東京湾の一部を埋め立てて創られた人工島――――特別自治区。
その中央に存在するのは巨大な大学キャンパスのような施設。
異世界から帰還した子供たちが通うその学校を人々はバベルと呼ぶ。
「ん〜〜〜〜♪」
そんな場所で修二は上機嫌に鼻歌を歌いながら長い廊下を歩いていた。
帰還した翌日、修二の予想通り屋敷にバベルへの入学案内所が届いていた。
この事は家族全員に知れ渡り、数時間後には家族会議が行われることとなった。
家族、といっても自分、兄、父、の三人のみであったが。
その家族会議で色々とぶっ飛んだ事をしでかした修二はそして数日後、わざわざ自治区まで引っ越し、ワイシャツにジーパンというラフな格好でバベルの門をくぐっていた。
今いるのはJPNバベルの入学検査が行われる第三闘技場。その何処かである。
そう、何処か。
修二は現在、世間一般的に言う迷子というやつなのであった。
―〇●〇―
「いやはや、本当に広い」
全部で四つある検査の内、最初のメディカルチェックが終わった後に散歩がてらにブラブラしたのが間違いだった。
予想以上に闘技場は広く、思わず冒険心をくすぐられた修二はあちこち移動するうちに元来た道をすっかり忘れてしまっていたのだ。
二、三の試験はともかく、四つ目の試験、クラスを決める実技試験が始まる前に何としても待合室まで行かねばならないというのに、修二に焦りは一切見られない。
――――別に遅刻したところで入学は確定しているしな。
たとえ最低のEクラスからでも試験しだいによってはいきなりAクラスになることが可能なのは知っている。
それ故、修二にとってスタート地点となるクラス分けについてはどうでもいいのだ。
――――――それにもう一つ。
「さてと、そろそろだと思うんだけどな」
そう言いながら適当に曲がった通路の先、修二の目に闘技場の控え室の扉が映りこんだ。
「――――ビンゴ」
修二が呟くように言う。
なんとなくであるが、そろそろ目的地に着きそうな感じがしていたのだ。
あくまで勘。だが修二の勘は自覚する限り今まで一度も外れたことがない。
これもまた修二がソドムで生き抜くことが出来た理由の一つであった。
「さてと、それじゃあ――――っ!」
ドアの前に立った瞬間、その外れた事のない勘が警報を鳴らした。
ソドムでもそうお目にかかる事のなかった強者の気配。
実力的に言って自分と同等、あるいはそれ以上の。
思わず修二の顔に笑みが浮かぶ。
・・・・どうやら退屈せずに済みそうだ。
修二は一瞬のためらいも無く部屋へと入る。
いたのは二人の男女だった。
片方は椅子に座った黒いボサボサの髪をした精悍な顔立ちの男。
もう片方はどこかそわそわしているピンク色のツインテールの美少女。
即座に分析。
少女の方はおそらく魔法タイプ。
武器は使えない事はなさそうだが接近戦は苦手と見える。
しかし、何より目が行くのはその肉体。
ある意味強烈で凶悪な武器を持っているらしい。
男の方は明らかに戦士タイプ。
凄まじく鍛え抜かれた肉体の持ち主であるのが一目で分かった。
同時にこちらが先ほど感じた気配の持ち主だと理解する。
「あ〜、こんにちわ。控え室ってここで合ってるかい?」
ひとます、普通に挨拶する。
「ああ、ここで合ってるぜ」
返答してきたのは男の方。
修二は近寄り左手を差し出す。
ただし、拳の形で、それも超高速で。
衝撃音が部屋に響く。
「オレは佐渡修二。ここで会ったのも何かの縁だヨロシク」
「――――俺は鳳沢暁月だ。にしても、随分と乱暴な自己紹介じゃねーか」
暁月は平然と言う。
修二の拳を右手で受け止めながら。
「悪いね。最近こういう挨拶がマイブームなんだ」
修二はすぐに両手を上げ後ろへと下がる。
続いて視線を横、驚愕の表情を浮かべて固まったままの少女へ向ける。
「そこのお嬢さん。よかったらキミも名前を教えてくれないかい?」
「えっ? え、えっと、ボ、ボクは―――――」
ボク、という一人称に少し驚きながら、修二は耳を傾ける。
「お、鳳沢、美兎です」
緊張しているからか、どこかつっかえながらの挨拶。
これが、後に自らと長い付き合いになるはぐれ勇者と異世界人の姫とのファーストコンタクトであった。
―〇●〇―
「へえ、記憶が無いのか。そりゃ災難だったね」
「う、うん。こっちのことはほとんど覚えてなくて・・・・」
「そんな訳だからよ、ちょっとこっちの環境には慣れてなくてな。無駄に緊張してんだよ」
ひとまず自己紹介? を終え、三人は雑談をしていた。
全く似ていないが二人は兄妹とのことであった。
先日修二と同じように帰還したのだが、妹の美兎は召喚された際に記憶を失ってしまったらしい。
「それにしても鳳沢君。キミは随分とやるじゃないか。正直あれを防がれたのは驚きだった」
「暁月でいいぜ。それとよ、あんな全力でもない拳は通用しねーよ」
不敵な笑みを浮かべる暁月。
それに釣られ修二も同じような顔になる。
先ほどの一撃は暁月の言うとおり全力ではない。
あくまで自分を印象付けるのと、どれだけの反応をしてくるかを見るためのものだった。
結果として分かったのは、接近戦では自分が不利であるのと、まだまだ実力を隠しているという事のみ。
「――――勝負するなら、受けて立つぜ?」
「・・・・いや、生憎と無駄な戦いはしない主義でね。こっちにその気はないよ」
ひとまず
事実を言っておき、この会話を終わりにする。
そのまま他愛のない話を続けていた最中に控え室の扉が開く。
医療スタッフだ。
先ほどの検査結果が出たのだろう。
まず鳳沢兄妹が呼ばれ異常なしと告げられる。
最後は自分だ。
ここで修二の額に汗が浮かぶ。
――――上手くいけよ。
身体構造は変わっていないのでCTスキャンは問題無い。
だが、血液は違う。
アレは普段修二の赤血球と同化しているため、調べられたら一発でばれる。
今アレがばれると色々と不都合が生じる。
そのため、わざわざ抜き取られた血液の赤血球に同化していたをアレを抜き取られる寸前に分離させていたのだが、なにせ数が多いため完全に分離できたか怪しいのだ。
「佐渡修二さん」
「――――はい」
緊張は一瞬。
スタッフの口が開く。
「少々赤血球の数が多いですが、それ以外は特に問題ありません。同じくノルンチェックをお願いします」
「・・・・どうも」
ファイルを受け取り、心の中で大きく安堵の息を吐く。
――――助かった。
ふと、二人の方を見る。
なにやら暁月が美兎の頭の上に手を置いて何かを言っていた。
声も小さく聞こえはしなかったが、読唇術の心得がある修二は無意識にそれを読み取る。
ま・・んだいは・・つ・・だ・・。う・・く・・・まかせ・・と・・・いん・・・がな。
――――――問題、次。 上手く。誤魔化せる。と良い。
誤魔化す?
その単語に違和感を覚えたが、すぐに次の検査を行うため、修二はその違和感について考える事はなかった。
―〇●〇―
どうやら暁月は本当に面白い人間らしい。
というのも、行われたノルンチェックにとんでもない単語があったからだ。
―――――真の勇者、そして覇王。
ノルンチェックは過去、現在、そして未来を大まかな詩編として表現する。
暁月の場合、過去に真の勇者へと至り、そして未来では覇王になる、といった所だろうか?
後者は今まで何人かいたが、いずれも世界の重要なポストについている。
そして前者は今まで一人も存在しない。つまりは世界初。
しかも暁月の魔法なんか使えない宣言で混乱はさらに加速し一時試験が中止になってしまった。
自分と美兎の番が回ってきたのはそれからしばらくしてからだった。
とりあえず二番目は美兎。
見させてもらったがこちらはいたって普通の一言に尽きる。
姫、という珍しくもない単語と最後の一節がやけに引っかかったが、特におかしい所は無い。
そして自分の番が回ってくる。
「それでは、目を瞑って、身体をリラックスさせてください」
「了解了解っと・・・・」
修二は言葉に従い無心でリラックス。
その十数秒後、検査官が無意識による自動書記を書き終わる。
「お疲れ様でした」
差し出された紙を受け取り、内容を見る。
ソドムという名の世界で、人形から人へと成長した貴方は、世界を変革へと導いた真の英雄に至った。
元いた世界へ帰還した貴方には、新たなる戦いが待っている。
今の世界にいる貴方には、強大なるモノが従っている。
貴方の中の僕を使いこなした時、貴方は更なる次元に立っているだろう。
遠くはない何時かの未来に、愚者は世界の変革を加速させる。
心の赴くままに、己が信じた道を進まんことを――――。どうやら自分も相当らしい、と苦笑する。
注目するところは過去、現在が『貴方』なのに対し未来が『愚者』になっている部分。
自分がそういう気質であるのは理解しているが、よりにもよって世界規模。
まあ、そんなことは既に予想していたが。そして最も重要なのは世界の変革を加速させるという一節。
これはつまり、自分が変革を起こすのではなく、起きた変革に加わり煽るということだろうか。
ため息を一つ。
もしこれが本当だとすれば、それはたぶん、ソドムの時と同じような事になるということだろう。
新たなる覇道を導き、加速させる。
つまるところ修二はそういう風に受け取った。
――――まあいいか。
もともと自分から引っ張っていくのは性に合わない。
それに、誰だか今はまだ分からないが、そいつを認めるかどうか決めたわけではないのだ。
駄目だと感じたら、そいつに代わって自分が矢面張って動けばいい。
「佐渡君・・・・君もかね!?」
「は?」
検査官驚いた顔でが食いついてきた。
「鳳沢君と同じように、過去の記述において『真の英雄』と記述された者は一人もいない。これは・・・・事実なのか?」
「英雄・・・・ねえ」
英雄というよりも未来の記述にあった『愚者』と言った方が正しいだろう。
それに、あちらでは『
魔弾』の通り名で呼ばれていた。
間違っても英雄などという呼ばれ方をしたことは一度も無い。
「・・・・いや、待てよ」
修二は何か思いついたかのように呟く。
自分はリリーを新たなる王としてふさわしいと思ったから、その道を作るため無限蛇を潰した。
広義的に見れば、リリーをという王を導いた英雄ともとれなくはない。
そういった事から英雄と認定されたのだろうか?
「ま、どうでもいいか」
あれこれ考えても意味は無いので修二は考えを打ち切る。
「それにもう一つ、現在の記述についてだが、これは君が何らかの存在と契約したともとれるのだが・・・・」
「・・・ああ、何というか、一応はそんな感じではあるが」
ぶっちゃけ契約どころか完全に支配してるんだけど、という言葉を呑み込む。
アレは風を操る能力も持っており、その恩恵としてちょっとは風系統の魔法を使えるのでばれる事はないだろう。
修二はとりあえず言葉を濁しながら答え、ひとまずこの検査は終わったのだった。
―〇●〇―
口頭審問を終え最後の試験、実技の為に修二たちは闘技場の舞台にいた。
目の前には三十台後半の実技試験担当の戦技教官。
「――――それでは最後に、君達の今の実力を見せてもらいたい」
試験の内容について説明した後、教官は自分の得意武器を選べと言った。
修二はずらりと並ぶ武器を一通り眺める。
・・・・銃は無いか。
剣からハルバードまで色々とあるが、修二が最も得意とする銃は無い。
仕方なく投擲しやすそうなナイフを数本選ぶ。
正直これでは自分の実力の半分も出せないが、少なくともこの教官を相手にするには問題は無いだろうと考えての事だった。
「ふむ、それでいいのか?」
「ええ。まあ、戦うにはこれで十分過ぎる」
教官の質問を流し、試験が始まった。
「えっと、それじゃ、よろしくお願いします」
最初は美兎からだった。
三人同時にかかってきてもOKだと言っていたが、暁月の三人同時じゃなきゃダメなんて言ってないという言葉により一対一の形になっている。
修二もこれには賛成だった。
それに、暁月ほどではないが彼女もなかなかの実力を秘めているのが分かる。
言っては何だが、あの教官では相手にならないだろう。
修二は壁に背中を預けて見学する。
そして試験が始まり、一瞬で決着がついた。
勝者は当然のことながら美兎。
だが、その内容は凄まじかった。
簡単に言えば二つの魔法の同時詠唱と両方の防御障壁キャンセルと疑似障壁展開を行ったのだ。
半年ほど前に修二は魔法の習得のため、隔離街からしばらく離れたところにある魔法使いの集落に滞在したことがあった。
その中でも同じことが出来るのは集落の長一人くらいだろう。
つまりそれだけ美兎の実力が高いという証明に他ならない。
・・・・これは、少し評価を改めるか。
美兎に対する戦闘能力評価を上方修正し、教官の方へ視線を向けた。
対魔法防御はしていたが、流石に魔法を二連続で喰らったため完全に伸びている。
「これは、どうなるかな?」
教官が動けない以上、試験は無理だ。
暁月とスタッフの話し声からすると変わりはそう簡単に用意できないらしい。
―――――――その時だった。
「――――それなら、僕が相手をしようか」
闘技場の入口から男の声がした。
―〇●〇―
まず修二が彼から感じたのは強烈なオーラだった。
見かけは銀髪に藍色の瞳の優男だが、鍛え抜かれた観察眼が制服の下の鍛え抜かれた肉体を見抜く。
間違いなく超一流の実力者。
単純な戦闘能力で言えば自分よりも上だろうと見当をつける。
・・・・まったく、本当に面白い。
修二は信じたことも無い神に少しばかり感謝した。
暁月に続きこれほど面白そうな人間に会えるとは思ってもみなかったからだ。
「誰だ、あんた・・・・?」
暁月が口を開く。
「見たところ、相当偉そうな立場にいると思うんだが・・・・」
修二も思った事を口にする。
「初めまして。鳳沢暁月君、佐渡修二君。僕はこのJPNバベルの生徒会長、氷神京也です」
生徒会長。
この言葉で修二は納得した。
つまり、この氷神京也という男は学生最強という事だ。
ならばこの実力も納得がいく。
京也はスタッフといくつか会話をしてからこちらを振り向く。
「さて二人とも、君達の戦闘能力の検査は僕が相手をするよ。それでいいかな?」
「ああ、俺は構わないぜ。ただ――――」
暁月は不敵な笑みを浮かべ、
「一対一でだ。てなわけで佐渡、お前は後で頼む」
その眼は明らかに実力を試したがっている人間のものだった。
何かしらの事情があるのだろうと察する修二だが、
「・・・・やれやれ、まあ、オレは別に構わんがね」
ぽつりとつぶやく。
「
相手にその気はないらしい」
そう言った瞬間。
二人の足元から巨大な氷柱が出現した。
「――――よっ!」
予め
なんとなく分かっていた修二はバク転で後ろに下がり回避する。
暁月も後ろへ飛び、避けるのに成功していた。
「うん、反応は良い。特に佐渡君。君は僕の魔法が発動する前から感知していたみたいだね」
楽しそうに笑う京也。
「別にそんな大したことじゃないですがね」
軽口で返す。
ゆうに五メートルは超える氷柱。
おそらく質量は十トンを超えている。
これほどの氷を一瞬で作り出すとは、日本一というのは伊達ではないらしい。
「僕は君たちと戦う気は無い。実力さえ見られればそれでいいんだ」
そこから暁月が素手で氷柱を叩くことになり、結果はヒビ一つ入らなかった。
―――――だが。
「へぇ・・・・」
十トンはある氷の塊がただのパンチで動いていた。
勿論何らかの力を使ったのだろうが、それにしても凄まじいパワーである。
「それじゃあ、次は君の番だね佐渡君」
今度は自分の番。だがその前に――――。
「失礼。試験には自前の武器を使っても構わないか?」
正直こんなナイフでは役不足だ。
暁月のように派手な演出は不可能だろう。
「別に構わないよ。でも、見たところ君は武器を持っていないようだけれど・・・・」
「問題ない。武器はこいつだ」
修二は首にかかっていたペンダントを掴む。
周りがいぶかしむ中、次の瞬間―――――修二の手にソドムで愛用していた銃が現れた。
視線が修二に、正確にはその手にある銃に集中するのが分かる。
それはそうだろうな、と修二は思った。
いきなり現れたのもそうだが、この銃はあまりに異形すぎる。
サイズが大きいこともそうだが、所々に意味不明なパーツがセットされ、特に銃口はあまりに巨大すぎる。
元々ソドムではありふれた、魔力をエネルギーに変換し弾丸とするだけの銃だったのだが、四年に渡る改造の末、もはや原型を留めないほどに強化してあるのだ。
「それが君の武器かい?」
京也特に驚きを見せない。
つまりそれは彼の余裕を示している。
―――――見てろ。
目標は暁月と同じく粉々。
先ほど彼は力の調節を失敗していた故に砕けなかった。
だがこちらは一発で壊す必要は無い。
もちろん只のエネルギー弾で壊せるはずもない。
よって、少しばかり力を開放する。
「―――――」
誰にも聞こえない大きさで高速詠唱。
構えた銃口の先に風が集約する。
「レスト・イン・ピース」
トリガー。
白い光が銃口から氷柱に向けて発射される。
轟音。共に着弾。
しかし、氷柱は一切傷ついていない。
だがそれも計算内。
再びトリガー。トリガー。トリガー。トリガー。トリガー。
僅か二秒間に六発の魔弾が氷柱の同じ場所を寸分狂わずに穿つ。
そして―――――。
バキィン!
氷柱に大きな亀裂が走った。
周囲にどよめきが走る。
「チッ、駄目か!」
しかし修二は苦い顔をする。
あれを六発も使ってヒビ一つ程度しか入れられなかった。
暁月同様、力の入れ具合を間違えたらしい。
「いや、君も大したものだよ」
暁月の時と同様惜しみない賞賛が贈られる。
「これで、君達の入学検査は全て終了した。入学おめでとう。ようこそ、バベルへ――――」
こうして修二、暁月、美兎の三人の試験は終わったのだった。
―〇●〇―
「三人そろってBクラス。これからクラスメイトというわけだ。改めてヨロシク、と言わせてもらおうか」
試験終了後、三人はBクラスへ編入する事となった。
普通はEから良くてもDだというのに、これはかなり異例の事らしい。
そして、明日からクラスの仲間となる二人に対し修二は改めて挨拶をしたのだった。
「えっと、うん。よろしくお願いします」
「ああ。こっちもよろしく頼むぜ」
今度は拳ではなく普通の握手による挨拶を交わす。
「ところでよ――――」
暁月はふと真剣な顔になり、
「お前、
普通の人間じゃないだろ」
修二は内心驚き、しかし表情、動きには一切出さずに口を開く。
「・・・・いい女に秘密があるように、いい男にも秘密ってのがあるもんさ。ま、知り合いからの受け売りだがね」
手を放してから言う。
「・・・・君達兄妹には迷惑はかからないから気にしなくていい。それじゃあ、また明日学校で」
若干、兄妹という言葉を強調して修二は別れの挨拶を口にする。
「うん、さようなら」
「・・・・じゃあな」
そうして三人はそれぞれの帰路につくのだった。
こうして、はぐれ勇者と異世界の姫と愚者の物語が動き出す。
この先、物語はどう動くのか、今はまだ誰も分からない。