「なんだよ!!」
シロガネは八重歯を見せ睨んだ。
「だ・か・ら、タバコをやめなさいって言ってるのよ」
永琳がシロガネに笑顔でほほ笑んでいる。
「断る、こればかりは無理な話だ、たとえ大金を積まれようが、美女を好きにしてもいいと言われようが無理だ」
「強情ね、いいかしら、タバコっていうのは約4000種類の化学物質が含まれてそのうちの数百種類が体にとっても有害なの、優曇華を好きにしてもいいから止めなさい」
「ちょっと師匠なにいって――」
「断る」
「そう言われると私に魅力がないような言われ方も……」
優曇華は涙ぐみながらため息をついた。自慢の頭のうさ耳も折れている。
「あ、いや、そうじゃなくてな、優曇華さん」
シロガネは淡々とそう言う。
「とにかく、タバコを――」
バァァァァンとドアが勢いよく開けられる。
「クロガネはいるかああああああ!!!」
背中の大きな翼が生えた黒髪の女の子、うつほがにっこりと怒っていた。
「いや、いねえよ」
「そっか、いたら教えてください、今度の料理大会に出場させるので」
シロガネはジト目になりながら。
「恥かきたくないなら、“料理”なんてことするなうつほさん」
ため息をつき、タバコに火を点けた。
肺に入りこむ紫煙はシロガネの精神を安定させる。
永琳は露骨に嫌な顔をするが、シロガネは気にしない。
「というか、あのバカ、入院してなかったか?」
「よく脱走するのですよ……」
鈴仙が困ったように言う。
「料理大会か……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「というわけで、咲夜とシロガネで料理大会に出て頂戴」
「お嬢様、流石に、それは急、過ぎませんか?」
「ふざけるな、オレに料理が出来ると思うか?」
まぁ、それなりに出来る、とシロガネは心で呟いたが言葉にしなかった。
「大丈夫よ、咲夜一人でも十分なのだから、あんたは材料でも調達してくればいいのよ」
「まて、料理大会なのに、材料調達なのか?」
「ええ、スキマ妖怪がモンスターをハントする世界から美味しそうな食材を生きたまま連れてくるらしいわ」
レミリアがそう言い放ち、紅茶を一口。
「あいつの差し金か、一応、主の意向だから拒否はしないが」
「流石、聞き覚えのいいバカは助かるわ、じゃあ、咲夜来週までにメニューを考えておきなさい」
こうして、シロガネは料理大会に参加する羽目になった。
「というわけで、今日は料理の基礎的なものをシロガネさんにお教えいたします」
咲夜に連れられ、厨房に来たシロガネは咲夜の放つよくわからない悪寒で寒気が立った。
「ちょっとまて、なんでオレが料理しなくちゃいけないんだ、食材調達だけだろ?」
「先ほど言っておりましたよね、食材調達と?」
咲夜はエプロンの紐を結いながら色っぽい唇が動いた。
「ん? ああそれはそうだが」
「食材をその場で下処理するのと時間が少し経ったものでは風味、味わい、食感が大きく変わるものも存在します、魚などがいい例でしょう、とれたてを食べるのと数時間たったものでは臭みが全然違いますよね?」
「なるほど、じゃあオレは食材となる生き物を出来るだけ新鮮に調達してほしいと?」
「その通りです、なので今回はこの世界の生物である程度訓練――」
「気絶させて持って来ればいいんだな?」
シロガネは白銀の髪をバンダナでまとめながら咲夜を見る。
「いや、まぁ、それはそうなんですが、お嬢様から聞きましたよね、相手はモンスターだってことを?」
「ああ、聞いているが、どうにも今回の料理大会、弟が出るみたいでな……」
シロガネは額を押さえ、ため息を交えた。
「それがどうしたっていうのですか?」
「……いや、なんでもない」
「それでは、練習を始めますよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「料理大会? ふざけんなこちとらまだ怪我治ってねえんだぞ?」
漆黒の髪にサファイアのような双眸がベットの上から鋭くにらむ。永遠亭の病室の一角で少しの無音が走った。
「大丈夫ですよ、怪我っていっても、もうほとんど完治してるじゃないですか、気晴らしにもなりますよ、クロガネさん」
うつほがにこやかにクロガネに顔を近づける、やや頬が赤くなっているのをクロガネは気づくことは無かった。
「料理っていってもいろいろあるんだぞ、日本食なら和食、洋食、中華料理でも四川、広東とか、西洋料理でもフランス料理、イタリア料理、他にもインド料理なんかもある、料理のお題がによっては難しい物あるんだぞ、お前、料理できるのか?」
クロガネは指を折りながら料理の種類を言いつつため息をついた。
「うう……それは……でも参加申請しちゃったし……」
「ッチ、分かったよ出てやるよ、ルール説明みたいな要項貰ってんだろ?」
「あ、それならメモしてきましたよ」
うつほがポケットからメモ帳のようなものを取り出した、それをクロガネは奪い取るようし文章に目を通した。
「なるほど、食材は異世界から持ってくるのか、まぁ、そりゃあ人里の料理人が出たら勝負が面白くないし、喧嘩っ早いここの住人には食材と一悶着があった方が楽しいわけか」
メモ帳を投げ、うつほに返すと、そそくさと上着を羽織、ベットから起き上がり、扉を開けた。
「どうした、料理するんだろ?」
クロガネはにっこりと不敵な笑みを浮かべ、廊下を進んで行った。
それを追うよううつほが慌ててついて行った。
「クロガネさん参加してくれのですか?」
「ああ、参加してやるよ、どうせオレもメンバーに入ってんだろ、二人一組だからな」
「いいんですか、私も料理したことあんまりないですよ?」
クロガネは鼻で笑いながら。
「まぁ、何とかなるだろう、一応、口に運べる程度の料理なら作れる」
「それは心強いですね」
うつほはにっこりとクロガネにほほ笑みかけた、それをみたクロガネは一瞬目を合わせてすぐに逸らした。
廊下を右に曲がり、奥の扉を開けると厨房があった。
「あ、クロガネさん、夕食はまだですよ」
鈴仙が、ピンクのエプロンをつけ菜箸で煮物を転がしていた。
「少し厨房を借りてもいいか、どうせ場所余ってんだろ?」
「ええそれは構わないですよ、食材も多少なら冷蔵庫に入ってるもの使っていですから」
ポロリと菜箸で煮物が型崩れを起こした、よく見ると、いくつか煮崩れを起こしていた。
「あと、煮物は箸で転がすより、鍋をゆすったほうが煮崩れを起こしにくいぞ」
「え、あ、そうなんですか」
鈴仙は驚いた表情になりながらクロガネを見た。
冷蔵庫を見ると、肉や魚、野菜が数種類バランスよく取り揃えられていた。
「鳥女、何が食いたい?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「シロガネさん、ひとつ聞きます、なんでこんなに料理が出来ないんですか?」
「……オレにもよく分からん、昔からそうなんだが食材を加熱するとみんな炭になるんだ」
目の前にある、魚の形をした炭を見て咲夜は驚愕を超えた表情でシロガネに聞いた。
先ほどからシロガネに魚のさばき方を教えていた咲夜は、シロガネの包丁さばきに驚きながらレッスンして、咲夜に勧められムニエルを作ろうして、魚をフライパンの上に乗せた瞬間。
三秒ほどで魚が炭化してしまった。火加減も咲夜はちゃんと確認していた。
「いや、おかしいですよ、色々な化学変化を無視してますよ、さばくのはかなり上手いのに、調理がある意味での超人ってどういう事ですか!!」
咲夜が口をパクパクさせながら可哀想な炭の魚を指差した。
「そんなこといわれてもな、出来ないものは出来ないんだよ」
首を傾けると、可哀想な魚を生ごみ入れに放り込んだ。
「とりあえず、ネックの食材をさばくのは出来たから問題ないだろう?」
「ええまぁ、そうですが……ルールも少々アバウトな点がいくつか」
料理大会のルールは大きくわけて三つ、まず二人一組の参加になる、シロガネと咲夜は紅魔組からのメンバーになる、ふたつ目は食材は八雲 紫によって放たれた異世界からの生物、食座調達フィールドから食材、調味料を入手してくること、ただし調理器具、武器は持参してもよい。三つ目、食材調達フィールドは必ず二人で行くこと。
というアバウトなルール説明だった。
裏を返せば書いていないことは大いに認めるという事になる、相手の料理の妨害はもちろん、食材の強奪、なんでもいいらしい。
もうひとつシロガネの引っ掛かるところは食材調達フィールドについてだ、捕獲道具とかではなく武器と書いており、その上、二人で行くこと、あからさまに危険を意味してるようにしかとらえられない。
間違いなく相手はかなり危険な生物になるということになる。
「片方が脱落するかもしれない、ということか」
「そういう事ですね、気をつけましょう」
咲夜は銀色のショートヘアーの髪を揺らしながら不敵にほほ笑んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……シロガネさんの言っていた意味がわかった気がします」
「ええ、これは私もびっくりです」
一流の料理はオーラを放つと言われている、長年の経験や食材の相性などが見事に調和されたときに出る、よだれが溢れるオーラのことだ。
クロガネは自分が持つ炎を操る能力で巧みに火力を調節し、1℃単位で調節しているらしく、その料理はまさに――
一流料理人の放つオーラが溢れ出ていた。
さらに丸く盛られている炒飯から香ばしいなにかが鼻を通るたびに鈴仙とうつほは驚愕の表情を浮かべていた。
「どうした? 適当に作ったから食っていいぞ?」
「いやいや、おかしいですよ、クロガネさんがこんなおいしそうな料理を作れるはずがないですよ」
そう言いつつ、うつほはレンゲで炒飯を一口ほうばる。
「美味しい……」
追うように鈴仙も香ばしい炒飯を口に運ぶ。
「美味しいです!!」 私より断然美味しいです」
「そうか、それならよかった、この程度だが料理大会はいけそうか?」
クロガネはタバコを口に運びながらうつほを見た。
「大丈夫です!! これなら優勝も目じゃありません!!」
「流石にそれは言いすぎだ、オレより美味い飯を作るやつなんてここには腐るほどいるだろ、第一、今回は平等に審査するのに異世界だが異次元だが異空間から生物を持ってくるんだろ、河豚みたいな毒のある奴だとあぶねえし、生物も凶悪そうだ」
紫煙を厨房を向きながら吐き捨てる、鍋などの洗い物はすでに終わらしてあったためかだいぶ綺麗に片付いていた。
「とりあえず……うつほ、お前包丁は何種類くらいある?」
「え? 一種類、三徳包丁が」
クロガネは顔をしかめると、厨房から出て行った。
早足で、永遠亭を後にし、クロガネは人里に向かって歩き出した。
竹林を抜け、早足で人里の金物屋の敷居をクロガネはまたいでいた。
「おい、鉄屑はあるか?」
「鉄屑なら家の裏にあるから好きなだけ持ってきな」
「ああ、すまんな、じゃ遠慮くなく」
様々な刃物や鋏が並べられている店内は手入れが隅々まで施されており、金物も錆がなかった。クロガネは裏口から外に出て、左右を確認する。
裏には山積みになった鉄屑を見つけて、頬を上に吊り上げた。
「そんなのどうするんだい?」
「決まってんだろ、こうするんだよ!」
クロガネは青白い炎を手から噴き出すと、意識を集中させる。
徐々に手の青白い炎は白さを増し、徐々に全体が白い炎になった。炎は徐々に広がり、丸い炉のような形状になってゆく。
周りにはかなり強い熱気に包まれ、クロガネは鉄屑を手に取り白い炎の中に入れていく。
ドロリと解け始めた鉄屑は炎の炉の中にとどまり、落ちることは無く、徐々に溜まってゆく。
「こんなもんか」
炎の炉は温度が徐々に下がり、中の鉄も赤熱した液体から冷え固まって黒い塊になった。
「じゃあ、またなこれはありがたく貰ってゆくぜ」
「お、おお」
驚いた表情を隠せずに金物屋の店主は口をパクパクさせていた。
それには目もくれずクロガネは鉄の塊を持ち帰っていった。
「上等だ、料理大会出てやる」
十二杯目終わり