清々しい朝日が窓の隙間から入り込んで来ている一誠の部屋の中。
昨夜帰宅してからリンディと両親への女性に対する『
洋服崩壊』の使用についての説明などで心身共に疲労の極地に達してしまった一誠は、ベットに倒れると共に深い安らぎに満ちた眠りの世界に旅立ってしまった。
無理も無いだろう。無言のまま常人ならば即座に気絶してしまっているオーラを放っているリンディと、正面から向かい合っていたのだから。もしもドライグの説得と状況に関しての説明に不備でも生じていたら、今頃一誠はマッドの実験室行きになっていたのだから。
最終的に命の危機を乗り越えられた安堵と一誠は休日と言う事も在ってベットの上で眠っていると、深い眠りの内に在りながらも手から柔らかな感触が脳に伝わって来る。
ーーームニュ
(・・・ん?・・・何だ?枕か?・・それにしてはかなり柔らかいような・・・それに・・・・何か良い匂いのようなモノがするぞ)
「・・・・・ス〜〜」
「ッ!!」
聞こえて来た誰かの寝息に一瞬にして一誠の意識は覚醒し、自身が触れていたモノの正体を知る。
その人物は黒いパジャマに身を包み、綺麗な黒髪を布団に晒し、パジャマの隙間から白い柔肌を覗かせている美少女。一誠の手はその少女の慎ましいながらも女性特有の膨らみに触れていた。
一見すれば世の男性達に羨ましがられる状況だが、一誠は全身が一瞬にして冷や汗塗れになった。何故ならばその少女は一誠がどう足掻いても勝てない、この世界での最強の存在だと分かっているのだから。更に一誠が恐怖を感じるのは、その少女が大切そうに胸に抱き抱えている生物。
愛らしい猫のような容姿をして、頭部から長い角を二本生やし、時計のような物を小さな手で抱えるように持って体を鎖で縛っている生物。その生物は一見すれば少女と同じように危険が全く感じられないマスコットとしか思えない生物。だが、一誠は知っている。その生物もまた、一誠がどう足掻いても勝てない最強の一角の生物で在る事を。
ゆっくりと一誠は眠っている少女と生物を起こさないようにベットから出て、自身の部屋から足音も立てずに退出すると、即座にリビングに居るであろうリンディの下へと走り出す。
「リンディさん!!ど、ど、ど、どうして!?お、お、お、お、俺のベットに!?」
「落ち着いて一誠君。昨日は予想外の貴方との話で説明出来なかったけど、本当はその件で私は此処に来たのよ」
リビングでリンディ茶を飲んでいたリンディは、慌てて呂律が回っていない一誠を落ち着かせるように手をやり、一誠はリンディが促すまま正面の席に座る。
「既に昨日の内に一誠君のご両親には説明したけど・・・漸くオーフィスちゃんがベルフェモンと一緒に居て良いと言う許可がロイヤルナイツの方々と四聖獣の方々から得られたのよ。それでオーフィスちゃんが一誠君と一緒に居たいと言うから、私が此処に送って来たところで、フリートさんから昨日の件の話が届いたの」
「な、なるほど・・・って事は・・オーフィスは突破したんですか?デジタルワールドに伝わる『四大竜の試練』を?」
「えぇ、そうよ」
一誠の質問にリンディは笑みを浮かべながら答え、一誠は二階で眠っているオーフィスと、リンディ達の世界で七大魔王と恐れられているベルフェモンの事を考える。
無限の龍神。通称ウロボロス・ドラゴン。それこそがオーフィスと言う少女の正体。その力は実際に凄まじく、聖書に出て来る神さえも勝てないと言わしめる最強のドラゴン。そして元々はリンディ達が敵対関係になっているテロ組織の象徴であり、対外的にリーダーとされていた存在である。最も、現在はその組織とはとある事情で離反し、リンディ達の方に身を寄せている。
その事情とはテロ組織内部のとある派閥が現在のオーフィスを消去して、新たなオーフィスを作り上げると言う計画を練っていた事がフリートの調べで判明したからである。何よりも当時のオーフィスの目的を叶えるのならば、例のテロ組織よりもリンディ達と手を結んだ方が遥かに成功率が高いとオーフィスは考えて、アッサリと組織から抜けてリンディ達の方に渡って来た。
しかし、現在はその目的よりも大切な事が出来たので二年前から一誠の家で過ごしているが、此処一年ほどはリンディ達の世界の方に、正確に言えばデジタルワールドと呼ばれる世界に住んでいた。
その理由はオーフィスがブラックの娘や仲間達がデジモンを育てたようにオーフィス自身がデジタマからデジモンを孵して育てたデジモンが、よりにもよって七大魔王デジモンと言うリンディ達の世界で恐れられているデジモンに進化を果たしてしまったからだった。
「オーフィスちゃんの力ならあのベルフェモンが暴走しても押さえられるかもしれないけど・・ロイヤルナイツと四聖獣の方々は、オーフィスちゃんの性格を心配してね」
「確かに・・・オーフィス・・純粋ですからね」
無限の力を持つと恐れられているオーフィスだが、純粋過ぎると言う欠点を持っていた。
その純粋さをテロ組織に利用されてしまい、仮初めの象徴にされていたのだ。最も現在のオーフィスに邪な目的で近づいたら即座に抹殺されるだろう。その腕の中で愛らしいマスコットとしか思えない姿をしているベルフェモンが居るのだから。
とにかく、七大魔王デジモンにデジモンを進化させたオーフィスの存在はロイヤルナイツと四聖獣達も見逃せない存在になり、一時新たなベルフェモンを封印しようと言う流れになったが、オーフィスはベルフェモンと離れ離れになるのを嫌がり、デジタルワールドで難関とされる『四大竜の試練』を乗り越えてベルフェモンとの生活の許可を得たのだ。
一誠も本当はオーフィスを心配して試練に向かおうとしたが、オーフィスは必ず帰って来ると告げてリンディ達に案内されて『四大竜の試練』に挑み、昨日帰って来たのだ。本来ならば感動的な再会になるだろうと、一誠の両親はビデオカメラまで用意していたのだが、一誠の行動がそれが出来なくしてしまったと言う訳である。
「・・・一誠君・・貴方の力は確かに凄いけど・・・今後は出来るだけ使用しないようにして頂戴ね・・同じ女性として貴方の技はどう考えても変態的としか言えないし・・・・最悪の場合、『変態龍帝』なんて最悪の称号が得られるわよ」
ーーーガァァァァーーン!!
(へ、変態・・・りゅ・・龍帝・・・)
「ド、ドライグ?」
リンディの発言に一誠の内で話を聞いていたドライグは、最悪過ぎる称号に打ちのめされた。
一誠は心配して声を掛けるがドライグはショックが大き過ぎるのか、一誠の声に答えられなかった。
「貴方の技は確かに発想としては良いかもしれないけど・・・正直貴方のことを良く知らない女性からは、確実に嫌われるのは間違いないでしょうね。貞操観念の強い女性に使用したら、ルインさんの時のように抹殺に乗り出すでしょうし・・・それに“あのヘンテコ神の使いと再び接触したいの”?」
「そ、それだけは絶対に勘弁です!!あの神様には二度と接触したくないですよ!!」
「でしょう?・・・私としてもそんな事態になって欲しくないわ・・それに、オーフィスちゃんの件で一誠君はロイヤルナイツと四聖獣の方々が気になっているらしいのよ」
「マジですか!?」
「本当よ・・・・とにかく、一誠君。もう貴方の欲求の部分には私達はそんなに酷く無い場合は何もしないけど・・・昨日の件は本当に危なかったのよ?普通に考えて年頃の娘が外で裸にされたりしたら、ほぼ間違いなく親御さんが怒るわ・・特に昨日貴方が裸にしてしまった女の子達の家族は恐ろしい方々ばかりで、失敗したら殺される事態になるのは間違い無いわ」
事実、昨日一誠が『
洋服崩壊』を使用した女性達はかなり不味い相手だった。
魔王の妹にして冥界でも上流階級のグレモリーにその眷属達。更に眷属の中の『
女王』である姫島朱乃の父親は、堕天使が結成している『
神の子を見張る者』の幹部の一人『バラキエル』。
今の一誠の実力では直接的にしろ、間接的にしろ、勝てない実力者なのだ。
「一誠君。確かにフリートさんとブラック、そして他のメンバーに鍛えられた貴方は強いわ。だけど、戦いはそれだけでは無いのよ。歴戦の相手に今の貴方では間違いなく勝てないわ。だから、余り女性に対して変態的な行動は控えなさい」
「は、はい」
リンディの忠告に一誠は神妙な顔をしながら頷いた。
以前にも不用意に『
洋服崩壊』を使用した為に、散々と言う言葉では足りないほどの酷い目に一誠は在っていた。今回もそれに近い事をしていたのだと一誠は理解して反省するように顔を俯ける。
その様子にリンディは満足そうに頷くと懐の中から分厚い茶色の包みを取り出し、一誠の前に差し出す。
「はい。これは今回のフリートさんからの依頼の報酬よ。本当は完遂してから渡すつもりだったけど、オーフィスちゃんにお祝いをして上げたいでしょうから先に渡しておくわね」
「ありがとうございます!!リンディさん!!」
リンディが差し出してきた封筒を一誠は嬉しそうに受け取った。
オーフィスは見た目は美少女だがその正体は
無限の龍神と言われるだけ在って、かなり大食いなのだ。故に奢らされたりした時は、一誠の財布事情はかなり細々になってしまう。
しかし、難関とされる『四大竜の試練』を突破したオーフィスにお祝いをしたいと言う気持ちも在るので、リンディからの報酬は一誠からすれば嬉しい事だった。
「それじゃ、私は帰るわね。一誠君。例の件にはどうもはぐれ悪魔祓いも関わって来るらしいから、充分に気をつけてね」
そうリンディは忠告を一誠に告げると、椅子から立ち上がり兵藤家を出て行った。
一誠はそれを玄関から見送り、リンディの背が完全に消えるのを確認すると家の中に戻る。
すると、丁度二階からパジャマ姿のまま安らかに眠っているベルフェモンを腕の中に抱えて、目を擦っているオーフィスが降りて来る。
「イッセー・・・おはよう」
「おう!おはよう、オーフィス」
「うん・・・久しぶり」
「あぁ、そうだな・・オーフィス。帰って来たお祝いに、何処か出かけないか?」
「我、行く。ベルフェも行く」
「じゃ、着替えて行くか」
「うん」
一誠の言葉にオーフィスは素直に頷き、二人は外に出かける為に着替えを行なうのだった。
その頃、休日に関わらず
駒王学園に在る旧校舎の三階のオカルト部の部室では昨夜の謎の
神器所有者の件でリアス・グレモリーとその眷属達が集まり、話し合いを行なっていた。
「昨日の夜に私達が追いかけた相手は
神器所持者なのは間違い無いわ。多分、所持している
神器の正体は『
龍の手』の可能性が高いわね」
「部長・・どうしてそう思うんですか?」
「最初に逃げる時に≪
Explosion≫と言う音が聞こえたわ。アレが力の倍増を解放した意味なら、増幅系の『
龍の手』の可能性が高いと思うのよ。最もあくまで一番可能性が高いだけで違う
神器の可能性も在るけどね。でも、『
騎士』の祐斗の速さで勝ったなら、増幅系と考えるのが正解だと思うわ」
木場祐斗の質問にリアスは自身の推測を語り、祐斗は若干悔しそうにしながらリアスの考えに納得したように頷いた。
『
騎士』の駒で悪魔に転生した祐斗の速さはかなりのレベルに強化されている。その祐斗に速さで勝り、更に聞こえて来た
神器の音からリアスは昨夜会った相手の所有している
神器の正体は増幅関係の
神器で在ると僅かな情報から推測したのだ。
そしてリアスの考えに話を聞いていた朱乃、子猫も納得したように頷き、小猫は不機嫌そうに目を細める。実際にリアス達から見ても今日の小猫は不機嫌だった。その原因は一つ。自身の服を弾き飛ばした相手に対する苛立ちだった。
「部長・・・あの変態に会ったら必ず殴ります」
「小猫・・気持ちは分かるけど落ち着きなさい。確かに同じ女性として昨夜の件での気持ちは分かるけど・・・あの技は危険よ。昨日私達が着ていた服は防御能力も在ったのに、それを粉砕したのだから、もしかしたら敵対した相手の防護服を全て粉砕してしまう力なのかも知れないわね」
「つまり、部長?昨夜の
神器保持者に接近戦を挑むのは危険と言うことでしょうか?」
「そうよ、朱乃。確かに食らった私達からすれば最低な技かもしれないけど、その本質は恐ろしいわ。守りの為に着ている防護服に過信して迂闊に近づけば、その瞬間に防護服が弾け飛んでしまうのだからね」
そうリアスは昨夜受けた『
洋服崩壊』に対して自身の考えを眷属達に述べた。
実際のところは欲望と変態的な思考に塗れた果てに編み出された技なのだが、一誠のことを知らないリアスは昨夜受けた技に対して過大評価を行なっていた。
「とにかく、例の
神器保持者がまた現れた時には即座に連絡。一応ソーナの方にも説明はしておくから、皆それぞれ警戒だけはしておくように」
「はい」
「その方針で進みましょうね」
「会ったら一発だけは殴ります」
リアスの方針に祐斗、朱乃、小猫はそれぞれ頷き、本日の悪魔として仕事の件へと話を進めるのだった。件の人物との再会が思っていた以上に早いことも知らずに。
地球のとある場所の深い森の中。
自然が多く人の手も全く入っていない場所に見えるが、その場所には『
禍の団』と言うテロ組織の秘密研究所が存在していた。
『
禍の団』とは、簡単に言えば現在の世界の流れが気に入らずに一度世界を滅ぼして、新たに世界を構築しようとしているテロ組織であり、悪魔、天使、堕天使、人間などの様々な勢力が集まっている。嘗てはオーフィスが象徴になっていた組織であり、一誠の師匠であるブラック達が敵対している組織。
そしてこの場所に在った『
禍の団』の研究所を襲撃したのは、言うまでも無く『漆黒の竜人』ブラックウォーグレイモンことブラックと、そのパートナーである『破滅を呼ぶ風』ルインフォースだった。
「・・ウワァ〜〜・・ブラック様・・随分とえげつない研究をしていたみたいですよ『
無限の龍神の細胞の培養過程で生まれた蛇による力の倍増』。『
神器に旧魔王の血を加えた結果の研究内容』。その他にもかなりこの世界にとって不味い研究内容が在りますね」
「ほう・・と言うことは、フリートの予想通り此処は正解だったか」
破壊された研究所内部から手に入った資料の内容に、ブラックは興味深そうに目を細めた。
ブラックとルインが今居る場所の研究所を襲った理由は、『
禍の団』の重要拠点と思われる場所をフリートが発見したからだった。重要な拠点となれば実力が高い者が居ると考えたブラックは、即座に研究所に向かい襲撃を行なったのだ。
予想通りその研究所は“自身の意思”で『
禍の団』に所属している者達であり、中々にブラックは戦いを楽しめた。最もブラックの最大級の目的だった『
禍の団』に所属している上位の『
神滅具』所有者三人は、別の拠点に移動していたらしく、姿は無かった。
「ですが、ブラック様・・やはり『
禍の団』は危険です。この研究一つをとっても、かなりの犠牲者が出ています。中枢メンバーは本気で世界を変えるつもりでしょう。私達の世界の“ルーチェモン”と同じように」
「フン・・・何処の世界でも同じような事を考える奴は居る者だな・・・・しかし、全体の意志の統一は出来ていないようだ。やはり、目的は派閥によって違うという事だろう」
「確かにそうですよね。人間、悪魔、堕天使、天使と色々な勢力が集まっているんですからね」
ブラックの考えにルインはこれまで破壊して来た『
禍の団』のアジトや研究所の事を思い出して頷く。
『
禍の団』は確かに各勢力の実力者達が集まっている組織だが、それぞれ派閥が存在している上に、それぞれ目的も違っている。『
禍の団』と言う組織は、言うなれば異常な人材が集まっている烏合の集団に近い組織なのだ。それを纏めていたのが『
無限の龍神』であるオーフィスと言う象徴だったが、既にオーフィスは『
禍の団』の象徴ではない。
今現在は当時ブラック達が回収出来なかったオーフィスの力の一部のおかげで、何とか『
禍の団』は存続しているような状態であり、それに変わる力を『
禍の団』は求めているのだ。
「しかし、『
神滅具』の所持者三人は中々現れんな」
「ブラック様を恐れているんでしょうね」
「フン、つまらんな・・・・ん?・・・いや、どうやら楽しめる相手が来たようだ」
そうブラックは呟くと共に背後を振り向いて、遠くを見つめる。
その先から感じられる強大な気配。この世界で弟子にしたブラックの言うところの大馬鹿に近しくとも、正反対の気配がブラックとルインの居る場所に高速で近づいて来ていた。
「ほう・・この気配は・・・・あの馬鹿に宿命付けられたライバルが近づいて来ているようだな」
「ですね・・『
白い龍』。スケベ馬鹿が宿している『
赤き龍』と対を成している存在・・・・どうしますか?ブラック様」
「聞く必要が在るのか?」
「無いですね。目的の『
禍の団』内に居た『
神滅具』の所有者達では無いですけど・・・・・・『
白龍皇の光翼』もまた『
神滅具』に数えられる
神器ですからね・・・ブラック様が見逃す筈は無いです」
「そう言う事だ。行くぞ、ルイン」
「はい!」
ブラックの声にルインは即座に応じてブラックの肩に飛び乗り、そのままブラックは自分達の居る方に向かって来る気配に向かって超高速で飛び出す。
この日、地球のとある一角で凄まじい激闘が繰り広げられた。
その勝者の姿を見た者は一人しか存在せず、後には激戦が在った事を示すように荒れ果てた大地と、その中心で半死半生ながらも心の底から満足げな笑みを浮かべて気絶している今代の『
白い龍』の姿が存在していた。
後に救援に駆けつけた堕天使の総督は、激戦で荒れ果てた大地と『現在過去未来に置いて史上最強の白龍皇』の敗北の事実に戦慄を覚えたのだった。
一方その頃、地球の何処かで自身の宿命のライバルと自身の最凶の師が戦っている事を全く知らない一誠は、リンディから渡された先払いの今回の依頼の報酬を使ってオーフィスの試練突破の祝いを行なっていた。
最初はオーフィスがデジタルワールドに試練を受けに行った間に少し変わった町並みを案内し、最終的な場所は最近出来た人気のケーキ屋にオーフィスを連れて行った。何気にオーフィスはその容姿のせいか、甘い物が好きであり、異世界にある『翠屋』と言う喫茶店が特にお気に入りなのである。
世間一般から考えればデートに近いのかもしれないが、一誠は純粋にオーフィスのお祝いとして行動していた。
そして今はとある公園のベンチに座って少し缶ジュースを飲みながら休憩を取っていた。
「フハァ〜、やっぱり少し喉が渇いていたな」
「我・・オレンジジュース好き・・ベルフェも飲む」
「・・ゴクゴク・・スピ〜・・スピ〜」
オーフィスが差し出したオレンジジュースを腕の中に居たベルフェモンは飲むと、再び眠りについた。
本来ならばベルフェモンの寝息は必殺技なのだが、その影響力を完全にオーフィスは自身の力で押さえ込んでいた。
その様子に一誠は完全にベルフェモンの危険性は押さえられていると思って、オーフィスの腕の中に居るベルフェモンの頭を撫でる。
「しかし、お前は・・幼年期の頃からオーフィスの腕の中に居たけど・・究極体になってもオーフィスの腕の中かよ、ベルフェモン」
ーーーギン!!
「へっ?ウォッ!!」
突然ベルフェモンの片目が開いたと思った瞬間、直前まで一誠が居た場所をベルフェモンの体に巻きついていた鎖が通過した。
ギリギリのところで避けられた一誠は安堵の息を漏らしてベルフェモンを睨むが、既にベルフェモンは鎖を戻してオーフィスの腕の中で寝息を溢していた。
「こ、こいつ!相変わらず、俺の事が嫌いなんだな!」
(オーフィスに興味を持たれている相棒が気に入らないのは事実だろうな)
「と言うか!今のコイツは究極体だぞ!俺なんて一撃でも食らったらミンチじゃすまないぞ!!本気で!!」
「やんちゃなだけ」
「怖いよ!究極体のやんちゃなんて怖すぎるよ!オーフィスさん!!」
無慈悲な一撃をやんちゃで済ませたオーフィスに向かって一誠は叫んだ。
事実、先ほどの一撃を受けていたら、今頃一誠の胴体は裂けていたどころか、そのまま消滅した可能性は充分に考えられる。七大魔王の一角を担っているベルフェモンはそれだけの力を宿しているのだ。
スリープモードしか知らない一誠だが、ベルフェモンが本当に覚醒した時の事を考えて恐ろしさを感じる。
「ハァ〜・・それじゃ、オーフィス。そろそろ休憩は終わりにして次のところに行くか」
「・・うん、行く」
そう互いに言い合って次の目的地へと向かうために足を前へと踏み出した瞬間。
「はわう!」
『ん?』
背後から聞こえて来た誰かがコケたような声と音に一誠とオーフィスが振り向いてみると、両手を前に突き出して、スカートが完全に捲れ上がって白いパンツが丸見えになっている金髪のシスター服を纏っている少女が地面に倒れていた。
突然の事態に一誠の動きは完全に止まり、生来の宿命か、思わず少女の白いパンツに目が釘付けになるが、すぐに冷静に立ち返って少女に歩み寄る。
「だ、大丈夫っすか?」
「は、はい・・ははははは、お恥ずかしいところをお見せしてしまって、すみません。ありがとうございます」
(こ、この子は!?写真の女の子じゃないか!?)
自身の手を握って立ち上がる少女の顔を改めて見た一誠は、目の前に居る少女がフリートから依頼された人物だと気がついた。
写真で見た時には分からなかったが改めて見た少女は、一誠の理想(金髪の美少女)と完全に一致するほどの美少女だった。
ヴェールから僅かに覗く金髪のストレートブロンドは僅かな光を浴びて輝き、その瞳は透き通るような翡翠色の双眸。僅かに見える肌の色は白雪を思わせ、恥ずかしさからか、僅かに頬は桜色に染まっているが、それさえも少女の魅力を上げている。
この瞬間、一誠は何故フリートが目の前に居る少女が仲間になれば、自身のやる気が満ちると告げたのか、完全に理解した。写真では彼女の魅力を完全に理解出来なかったが、実物の彼女は素晴らしいと言う言葉では言い表せないほどの激震が一誠を貫いたのだ。因みに何故一誠が日本語が苦手な少女の言葉を理解出来るのかと言うと、フリートから言語が理解出来ないとせっかくの出会いも潰れると言われて、必死に覚えた翻訳魔法のおかげである。
(ありがとう!先生!!貴女の教えは間違っていませんでした!!・・こんな美少女と会話が出来なかったら、俺は自殺していたかも知れません!!本当にありがとうございます!!)
そう一誠は滅多に感謝しないフリートに向かって心の底から感謝の念を伝えた。
少女は突然に動きが止まってしまった一誠の様子に純粋に疑問を持って、首を傾げながら質問する。
「ど、どうかしましたか?」
「あっ・・ゴメン、ゴメン・・え〜と、旅行か何かで君は来たのかな?それに・・それ・・シスター服だよね?」
「は、はい!!実はこの町の教会に今日赴任することとなりまして・・・あなた方もこの町の方なのですね。これからよろしくお願いします!」
「そうか、赴任か・・・(確かあの教会は使われていないはずだけどな)」
少女の説明に一誠は内心で自身の知る情報について考えていた。
天使、悪魔、堕天使などの勢力の存在を知っている一誠は、フリートから事前に自身が住んでいる街にあるそれぞれの拠点の情報を聞いている。その中で街中に在る天使側が拠点とする筈の教会は、既に引き払われていると言う情報を一誠は得ていた。
つまり、その教会に赴任すると告げた少女の言葉はどう考えても不自然なのだ。
最もそれを指摘するつもりはなく、少女に一誠は疑問に思っていたことを質問しようとするが、その前にオーフィスが少女に質問する。
「教会・・此処から逆方向・・迷ってる?」
「はうぅ・・・は、はい・・恥ずかしながら道に迷ってしまいまして・・私、日本語が上手くないので・・道も聞けなくて」
「うん・・・案内する・・イッセー」
「あぁ、構わないぞ」
「本当ですか!?・・良かった・・アッ!私!アーシア・アルジェントと言います!!」
「俺は兵藤一誠。イッセーと呼んでくれ」
「我はオーフィス・・この子はベルフェ」
「ウワァ〜〜!!可愛いヌイグルミですね!!」
(ヌイグルミじゃないんだよ!ソイツは危険過ぎる奴なんだよ!!)
純粋にオーフィスの腕の中に居るベルフェモンをヌイグルミだと思っているアーシアに、一誠は内心で叫んだ。
そして一誠とオーフィスは休んでいた公園からアーシアの目的の場所である教会まで向かい、其処から感じる気配にアーシアに気がつかれないように眉を顰める。
一見古びた教会にしか見えないが、その場所から人とそして人外の気配が複数感じられる。更に言えば、感じられる気配はそれぞれ普通の一般人よりも強い。
(これは・・・やっぱり一筋縄じゃ行かなさそうだな・・多分人の気配の方は悪魔祓いだろうけど・・どう考えても人外の気配の方は聖なる天使様って気配じゃないぞ)
「イッセーさん!オーフィスさん!案内してくれてありがとうございました!!」
「気にしなくて良いさぁ・・それじゃ、シスター・アーシア・・また会おうな」
「・・また、アーシア」
「はい!!」
一誠とオーフィスの言葉にアーシアは嬉しそうに答えると、そのまま教会の中に入って行った。
それを確認した一誠とオーフィスは来た道を戻って行き、教会からある程度離れると、オーフィスがポツリと呟く。
「イッセー・・あそこの教会に居るの・・天使じゃなくて・・堕天使」
「やっぱりか・・・ハァ〜、こりゃ本当に厄介な事になりそうだな」
「フリートの依頼?」
「まぁな・・だけど、今日明日に事態が動く訳じゃないだろうから、暫らくは静観だ。アッ!そうだ、オーフィス?・・蛇を一匹監視につけてくれないか?」
「ん・・構わない」
一誠の頼みにオーフィスは頷くと共に、右手の人差し指を掲げて小さな黒い蛇を一匹生み出す。
その蛇をゆっくりとオーフィスは地面に降ろすと、蛇に向かって命令する。
「教会・・監視・・異変が在ったら伝える」
オーフィスの指示に蛇はゆっくり頷くと、そのまま先ほどの教会の方へと向かって行く。
これで何が在っても即座に動けると一誠は考えていたが、事態は一誠の考えていた以上に事態は早く進行する。
まるで一誠を戦いへの道へと無理やり誘うかのように、運命は動き出すのだった。