浅い眠りからはっと覚めてみれば、馬車は既に止まっていた。
車内を見回すと誰も居ない。
別に抱えて行けと言うつもりはないが、ミナを置いて行ってくれても良いじゃないか父上!
俺に迷えとでも言いたいのか、俺に寂しく死ねとでも言いたいのか!!
息子を見知らぬところに放置する薄情な父上と母上とミナはもう馬車の外にすらいないようなので、遅れた!急げ!とばかりに俺もフラフラの身体を必死で動かす。
愚痴は口に出さないぞ、決してな。
ご丁寧に仕舞ってあった昇降台を展開して足を掛け、幾時間ぶりに大地を踏みしめる事と相成った俺は、歓喜に震える感情を押さえて身体を捻った。
グキグキッと悲惨な音を奏でる背骨に物悲しくなりつつも、どうせ魔法の訓練と平行して身体も鍛えるのだから!と気を取り直す。
なんか体の調子が抜群に良いんだが、それは今気にすることではない。
転生ボーナス(笑)とか神様(嘲)の贈り物なんていうテンプレートな物じゃなければ何でも良いからな。
そういうお約束はいらないよ。
「君がレオナルトかい?」
解放感を満喫していた俺に見知らぬ子供が声を掛けてきた。
見ると、そこに居たのは七つかそこらの金髪少年。
身長は俺より少し大きい、120CMくらい。
シャツとズボンという簡素な格好だが、胸元を大胆に開けているからどこか滑け………素晴らしく個性的に見える。
将来有望といった顔立ちに少々嫉妬するのだが、まあ俺の顔もそう悪いものではないから悲嘆はせんな。
ただ今日は暑くて寝られないように呪ってやる……………他意はない。
「君の御両親に起こして来てくれと頼まれたんだけどね。起きてるものだから別の子かと思ったよ」
ハハハとどこか気障ったらしく笑う少年………いや、肉体年齢では俺のほうが年下だからこの言い方は変だな。
「あの……お名前を伺っても?」
「僕のかい?」
「はい」
お前以外誰がいんだよと思いつつ澄まし顔で頷けば、少年は大袈裟なリアクションと共に一礼をしてくる。
子供がシークレットブーツを履いて背伸びしているような感じだが、此処は大人しくビックリしておこう。
こういうのは一度乗っておけば後が楽になるタイプの人間だ。
「僕はギーシュ――」
ギーシュ?
アジェノール・ド・グラモンもそんな名前だったな。
ギーシュ伯爵、うん何処かで聞いた事が有るけど良い名前だね。
リシュリュー枢機卿に忠誠を誓うものの名だ。
父上に連なる者という暗示かも知れない。
「ギーシュ・ド・グラモン、今日で六つだよ!」
………………
………………………………
ど、同姓同名の別人だよきっと、うん!
ギーシュなんて世界中に五万人は居るって、グラモンって姓も沢山ね。
「僕は今日が楽しみだったんだ!なんたって土と風のスクウェアメイジである【鉄風のミシェル】ことリシュリュー伯爵にお会い出来たんだからね!!」
スクウェア…………メイジ………………
これ、もうゼロ魔だよな?
完璧そうだよな?
あ?二次創作ですかコノヤロー。
転生だったらもっと違う所が良かったよ………フォーセリアとかスターオーシャンとかさ……………
どうせファンタジーなら獣耳が見たいよ、犬耳猫耳兎耳にエルフ耳!!
ふもっふもな耳をモフモフしたい!!
艶々な耳を擦りたい!
掴みたいぃぃ!!!!
などという逃避は止めて現実を見よう。
俺は原作無しのファンタジー世界ではなく、ゼロの使い魔の世界に転生した。
原作キャラとはこのギーシュを除いて誰とも面識がないので、厳密にいえばゼロの使い魔「らしき」世界と認識するが…………まぁグラモンが有るならモンモランシやヴァリエールもあるだろうと思う。
キャラの年齢…………このギーシュが六歳だとすればモンモランシーは同じでキュルケが二つ上の八歳、ルイズは一つ下の五歳だったはず。タバサはルイズと同じか下だったな、確か。
今はまだシャルロットだろうけど、ガリアのことは父上に聞いておこう。
あの人ならそっちにも知り合いが居そうだ。
「レオナルト君、大丈夫かな?」
「え?……ああ大丈夫です」
「そう、なら行こうか。父上達が待っているからね!!」
ギーシュはそう言って俺の腕を掴んだ。
「君、ウチは初めてだろ?案内するよ」
なかなかに好少年だなこいつ。
こういうやつは嫌いじゃないぞ。
「お願いします」
「では行こう」
「はい」
でもギーシュってこんなキャラだったか…………?
こんなに明け透けに明るく接してくる男友達なんて居なかったから少し戸惑うぞ。
あ……………前世で友達が居なかったわけじゃないからな?
皆自立してたからこういう無邪気な接し方が出来なかっただけだし、女友達と男友達との比率が8:2だっただけだ!!
周りに特徴的なやつが多すぎて普通のやつが近寄って来なかっただけなんだからな。
あれ、なんだか自分で言ってて虚しくなった……………やべぇよ俺、友達居ないとかやばすぎる。
今生では友達作りを優先しようかなぁ………でも身体も鍛え直したいしなぁ。
「レオナルト君、本当に大丈夫?」
「大丈夫です」
ただでさえアンニュイなのにこんな子供に心配されるとキツいなぁ。
いやギーシュが悪い訳じゃないけどさ、何が悲しくて誕生日の子供に………………今日で六って言ってたからギーシュの誕生日に呼ばれたんだよな、うん。
ならあれを言わなきゃ始まらんだろう。
「ギーシュさん」
「ギーシュで良いよ。なんだい?」
フレンドリーなギーシュ。
ごめんな、心じゃ最初からギーシュ呼ばわりなんだ。
「誕生日おめでとう」
やっぱり誕生日にはハッピーバースディだよ。
誕生日会なんて前世でも良くやったものだからな、言い慣れてる。
「ありがとうレオナルト君」
「そっちもレオナルトで良いさ」
「そうかい。ありがとうレオナルト」
そう言ってギーシュはニッコリと笑い、再び歩き出した。
うん、仲良くなれそうだ。
というか仲良くしておきたい。
主に俺の精神安定剤として!!