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正義の紅い魔王 プロローグ
作者:愚か者   2012/07/24(火) 21:14公開   ID:X2x5n/yrh02

 辺りは、赤く燃えている大地。

 此処は、一人の男性を始末する為に用意された舞台。

 男性は、神秘を扱う魔術師。魔術師を殺し気に来たのも……また、魔術師達だった。

 男は、命が失われて行くのが許せなかった。ただそれだけで、戦い続けた。

 この理想の果ては、既に知っていた。それでも許すことが出来ず、最愛の女性と別れ――此処に至った。

 そんな男に近付く人の気配。しかし男の体は死に絶え、身体を動かす事は不可能だった。

 男は死の淵で呟く。最愛の女性の名を、もっと一緒に居たかった……と。

「なら、一緒にこの世界から逃げる――士郎?」

 掛けられた声は、最愛の女性のモノ。

「遠坂……」

「私ね、ずっと昔にアーチャーからアンタの事を頼まれてたの。それに……絶対に幸せにするって、私自身に誓ったから。このままの終わりじゃ、私が納得できないのよ」

 最愛の女性は、あたかも自分の為と言っているが――それは、彼女なりの優しさ。

「だが、そんな事をすれば……。遠坂も協会から追われる事になる」

「大丈夫、そんな下手はしないわ。士郎の了解さえ取れれば、すぐにでも並行世界への移動が可能よ。まぁ、それでも一寸は時期を待たないといけないけどね」

「それは、如何言う意味なんだ……遠坂?」

「その言葉の意味を聞くって事は、私と一緒にこの世界から逃げるって事よ。それでも、聞く?」

 女性の言葉を聞き、男は暫く悩んだ末に答え出す。

「ああ、俺にはやっぱり遠坂が必要だ。俺は、遠坂と一緒にこの世界から逃げる事にする」

「そう。なら、教えてあげる。まず、私とアンタの魂を人形に入れ替えるわ。そして私の体は、その見返りとして蒼崎に提供する事になってるの。で、その後――冬木の土地で、第二魔法の失敗をする。これは、まぁ、協会に対する体面ね。実際は、冬木の大聖杯に残った魔力を使って並行世界にトンズラするってだけよ」

 こうして、一組の男女は世界から姿を消す。

 そして、移動を果たした世界で男は神を殺し。新たな世界で八人目の『魔王』として君臨する。

 ――◆◇◆――

 気が付くと俺は、知りもしない空間に居た。

「始めまして、隣り合った隣人の子にして――私の新しい息子・・・・・

 背後から声をかけられ、振り向くと其処には一人の女性と――あの聖杯戦争で倒した筈のギルガメッシュが居た。

「新しい、息子? それに此処は――」

「黙れ、雑種。貴様が元居た世界で、分け身とは言え――我を倒しさえしなければ、我は此処になどに来る必要は無かったのだ」

「如何言う……事だ」

「フフフ……。この世界はね、“まつろわぬ神”と呼ばれる存在が玉に地上に現れるの。そして、その“まつろわぬ神”を殺して神の権能を算奪した者を【カンピオーネ】或いは【魔王】と呼んでいるのよ」

「そう言うことだ。忌々しくも、貴様は過去に於いて我を打倒している。故に我は、この世界の法則に則り――貴様に我の権能を授けに来た」

「一寸、待て! 当時、お前に留めを指したのはアーチャーの筈だ。だとしたら、俺がお前を殺した事にはならない筈だ!」

 俺が、ギルガメッシュの言葉に反論すると。もう一人の女性がその答えを話す。

「それがね、そう言う訳にも行かないのよ。彼を倒したアーチャー――【英霊】エミヤ シロウと貴方は同一存在。だから、自体がややこしくなちゃってるのよ。同一存在で在る以上、彼を殺したのは貴方。今の在り方が違うと言っても、それは事実なのよ。何よりも私達の世界には【英霊】エミヤが居ないわ。いいえ、衛宮 士郎と言う人物自体が存在しない。だからこそ、神を殺した・・・・・と言う事実を持った貴方をそのまま送れないの」

「故に、苦肉の策として貴様に我の権能を授けに来たと言う訳だ! 何より、同じ【英霊】であるアーチャーではなく。当時の未熟な貴様に追い詰められた事自体が、我慢ならん! 我が権能を授けるのは、いずれ貴様を殺す為と知れ! 必ず我は、“まつろわぬ神”として顕現する。その時こそ、彼の戦争に於ける汚名を雪ぐと同時にその命を我が前に差し出すが良い」

 実際、女性やギルガメッシュと話している今も――ギルガメッシュから、大量の魔力が流れて来ている。

「まぁ、そう言う訳でね。貴方には、【魔王カンピオーネ】になって貰うしかないの。でも安心して、私達の世界では――【魔王カンピオーネ】の持つ力は物凄く大きいの、貴方達の身を守る事や理想の為にも役に立つはずよ」

「つまり。俺が【魔王カンピオーネ】にならなければ、これからの世界には居られないと」

「正確には、一寸違うけど。概ね、その通りよ」

 女性がそこまで話すと、ギルガメッシュが
「ふん。如何やら、我の権能ちからが行き渡った様だな。雑種、我との話は此処までだ。我が顕現するまで、決してその命を他の者に譲るではないぞ!」
 と言って来た。

「そう、もう時間ね。それじゃ、また会いましょ――八人目の【魔王カンピオーネ】」

その言葉と同時に、意識は薄れ、現実の感覚が曖昧となって行く。

 ――◆◇◆――

「し……う……、……ろ……う! 士郎! 目、覚ましなさい!」

「う……うぅ……。凛……、如何した」

「良かった、目が覚めたのね。それより、士郎。自分の体に異常が無いか、調べて見て」

「ああ、了解した……凛。解析 開始トレース・オン

  ――――魔術回路二十七本、正常稼働。

  ――――魔力量、正常。

  ――――身体年齢、推定十七歳。

  ――――身体能力、正常。

  ――――【全ては遠き理想郷アヴァロン】、正常稼働。

  ――――ギルガメッシュより算奪した権能【一定時間の巻き戻し】、使用可能。

「……は?」

 俺はもう一度、自身に解析の魔術を掛ける。

 しかし、結果は同じだった。

「……驚いた、士郎。何故か分からないけど、私達若返ってるわ」

「いや、凛。俺が驚いているのは、そうじゃなくて……」

「士郎には他にも異変が在るの」

 凛が難しい顔を作る。

「いや。そのな、なんと言うか……。怒るなよ、凛」

「何よ、ハッキリ言わないと分からないじゃない」

「俺自身の異変には、何となく……心当たりが在るんだが。俺の権能の中に、時間の巻き戻しと言う能力が追加された」

「は? 如何言うことよ。ちゃんと説明しなさいよ」

 そこで俺は先程まで居た、不思議な空間での出来事を説明した。

「つまり、士郎は……この世界で八人しかいない【魔王】。えっと、カンピオーネになったと……」

「ああ、そう言う事になる」

「それで士郎の体に起こった、若返り以外はカンピオーネになった際に得たモノだと」

 凛の言葉に無言で頷きを返す。

 そして、一頻り叫んだ後
「もう、いいわ。何か、考えるのが馬鹿らしくなったわ」
 と、言葉を続けた。

「取り敢えず、あの女性の言葉が正しければ――俺達は、この世界で追われる事は無いと思う」

「ええ、そうでしょうね。サーヴァント並かも知れない相手が顕現して来ているんじゃ、それこそサーヴァント並の強さを持つ人しか相手にならないでしょうからね」

この後も、話し合いを続け。結果、この世界の裏の組織と連絡を取る事にした。


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