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Fate/ZERO―イレギュラーズ― プロローグ:英霊召喚
作者:蓬莱   2012/07/09(月) 00:12公開   ID:.dsW6wyhJEM
1940年代某日、第二次世界大戦の最中に、日本の小さな都市で繰り広げられた三度目の戦争が終わりを迎えようとしていた。
聖杯戦争―――あらゆる願いを叶う<聖杯>が選抜した七人の魔術師と、魔術師たちによって召喚された7体の英霊<サーヴァント>が死闘をもって、聖杯を勝ち取る闘争。

「戦争? 斯様な児戯を戦争と呼ぶなど、愚かの極みよ」

第三次聖杯戦争の顛末を見届けた男は、呆れるように、侮蔑するように呟いた。
戦とは、これまで積んだ事の帰結―――戦争に至る過程に何をしたかによって勝敗は決する。
故に、男にとって、血を血で洗う魔術師達の戦争でさえ、力比べ程度のごっこ遊びもいいところだった。
だから、男には、三度目も失敗に終わるという結末はわかり切った答えだった。

「器を失った今、この児戯につきあう道理などない。そうであろう? 」

そう問いかける男の背後には、この聖杯戦争に参加した者たち―――旧日本軍から派遣された部隊の隊員達が立っていた。
隊員達は、男の問いかけには答えなかったものの、どの目にも執念の炎がぎらついていた。

「理を弁えぬ夢想家どもには、夢を見させておけ。我らが狙うは、六十年後…その為の用意をせよ」

聖杯という怪しげな代物まで使って勝とうとした第二次世界大戦も、兵站の破綻による自滅によって、日本の敗北という結果に終わるだろう。
なればこそ、勝利を信じる夢想家であるより、堅実的な敗北者として―――今から、次の聖敗戦争にむけての下準備を始めるのだ。
ありとあらゆるところに根を張り巡らせ、第四次を万全の体勢で挑むために、男は、隊員達を引き連れて、その場を後にした。

「全ては我の策の内よ」

男は、鋭く冷たい氷のような刃の瞳で、60年先を見据えながら、呟いた。



Fate/ZERO−イレギュラーズ―



時は過ぎて、六十年後、日本から遠く離れた異国の山奥にあるとある城。
ここで、今まさに聖杯戦争に参加せんとする衛宮切嗣と、切嗣の妻であるアイリスフィール・フォン・アインツベルンによって、聖杯戦争に向けてのとある儀式が行われようとしていた。
聖杯戦争において魔術師達の手駒となる英霊―――サーヴァントの召喚である。

「こんな単純な儀式で構わないの? 」
「ああ。サーヴァントの降霊には、それほど大掛かりなものは必要ないんだ。さぁ、これで準備は整った…」

書き終えた魔方陣を見ながら、アイリスフィールは、夫である切嗣に尋ねた。
切嗣は、歪みや斑がないかを念入りにチェックしながら、アイリスフィールに説明をした。
そして、チェックを終えた切嗣は、頷いて立ち上がると、祭壇に縁の聖遺物―――かの騎士王のものとされる二つの品を設置した。

「しかし…ご老体は、何を考えて、こんな物を…」
「何か騎士王に縁のある聖遺物だと言っていたけど…ねぇ? 」

とはいえ、切嗣にしてみれば、騎士王に縁のあるという二つの聖遺物は、眉つばもいいところだった。
最初に、切嗣がアハト翁に手渡された物を確認した時は、思わず首をかしげた程だった。
それは、アイリスフィールも同じだったらしく、不安そうに二つの聖遺物を見つめた。

「木刀と鎧の一部…どう考えたって、おかしいのだけど…まぁいいか…考えても仕方のないことだし」

今一つ信憑性に欠ける代物ではあったが、アハト翁から手渡されたモノ―――恐らく、何か事情があってのことであろう。
結局、そう結論付けた切嗣は、そのまま、サーヴァント召喚の儀式を続けることにした。

「おじいさまーこれ、なに〜? 」
「ああ…パソコンとかいう切嗣の妙なからくり押したら、何か届いた品だったかのう…」

切嗣に渡されるはずだった騎士王の鞘が入った箱を持った、切嗣の娘であるイリヤスフィールと、うっかりネット販売で購入した怪しげな品を渡してしまったアハト翁がそんな会話をしていたことを知る由もなく。


―――ほぼ同時刻、日本の冬木市のとある空地

「告げる―――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ―――」

サーヴァントの召喚の儀式を行う一人の少年―――ウェイバー・ベルベットは、体内の魔術回路が活動する際に生じる苦痛と悪寒に耐えながら、詠唱を紡いでいた。

(それにしても、偶然とはいえ、管財課の手違いでサーヴァントの媒介となる聖遺物を手に入れられたのは、幸運だったなぁ…)

その最中、ウェイバーは、目の前にある聖遺物を見ながら思った。
本来ならば、聖杯戦争に参加するであろうケイネス・エルメロイ・アーチボルドに届けられるはずだった聖遺物―――半ば朽ちはてた一端の布を、ウェイバーは手に入れられることができたのだから。
とはいえ、ウェイバーは、一つだけ疑問に思う事があった。

(でも、あの紋章は何なんだ…? マケドニアゆかりのものだと聞いたけど…)

マケドニアの征服王に縁のものだとされているその布には、丸の中に三枚の葉という奇妙な紋章が描かれていた。
もし、ウェイバーに日本の歴史に関する知識があったならば、それが、とある戦国大名の家紋だと、すぐさま、気付いていただろう。
そして、そもそも管財課に配送された聖遺物そのものが、配送の手違いで送られてきたものだという事も。

(っと、いけない…儀式に集中しないと…)

だが、ウェイバーは、サーヴァント召喚の儀式に集中するために、すぐさま雑念を振り払った。
本来、気付かねばならない疑念すらも意識しないまま…

―――同時刻、冬木市深山町遠坂邸。

「誓いをここに。われは常世全ての善と成る者。我は常世全ての悪を敷く者―――」

聖杯戦争の発端となった始りの御三家の一つ遠坂家の当主である遠坂時臣は、立会人として招いた二人の人物―――言峰璃正とその息子:言峰綺礼の前で、サーヴァント召喚の呪文に集中していた。
聖杯戦争の審判役との結託など鉄壁の準備、万全の策術を以て、時臣は聖杯戦争に挑む…はずだった。

「父上、あの聖遺物で大丈夫なのでしょうか…? 」
「うむ…本来媒介に使う予定だった聖遺物を、時臣君の娘さんが壊してしまったからな…急遽、教会を通じて、取り寄せた物がアレなのだが」

サーヴァントの媒介となる聖遺物を見て、不安そうに語る綺礼に対し、璃正も半ば無理矢理自分を納得させるように言った。
綻びが生じたきっかけは、時臣の娘である遠坂凛だった。
予定日より少しばかり早く届けられた配送物―――時臣が手配した聖遺物<最初に脱皮した蛇の抜け殻の化石>を、たまたま、玄関先にいた凛が受け取ったのだ。
子供心からくる親にほめられたいという気持ちから来たものなのか、凛は直接、父である時臣に手渡そうと駆け足で走った。
そして、凛はうっかり足滑らせて転倒し、空高く投げ出された聖遺物は、地面に叩きつけられ、粉々に砕けてしまったのだ。
肝心の聖遺物を失うという事態に、頭を抱える時臣であったが、急きょ、教会の伝手を使って、璃正が代わりの聖遺物を用意してくれたおかげで何とかサーヴァントの召喚を行うことができた。
現在、時臣は、代理の聖遺物を使って、サーヴァントの召喚に臨むことになったのだが…

「…どう見ても、そうは見えませんが」
「うーむ…古のオーパーツとして、教会で扱われていた由緒ある代物らしいが…」

今一つ納得できない綺礼に、璃正も苦い顔をしながら、祭壇に置かれた聖遺物を見た。
かのキリストが肌身離さず持っていたという古ぼけた桐製の四角い箱―――表には、こう書かれていた。
―――R元服:ぬるはちっ!!という文字が。

―――同時刻冬木市深山町間桐邸

「―――されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者―――」

サーヴァントの召喚の儀式を行う一人の少女―――間桐桜は、二つの詠唱を差し挟んだ。
桜が召喚するサーヴァントの基礎能力を、クラスによる補正でパラメーターの底上げを狙ってのことだった。
すなわち、<狂化>の属性を付加するために。

「ほっほっほっほっ…さすがは、遠坂の娘といったところかのう。よもや、令呪を宿し、サーヴァントの召喚をもこなそうとはのう。のう、雁夜? 」
「っ…!? 」

幼い少女ながら、サーヴァントの召喚をなそうとする桜の素質に笑みを浮かべながら見ていた桜の祖父である間桐臓硯は、自分の隣にいる息子:間桐雁夜に目を向けた。
獲物をいたぶる様な目で笑みを浮かべる臓硯に対し、雁夜はあらん限りの殺意込めて、睨みつけた。

「そう睨むでないわ。元々は、令呪を宿せなんだ貴様の無能ゆえじゃろうが。何…桜がサーヴァントを呼び出した後は、ぬしに令呪を渡せばよいだけの話。わしの狙いはあくまで、次回の聖杯戦争じゃからのう。もっとも、それまで、相当の苦痛が伴うはずじゃが」
「爺ぃ…てめぇ…!! 」

だが、臓硯は、そんな不肖の息子である雁夜の殺意など軽く受け流しながら、逆に令呪を宿せなかった雁夜の無能を詰った。
もっとも、臓硯とて、そのまま、桜をマスターとして、聖杯戦争に参加させるつもりなどなかった。
やろうと思えば、サーヴァントの召喚する前に、桜の令呪を、雁夜に移すこともできた。
しかし、臓硯あえて、令呪を宿せなかった雁夜に対する制裁と、雁夜の苦しむ姿を楽しむ為の余興として、桜にサーヴァントの召喚を行わせたのだ。
そんな臓硯の意図に気付きながらも、何もできない雁夜はただ口を噛み締めるしかなかった。

「さて…蛇と出るか、鬼が出るか…どちらかのう…」

苦悶する雁夜の姿に満足しながら、臓硯は、用意した聖遺物―――とある邪教集団が所持していた即身仏の一部を見て、呟いた。


そして、遂に、その瞬間が訪れた。

「「「「―――汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!」」」」

閥の場所で、同時に告げられる呪文が結びをつけると同時に、描かれた召喚の文様は輝きを増しながら、伝説となった英雄たちを呼び寄せた。

「問おう―――お主が、わしを呼んだますたぁか?」
「へ? 」

呆けた顔で地面にへたり込んだウェイバーに笑顔で問いかけたのは、黒い前髪を上げ、分厚い山金でできた手甲をみにつけパーカーのような上着を着た若き偉丈夫さった。
まるで太陽のようだ―――この時、ウェイバーは呼び出したサーヴァントである偉丈夫の笑顔をみて、そう思った。

「あれ、おっさんが俺を呼んでくれたの? それじゃ、俺があんたの願いを叶えてやるぜ」
「Jud―――全裸で、その台詞は説得力皆無です」
「…」

現われたのは、気安く時臣の肩を叩く、茶色の髪に、笑ったような眼を持つ全裸の少年に対し、無表情にツッコミを入れる長い銀髪と機械系の犬耳を持つ少女の形をした人形だった。
ああ、もう、駄目かもしれないな―――この時、時臣は呼び出したサーヴァントらしき一人と一体を見ながら、そう思った。

「な、何と、これは…!! 」
「あ…あ…」
「…あなたが、呼ばれてきたサーヴァントですか? 」
「誰だ、お前? 」

桜が呼び出したサーヴァントを見て、愕然とする臓硯と雁夜に対し、桜は目の前にいるサーヴァントに尋ねた。
だが、呼び出したサーヴァント―――白濁とした3つの目を持つインド風の少年は、桜の質問に答えることなく、逆に聞き返してきた。
ああ、この人は、何も見ていないし、私の声も聞いていない―――この時、桜は、異形の少年を見ながら、そう思った。

「そんな…!? 」
「こいつは…!! 」

そして、日本から遠く離れたアインツベルン城では、呼び出されたサーヴァント達を前に、アイリスフィールと切嗣は驚きを隠せなかった。
なぜなら、現われたサーヴァントは、かの騎士王などではなく、切嗣とアイリスフィールの予想を超えたものだった。

「問おう。御堂が、私を招いたマスターね」
「…え、あんた、誰よ? ってか、ここどこよ、おいいいいい!? 」

女性の声でこちらに問いかける深紅の色をした蜘蛛型のロボットと、今一つ状況が分からないのか混乱する白髪で天然パーマの男―――どう考えても、おかしい組み合わせの一人と一体がそこにいた。
あまりのショックに言葉を失うアイリスフィールは、事態を飲み込めぬまま、無意識のうちに言った。

「…どうなっているの、これ? 」

それは、それぞれの場所で、同時刻に、サーヴァントを召還した者達全員の思いだった。



プロローグ:英霊召喚(笑)





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■作者からのメッセージ
某二次小説投稿サイトの閉鎖に伴い移転してきました。
多重クロスオーバーというジャンルなので、色々と無理な点などあると思いますが、生暖かい眼でどうかお願いします(土下座
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