくる。
「急ぐか……」
残弾の少ないバレットを背負い監視塔に向かった。
赤外線ゴーグルがあるおかげか吹雪も関係なく敵兵の位置が手に取るようにわかる。
狙撃ポイントを見つけ、バレットを構えスコープを覗く。
「「ザ・ワールド」」
敵兵が一直線上に重なるように角度を変え、トリガーを引く。
ドゴンッ!!
バレット自体が対物ライフルの分類に入るためか六人ほどに被弾させることが出来た。
アークはそれを繰り返し、五発の弾丸で二十人ほどを殺害した。
それ以上に驚くべきところは戦闘ヘリに搭載しているようなものを簡単に振りかざすガスの方だろう。
「持ってきたよ。このくらいしかなかったけど」
下を見ると大量のライフル系の銃を持った沙耶がいた。
「充分だ、こっちに持ってきてくれ」
静かに頷き、沙耶は膝を曲げた。
アークは次見た光景を疑った。
「おいおい、非常識はガスだけにしてくれよ……」
地上から十メートルほどもある高台を沙耶はまるで軽くジャンプするような感覚で飛んだのだった。
しかも大量の銃を持った状態で。
「ごめんなさい、私はあの人を真似て作られたの」
「謝ることもないさ、お前も行って来いその背中にあるものは飾りじゃないだろ?」
銃を置き、背中にあったブレードを取り出す。
刃渡りは一メートルほどで、グリップは樹脂で出来ており刃も合金だろう被膜かなにかで黒く光っている。
一瞬だけにやっと笑った沙耶は監視塔を飛び降りた。
地面に着くと同時、沙耶の刃の切っ先が光った。
「……ごめん」
刹那という表現がまさに合っていた。
アークの目ですら一瞬だけ捉える事が出来なかったくらいのスピードで次々敵兵を切り裂く。
『アークさん、フライスです。無線が繋がったのはあんただけなので、とりあえず救出します』
「了解した、何分後だ?」
沙耶が集めた銃を使いながら無線に応答する。
『五分後です』
アークは銃から目を離し、戦況を確認する。
大きくため息をつき、無線に言った。
「一回帰ってヘリで迎えを頼む」
一面、そこには沙耶が切り捨てた敵兵もいたが、それ以上に目立つはM61を使い果たし、素手で敵軍の約三割を虐殺した化け物、ガス。
アークが最後の敵兵にピリオドを打ち、ガスと沙耶を呼び集めた。
既に吹雪は止み、太陽が晴れわたっていた。
迎えに来たフライスは周りの状況を見て苦笑いをした。
〜12月26日14時23分『ホワイトハウス』〜
レイノルズはいつものようにデスクワークを勤しんでいた。
娘は無事に助かり、ガスたちが帰っていき一安心していた。壁に穴を開けられたが、無事に修復されている。
コーヒーを飲み一息ついた。
コンコンとノックの音が聞こえる。
「入ってくれ」
「失礼します、大統領」
アポはあったが二十分ほど早くブレイブは到着していた。
「おお、よく来てくれたね」
大統領が立ち上がり、秘書に飲み物を持ってくるように指示する。
「今日は、どうした?」
「大統領にこれを渡しておこうと思いまして」
ブレイブは内ポケットから銃を取り出した。
「な、何をするんだ――ッ!!」
サイレンサーがついていたためか音は無かった。
硝煙の臭いと血の臭いが立ち上った。
「では、今度こそアメリカに死んでもらおう。私は別荘にて高みの見物といこうかな」
大統領の前からブレイブは姿を消した。
レイノルズはうめき声をあげながら、ケータイを取り出し電話をかける。心臓を外してはいるが命の危険があることが充分理解できていた。
「ブレイブを始末しろ、場所は別荘、手段を選ぶな」
レイノルズの意識はそこで途絶えた。
〜12月26日16時25分『アメリカ上空』〜
「わかったなアーク?」
携帯で大統領の話を聞いたガスは迷った結果アークに報告した。
ヘリの中は電話が来るまで静かなものだった。
「わかった、始末する」
ガスはアークにパラシュートの入ったリュックを渡す。
それをアークは慣れた手つきでパラシュートを背負いスナイパーライフル、SVDを取り出す。
ガスも自分の装備を整えていく。
「こっちは、準備できたそっちは?」
「十秒後にハッチを開きます。空か見れば分かると思いますが住宅が一見だけあります。そこにブレイブはいると思われます」
アークは深呼吸して心を落ち着かせた。鎮痛剤のおかげでだいぶ体が動くようになった。
油圧式のハッチの可動部分が音を立てる。
空気が一気に出て行くのが分かった。
「行くぞアーク」
「ああ、今日は最高で最悪の一日なるな」
倒れこむようにアークたちは落ちて行った。
目を開ければそこには針葉樹が生い茂り緑が残っていた。ポツンと一軒だけ家が見えた。おそらくあそこがブレイブのいる別荘だろう。双眼鏡で覗くと十人ほどの重装備兵がうろついていた。顔は分からないが私兵部隊の代表が掻き集まったのだろう、服の色や装備がまるで違う。
『アーク、聞こえるか?』
「ああ、聞こえる、感度も良好だ」
『そうか、じゃあ見てみろあれが敵の本拠地だ。おそらくオレたちはもう見られているだろう一気に叩くぞ』
「了解」
パラシュートをそこら辺に捨て、樹林を駆け出すアークとガス。
かなり家から近いところに着地したためか敵兵の騒ぎ声がかすかに聞こえた。
「アーク、頼んだ」
SVDを構えたアークはスコープを覗き敵兵を確認する。豆粒ほどの人影を捕らえたアークは風向きを計算する。
ダン ダン ダンッ!!
「流石だな。まるで蕾姫だな」
「黙れキモオタ」
「まぁ、そういうなってDIOさんよぉ〜」
アークはガスにじと目を使う。
ガスも装備のRP−46の安全装置を外す。
「じゃあ、行きますか」
ガスとアークは別荘に向かった。
〜12月26日8時二分『別荘』〜
「なあ!!アークこれをどう思う!?」
「見ての通り、対ガス用兵器にしか見えないだろう!!」
そこにあったのはグレネードランチャーだった。
しかし驚くことに弾は特殊なもので炸薬すると高濃度の水酸化ナトリウムの液体が飛び散る仕組みになっていた。
水酸化ナトリウム
学校の科学の実験で何度かそのワードを聞いたことがあるだろう。強いアルカリ性でタンパク質を溶かす働きがある。実際に触ってしまった奴も中にはいるかもしれないが、あれは水に対してほんのわずかな量しか入っていない大体、5〜6パーセントほどである。
ちなみにゲームとかでは硫酸が使われることが多いが、硫酸は金属を腐食させるため銃との相性はあまりよくない。
今回使っているのはおよそ90パーセントから95パーセントの非常に高濃度の水酸化ナトリウムの溶液である。
「流石のオレでも化学薬品に対しては普通の人間同じだからな、流石に今回はやばいな」
「死ぬかもな、オレたち……」
うつむきながらアークは言った。
「行くぞ、目の前には別荘があるだろ。見たところ敵兵もあと十人くらいだ」
別荘の扉に張り付き、合図を送る。
同時に扉を蹴り、こじ開けると慌てたように敵兵が銃を構えた。
「「ザ・ワールド」」
再び体に激痛が走る。まるで体のなかで何かが這い回ってるように。
ダン! ダン!
ダダダダダダダダ!!
相手の銃口がアークたちを狙う前に十人ほどの敵兵は倒れていった。
「制圧完了」
「令嬢の救出に向かう」
アークは冷静に振り返ると――
「――ッ!!」
ガスが倒れていた。
皮膚は溶けて、血が滲みだしていた。
「どうした!!」
「……オレとしたことがな油断したぜ、まさかあいつが生き残っていたとはな……気を付けろ……奴は……」
失血が酷いせいか、ガスは気を失った。幸にも脈は健在だった。
アークはガスを置いて二階に上がった。
一番奥の扉が開いており、誘っているようにも思えたがそこ以外の通路はふさがれていた。
慎重にSVDを構え、中に入るとパウラが椅子に座らされておりブレイブが銃をパウラの後頭部に銃口を突き付けていた。
「やってくれたな……あんなにさっくりと殺しやがって。おっとそれ以上近づいたら――」
「「ザ・ワールド」」
空虚に弾丸は空気を切った。
〜『エピローグ』〜
今回は戦争にはならなかったようだが、次の事件では間違いなく世界大戦は起こるだろう。
まぁ、その時はまた彼等の手には銃が握られるだろう。
また会おう。