アルハザード内のフリートの研究室。
その場所でフリートは今回の件の依頼主であるアザゼルに、簡潔に依頼の結果に関して報告を行なっていた。
「と言う訳で、後で詳しい報告書と映像記録は送りますが、堕天使コカビエル及び組していた一味の連中は全員抹殺しました」
『・・・そうか・・・コカビエルの馬鹿野郎が』
「・・・やっぱり、永久凍結の方が良かったですか?」
『・・・いや・・少なくともアイツがやろうとしていた事は他の二勢力もだけじゃなくて、俺達堕天使にも危機に追い込む事だ。それを行なおうとしていたアイツを見逃す事は出来ない。何よりも今度戦争を始めたら最後、共倒れどころかこの世界全体を危機に晒しちまう』
既に天使、悪魔、堕天使には次の戦争を乗り切るだけの力は無い。
もしもコカビエルの行動が全て旨く行っていたら、確実に戦争が起きて世界は終末への道を進んでいた。コカビエル個人の行動のせいで堕天使全てを巻き込む事態を引き起こすのは、堕天使が結成した組織の長であるアザゼルには見逃す事は出来ない。
故に依頼を遂行してくれたフリート達を恨む気は無かった。何よりも『
神の子を見張る者』の幹部達にとってコカビエルの行動は不利益にしかならなかったのだから。
『あの野郎は知らなかったようだが・・・結構俺以外の幹部連中は他勢力の女と宜しくやってるからな・・・バラキエルの奴も自分の娘の居る場所でコカビエルが暴れるって分かったら、飛び出そうとしやがったし・・・・コカビエルの行動が全部成功していたら、三勢力以外の他勢力が動き出す可能性だってあるってのに・・・あの馬鹿は天使、悪魔だけが敵だと考えていやがったからな』
「実際に『
禍の団』に裏で悪魔や堕天使以外に協力している連中も居ますからね」
『やっぱりか・・・お前らのところにオーフィスが与したって聞いた時には、連中は遠からず消えると思っていたが・・・あいつらに裏で手を貸している奴らがいやがるか・・・ハァ〜、何時になったらこの世界は平和になるのかね?』
「簡単に平和なんて作れませんよ。実際に私達の世界だって戦争が終わっても問題は沢山在りますからね」
『・・・まぁ、今回の件を利用させて貰うさ・・・お前らの事だから教会辺りに何かする気かも知れねぇが、穏便に済ませろよ』
「ハハハハハハハハハハッ!!!・・・アザゼル?私達はちょっと手伝うだけですよ?漸く見つけた担い手に相応しい形にして上げるだけなんですからね。それを教会側がどう受け取るかはあっちの勝手ですよ」
『・・・そうか』
フリートの言葉にアザゼルは思わず教会の不運を考えて、僅かに同情心を抱いた。
リンディとフリートと言う敵対しては不味い相手に対して、苛立ちを感じさせるような行動を行なった教会が無事で済む筈が無い。
先ず間違いなく教会は自分達にとっての重要な物を失う事になるだろうとアザゼルは確信しながら、フリートと会話を続けるのだった。
コカビエルの襲撃事件が解決してから数日が経過した。
戦いが終わった直後はリアス達全員が次元の違った戦いを目にしてそれぞれ複雑な思いを抱いていた。
特に聖書に記されている神の死の情報には、誰もが驚愕を隠せず、異端と認定されながらも熱心な信者だったアーシアは二日間寝込むほどの状態にまでなってしまった。何とか今は一誠とオーフィスの励ましで日常生活を送れるほどに回復したが、それでも時折影の在るような顔をする事は在った。
そして放課後、オカルト部の部室へと辿り着いた一誠とアーシアが部室の中に入ってみると、オカルト部の面々以外にソファーに腰掛けている駒王学園の制服を着たゼノヴィアに声が掛けられる。
「やあ、兵藤一誠にアーシア・アルジェント」
「ゼノヴィアさん!?」
「ゼノヴィア!?な、何でお前が部室に!?確かイリナの治療でフリートさんと一緒に居たんじゃないのか!?」
ゼノヴィアは現実世界に戻った後、コカビエルに術を掛けられて洗脳状態で重傷を負ったイリナの治療の為にフリートの下に居たのである。
イリナの傷の方はアーシアの力でも充分に治療出来るが、洗脳状態が解けていない状態で治療すれば攻撃される可能性が充分に考えられたのでフリートに治療を受ける事になったのである。
「あぁ、イリナなら昨日治療が終わって、今日の昼に『
破壊の聖剣』と残りの四本のエクスカリバーの芯に、『はぐれ悪魔祓い』だったフリードの遺体を持って街を出て行ったよ」
「四本?」
「『
天閃の聖剣』、『
擬態の聖剣』、『
透明の聖剣』、そして『
夢幻の聖剣』の芯さ。四本とも原型を留めないほどに砕けてしまったが、芯だけは辛うじて無事だったんでね。一度は拒絶された『
夢幻の聖剣』も芯状態だから触れることは出来た。芯が在れば再び錬金術を用いて鍛えて再び聖剣に出来るからね。君の先生も“快く回収していてくれた芯をイリナに渡していたよ”」
(・・・・あのフリートさんが快く?・・・・・絶対に教会は不幸な目に合うな)
ゼノヴィアの言葉に一誠は言い知れない嫌な予感を感じる。
あのフリートが嫌っている教会に利益になるような事をする筈がない。寧ろ何かを企んで、その為にイリナにエクスカリバーの芯を運ばせたと言う方が一誠には納得出来る。
絶対に教会には不幸な出来事しか待っていないと確信しながら、一誠は次の質問をゼノヴィアにする。
「イリナの事は分かった。だけど、どうしてお前は此処に居るんだ?・・・・もしかして・・お前?」
「察しの通り・・・神の不在を知った私は“異分子認定”を受けた。もう教会には戻る事は出来ない・・彼らからすればデュランダル使いで在る私も既に異端の存在さ」
自嘲するようにゼノヴィアは一誠とアーシアに告げた。
一誠はその事実に顔を僅かに険しげに歪める。分かっていた事だが、教会の方は自分達のとって不利益になる者に対しては徹底して排除に動く。上位の天使の方は分からないが、少なくとも教会の方は好きになれないと一誠は今回の件で確信した。
その様子に一誠が考えていると、ゆっくりとゼノヴィアは話の続きを再開する。
「まぁ、私も教会には色々と今回の件で疑問を覚えていたところだったから丁度良かったかもしれない。アーシア・アルジェントの件に・・・そしてあの剣の事も気になるしね」
「あの剣って?・・・もしかして師匠の『オメガブレード』の事か」
「そうだ・・・正直あの剣の前ではデュランダルも足元には及ばないだろう。あれほどの剣を従えているなら、『
夢幻の聖剣』が主と認めるのも納得出来た・・・人の平和を願う意思が具現化した剣か」
「そうね・・・私もあの剣には驚いたわ」
ゼノヴィアの言葉に奥に置かれている椅子に座っていたリアスも同意を示し、話を聞いていた朱乃、小猫、祐斗も心の底から同意するように頷いた。
「正直に言えば、私は前に会った時は『アルード』に対するお兄様達の行動は利用すると言うスタンスだと思っていたけど・・・・コカビエルの時の事を思うと・・・利用なんてすること事態自殺行為に近い事が理解出来たわ」
「聖書に名を残すほどの大物だったコカビエルを圧倒した一誠君の師匠に、私達の技量では届かない領域に在るフリートさん・・見た事もない生物に変身してケルベロスを圧倒したリンディさんに関しても凄まじい実力でしたし・・・正直恐ろしい方々ですわね。絶対に敵対だけはしたくないと心の底から思いましたわ」
「『オメガブレード』と言う剣も、今回は使用しませんでしたけど・・・計り知れない力を感じました。正直僕が得た『聖魔剣』でも勝てないと心の底から感じましたよ・・・あんな剣が存在していたなんて・・・でも何時か勝負はしてみたいかな」
「・・確か後、もう一人居るんですよね、兵藤先輩?」
「あぁ・・・・ブラック師匠のパートナーでルインフォースさん・・あの人もフリートさんやリンディさんと同じくらい危険な人です・・・(と言うか、俺が『禁手』に至る原因になった人だし・・・もしも戦うことになったりしたら)」
(喜んで相棒を攻撃するだろうな)
(うぅ・・・自分でした事ながら、あの時の俺は本当に馬鹿だった)
ドライグの容赦の無い言葉に、一誠は過去の自分の所業を思い出して心の底から後悔するように項垂れた。
その様子にリアス達は苦笑を浮かべながら、一先ずはブラック達に関する件は終わりにしてゼノヴィアと教会の件に関して話し出す。
「ゼノヴィアの事だけど、一誠やアーシアと同じように私の眷属候補と言う事になったわ。今は私が所持している残りの駒のどれを使うか検討中なの」
「えっ!?本当かよ!?ゼノヴィア」
「あぁ・・・本当だ・・・正直敵対して悪魔になるのはどうかと思う面も在るが・・・神が不在の教会に居たいと思わないし・・・それに・・・・正直この前の件だけで彼女にした事を私は赦して貰えないような気がするんだ」
そうゼノヴィアは言いながら、ゆっくりとソファーから立ち上がってアーシアを向き合い、深々と頭を下げる。
「・・・・謝って済む事ではないが・・・・アーシア・アルジェント・・君を異端視して傷つけるような言葉を言ったのは間違いだった・・・・君は侮辱した私にも手を差し伸べてくれた・・・・神が居なければ救いや愛も無いと言うのに・・・・本当にすまなかった・・・・許してくれと言うつもりはない。君の気が済むなら、私を殴ってくれて構わない」
「ゼノヴィアさん・・・・・その私も神の不在には心の底から驚きました・・・・正直に言えば今でもショックは隠せませんけど・・・今言われたような事をする気はありません。それに私はいまの生活が好きです。大切なヒトや、大切な方々に沢山の友達も出来ました。だから、気にしないで下さい」
「・・・・・君は本当に『聖母の微笑み』を得るべくして得たのかもしれない・・・(私は、この笑みを護りたいのかもしれないな)」
自身に向かって優しげに微笑むアーシアの姿に、ゼノヴィアは目の前に在るアーシアの笑みを心から護りたいと思うのだった。
それを見ていたリアスはゼノヴィアとアーシアの和解を済んだと考えて、自身の下に届いた情報を話し出す。
「お兄様から連絡が届いて、近々三勢力のトップが会合を開くらしいわ。教会の方もバルパーを見逃していた件で謝罪をして来たらしいし、堕天使総督のアザゼルも今回のコカビエルの件で正式に謝罪の場を設けたいと伝えて来たの・・・とは言っても、何処までは本当なのかどちらも分からないのが実情ね、お兄様は受ける気みたいだけど・・・私達もその場に招待される事になったわ」
「マジですか!?」
「えぇ、詳しい話を現場に居た私達から聞きたいらしいの・・・とは言っても、あの戦いを伝えろと言われてもね」
「・・・正直・・次元が違い過ぎる戦いで説明に困りますわ」
リアスと朱乃は揃ってブラックとコカビエルの戦いをどう説明したら良いものか悩むように声を出し、一誠を除いたあの場に居た全員が同感だと言う頷いた。
余りにもブラックの戦いは常識を外れているとしか言えなかった。その前のリンディに関しては何とかリアス達の許容範囲だったが、ブラックの戦いをどう説明すれば良いのかと心の底から悩むように難しい顔をする。
「・・・・まぁ、まだ、時間は在るし、最悪の場合はリンディさん達に相談するしかないわね・・・・それじゃ、今日の部活を始めましょう。イッセーとアーシアは今日はゼノヴィアに仕事の流れを教えて上げて。他の皆は何時もどおりの仕事をね」
『はい!!』
リアスの言葉に一誠達は頷き、悪魔としての仕事を開始するのだった。
教会の派閥の一つである正教会本部。
その場所にイリナが回収して来た芯となった四本のエクスカリバーと、『
破壊の聖剣』が運び込まれていた。回収が成功したと言う報告が届いてから即座に正教会が、自分達が護っていた盗まれていなかった教会が保有している最後のエクスカリバーと一緒にすべきだと言う意見が出たのだ。
そのまま全てのエクスカリバーを正教会の重鎮達は自分達の管理化に置こうと考えていたが、その考えは無駄となった。何故ならば六本のエクスカリバーが揃った瞬間に、芯だけとなっていた『
夢幻の聖剣』から突如として膨大な聖なるオーラが発生し、近くに居た正教会の関係者を吹き飛ばしたばかりか、他の五本のエクスカリバーを取り込もうとするかのように統合用の陣を発生させたのだ。
「な、何が起きているのだ!?一体何が!?」
「・・・・・なるほど、彼女達が関わっていながら、簡単にエクスカリバーが回収されたと思いましたが、これが狙いでしたか」
『ッ!!!』
突然に響いた声に部屋の中に居た全員が慌てて声の聞こえて来た方に目を向け、即座にその場に居る全員が跪いた。
彼らの視線の先に立っていたのは背中に金色の十二枚の翼を持ち、豪華な白いローブに身を包んだ頭部の上に金色の輪が浮かんでいる端正な顔立ちの青年。その青年は教会関係者の重鎮でも雲の上のような存在。その人物の突然の来訪に正教会の重鎮達は平伏し続ける。
一方の青年は自身の周りで跪いている者達など気にせずに、統合を開始している『
夢幻の聖剣』の芯の姿を興味深そうに眺めていた。
「やはり、コレは?・・・・どうやら『
夢幻の聖剣』は自らの主を見つけたようですね」
「な、何ですと!?で、では、この状況はその者が仕組んだと言う事でしょうか!?エクスカリバーを強奪する為に!?」
「相手側にそのような意図が在るかは分かりません。寧ろ今発生している統合用の陣は、『
夢幻の聖剣』の意思に反応して動いているようです」
「で、では、この現象はエクスカリバーの意思だと言うのですか!?」
青年の言葉に一人の重鎮が叫び、目の前で進行を続けている六本のエクスカリバーの統合儀式に慌てて目を向ける。
そして徐々に光の強さが強まって行き、一際光が溢れかえって部屋全体が光に包まれる。突然に発生した膨大な光に目を瞑っていた重鎮達の視界が戻った後には、宙に浮かぶ“神々しいまでのオーラを発する漆黒の西洋の剣”が存在していた。
「おぉぉっ!・・こ、これが六本のエクスカリバーが一つに統合された剣・・・」
神々しい剣の出現に一人の重鎮は我知らずに手を伸ばし、統合されたエクスカリバーに触れようとした瞬間、その手が剣を覆うように発生していた神々しい聖なるオーラによって跡形も無く吹き飛ぶ。
ーーーバンッ!!
「ヒギャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!腕が!?私の腕が!?」
「こ、これは一体!?」
自らが保有していた筈のエクスカリバーが引き起こした現象に、腕を失った教会の重鎮を介抱しながら、他の重鎮達は静かに佇み続ける統合されたエクスカリバーを呆然と見つめる。
十二枚の翼を背中に供えた青年は今の現象の意味を理解して苦笑のような笑みを浮かべて、エクスカリバーに背を向けると共に重鎮達に向かって声をかける。
「『聖剣計画』は現時点を持って完全に凍結します」
『ッ!!』
告げられた教会全体にとっての重大案件に関する内容に、その場に居た重鎮達は慌てて青年へと顔を向けた。
「あの計画は『エクスカリバー』の使用者を生み出す研究でしたが、教会が保有していたエクスカリバーは統合されて、たった今そのエクスカリバーに教会の上役が否定されました。もはや、エクスカリバーの担い手は教会内では生まれない。これ以上の計画の実行は不利益にしかなりません」
「お、お待ちください!!全員が試していないのです!!エクスカリバーが教会全体を否定したとは…」
「ならば、否定された者は『異端』の認定を受けますか?」
『ッ!!』
青年の冷静な言葉にその場に居る全員が言葉を失った。
今まで数多くの者を『異端』として指定して来た重鎮達だが、自分達がその称号を得るとは考えた事も無かった。だが、教会が大切に保管して来たエクスカリバーに拒絶されると言う事は、確かに『異端』として見られても可笑しくない。
その事実に行き着いた重鎮達の誰もが顔を青ざめさせて青年を見つめると、青年は冷静な声で告げる。
「『聖剣計画』はエクスカリバーを真に扱える者を生み出す計画だった筈です・・・既に主が居るのならば、その必要は無いでしょう・・・それと、前にも言いましたが、勝手に『アルード』と敵対する行動を取るならば、天界はそれ相応の処置を取るので覚悟しておきなさい」
そう青年は告げると共に部屋から出て行き、残された正教会の重鎮達は漆黒に染まっている統合されたエクスカリバーを呆然と見続けるのだった。
そして部屋から出た青年が通路を歩いていると、その先からウェーブが掛かったブロンドの髪の女性が歩いて来て、青年に声をかける。
「やっぱり、エクスカリバーは駄目だったみたいですね・・・ミカエル?」
「えぇ、彼らが関わっていると知った時から予想はしていましたけどね、ガブリエル」
青年-現天界の纏め役であるミカエル-は、目の前に立つ天界最強の女性天使-『ガブリエル』-の言葉に苦笑を浮かべながら答えた。
「でも、これで『聖剣計画』は本当に凍結に持ち込めました。バルパーが立案した計画は、形は最悪にしても間違いなくエクスカリバーの使用が出来ましたから、完全に凍結する訳には行きませんでしたからね」
「・・私としては、命を弄ぶようなあの計画が消えてスッキリしました・・・・それで今回の件を利用する気なのでしょう?」
「えぇ・・・漸く三勢力が歩み寄れる機会が巡って来ました・・・・しかし、ガブリエル。私にも内緒で動くのは出来るだけ控えて欲しいのですが?」
「私はただお友達に連絡して頼んだだけですよ。『アスカロン』はそのお友達に上げただけですから」
「『アスカロン』も教会の大切な剣なのですが・・・・・確かに“彼女”があの悪魔の手に取り込まれるのは赦せませんからね」
「彼女が宿す『
神器』が『聖母の微笑み』だと判明した時は・・・・本当に無念でした・・・あの子こそ、貴方が開発しようとしている『御使い』システムで私が第一に天使に転生させようとしていた候補でしたのに・・・・非常に遺憾な念が隠せません」
「システムに関しては調整中です。まだ、彼女自身は悪魔に転生していませんから、機会は在ると私は考えていますよ」
「それが無理だと分かっていての励ましはいりません、ミカエル」
そう僅かにガブリエルは不機嫌そうに目を細めると、ゆっくりとミカエルに背を向けて歩き出す。
ミカエルはその様子に苦笑の浮かべながら、ガブリエルの後を追って行くのだった。
部活が終わってからアーシアと共に家へと帰宅した一誠は、家の中に居た人物の姿に目を見開く。
その人物は楽しげに一誠の両親と会話し、その隣にはリンディが座っていた。驚きで出入り口で固まっている一誠とアーシアに気がついたその人物は、ゆっくりと笑みを浮かべて一誠とアーシアに声をかける。
「こんばんは、イッセーにアーシア」
「部長!?」
「リアスお姉様!?ど、どうして此処に!?」
「今日から私も此処に住むからよ。ご両親の方も同意してくれたわ」
その言葉に一誠が自身の母親と父親に目を向けて見ると、二人とも嬉しそうな顔をしながらリアスとアーシアに交互に視線を向けていた。
「母さんは本当に嬉しいわ!!義娘が二人出来たみたいなんですもの・・オーフィスちゃんも可愛いけれど、アーシアちゃんもリアスさんも可愛い子達だからね」
「こんな日が来るとは思ってなかった!!一時期は諦めかけていた孫を見れるかもしれないのだから、父さんはリアスさんの同居を認めるぞ!!」
「と言う訳で、リンディさんに頼んで二人と交渉していたの。今日から宜しくね、二人とも」
「お、俺は構いませんけど・・・オーフィスはどうなんですか?」
「オーフィスちゃんの方も構わないらしいわ」
一誠の質問にリンディ茶を飲んでいたリンディがゆっくりと湯飲みをテーブルに置きながら告げた。
アーシアは現在の状況に、『コカビエル事件』の前にリアスがリンディと頼んでいたのは、一誠の家に住む為の事だったのだと納得したように頷く。
「リアスお姉様、あの時からイッセーさんの家に住む気だったんですね?」
「そうよ、アーシア・・・事件のせいで今日まで日が伸びてしまったのだけどね・・・とは言っても、リンディさんが今日此処に来たのはそれだけじゃないようなのだけれど」
「へっ?・・・・リンディさん・・もしかして何か在ったんですか?」
「何を言っているの一誠君?ゼノヴィアさんとイリナさんと戦った時に言っておいたでしょう?『今回の件が終わったら、お話しましょう』って」
「・・・・・・・・アッ」
リンディの言葉に漸く一誠はイリナに『
洋服崩壊』を使用した時の出来事を思い出した。
正直コカビエルの件や祐斗の件で忘れていたが、確かにリンディは『事件が終わった後に話をする』と言っていた。
その件を完全に思い出した一誠は体を恐怖で震わせて思わず後ろに足が動くが、逃がさないというように一誠の体に翡翠色のバインドが巻きつく。
ーーーガシィィィィーーン!!
「バインド!?部長!!アーシア!!母さん!!父さん!!助けて!!!」
逃げられないと悟った一誠は思わずリアス達に助けを求めるが返って来たのは無情の言葉だった。
「イッセー・・・私も流石に女性を裸にする技に関しては使用を控えて欲しいの・・・だから、ゴメンね」
「イッセーさん・・・私はイッセーさんが好きですけれど・・スケベな面はその少し控えて欲しいので・・・頑張って来て下さい!!」
「一誠。これを機会に今度こそ自分の考えを改めて来なさい」
「一誠よ・・・男としてはお前の行動に同意する面は在るが・・・・リンディさんを敵に回すのは私では無理だ・・・・骨は拾うから安心してくれ」
一部大胆過ぎる発言は在るが、誰一人として味方が居ないのだと言う事実に行き着いた一誠は顔を青ざめさせる。
リンディはそんな一誠の様子に構わずに襟首を掴んで、引き摺りながら外への出口に向かって歩き出す。
「許可も出た事だし、お話しましょうね、一誠君」
(ヒィィィィッ!!ドライグ!!助けてくれ!!『
禁手化』だ!!)
(・・・・・・相棒・・・俺は本当に『変態龍帝』なんて称号だけはゴメンだ・・・・何よりも、リンディを怒らせるのは俺も怖い)
(アレ!?負けてるよ!!伝説の二天龍が負けているんですけど!?)
(フッ・・・相棒・・俺はお前と付き合っていて一つの真理に辿り着いた・・・結局男は本当の意味で強い女には勝てないのさ)
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!」
自身の相棒であるドライグの無情な言葉に一誠は悲鳴を上げるが、リンディは気にせずに出入り口の扉を開けて、一誠を外へと連れて行き。
ーーーバタン!
慈悲も何も感じさせない無機質な音と共に扉が閉まった。
それをリビングから覗いていたリアス、アーシア、一誠の両親は一誠が無事に帰って来るのを願うのだった。