とある休日、ユリカとルリちゃんと俺の三人で、近所のファミレスで食事を取る事にする。
ユリカやルリちゃんからのたまには料理から離れてみてはどうかというお達しだ。
確かにここのところずっとラーメンとの格闘、
及び家の家事等を行なっていたたからどこか主夫めいているのも否定できない。
ユリカが軍で働いてくれている御陰で、生活にはそこそこ余裕がある。
ラーメン屋台のほうも売上が安定してきた事もあり、少しは貯金も増えた。
もう少しマシなマンションに引っ越すか、それとも店を出すまで貯めるか。
ここのところ、そういう話がよく上るようになっている。
「でも、ここだと近くにファミレスとか商店街とかあるから引越しするのも考えちゃうね?」
「だけど今のまま3人1部屋で川の字で寝るのは少し狭くないか?」
「そうでしょうか? 私物が少ない私やアキトさんは問題ない気がします」
「ルリちゃん……暗に私の私物が多いって言ってるよね……」
「はい」
ガックリと首をうなだれるユリカ。
むしろ、荷物が多いのは仕方ない。
実際、ユリカはお嬢様育ちだから、今の状況でストレスを感じずやっていられるのが不思議なほどだ。
もっとも今現在ストレスを感じているのは俺だったりする。
3人で寝るということはつまり、溜まるものが溜まるばかりなわけで……。
実際、発散したのはいつの日かという感じだ。
この状況が続くようならいつ暴発してもおかしくない……。
ユリカなら受け止めてくれるかもしれないが、ルリちゃんの目の前で出来るはずもない。
それに最近、ルリちゃんが妙に積極的な時がある……。
矛先がルリちゃんに向くなんていうことはあってはならないことだ。
だから、俺はマンション推進派だった。
「アキトー! ルリちゃんがいじめるよー!」
「はいはい、まあマンションの件は出来れば進めたいと思ってるけど急いでってわけじゃない。
また今度話し合うのでもいいんだ。
それよりも、今はルリちゃんの学校についてだ」
「そうだね、ルリちゃん頭がいいから別に教育は受けなくてもいいかもだけど。
お友達とか、一緒に遊んだりする経験は学校に行かないと手に入んないよ?」
俺とユリカが学校を進めるが、ルリちゃんはあまり乗り気ではないようだ。
以前からそういう感じは受けていたが、このままでは同年代の友達を作る事が出来ない。
精神年齢は確かにルリちゃんは見た目より高い、しかし、年上の友達しかいないと言うのも困る話だ。
「私は……特に必要を感じません……」
「確かに、誰も知り合いのいない環境にいきなりっていうのは、ルリちゃんも難しいかもしれない。
でも、この間ミナトさんが近くの中学校に教師として赴任したらしい。
そこには一緒に暮らしてるユキナちゃんもいる。
だから、他の学校に行くよりはかなり行きやすいと思うんだが……」
「でも、アキトさんのお手伝いもありますし」
「屋台に関しては、なんとか一人でもやれると思う。それに」
「うん。私も暫くは提示あがりだから大丈夫だよ♪」
ユリカの手伝いも期待できる、ユリカは料理は壊滅的だが、ウエイトレスとしては一流だ。
なにせ、お客さんの注文を一度に10くらい同時に聞いても聞き間違えることがない。
これもある種の特技だろうなと思う。
「ですが……その……」
「なんだい? ルリちゃん何か理由があって行きたくないなら言ってくれ。無理強いはしたくないしね」
「……」
ルリちゃんは、いつもの無表情な顔に、しかし僅かに戸惑いの色を浮かべて俺を見る。
何か、言いたいことがあるけれどそれをうまく言葉にできないようなそんな顔だ。
第二次性徴期が来ているからなのか、時々ルリちゃんにはドキッとさせられる。
「……学校に行っている私自身が想像できないんです」
「え?」
「友達とか、遊ぶって言っても……。
アキトさんとピースランドに行ったり、皆で歌ったりしたことくらいしか覚えがないから」
「あ……」
「そう……だよね、ルリちゃん育った所そういう環境なかったもんね……」
俺とユリカは思わず言葉につまる。
昔、ほんの小さな頃は、同い年の子らと施設でいたらしい。
その頃もまともに遊んだ事はないのだろうとは予想できる、もっともルリちゃんの記憶にもないらしいが。
その後はネルガルに関係の深い星野博士の所に引き取られ実験の日々。
まともな生活が出来るようになったのは、むしろナデシコに着任してからの話。
遊んだ経験が無かったり、友達について理解が及ばないのはむしろ当然だろう。
しかし、俺達が失策を悟ったとき、唐突に背後から声がかかった。
「へへぇ、ルリルリはあれだね学校に行っている自分が想像できないんだね!
だったらアタシの出番!!」
「アマノさんいたんですか」
「ちょっ、テンション低いなぁルリルリ! こういうときは勢いだよ! 勢い!」
「いや、実際ヒカルちゃんいつから聞いてたんだ?」
「決まってるじゃん! ネタに詰まってファミレスで頭ひねってたらルリちゃん達が来るんだもん!
最初から最後まできっちり聞かせてもらっちゃったよ!!」
ヒカルちゃんテンション高いが、髪の毛はほつれてるし、眼鏡が微妙にずれてるな。
これはあれか、徹夜明けか……。
そりゃおかしなテンションになるのも仕方ない。
しかし、そんな状況でまともな判断ができるのか?
「どんな事でも先ずは形からっていうじゃない!
うちにコスプレ用の制服ならいくらでもあるからさ!
ルリちゃん連れてよってってよー♪」
「……あのな」
「なるほど……」
「え?」
俺が反論しようとしたとき、ルリちゃんは何を想ったか頷いて了承の意を示した。
もとよりユリカはナデシコ艦内でもよくコスプレをしていたのでそういうものに対し拒否反応はない。
つまりは反対使用としているのは俺だけという構図になってしまった。
前のルリちゃんなら馬鹿の一言で切り捨てていたはずなんだが、最近馬鹿も悪くないとかよく言ってるなそういえば。
ルリちゃんの了承を得たヒカルちゃんは俺達を引っ張り自分のマンションへと引きずり込んだ。
内部は確かに漫画家らしい机が幾つかと定規やペン、紙が部屋ないに散らばっていた。
ヒカルちゃんはそれらをガサっと押入れに押し込み俺達を促す。
「じゃあテンカワ君はそこで待っててね。隣の部屋で着替えてもらうから〜♪」
「引っ張らなくても行きます」
「あっ、私も何かないー?」
「おりょ、艦長やる気ですね?」
「ふっふーん、ルリちゃんだけじゃ恥ずかしいかもしれないし♪」
「ふっふっふ、それはそうですよねー♪」
とまあ、邪悪極まりない顔でヒカルちゃんがユリカに応じた。
とはいえ制服そのものは学校にはあまり関係ない気もするんだが……。
俺は仕方なく部屋の中央にある机に座って待つことにする。
考えてみれば茶も出ていない、何というか……置き去りにされた気分だ。
『これなんかどう?』
『どれがいいのかわかりません』
『うんうん、ルリちゃんは何を着ても可愛い!』
『それはそうですよねぇ、ナデシコのコンテストでも一番だったしぃ♪』
『あれは……』
『ルリちゃん自信もちなよ!』
ユリカとヒカルちゃんがルリちゃんをよってたかって着替えさせながら、好き勝手言っているようだ。
何と言うべきか……。
女三人寄れば姦しいだっけか、そういう諺を思い出す。
「アッキトくーん、出来たよ!」
「あ……」
「その、……似合いますか?」
「ああ、凄く似合ってる」
目の前に現れたのは、ブレザーを着こなしたルリちゃん。
元々美少女だったこともあり、凄くしっかりとした着こなしだ。
とても、今初めて着たようには見えない。
俺の返事に少し頬を初めているのがなんとも初々しいくギャップを感じる。
「ふっふーん、見立ては間違ってなかったようだねテンカワ君のピンポイントをつけたみたい」
「えー! アキト、今度は私もするからね!」
「お前はもう卒業してるだろ……」
「それでもするの!」
なんというか、ユリカがご立腹らしい。
確かに、ルリちゃんに構いすぎだろうか?
なかなか難しいところだ、そんなことを考えているうちにもまた隣の部屋に戻った彼女らの声が聞こえてくる。
『さーて、もっとテンカワ君の好みを追求してみる?』
『……そうですね、やってみたいです』
『えっ、ルリちゃん?』
『ユリカさんに負けませんから』
『むー、じゃあ私もルリちゃんには負けないよ!』
『むっふっふー、二人とも火がついたみたいですねぇ。
なら、こっちのほう行ってみる?』
『えっ?』
『なるほどー、じゃあ、私はこっちにするね!』
『ユリカさん?』
ものの数分で着替え終わったらしいユリカは部屋から飛び出してきた。
着替えたユリカの服装は競泳水着……?
なんというか、コスプレというよりは……。
こんな場所でするには露出が多すぎないか(汗)
競泳水着のご多分に漏れず、前から見ると普通だが、後ろから見ると背中が腰の当たりまで見えている。
なんというかここの所溜にたまっているものが噴出しかねない装いだ。
俺は思わず俯く。
「アキト?」
「いや、そのだな……ユリカの水着はいいんだが、ちょっと俺もな……その……」
「……うーん、気に入らない? だったら……」
「ちょっ!?」
ユリカが肩紐に手をかけている。
それはつまり、俺の目の前で脱ぐ気か!?
いや、実際このままだとかなりまずいのだが……。
主に俺の息子が平行線でいられないというか……。
「ユリカまっ!!!」
「えい」
気の抜けるような声と共に結構な勢いでボールが飛んでくる。
そして、ボールは見事にユリカの後頭部に直撃した。
崩れ落ちるユリカ……。
その背後から現れたのは、バレーボールを持ったブルマ姿のルリちゃんだった……。
「ユリカさんやりすぎです。アキトさんも困ってるじゃないですか」
「でーもー!」
「というか、アキトさんの目がなんだか血走って来ているんですが……」
「もう……」
「え?」
「もう我慢できるかーーーー!!」
俺はユリカとルリちゃんに襲いかかる。
完全に理性がプッツンしていた。
そりゃもう一年くらい禁欲生活していたわけだし、いつ切れてもおかしくない状況だったわけだが……。
この時の俺は本当に理性をなくしていた。
「俺だってな!! 俺だって!!」
「はーい、そこまでだよーん」
突然頭上から何かが降ってきて俺は気絶した。
後から考えてみればこれは幸いだったのだろう。
とはいえ、その後数日は頭が痛かったが。
その後、暫くはヒカルちゃんがルリちゃんを預かりたいと言ってきたが。
(俺が危険だと思ったのだろう)
ヒカルちゃんも十分危険だからだろう、ルリちゃんは結局俺達の所に残った。
俺は今日のことで、溜めたまま放置するのがいかに危険かがわかった。
だから、週に一度ほど、ふらっと出かけるようにしようかと思ったのだが……。
「アキトさんが変なところに行くのは賛成できません」
「え……」
「どうしても我慢が出来ないのでしたら……」
「……」
ルリちゃんもそれ以上は口に出すことができなかったようだ。
というか、俺も怖くてとても聞けない。
いや、実際ユリカとの結婚を話し合い始めたばかりなのだから……。
なんというか、色々問題は山積しているようだった……。