『
兵藤一誠』と言う名の少年が居る。
『
駒王学園』と言う名の高校に通う二年生で女性が大好きであり、親しい者からは『イッセー』と呼ばれている。そんな彼だが普通の人間とは違う部分が存在していた。
その身の内には神が作り上げた『
神器』と言う代物を宿している。しかも、彼の内に宿っている『
神器』は十三種しかない最高位『
神滅具』の一つ、『
赤龍帝の篭手』。嘗て天使、悪魔、堕天使の三勢力を相手にしたドラゴンである『赤龍帝ドライグ』の魂を宿した『
神器』である。
そんな特殊な事情が在る兵藤一誠だが、彼はこの世で最も運命と神を憎んでいた。何故ならば。
「ほらほら、イッセー君?もっと急いで走らないと電撃を浴びますよ。100万ボルトの電撃を」
ーーービリビリビリビリッ!!
「ヒィィィィィィッ!!フリート先生!!止めて下さい!!もう充分でしょう!?って言うか!100万ボルトは不味いでしょう!!!」
終着地点が見えないほどの長い通路をそれぞれ五十キロの重さを持つ鉄球を両手足に付けながら走っている一誠は、背後から追って来る電撃を発生させているマシーンを操作しているフリートに向かって叫んだ。
しかし、フリートは気にせずにマシーンのスピード操作部分を更にアップさせながら、一誠に声を掛ける。
「何を言っているんですか!?貴方が通っている学園には魔王の一角を担っている人物達の妹が二名に、その眷属悪魔達と龍王の一角の欠片を宿している眷属悪魔!更に最近では堕天使達も街に入り込んでいるんですよ!!強くならないと死にかねません!!と言うか!100万ボルト程度の電撃で不味いは変ですよ・・とある世界には電気を発生させるネズミちゃんが放つ雷を受けて黒焦げになっても簡単に復活する人間だっているんですからね!」
「俺の住んでいる街って!人外魔境だったんですか!?って言うか!雷を起こす電気ネズミなんて!それネズミと違いますよね!」
「と言う訳でパワーーーアップ!!・・ポチっとな」
ーーーバシバシバシバシバシバシッ!!
「イヤァァァァァーーーー!!もう何か音がちがくなっているんですけど!?」
「気にしない。気にしないですよ。貴方は体力と持久力が一番大事ですからね。後二時間は頑張って走りましょう」
「もうこんな生活はイヤダァァァァァァァァァァッ!!!!!
神器なんて生み出した神の馬鹿野郎!!」
迫る100万ボルトを発している機械から逃れるように一誠は走り続け、訓練室内に一誠の悲鳴が木霊し続けるのだった。
そして漸く本日の訓練を終えた一誠は、大の字で汗だくになりながら訓練室内の床に倒れ伏していた。
息絶え絶えでかなり辛そうに呼吸を整えていると、一誠の左手に顕現していた『
赤龍帝の篭手』の宝玉から低い声が聞こえて来る。
『クククククッ・・相棒。今日も随分と扱かれたな?』
「うっせ〜ぞ〜・・・ドライグ・・今日はブラック師匠の地獄の戦闘訓練がねぇからってよぉ」
『確かにな・・・しかし、俺も随分と狭い世界しか知らなかったんだな・・あの竜人には封印される前の俺でも勝てる気がしない。その他にもこの地には強い奴らがわんさかいる。正直『二天龍』なんて称号は早過ぎた気がする』
「げぇ・・・三勢力相手に喧嘩を売ったようなお前よりもかよ・・ハァ〜、何で五年前の俺はフリート先生に会ってしまったんだ・・本当に・・・クソ〜、それもこれも全部!あの時の暴走車のせいだ!!」
五年前。一誠は飲酒運転で暴走した車に轢かれて半死半生の重傷を負ってしまった。
もはや助かる見込みなど無く、薄れゆく意識の中で両親の悲しみの声を聞きながら意識を失い、目が覚めてみれば。
「フリート先生の実験室に在ったカプセルの中だったもんな・・あの時は思わず『止めろジョッカー!!』なんて子供心に叫んだぜ」
そして詳しく事情を聞いてみれば一誠が気を失った後に強力な『
神器』の反応を追ってやって来たフリートが一誠を発見し、死に掛けていた一誠を無償で治療して一誠は死の淵から復帰することが出来た。
その後は一誠の両親に『
神器』関連の話や、一誠の世界の裏話などフリートにされて、色々と在ったが最終的に『一誠の弟子入り』が決定し、学業に影響が出ないように、いや、学業さえも完璧にこなせるような修行が行なわれていた。
因みにエロいことをしようとしたら、人妻で喫茶店を経営している女性から特大の桜色の砲撃を受けたり、一誠よりも遥かに接近戦が強い女性に殴られたり、最悪の場合にはフリートさえも恐れる翡翠の女性のお仕置きを受けたりする。故にこの世界ではスケベなことイコール死なので此方の世界では全く一誠はスケベなことが出来なかった。
『相棒の両親は喜んでいたな。『息子がまじめになった!!』と』
「クゥ〜〜!!こっちだと冗談でも本気で死ぬぞ!!」
『まぁ、おかげで俺の力をかなり使いこなせるばかりか・・・新しい切り札も手に入ったんだ。クククククッ!!『アルビオン』の奴が悔しがる姿が目に浮かぶ。クククククッ!!相棒・・奴と出会ったら』
「あぁ・・分かってる。もう何度言ってると思ってんだよ」
『イッセー君。イッセー君。至急私の研究室に来て下さい。重要なお話があります』
「ん・・何だ?・・まさか・・実験じゃないだろうな?」
聞こえて来たフリートの呼び出しの放送に、一誠は立ち上がりながら疑問の声を上げて、フリートの研究室へと向かい出す。
そして研究室へと辿り着いた一誠はフリートから一枚の写真を渡される。
写真の中に写っているのはシスター服を着た金髪の少女。贔屓目に見ても美少女と言える少女の写真を渡された一誠は疑問に首を傾げると、フリートが説明し出す。
「その少女を保護する。或いは現状維持を優先させる。または連れ去るかして来なさい」
「何だか三つ目の要求が物騒なんですけど!?」
「彼女の名前はアーシア・アルジェント。珍しい『
神器』の所持者でしてね。希少な回復系の『
神器』の『
聖母の微笑』を所持しているんです」
「俺の叫びは完全無視!?・・・・って!希少な回復系の
神器ッ!?」
「はい・・本来回復系の
神器に関してはとある事情で制約が設けられています。その制約のせいで天界と敵対している者は回復出来ないと言う特性が在るのですが・・・彼女の『
聖母の微笑』はその制約が全く無い天界の連中が禁止指定にしている
神器なんですよ」
「そりゃ、またどうしてですか?」
「それに関してはまだ一誠君には教えられませんね。知っちゃうと色々と不味い事になるんですよ。何れは教えますから、今はまだ待っていて下さい」
「・・分かりました」
「まぁ、彼女が欲しいと言うのもありますよ。何せ彼女が居れば一誠君の訓練もよりハードに出来ますし、一誠君のやる気も増すような気がしますので・・・出来ればうちに欲しい人材ですね」
「やっぱりか!?」
予想していた最悪の可能性が当たっていた事実に一誠は叫んだ。
最もそれだけでフリートが動くとは一誠は考えていない。フリートは確かにマッドだが、同時に常識もある程度持っている。
神器に関しても、実を言えば余りフリートが好きではないことを一誠は知っている。
昔の神話の時代ならばともかく、現在の時代では
神器の所持者達の大体は不幸な目に在っている。異能の力とは、時にそれだけで恐怖の対象として見られてしまう。実の子でありながらも、異能を持ってしまった為に排斥する親も居るのだ。そう言う対象にフリートが手を差し伸べていることも一誠は知っている。
最もそのせいで何処ぞのテロリスト組織とはぶつかり合っているが、不運としか言えない事にブラックがその集団に目をつけてしまったので、かなりの損害がテロリスト側に出ている。
「調べた所ですけどね・・どうも彼女は教会に属していたらしいんですけど・・・傷ついた悪魔を治癒してしまった為に『魔女』認定されて排斥処分。しかも最悪なことに、それが助けた悪魔の策略で過ごしていた場所から捨てられた彼女を自分の物にしようとしているらしいのです。因みにその悪魔の眷属悪魔は全員、元教会関係で『聖女』とか呼ばれていた女性ばかりです。最低の変質者ですよ」
「胸糞が悪くなる話ですね」
「で、その彼女は現在は堕天使の下級連中と共に行動中・・まぁ、堕天使勢の最終的な目的は彼女に宿っている
神器を回収することでしょうね。そうなれば」
「この女の子は死ぬってことですね・・・了解です。直接会ってこの子の真意を聞いてから決めますよ」
「頼みますよ、一誠君・・因みに派手になる時は結界を使用して下さい。罷り間違って結界張らずに暴れたら、即座に他勢力が動きますからね。特に貴方は現赤龍帝ですから、有名になったらそれはそれで大変なんですから・・・まぁ、誰かの眷属の悪魔になるのはいいですよ。色々と研究のしがいが増えますから」
「絶対に人間のままでいますので安心して下さい!!先生!!」
自身の身の安全のために一誠は敬礼をフリートに向かって行ないながら、左手に持っている写真に写っている金髪の美少女の姿を見つめる。
何処から見ても今時では考えられないほどに純情そうな少女。しかし、その身には『
聖母の微笑』と言う希少な回復系の
神器を宿している。その力を狙っている者達のところに彼女は居る。
先ずは相手の話を聞いてから判断しようと一誠は考えながら、研究室から出て行き、フリートはその背を意味ありげに見つめながら近くに置いてある受話器に手にとって耳に当てる。
「どうも、もすもす、ひねもすですよ・・・うちの若い者が動くことになりましたよ。でも、良いんですか?・・・・・フム、なるほど・・確かに彼女は死なせるには惜しい人材ですね・・・しかし、良いんですか?彼女を『魔女』認定したのは、どちらにしても貴方達を崇めている教会勢ですよ・・・だから私に頼んだですって?・・全く・・信仰なんてやっぱり好きになれないですね・・まぁ、要求した報酬が貰えれば私は構いませんけどね。とっとと三勢力の融和を形にして下さいよ」
僅かに苛立ちを込めながらフリートは通信を切った。
通信の先に居る人物は例の少女を救うようにフリートに依頼して来た人物。自身の立場のせいでアーシアに対する行動が出来ないので代わりに、フリートに少女の救出に関する依頼を頼んで来たのだ。
「まぁ、これで『竜殺し』関連の聖剣が手に入りますから別に構いませんけど・・・・一誠君は冷静で居られますかね?イカれたボケがあちら側には居ますから?・・・あの地で結界を張らずに暴れたりしたら・・・即座にグレモリーが動きますから」
一誠の実力に関してはフリートは心配していない。
既に一誠の実力はあちらの世界でも上級悪魔クラスに匹敵する実力を有している。本人には自覚は無いが、紛れも無く一誠は強い。問題が在るとすれば性格の方だった。
「女性に対しては甘いですし・・スケベなところが在るから、其方を優先してしまう面も在る。しかし、一番の問題はすぐに熱くなってしまう面なんですよね」
親しくなった者。或いは仲間になった者。これらの人物達が傷つけられた時の一誠の実力は格段に上昇するのだが、同時に弱点でも在る。
こればかりは時間が解決するしかないとフリートともう一人の師匠であるブラックは考えている。それにそれが一誠の強さにも繋がると言う事もフリートとブラックは理解している。
「ドラちゃんがサポートしてくれるから問題は無いと思いますけど・・・・何かいや〜な予感がするんですよね」
そうフリートは呟きながら、自身が弟子にした中で最も才能が無く、最も困らせてくれる人物が出て行った入り口をジッと見つめるのだった。
夜遅い時間帯。
自身が住んでいる世界に戻って来た一誠は町外れの道を歩きながら、フリートから渡された写真を眺めていた。見れば見るほどに今時では考えられないほどの純情な雰囲気を纏った正しく聖女と呼べる雰囲気を持った少女。
その少女を利用しようとしている者が居る。何となくだが一誠はその事実に怒りを覚えて写真を強く握ってしまう。
(相棒?どうした?・・まさか、その写真の女に惚れたか?)
(違うわ!!と言うか写真を見ただけで惚れるか!?)
(ククククククッ!!それは分からんだろうが?あっちだと相棒は性欲を抑えられてしまうからな。そう言う純粋な女を見て相棒の性欲が暴走を…)
「違うっての!!・・・まぁ、確かに可愛い子だと思うが・・俺は無理やりとは好きじゃない!!やっぱり、付き合うなら健全な関係で進み・・・そしてその後に」
(押し倒すのか?)
「そう!その通りって!!違う!!俺はそんなことはしな…」
ーーードオオォン!!
「ッ!!今の音は!?」
耳に届いて来た何かが激突し在っているような音に一瞬にして一誠の顔つきは変わり、すぐさま激突音が聞こえて来た民家の方に走り出す。
そして一定の距離になると忍び足になり、ゆっくりと壁に背を預けながら激突音が聞こえて来た廃屋を覗いて見ると、女性の上半身を持ち、下半身は色々な獣が混じったような四足歩行の形で、更に長い尻尾の先は蛇の形をしている生物と四人の駒王学園《くおうがくえん》の制服を着た学生が対峙している姿を目にする。
如何見ても一般的には見えないその生物の姿に一誠は眉を顰め、その化け物と相対している四名の人物に目を向ける。
四名とも一誠がそれなりに知っている人物達だった。一誠の通っている
駒王学園で二大お姉さまと呼ばれている女性が二人に、学園でイケメンと言われている金髪の男性が一人。後の一人は一誠の後輩に当たる愛らしい容姿から人気が在る小柄な白髪の少女。
フリートからの情報で一誠は彼らが人間ではなく、悪魔と呼ばれる者で在る事を知っている。さしずめ今行なっているのは、はぐれ悪魔の討伐だと一誠は考えて真剣に戦いを見つめながら彼らの動きを観察する。
するとスピードを徐々に上げながら動き回っていた金髪の男性-『
木場祐斗』が手に持っていた西洋の剣を抜き去り、一瞬姿がブレたと思った瞬間、化け物の両腕が肩から滑り落ちて、同時に尻尾も切り落とされ、化け物は夥しい量の血を辺りに噴出させる。
ーーーブシュウゥゥゥゥゥーーーー!!
「ギャアァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
(速いな)
(あぁ・・中々の素早さだ。瞬間的ならば成熟期デジモンの上位に匹敵するぞ、相棒。だが、それよりも気になるのは奴が持つ剣の方だ・・・・間違いなく『魔剣』だが、どうにも普通の『魔剣』とは違う印象を感じるぞ)
(う〜ん・・そう言えば前にフリートさんが創造系の『
神器』に『
魔剣創造』って言うのが在るって言っていたな・・って事はアイツが使っているのはそれで間違いないか?)
(恐らくはな・・とは言っても俺が見たところ昔の所有者が戦った『
魔剣創造』の使い手よりも奴は未熟だ。だが、才能は間違いなくある。これから次第では実力は更に上がると見て間違いない)
(俺は勝てるか?)
(フッ、今のところは言うまでも無く相棒が勝つさ。だが、油断だけは絶対にするなよ。僅かな油断や慢心は敗北を呼ぶからな。ブラックウォーグレイモンの奴が言っていたように、どんな相手でも真剣に相対する事こそが重要な事だ)
(分かってるさ)
木場の動きを見ながら一誠とドライグは冷静に戦いを観察し、自分達が戦う時の場合のことを考える。
相手の情報を知っていると知らないのでは大きく違う。情報の差が時には敗北に繋がるということを、一誠はフリート達と共に行動する事で学んでいた。
その間に素早く動き回る木場に対しての攻撃は危険だと判断したのか、化け物は自身の足元に居た小柄な少女-『
塔城小猫』に向かって足を踏み下ろす。
「この!!子虫がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「フッ!!」
ガシッ!ーーググググッ!!
「なっ!?」
化け物は眼前に広がる光景に驚愕の声を出した。
何故ならば巨体である化け物が踏み下ろした足を小猫は両手で受け止めたばかりか、徐々に化け物の足を押し返しているのだ。
そして小猫は完全に足を押し返し、化け物の体勢が崩れると共に高くジャンプして化け物の胴体に向かって拳を振り抜く。
「・・・ぶっ飛べ」
ーーードガアアアアアアンッ!!
(おぉぉぉ!!俺・・今凄い光景を見たぞ、ドライグ)
(一般的な話ならば、ビックリショーものだろうな・・小柄な少女が巨体の化け物を殴り飛ばすなど)
(まぁな・・・・ドライグ・・とは言ってもよぉ・・俺たちってデジタルワールドですげぇ小さかった『ナノモン』や『マメモン』に負けたから・・・ちょっとしか驚けないよな)
(言うな、相棒・・・アレには俺もショックが隠せなかった)
化け物を殴り飛ばした小猫の姿に一誠とドライグは、以前フリート達に修行だと言われてデジタルワールドで過ごした日々を思い出し、人知れず悲しんでいた。
その間に殴り飛ばされ、ダメージから起き上がる事が出来ない化け物の下に黒髪をポニーテールにして纏めていて、服の上からでもスタイルがかなり良いと分かる女性-『
姫島朱乃』が薄笑いを浮かべながら近寄り、右手を空に掲げる。
「ぐぅぅぅ・・」
「あらあら・・まだ元気なんですね。それなら・・これはどうですか?」
ーーーズッガアアアアアアアアン!!!
「ガァァァァァァァァァッ!!」
「あらあら、まだ大丈夫みたいですね。まだまだ楽しめそう」
ーーーバリィィィィィィィィンッ!!
「ギャァァァァァァァァァッ!!」
(怖ッ!!・・やばい・・絶対にあの人Sだよ!しかも超ど級の!!)
(ムゥ〜・・歴代の所有者の中にも奴のような性癖が居たが・・改めて見ると・・哀れにしか見えないな・・最も俺達からすれば優しいとしか言えないが)
次々と雷を落として黒焦げになりながら断末魔の悲鳴を上げている化け物を楽しげに見ている朱乃の様子から、一誠は朱乃はSだと理解した。
最も朱乃以上のSとしか言えない所業を平然と行なっている人物達を知っているので、余り朱乃に対して恐怖を一誠とドライグは感じなかった。
(フリート先生とブラック師匠だと・・戦った相手の方が本当に不憫だと思えるからな・・それにリンディさんのお仕置き・・アレに比べれば、姫島さんのはまだ健全だ)
(うむ・・特にリンディのお仕置きは恐ろしいとしか言えない・・俺も思わず外界とのリンクを遮断したほどだからな)
完全に一般常識から離れた感性を持ちながら一誠とドライグは戦いに再び目を向けてみると、最後の女性-美しい紅い髪を棚引かせているリアス・グレモリー-が化け者に近づいて行く。
「うふふふふふふ。どこまで私の雷に耐えられるのかしらね?でも、まだ死んではダメよ?何せ、止めをさすのは私の主なのですから。オホホホホホホホホッ!」
「さて、はぐれ悪魔バイザー?言い残すことは在るかしら?」
「・・・・・殺せ」
「そう、なら消し飛びなさい!!」
ーーーズドオォォォォォォォォォンッ!!
(ウォォォーー!!今のなのはさんのアグレッサー時のディバインバスターぐらいの威力は在るんじゃないか!?)
(確かに中々の威力だ。流石は魔王の一角を担っている男の妹・・兄妹揃って中々に潜在能力が高そうだ)
リアスが手の先から放ったドス黒い魔力弾で化け物-『バイザー』を消滅させたのを目撃した一誠とドライグは再びそれぞれの感想を話し合った。
とにかくこれでこの場での戦いは終わったのだと一誠は考え、後はリアス達が帰るまで身を潜めていようと決める。だが、突然にリアスが一誠が身を隠している壁の方に体を向けて声を出す。
「それで・・何時まで隠れているのかしら?覗きやさん」
(バレてる!!)
「出来れば早く出て来て欲しいわ。出て来ないと少し痛い目を見る事になるわよ」
(ど、どうしよう!?かなり俺ってやばい!!)
このままリアスの要求どおりに出て行くのは簡単である。
だが、もしも自身が『
神器』をその身に宿している事が知られ、更にその『
神器』が『
神滅具』だと知られた場合、かなり一誠の立場が不味い。
敵対して交戦を行なう事は出来るなら一誠は避けたい。だが、運良く交戦を避けても眷属悪魔に勧誘される可能性が在る。リアスと言う美少女の眷属悪魔にならば一誠はなっても良いが、その場合はマッドの実験室行きが確定してしまう。
一時の感情で身を滅ぼすなど絶対にやりたくない一誠は、即座に自身が持っていた鞄の中から正体を隠す時に使用しろと言われていた仮面を被って前方に向かって駆け出す。
(俺はまだ!!実験室行きはやだ!!さらば!!)
「逃がさないわよ!!祐斗ッ!!」
「はい!!」
ーーービュン!!
(チィッ!!ドライグ!!)
(仕方が無いな。俺も奴の実験室行きだけはゴメンだ)
追って来ているのがバイザーとの戦いで速さを示した祐斗だと悟った一誠は、即座に自身の左腕に『
赤龍帝の籠手』を顕現させ、一番最初の力の倍増を全て脚力に与える。
《
Explosion!!》
「
神器の所持者か!!」
自身が追いかけている一誠の速さが上がったことに気がついた祐斗は叫び、自身もスピードを上げて追いかけるが、二人の距離は徐々に離れて行く。
「ッ!!僕よりも速い!!」
(当然だぜ!!こっちは日夜フリート先生の地獄の教導から逃げようと必死なんだ!!・・一度も逃げられたことが無いけど・・大抵の奴に足で負ける気は無いぜ!!特にイケメンで知られるお前に負けられるか!!)
一誠はそう内心で叫びながら走る速度を更に上げて、祐斗の視界から遠ざかろうと街の方に向かって爆走する。
人目の在る場所では祐斗達は自分達の力を発揮することが出来ない。それは一誠も同じだが、とにかく人目の在る場所に入り込めば、其処に紛れ込んで混乱させることは可能。故に一誠は走り続ける。
だが、日々フリートの教導を受けて鍛えられた危機察知能力が突然に警報を上げて、迷わず一誠は横に飛び去り、同時に直前まで一誠が居た場所に落雷が落ちて来た。
ーーードガァン!!
(クッ!!この雷は!姫島さんか!?)
「あらあら?完全に不意打ちのつもりだったのに、避けられてしまいましたわ?部長」
「そうね・・祐斗の足から逃げ切りそうになった事と言い・・・どうも、ただの
神器所持者じゃ無さそうね」
(ゲェッ!!や、やばい!!)
空の上から聞こえて来た朱乃とリアスの声に、一誠は自身がかなり危機的状況に在る事を悟った。
上空から攻撃された場合、一誠は切り札の一つを使用しなければどうすることも出来なくなる。しかし、それを使ったら最後、一誠が『
赤龍帝の籠手』の所持者であることがばれてしまう。『
赤龍帝の籠手』の名前は、三大勢力の殆どの者が知っている代物なのだから。
幸いにも一誠は今は私服である為に同じ
駒王学園に通っていることはバレテいないし、更に言えば正体も仮面を被っているおかげで知られてしまう事は無い。だが、このまま人目が在る場所まで逃げ切れる保障が無くなってしまった。
(ど、どうしよう!ドライグ!!)
(相棒・・・・こうなったら最後の手段だ・・マッドから使用禁止を言われたあの技を使うしかない!!)
(なにぃ!!!あの技をか!?・・・だ、だが・・・ア、アレは禁止指定にされた技だぞ!!忘れたのか!?アレを不用意に使ったせいで俺とお前がどんな目に在ったのかを!?)
一誠の脳裏に浮かぶのは空に無数に展開される魔法陣とそれを操る銀色の髪が一本一本がまるで生き物のように揺れ動き、冷たい憎悪に染まった蒼い瞳を無表情の中に宿していた女性の姿。
ドライグが告げた技を不用意にも使用してしまった為に起きた悪夢としか言えない出来事。今でも一誠はその時の事を夢に見るほどに覚えている。それ以来ドライグが告げた技はフリート達から使用禁止を言い渡されているのだ。
(この場で彼女達を傷つけずに切り抜けるにはあの技以外に無い!それに・・一応あの技はアレ以来努力したおかげで男女共に使用出来るように相棒は成長した。問題は多分無い筈だ)
(・・・・わ、分かった・・バ、ばれた時のせ、説得は頼むぞ・・俺はまだ死にたくないからな!!)
「止まった?覚悟を決めたって事なのかしら・・なら!小猫!!」
「はい」
リアスの指示に背中に広がっていた黒い翼を大きく広げて横を飛んでいた小猫は頷き、一誠に向かって飛び掛かる。
同時にその勢いを利用して小猫は殴りかかるが、一誠は瞬時に小猫の突進方向を見切り、体を横に傾かせるだけで小猫の突進を避けた。
小猫はその事実に目を見開くが、一誠は構わずに通り過ぎた小猫の肩に手で触れて、同時に倍増している脚力をフルに発揮し、リアスと朱乃が居る高さにまで飛び上がる。
「嘘!!この高さまで飛び上がった!?」
ーーートントン!!
驚愕しているリアスと朱乃の肩に一誠は瞬時に触れて、そのまま地上に着地した。
一体何がしたかったのかとリアス、朱乃、小猫は首を傾げながら一誠の背中を見つめると、一誠は振り返り右手を掲げる。既に秘策の発動条件は終わったのだ。
それを使えばこの場から逃げ切れる。しかし、フリート達のお仕置きを受ける可能性が非常に高い。
だが、近づいた時に目にしたリアス達の服の上からでも分かるスタイルの良さに気がついた一誠は決意を固めた。それは男としての本能。それを成しえるならば、後に命が消えるかもしれない恐怖など忘れられる。
「(さらば・・俺の青春の日々!!)『
洋服崩壊』ッ!!」
ーーーパチン!!
ーーービリビリッ!!
『・・・・・えっ?』
一誠が指を鳴らすと共にリアス、朱乃、子猫が着ていた服が下着さえも粉々に砕け散った。
そして一誠の目にはリアスと朱乃の素晴らしいとしか表現できない抜群のスタイルの裸体と、未成熟ながらも愛らしさを感じさせる小猫の裸体が広がった。
『
洋服崩壊』。相手の装着している装備類を全て粉砕すると言う恐るべき技。使った後には相手の防御力が全て失われてしまう。てっとり早く言えば相手を丸裸にしてしまうと言う女性にとっての最低にして最悪な技である。因みにこの技は既にフリートによって解析されて対抗手段も作られているが、それを成せていなかったリアス達は完全に裸にされてしまったのだ。
そして自分達の服が全て無くなってしまったことを理解したリアス、朱乃、小猫の顔は一瞬にして真っ赤に染め、鋭い悲鳴が辺りに木霊させる。
『キャアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーー!!!!!!!!』
(フッ・・・後悔は無い・・・最後の最後で俺は最高のモノを見られたんだ)
悲鳴を上げながら己の裸体を手で隠し、そのまま近くの森の中に逃げ込むリアス達を見ながら、一誠は自身の脳裏に刻まれた光景を思いながらその場から去って行った。
この後、追いついた祐斗は森の木々に隠れているリアス達から事情を聞き、慌ててリアス達の服を用意して、それぞれリアス達は自分達の服を吹き飛ばした人物に対して激怒しながら自分達の家へと帰宅して行った。
そしてこの夜の一件はこれで全て終わる-訳が無かった。
自身の家である兵藤家に帰宅した一誠を待っていたのは。
「一誠君・・フリートさんから面白い話を聞いて来たんだけど?」
「ウゥ・・真面目になったと思っていたのに・・」
「泣くな!母さん!!大丈夫だ!!きっと一誠は真面目になって・・・ウゥゥ・・孫の顔が見れないとは・・一体何処で俺達は育て方を間違えてしまったんだ」
マッドも恐怖して逃げ延びることが出来ない最強の存在である笑顔のリンディと、息子の所業を聞いて涙を流す一誠の両親が待っていたのだった。