八神はやてが山田と名乗った生徒にバリアジャケットに変身した姿を見られた放課後。
当人は友人であり、同じ魔法少女でもある高町なのはとフェイト・テスロッサ・ハラオウン
に相談と言う名の報告をしていた。
「うう〜…、その時は飄々と対応したけど今になって思うたら…。
二人共どないしたらええんかな…?」
「はやて、そもそも屋上は開放されてるわけだし人が来る可能性はあるよね?」
「というかなんではやてちゃんは変身したの?」
友人二人からの当たり前な指摘は、はやての胸をズバズバと抉っていく。
「せやかて……せやかて、なんか屋上におって空見てたらなんかこう……なぁ?」
「「ええぇ………」」
曖昧な答えに二人は呆れた声と顔を隠さずにはいられなかった。
はやてが言うには、空を見上げているうちに気持ちが高ぶり思わずバリアジャケットに
着替え、のほほんと飛んでいたところを山田に見られたということらしい。
「ま、まぁ……とりあえずその山田くんがどういう人か私とフェイトちゃんは知らない
から会ってみたいな。話を聞く限りだと言いふらすような感じでは無さそうだけど…」
なのはの提案にフェイトも頷く。
「そうだね。一応私達からも魔法の事について秘密にしてもらうって事で言ってみよう」
「ホンマか?!二人ともありがとうな!!」
こうして魔法少女3人の山田に対する接触作戦が狼煙を上げたのだった。
○
「ブェックシ!!!」
…フッ、誰かが俺の話題で持ちきりのようだな。全く人気者は辛いぜ……。って言ってみたいけど
生憎そんな大物でもなし、ただの風邪だろうな。いや、それも嫌だけど。
「おい、山田!いいとこにいたな。頼みがあるんだが?」
「ズズ…、あ?なんスか、俺は用がないんすけど」
俺に話しかけてきたのは担任の………担任の先生だ。
妙に生徒に馴れ馴れしく接しているせいか、なめられ度合いが凄いが慕われている(?)
感じなので人望はあるんだろう。名前は忘れた。
「いやな、これから会議なんだがこの書類があと10部足りないんだ
刷ってきてくれないか………って、何だその目は?」
「…別に」
よく教師が務まるもんだな。と思っただけですよ先生。
「ま、頼んだぞ。あ、あと会議室はノックして入れよ。
周りの先生方に睨まれると思うがな」
あんたも睨まれるだろうな、その場合だと。
さっさと済ませてさっさと帰ろう。今日は衝撃的な事があったからな、早く寝たい。
そして印刷室へと向かおうとした途端、身震いがしたがこれをスルー。
多分風邪だから大丈夫。あ、ダメじゃん。あとで体温計んないとな。
○
「…さて、俺もさっさと行かないとまた教頭先生に怒られるな。
頑張れ公務員!!」
「……あの〜朝倉先生?ちょっといいですか?」
「おおっ!!?」
朝倉と呼ばれた先ほど山田を見送った教師は自分を奮起させている最中に
呼ばれ焦る。また珍しい生徒に声をかけられたのもあり驚きは増していた。
「な、なんだ…高町達か…。なにかようか?」
なのは達は朝倉が担任を受け持っている訳ではないが週に数回授業があり、
授業態度も良い優等生という印象があった。
そんな生徒がわざわざ放課後に自分に頼ってくることが意外で
何を質問してくるか皆目検討もつかない。
「先生のクラスで山田って生徒はいませんか?」
「山田ぁ?」
これまた意外な名前が出てきたので朝倉から間の抜けた声が出る。
「えぇ…、少しお話したいことがあって…」
「や、山田ならさっき印刷室に行ったな……。俺の使いっ走りで…」
「!!」
3人はそれぞれ「よしっ」といった表情を見せ合う。
「朝倉先生、おおきに!!」
「あ、あぁ………。なんだったんだ一体…」
場所を教えるなりそそくさと行ってしまった3人を見送り、自分も会議室に
向かう途中で朝倉は一つの結論を出した。教師4年目の勘が告げた。
「アイツって意外とモテるんだな……」
彼女いない歴30年目を迎える男の勘である。
○
「…朝倉先生はどうかしたのかね?」
「い、いや…俺にも分からないんですけど資料を刷ってこいと言われたので…」
「ふむ……、分かりました。ご苦労様。気をつけて帰りなさい」
「はい、失礼しました……」
いや〜最近の印刷機はすごいね。書類の10部なんてあっと言う暇もない!
お陰で思ったより早く会議室に行けたよ。
ていうかなんであの先生は真っ直ぐ会議室に向かったはずなのにいないんだ…!
お陰で視線の一斉放火を食らったわ!!
教頭の目付き怖かったよ……。恐ろしい。
あれで怒ってるわけじゃないってのがまた……ねぇ?
「…はぁ、家帰ろ」
「見つけたで、山田くん!!!」
また、面倒くさいことが起こりそうな掛け声が聞こえたような……。
正直このまま帰ってしまいたい……。
でも無視していくのも心が痛いし、振り返ってもそんな大したことは―――
「ちょっと、顔貸してくれへんかな?」
あるんですね、参ったなオイ。