SHRから続けて一時限目の授業が終わると、俺こと十種は足早に教室を抜け屋上に向かった。後ろで誰かが呼んでいたが、とりあえず無視だ。はっきり言って教室にいると息苦しくて居辛い。周りから何言われようと無視してようやく屋上に着く。
「はぁ〜〜〜・・・・・・・・・空気がこれ程美味いって感じるのは俺がおかしいのか、それともこの学園がおかしいのかのどっちだろうなぁ〜」
柵に寄りかかりながら深呼吸して少し落ち着く。
「とりあえず、これからどうするかねぇ〜。“仕事”は第一優先として授業はその次にまわして友達はどうでもいいか。今のままで本当に十分だし・・・・・・これ以上何かを望むなんておこがましいよな」
一人呟くとキーンコーンカーンとチャイムが鳴り、急いで教室に戻った。
一夏side
終わった……やっと終わった。ISの授業ってこんなに難しいのか?何言ってるのか全く分からなかったし、参考書を電話帳と間違えて捨てたと正直に言ったら叩かれるしあと十種だっけ?に声をかけてもサッサと教室から出ていくもんだから今、俺は孤立無援の状態で周りからの視線に必死に耐えていると
「ちょっと、よろしくて?」
「ん?」
話しかけてきたのは金髪の長い髪の少女、見た限りでヨーロッパ系の人だろうか。
「まぁ!?何ですのそのお返事のは!私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるのではないかしら?」
「悪いな、俺、君が誰だか知らないし」
「私を知らない!イギリスで代表候補性にして入試主席の、このセシリア・オルコットを!?」
「お、おう」
知らないのは事実だし、何より周りからの視線に耐えるのに必死で自己紹介なんて半分近く聞いてない。
「なあ、一つ質問していいか?」
「ハン、下々の者の要求に答えるのは貴族の務めですわ。よろしくてよ」
オルコットは優雅な振る舞いで一夏の質問に答えようとする。
「代表候補性って……何?」
その瞬間、周りで聞き耳を立てていた女子は盛大にすっ転び、オルコットは転びそうになるも自前の優雅さで押しとどめていた。
「信じられません。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら?常識ですわよ。常識。テレビがないのかしら……」
「で、代表候補性って?」
「読んで字のごとく、国家代表の候補生ですわ。つまり、エリートですわ!本来なら私のような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
「馬鹿にしていますの?大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですしもう一人の方も同じでしょうね」
キーンコーンカーンコーンと次の授業のチャイムが鳴る。セシリアは「では失礼」と小さく言って自分の席に戻る。
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
この時間は織斑先生が担当するらしく、生徒と同じく山田先生まで真剣な表情になる。
「ああ、そういえば再来週に行われるクラス対抗戦に出す代表者を決めないといけないな」
ふと、思い出したように織斑先生が言う。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点でのクラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心生む。一度決まると一年は変更できないからそのつもりで」
教室が色めき立つ。そこで早くも…
「はいっ。織斑君を推薦します!」
「私もそれがいいと思います!」
教室の彼方此方から一夏を推す声がでる。
「お、俺っ!?」
思わず席を立ってしまう一夏
「織斑、席に着け。邪魔になる。さて他にいなければ無投票当選だぞ?」
「ちょっと待った!俺はそんなのやらな――」
「推薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろ」
「な、なら俺は十種を推薦する!」
一夏はもう一人いる男性操縦者の名前をあげる。一方の十種はというと、
「……(ペラ)………(ペラ)…(ペラ)」
黙々と参考書を読んでいた。
「待ってください!?納得がいきませんわ!」
バンッと机を叩いて立ち上がるはセシリア・オルコットだ。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?」
「実力からいけば私がクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
セシリアの暴言はさらにヒートアップし…
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、それは私ですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、私にとって耐えがたい苦痛で―」
この言葉にカチンときた一夏は
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
「あっ、あなた!私の祖国を侮辱するのですか!?」
「先に侮辱したのはアンタの方だろ!おあいこだろ!」
「なら、決闘ですわ!あなたにイギリス代表候補生のこのセシリア・オルコットの実力を見せて差し上げますわ!」
「おう、いいぜ。四の五のいうより分かりやすい。で、どのくらいハンデをつける?」
「あら、早速お願いかしら?まさか、あなたが私に対してのハンデだなんて言わないですよね」
すると一夏はキョトンとした顔になり
「えっ、何でわかったんだ?」
そうつぶやくと、クラスからドッと笑いが起きる。「織斑君、それ本気?」「いくらなんでも言い過ぎよ」「男が女より強かったのは大昔だよ」等と口々に言う。
「……じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、私がハンデを付けなくていいのか迷うくらいでしたわ。日本の男性はジョークセンスがあるのね。それよりも……」
セシリアは一夏から十種の方に視線を向ける。
「確か…十種、さんでしたかしら?先ほどから一言も喋っておりませんけど、どうかしたのかしら?まさか、私に負けるのが嫌で何も言えないとか?」
「…………」
セシリアの発言に対し、十種は黙ったまま、顔も向けずに静かに参考書を読んでる。これにセシリアは顔を真っ赤にし
「黙ってないで何かおっしゃったらどうなのです!私が話しかけているのですよ!」
「…………」
黙り続ける十種にクラスの方も視線を向ける何人かが声をかけるがそれすら無視している。
「と、十種くーん、聞こえてますかー?」
山田先生が声をかけながら軽く肩を叩く。叩かれた十種は
「……ああ、すまない。全く聞いてなかった」
クラスの全員がズっこけた
放課後、結局クラス代表決定戦に出ることになった十種は山田先生から寮の部屋の鍵を受け取り(実際は二つある鍵のうち「一人部屋はどっちですか?」と聞き、その鍵をとったのだ。ちなみに部屋の番号は1024号室である)部屋を開け、室内を見ると豪華な仕様になっていてとてもじゃないが学生にはあまりにももったいない。
「……金の無駄遣いだな。こっちに回せる金があるならオレ達の方にも回せってんだ」
制服をハンガーに掛け、ソファーに横になり携帯を取り出す。
「(今日は連絡なしか………なにも無ければそれでいいけど)模擬戦闘、面倒だな…」
一言愚痴って携帯をソファーの前の机におき、部屋の照明を消して就寝した。