「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ、先生」
と、いうわけで、やってきました、試験会場。今回俺がここに来たのは、ある人物に会うためだ。そいつは十代ではない。当然、明日香でもなければ、カイザーでもない。翔でも万丈目でもない。
さて、どこにいるのか。まだ残ってるはずなんだが......お、いたいた。
「あ、ちょっとそこの君、今、時間ある?」
「え、あ、はい、ありますけど......って、あー!あ、あなたは、旭あ、ムゴッ」
「しーっ、騒ぐな。目立ちたくはないんだ。で、お前に少しばかり話があるんだが、一時間くらいいいか?|空気男《みさわだいち》君?」
「あ、あの、旭さん。」
「ん?なんだ?金の心配はいらないぞ?俺が持つから。なんでも好きなもの頼め。」
といっても、ファミレスなんだが、な。
「い、いえ、そうじゃなくて、その、僕に話がある、というのは......」
「ああ、だが、その前に質疑応答の時間だ」
「え?」
「ん?違ったか?この前放送された海馬社長とのデュエルについて、聞きたいことがあるだろう?」
「......はい。あのデュエルの終盤、なぜスナイプストーカーの効果を使わなかったのですか?手札は2枚も余っていたのに」
「ふむ。つまりお前は、あれはプレイングミスだ、と」
「い、いえ、何もそこまでは」
「いやいや、確かにお前の言うことは、完璧に、徹頭徹尾正しいよ......相手があの海馬瀬人でなかったら、な」
「え?どういう意味ですか?確かに強力なデュエリストですが......」
「うーん、そうだな、どう説明しようか......うん。
いいか、三沢、この世界の一部のデュエリストは、『属性』とでもいうべきものを持っている」
「『属性』、ですか?」
「例えば、武藤遊戯や、あの110番、遊城十代。彼らの属性は、
『
主人公』だ。彼らは負けてはいけない勝負であるほど、相手が優勢で、自分が不利な状況であればある程、強くなる。彼らは引くべきカードをしかるべき時に引き、そして勝利する。ギリギリの所で首の皮一枚繋げ、逆転勝利を収める。
彼らのライフが100ポイントだけ残ったら気をつけろ。絶対にお前の負けだ」
「......」
信じられないって顔をしている。そりゃそうだけど、でも、それがこの世界の真実だ。要するに、『キャラクター』だからな。
「そして、海馬瀬人の『属性』は『真っ向勝負』だ。ヤツが終盤に巨大モンスターを出してきたら、単純な除去をしようとしても、必ずと言ってもいいほど失敗する。スナイプストーカーの効果を使っていても、失敗していただろうな。効果ダメージでの決着も許さなかったしな。多少ライフを削っても、必ず返しのターンでなんとかされていただろう。
ついでに言えば、逆に海馬瀬人の方もパワー勝負を強いられるから、あのタイミングでのミラフォや激流葬はあり得ない。
そうだな......三沢、あの場面で巨大化が無かったとする。他のカードはあの場面では何の意味もない。さて、お前ならどうする?」
「どうするって、そりゃ、普通に攻撃を......」
「確実に死者蘇生で
究極竜が出てくるな」
「じゃ、じゃあ、攻撃しなければ......所詮攻撃力0のモンスターですから」
「きっと、青眼の
光龍が出てくる」
「そんな馬鹿な。明らかに矛盾しているでしょう。デッキトップが変化するなんて......」
「いやいや、相手がどういう行動をとってくるかどうか、それさえも『属性』は分かっている。別にデッキトップは変化しやしない」
「......訳が分かりませんよ」
まあ、そうだけどな。
「あ、ちなみに正解は『エクシーズ召喚をする』だ。
スナイプストーカーもサモンプリーストもレベル4。ランク4の適当なのを出せばそれで終わりだ」
「なるほど。では、なぜ巨大化を使ったのですか?」
「え?その方がカッコいいだろ?」
「......」
あれ?なんだ?この沈黙。もっと合理的なプレイングをしろ、とでも言いたいのかな。まあ、どうでもいいか。
「さて、お前の疑問も解消されたことだし、本題に入ろうか」
「さて、三沢、今からする話は、決して誰にも話さないでくれ。もしお前が誰かに話したりした場合は、I2社からちょっとした『お仕置き』が待っているから、覚悟しておけ」
「はい。分かりました」
「よし、話すぞ。三沢大地......」
ゴクリ。三沢がのどを鳴らす。さっきの言葉のせいで、ものすごく緊張しているようだ。さすがにそこまでの話ではないんだけどな。
「三沢、俺に............I2社に雇われないか?」
◆
「............す、すみません、もう一度言っていただけませんか?一瞬耳がおかしくなってしまったみたいで」
「いやいや、聞き間違えなんかしてないぞ。I2社だ。お前をうちは雇いたい」
「えっ!!ほ、本当ですか!?こ、光栄です。でも、なぜ、僕を?」
「お前のデュエル理論、カード知識はなかなかのものだ。だから、お前の力を借りたいと思ってな」
デュエル理論なんてモノどうでもいいけど。本当は、原作でも複数のデッキを持っている珍しいやつだったから、というのが理由だ。
「あ、ありがとうございます。そ、それで、どのような仕事を......」
「仕事は主に二つだ。両方引き受ける必要はない。片方だけでも引き受けてくれれば助かる。
まず、1つ目は、テストプレイヤーだ」
「テストプレイヤー、ですか」
「これからI2社では、革新的なカード、商品を生み出していくつもりだ。だが、急なルールの変更なども相まって、バランスが心配でな。そこで、デュエルアカデミアの生徒の一部に、テストプレイヤーをしてもらうつもりだ。どうせお前なら合格しているだろうしな。お前の場合、期間は卒業、留学、あるいは退学まで。報酬は情報アドバンテージと、金。額はそこそこ出すつもりだ。当然、デュエルした回数にもよる。
で、2つ目。こちらは世界中のデュエルアカデミア講師やデュエル理論研究者、その卵に受けてもらっている。その内容は......いや、もったいつける必要はないな。ただ、検索サイトを創るだけだからな」
「へ?あの、失礼ですが、それくらいならいくらでもありますよ?I2社が管理をしているものだって......」
「確かにな。でも、今存在する物では不十分だ。
具体的に言おう。まず、カード名とそれが収録されているパックが書かれているだけの物は論外として......そこにカードテキストが正確に書かれれば三流だ。カードの使い方の解説、相性の良いカード、そして様々な用語・俗語などへのリンクが貼ってあれば、やっと二流だ。で、更に、それぞれのカードが使われやすいデッキ、そのデッキと相性の良いカード、そして細かい裁定、
例えば、シモッチによる副作用とマテリアルドラゴンが場にある場合の効果処理
例えば、奈落の落とし穴は対象をとるか、とらないか
例えば、スナイプストーカーの効果を我が身を盾に、で防げるか......
それらが書かれてやっと一流だと、俺はそう思う。
だが、俺達は、I2社の特権を行使して、それを上回る。各カードのイラストの画像、最新パック、最新カードの情報、それらを簡単に使用できる。当然、外部のカードデザイナーの描いたカードイラストなどの著作権も全て買い取る。......さすがに『闇のカード』とやらは無理だろうが。
他にも、サイト維持のために無駄な広告を載せる必要もなく、サーバーも独立した最高の物を用意する。将来的には、そのサイトで商品の購入、予約までできるようにもする。
そして、世界有数の人材を集める。これにより、一流の遥か上、超一流の域まで駆け上がる。どうだ、わくわくするだろ?」
「はい!」
おおっ、目がギラギラしてる。このまま夕日に向かって走り出しそうな感じだ。
「この仕事の期間はとりあえず、お前が死ぬまでだ。報酬の方はそれ相応の額を支払おう。I2社の一大事業だからな。金がイヤなら、レアカードでも、これから発売するカードの暫定的情報、禁止制限、あるいは海馬コーポレーションとのコネでも、ペガサス会長や海馬社長とデュエルする権利でもいい。
だから三沢、I2社に力を貸してくれないか?」
「も、もちろんです。こちらこそ、参加させてください。報酬もいりません」
「いや、ただ働きさせるのはさすがにまずいって。他社が付け入る隙にもなるからな。
じゃあ、ま、正式な契約は後日、そうだな......学園内のお前の部屋に出向くから、その時までに色々考えておいてくれ」
「は、はい!がんばります!」
「じゃあ、そういうわけで」
俺はできるだけ、颯爽と、という言葉が似合うように意識しつつ、その場を立ち去る。
プロジェクト
A、これにて完了!(仮)
奢るとか言いつつ、金を払っていなかったのに気づいたのは、それから2時間後のことだった。