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IS インフィニットストラトス〜黒騎士は織斑一夏〜 第二十三話 後編
作者:AST   2012/08/05(日) 00:32公開   ID:GaMBFwOFFuY
 「ん〜っ!!今日はいい天気!これぞ、まさしく___」

 “デート日和ってやつね!!”と力の限りガッツポーズを決める鈴

場所はまだ自室ではあるが、服装は既に準備万全の一張羅

この日の為にわざわざ新しく買った服である




               第二十三話 後編




“ふ、ふ、ふ。あの箒もシャルロットも出し抜いてやったわ!あたしの完全勝利!”

同居組に勝ったと言う事は鈴には、かなり大きな事であった

そもそも転校してきた時に一夏が女子と同居していると聞いた時、気が気では無かった

あの性格上、間違いなど起こりそうに無いが、万が一、億が一、いや無量大数が一と言う事も有るかも知れない

そう思うと眠れない時があった

だが、それも過去の話

“ふふん、同じ水着でもこの前の臨海学校の時とは意味が違うのよ、意味が。これはれっきとしたデート!男女の付き合いなんだから!”

男女、と言う所を強調して考えていると、いきなり鈴の顔がピンク色に染まる

“う、うん、今日はとっておきの可愛い下着を選んだし、もちろん替えの下着も用意したし、うん……”

夏は何が起こるか分からないから油断するな、と昔の歌も言っていた。ナニが起こるか

“た、例えば、帰り道とかでさぁ……”

『今日は楽しかったわね』

『そうだな、お前と一緒だったからな』

『そうそう。やっとあんたもアタシのありがたみに気づいたって訳ね。うんうん』

『鈴』

『え?な、なによ?急に手なんて握ったりして……』

『分かったんだよ……お前と離れて、それから再会して……どれだけ大事な存在だったかをな』

『い、一夏………?』

『鈴、好きだ』

『え、あっ_____だ、ダメ、こんな所で……』

『断る、誰よりもお前が好きなんだ』

『ば、ばか……そんな強引に……んっ』

“そして、そのまま………”

『これが俺のデウス・エクス・マキナだ』

『や、優しくして……』

『ああ……いくぞ』



“____なんちゃって、なんちゃって!!”

「ねえ、ティナ!ねえ!」

「……はいはい、そーね」

カップアイスを食べながら、ティナは鈴の方を見ずに答える

うへ、ぐふ、げへへへ……と浮かれて、耽美な妄想に耽っている鈴

マトモな相手をする事は馬鹿らしい

「じゃあアタシ出かけて来るから!」

「いってらっしゃーい」

「よ、夜遅くなるかもしんないから!」

「ふーん」

「じゃあね!」

「じゃーね!」

鈴はガッツポーズをして意気揚々と歩き出した




そして、待ち合わせ場所には




「残念でしたわね、鈴さん」




「な、何であんたがここに居んのよ!?」

一夏では無く、セシリアが居た

「私だって、貴方とデートなどしたくは有りませんわよ」

はぁ……と後悔した様な表情で答えるセシリア

これは一体どういう事か!?とセシリアに聞くと

今日、白式の開発室から研究員が来て、データ取りの為をするらしい

先日、第二形態になったので尚更、データが必要になってくるのだ

その事を一夏は鈴と約束した後、真耶から伝えられたらしい

“………あの乳デカ女、覚悟しておきなさい”

真耶は、とばっちりを受ける事になりました




「______ッ!!?」

「山田先生、どうしました?」

「いえ、何か悪寒が……」




「一夏さんの頼みですので断る訳にはいきませんでしたわ」

ふぅ……と溜息をつくセシリア

「ああ……そう」

それに答える鈴の声には覇気が無かった

折角、意気揚々と準備したのにドタキャンに近い事されたのだから、仕方ない

「あらぁ、そこにいらっしゃるのは鈴さんじゃないですの」

そんな鈴に声を掛けた人間がいた

鈴はその声に聞き覚えがあった

振り向くと、黒い長髪を一つに纏めて三つ編みにした女性がいた

「げっ……玖錠紫織」

鈴が女性の名を呼ぶと、共に嫌そうな顔をする

「相変わらず貧相な体付きですこと」

「アンタも相変わらずね……」

見下したような紫織の発言に、呆れたように返す鈴

「ちょっと、鈴さん。この方は誰なんですの?」

「ん?ああ……私と一夏が中学生だった時のクラスメイトよ」

セシリアに説明する鈴

「そういえば何でアンタがこんな所に居んのよ?」

「それは____」

「お〜い、紫織さん」

紫織が何か言おうとした途端、彼女に声が掛った

「宗次郎様!」

声の主は箒と似た髪型をした少女にも見える少年であった

「いやぁ、ごめんごめん。ちょっと電車が遅れてさ……待たせちゃったかな?」

「この玖錠紫織、宗次郎様の為ならどこまでもお待ちできますわ!」

少年の名は壬生宗次郎

「やっぱりアンタか。壬生」

「やあ、久しぶりだね。鈴さん……それと」

「お初にお目にかかります。私、セシリア・オルコットと申します」

「よろしく、セシリアさん。僕の名前は壬生宗次郎っていうんだ」

ニコニコとする少年に何処かのほほんさんを感じる

「私は玖錠紫織ですわ」

鈴は大体の事は予想が付いていた

「アンタがコイツを誘ったんでしょ?」

「そうだよ。竜胆さん達は用事があったから、紫織さんと二人で来ることになったんだ」

すると宗次郎は鈴に聞く

「そういえば一夏君は元気だった?」

「ええ……ホントだったら、此処に来る筈だったんだけどね」

「そっか……残念だなぁ」

とりあえず四人は今月出来たばかりのウォーターワールドに入るのだった




「まぁ、こんな感じかしらね?」

「ふ〜ん、相変わらず一夏君はマイペースなんだね」

「アンタがソレを言うか……」

宗次郎に突っ込みを入れる鈴

「このブランド。私、愛用しておりますの」

「まぁ、そうですの。私も結構気に入ってまして……」

その横ではお嬢様二人がセレブな会話をしていた

「はぁ……どうしようかな?」

「何を?」

「泳ぐ気分でも無いし、帰ろうかなってね」

その言葉に宗次郎が提案した

「じゃあ、僕達と泳ごうよ。久しぶりに再会したんだしさ!」

「う〜〜〜ん」

鈴が難色を示した直後

『では!本日のメインイベント!水上ペアタッグ障害物レースは本日の午後一時より開始いたします!参加希望の方は十二時までにフロントにお届けください』

『優勝賞品はなんと沖縄五泊六日の旅をペアでご招待!』

その情報に鈴とセシリアがピクリと反応した

“これだ!”

“これですわ!”

今日の事をダシにして、景品の沖縄旅行に一夏を誘おうと画策した二人

「セシリア!」

「鈴さん!」

ガシッと腕を交わす二人を見て宗次郎と紫織は

「ははっ、二人共仲が良いなぁ」

「別に沖縄旅行程度で張り切らなくても宜しいのでは無くて?」

違った方向の言葉を述べていた






「さあ!第一回ウォーターワールド水上ペアタッグ障害物レース、開催です!」

わぁぁぁっ……と観客の拍手と歓声が会場に木霊する

「さあ、皆さん!参加者の女性陣に今一度大きな拍手を!」

再度巻き起こる拍手の嵐に、レースの参加者は手を振ったりお辞儀をしたりとそれぞれ応える

鈴とセシリアは二人共、念入りに準備体操をして体をほぐしていた

「それにしても、何でアンタがソレ着ているのよ?」

二人の横では真っ赤で派手な水着を着た紫織と

何故にか女性用の水着を着た宗次郎がいた

「折角だから参加しようと思ってさ。そしたら、これを着るならレースに出ても良いって偉い人から言われたんだ。」

男性は悉く“お前空気読めよ”という視線で出場できなかったが、女顔の宗次郎は大丈夫だったらしい

というか、ここのオーナーの趣味である

「「うわぁ……」

「流石、宗次郎様ですわ!どんな格好をしても美しい事……」

何やらウットリしている紫織は放っておき、鈴とセシリアはオーナーに引いていた




レースは巨大プールの中央にある島に渡り、設置されたフラッグを取ったペアの優勝

その途中に設置された障害は、基本的にペアで無ければ抜けられない様になっている

おまけに妨害有りのルールである

だが、それは軍人ともいえるIS操縦者にとっては有利である

「さあ!いよいよレース開始です!位置について、よーい……」

パァン!と乾いた競技用のピストルの音が響き、二十六名十三組の水着の妖精達が一斉に駆け出した

「セシリア!」

「わかっていますわ!」

スタート開始直後に足払いを掛けてきた横のペアをかわし、一番目の島に着地する

「さあ、いくわよ!」

「ええ!」

向かってきたペアをかわし、ついでに足を引っ掛けて水面に落とす

レースは先行逃げ切り組と、妨害上等の過激組へと分かれていた

「皆、仲良くいこ__ぶぼッ!?」

「宗次郎様!!しっかりなさって!」

宗次郎は、ここでもマイペースだったが妨害組に沈められていた

紫織はブクブクと沈む宗次郎を慌てて救助している

「虚弱なんだから、こういうのに出るのは止めておいた方がいいのに……」

やれやれと鈴は宗次郎に呆れる

セシリアと鈴は最年少に近い組でありながら、大立ち回りで注目を浴びていた

「ああ、もう鬱陶しい!」

「邪魔ですわ!」

向かって来るたび水面に落としている物の、きりが無い。

どうやら先行した真面目組とグルの過激組が居る様だった

「くっ、このままじゃ置いて行かれる!」

第一グループが二番目の島に渡っている事に焦りを感じた鈴は、セシリアに目配せをする
『早速だけど奥の手よ!』

『はぁ……どうなっても知りませんわよ』

『勝つ為よ!』

『そ、そうですわね!勝つ為なら!』

ついでにプライベートチャネルで交信して、しつこい妨害ペアに向き直った

「「うりゃああああああ!!」」

がっつりと組み合った腕でラリアットを仕掛けてくる妨害ペア

鈴とセシリアは素早い動きで一閃する

「何度でも蘇るわよ!私たちは!」

水面へと浮上した二人組だが。その体にはあるべきモノが無い

「ふっ……人は水着無くしては生きてはいけない」

「マリー・アントワネットの言葉通り、水着ないのなら全裸でどうぞ」

「「きゃああああああああッ!!?」」

素早く水着のブラを奪った鈴とセシリアは、それを丸めて反対側の客席へと放り投げる

時に女は何よりも怖い By一夏

鈴とセシリア、二人は同時に小島に飛び移る

ただでさえ小さい島を二人は大道芸もかくやという動きで渡っていく

小島を一つ飛ばしで前転側転織り交ぜた鈴が軽やかに飛んでゆき、揺れを見切ったセシリアが素早くついて行く

先程まで水着ポロリに沸いていた会場だが、今度は二人の活躍に沸いていた

「こ、これは凄い!ふたりは高校生ということですが、何か特別な練習でもしているのでしょうか!?」

次々と障害を越えて、島へと向かう鈴とセシリア

そして最後の第五の島

ここで問題が起きた

「ここで決着をつけるわよ!!」

トップのペアが反転して鈴とセシリアに向いた

「あっはっはっ。一般人がアタシ達、候補生に勝てるとでも__」

「おおっとトップの木崎・岸本ペア!ここで得意の格闘戦に持ち込むようです!」

「____はい?得意の……なんですって?」

「ご存じ二人は先のオリンピックでレスリング金メダル、柔道銀メダルの武闘派ペアです!仲が良いと言うのは聞いてましたが、競技が違えど息はピッタリですね!」

「え……?なに、金メダル?っていうか、体がこの二人だけ違うんだけど!?」

マッチョ・ウーマンという単語がピッタリと合うそのペア、気合十分な怒号と共に鈴とセシリアに向かってきた

“不味い!こっちはさっきから全力疾走で疲れてんのに、ここでこんな筋肉バカとやりあったら……”

すると突然、司会のお姉さんの声が聞こえた

「おおっと!!飛び込みで参戦してきたペアが怒涛の追い上げをしてきた!!本当に彼女等は人間なのでしょうか!?」

“ったく、何よ!?この二人以外にも面倒なのが飛んでくるわけ!?”

鈴が追い上げてきたペアの方を向く

同じ様にセシリアや相手の二人組もその方向を向いた




そして凍り付いた




「さぁ!もっと気合を見せろ馬鹿娘!!」

「待って下さいよ大佐!!」

怒涛の勢いで迫ってくるのは、競泳用水着を着た真っ赤な髪の第二回モンド・グロッソ優勝者にしてドイツ代表IS操縦者と、空色の水着を着た金髪碧眼の副官だった

“な、なんでこんな所でアレがいるのよぉぉぉぉッ!!!?”

鈴の表情が完全に引き攣る

セシリアも同じ様に顔を引きつらせて凍りついていた

「第二回モンド・グロッソ優勝者のヴィッテンブルグ様と副官のキルヒアイゼン様のペア!素晴らしいゲストが飛び込みで参加してくれました!!」

うおおおおおおおおおおおっ!!!と会場がかつてない程に沸き上がった

どうして二人がここに居るのかと言うと、一時帰国して報告を済ませた後に再び日本へと戻ってきたのだが

やる事無くて訓練しとうとするエレオノーレにベアトリスが福引で手に入れたチケットで“たまには息抜きもどうでしょうか?”と誘ったのだ

そして来て見れば何やら面白いイベントをしているではないか

景品はペア旅行 = デート旅行 = エレオノーレがハイドリヒ卿を誘えば寝取りチャンス

という方程式を即座に出したベアトリスがエレオノーレを唆して飛び込みで参加したのだ

もしラインハルトかエレオノーレが断れば、ベアトリスが戒と一緒にデート旅行に行けば良いのだ

どう転んでもベアトリスにとって美味しい状況になるのだ

「もうすぐだぞ!!」

「はいはい……と言う訳で私達が景品を貰い受けます!」

すぐそこまで迫っている黒円卓ペアに鈴は最終手段をとる事にした

「こうなったら……セシリア!」

「な、なんですの!?」

「あたしに策がある!突っ込んで!」

「は!?私が、前衛!?」

「そうよ!、迷ってる暇は無いから!」

「ああ!もう!」

迫り来る二人に向かって単機特攻するセシリア

“信じましたわよ、鈴さん!”

「セシリア、そこで反転!!」

「え?」

大声で呼ばれて、振り向くセシリア

そして見たのは眼前に迫る鈴の足___の裏

「は………?______ぶべッ!!」

思いっきり、顔面を踏まれたセシリア

「よしっ!」

セシリアを踏み台にした鈴は、その身軽さで一気にゴールへ跳躍しフラッグを手に取る

「勝ったぁ!!」

その後ろでは、踏まれてバランスを崩したセシリアが全員を巻き込んで数メートル下の水面へと墜ちて行った

どばーんと高く伸びた水柱を、鈴は眩しそうに見つめる

「ありがとう、セシリア。アンタのお蔭よ」

キラリと青空にセシリアの笑顔が浮かぶ……完全に故人の扱いだった

「ふ、ふ、ふ………」

地の底から響く様な絶対零度の笑い声

そして先程よりも倍の水柱が立つ

「今日という今日は許しませんわ!わ、私の顔を!足で!__鈴さん!」

ブルー・ティアーズを展開した水着姿のセシリアが、憤怒の表情で鈴へと向かう

「はっ、やろうっての?___甲龍!」

対する鈴もすぐさま甲龍を展開し、即応態勢へと移る

「な、なっ、なぁっ!?ふ、二人はまさか___IS学園の生徒なのでしょうか!この大会でまさか二機のISを見られるとは思いませんでした!え、でも、あれ?ルール的にどうなんでしょう?」

困惑と興奮の入り混じった声で捲し立てる司会のお姉さん

「あははっ、二人共やっぱり仲が良いな」

「お二人共、野蛮です事……さ、宗次郎様、こちらへ」

相変わらずの宗次郎と紫織

「ぜらぁぁっ!」

「はああっ!」

互いのブレードがぶつかり合い火花を散らす

「ティアーズ!」

「甘いっての!」

すぐさまビットを射出するセシリアに対して、鈴はスラスターを巧みに扱って距離を離しては寄せ、近づいては下がるを繰り返す

「くっ!対狙撃制動とは……相変わらずやりますわね」

標的を絞り切れず、セシリアはゆらゆらと銃口を泳がせる

そして、その隙を逃す鈴では無かった

「衝撃砲はあんたのとは違って早いのよ!ほらほらぁ!」

逆さまの体勢から三連射、その後一気に距離を詰めての袈裟切り
しかし、それはセシリアも承知の上であえてライフルで刃を受け止めた

「動きが止まればこちらの領域ですわ!」

「ビットを更に射出し鈴の背後を狙う」

「この距離なら衝撃砲の方が早い」

二人は手を伸ばせば届くほどの至近距離で互いの武装をフル展開する

だが、忘れていないだろうかISを持っているのが彼女ら二人で無いと言う事を

「貴様等ァァァァァッ!!!!!!」

次の瞬間、爆発でウォーターワールドが揺れたのだった











「貴様等、代表候補生という立場を理解しているのか?」

「「すみませんでした……」」

事務室で二人はエレオノーレに延々と説教され、しゅんと小さくなっていた

「幸い、怪我人は出なかったものの。もし死人が出ていたら貴様等、代表候補生を降ろされる事になるぞ?」

死人や怪我人は出なかったがプールは半壊、天窓も一部割れるという物損被害が発生した

「「う………」」

完全に小さくなった二人に“はぁ……”と息を吐くエレオノーレ

「まぁ、良い。今回の事はIS学園が何とかしてくれる、だがこれで学んだだろう、貴様等IS操縦者だけで無く、力を持つ人間の責任というモノを」

彼女も丸くなったものである

「あ、あのぅ……」

「何だ?」

「優勝はどうなったのかなと思いまして……」

「あんな事して、景品を貰えるとでも?」

ジロリと睨むエレオノーレ

「「す、すみません…何でもありません……」」

ずーんと暗くなって凹む二人

「大佐、オーナーの方と話は終わりました。二人に関しては学園の方から迎えが来るそうです」

「との事だ。おとなしくしていろ」

「「はぁ……」」

とはいえ時刻は五時を回っていて、辺りはすっかりオレンジ色に染まっている

するとエレオノーレの携帯電話が鳴った

「_____そうか、着いたか」

迎えが着いた様である

「迎えだ。さっさと帰るぞ」

「「はい……」」

エレオノーレに連れられ、二人は俯いて歩いていると声が掛った

「全く、お前達は……」

「「____えっ!?」」

二人は同時に頭を上げる

「迎えに来たぞ」

其処に居たのは、本日ここで一緒に過ごすはずだった、一夏だった

「山田先生が来る筈だったが、急用でデータ取りが終わった俺が代わりに___ッ!?」

一夏の言葉が終わらない内に、鈴とセシリアは一夏の胸倉を掴んでいた

「アンタねぇ……!」

「一夏さんの所為で!せいで……!」

二人から非難の視線を受けて、困る一夏

その様子をエレオノーレとベアトリスは愉快そうに眺めている

「あのマキナが、こうなるとはな……くくっ」

「ええ、見ていて飽きないですね」

一夏は二人に提案する

「すまん……何か奢ろう」

鈴とセシリアは数秒考えた後、ぼそりと呟いた

「……@クルーズ」

「期間限定の一番高いパフェ」

「いいだろう」

価格にして一つ二千五百円のパフェを奢る事になったが、黒円卓七位代行の彼には大した出費では無かった

そうと決まれば女子の切り替えは早い、さっきまでの落ち込みや怒りは何処かへ捨てて、喜色満面の笑みで一夏の腕を取るセシリア

「さて、行きましょうか!」

「あ!セシリア、何腕組んでんのよ。アタシとも組みなさいよ!」

「分かったが……」

「「歩きにくい」」

鈴とセシリアの声が被る

「でしょ?」

「ですわね」

「…………」

二人の妙に合ったコンビネーションに“コイツ等、結構仲が良いんじゃないか?”と思う一夏だった

「まぁ、今回はこの位で我慢してあげるわ」

「ですが、次はありませんわよ……」

「分かった」

「ついでに御二人方もご一緒にどうですか?今なら一夏さんの奢りですわよ?」

「何!?」

セシリアの誘いにエレオノーレとベアトリスは……

「くくっ、たまには良いだろう」

「やったぁ!ごちそうになりますマキナ卿」

実に愉快気に乗るのだった

「此奴等も奢るのか?」

「何か文句でも?」

「………無い」

鈴に睨まれた一夏は逆らう事が出来なかった

「く、くくっ!モテるじゃないか、マキナ」

「そ、そうですね。ぶふっ!」

笑いが抑えきれないといった様子の二人を加えた五人は駅前の@クルーズを目指して歩き出した

そこへ

「やぁ、久しぶり一夏君」

「壬生か、久しいな」

「お〜ほっほっほっ!!相変わらずの仏頂面ですわね、一夏さん」

「お前も変わらんな、玖錠」

宗次郎と紫織が現れた

「丁度良いわ。あんた等もついて来る?今なら@クルーズでコイツが好きなだけ奢ってくれるわよ」

「そうかい?じゃあ御馳走になろうかな」

「私は宗次郎様が行かれるならどこまでもお供しますわぁ」

「…………はぁ、いいだろう」

両腕に鈴とセシリアという美少女を侍らせている一夏だが、その背中は何処か哀れだった

夕暮れの中、七人の影が長く伸びている

それはまだ暑さの衰えない、八月のある日の出来事だった


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