いつもと変わらぬ朝、いつもと変わらぬニュース番組、いつもと変わらぬ制服。
そして
「…行ってきます、母さん」
いつもと変わらぬ一方通行の挨拶。これが俺の些細な日課。
○
季節は春。梅雨の一歩手前。
クラス替えも済み、共に勉学に勤しむ面子が変わる新鮮味も落ち着いてきた時期。
ま、同じ学校に2年間もいれば大体は顔見知りだからそうでもないけど。
…だが妙に居心地が悪い。理由はわかる。
周りのクラスメイトは各々気の合う仲間とグループを作っている。
始業式から早々風邪をひいた。スタートダッシュに失敗したのだ。
元々そんな愛想が良いわけでもない、孤立するのは目に見えて分かった。
だけど周りも気を使ってくれるのか、話しかけてはくれるがそれだけ。
嬉しいけど、ドキドキして上手く会話できないんだよなぁ…。
……正直すごい寂しい。ため息しかでない。
「…取りあえず飯だ。うん」
昼休みだし、購買行こう購買。と、思って席を立った時、
クラスメイトの会話が何故か妙に耳に響いた。
「なあなあ、隣のクラスの女子のレベル高くねえ?」
「あー、分かる!特にあの三人組!一度でいいから付き合ってみてー!!」
へぇ、そんな絵に描いたように噂なんかされる人がいたのか。
こんな時期に初めて知るっていうのもなんかおかしな話だけどな、もう三年生だし。
ま、頭の隅っこにでも留めておこう。今は購買に急がなきゃな。
○
というわけで早速屋上。
高いところはいい。馬鹿という自覚はないけど。
屋上が解放されていない学校に行かなくてよかったと思える瞬間だな。
誰もいないとわかった時なんか気持ちが高ぶる。ワクワクするね、なんでだろ。
よっこいせと、適当なところに座り込んでパンの袋を開ける。
パンを口に放り込もうとしたその時、
「……あ?」
あり得ない位置に人影が見えた気がしたので上を向いてみた。すると
「……え?嘘?なんでこんなとこにおるんや?」
かっこいい翼を付けて杖持ちながら空を飛んでいる少女に
関西弁で疑問を投げかけられた。参った、なんて答えよう。とりあえず…。
「まだ死にたくないんで、お引取り願えますか?」
予想だが、彼女は新学期に入り疲れが溜まった俺を勘違いして連れて行こうとする
死神かなんかだろう、ついている羽が黒いし。ハッハッハ、……ハァ。
「いや、意味わからへんよ?!私の事死神かなんかと勘違いしとるんか?」
「……まさか」
「なんやその間は……まあええ。それよりこの姿を見られたからには…」
「からには?」
「黙っといてください……」
情けない土下座を見せてくる女の子が俺の目の前に一人…どうしよう。
○
「魔法……少女っすか……?」
これまでにないアホ面だろうか今の俺は。仕方ないだろう?
いい年こいて魔法ってお前……近所の子供でももう少し現実的じゃないか?
最近は妙にマセたのが多いから…。
「いや〜、参ったわ〜まさか見られてたとはな〜…。
でもお兄さんええ人そうで良かったで〜?」
「俺もまさか笑顔で凶器を喉元寸前に止めてくれる心の広い人と
知り合えるなんて感謝の極みですわ……」
杖の先端を見事に寸止めしてくれるなんて……。
優しさを仇で返したくなりますよ……。
ていうか心を読みとらんでください。
「せやろ、褒めたって何も出せへんで?」
洒落かどうか分かりづらい返しをしおって。
「あ、そうや。お兄さん名前なんて言うんや?」
「…………山田」
「普通やなー」
「うっさい」
悪かったな、野球でも嗜んでおけばよかったよ。
あ、そういう問題じゃないか。
「じゃあ、あんたはなんて言うんだよ」
「私か〜?私はな……」
俺の目の前の魔法少女は立ち上がって座り込んでいる俺を見下ろす。
「八神はやてって言うんや。よろしく山田くん!」
その顔はとても自信に満ち溢れていて、一切の恥じらいも感じさせない
堂々とした、………いわゆるドヤ顔だった。