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IS インフィニットストラトス〜黒騎士は織斑一夏〜 第二十四話
作者:AST   2012/08/05(日) 00:34公開   ID:GaMBFwOFFuY
 「買い物?」

 「うん、そう」

 寮の食堂でシャルロットとラウラは早めの朝食をとりながら話していた

 二人の他には朝練をしている部活動の面々がちらほら居る程度で、全く混んではいない

 「それで買い物には何時に行くんだ?」

 「あ、うん。十時くらいにに出ようかなと思うんだけど、どうかな?一時間くらい街を見て、どこか良さそうなお店でランチにしようよ」

 「そうか。折角だし嫁も誘って行こう。うむ、私は良い亭主になるな」

 「あ、あはは………そうだね」




                第二十四話




 「部屋には不在、電話にも出ない。アイツは何処に行っているんだ。_____浮気か?」

 「いや、まあ、いないんじゃしょうがないよ」

 「ISのプライベート・チャネルなら繋がるだろう。よし」

 「わあ!良し、じゃないよ!ISの機能は一部だけでも勝手に使うと不味いんだよ?」

 「知るものか。嫁の所在の方が大事だ」

 「……織斑先生に怒られるよ?」

 ぴしり、とラウラの動きが止まる

 「そ、そうだな。プライベートな時間も、時には大切だろう。よし、シャルロット。二人で出かけよう」

 「うん。行こ」

 そしてて二人は学園を出る準備の為、いったん部屋へと戻る

 「あの、ラウラ?その軍服は何?」

 「うむ、これは正式には公用の服だが、いかんせん私には私服が無い」

 「………………」

 さすがに頭を抱えるシャルロット

 そういえば、同じ部屋でも普通の女の子の恰好をしている所の見たことが無かった

 「ラウラ、制服でいいよ………その服って勝手に来たら本国の人に怒られるでしょ?」

 「そう言われればそうだな。分かった、制服に着替えよう」

 それから女子とは思えない速さでラウラが着替えを終え、部屋から出たの十五分後の事だった

 そして二人はバスに乗って駅前のデパートへとやって来ていた

 シャルロットはバックから何やら雑誌を取り出し、それを案内板と交互に見ては何かを確認していた

 「うん、分かった。この順番で回れば無駄が無いかな」

 「ふむ」

 「最初は服から見ていって、途中でランチ。そのあと、生活用品とか小物とか見に行こうって思うんだけど、ラウラはそれでいい?」

 「よく、分からん。任せる」
 
 相変わらず一般的な十代女子の事には疎いラウラであった

 二人はエレベーターに乗って七階の店に向かった

 「じゃ、まずはここからね」

 「『サード・サーフィス』……変わった名前だな」

 「結構、人気のあるお店みたいだよ。ほら、女の子も一杯居るし」

 そう言われてラウラが見た店内は確かに女子高生、女子中学生が多くいた

 「…………………」

 ばさり、と客に手渡すはずの紙袋が店長の手からすり抜けて落ちている

 「金髪(ブロンド)に銀髪(プラチナ)………?」

 店長の異変に気付いた店員もその視線を追う

 そしてそのまま、魅了されたように呟いた

 「お人形さんみたい………」

 「何かの撮影………?」

 「ユリ、お客さんお願い………」

 店長は二人の方に視線を向けたまま、ふらふらと歩み寄っていく

 それはまるで魅了されたように、あるいは熱にあてられたように

 「ちょっと、。え、あ、私は?ていうか、服……落ちたままだし……」

 文句を言おうとした女性客もまた、シャルロットとラウラの姿に見とれて言葉を失う

 「ど、どっ、どんな服をお探しで?」

 上ずった声を上げる店長は見るからに緊張していて、サマースーツを着こなしている大人の女性とは思えない様子だった

 「えっと、とりあえずこの子に似合う服を探しているんですが、いいのありますか?」

 「こ、こちらの銀髪の方ですね!いますぐ見立てましょう!はい!」



 そうして色々と試行錯誤した結果



 「うわ、凄い綺麗」

 「妖精みたい……」

 店内中の視線を受けて流石のラウラも照れくさそうな顔をする

 着ているのは肩が露出した黒のワンピース

 部分部分にフリルのあしらいがあって、可愛らしさを演出している
 
ややミニよりの裾がラウラの超俗的な雰囲気と合っていて、言葉通り妖精さながらの恰好だった

「く、靴まで用意したのか。驚いたぞ」

「折角だもん、ミュール履かないとね」

初めて履くヒールのある靴に、ラウラが姿勢を崩す

全員が『あっ!』と思った次の瞬間にはシャルロットがその体を支えていた

「す、すまないな」

「どういたしまして」

体勢を立て直したラウラの手を取り、お辞儀をするシャルロット

そんな二人はさながら貴公子とプリンセスといった様子で、まるで物語のワンシーンのようでさえあった

「しゃ、写真撮ってもいいかしら!?」

「わ、私も!」

「あ、握手して!」

「私も私も!」

わぁっ、と一気に囲まれる二人。店内だけでなく騒ぎに集まって来た店外の人まで輪に入ってきて、辺りはしばし騒然となった






「ふう、疲れたな」

「まさか最初のお店であんなに時間を使うとは思わなかったね」

ちょうど時刻は十二時を過ぎた所で、二人はオープンテラスのカフェでランチをとっていた

ラウラは日替わりパスタ、シャルロットはラザニアをそれぞれ食べている

「しかしまあ、良い買い物は出来たな」

「折角だからそのまま来ていれば良かったのに」

「い、いや、その、なんだ。汚れては困る」

「ふうん?あ、もしかして、お披露目は一夏に取っておきたいとか?」

「なっ!?ち、違う!だ、だだ、断じて違うぞ!」

顔を赤らめて取り乱すラウラの姿に、シャルロットは的を得たことを確信しながらも、あえて知らないふりをする

「そっか、変な事言ってごめんね」

「ま、ま、まったくだ」

「ラウラ」

「な、なんだ?」

「フォークとスプーンが逆」

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

シャルロットの指摘によって気が付いたラウラは、それこそ耳まで真っ赤になって口に運んでいたスプーンを離した

「ご、午後はどうする?」

「生活雑貨を見て回ろうよ。僕は腕時計を見に行きたいなぁ。日本の腕時計って、ちょっと憧れだったし」

「腕時計が欲しいのか?」

「うん、折角だからね。ラウラはそういうのって無いの?日本製の欲しいもの」

少し考えてから、ラウラはきっぱりと言った

「日本刀だな」

「女の子的なモノは?」

「無いな」

即答。分かっていたとはいえ、にべもない返事にシャルロットはガクッと肩を落とした

ふと、シャルロットは隣のテーブルの女性に気が付く

「………どうすればいいのよ。まったく………」

歳の頃は二十代後半で、かっちりとしたスーツを着ている

何か悩み所があるらしく、注文したであろうペペロンチーノは冷め切ってしまっている

「はぁ……」

深々と漏らす溜息には、深淵の色が見て取れた

「ねぇ、ラウラ」

「お節介は程々にな」

ラウラがシャルロットの言葉を先回りする

「それで、どうしたいんだ?」

「うーん、とりあえず話だけでも聞いてみようかな」

そう言って、シャルロットは席を立つなり女性に話しかけた

「あの、どうかされましたか?」

「え?________!?」

二人を見るなり、ガタンッ!!とイスを倒す勢いで女性が立ち上がる。

そしてそのままシャルロットの手を握った

「あ、貴方達!」

「は、はい?」

「バイトしない?」

「「え?」」







「と言う訳でね、いきなり二人辞めちゃったのよ。辞めたって言うか、駆け落ちしたんだけどね。はは……」

「はぁ」

「ふむ」

「でもね!今日は超重要な日なのよ!本社から視察の人間も来るし、だからお願い!貴方達二人に今日だけアルバイトをしてほしいの!」

女性のお店は、所謂メイド喫茶であった

「それはいいんですが……」

着替え終わったシャルロットはやや控えめに訊く

「何故、僕は執事の恰好なんでしょうか?」

「だって、ほら!似合うもの!そこいらの男なんかより、ずっと綺麗で格好いいもの!」

「そうですか……」

褒められたと言うのに余り嬉しく無さそうにシャルロットは溜息をもらす

“僕もメイド服が良かったなぁ……。そっち着ているラウラ、すっごく可愛いし”

少し残念な気持ちになりながら、シャルロットは着ている執事服を見下ろす

“う〜、やっぱり僕ってこういうキャラなのかなぁ……”

男装系ヒロインという自分の属性に、やや落ち込み気味のシャルロットに気づいてか、自分もメイド服に着替えた女店長はがしっと、その手を掴んだ

「大丈夫、すっごく似合っているから!」

「そ、そうですか。あはは………」

シャルロットはやや引き攣り気味の顔で、それでもどうにか社交辞令の笑みを返す

“それが問題なんだけどなぁ……”

複雑な乙女心を持て余しながら、シャルロットは改めてメイド服姿のラウラを眺めた

細身でありながら強靭さを秘めた体躯に、飾り気の多いメイド服。それらを統一する様に伸びた銀髪。そしてミステリアスな雰囲気を加速させる眼帯

“う〜、羨ましいなぁ。ラウラって何でこんなに可愛いんだろ……”

改めてシャルロットは彼女の魅力を再認識してしまう

すると、そこへ新しい人物がやって来た

「お疲れ様で〜す………あれ?シャルロットにラウラじゃないか」

「「しゅ、シュライバー!?」」

やって来たのは銀髪のショートカットにラウラとは反対側の右目に眼帯をした少女

聖槍十三騎士団黒円卓第十二位、白騎士の大隊長であるアンナ・シュライバーだった

予想外の人物の登場に驚く二人

「ごめんね、アンナちゃん。休みなのに呼び出しちゃって」

「別に構わないですよ。ボクも暇でしたし」

店長とシュライバーがにこやかに話しているので、シャルロットは尋ねた

「えっと、シュライバー。どうして君がここにいるの?」

「ん?ああ……ボク、ここで夏休みの間バイトしてるんだ。まぁ昨日で終わりだったけど」

黒円卓、ドイツの代表候補生がメイド喫茶でバイトしているとは、シュールな光景である

「あ、ザミエルには秘密にしといてね?色々と五月蠅いから」

そう言ってシュライバーはさっさとメイド服に着替え、フロアの方へと向かった

「あれ?シュライバーのキャラ的に男装の方が似合ってる気が……」

自分と似たような属性持ちの筈のシュライバーがメイド服を着るので、違和感を覚えるシャルロット

「そうなんだけど……あの子、面白いのよ?」

店長が意味有り気にニヤリと笑った

「それってどういう「いらっしゃいませ〜ですの!!」___ッ!!?」

向こうの方から、甘ったるい声が聞こえてきた

「え?……今の………ええッ!!?」

余りのギャップにシャルロットは混乱する

隣にいるラウラも呆然としている

「ご注文は何になさるんですの?」

「さっさと注文しやがれ〜ですの」

「気持ち悪いですの。一度死んでこいですの」

完全にキャラが崩壊(?)しているシュライバーの姿に二人は呆ける事しか出来なかった

「ほら、君達も行ってきなさい」

「あの、一ついいですか?」

「ん?」

「このお店、何ていう名前なんですか?」

店長は笑みを浮かべスカートをつまんで上げ、大人びた容姿に似合わない可愛らしいお辞儀をした

「お客様、@クルーズへようこそ」




「坂上氏、ここが人気の@クルーズで御座るよ」

「ああ……うん。こ、個性的な制服だね……」



「デュノア君、四番テーブルに紅茶とコーヒーお願い」

「わかりました」

カウンターから飲み物を受け取って、@マークの刻まれたトレーへと乗せる

そんな単純な動作にさえシャルロットの気品がにじみ出ていて、臨時の同僚に当たるスタッフ達は、ほうっと溜息を洩らした

初めてのアルバイトだというのに、その立ち振る舞いには物怖じした様子は無く堂々としていて、けれど嫌味では無い

そんなシャルロットの姿に、女性客の殆どが見入っていた

「お待たせいたしました。紅茶のお客様は?」

「は、はい」

自身の方が年上であるにもかかわらず、女性は緊張した面持ちでシャルロットに答える

紅茶とコーヒーをそれぞれの女性に差し出す前に、シャルロットはお店の『とあるサービス』の要不要を尋ねた

「お砂糖とミルクはお入れになりますか?よろしければ此方で入れさせて頂きます」

「お、お願いします。え、ええと、砂糖とミルク、たっぷりで」

「わ、私もそれでっ」

実は二人ともノンシュガー・ノーミルクなのだが、今日に限ってはあえて目の前の美形執事に奉仕してもらいたい一心で、わざとそう答えたのだった

そんな二人の内心を知ってか知らずか、シャルロットは柔らかな笑みを浮かべて頷く

「かしこまりました。それでは、失礼いたします」

シャルロットの白く美しい指がスプーンをそっと握り、砂糖とミルクを加えたカップの中を静かにかき混ぜる

時折、僅かに響くかちゃかちゃという音でさえ、女性客は息を呑んで聞き入った

「どうぞ」

「あ、ありがとう………」

すっとシャルロットの手元から差し出されたカップを受け取り、女性客はどぎまぎとした様子でそれを口に付ける

次に同じようにコーヒーを混ぜて貰った女性客も、緊張からぎくしゃくとした動きで僅かに一口だけ飲んだ

「それでは、また何かありましたら何なりとお呼び出し下さい。お嬢様」

そう言って綺麗なお辞儀をするシャルロットはまさしく『貴公子』としか言いようの無い雰囲気を放っていて、女性客はぽかんとしたまま頷くのが精一杯だった

“ふう。接客業ってやってみると結構大変だよね。ラウラは大丈夫かな?”

仕事をこなしつつシャルロットはラウラの姿を探す

そして丁度、男性客二人のテーブルで注文を取っている所を見つけた

「銀髪眼帯メイド、キタコレ!!」

「えっと……摩多羅君?」

ダンッ!!と垂直に置かれた。というより半ば叩き付けられたコップが大きな音と一緒に滴を散らかす

それに“ヒッ!?”と怯える気弱そうな少年

怯える少年と興奮している黒い長髪の少年にラウラはぞっとする程、冷たい声で告げた

「水だ。飲め」

「は、はいィィ!」

「オフゥwwww拙者、ドキドキが止まらないで御座るwwwwドゥフフwwwww」

オーダーを取る事無く、怯える赤髪の少年と興奮する黒髪のイケメン(しかし中身は残念)のテーブルから離れて行くラウラ

そしてカウンターに着くなり何かを告げ、少ししてだされたドリンクを持って行った

「飲め」

さっきより多少優しめにカップをテーブルに置くラウラ

それでも弾んだカップからは中のコーヒーが遠慮なく零れた

「え、えっと、コーヒーを頼んだ覚えは無いんですけど……」

「何だ。客で無いのならば出て行け」

「そ、そうじゃなくて……他のメニューとか選びたいんですけど……」

おずおずと怯えながら赤い髪の少年がラウラに言う

「た、例えば、コーヒーにしても色んな種類が___」

言葉を遮る様に、ラウラは全く笑っていない目のまま、その顔に嘲笑を浮かべた

「はっ、貴様ら凡夫に違いが分かるとでも?」

「ヒィィィッ!ごごご、御免なさいぃぃ!!」

「オホォォォォォッ!!その蔑みの視線が溜まらないで御座るの巻!!これはもう愚息が『計都天墜(キリッ)』!!」

ラウラの絶対零度の視線と許しの無い嘲笑に赤い髪の少年は怯え、もう一人は興奮し切っていた

「飲んだら、出て行け。邪魔だ」

「は、はいぃぃ……」

ドイツの冷水と呼ばれたラウラの一面は今でも健在の様だった

しかし、そんな人を寄せ付けない態度でも外見が美少女なら魅力となるらしい

店内の男性客は、その殆どが同じ様な態度で接して欲しいと言わんばかりに熱のこもった視線を送り続けていた

「あ、あのっ、追加の注文良いですか!?できればさっきの金髪の執事さんで!!」

「コーヒー下さい!銀髪のメイドさんで!」

「こっちにも美少年執事さんを一つ!!」

「美少女メイドさんをぜひ!!」

「罵って下さい!!」

そんな騒動は一気に店内全体へと感染していき、爆発的に喧騒を大きくして行く、男も女も変態の馬鹿ばかりである


どう反応していいか困るシャルロットにラウラだったが、店長が間に入って上手く二人を滞りなくテーブルに向かうように声をかけての調整していった

更に二人では足りない所を補う様にシュライバーが高速で動き回る

そんな混雑な二時間ほど続いて、シャルロットとラウラにも精神的な疲れが見え始めた頃、その事件は起こった

「全員、動くんじゃねえ!!」

ドアを破らんばかりの勢いで雪崩れ込んできた男が三人、怒号を発する

一瞬、何が起こったのか理解できなかった店内の全員だったが、次の瞬間発せられた銃声で裂くような悲鳴が上がった

「きゃあああっ!?」

「さわぐんじゃねえ!静かにしろ!」

「うはwwwwwwイベント発生ww」

「少しは空気を読もうよ、摩多羅君!」

何か変なモノが混じっているが気にしないでおこう

男たちの恰好はジャンパーにジーパン、そして顔には覆面、手には銃、背中のバックからは何枚かの紙幣が飛び出していた

見るからに強盗である

「あー、犯人一味に告ぐ。君達は既に包囲されている。大人しく投降しなさい。繰り返す__」

流石は駅前の一等地である。警察機関の動きはこの上なく迅速で、窓から見える店外ではパトカーによる道路封鎖とライオットシールドを構えた対銃撃装備の警官たちが包囲網を作っていた

「お約束のテンプレwwww」

「いい加減黙ろうよ……」

持っているノートパソコンを開きながら、黒髪のイケメンは我が道を突き進んでいた

「ど、どうしましょう兄貴!このままじゃ、俺達全員__」

「う、うろたえるんじゃねぇッ!焦る事はねぇ。こっちには人質が居るんだ。強引な真似はできねぇさ」

リーダー格とおぼしき三人の中で一際体格のいい男がそう告げると、逃げ腰だった二人も自信を取り戻す

「へ、へへ、そうですよね。俺達には高い金払って手に入れたコイツがあるし」

ジャキッ!と硬い金属音を響かせポンプアクションを行う

そして次の瞬間、威嚇射撃を天井に向けて撃った

「きゃああああ!!」

蛍光灯が破裂し、パニックになった女性客が耳をつんざくような悲鳴を上げる

それを今度はリーダー格の男がハンドガンを撃って黙らせた

「大人しくしてな!俺たちのいう事を聞けば殺しはしねぇよ。わかったか?」

女性は顔面蒼白になって何度も頷くと、声が漏れない様にきつく口をつぐむ

「おい、聞こえるか警官共!人質を安全に解放したかったら車を用意しろ!もちろん追跡車や発信機なんかつけるんじゃねぇぞ!」

威勢よくそう言って、駄賃だとばかりに警察隊にむかって発砲した

幸い、弾丸はパトカーのフロントガラスを割っただけだったが、周囲の野次馬がパニックを起こすには十分だった

「へへ、やつら大騒ぎしてますよ」

「平和な国ほど犯罪はしやすいって話、本当っすね!」

「平和ボケwww日本wwww」

「全くだ」

「蚊帳の外、ワロタwwwwww」

暴力的な笑みを浮かべる男達,何かが混じっているけど気にしない

それを物陰からシャルロットは観察していた

“一人はショットガン、一人はサブマシンガン、そしてリーダーがハンドガン。他にも何か武器を持ってる可能性があるけど、とりあえずは__”

目立たない様にしゃがみつつ、シャルロットは冷静に状況分析をしてゆく

もう一度、店内の状況を確認しようと視線を動かして、そこでギョッとした

「……………」

店内で強盗以外にただ一人立っていたのはラウラだった

しかも、銀髪に眼帯、目が覚めるような美少女とくれば誰の目で有ろうとも止まってしまう

「なんだ、お前。大人しくしてろっていうのが聞こえなかったのか?」

案の定、すぐにリーダーがやって来る。その手に握ったままの銃を、ラウラは一瞬だけ見て視線から外した

「おい、聞こえないのか!?それとも日本語が通じないのか!?」

「まあまあ兄貴、いいじゃないっスか!時間はたっぷりあるんスから、この子に楽しませて貰いましょうよ!」

「あぁ?何言ってるんだ、お前」

「だって、ホラ!すっげー可愛いっスよ!」

下卑た笑みを浮かべ、下っ端はラウラに手を伸ばした

「凌辱イベントキタ――――ッ!!」

興奮している馬鹿が一人

「汚い手で触れるな!」

「いででっ!!?」

「ぬふぅ!逆転イベント発生wwwww」

ラウラは下っ端の手を捻じり上げた

「このガキ!!」

リーダーの男がハンドガンをラウラに向けるが

「店員へのお触りは禁止ですの〜」

「ガッ!!?」

「フォォォッ!!サービスショットでござる!!」

リーダーの後頭部へとシュライバーの跳び蹴りが炸裂した

「あ、アニキ!!」

もう一人の下っ端が慌てるが

「残念だったね」

執事服のシャルロットが華麗に回し蹴りを顔面に叩き込まれ、ノックアウトしたのだった

「制圧完了」

シーンと静まり返る店内

「お、終わった……!?」

「た、助かったの、私達?」

「い、一体何が……」

「フォオオオオッ!!戦うメイドさんと男装系美少女執事!!余りのカッコ良さに僕チンの愚息は止まらないで御座るよ!!ウホォォォォォォッ!TON☆JI☆CHI!!夜摩閻羅天(キリッ)」

「こんな時位、空気読もうよ!?」

何やら大興奮してフィーバーしているイケメンに突っ込みを入れる赤い髪の少年

変態とツッコミ役を除いた人々は、何度も瞬きを繰り返してラウラとシャルロットの姿を呆然と眺めている

店長も『銀髪の美少女メイド二人と金髪の美少年(女)執事が銀行強盗を撃退しました』って本社に報告したら信じるかしら……と的外れな事を考えていた

「お、俺達助かったんだ!」

「やった!あ、ありがとう!メイドさんに執事さん、ありがとう!」

助かった実感が今になってはっきり自覚できたのか突然店内は騒がしくなる

その様子を見て、状況に決定的な変化があったのか警官隊も詰めかけてくる

「ふむ、日本の警察は優秀だな」

「ラウラ、不味いってば!僕達って代表候補生で専用機持ちなんだから、公になるのは避けないと!」

「それもそうだな。この辺りで失敬するとしよう」

案の定、警官隊の後ろにはマスコミ関係者が大勢見えた

しかし事態は再び一変する



「捕まってムショ暮らしになる位なら、いっそ全部吹き飛ばしてやらぁッ!!」

完全に意識を失っていたと思っていたリーダーは、決まりが浅かったのか立ち上がるなり、革ジャンを左右に広げる

そこにあったのは軽く四方四十メートルは吹き飛ばせそうな、プラスチック爆弾の腹巻だった
起爆装置は勿論手の中にある

「わー……」

「最後まで古〜……」

「おおッ!古い展開でござるよ!坂上氏!!」

「ああ……うん……そうだね」

ツッコミを諦めた坂上覇吐は疲れた様な表情で強盗を見ていた

その顔に死の恐怖は浮かんでいない

何故なら

「諦めが悪いな」

ラウラがそう言うと共に、彼女とシャルロットが持つ拳銃が火を噴き

「「チェック・メイト」」

弾丸が的確に起爆装置と爆薬の信管、そして導線だけを撃ち抜いた

「流石だね」

パチパチと手を叩いてシュライバーはシャルロットとラウラを褒めた

「まだやる?」

「次はその腕を吹き飛ばす」

二人に銃を突き付けられ、さっきまでの威厳も高圧も無く男は震える声で謝った

「す、すみっ、すみませんっ!も、もうしまっ、しません。い、命ばかりはお助けをっ……」
そんな敗北宣言を最後まで聞く事無く三人は颯爽と立ち去ったのだった



「これで今週のアクセスランキング一位はいただきで御座るな!!」

「撮ってたの!?」





「こ、これは、何だ……?」

「ん〜♪かわいーっ。ラウラ、すっごく似合うよ!」

「だ、抱き着くな。う、動きにくいだろう……」

「ふっふー、ダ〜メ。猫って言うのは膝の上で大人しくしてないと」

「お、お前も猫だろうが……」

そんな楽しげな声が聞こえてくるのは、ラウラとシャルロットの寮部屋である

夕飯を済ませ、やる事が無くて暇な二人は、シャルロットの提案で今日買ったばかりのパジャマを着てみよう!という事になったのだった

「これは……本当にパジャマなのか?」

「うん。そうだよ。寝やすいでしょ?」

「ね、寝てないから分かるはず無いだろう」

ラウラが疑うのも無理はない

それは確かにパジャマだが、はっきり言えばのほほんさんが着ている様な、猫の着ぐるみパジャマなのだ

「や、やはり、寝るときは裸でいい。その方が楽だ」

「ダメだってば〜。それにこんなにも似合っているのに脱ぐなんて勿体ないよ」

黒猫パジャマを着ているラウラを、白猫パジャマを着たシャルロットが後ろから抱きしめる形で膝の上に座らせていた。相当、気に入っているらしい

「ほら、ラウラ。折角だから、にゃ〜んって言ってみて」

「こ、断るっ!な、何故そんな事をしなくてはならない!?」

「えー、だって可愛いよ〜。可愛いのは何より優先される事だよ〜」

ダダ甘状態のシャルロットにラウラは困っていた

「ほらほら、言ってみようよ〜。にゃ〜ん♪」

「にゃ、にゃ〜ん……」

照れくさそうに猫の手振りまで付ける眼帯黒猫ラウラに、シャルロットは

“日本では、こういうのを萌えって言うんだよね?”

と幸せそうにしていた

「ラウラ、可愛い〜っ。写真撮ろう!ね、ねっ!?」

「き、記録を残すだと!?断固拒否する!」

「そんな事言わずにさ〜」

すると部屋のドアがノックされた

「はーい、どうぞ〜」

女子寮特有のフランクさで答えたシャルロットは、ラウラを愛でて幸せ一杯だった笑顔が、次の瞬間“ボッ”と真っ赤になった

「入るぞ。………白猫と黒猫か」

なんと、来客は一夏だった

“ええええええっ!?い、今までいきなり部屋に来ることなんて一度も無かったのに、何で急に!?っていうか、どうして今日!?___うああっ、猫パジャマ着てるのにっ。ち、違うよ?こ、これはね、今日ショッピングで見つけて可愛かったから買ったんでね、そのね、もっと大人っぽいのも着てるんだよ?ち、違うんだよ!?”

頭の中がぐるぐると急速回転を始める。シャルロットはそれでも説明できているつもりだったが、実際に口から出ていたのは「あ、え、う……」とうしどろもどろの音だった

「今日、電話をしてくれたみたいだが、出れなくて済まん。IS関係で缶詰だった」

「そ、そうか。うむ。嫁としては殊勝な心がけだな、褒めてやろう」

シャルロットがパニックになっている間、その腕から抜け出したラウラは、腕組み仁王立ちでそう言うが、ネコミミ肉球の黒猫パジャマでは可愛らしさが一割増しであった

「ま、マナーモードにしたまま、カバンに入れっぱなしだったみたい。あ、あはは」

やっと僅かに理性を取り戻したシャルロットが携帯電話を取り出しながらそう言う

だが、その姿もネコミミ肉球の白猫パジャマである

とにかく可愛らしさが強調されている

「可愛いな」

じゃれ合っていた二人を見た一夏は、どこか楽しげな声でそう告げた

「「か、可愛い……」」

ラウラとシャルロット、二人の声がピッタリと重なった呟きであった

「それと……土産だ」

一夏が出したのは@マークが大きく書かれたクッキーの包みだった

「「!?」」

二人共働いていた時の恰好を思い出してダラダラと汗を流し始める

“も、も、もしかして、一夏見てた!?また僕が女の子っぽく無い所を!?”

“ま、ま、まさか、見られたのか!?あのような、フリフリヒラヒラの姿を!”

一夏の言葉はもう上の空で、二人共今日のアルバイトの事を思い出して顔を埋めて隠れたい気持ちになる

「@クルーズでな。女店長がお前達二人にお礼を届けてくれと頼まれた」

そう言って差し出された包みには、封筒とクッキーが入っていた

封筒にはバイト代が入っており、結構な額だった

「こんなに……」

「売上倍増と強盗逮捕の謝礼らしいな」

それと………と一夏は付け加える

「本格的なバイトでなくて良かったな」

「それはどういう事だ?」

怪訝そうにラウラが聞くと

「今頃、シュライバーはザミエルに説教されている」

「「うわぁ……」」

シュライバーに同情する二人

「お前達は臨時のバイトであった事で御咎めは無しだ。強盗逮捕に対しては後日シュライバーがキルヒアイゼンと共に事情聴取だ」

「何というか、その……シュライバー一人に面倒事押し付けちゃったみたいだね」

「ああ……アイツには悪いことしたな」

「気にするな。アイツは奔放だ」

一夏は端末を取り出すと、とある動画サイトを開いた

そしてアクセス数が大変な勢いで伸びている動画を再生する

動画名は『戦うメイドさんと男装系美少女執事』

「こ、これって………

「ま、まさか………」

その名に冷や汗をダラダラ流し始める二人

一応、顔は隠されているが、シャルロットとラウラとシュライバーの映像だった

真っ白に燃え尽きる二人に一夏は

「………三人とも似合っているな」

「あ、あははは………はは……」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

その言葉にシャルロットは乾いた笑みを浮かべ、ラウラは余りの恥ずかしさに悶えていた

「お、おのれ!誰がこの動画を投稿した!?」

ラウラが投稿者名を見ると



『TON☆JI☆CHI』とあった



「「アイツか!!」」

二人揃って思い出すキモオタイケメン

「………あの男か」

一夏も中学時代の同級生を思い出していた

「まぁ、良い。どの様な格好であれ、お前達が可愛らしい事に変わりは無い」

「「…………」」

一夏の言葉に二人とも真っ赤になる

「あ、あのさ、一夏。この服も可愛い?」

「ああ、二人共似合っていて可愛らしい」

「そっかぁ。えへへ、似合ってる、かぁ。うふふ」

「お、お前がそう言うなら……わ、悪くは無いな。時々は着る事にしよう」

二人が照れくさそうに喜んでいると、すぐに一夏はホットミルクとクッキーを持って来た

夏の夜、三人はお茶会を過ごす

黒猫が一匹、白猫が一匹、黒騎士が一人の不思議なお茶会だった


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