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白き剣姫の聖杯戦争 序 章 〜魔術師の邂逅〜
作者:たまも   2012/09/11(火) 14:28公開   ID:/OPFohzmWlY
そこは、一面の焼け野原だった。

あらゆるモノが炎上し、あらゆる生命を燃焼させる様はまるで地獄のよう。
救いを求める叫びが辺りに木霊し、救われぬモノの怨嗟が染み渡る。

そんな死の世界を、二つの人影が歩いていた。
少年と少女。
あらゆる音を無視して、伸ばされる手を視界の外に追い出し、彼等は歩く。

年端も行かぬ彼等にもまた、死が迫っていた。
少年の身体はもう死んでいるといっても過言ではなかった。
最早感覚などなく、流動する風景が無ければ、歩いているかも分からない。黒いナニカに侵された身体を動かしているのは、生への執着と少女というたった一つの存在だった。
少年と少女は双子の兄妹だった。兄が妹を助けるのは当たり前。それが少年の心情で、共に居た少女を助けるのは当然の行為であり、この世界へ自身の存在を繋ぎとめる鍵でもあった。
独りであれば、当に少年は死んでいただろう。

その少年を生かしている要因である少女は、歩いてはいるものの中身は空っぽに等しかった。
少女は兄が大好きで、少し前に喧嘩していたけれど、本心では早く仲直りしたいと願っていた。炎の中で手を差し伸べられたときは本当に嬉かった。けれど、今の彼女にそんな感情は存在していない。手を引かれているから、それに合わせて身体を動かしているだけだった。
少女の魂は、黒いナニカに粗方喰い尽くされていた。残っているのはその残滓。少女は、抜け殻だった。
それでも繋がれた手を離さないのは、少女の想い故か。

そんな彼等にも、いよいよ終わりの時が訪れようとしていた。

唐突に少女の身体から力が抜け、手を繋いだままその場に崩れ落ちる。少年も少女を支える力など残っておらず、少女の隣に仰向けに倒れた。

見上げた空は、厚い雲に覆われていた。

少年は、隣の少女に顔を向ける。
少女の視線は、まっすぐ虚空に向けれていた。少女は、曇天を見上げるだけで微動だにしなかった。
そこに、生の息吹は、欠片も存在しなかった。

少年は悟った。掛け替えのない、黒いナニカに喰われもう名前も思い出せなくなった少女が、遠い、手の届かない場所に、旅立ったことを。
不思議と、涙は出なかった。ただ、これで独りになったと、そう思うだけだった。
少年は、視線を再び曇天へと向けた。

灰色の空から、冷たい雫が落ちてきた。

次第に、それは一粒二粒と増えていき、やがて雨となった。

少年はそれを、無感動に受け入れていた。
身体を濡らす雨粒も、刻々と近づいてくる死の足音も。

どれくらいそうしていたか。
意識が遠退き、魂が身体から抜けようかというその刹那、一つの影が少年の身体と重なった。

それは、ボロボロのコートを羽織った男だった。

男は跪き、こう言った。

「良かった。まだ、生きていてくれた・・・・・・」

その男の顔は、歪んでいた。何を思っているのか、少年には分からなかった。

けれど、その顔は何よりも眩しくて、何よりも尊く感じて、強く強く少年の胸に焼きついた。

そして少年は、男が見守る中で、その生を終えた。







少年が息を引き取ったことは、男、衛宮切嗣もすぐに気付いた。

「そ、んな。どうして・・・・・・やっと、やっと見つけたっていうのに。僕には、誰も、救えないのか・・・・・・」

切嗣は悔しそうに、拳を地面に叩きつけた。きつく閉じられた双眸からは大粒の涙が零れ、嗚咽が空に溶ける。
自らが招いたともいえるこの地獄の中、切嗣は縋る思いで生存者を探し続けた。
絶望的だということは分かっていた。けれど、それでも探さずにはいられなかった。
滑稽だとは思う。しかし、可能性が少しでもあるのなら、諦めたくなかった。
そして、ようやく、やっと、見つけた。少年と少女、少女は既に事切れていたようだが、少年にはまだ息があった。
救われた。
この時、最も救われたのは、他ならぬ切嗣の心であろう。
だが、無常にも少年は切嗣の見ている中で死んでしまった。天から地へ叩き落されたような心地だった。
どうすることも、切嗣には出来なかった。
アーサー王の鞘を使おうにも、遅すぎたのだ。少年の身体は、生きていることが不思議なほど、無残な状態であったのだから。




切嗣の慟哭が世界に響く中、ゆらりともう一つ新たな人影が現れた。
それは、切嗣と死闘を演じた神父ではなく、黄金のサーヴァントでも、生存者でもなかった。
人影、黒い外套をの男は、無言で切嗣に歩み寄った。




その男との邂逅は、切嗣に光をもたらした。




それが、とある英雄の始まり。物語の、その序章。















「本当に、救えるのか?」

「可能性はあるだろう。無論、何らかの弊害は覚悟するべきだが」

「・・・それでも、構わない。力を、貸してくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ、よかろう。今更私が人を救うなどおかしな話だが、この地獄から生まれ出でたモノが真に救われるのか、見てみようではないか。手を貸そう、魔術師殺し」















かくして、物語は正史を大きく外れ、運命の歯車に狂いが生じる。

世界にすら修正不可能なその歪みは、一人の少年の運命を大きく捻じ曲げることとなる。














黒い外套の男は、切嗣に名を聞かれ、厳かに告げた。

「魔術師、荒耶宗蓮」














嘘予告

「な、な、な、なんでさ〜!!」

それほど広くない病室の中、声が響いた。あまり声に張りが無く、大きな声でもなかったが、不思議と病院中の人間がその声を耳にした。

声の主が横たわるベッドの脇には、ボロボロのコートを羽織った男と、妙齢の看護師の姿があった。
コートの男、切嗣はにこにこと笑っていた。声の主は、切嗣が見つけた少年?だった。
少年?は、看護師から手渡された手鏡を見て固まっていた。

「ど、ど、ど、どうして・・・・・・」

声の主の瞳に涙が浮かぶ。身体はワナワナと震え、次に大きく息を吸い込む。

「どうして、僕が女の子になってんのさ〜〜〜!!??」

手鏡の中には、顔に覇気はなく髪もボサボサになっているが、長い真っ白な髪とパッチリとした紅い瞳をもつ幼いながらも整った顔立ちの、まるで人形のように可愛らしい美少女がそこにいた。

後に、衛宮志保、あるいは荒耶志保と名乗る少女の物語は、これから大きく動く。物語は、まだ始まったばかり。

おしまい

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■作者からのメッセージ
以前某サイトで早乙女恭也の名前で投稿していたモノです。なんやかんやありましてこちらに移転させていただくことにしました。どうか宜しくお願いします。
更新ペースとかはまちまちなんでご容赦を。

では、また次回。
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