ここは学園都市―…
世界の数十年も先の未来を行く科学都市だ。
“学区”と呼ばれる、それぞれ特色のある23に分かれたブロックで構成され、それぞれで人々が生活したり、最先端の研究が行われている。
名前の通り、総人口約230万人の内8割が学生であり、外周は高さ5m・厚さ3mの壁に囲まれ、完全に外部と隔離された世界だ。
ここで主に行われているのは人為的な超能力開発。
つまりは学生を使った
超能力者の生産である。
学園都市では全学生を対象に「
時間割り」という超能力開発が実施されている。
全学生のうち約6割は「無能力者(Level0)」であり、「最高位(Level5)」は7人しか存在しない。
7人の中には序列(第○位)が存在するが、この序列は、能力研究から生まれる利益が基準であり、必ずしも強さを表すものではないということも付け加えて説明しておこう。
しかしどんなことにも例外はある。
それがこの少年―・・・
“
光明慈 光”だ。
「・・・・・・・・・・・・」
彼は無言で辺りを見渡していた。
ちなみに彼が今現在いるのは、地上約200mの空中であり、浮いている状態だ。
今は真昼間であるため、彼の下の大通りでは、たくさんの生徒や車が行きかっているのだが、誰も空中に浮遊している彼を見ようとはしない。
まるで気づいていないようだ。
それを光はさも当たり前のように気にする様子もなく、ある
探し物を探す。
そしてついに彼はそれを見つけた。
大通りから少し離れた人気のいない路地を慌てた様子で探し物の男は走っている。
黒いビジネスケースを持った彼は、細い裏路地を見つけると、追手がないか辺りを確認して急いでそこにかけこむ男の姿を確認した光は、その路地に向けてものすごい勢いで急降下していった。
「はぁ!はぁ!くそっ!!なんなんだあれはっ!!」
男は息を切らして走っていた。
彼はフリーの運び屋であり、名前も顔もわからない人物から、この黒いビジネスケースを学園都市の外に持ち出すことを依頼されたのだ。
彼自身Level4の能力者であり、依頼人がセキュリティーの堅い学園都市への出入りを手引きしてくれたおかげもあり、依頼をこなす自信はあった。
しかし結果はどうだ?
このケースを受け取った後、不気味な少年に出くわし、自分の能力、「
水圧斬撃」は全く歯が立たなかった。
一刻もはやくこの学園都市から抜け出さねばと思った彼だったが、突然何かにぶつかった。
「がっ!なっ!なんだっ!?」
慌ててそこに触れてみると、まるで見えない謎の壁が彼の行く手を塞いでいた。
「これでもう逃げられないな・・・」
「なんなんだよお前はっ!?」
男は目の前に
佇む得体の知れない少年に恐怖していた。
何故かはわからないが、長年の運び屋としての勘が危険を感じている。
「こ・・・っ!このっ!!」
男は懐から小さな水筒を取り出し、中の水を撒き散らした。
するとその水は中に浮き、球体となり、突然、光を襲った。
しかし彼はそれを間一髪交わすと、後ろの側壁にまるで刃物で切ったような綺麗な傷が出来ていた。
そして彼の右肩にはまるで切られたような傷があり、血が出ていた。
「・・・・・・水圧を操作して刃物のように・・・・その様子じゃLevel4ってところか?」
「へっ!今さら後悔しても遅いからなっ!!」
いままで得体の知れない光に傷をつけたことで自信を取り戻したのか、若干の余裕が生まれたらしい。
男は顔に笑みが浮かべ、もう一周りから水を集め直し、再び彼に水撃を放つ。
「相手は選べよ・・・?」
光はそう呟くと、水撃は目の前で崩れ去った。
男は自信を顔に張り付けたまま、いつの間にか額にぽっかりと直径3cmほどの穴が開いており、その場で倒れた。
言わずもがな即死だろう。
しかも一滴も血が流れていない。
だが光はそんなことはお構いなしにポケットから携帯を取り出し電話をかける。
「終わった・・・」
『ご苦労だったな。ケース以外にそのまましておけ・・・後で回収させる』
電話の相手は声をボイスチェンジャーで変えており、男か女かもわからない。
「今日はこれで終わりか?」
『あぁ、そうだ』
「せっかくの休日まで
扱き使われるとはな・・・」
『それが貴様の仕事だろ』
「・・・約束は守れよ?」
『わかっている・・・また用があれば連絡する』
そう言って電話は切れた。
光は携帯をポケットにしまい、代わりに棒の付いたキャンディーを取り出した。
そしてその包み紙をはがし、キャンディーと口に咥えると、ビジネスケースを拾い上げ、代わりにくしゃくしゃにしたキャンディーの包み紙をそっと置く。
彼は少し目を細めて悲しそうな顔をすると、その場に背を向け、踵を返して去っていった。