「おいおい、なんなんだよこれ……時が止まってるみたいだ」
久々に故郷である幻想郷に帰ってきたシロガネは想像を絶する事態に見舞われていた。
次元移動をしあちら側の世界からこちら側の世界に帰ってきたはずだった。
いつも通り神社に挨拶に行き無駄に多額の賽銭を入れ、鬼と一杯交わし宴を楽しむはずだった。
(なぜ――、いや待てよこんな芸当出来るのはあいつくらいしかいない)
シロガネは白銀の無造作に作り上げた短髪を揺らし地面を蹴った。顔立ちは凛としていて鋭い目は赤く光っていた。
そして何より、背負われていた巨大な赤褐色の刀、刃渡りは五メートルを超え幅は30センチはあるだろう。銘を『天獄』シロガネの人生の九割をかけて造った武器だ。
シロガネ
その名は周囲からそう呼ばれるからそう名乗り始めた。彼の生い立ちは実に奇異なるものだった。ひとつめに両親がいない。親が死んだとかそいう事ではなく、本当に両親がいないのだつまり……どうやって生まれたのかさえ分からないという状況だった。
当時、周囲の人間はその生まれと異質の髪と眼ということもあってかシロガネを差別しいていた。その時で会ったのが八雲 紫という妖怪だった。それからシロガネはここ幻想郷に住み着いた。シロガネは幻想郷に住み始めて自分の異質さをさらに増幅させた。それがふたつめ。
そして彼はある能力に目覚めた。
『武器に能力を加える程度の能力』
武器と言っても。その範囲は異常に広い。シロガネが武器と認識したらそれに能力を付けることができる。極端なことを言えば、ペンを武器と認識したら能力を付け加わえることができる。
ただしこの能力にはデメリットがある。
その武器に能力を加えるとき、またはその武器の能力を発動するときの寿命を物凄い勢いでシロガネの寿命を消費する。おそらく武器ひとつの能力を十秒も使えば人間一人分くらいの寿命は簡単に消費するだろう。
「さて、着いたか……ここも時間が止まってるな」
シロガネが行きついたところそこは、紅魔館だった。
シロガネはある噂を聞いたことがあった。吸血鬼の住む館には時を止める人間がいると。
(我ながらよく憶えていた)
と、ドヤ顔をしていた。
「あ、あの!!」
シロガネが振り返ると、年齢はシロガネと同じくらいのメイド服を着た銀髪ショートのいかにも瀟洒な女性が挙動不審に立っていた。
「ん?おお!!生存者がいた」
「ひとつうかがってもよろしいですか?」
冷や汗をこぼしながら女性は聞いた。濡れた首筋が色っぽく、シロガネは目を逸らす。
「なにか?」
「貴方はどうして時間が止まらないのですか?」
「いや、わからん、こっちの世界に帰ってきたと思ったらこんな、なっていた……ところで名前は?」
女性ははっといたように姿勢を正した。
「
『十六夜 咲夜』と申します」
丁寧に頭を下げると胸元がちらりとシロガネの視界に入った……シロガネの無理やり視界に入れたのだった。
(コ、コイツ……パットだ、かなりの貧乳だ、服のサイズ合ってねぇぞ貧乳とか俺得すぎるわ、やべえこのメイド超可愛い、くっ!!こんな状況になるんだったら髪型ちゃんとしておけばよかったぁぁぁくそう!!)
「今、すごく失礼な視線を感じたのは気のせいですか?」
「ん?ああ、オレはアンタとは初対面だからな警戒の視線くらい送るさ」
(なんだコイツ、察しがいいぞ、邪な心は無くそう。オレそうしろオレ!!頼むオレェェ!!)
ということをシロガネは心の中で思っていたが咲夜には伝わっていなかったことが幸いであった。
「そうですよね、流石に初対面ですからね、こちらはには敵意というものがありませんのであしからず」
「ああ、すまなかったな、昨日まで戦役だったせいかまだちょっと違和感がな……あらためて自己紹介する、シロガネだ」
シロガネも一瞥した。
「こちらこそ、三か月ぶりの人の声は心に沁みますね。まったく能力が暴走してからずっとこのままですからね」
そう言って、咲夜は肩をすくめた。
「これはあくまで咲夜さんの能力ということでいいのですか?」
「ええ、まぁ、そいうことになりますね」
(これはこの人が起こした能力、現状からみて能力が止まらないのだろう。だとすると本当に止まってから三か月経っているのだろうか、それさえも怪しい)
シロガネは頭を巡らせる。
「そういえば、なんで三か月ってわかるのですか?時が止まれっていれば太陽も止まっているはずだ」
咲夜は顔を逸らし、頬を赤くした。白い柔肌に染まる赤もそれはそれでそそられるものがあった。
「せ、生理です」
「……ごめんなさい」
「あ、いえ、男性からすればなぜって話し出すからね。気にしないでください。」
(やっちまった、これ絶対オレの好感度下がったわ、初対面の挙句に余計なことまで聞いちまった。フラグだわ、これ絶対フラグだわ)
シロガネは表情とは裏腹にかなり落ち込んだ。
(考えろオレ!!ここでこの人を助ければ恩人だぞ、好感度が一気に上がるぞ、そうすればあんなことやこんな……じゃなくてお近づきになれるぞ!!)
「とりあえず、これをどうぞ」
シロガネはポケットから懐中時計を渡した。
銀細工が施してある、懐中時計は独特な魅力があり、見る者を虜にした。
「え、いいのですか、こんなに高価なものを?」
「気にするな、オレの手作りだし、その懐中時計をもっていれば生体時間を止めることができる。生体時間っていっても寿命と老化以外は止められないから、女性に現れる特有の生理現象は止められないから注意しろ。あと、大きな怪我とかしても瞬時に回復するから安心しろ……打開策を見つける前に死なれたら困るのはオレだ。万が一時間が止まったままなら、不老不死のオレは絶望的すぎるからな」
「え、あなた不老不死なんですか?」
「似て非なるものだ厳密な説明をすると背中に背負ってるこの刀は、時間を喰らう能力を持ってるんだ。これで切った人間の寿命を自分の寿命に出来るんだ。でもって、どこぞやの蓬莱の薬服用者がこの刀に触って指を切ったわけだ、不可抗力ながら不老不死だ」
シロガネは肩をすくめたと同時にため息も吐いた。
仮初の不老不死になったおかげで能力が自由にになったというのもあるが、不老不死はあまりに大きすぎた。
「そうですよね、私が死んだら、あなたが困りますよね、ありがたく貰い受けますね」
懐中時計は咲夜にとても似合っていた。この懐中時計もシロガネの能力の息がかかっている。
「これから、時間は短いですが長い交流になりそうですね。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
シロガネの幻想郷の暮らしは最悪の現状で最高の人と過ごすこととなった。
「やっぱり、さっきほどいかがわしい視線を感じたのは気のせいですか?」
「知らないなそんなこと」
シロガネは冷や汗をダラリと掻いた。
一杯目おわり