長点上機学園―…
この学園都市において5本の指に入るほどのエリート学校だ。
光明慈 光はそこに通っている高校2年であり、Level3ながら成績は常に1番で、生徒会長も務めるほど周囲の人望も厚い。
そんな彼は生徒会室で気だるそうに椅子に座ってもたれていた。
「あぁ〜・・・ダルい・・・」
「会長、口より手を動かしてください」
だらしない光を、緑の長髪でメガネをかけた眼光の鋭い、真面目そうな女子生徒―副会長の
南条 冬那が次々と目の前の書類にペンを走らせて仕事をこなしながら、横目で睨んだ。
それを見た彼は「うっ!」と冷や汗を流しながらしぶしぶとペンを握る。
「そーッすよ!さっきからウチらばっかりじゃないッすか!」
「ヒャハッ!つかお前も全然進んでねぇじゃん」
「あ゛ぁ゛ん?」
「んだゴラァ!?」
冬那に同調したショートで赤髪の女子生徒―書記の
藤苑 七海と、それを茶化した茶髪に金のメッシュを入れた男子生徒―会計の
根瑞 潤馬が互いの胸倉を掴み、睨みあう。
「おいおい止めてくれよ・・・こんな狭いところで君たちが喧嘩したら大惨事になっちゃうだろ?」
そんな2人を見かねた光が仕方なく止めに入る。
「会長が言うなら・・・」
「はい・・・」
2人は少し拗ねた顔をすると、掴んでいた手を離し、自分の席に戻り、互いに「ふんっ!」と言って顔を背け、作業を続けた。
光はいつもの光景に苦笑いし、冬那は我関せずといった感じで黙々と作業を続けていた。
ちなみに今しているのは部活の予算審査であり、2学期の予算の調整を夏休み前に解決しようと、こうしてせっせと働いていたのだ。
しかし学園都市にエリート校として優待遇を受けている長点上機学園は、施設も充実しており、何十もの部活動が存在しているため、調整をするのにも時間がかかっていた。
「こんな雑務“
樹形図の設計者”でやればいいのに・・・」
「
こんな雑務で
樹形図の設計者の使用許可が取れるわけないと思いますけど・・・」
光がめんどくさそうに書類に記入していきながらそうぼやくと、潤馬が苦笑いしながら指摘する。
普段はまじめで人当たりのいい光だが、何故か
生徒会室に来るといつもこうしてダレている。
Level3でありながら、持ち前の頭の良さと、運動神経によって自分たちLevel4にも引けを取らないほどの実力を兼ね備えている光。
おそらくそんな彼に周りの人たちがいろいろと期待しすぎており、その重荷に耐えられないのだろうと潤馬は思っている。
もしくはただ猫を被るのが巧いだけなのか・・・
「つーか会長・・・こんなことで授業サボっていいんッすか?」
そんなダレた光に七海がきいた。
そう、彼らは2時間目から
授業をサボって作業をしているのだ。
「まぁ先生に許可も取ったし、夏休み前の授業なら別に君たちには必要ないだろ?」
「ヒャハ、確かにあんなのかったるいだけですもんね」
ちなみにこんな口調や見た目が不良っぽい2人も一応は頭がよく、七海は学年3位、潤馬は4位である。
この2人は言わばライバルのようなもので、常に勉強や喧嘩で競いあっているのだ。
「でも南条先輩はいいんッすか?」
「あなた達の夏休みを潰すわけにもいかないからね?」
「冬那は優しいなぁ・・・」
「お前は除外」
冬那のあまりの厳しいお言葉に落ち込む光。
なぜかいつも彼女は光だけに厳しく、そんないつもの光景を他の2人は苦笑いしてみている。
一度、七海が冬那にその理由をきいたのだが、それをきいたとたん冬那がとてつもなく不機嫌になったのを見て、それ以後きくことを止めた。
どうやら光は相当なにかマズイことを彼女に対してやらかしたらしい。
それでもこうやって副会長を引き受けているのだから、不思議なものだ。
潤馬は冬那が“ツンデレ”だとふんでいるが、それを言ったら彼女に殺される気がしたので言ってはいない。
「元気出してください光先輩・・・」
「な・・・っ!!///」
そんな落ち込んでいる七海がいきなり後ろから光に抱きついた。
七海は少し顔を赤らめているが、光はそれの3倍は赤い。
「おいっ!!クソ尼ぁぁっ!!きたねぇ手で光さんに触れんじゃねぇぞぉっ!!」
それを見た潤馬は怒って自分の席から立ち上がる。
その反動で彼の座っていた椅子がものすごい音を起てて倒れた。
「うっせぇボケェェッ!!てめぇはすっこんでろっ!!」
「んだとこの
○○○!!!」
「あ゛ぁ゛んっ!?てめぇこそ
○○で
○○○な
○○○○○○じゃねぇかっ!!」
5分後―…
「「
ひゅいませんでひだ・・・」」
「わかればよろしい」
あまりに言葉づかいが汚い2人を、キレた冬那がをシメたために彼らはボコボコのボロボロで悲惨なことになっている。
そして隅ではまだ光が落ち込んでいるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やっとのことで生徒会の仕事を終えた光は、帰宅するために初夏のうだるような暑さの中、クーラーの効いた涼しい自宅を目指し、とぼとぼと歩いていた。
彼はある事情で学園のある第十八学区ではなく、第七学区のマンションに住んでいる。
そしてそんな中彼が街を歩いていると、街頭で広告のチラシをもらった。
それは「本日開店!!」と書かれたクレープ屋の広告だった。
先着でゲコ太ストラッププレゼントと書いてあったが、生憎光にはそんな幼稚な趣味はなく、彼は2つを天秤にかけて悩んだ。
クーラーのかかった涼しい部屋か・・・それともクレープか・・・
そして9対1でクレープが勝った。
えっ?ほぼ即決じゃないかって?
当然だ。
なぜなら光は甘味が大好きなのだ。
余談だがきちんと歯磨きはしているので彼に虫歯は一本もない。
それはさておき、光はまるで先ほどまでのうだるような暑さを忘れたように上機嫌で鼻歌混じりにスキップをしながら、さっそくチラシの地図を確かめてクレープ屋へ向かう。
そしてしばらくスキップ(周りの視線が痛いが気にしない)で進んでいくと、目的のクレープ屋に着いた。
新しく出来た店らしく長蛇の列ができている。
学園都市には珍しく、大人が大勢並んでいて不思議に思った光だったが、近くに停まっていたバスとバスガイド、それに幼稚園児ほどの子供がいることから入学の見学であるのだろう。
無邪気にはしゃぐ子供たちの様子を微笑ましく思いながら、昔のことを思い出してしまう。
そんなことを考えて待っていると、ついに光の順番がまわってきた。
「えぇ〜っと・・・チョコバナナとメイプルバターシナモン・・あと黒蜜きなこあずきに苺クリーム・・・それから〜・・・」
ほとんど全ての商品を注文し終えると、店員の顔が引きつっていたが、クレープに夢中の光は、ついぞ気づくことはなかった。
結局、両手では持てきれなかったので、今から食べる分以外はビニール袋に入れてもらい、お代を支払うと、店員が
ゲコ太のストラップを差し出す。
「どうぞ。最後の一個ですよ?」
「あぁ・・どうも」
そんな時、背後でドサッと何やらいろいろと重々しい音が聞こえたので、気になって後ろを振り向いた。
すると茶髪で髪留めをつけた少女がorz←こんな感じで撃沈しており、もう1人の黒い長髪の花の髪飾りを着けた少女が苦笑いして慰めていた。
なぜこの茶髪の少女はこんなにも落ち込んでいるのか・・・
「(もしかして・・・・・)」
あることを思いついた光は、彼女の目の前でゲコ太のストラップを右に左に動かしてみる。
すると今にも泣きだしそうな彼女の目は、確実にゲコ太のストラップを追っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いる?」
その言葉を聞いた彼女は先ほどの泣きそうな顔はどこへやら。
一瞬で目がランランと輝いていた。
「本当っ!?」
「ウソ・・・って冗談!冗談!」
面白半分で光が彼女を弄ぶと、落ち込みようがハンパなかったため、慌てて訂正する。
「うぅ・・・ありがと・・・」
目がしらに涙を浮かべている彼女にゲコ太ストラップを手渡すと、心底うれしそうだ。
それが嬉し泣きなのか、自分が彼女をからかったせいなのかは確かではないが・・・
「(そんなにゲコ太が好きなのか・・・)」
若干、光が引いていると、彼女はふと気付いたように話を切り出した。
「その制服って・・・長点上機学園なんですか?」
「うん、そこの高等部で2年をやってるんだ」
「へぇ〜!じゃあ先輩なんですね」
「そういう君は常盤台だね?名前は?」
「えっと・・・御坂 美琴っていいます」
「御坂・・・どっかで聞いたことがあるような・・・・・あっ!もしかしてあの有名な
超電磁砲!?」
「えっ?あっ・・はい」
「へぇ〜、Level5って初めて会ったよ!まさしく才色兼備ってやつだね?」
「へっ!?いや・・っ!そんなことないですよっ!?」
光が感心したように美琴を褒めたが、彼女は頬を少し紅く染めながら手を振って否定する。
どうやら満更でもないようだ。
「そんな謙遜しなくてもいいよ?それとそちらの君は?」
「あっ、佐天 涙子っていいます」
「僕は光明慈 光。ふたりともよろしくね?」
「「はっ!はいっ!!」」
光が笑顔を向けると、なぜか顔を赤くする2人。
無理もないだろう。
彼の容姿は“イケメン”を絵に描いたようなものであり、は学園ではファンクラブも存在するほどの人気ぶりだ。
しかし当の本人は鈍感というより、あまり異性と言うものを意識したことがないので、その辺りは
疎い。
「佐天さ〜ん!」
そんな中、ベンチの方から頭にお花畑を乗せた少女がこちらに手を振っていた。
光はどうしてもその少女の頭に目がいってしまう。
あれは生えているのだろうか・・・?
「友達かい?」
「あっ、はい」
「もしよかったら僕もベンチに座っていいかな?他に座るところがないし、あそこ日陰で涼しそうだから」
「いいですよ!」
そう言って3人はベンチに向かうと、そこには2人の少女がこちらを不思議そうに見ていた。
「佐天さん、その人は?」
「さっきそこで御坂さんにゲコ太のストラップを譲ってくれた人」
佐天が花畑の少女に説明すると、なぜか美琴は恥ずかしそうに俯《うつむ》く。
「あら、そうでしたの。私は白井 黒子ですの」
「初春 飾利です」
「黒子ちゃんに飾利ちゃんね?僕は光明慈 光。よろしく!」
「あの〜・・・」
「ん?なんだい?」
「それ全部食べるんですか?」
初春が少し引き気味に光の持っているクレープが大量に入ったビニール袋を指さしてきいた。
「うん。まぁ半分は夕飯用だけど」
「いや、それ夕飯って言わないから・・・」
あっけらかんと答える光を引きつった顔で美琴がつっこむ。
そんなことはつゆ知らず、彼は幸せそうな笑顔でクレープをパクつく。
「変わった方ですのね・・・」
「あっ、それよく言われるんだけど、どの辺りが?」
「「「「味覚」」」」
光が首を傾げてたずねると、4人が満場一致で言い切った。
指摘された光が「そうかなぁ〜?」と言って手に持っていたクレープを眺めていると、突然後ろで銀行の防犯シャッターが爆発した。
それを見た黒子と初春は
風紀委員の証である腕章を着けると、すぐさま行動に移る。
美琴もそれに加わろうとしたが、黒子に止められてしまった。
光的には一度、
超電磁砲の実力を見てみたかったので残念ではあったが、希少な
空間移動と
発火能力を見れたことで良しとした。
だが哀れな犯人の一人が子供を守ろうとした佐天を蹴り飛ばしたことで美琴の怒りを買うことになり、見たかった
超電磁砲で車を吹き飛ばしたのだが・・・
「光さん危ないですっ!!」
佐天や初春、美琴と一緒に居なくなった子供を捜すために道路に出ていたのだが、吹き飛んだ車が運悪く彼に向かって落ちてきたため、初春が声を張り上げる。
だが光は顔色一つ変えず、むしろめんどくさそうに突っ立ったまんま、動こうとしない。
だれもが「ぶつかる!」と思ったその時、車は見えない壁に激突し、そのまま地面に落ちた。
周りの人間はその光景に唖然としている。
「だっ!大丈夫ですかっ!?」
慌てて美琴が駆け寄るが、光は至ってナチュラルに笑っている。
初春や佐天、黒子も集まってくるが、4人とも信じられないといった顔をしている。
「いったい今のはなんですか?」
「ふふっ、企業秘密♪」
初春がたずねると、光は適当にはぐらかす。
自分の立場上、あまり
迂闊に能力を見せたりするのは好ましくないが、あれくらいなら大したことはないだろう。
長点上機学園生の
風紀委員用の
書庫の登録は能力が非公開であるため、仮にこの
風紀委員の2人が自分のデータを見ても問題はない。
「光さんも能力者なんですね?」
「まぁ君ほどのLevelじゃないけどね?」
「なんかかっこいいです・・・」
美琴はなぜか意外そうに言い、佐天は顔が少し惚けている。
これをある種の“フラグ”と言うのだろうか・・・
「とにかく無事なら何よりですわ」
黒子はそう言うが、どこかいかがわしいそうだ。
「じゃあ僕はこの辺で失礼するよ。それじゃあまたどこかで会えたら」
「あっ、ちょっと・・・!」
光は4人に別れを告げると、美琴の制止を振り切って手を振りながら走ってその場を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
窓もドアもないビルの中・・・
そこには奇妙な光景が広がっていた。
緑色の手術衣を着て、赤い液体に満たされた巨大な円筒器に逆さまで浸かっている、男にも女にも、子供にも老人にも、そして聖人にも囚人にも見える人間。
彼の名前はアレイスター・クロウリー。
この学園都市の統括理事会の長にして、この学園都市を作り上げた張本人だ。
そんな彼と対峙している光。
アレイスターに呼び出された彼は、テレポーターに連れてこられ、こうしてこのビルに来たのだが、しばらく沈黙が続いていた。
そしてその沈黙を破ったのはアレイスターだった。
「
超電磁砲に接触したそうだな?」
「なんだその“他人から聞きました”みたいな言い方は・・・どうせ見てたんだろ?」
「君は監視対象だから常に
滞空回線はつけている」
「まるでストーカーだな・・・」
アレイスターの発言に、光はあきれたように眉をひそめる。
「どうでもいいが、
一方通行の時ような二の舞は勘弁願いたい。あの時は何とかなったが、カバーできることにも限度がある」
「わかってる!わかってる!耳にタコができるくらい聞いたよ!Level5との交戦は禁止、だろ?」
辺りを歩き回りながら両手を挙げて振りながら、めんどくさそうに言った。
「理解しているのならそれでいい。君は優秀で使いやすいからな。今、失うと計画に支障が出る」
「・・・・・・・僕が第三位に負けると?」
光は怪訝な顔をして言う。
どうやらアレイスターの言い方が
癪に障ったらしい。
「いや、それは見当違いと言うものだ。君は唯一、
一方通行と引き分けたのだから」
「あぁそう・・・まぁいいや・・理事長殿の計画とやらに興味はないけど、契約だからな」
「私が生きている内は約束しよう」
「ならあと1000年くらいは大丈夫そうだな」
光は嫌みったらしく、皮肉たっぷりにアレイスターに言い放つ。
しかし彼は気にする様子はなく、話を続けた。
「それに
あれは私にとっても計画の一部になり得るモノだ」
「・・・・そんなことしたら僕がお前を殺してやるからな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
光が鬼の形相でアレイスターを睨み付けるが、彼は相変わらずの無表情で黙り込む。
「
黙りか・・・ならもう僕は帰るよ。いい加減あなたの戯言につきあうのは疲れたんでね?」
「あぁ、また用があれば連絡する」
「そんなことが一生ないように祈ってる」
めんどくさそうにそう言い放った光は、踵を返して適当に手を振ってアレイスターに別れを告げると、テレポーターと一緒にその場から消えた。
アレイスターは口元をニヤリと歪め、その様子を眺めていた。
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光明慈 光(コウミョウジ ヒカル)
性別:男
身長:176cm
血液型:不明
所属:学園都市第18学区 長点上機学園(2年)
学園都市暗部
能力:Level5「光学兵器《グローリア》」
(登録上はLevel3「光学操作《フォトン》」)
住所:第7学区内 高級マンション最上階 1402号室
学園都市そのものが存在を隠蔽しているLevel5。表向きはただの学生だが、裏では総括理事会に学園都市の掃除屋として雇われている。成績優秀、容姿端麗で、人当たりも良く、学校ではファンクラブも存在する。自身はそういったことに気づいてはいるが、異性にそれほど興味はないので、ほどほどに
疎い。普段は優等生を演じているが、生徒会質や、自身が安らげると感じた場所ではダレる癖があるので生徒会メンバーからは「猫被り」として認識される。彼の正体は都市伝説にもなっており、「
幻の序列」と呼ばれている。甘いモノが好物であり、だれも彼がまともな食事を目撃したことがないほどの甘党。なぜ学園都市暗部に身を置いているのかは、今のところ不明。
能力説明
「
光学兵器」
基本は「
光学操作」と変わらず、光をねじ曲げて姿を消すことができる。現時点で確認されている能力による現象は、空中浮遊と不可視な障壁の発生。