地面に倒れ伏している斬り倒したフリードと、土の上で輝いている砕けたエクスカリバーの破片を見下ろしながら、祐斗は『聖魔剣』を強く握りながら天を仰ぎ見る。
その心中に宿る感情は達成感ではなく、喪失感に近い感情だった。どんな形で在れ、人生の目的の一つだった『エクスカリバーの破壊』を祐斗は成し遂げる事が出来た。故にその身に宿る感情は達成感よりも喪失感の割合が大きかったのだ。
祐斗が自身の感情に関して複雑な想いを抱いていると、ありえない事実を目にしたような声が耳に届いて来る。
「・・せ、『聖魔剣』だと?・・・・ありえない・・反発し合う要素が混じり合うことなど・・あ、あるはずがないのだ」
聞こえて来た声に祐斗が目を向けて見ると、表情を強張らせながら『聖魔剣』を見つめているバルパーに気がつく。
まだ、終わっていないのだと理解した祐斗は『聖魔剣』の切っ先をバルパーに向けて構える。
「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう!」
「ありえん・・在り得る筈が・・・・いや・・・・待て・・もしもバランスが崩れているとしたら」
祐斗はそう宣言すると共にバルパーに切り込もうとするが、バルパーは祐斗の様子にも気がつかずに何かを考え込むようにブツブツと小声で呟き続ける。
構わずに祐斗は切り倒そうとするが、その前に遂に何かに得心が言ったかのようにバルパーは顔を上げる。
「そうか!!!分かったぞ!!そうだったのか!!!聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとすれば、全ての説明がつく!!!ハハハハハハハハッ!!!何と、何と言うことだ!?私を含めた全てが教会の道化で在ったとはな!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「ほう・・バルパーよ。やはり、貴様は優秀なようだな。まさか、其処に思考が行き着くとは」
狂ったような笑い続けるバルパーの姿に、コカビエルは興味を覚えたように視線を向けながら、ゆっくりと右手に光の槍を作り上げる。
そのままバルパーの背に向かって放とうとするが、その直前に赤黒いエネルギー球が自身に高速で向かって来ている事に気がつく。
ーーービュン!!
「ムッ!!」
ーーードゴオォォォン!!
向かって来たエネルギー球に対してコカビエルは即座に右手に持つ光の槍を投げつけて迎撃し、空中で大爆発が起こった。
爆発によって生じた煙が晴れると共にコカビエルは、ゆっくりとエネルギー球を投げつけたブラックに視線を向ける。
「貴様」
「高みの見物はもう良いだろう?そろそろ、始めるぞ」
ブラックはそう宣言すると共にゆっくりと足を前へと踏み出す。
その様子を見ていた一誠とバイオ・ズドモンに進化しているリンディは遂に来たと悟り、周りに居るリアス、ソーナ、朱乃、子猫、祐斗、アーシア、椿姫、ゼノヴィアに向かって叫ぶ。
「全員!すぐに私の傍に!!早く!!」
「急げ!!このままだと巻き込まれる!!だから、早くリンディさんの傍に!!」
リンディと一誠がそう叫ぶと、リアス達は事前の取り決めを思い出してリンディの足元へと急いで集まる。
バルパーを斬り倒そうとして祐斗も、残念そうな顔をしながら椿姫と、アーシアに手を引かれているゼノヴィアの後をついて行く。
そして最後に一誠が地面に倒れ伏していたイリナを抱えてリンディの下へと急ぐ。全員がこれで集まったとリンディは判断して護りを固めようとするが、その前に哄笑を上げて続けていたバルパーの言葉をリアス達は耳にする。
「フハハハハハハハハハハハッ!!!既にいないのだな!?だから、私には神の裁きは降らなかった!!!聖を司る存在!!“神は既にこの世にいないのだ”!!!!!」
『ッ!!!』
「・・・・・な・・・・ん・・だと?」
「・・・主が・・いない?」
バルパーが告げた事実にリンディ、一誠、気絶しているイリナ、そしてブラックを除いた全員が信じられないと言うように哄笑を上げ続けているバルパーを見つめる。特にゼノヴィアとアーシアは傍目から見ても困惑していると分かるほどに表情が歪んでいた。
リンディ、一誠、ブラックを除いた誰もがバルパーを見つめていると、バルパーは哄笑を上げるのを止めて上空に居るコカビエルに険しい視線を向ける。
「コカビエル!!戦争を生き延びた貴様が知らぬ筈は在るまい!!!私の考えは当たっているのだろう!?神は先の戦争で四人の魔王と同じように死んだのだな!?」
「バルパー・・・やはり、貴様は優秀だ。三大勢力のトップと一部の者しか知らない。真実に行き着いたのだからな」
「やはりか!!クハハハハハハハハハッ!!!滑稽だ!滑稽過ぎるな!?私を含めた教会の関係者は騙されていたと言う事か!?天使どもに!?」
「その通りだ」
ーーーガチャッ!!
「・・・ウソだ・・ウソだ・・主が居ないなどと・・では、私が信じていたモノは・・何だったんだ?」
バルパーとコカビエルの会話を聞いていたゼノヴィアは手に持っていたデュランダルを落とし、力が抜けて地面に項垂れた。
リアス達も始めて知った天使側に起きていた事実にそれぞれが驚きながら顔を見合わせていると、コカビエルは更に語り出す。
「先の戦争で天使と悪魔は当時の自分達の主を失った。戦後に残されたのは、神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外の殆どを失った堕天使だった。もはや、疲弊状態どころではなかった。何処の勢力も人間に頼らなければ種の存続さえも落ちぶれていた。特に天使と堕天使は人間と交わらなければ種を残せない。堕天使は天使が堕ちれば増えるが、純粋な天使は神が死んだ事によってもはや増える事は無い。悪魔にしたところで、純粋な悪魔の存在は希少となった。ソレこそが真実だ。バルパー・・・・貴様を含めた教会の関係者は居もしない神の権威を借りていた道化に過ぎないのだ」
コカビエルが告げる真実に誰もが口を挟めなかった。
悪魔であるリアス達にしても、自分達の絶対の敵として教えられていた神の死には少なからず衝撃を覚えていた。特に教会に居た祐斗と、神を信仰していたゼノヴィアとアーシアが受けた衝撃は凄まじく、三人とも狼狽したように視線を彷徨わせていた。
そんな中、リアスはコカビエルが告げた真実に混乱している様子が無いリンディと一誠に気がつく。
「イッセー・・・・リンディさん・・・もしかして?」
「・・・すいません、部長・・・・俺とリンディさんは知っていました・・・・神が居ない事を」
申し訳なさそうな声で一誠はリアスに告げ、その場に居る全員の視線が一誠とリンディに集まる。
「・・・・・神の不在の情報は三勢力にとって絶対に外部に知られては不味い情報・・・・だから、私達が一誠君を口止めしておいたの・・教えたのもつい最近だったのだけれど・・・コカビエルが言っている事は真実よ」
「・・・・・主はいないのですか?・・・神は死んでいる?・・・それじゃ、私達に与えられている愛は?」
そのアーシアの疑問をコカビエルは耳にし、可笑しそうに笑いながら疑問の答えを告げる。
「神の守護や愛などはもはや存在しない。神は既にいないのだからな。忌々しい天使どもの今のトップであるミカエルは良くやっている。神の代わりをして天使と人間どもを纏めているのだから・・だが、それも完全ではない。其処に居るバルパーのように自身の目的の為に動く者も居る。しかし、それらに対して神の裁きなどは降る事は無い。だからこそ、切られたとしても我々堕天使の下に来る事が出来る連中が増えたのだ。其処の小僧が『聖魔剣』を創りだせたのも神と魔王のバランスが崩れているからだ。本来ならば混じる事など出来ない聖と魔が交じり合えたのも、神と魔王と言う聖と魔のパワーバランスが崩れた影響。故に特異な現象が世界で起こる」
ーーーバタ!!
「アーシア!!アーシア!!確りしろ!!」
崩れ落ちたアーシアを一誠は慌てて抱えて呼びかけるが、アーシアは全身を震わせるだけで一誠の呼びかけに答えられなかった。
リアス達も知らされた驚愕の真実に視線を彷徨わせる。そんなリアス達をコカビエルが見下ろしながら天に向かって拳をかざす。
「俺は戦争を始める!!アザゼルの野郎は戦争で部下を大半なくしていたせいか『二度目の戦争はない』などほざいていたが・・・・・耐え難い!!耐え難いんだよ!!一度振り上げた拳を収めるだと?・・・ふざけるな!!あのまま戦争を継続していれば、俺達は勝てたかも知れないんだ!!それを奴は、腑抜けたばかりか、人間の『神器』所持者を組織に招き出した!!そんな堕天使に何の価値が在る!!他の幹部連中も同じだ!!ならば、俺だけでもあの時の戦争の続きをしてやる!!我ら堕天使こそが最強なのだとサーゼクスにもミカエルにも見せ付けてやる!!!」
「わ、私はどうなるのだ!?貴様の計画は私にも利益が在るは…」
「フン・・バルパー・・確かに貴様は優秀だ。だが、貴様の研究は敗北した。もはや俺には必要ない。消え去れ」
「なっ!?」
コカビエルの死の宣言にバルパーは驚愕と恐怖に駆られて後退り、無言で立っていたブラックに背中からぶつかる。
ーーードン!!
「ヒッ!!・・・た、助けてくれ!!!お前は本当は私の研究の成果で『
夢幻の聖剣』を扱えているのだろう!?言うなれば私は恩人だ!!だから、コカビエルから護って…」
「・・・・・下らん」
コカビエルの懇願に対してブラックは路傍の石を見つめるような視線をバルパーに向けた。
その意思在る者として認めて居られないようなブラックの視線にバルパーは恐怖を覚えるが、ブラックは構わずに真の姿に戻る為の言葉を呟く。
「ハイパーダークエヴォリューション」
ーーーギュルルルルルルルルルッ!!!
突然にブラックの体を覆い隠しように発生した黒い無数のコードをバルパーは声も出せずに見つめる。
そして黒いコードが消えた後には何処までも黒い漆黒の体に、金色の髪に鈍く光る銀色の頭部に胸当てをし、両腕の肘まで覆う手甲の先に、三本の鍵爪の様な刃を装備した漆黒の竜人-ブラックウォーグレイモン-が立っていた。
その姿を目にしたバルパーは漸くブラックの正体を理解して、恐怖に体を震わせながら自身を見下ろすブラックを見つめる。
「・・・・ま、まさか・・・貴様は『漆黒の竜人』」
「漸く気がついたか・・貴様が所属していた教会が異端だと告げていた俺に・・・貴様はさっきから俺があの剣を使えるのは自分のおかげだと言っていたな・・・・とんだ勘違いだ。貴様の研究は結局は不完全な形でしか『聖剣』を扱えない出来損ないの研究・・・それに“あの程度の剣”しか使えん貴様の研究など下らんとしか言えんな」
「・・・・・あの程度の剣だと?・・・ふざけるな!!!エクスカリバーは伝説に名を残すほどの剣!!それを使える私の研究は重要な意味を持っているのだ!!下らんなどと言われる覚えは無い!!!」
「ほう・・・なら、貴様に魅せてやる・・・・・・出ろ・・・・“オメガブレード”」
ーーードックン!!
ブラックが名を告げると共にまるで何かが鼓動するかような音を、この場に居る全員が耳にしたような気がした。
一体何だったとかと、全員がブラックに視線を向けて右手に何時の間にか握られていた“ソレ”に目が釘付けになった。
何時ソレが顕現したのかブラックを除いて誰もが判らなかった。だが、ソレはこの場に居る一瞬してこの場に居る誰もが目を離す事が出来ないほどのモノだった。茫然自失していたアーシアとゼノヴィアも顔を上げて呆然とソレを見つめ、コカビエルさえもブラックの右手に顕現したソレを呆然と見つめるしかなかった。
漆黒の彩られながらも見る者の心を捉えて離さないほどの優美さと美しさを兼ね備えた西洋の剣を思わせる長剣。剣から発せられるオーラは、エクスカリバーは纏っていたオーラさえも霞む程でありながらも静寂さに満ちていた。
ブラックはゆっくりと右手に持つ漆黒の長剣-『オメガブレード』-をバルパーに向ける。
ーーーブン!!
「・・・・な・・・何だ・・・その剣は・・・一体・・ソレは何だ?」
「コイツの名は『オメガブレード』。貴様のような戦争と言う混沌を望む人間が居るように、同じぐらいソレを否定する者達が居る・・・・コイツはソレが具現化した結果生まれた剣。“人間どもの平和を望む意思が具現化した剣だ”」
「・・・ば・・馬鹿な・・・そのような剣が存在する筈が…」
「クハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!面白い!!面白いぞ!!!」
バルパーの言葉を遮るようにコカビエルは狂喜に彩られた笑い声を上げて、ブラックの右手に在るオメガブレードを見つめる。
「平和の意志の具現化!!!コレは面白い!!!戦争を望む俺の前に戦争を拒絶する願いの剣が立ち塞がるか!!!其処の竜人!!俺とその剣を使って戦え!!その剣を打ち壊してくれる!!」
そうコカビエルは狂喜の彩られた声でブラックに対して宣言した。
だが、その宣言に対してブラックは右手に持つオメガブレードを持ち直すと共に地面にオメガブレードを突き刺す。
ーーードスッ!!
「・・・何のつもりだ?」
「勘違いをするな、コカビエル。俺はオメガブレードを貴様との戦いで使う気など無い。コイツを呼び出したのは、其処で呆けている奴に見せる為だけだ」
ブラックはそう告げながら、地面に膝を着いてブツブツと顔を俯かせながら呟いているバルパーに視線を僅かに向ける。
オメガブレードの圧倒的なオーラに飲まれたのか、バルパーは虚ろな眼差しで何かを否定するように言葉を呟き続ける。そのバルパーにブラックは完全に興味を失い、両手に装着しているドラモンキラーを構えながらコカビエルに視線を向ける。
「俺にオメガブレードを使用させたいのなら俺を楽しませてみろ、堕天使コカビエル」
「き、貴様!!ならば、覚悟するがいい!!その剣を使わなかった事を後悔しながら消え去れ!!!」
コカビエルが怒りに満ちた叫びを上げると共に、巨大な光の槍を出現させてブラックに向かって投げつける。
光速で投げつけられた光の槍は真っ直ぐに地上に立つブラックへと向かい、凄まじい衝撃波と爆風が辺りに撒き散らされる。
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォン!!!!
「・・・所詮は口先だけ…」
「コレが貴様の使う光の槍か・・・薄汚い光だ」
コカビエルの言葉を遮るように爆発によって生じた煙の中から声が響き、コカビエルが投げつけた光の槍を右手の先に発生させた空間の歪みを利用して受け止めているブラックが姿を現す。
「ほう・・・・俺の槍を受け止めるとは、少しはやるようだな」
「フン・・・こんな小手先の攻撃などつまらん」
ーーーバキィィィィィーーン!!
ブラックが右手に力を込めると共に光の槍は跡形も無く砕け散った。
そのまま即座にコカビエルに向かってブラックは飛び出し、左手のドラモンキラーを全力で振り抜く。
ーーードン!!!
「ドラモンキラーーー!!!!!」
「単調な攻撃だ」
コカビエルはそう言いながら右手に光の剣を出現させて、ブラックの一撃を防ごうとする。
しかし、コカビエルの考えを否定するように光の剣とドラモンキラーがぶつかり合った瞬間、光の剣は甲高い音を立てながら砕け散る。
ーーーバキィィン!!
「なっ!?」
「ムン!!」
ーーードゴオオォォン!!
「ガハッ!!」
ーーードオオオオオオオオオオオオオン!!!
光の剣が砕けた事実に驚いたコカビエルの胴体に蹴りを叩き込み、そのまま背後に在った駒王学園の新校舎に激突して瓦礫に飲み込まれた。
ブラックはそれを確認すると即座に両手を前に突き出して、次々と両手の先からエネルギー弾を連続で撃ち出す。
「ウォーーブラスターーーー!!!!!!」
ーーードドドドドドドドドドドドドドドドドドドドゴオオォォンッ!!!
連続で放たれたエネルギー弾は次々とコカビエルが居るはずの瓦礫に向かって直撃し、新校舎は次々と起こる爆発によって完全に瓦礫の山と化した。
離れたところでリンディに護られながらリアス達が容赦の無いブラックの攻撃を呆然と見つめていると、瓦礫と化した新校舎の中からボロボロになったローブを纏い、鬼の形相になったコカビエルが飛び出す。
ーーードゴッ!!
「貴様!!!良くもやって…」
ーーードゴォォン!!
「グフッ!!」
叫んでいる途中で、何時の間にかコカビエルの頭上に移動していたブラックがコカビエルの頭部に踵落としを叩き込んだ。
苦痛と衝撃によってコカビエルの動きが一瞬止まると共に、ブラックは右手のドラモンキラーの刃を振り抜き、コカビエルの背に生えている十枚の黒い翼の一つを切り落として翼は宙に舞う。
ーーーザン!!
「グアッ!!・・・貴様!!俺の羽を!?」
翼を切り落とされたコカビエルは怒り狂うが、ブラックは気にせずにコカビエルに目を向ける。
「コレだけやれば目が覚めただろう?全力で来い」
「ふざけるな!!!この俺を!?堕天使コカビエルを怒らせた事を後悔しながら消え去れ!!!」
コカビエルが叫ぶと共に無数の光の槍がブラックを囲むように出現し、一斉にブラックに光速で向かい出した。
必ず全て直撃するとコカビエルは確信して笑みを浮かべるが、その確信を裏切るようにブラックは両手のドラモンキラーを連続で振り抜いて光の槍を次々と砕く。
「ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ーーーガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
「ッ!!!」
次々と両手のドラモンキラー、或いは足に装着してある膝当てで光の槍を破壊して行くブラックの姿をコカビエルは言葉も発せずに呆然と見つめる。
背後から迫る光の槍に対しては背中の翼のような物にブラックは当てるように動かして防ぎ、全ての光の槍を迎撃し終える。その姿にコカビエルは以前にアザゼルから言われた言葉が脳裏に過ぎった。
『漆黒の鎧を着た竜人には手を出すなよ。ありゃ、相当な修羅場を越えて来た奴だ・・・戦う事になったら死も覚悟しておけ』
「・・そうか・・・アザゼルの野郎が言っていた漆黒の鎧を着た竜人とは・・・貴様の事か!?」
「今頃気がついたか?ならば、尚更に覚悟が決まっただろう?俺を楽しませろ!!!」
ーーービュン!!
「チィッ!!」
自身に向かってくるブラックに危機感を覚えたコカビエルは、両手に光の槍と剣を出現させてブラックと空中で戦いを繰り広げる。
「オオォォォォォォォォォッ!!!」
「ヌオォォォォォォォォッ!!」
ーーーキィン!!ドゴッ!!ガキィィィーーーン!!ドガッ!!
次々とブラックとコカビエルが繰り出す攻撃によって辺りに衝撃波が撒き散らされるが、二人は構わずに戦い続ける。
しかし、徐々にコカビエルの方がブラックの猛攻を防げなくなって行く。両手に出現させている光の槍と剣は負の力を纏わせたドラモンキラーの一撃によって砕けて行き、遠距離から攻撃しようにもブラックはコカビエルの傍から離れずに攻撃して来るので離れる事が出来ない。
「おのれ!!!」
背の九枚の翼をコカビエルは鋭い刃物に変えてブラックにそれぞれ振るう。
ブラックは自身に向かって振るわれた刃物と化した九枚の翼に一瞬だけ視線を向けると、その内の二枚を両手で掴み取り、残りを身に纏う鎧で防ぐが何枚かの刃に身を貫かれる。
ーーーザン!!!
(コイツ!?自分の致命傷となるモノだけを一瞬で判断したのか!?離れなければ!?)
ブラックの行動の意味を理解したコカビエルは掴み取られている翼を犠牲にしてでも逃げようとする。
だが、そうはさせないと言うようにブラックは体に力を込めて身を貫いている翼を抜かせない。
ーーーグググゥッ!!
「貴様!?正気か!?」
「さてな。俺が正気かなどはどうでもいい。ただ貴様との戦いが楽しめればな!!!!」
ーーーブザン!!
「ガアァァァァァァァァッ!!!」
歓喜に満ちた咆哮と共にブラックは掴んでいた翼を二枚とも全力で引っ張り、コカビエルの翼を二枚とも、つかみ取った。
背に襲い掛かる激痛にコカビエルは暴れるが、ブラックは構わずに鎧で弾いた翼を次々と掴み取ってコカビエルの背から翼を引き抜いて鮮血が辺りに舞い散る。
ーーーブシャァァァァァァァァァッ!!!
「グアァァァァァッ!!翼が!?俺の翼が!?止めろオォォォォォッ!!!」
「貴様は自ら自分の翼を武器として使用したんだ。ソレが無くなっても構わないのだろう?それに貴様は自ら地よりも下に堕ちた堕天使だ・・・翼など必要あるまい!!!」
ーーードゴオォォン!!
「グハッ!!」
ブラックの渾身の蹴りを食らうと共に漸く突き刺していた翼が抜け、コカビエルは地面に激突した。
起き上がろうとするが咽喉から何かがせり上がり、口から血と共に吐しゃ物を地面に撒き散らす。
「ブハッ!!ゲハッ!!・・ば、馬鹿な・・・こ、この俺が・・グハッ!!・・お、俺は」
「負けるはずが無い?それともこんなことはありえないか?」
「グゥッ!!」
聞こえて来た声に顔を向けて見ると、自身を見下ろしているブラックをコカビエルは目にする。
ソレと共にコカビエルの身は震え出し、少しでもブラックから離れようとするように体が勝手に後方へと下がる。
(お、俺は・・まさか・・きょ、恐怖を感じているのか?・・馬鹿な!?俺は堕天使コカビエルだ!?訳の判らないこんな奴に負けるはずが…)
「無いか?」
「ッ!!」
自身の考えている事を読み取ったかのように告げられたブラックの言葉に、コカビエルは目を見開いた。
湧き上がってくる感情を否定するようにコカビエルは首を横に振ると、全身の力を集めるように右手を掲げて先ほどよりも明らかに密度が高いと分かる巨大な光の出現させた。全身全霊が篭もった一撃が来る事を悟ったブラックは歓喜しながら、両手を頭上に掲げて大気中に存在する負の力を凝縮させて巨大なエネルギー球を作り上げる。
そして自身の力が最大限に高まったと感じた瞬間、コカビエルとブラックは同時に相手に向かって放つ。
「消え去れエェェェェェェェェェェェッ!!!」
「ガイアフォーーース!!!!!」
ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
コカビエルが放った光の槍とブラックが放った負の力を凝縮したガイアフォースは両者が居る中間で激突し合い、相手を撃ち砕こうと鬩ぎ合う。
しかし、徐々にコカビエルの光の槍がガイアフォースによってコカビエル側の方へと押し込まれて行く。
ーーーグググッ!!
「何だと!?俺が!?この俺が負けると言うのか!?この俺が!?」
目の前に広がる光景が信じられずにコカビエルは叫ぶが、現実は変わる事無く遂にガイアフォースは鬩ぎ合っていた光の槍を撃ち砕き、コカビエルに直撃する。
ーーードゴオオオオオオオオォォン!!!
「ガアァァァァァァァァァァァァッ!!!」
光の槍との鬩ぎあいで威力が落ちていたのか、ガイアフォースの直撃を食らいながらもコカビエルは防御するように全身に光の力を纏わせることで決定的なダメージを逃れていた。
このままガイアフォースを弾こうとコカビエルは更に力を振り絞ろうとするが、その前にガイアフォースを貫いて黒く輝く『
夢幻の聖剣』がコカビエルの心臓の位置に深々と突き刺さる。
ーーードスゥン!!
「ガハッ!!・・・・夢幻の・・・・・聖剣」
自身の心臓に突き刺さる『
夢幻の聖剣』を血を吐きながら見ていたコカビエルは、ゆっくりと顔を上げて『
夢幻の聖剣』を投擲したブラックを目にする。
それと共に貫かれた事によって形を保てなくなったガイアフォースの負の力が荒れ狂い、遂に大爆発を引き起こす。
ーーードゴオオオオォォォォォォォォン!!!!!
(・・・・・アザゼル・・・・・お前は・・・・分かって・・・もう・・・俺達の時代では・・・・なかっ・・・)
最後に行き着いた思考に絶望感を抱きながら、コカビエルは大爆発の中に消え去った。
ブラックはソレを確認すると、ゆっくりとリアス達を護っていたリンディに目を向けるが、もはやこの場には用は無いと言うように地面に突き刺したままだったオメガブレードを引き抜いてこの場から去って行った。
次元が違うブラックとコカビエルの戦いにリアス達は、漸く戦いが終わったのだと安心して息を吐く。
そんな中、フッと祐斗は校庭を見回す。フィールド内の校庭は戦いが始まる前と違って破壊し尽くされているが、居るべき筈の者の姿が何処にも無い事に気がつく。
「バルパーが居ない!?」
その祐斗の叫びにリアス達も慌てて辺りを見ますが、ブラックとコカビエルが戦う前には確かに居た筈のバルパーの姿は何処にも無かった。
フリードらしき遺体は瓦礫の中に明らかに原型を保てていないとしか言えない形で埋もれて居るを発見するが、バルパーの遺体らしき者も何処にも見当たらなかった。
「まさか!?逃げられた!?」
「ですが、リアス!?此処は別空間です!幾ら彼が堕天使に組する者だとしても逃げられる筈が」
「・・多分、違いますよ、部長、会長」
「イッセー?」
「兵藤君?」
突然に一誠の発言にリアスとソーナは疑問の声を上げ、他の者達も一誠に目を向けると、進化を解いて人間の姿に戻ったリンディが空を見上げながら呟く。
「・・・・彼は向かってしまったのよ、絶望へとね」
リンディのその言葉にリアス達は何故か言い知れぬ予感を感じたのだった。
現実世界の街中。
フィールドから何故か抜け出すことが出来たバルパーは、虚ろな表情のまま自身がアジトとして使っていた場所へと歩いていた。最強だと信じていたエクスカリバーを三本統合しながら敗れたばかりか、自身の知る全ての聖剣を上回る剣を目にしてしまった。
一目見てバルパーは理解した。オメガブレードはどうやっても自身の研究成果では扱う事が不可能な剣なのだと。更に自身の研究成果で無くても『聖剣』を扱う方法が実在していた。
しかも、その方法は自身のように犠牲を生み出す事が無い方法。このままでは自身の今までの研究が全て無意味になってしまうと感じたバルパーは、茫然自失しながらも自分達が使用していたアジトの場所へと向かい、燃え盛るアジトの姿を目にする。
ーーーゴオオォォォォォッ!!
「オォォッ!!わ、私の!?私の研究が!?」
全てを燃やし尽くすような劫火に覆われているアジトの姿に、バルパーは泣き叫びながら地面へと膝を着く。
コカビエルに協力すると決めた時に、バルパーは他の堕天使勢に自身の研究を使用されない為に全ての研究資料をアジトに保管していたのである。そして今、そのアジトは何もかもを焼き尽くすような劫火に覆われてもはや原型を留めている様子が見えない。
「・・誰だ・・誰が私の研究の全てを!?」
「沢山の少年少女を犠牲にして作り上げた研究の成果を自分の成果と誇るのは違いますね。貴方の研究成果を作り上げたのは、犠牲になった子供達のおかげですよ」
「こう言う輩は何処の世界にも本当に居ますね」
「ッ!!」
聞こえて来た二つの女性の声にバルパーが背後を振り向いてみると、右手に聖なるオーラが迸っている『聖剣アスカロン』を持ったフリートと、何らかの資料と思われる紙束を持ったルインが立っていた。
バルパーは身に覚えの在る『聖剣アスカロン』を持つフリートと、紙束を持っているルインの姿に目を見開きながら叫ぶ。
「『アスカロン』!?そ、それにその紙束は!?」
「コレですか?貴方達のアジトの中に在った資料ですけど?」
「か、返せ!!それは私の、私の人生の全てだ!?」
「・・・確かに全てでしょうね・・・・何も知らせずに毒ガスで苦しめて殺した子供達の犠牲の上に成り立った研究成果・・・・こう言う物は」
ーーーボフン!!
ルインが呟くと共に手に持っていた紙束が火に覆われ、真っ赤に燃え上がった。
「アァァァァァァァァァァァァッ!!!!貴様ら!?貴様ら!?」
「フゥ〜・・・フリート・・後はお願いしますね」
「はいはい」
用は終わったとばかりに去って行くルインの背に答えながら、ゆっくりとフリートは手に持つ『アスカロン』をバルパーに良く見えるように掲げる。
それと共に『アスカロン』の周りに不可思議な陣が次々と発生し、陣が消えた瞬間に『アスカロン』は膨大な聖なるオーラを発生させ始める。
ーーーコオォォォッ!!
「実験成功ですね。いやはや、思ったよりも言う事を聞いてくれない子で困りましたよ」
「・・馬鹿な・・・な、何故・・『因子』も無く『アスカロン』が力を?」
「フゥ〜・・・・発想の転換です。貴方の研究は『聖剣を操る者』を作り上げる研究。私の聖剣研究は『聖剣が使用者に従う』研究だった。つまり、『聖剣』を道具扱いする研究なんですよ」
「なっ!?そんな研究を貴様は!?」
フリートが告げた研究の内容にバルパーは目を見開きながら叫んだ。
バルパーを含めた教会関係者にとって、『聖剣』とは伝説関係を含めて全て神聖で重大な代物。道具扱いすると言う考え自体が禁忌と言える代物なのだ。
だが、フリートにとっては教会の考えなど関係なかった。扱えるようにさえなれば、それだけ『聖剣』と言う武具は力になるのだから。
「命と道具・・果たしてどっちが重要なんでしょうね?・・まぁ、これから死ぬ貴方には関係在りませんけど」
「ッ!!ま、待って!?待ってくれ!!!私は教会の根幹を揺るがすほどの重要な情報を知っている!?ソレを教えて…」
「神の死なら知ってますよ」
「なっ!?」
「そっちの『聖剣研究』の内容も完全に把握していますし、何処の組織との繋がりも無い貴方には何の魅力も無いです・・・在るとすれば、私の研究成果を確かめるぐらいです」
「や、止め…」
「さようなら」
ーーーブザン!!!
感情の一切の篭もらない声でフリートは告げると共に、『アスカロン』をバルパーの首に向かって振り抜いた。
首を切り落とされたバルパーの体は地面へと倒れ伏し、宙に舞ったバルパーの苦悶に染まった首が地面へと転がり落ちる。
「これにて依頼は完了です・・・・・さぁ〜て、アザゼルへの報告書と教会連中に今回の顛末の全部を書いた資料を送らないといけませんね・・後は」
ーーーゴオォォォォッ!!!
バルパーの遺体をフリートは掴み上げると、迷わずに今だ燃え盛っていたアジトの中へと放り込む。
骨も残さずにバルパーの遺体は焼き尽くされると確信しながら、フリートは今度こそこの場を去って行ったのだった。