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コードギアス 共犯のアキト 第二十八話「せめて喜びと共に(前編)」
作者:ハマシオン   2012/10/21(日) 23:32公開   ID:c6IEJAelUnE
コードギアス 共犯のアキト
第二十八話「せめて喜びと共に」




 ――23:59、租界外縁部ブリタニア防衛部隊。
 ゼロが宣言したタイムリミットまで残り1分を切り、各部隊は攻撃準備を整える。

『全部隊、攻撃準備よし!』

『VLSの発射準備完了』

『電磁防壁からはギリギリまで顔を出すな! ハッキングで乗っ取られるぞ!』

「フン、ゼロめ……ハッキングで我らの機体を乗っ取ろうとでも考えていたのだろうが、そうはいかんぞ」

 キュウシュウ戦役でガヴェインが見せつけたハッキング能力は、既にブリタニア軍に周知されており、その対策も取られていた。
 元々ガヴェインはブリタニアで作られたナイトメアであって、例え黒の騎士団が改修しようとも、そのスペックには限界がある。
 ハッキング対策として、既に全てのナイトメアは、ロイド博士が最新VerのOSに更新済みで、ガヴェインのハッキングにも数秒は抵抗できるよう対策を施されている。
 他にも租界各所に電磁シールドを施した防壁を建造済みで、目視によるハッキングを防止すると共に、敵の進軍を阻む役割を持っている。
 図らずも、ガヴェインのおかげで租界の防衛能力は格段に向上したといえた。

(さぁ、来いゼロ……ここで貴様を倒し、このエリアを平定する!)

 電磁防壁に潜み、カウントダウンを待つコーネリア。
 そしてついにカウントがゼロとなったその瞬間――!

「攻撃かい――!?」

 轟音と共に租界外縁部の足場が崩壊を始め、コーネリア達を飲み込んだ。





 ――黒の騎士団G−1ベース司令部

「うわぁスゴい! あれ、全部落としたんですの?」

「いえ、外縁部のみと聞いています。租界の施設は後々必要になりますから」

 日付が変わった瞬間に起こった租界外縁部の崩壊。
 それを遠目から見た神楽耶は、その豪快な光景に瞳を輝かせている。
 古来より日本が悩まされる地震対策による階層構造だが、建造の簡略化によりフロアパーツ同士の連結は簡単にパージできるようになっている。
 ゼロはそこに目を付け、ギアスで協力員を潜り込ませて降伏勧告を合図にフロアパーツをパージできるよう、仕込んでいた。
 ディートハルトはどのようにして、協力員を潜り込ませたのか気にはなっていたが、目の前の光景を繰り広げられるならば、それはそれでゼロの神秘性を際立たせるだろうと、笑みを深めた。

『第一段階クリア。ディートハルト、予定通り我々はメディア地区へと進軍する。お前も来るんだろ?』

 ビルの陰に隠れて崩落の余波から身を守っていた新月のアキトからそう声がかかる。
 予定では租界の東西の地区を制圧し、左右と中央から政庁を攻め落とす事になっている。

「了解です。神楽耶様、後詰めの方はお任せしますが、くれぐれも前線には――」

「あぁ〜っ! その声はテンカワ様ですね!」

 ディートハルトの声を遮り、神楽耶は嬉しそうに声を張り上げた。
 そして通信機の向こうでアキトもその声が聞こえたのか、Gー1ベースの前にいる新月が何故か不承不承といった感じで振り向いた。

『……ご無沙汰してます、神楽耶様』

「お話するのは一年ぶりでしょうか? もぅ〜、なんでもっと連絡してくれないんですか!」

『いえ、私も忙しくて……』

 神楽耶がまくし立てるように話す一方で、アキトは珍しくしどろもどろといった感じに返答している。
 ディートハルトはそれを珍しいものを見たように目を丸くする。ゼロの右腕として黒の騎士団で活躍するアキトだが、格上の者相手でも常に毅然として対応するため、今目の前で繰り広げているような様子は初めて見る。
 まるでその様子は何故か、女房に浮気がばれた男のようにも見えた。

「まぁ今はよろしいでしょう。ですが、この戦が終わったら、今までお話できなかった分を、たっぷりと付き合って貰いますからね!」

『お手柔らかにお願いします』

 そう言ってアキトはそそくさと通信を切った。
 それと同時にGー1ベースから見える新月が、噴進機を吹かして租界へと進入していく。
 ディートハルトはそれを確認すると、一言神楽耶に挨拶した後に自分も所定の場所へと移動を始める。
 後で黒騎士には存分に神楽耶様との関係を聞いておこう、とメディア人特有の好奇心を隠そうともせずに、彼は薄く笑っていた。





「おのれゼロめっ! このような仕込みをしていたとはっ!!」

 崩落した租界外縁部の惨状を目にし、コーネリアはギリと歯噛みした。
 新しく設置したばかりの電磁防壁はガラス細工のようにバラバラとなり、自由に動き回ることのできない戦車や装甲車は文字通りの全滅。
 ナイトメア部隊の半数も崩落に巻き込まれた上、生き残った部隊も到底戦闘は行えそうにない。
 迎撃戦力を集中させていた事が仇となり、租界の戦力は壊滅状態だ。
 だがコーネリアとしてもこのままで終わるつもりはない。現存している部隊と租界中央に控えていた部隊の配置を確認し、通信機のスイッチを入れるコーネリア。

「後方に控えたナイトメアは直ちに前進! その他の部隊は政庁へと引けぇいっ! 無事な者は可能な限り負傷者を救護しつつ、後退せよ! 政庁にて直ちに戦力を立て直すっ!!」

 政庁にはまだ予備戦力をたらふく抱えているし、戦時中の政庁は要塞といえるまでの堅牢さと防衛火器を備えている。いくらゼロといえども流石に政庁にまで謀略の手は及んでいないはずだ。
 コーネリアはすぐ傍で固まっている近衛隊のグロースターを助け起こそうと手を伸ばす。

「大丈夫か? 機体が動かないようならば、直ぐにでも脱出を――」

『いえ、ご心配には及びません。それよりコーネリア様は私など放っておいて後退を……』

「馬鹿者、部下を放って私だけ逃げるわけにはいくか」

 命の危機にあって、尚忠義を失わない己の兵を頼もしく感じつつも、脱出の手助けを行おうとグロースターに近づくが――

『そのお言葉だけで私は――っ、マズイ、コーネリア様っ!!』

 コーネリアの背後から忍び寄る影に気づき、機体を無理矢理起こすとコーネリアを庇い立つ親衛隊のグロースター。
 そのグロースターに飛びかかったのは赤と黄のカラーリングが眩しい無人兵器達。ジョロはその顎を、バッタはその爪をグロースターの装甲に食い込ませると、瞬く間に斬り裂いていった。
 目の前で部下に庇われ、さらに無惨にバラバラにされる様を見せつけられ激昂するコーネリア。

「おのれっ、羽虫無勢がよくも私の部下をっっ!!」

 黄金色のランスを閃かせ、目の前の無人兵器達を蹴散らし、さらにライフルを抜くと、今まさに飛びかかろうとするジョロを撃ち抜くコーネリア。
 だが、コーネリアが倒す以上にバッタやジョロが姿を現し、次々と襲いかかってくる。包囲されてはマズイとその場から後退すると、それを待ってたように無人兵器達に攻撃が襲いかかる。
 コーネリアが周囲を確認すると、親衛隊を含んだナイトメア部隊の生き残りが、瓦礫を盾に銃撃を叩き込んでいた。
 その部隊の中にはギルフォード、ダールトン将軍の搭乗するグロースターの姿もあった。

『姫様、お下がり下さいっ!!』

『今の内に政庁にお戻りをっ! ここは我々が押さえますっ!』

「この私に部下を置いて逃げろというのかっ?!」

 軍人として、なによりナイトメアライダーの矜持として、敵に背を向ける事は許されなかった。だがそんな彼女の決意を見透かしたように、ダールトンは足下に這い寄るバッタを凪ぎ払いつつ、叱り飛ばすように声を張り上げた。

『忘れてはなりませぬ! 姫様の存在は我々の象徴であると同時に、このエリア11を束ねる総督であらせます! 今ここで姫様を失えば、このエリア11は完全に敵の手に落ちます!!』

『姫様は我々の御旗です。姫様が生きてさえいれば、すなわちそれは我々の勝利!!』

 ギルフォードの駆るグロースターが右手にランス、左手に正式配備されたばかりのMVSを振り回して無人兵器達を蹴散らしながら、コーネリアを守るように前に躍り出る。
 ギルフォードにまでそう言われては、コーネリアとしても頑なに彼等の忠言を拒むことは出来ず、あきらめたように小さな溜息をつくとそれを受け入れた。

「分かった……私は下がろう」

 グロースターを後ろに下がらせ、前線で無人兵器達をくい止める様を眺めながら、コーネリアは去り際に己のために命を賭けてくれた将兵達に向けて、唯一言命令を下す。

「命令だ、なんとしても生きて戻ってこい!!」

『『『『『Yes,your highness!!』』』』』


 己の仕える主君の命。
 その命に兵達は奮起し、更なる勢いで浸透してくる無人兵器達を圧倒していった。





 要塞都市ともいえる租界の防衛部隊を一機の損失もなく陥落させた黒の騎士団は、勢いに乗って無人兵器をけしかけ、租界へと侵攻した。
 その結果だけを見るなら、彼らの士気と勢いは旺盛で、作戦には何も問題ないように見える。が、唯一人上空で崩壊した外縁部を眺めていたルルーシュにとって、その成果は些かの不満を残すものだった。

(ちっ、想定以上に煙が晴れるのが遅い。その上瓦礫も多く残ってしまったか)

 ガヴェインの切り札とも言える広域ハッキング。
 だがそれは、視界内――より詳細に言えばガヴェインの正面モニター内に納められた敵しか制御を奪うことができない。
 本来ならば、防壁を崩壊させた後、生き残った敵ナイトメアの制御を奪い、更に混乱させるはずだったのだが、崩壊の噴煙が予想以上に広がったために、敵を補足するのが遅れてしまった上、散乱した瓦礫に身を隠してしまい、より補足が困難となってしまったのだ。
 だが、現状黒の騎士団が敵を押していることは間違いない。ここは予定通りに事を進めようと、各部隊へと指示を出すゼロ。

「零番隊は特務隊と共に西の病院地区を占拠せよ。扇もそこへ配置につき仮設の司令部を置き、指揮を行え」

『了解です!』

『あぁ、分かった!』

「黒騎士は一番隊と四番隊を率いて報道機関の占拠! その他は藤堂の指示を仰ぎ行動を開始せよ!」

『了解』

『承知した!』

 ゼロの指示が下ると陣地に控えていたナイトメア部隊が一斉に動き始める。
 前線の指揮は藤堂に任せ、ルルーシュは航空兵器の排除へと動く。
 敵ヘリの射程外からハドロン砲を撃って薙ぎ払いつつ、ルルーシュは地図へと目を走らせる。
 病院地区とは、以前カレンの実家の資金提供を受けて始まった区画の事で、医療機関として建設されたこともあり、他の建物よりも頑丈な上、治療施設もあるため前線司令部としてはうってつけの場所だ。
 当初は学園地区に司令部を置き、生徒会の皆を守らせようともしたが、クラブハウスには耐核シェルターを新しく備えた上に、もしもの時は咲世子に生徒会の皆をそこへ避難させるように指示を出してある。
 加えて生徒会の皆は揃ってお人好しばかりだ。正義感に駆られて騎士団のメンバーに逆らう可能性も否定できなかった。

(それに病院地区はクラブハウスからはそう遠くない。もしもの時は団員を急行させればなんとかなる)

 なにしろ病院地区の開発は、ナナリーの目の治療のために建設に協力していた面もある。それもあって学園の敷地と病院地区はほとんど目と鼻の先と言っていい。
 下手に彼らを囲い込めば、もしもの時にブリタニア軍が学園ごと焼き払う可能性も捨てきれない。それを考えると適度な距離でクラブハウスを監視する方がリスクは圧倒的に低い、とルルーシュは考えていた。

「おい、考え込むのもいいが敵さんを忘れるな。そら、増援が来たぞ」

「分かっている。ハドロン砲で一掃する」

 正面モニターを見れば、崩壊から生き残ったヘリがゼロを討とうと集結していた。バルカン砲やミサイルを撃ってくるものの、それを難なく回避すると、肩の砲口を開くとハドロン砲を照射し、敵のヘリ部隊を一掃した。

「上空の敵はバッタとガヴェインに任せろ! 全軍、進撃せよ!」





 ゼロの号令と共に騎士団は租界へと進入。崩落した外縁部の至る所で戦闘が起き、バラバラだったブリタニア軍は多大な犠牲を払いながらも生き残った部隊を統率し応戦していた。
 しかし無人兵器の侵攻速度と物量、そしてそれを利用した黒の騎士団の攻勢に徐々に押され、次第に後退していくブリタニア軍。
 しかしそんな中で、中央に陣取るブリタニア軍は一歩も引かぬ奮闘ぶりを見せていた。

「どうした虫共! その程度の数で此処は抜けられはせんぞ!!」

「命無き機械兵如きに遅れを取るほど我等は甘くないっ!!」

 姫将軍コーネリアの懐刀として長年仕えてきたダールトン将軍、そしてその姫将軍に見初められ、選任騎士として活躍するギルフォード。
 彼等の戦いぶりに感化されて他のブリタニア兵達も一騎当千の働きを見せており、無人兵器達は一向に中央を破れないでいた。
 ――だが拮抗は長く続くはずもなく、黒の騎士団きっての将がそれを打ち破らんと躍り出る。

「ちぇすとおぉぉーーーっっ!!」

「ぬうっ!?」

 無人兵器の群の陰から、赤の房飾りが特徴的な黒い月下が乾坤一擲の突きを繰り出し、ダールトンのサザーランドはそれを間一髪ランスで弾き防いだ。
 しかし見事な突きを繰り出した黒い月下の腕は即座に引き戻され、続いて雷光の如き早さでさらに突きが繰り出される。
 ニ撃目の突きもなんとか弾くが、さらに三度目の突きで守りを抜かれて肩をやられ、さらに相手はそこから刀を斬り上げて、グロースターの握るランスをも弾き飛ばした。

「なっ、しまった!?」

「取ったっ!!」

 斬り上げた後に更に刀の向きを返し、峰から青い噴煙を吹かせて、そのまま斬り倒さんと腕を振り降ろす黒い月下。

「させんっ!」

 しかしそれにギルフォードのグロースターが間一髪割り込み、振り降ろされた刀をランスで防ぎ止める。

「ちぃっ!」

 そして敵を倒しきれなかったと見るや即座に引く黒い月下。
 後退する月下の援護に、周囲の無頼から銃撃が襲いかかるが、ギルフォードとダールトンは瓦礫を盾にそれをやり過ごす。

「大丈夫ですか、ダールトン将軍!?」

「あぁ、すまぬ。助かった……」

 ダールトン将軍のグロースターは、右肩を斬り裂かれた上にランスを失ったが、幸いにも機体自体に深刻な支障はないらしい。

「あのナイトメアの先程の戦いぶり、もしや奇跡の藤堂か?」

 ナリタ連山で相対した時とは全く違うナイトメアだが、一度剣を交えた相手故にその技は忘れることはなかった。
 あの男が相手ならば、重たいランスは不利と考え、ギルフォードは己のランスをダールトン将軍のグロースターに預け、己は正式配備されたばかりのMVSを兵装ラックに吊り下げた鞘から抜く。
 そして藤堂も、相手のグロースターから漂う気迫に注意を払いつつも、周囲に気を配ることを忘れず部隊の指揮を執る。

「二番隊は左右に散会して敵を包囲! 三番隊はそのまま援護射撃を続けろ! 朝比奈! 千葉! 他の部隊の首尾はどうだ!?」

「予定通り、エナジーフィラーの保管庫を押さえました。これで補給は十分です」

「航空戦力は小笠原以外は全て押さました。租界の重要施設も予定通り占拠に向かっています」

 事前にブリタニア軍の重要施設は掴んでおり、内部からの手引きもあって政庁周辺の施設軍は比較的容易に陥とすことができた。
 だがそれらの施設も当然厳重な警備を敷いてあって、並の戦力だけならばより出血を強いたことは想像に難くない。それこそ無人兵器の物量が無ければもっと時間がかかっていただろう。
 租界以外の戦場でも依然抵抗勢力側が優勢のことから察するに、各地のブリタニア基地は未だこちらの手の内を読み切れていないようだ。
 だがこの作戦は時間との勝負。ここでまごつくわけにいかない。

「よし、ならば後はこの中央の部隊を……むっ!」

 崩壊した瓦礫の陰から、複数の機影を確認し、とっさにその場から後退する藤堂達。
 直後、上から襲いかかったミサイルの弾頭が元いた場所に炸裂し、黒の騎士団とブリタニア軍の間を粉塵が遮った。

「ダールトン将軍! ギルフィード卿! 早くこちらへ!」

「グランストンナイツ!」

「おお! お前達かっ!」

 コーネリアの親衛隊の中でも高位の所属を示す赤紫のグロースター。
 そのウェポンラックには、これも正式配備されたばかりのミサイルポッド『ザッテルヴァッヘ』の発射口から白い煙を立てており、油断無く煙の向こうを睨んでいた。
 彼らはダールトン将軍に拾われ養子として育てられ、同時に軍人としての厳しい訓練と教育を受けた、歴戦の勇士だ。
 コーネリアの部下として活動する彼等だが、どちらかといえばダールトン将軍に仕える立場といっていい。
 ダールトンは己の息子達の助けに口元を緩ませそうになるが、それを抑えて乗機をグランストンナイツの元へと移動させると、戦況を尋ねた。

「状況はどうだ?」

「芳しくありません。敵ナイトメア部隊の実力はともかく、それ以上に無人兵器達の侵攻が厄介で左右の部隊は最早持ちこたえられそうにありません」

「ここより後方に陣を敷き直しました。お二方は直ぐにそこへ向かって部隊の再編をお願いします」

「君達はどうするのだ?」

「後退するにしても、殿が必要でしょう。ここは我らにお任せを」

「お前達……!」

 息子達の言葉に一人の親として反論しそうになるダールトン。だが彼等の軍人としての覚悟を前に、そんなことを口にすることは許されない。息子達が軍人としての矜持を果たすのならば、自分も軍人としての務めを果たすまでだ。

「後方で待っているぞ!」

 ただ一言、息子達にその言葉をかけて、ギルフォードと共に後退するダールトン達。
 四聖剣は逃がすまいと追いかけようとするが、彼等の前に5機のグロースターが立ちはだかる。

「ここで我らを食い止めるつもりか」

「ははっ、無駄な事を……たった5機でどうするつもりだい」

「油断するなよ朝比奈、コイツ等はそんじょそこらのブリキ兵なんかじゃないぞ」

 仙波と卜部の月下は油断無く廻転刀と徹甲盾を構えながら相対し、朝比奈と千葉の月下は二人のやや後ろに控えて廻転刀を構える。
 藤堂も5機のグロースターが只者でないことを感じとりつつも、武人としての血がざわつくのか、四聖剣の前に出ると静かな声で相手に声をかけた。

「黒の騎士団軍事総責任者、藤堂鏡志朗……貴殿等の名を聞こうか」

「ほう、噂の奇跡の藤堂か……我等グランストンナイツの敵として不足無し!!」

 中央に立つグロースターが一歩前に出ると、ランスを一回転させて地面に柄先を突き立て、ビシッと指先を藤堂達へと向ける。

「我等グランストンナイツを前に、そう簡単にここを通れると思わないことだっ!」

 すると後ろに控えていたグロースター達が各々の武器を携えて、名乗りを上げ始める。

「月光のアルフレッド!」

「銀月のエドガー!」

「鮮血のデヴィッド!」

「黒狼のバート!」

「そしてこの私、太陽のクラウディオ!」


 そして最後にそれぞれが武器を掲げ、ポーズを決めると、


「「「「「我らグランストンナイツ、ここに見参!!」」」」」


 ドガーーーン!!

 と、タイミングよく後ろにミサイルが降り注いで、爆発が起きる。
 しかも距離が離れていたためか、グランストンナイツに被害はなく、寧ろ決めポーズを映えさせるための爆発のようにも見えた。
 その様子をポカンと見ていたが、黒の騎士団。だが一方で、相対していた藤堂達の反応は意外なものだった。

「ふっ、ならば我等も名乗らなければなるまい!!」

「「「承知!」」」

 妙に張り切った様子で声を張り上げる藤堂達。

「ほ、本当にやるんですか?」

 ただ一人、紅一点の千葉だけが戸惑った様子を見せたものの、藤堂の号令の元、一糸乱れぬ動きで廻転刀を、衝角盾を構える月下達。

「青龍の卜部!」

「白虎の仙波!」

「玄武の朝比奈!」

「ほ、鳳凰の千葉っ!」

「そして奇跡の藤堂!」


 そして名乗りが終わると、さらに月下達は各々がポーズを取り、


「「「「「黒の騎士団、ここに推参!!」」」」」


 ドガガガガーーーーン!!


 どこからか飛んできたミサイルが後ろに着弾し、何故かカラフルな爆炎を巻き起こして、月下達を彩った。
 突然の司令官の行動に、さらに呆然とする黒の騎士団達。一部にはノリノリで喜んでいる者達もいたが。

「おぉ……見事な名乗りだ!」

「黒の騎士団にもこの美学を理解する者がいたとは……貴様等とは友として語りたかったぞ」

 しかも何故かグランストンナイツが共感している素振りを見せて、そんなことを口走っている。

「お褒めに与り光栄ってね」

「中佐、相手も中々分かっているようですな」

「夢にまで見た戦隊物の名乗り上げ……いやぁ、できて良かった!」

 さらには四聖剣の面々までそんなことを曰っている。
 しかしあまりにも馬鹿馬鹿しいやりとりを前に、双方の一般兵士達は皆固まっていたのだが、奇妙なことに敵の隙を突いて攻撃する者はひとりもいなかった。

「お互い名乗りは上げた……では後は剣を交えてお互いの正義をぶつけあうまでだ!」

「その通りだ、奇跡の藤堂よ! いざ尋常に勝負っ!!」

 そんな空気を読んだか読んでいないのか、藤堂とクラウディオが機体を踏み込ませ、剣と槍を交差させ、甲高い音を鳴り響かせた。
 その音が契機となったのか、両軍がハッと我に返ると慌てた様子で戦闘を開始する。

「うぅ、穴があったら入りたい……」

 そして一方で、四聖剣の千葉も、羞恥心で顔を真っ赤にしながらどこか初々しい動きで戦闘を開始するのだった。





 ――トウキョウ租界西区。
 租界の西地区にはアッシュフォード学園をはじめ、消防署や警察署、図書館といった公共施設が集中する地区だ。無論、警察署等は真っ先に部隊が投入されており、通信によると既に占拠間近らしい。
 そして零番隊はゼロの指示通り、この地区に新しく建設中の病院を確保し司令部を置くために、ブリタニアの防衛部隊を攻撃していた。
 その中でも、零番隊隊長のカレンは紅蓮弐式のスピナーを唸らせ、縦横無尽に戦場をかけて次々と敵のナイトメアを蹴散らしている。

「死にたい奴は前に出ろ! そうでなければとっとと失せな!」

『イレヴンがぁっ! 調子に乗るなっ!!』

 また一人勇敢なブリタニア兵が、ランスを構えて紅蓮に突き出すが、右腕の輻射波動を使われるまでもなく、簡単にいなされると逆手の特斬刀をコックピットに突き刺されて沈黙した。

「邪魔だよっ」

 さらに沈黙したサザーランドのコックピットを右腕で掴むと、加速の勢いを利用してその機体を敵群へと放り投げる。
 慌てて散会しようとするが、すかさず放り投げたサザーランドに向けてグレネードランチャーを発射。敵のど真ん中で爆発し、その衝撃波に飲まれて幾体ものサザーランドが行動不能となった。
 戦場を絶え間無く動き回り、次々とブリタニア兵を薙ぎ倒すその姿に敵だけでなく味方すらも驚嘆する。
 そしてあれよあれよという間に敵を片付けてしまい、ほんの数分後には紅蓮弐式とそれを見守る零番隊の無頼しか機影は残っていなかった。

「よし、敵部隊は粗方片付いた。お前達は予定通り病院の確保に動け! まだここはオープンしていないから、駐在の職員は少ないはずだ!」

 その言葉に隊員達は我に返ると、慌てて病院の確保へと動き始めた。
 西地区の病院や関連施設は、シュタットフェルト家の主導で建設が進められたもので、その令嬢であるカレンにとっては、近辺の地図を手に入れることは難しいことではなかった。
 初めは彼の妹と、カレンと行動を共にすることを怪しまれないためのカバーストーリーだったのだが、まさか租界攻略のための拠点にするとは思ってもいなかったが。
 カレンは手近なビルに目を付けて、胸部のハーケンを射出して屋上に登ると、そこから覗くアッシュフォード学園を目に留める。

(学園から近いとは言っても、これだけ離れてれば巻き込まれることは無いだろうね)

 ゼロとしては自分の目の届く範囲に学友達を置いておきたかったのだろう。だからといって、学園に拠点を置けば、もしもの時に彼らが足枷になる可能性もある。
 それを考えれば、戦闘に巻き込まれない程度の距離を取り、目に届く範囲に留めているのは正解だろう。カレンとしても学園の友人達を巻き込まずに済んで、安堵していた。

『紅月隊長、施設の占拠の方完了しました。何人か民間人もいたようですが如何しますか?』

「軽く尋問した後、問題がないようならば解放しろ。私達に捕虜を取る余裕はないからな。ああ、それと解放する時は必ず目隠しをしておけ」

『了解です!』

「各小隊はローテーションでエナジーフィラーの交換。木下は後詰めの扇副司令に繋いでこちらの状況を送れ。東のメディア地区の占拠と、中央を確保した後、一気に攻勢に出るよ!」

 淀み無く指示を出すカレンの姿は紛れもなく指揮官の其れで、それに従う団員達もきびきびと動いている。
 ゼロと黒騎士の厳しい訓練に耐えつつも、それをこなしてきた団員達の実力はIFSの性能も相まって、ブリタニアの正規軍に負けず劣らずの働きを見せていた。
 そんな精鋭として育った零番隊の兵士の一人から、カレンに一つの報告が入る。

『紅月隊長、中央の進行がやや遅れているようですが如何しますか?』

「藤堂さん達が苦戦しているの? ……っ、まさかラウンズッ!?」

 最も激しい抵抗が予想されていた中央の戦場には、藤堂だけでなく四聖剣も投入し、戦力比で言えば最大規模の戦力があり、無人兵器もそれに比してかなりの数が投入されている。
 そんな彼らが苦戦しているという事は、ラウンズでも出たのだろうかと考えるカレン。しかしそれに対する返答は些か反応に困るものだった。

『いえ、通信ではなにやらヒーローショーじみた戦闘が行われてるとかなんとか……』

「はあっ?」

 思わず気の抜けた返事をしてしまうカレンだが、考えてみれば黒の騎士団のボスであるゼロからして、謎の仮面の男という一昔前のアニメに出てくるような登場人物だ。
 敵方に強力なナイトメアが出てきて、藤堂達が善戦していると考えればその表現もあながち間違いではないかもしれない。

「念の為様子を見に行くか……木下、オリジナルバッタを何機かつけるからこの拠点を維持して扇さん達をここに誘導するように。第四、第五小隊は私に付いてこい!」

『了解!』

 そうだとすればその一刻も早くその驚異を排除しなければならない。
 紅蓮をビルの屋上から飛び降ろさせると、隣のビルを壁蹴りの要領で地上に降り立ち、待機していた無頼を率いて中央の戦場へと向かう。
 そうして敵の抵抗が全く無いままに数分ほど走らせていたその時――

「っ!!」

 カレンの首筋が冷水をかけたような悪寒――いや、殺気を感じ取り、とっさに紅蓮の軸線を大きく横へとずらした。
 紅蓮弐式のレーダーが直上から迫る一つの影を映し出したのはその直後だった。
 砲弾が着弾したような轟音を巻き散らし、後続の無頼が1機噴煙に巻き込まれかけ、慌ててその場から距離を取る。そしてそれが彼の命を救った。
 次いで起こったのはその噴煙を吹き飛ばすような暴風。
 巨大な長柄の物体がそれこそ全てを薙払う速さで周囲を掛け巡り、距離をとった無頼のほんの1m先を通り過ぎたのだ。
 1ブロックをまるまる覆っていた煙がその暴風によってあっという間に晴れ渡り、それを起こした敵が姿を現した。

『見つけたぞっ、赤騎士いぃっっーーーー!!』

「出てきたね、このデカブツッ!」

 やはりというべきか、そこにいたのは巨大な鉄槌を肩に背負った異形のサザーランド、ゴルディアス。
 先の奇襲が失敗し、紅蓮と無頼達に囲まれた状態となったゴルディアスだが、デヴァイサーのジャック・ユニオンは後ろの無頼達など歯牙にもかけていないらしく、鉄槌ミダースを真っ直ぐこちらに向けて、口元に獰猛な笑みを浮かべている。

『ここで会ったが100年目! 貴様の命は、私の手で裁くっ!』

「小悪党臭い台詞をっ! 私の命はとっくにゼロに捧げてるんだ! あんたなんかにくれてやるもんかっ!!」

『その意気や良しっ! それでこそ我が仇敵よっ!!』

 最早これ以上の問答は無用と、ジャックは突き出したミダースを後ろに振りかぶり、双発のユグドラシルドライブを唸らせると飢えた獣のように襲いかかる。
 それに対して、カレンも腰の噴式加速装置を用いて一気にゴルディアスへの懐へと飛び込んだ。
 いくら自分に執着しているとは言え、このクラスの敵がフリーになればこちらの被害は広がってしまう。そのためにもコイツは今ここで倒しておかなければならない。

『おおおおぉぉぉぉっっーーー!!』

「はああああぁぁぁっっーーー!!」


 二人の怒声と共に、全てを打ち壊す鉄槌と全てを燃やし尽くす爪牙が重なり合い、二人の騎士が激突しすると、目映い閃光が辺りを光り照らすのだった。


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
次が最終回といったな、あれは嘘だ(キリッ

……イヤ、スイマセン。
単純に今回も長くなりそうで、完成まで待っていたら下手したら年明けコースになっていたと思うので、キリのいい所で分割しつつ送る事にしました。
感想でも、TV放映の遅れのようになることを懸念されていた方が多かったので、急遽予定を変更してお送りしております。
―10/22 追記―
さて、今回のお話の見所はなんといってもグランストンナイツVS四聖剣+藤堂のヒーロショー(笑)でしょう。
私は原作からして、コイツラはノリがよければこれくらいの事はしそうだと思っております。
方や部隊内で専用のバイザーをつけたり、方やいい歳して「旋回活殺自在陣」等という厨二心満載なネーミングを躊躇なく叫ぶ方々です。そこにアキト達のゲキガンガーという起爆剤が盛り込まれれば、このようになることは必然といってもいいでしょう(ドヤァ
寧ろ、このシーンを書きたいがために本編四話や閑話のシーンで伏線を張っていたのでようやく回収できて作者もひとしおというものです。
では感想返しいきますー。

>>ふぇんりるさん
 カレンの出番については弁解のしようもありませんorz
 なにせ投稿直前までに彼女の存在に気付かなかったものですから(ぉ

>>きつねさん
 TVみたいにまた何カ月もお待たせするのは心苦しいので、きりのいい所で投稿してみました。次もこのペースで投稿できればいいと思ってるので暫し御待ちを〜

>>ミナライさん
 クロス作品でもほとんど出番を見ないヤドカリですが、正直作者もこの話作るまで忘れていましたw
 次の更新は冬まっただ中になると思いますが、風邪をひかないようにネクタイだけは絞めて下さいね(ぉ

>>キューブさん
 ドロテアさんの登場は次回、注射器の正体については次々回になると思います。
 クライマックスまであと少し! 応援よろしくお願いします!!

>>鏡さん
 GBや相転位砲は確かに強いですが、あまりナデ側を強くするとクロスの旨みが薄れてしまいますからね〜。その辺りは取扱要注意です。
 ジョイ君に関しては、多分次で酷い事になるのでお楽しみにw

>>青菜さん
 正直全ての伏線をちゃんと回収できるのか作者も分からない状態に!(ぉ
 ですがお話を面白くしようと頑張って張ったモノなので、皆さんの期待に応えるべく、次も頑張って書きますよ!

>>溺没さん
 はじめまして、感想ありがとうございます!
 私はどちらの作品もロボットや登場人物が本当に大好きで、両者を上手く際立たせようと書いているので、そういった感想は本当に嬉しいです。
 最終話まであと少しですが、最後までよろしくお願いします!
 R2については……最終話のあとがきにでも。

>>まさるさん
 カレンさんは背景じゃないよ! その証拠に今回はすっごく頑張ったよ!
 いや待て、確か次のお話のメインはアレとあれだから…………
 じ、次回をお楽しみにっ!


 さて、中編はできれば11月中には投稿したいのですが……
 この時期は新作ソフトがいっぱい出るからなぁ……書く時間取れるかなぁ……。
 と、とにかく年内までにはなんとしても投稿するので、よろしくお願いします!
テキストサイズ:22k

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