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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾参話】光と影 近くて遠い距離
作者:首輪付きジャッカル   2012/07/04(水) 18:29公開   ID:aJK45xIaU56
「―――月詠、武御雷を持て!!」
凛とした声でそういうと殿下は立ち上がった。
殿下は自らの手でクーデター部隊の首謀者を討とうというのだ。
しかしその時、
「お待ちください!!」
殿下が皆を集めて話をしようとしたとき、自ら進言して哨戒をかってでた御剣冥夜訓練兵がそこにいた。
「そなたは・・・」
「国連太平洋方面第11軍 第207衛士訓練部隊所属、御剣冥夜訓練兵であります。
殿下、ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます」
 双子の姉妹が、いま一国の首相と一介の兵士というあまりに遠い立場で相対する。
「―――此度の件における殿下のご心痛のほど、私ごときには察することもできぬ深いものでしょう。
そして殿下の先ほどのご提案…それが民草への限りなき慈愛と御配慮にあふれたものであるとは疑うべくもございませんが―――しかし畏れながら現況を鑑みまするに少佐殿にも一部の理があるのではないかと小官は思惟致します」
話す間御剣は一度も殿下の顔を見ようとしない。それどころか、跪き、顔を上げることすらしようとしない。これも煌武院家の為来り故なのだろうか?だとしたらあまりに残酷。
「―――無礼を承知で申し上げます。決起せし者達を説得する大任…この私めに拝命賜りたいと存じます」
「!?」
「真に畏れ多いことではございますが…私は常日頃より殿下の生き写しとの盛名を馳せております。
お召し物を拝借する無礼をお許しいただけるなら恐らく彼の者達にも看破される恐れは無いと存じます。
この身を殿下のお役に立てる機会、今をおいて他にございません。
何卒…!」
 御剣は幼き日よりもしもの時は殿下の身代わりになるよう教育され、常に周りからもそう扱われてきた。今がその時だというのか?
「…そなたの申し出、大変嬉しく思います。
されどこれは私自身が果たさねばならぬ責務―――」
「畏れながら殿下、民を慈しみ、国土を育み…そしてそれらを広く深い徳を以って収め導く・・・
それこそ御身に課せられた第一の責務では御座いませぬか?
今殿下に万に一つのこと大事あらば遠からず帝国は滅びましょう。
此度の騒乱の責任が御身にあると申されるのならば―――今枢要なのは彼の者達を御自ら誅することではありますまい」
 御剣と殿下は今の今まで会話していない。だが御剣は殿下が決起部隊の主謀者を自ら討とうとしていることに気付いたのだ。将軍と兵士とか、光と影とか関係ない。二人は間違いなく姉妹だ・・・
「ご心痛如何ばかりかと存じますが…事後の民のためを第一にお考えくださいますよう伏して申し上げます―――」
「―――わかりました…そなたに任せます。
そなたであればあるいは…私より至妙に彼の者達を解きつけるやも知れませんね…」
「………」
「―――ウォーケン少佐、いかがでしょう。この者の案であればそなたにもご助力願えますか?」
腕を組み、話を聞いていたウォーケン少佐に同意を求める殿下。しかし、
「畏れながら殿下、改めて反対させていただきます」
「!?」
「・・・ご説明願えませんか、少佐?」
月詠中尉が食って掛かる。
「確かに殿下が危険にさらされるという最大の問題は回避された―――だがそれで説得が成功するという確証は無い…
仮に失敗した場合強行突破をかけることになるが…戦力を分散することを考慮に入れればそれも非常に難しくなる。
さらに言えば殿下が偽者だと発覚したときの敵の対応は予測不可能だ。今までの中尉の話から想像するに凄まじい怒りを買うだろうがな。
あくまで我等の任務は殿下を無事に横浜基地までお連れすることだ。
これらを踏まえ現状最も目的遂行の可能性が高い作戦は依然戦力を集中した中央突破勝るものはない」
「…少佐のご意見に異を唱えるわけではありません―――むしろ訓練兵を替え玉に使うことで少佐の作戦の成功率を引き上げることが可能ではないかと考えます」
「……構わん、続けろ中尉」
「は、まずこの訓練兵が決起部隊の説得に成功したらそれでよし。仮に説得に失敗した場合でも…
この者に注意を引き付けることで殿下をお乗せした機体の脱出をより容易にすることができます」
(それって・・・説得に失敗したら冥夜を見捨てていくってことだろ…?)
白銀もそのことに気付き表情に驚きが浮かぶ。月詠中尉はずっと陰ながらに御剣の護衛を続けてきた。その月詠中尉の口から「万が一の時は冥夜を切りすてる」という話しが出たのだ。白銀も驚かずに入られなかったのだ。
(いざとなったら冥夜を切る―――オレに…できるのか?殿下にトリアゾラムを打てなかったオレが―――)
「ふむ…一つ聞くがそのプラン…殿下の望みとはだいぶかけ離れているが斯衛としては構わないと?」
「この状況下で全隊無事に帰還できる可能性は如何なる作戦においても大差ないものと考えます。
殿下の提案とてそれは同じこと―――説得が成功しても決起した者達はいずれ処刑されます。
殿下もそれを踏まえた上で先程のご決断をなされたということです」
「殿下・・・そこまで・・・」
軍事裁判で罪人として不名誉な死を遂げるより、殿下に直接てを掛けられるほうが彼らにとってはいい。そういう思いも踏まえて殿下は決断したのだ。
「……己が身を恥じるばかりです」
「少佐は何か勘違いされてるようですが―――斯衛は常に殿下の安全を最優先としているに過ぎません。その観点から現状ではこの訓練兵の策がより優れていると判断したまでです」
「―――なるほどな。これまでの中尉の言動が感情に支配されたものでなかったことは私にとってよいニュースだ」
「では少佐…作戦をいかがなさいますか」
「うむ―――」
(前の世界ではクーデター事件は起こらなかった…オレやキャエーデが変えたんだ。
こうなる運命をオレ達がこの手で選んだんだ…その責任を取るとかそういうことじゃないけど…
オレが―――未来を変えたオレ自身がこの状況に対して何かしなきゃいけないんだ。殿下が…そして冥夜がしたように―――!)
「―――少佐!発言を許可してくださいッ!!」
「!?」
「まったく…国連の訓練兵は次から次へと―――何だ?言ってみろ」
「はっ!ご許可いただきありがとう御座いますッ!!
―――私は先程の替え玉作戦に志願いたしますッ!!」
「ほぅ・・・続けろ」
「は!―――まず如何に殿下が衛士技能を習得されてるとはいえ自ら戦術機で説得に向かわれるのは状況から言って不自然です」
「―――待てタケルッ!!」
「待つのは貴様だ御剣訓練兵」
「……!―――は…」
「えーと続けます。
決起部隊に安心感を与える意味でも―――これまで通り私の機体に替え玉を同乗させ、説得に向かうべきです。
これまでの移動隊形から…私の機はかなり高い確率で将軍搭乗機としてマークされている可能性があり、説得の際真実味を付加することができます。そして説得が失敗した場合を考慮すれば殿下の護衛には正規兵をより多く配するべきであり、この任務に訓練兵である私を充てることは理に適っています。
また、万が一私達が敵に拘束された場合も私が国連正規兵の強化装備を着用していることが有利に働きます。[偽装工作]といえば米軍合流後も殿下を練習機に乗せた理由になりますが―――説得の場に訓練兵が操縦してきたというのは理解しがたく…替え玉そのものに不要な疑念を呼ぶものと思われます。
付け加えるなら私の機体には既に簡易ベルトなどが敷設されておりますので即応が可能です」
「・・・訓練兵…確か貴様は私の命令を実行することをためらったな?
貴様が指揮官だったとして…このような重要な任務を命令の実行をためらうような兵士に任せるか?」
「…いいえ…任せません」
「では―――それがわかっていながら何故志願した?」
「―――先程まで…私は情けないことですが自分が直接手を下すということに怯えていました。
その後色々と考えたのですが…私はこの国が長く無いせいもあって…この争乱を冷ややかにどこか引いた目で見ていました。自分の目標達成のじゃまをするなと…こんな大事な時に人間同士で争う連中を下らないと蔑んでいました。
ですが―――この作戦の間に色々な立場の人たちの色々な考えや意見に触れて自分がどうしたらいいのかわからなくなってしまったんです。信念や立脚点というものが不明瞭なせいで他人の言い分をどう捉えていいのかわからなかった―――自分の目標や、それを達成しなければという使命感や焦りばかりが先走って…肝心の土台となる部分はスカスカだったというわけです。
―――ですがここにきてハッキリとわかったことがあります。
…それは―――自分が日本人だということです…
自分が日本人であると自己認識し、それを軸に目標を達成する方法を考え物事を決断すればいい―――
そしてその決断に従い自ら状況に関与することを厭わず出た結果には責任を持つ―――
…今はそこまでしかわかっていませんがその上で志願しました―――以上です」
「……一つ訊くが…貴様の言う[目標]とはなんだ?」
「人類の勝利です」
 白銀はハッキリと自身を持って答えた。
そんな白銀の表情を見てウォーケン少佐はゆっくりと息をつき、言った。
「―――実戦が訓練兵を鍛え上げた…ということなのか…
貴様の考えはよくわかった。だが―――」
「え…!?」
「貴様の吹雪が単機で向かうというのはいかにも不自然だな?斯衛の直援は真実身の上でも必要であろうな
…でありましょう少佐?」
月詠中尉がウォーケン少佐が言おうとした言葉を答えた。
「そういうことだ。貴様達のプランを採用する。―――替え玉は白銀機に搭乗…直援は月詠中尉とする!」
「「「了解!!」」」



『―――ハンター1(ウォーケン)より各機…これより作戦を伝える!休戦終了60秒前、オープンチャンネルにて月詠中尉が決起軍に対し交渉の意思があることを通告。敵が交渉に応じればプランAを継続、拒絶した場合はプランBに移行し、戦力を集中、中央突破を実行する』
「どうした?寒くないか?」
「よい…平気だ」
「大丈夫だ…おまえならやれるさ」
御剣の表情からは何も読み取れない。落ち着いているのか・・・緊張しているのか・・・?
『作戦開始まであと17分!各機10分以内に所定の位置につけ!』
「…いこうぜ冥夜
説得―――絶対に成功させるぞ!」
「―――無論だ!」

このときは誰も知る由も無かった。本当の敵が、既に潜り込んできていることに・・・


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