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正義の紅い魔王 第十話 魔王と魔竜と翼持つ少年
作者:愚か者   2012/07/26(木) 18:20公開   ID:a7PKEAuTavI

 大天使 ミカエル。

 元々はイラク南部、カルデアの神だと言われ。

 それがユダヤ信仰に取り入れられる事で、天使ミカエルとなり。ユダヤ教・キリスト教での、圧倒的な人気を得るに至る。

 更にキリスト教の最大派閥『カトリック』に於いて、彼は戦士としての力を重視され、常に悪魔の軍団と戦っているイメージを獲得した。

 また、この時点で彼には鋼の性質が顕わており。それはサマエル――蛇――との戦いを経た事で、竜を打倒した鋼の軍神としての側面をも獲得する。

 サマエルは時として、サタンと同一視される堕天使であり。彼の姿を現す蛇との戦いが、時代を経て竜を打倒したと見られる様にもなった。

 これが、彼が鋼の神格を得た経緯と言える。

 また、それとは別にしても彼はその偉大さから『天使長』・『天使の王子』の称号で呼ばれる様になり。世界中に彼の名前を冠する教会が乱立した。

 尤も有名なのが、フランスの『モン・サン=ミシェル』協会。この名前には『聖ミカエルの山』と言う意味が存在する。

 ――◆◇◆――

 アレクとアリスにルクレチア女史の三人との会談を終え、サルデーニャ島を経ち。セイバーの要望も兼ねて、インドのデリー国際空港に降り立った士郎達。

 到着したその日の宿泊先は、グリニッジ賢議会に手配させた高級ホテルだった。

 因みに何故、高級ホテルかと言うと――凛がついでの様に、アリスへ高級ホテルの手配を頼んだのが事の始まりだった。

 そのホテルの一室で、話をする人物が二人。

「それにしても、六年前に“まつろわぬアーサー”が顕現していたなんて」

「確かに、それには私も驚いた。だが、だからこそ黒王子とアリス様の御二人は、アルトリアの存在に驚いたのだろう」

「それはそうでしょうね。何しろ六年前と異なって、まつろわぬ神としてではない――純粋な意味で、アーサー王と対談をしんだから。ある意味、歴史的な場面とも言えるわね」

「確かに。しかし、驚いたと言えば……魔女様のアルトリアに対する態度にも驚かされた」

「そうね。アーサーリアンと言うだけあって、あの子アルトリアもタジタジしていたわね」

 二人の女性は、その時の事を思い出したのか笑いを堪え切れずに失笑する。

 最初は握手から始まり、次第に円卓に名を連ねる人物達の事を事細かに尋ね出した。
 
 やがてそれは、取り留めもない愚痴に変わり始め。ルクレチアはそれを熱心に聞くと言う、どこかズレた状況へと移って行った。

 しかもその話を熱心に聞き入っている状況は、アーサーリアンを自称するだけ在って他の者を一歩引かせるに十分だった。

 そして、その場面を思い出してか――凛とルディアは失笑を浮かべていた。

 当の当事者である騎士王は、今頃士郎を引連れて食巡りの最中ではあるが……。

「しかし、良く考えれば……Ms,トオサカも神性を持って顕現しても可笑しくは無かったのだな」

「どう意味かしら、ルディア?」
 
 訊ねる凛に対して、ルディアは
「鋼の英雄神と大地母神の関係を考えれば、聖杯戦争そのものが……彼と君に――衛宮 士郎と遠坂 凛に――神性を与える一舞台の様に思える」
 と答える。

「それじゃ、なに? 私達は現代に於ける、英雄を作り出す実験に使われていたみたいじゃない」

 鋼の英雄神の殆どが、大地母神からの庇護を受け。敵対者を払い、大地母神の神性を堕として妻にしている。

「気分を害したのなら、謝ろう。しかしだ……シェロは一度命の危機に陥ったが、それを救ったのは君だ。そこから、英雄神と大地母神の関係を結びつけると――死の危険に瀕した英雄の命を救ったのは君。庇護を与えたのは、アルトリア。そして君は、彼の伴侶となる関係に……」

 その言葉に何かを考えた後、
「そうね。でも基本的に、聖杯戦争で士郎の命を繋いだのはアルトリアよ。それと士郎は間違いなく、心臓を一突きされているわ」
 と反論する。

「そうだが、三位一体の思想は理解しているだろ。その点から見れば、君とアルトリアは同じ役目を負わされた女神と考えられる。どちらも、英雄の力になると一点に絞れば……な」

「それじゃ、最後の神性を堕としめて妻にすると言うのは誰よ? 私には神性に値する物は無いわ。アルトリアあの子には在っても、そういう関係にはなっていないわよ」

 この時凛は、心の内で(厳密には、セイバーであって――アルトリアじゃないんだけどね。でも。そういう条件なら、アルトリアは合致しているとも考えられるわね。竜とは、地母神と関係の深い蛇のキメラ。その竜を従え、妻にすると言うのなら間違いじゃないのだから……)と漏らす。

「その辺を私が詳しくは知らないが……。君達の中で、そういった役割に当たりそうな人物に心当たりは無いか?」

 ここで凛は一人の肉親の存在に気付いく。

「そんな人物が、そう都合良く――――居たわ、一人」

 その言葉に、ルディアも息をのみ。驚愕の表情を張り付かせて問う。

「誰だ、それは?」

「私の妹の桜。あの子、私の家から養子に出された後に――聖杯の一部を埋め込まれていた。私達がそれに気付いたのは、何年もしてからだけど……。もし、聖杯戦争中・・・・・に桜が聖杯の泥に呑み込まれて、それを士郎が助けていれば……」

「十分、神性を堕として妻にするという条件には当て嵌まるな」

「そうね。何より、あの子は士郎に惚れていた。それなら、私とアルトリアと桜の三人でも三位一体の思想も完成する」

 何気ない会話から始まった話は、遂に“まつろわぬエミヤ”と“まつろわぬトオサカ”の二柱の誕生の根源にまで至たった。

「そうだとしたら……“まつろわぬトオサカ”と“まつろわぬエミヤ”は、十分に一つの神話として成立している? 士郎を助け、導く役目は私が。士郎の力となって、庇護を与える役目はアルトリア。敵対者に捕らわれる乙女の役目は、桜と私」

 それぞれの例を上げれば、凛は宝石による蘇生と同盟によって生まれた道しるべを示す師弟関係を。アルトリアは、聖剣の鞘による庇護と従者サーヴァントとして役目を。桜は聖杯の泥アンリ・マユに囚われの姫君、凛は敵対したアーチャーに囚われた姫君の役割を。

 アテナ同様に三位一体として見れば、一柱の神として十分に可能性は存在する。
その観点から見れば。遠坂の地が聖杯戦争の地に選ばれた事すら、その説を更に強調しているようにすら思える。

 大地母神とは、つまり――その地に古くから存在する信仰された神であり。何より、母神と言う言葉からも女性で在る事が定められている。

 そして、冬木の地を管理していたのは――古くから続く遠坂の血筋。ならば、凛と桜を大地母神の血筋として見る事も可能。

 そして士郎は、第四次聖杯戦争によって全て失い。この時、炎の中から生まれた英雄神がエミヤ シロウと考えれば……。

 全てが、一つの神話として十分に成立してしまう。

 と、同時に凛の中には一つの仮説が浮かぶ。

 その仮説故に、遠坂凛は
「冗談じゃない。もし、世界が仕組んだと言うのなら。私は世界を絶対、許すもんですか」
 と、静かにルディアにも聞えない声で呟きを零した。

 凛の頭に浮かんだ仮説を受け入れると言う事は、癪に障ったが――同時に、士郎と私がこの世界に反作用なく受け入れられた事にも納得が行き。それと同時に、アーチャーの結末もまた――定められた運命モノだとういう事の証明になる。

 だからこそ、ある意味……この世界に渡ってこられた事は、士郎にとっても私にとっても幸運と言えるが。仮説通りならば――それだけで済ます気は、凛には無かった。

 ――◆◇◆――

 セイバーに連れられて街の中を歩く中、ふと誰かの視線に気付く。

 そして、その方向に視線を向けると――自分の中の何かが、『アレは敵だ! 打倒せ!』と激しく訴える。

「アレが、“まつろわぬ神”ですか――士郎?」

「……ああ、そうか。アルトリアは初めて見るんだったんだな」

 そこに居たのは、一人の少年であり――漆黒の肌と黄色い目、白い牙を持ち、剣を携えた人型の神。

「始めまして、神殺し。今から殺し合いを始めようと思うんだ、良いだろ?」

 言葉こそ、問い掛けの形だが。それは半ば決定的な問い掛けだった。

「ふん、この場では私がその気にはなれん。もっと人の少ない場所でならば、応じよう――“まつろわぬヴリトラ”」

 その特徴から、目の前の“まつろわぬ神”が何であるかはすぐに分かった。

「それは駄目だ。此処だから僕の気分が最高なんだ。ここ以外で戦ったら、人々の、無辜の民の悲鳴、怨鎖の声、嘆きの声が響き渡らないだろ?」

 その言葉を聞き、俺と“まつろわぬヴリトラ”は暫し睨み問う。

「貴様……周りの人にも被害を及ぼす心算か」

「そうだよ。でも、僕に命乞いをする者、僕に従う者、僕の意に沿う者は生かすよ。僕は命を刈り取るだけの神ではないからね」

「――如何いう事ですか?」

「アルトリア。ヴリトラも複数の神格を持つ神だ。何故なら、インドにはデーヴァと呼ばれる善なる神々が存在するが。彼らは、ゾロアスター教では悪神として認識されている。そして、目の前に居るヴリトラもまたその一柱の神だ」

「そう訳だから、諦めて貰うよ。それにしても君はなんだい・・・・? 僕たちとは違う、けれど――彼を始めとした神殺しとも違う存在。君はどっちつかずの存在。酷く不愉快な気分だよ。君――――此処で生き絶えろ・・・・・・・・

 瞬間、アルトリアが息を荒げて蹲った。

「言霊か!? アルトリア、体内に侵入した魔力を掻き出せ!」

「既に……やっています……士郎……」

 その言葉と共に、アルトリアに侵入したヴリトラの魔力が体外に放出された。

「アルトリア、コレを。私の対魔力・抗魔力は【魔王】になってから信じられない程に上がった為に、今は聖骸布コレが無くても大丈夫だ」

 そこで俺は、いつも身に付けている聖骸布をアルトリアに渡す。

「ありがとうございます、士郎。では、お言葉に甘えてお借りします」

 未だ、表情は優れていないが――アルトリアなら問題は無いだろう。

 そして、目の前に居るヴリトラを再び見ると……。

「これは驚いたなぁ。神殺し、君はそんなどっちつかずの存在に不快感を抱かないのかい?」

「ふん、どっちつかず存在か……。確かにそうなのかもしれん。だが、それが如何した? その程度だろう? 私にとって、彼女は信頼出来る仲間だ。故に不快感を抱く事は無いな」

「そっか。じゃ、彼女の事はもういいや。それよりも、僕は君と早く殺し合いをしたいから……ね!」

 ヴリトラは言葉を言いきると同時に、剣を手に俺へと斬りかかり始めた。

 その次の瞬間、辺りには悲鳴が響き、逃げ惑う人々が出て来る。

 俺の手には既に投影した干将・莫邪が握られ、斬り殺さんと振り下ろされる剣と合わせる。

「ちぃ、神だと言うのなら、少しは周囲の事を考えんか!」

「それは無理だよ! 僕たちは“まつろわぬ存在”なんだからね!」

 ――◆◇◆――

 凛とルディアは、廊下を始めとする周囲が騒ぎだしたのを聞き。何事かとホテルの従業員に訊ね。

 その結果、外で白髪の少年と黒人と思わしき少年が剣で斬り合いを行っている事を知る。

「まさかと思うが、此処でもまた“まつろわぬ神”か?」

「白髪ってのが、士郎ならそうでしょうね。ルディアは、結社の方にインドココに“まつろわぬ神”が現れたか確認急いで!」

「わかった、Ms,トオサカ。それで君は?」

「士郎達の所に向うわ! 今は、少しでも戦力が必要でしょうから!」

 そして凛が、士郎と“まつろわぬ神”が戦いっている場に到着すると――そこには、新に翼を持つ少年が加わっており。

 士郎・アルトリア、漆黒の肌の“まつろわぬ神”、翼を持つ“まつろわぬ神”の三竦みの状態となっていた。

「ちょっと、如何いう状況よこれ?」

 そして事態を動かしたのは驚くべき事に士郎からだった。

「――契約しよう! 我が盟友に館を! 我と共に歩む者に苦難を!」
 
 その言葉を聞き、凛は驚きとまさかと言う表情を浮かべる。

 凛が想像したのは、世界との契約。

 この世界にそれが適応されるのかは不明だが、適応されれば間違いなく――それは世界の奴隷を意味する。

「士郎! ちょっと、まちな――」

 凛の言葉も終わらぬ内に、衛宮 士郎はその言葉を紡いでしまった。

「我は館の友と共に、戦場へ。此処に契約は成った!」


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■作者からのメッセージ
これで次回更新は相当遅くなります。

夜勤の仕事はやはりキツイです。
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