カミューラが捨てたクロノス人形は、適当に埋めておく。後でアイスの棒でも立てておいてやろう。
それにしても、惜しかった。最初の攻撃で、攻撃力1800の古代の機械騎士じゃなくて、攻撃力1900の古代の機械兵士で直接攻撃してたら、勝ってたのに。
まあ、しょうがない。プレイングの差ってやつだろうし。裏守備モンスターを破壊できなくてダメージを与えられないってのも嫌だからなー。
と、いうわけで次の日。
「俺達は、恩師、クロノスの仇を取るため、デュエルアカデミアの湖の上にいつの間にか建っていたカミューラの居城にやって来たのだった」
「............シリアスな場面なので、ツッコミは無しで」
人、それをツッコミと言う。
こういう時に状況説明を語るのは転生モノではよくあるけど、語ってる奴らはどういうつもりで言ってるのか。
その気持ちを推し量ろうと同じような事をしてみた。実際は、持病のボケが発症しただけだけど。
閑話休題。
さて、カミューラは今回、対戦相手に誰を選ぶのか。
もちろん、
カイザーだ。
というわけで。
「そうね......私の相手は......」
ビシッ、と、カミューラの指がホモを指し示す。
バチッ、という音が、カイザーの首元から響く。
崩れ落ちるホモ。
「............え?」
「に、兄さん、どうしたの!?」
驚愕する弟(ホモ疑惑あり)。
「おい、お前、カイザーに何しやがった!」
激昂する熱血。
「わ、私は何も「十代、こいつ、カイザーに呪いかけやがったぞ!」え?」
煽り立てる俺と困惑するカミューラ。
ああ、何という素晴らしきコンボ。さすが俺。
「の、呪い!?」
「ああ、そうだ。あいつがカイザーを指差した瞬間、カイザーが倒れたのがその証拠だ!
いわゆる、『好きなものは最後に』派だろう。あるいは、昨日はすぐ戦いたいみたいに言ってたけど、実際は出て来て欲しくなかったか」
「そういうことか。汚いぞ、カミューラ!」
「わ、私は............」
「カミューラ、俺が相手「いや、十代、ここは俺にやらせてくれ」センパイ?」
「あいつにカードを渡したのは俺だ。そしてそのせいでクロノス先生は............」
「センパイ............」
「だから、俺にその罪を償わせてくれ!」
「............わかったぜ、センパイ。でも、絶対に勝ってくれよ」
......ニヤリ。計画通り。
「「デュエル!」」
「茶番は終わりだ。この徹底的に闇属性メタカードを積みまくったデッキで容赦なく叩き潰して..................あ、やべ」
「せ、先輩!?今のつぶやきは何ですか!?」
「い、いや、ちょっとデッキ間違えた」
「「「ハァーッ!!?!」」」
おっかしいなー。やっぱ、試合の前とかにネタデッキなんか作るモンじゃないな。
「大丈夫大丈夫。勝つよー。超勝つよー。
え、えっと、先攻、貰うぞ。
俺のターン、ドロー、スタンバイ、メインフェイズ。
モンスターとカードを一枚ずつセットして、ターンエンド」
まずい。心臓のドキドキが止まらない。あ、いや、止まるのも困るけど。
落ち着け。落ち着け、俺。きっと、イベント補正とやらが働いてなんとかなる。うん。
「私のターン、ドロー。
私は手札から、
魔法カード おろかな埋葬を発動。デッキから、モンスター一体を墓地へ送る。私はデッキから、不死のワーウルフを墓地へ送るわ。
続いて、手札から、ゾンビ・マスターを召喚。効果を発動。手札の茫漠の死者を墓地へ送り、墓地より、不死のワーウルフを特殊召喚。
私は、レベル4のゾンビ・マスターと不死のワーウルフをオーバーレイ!二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!現れよ、ラヴァルバル・チェイン!
ラヴァルバル・チェインの効果を発動。1ターンに1度、オーバーレイユニットを一つ取り除き、デッキから、モンスターカード一枚を墓地へ送る。私は、馬頭鬼を墓地へ送る。
バトル、ラヴァルバル・チェインで、裏守備モンスターに攻撃」
ああ、くっそ。容赦ねー。
「俺は、永続
罠 モンスターBOXを発動。
相手モンスターの攻撃時、コイントスをして、当たった場合、攻撃モンスターの攻撃力をバトルフェイズ終了時まで0にする。
俺は表を宣言する」
って、あ、コイン無い。どうしよう。じゃんけんでいいかなー。
うおっ!?目の前にコイン出現!?さすが闇のデュエル。
「じゃ、ありがたく使わせてもらおうか。よっと。あー、裏か。
なら、破壊されたドラゴンフライの効果を発動。戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから、攻撃力1500以下の風属性モンスター一体を攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
俺はデッキから、一撃必殺侍を特殊召喚」
「ハァー、私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」
いかにもけだるそうに言うなー。確かにギャンブルデッキでネタデッキだって分かっちゃっただろうけどさー。
「俺のターン、ドロー。
スタンバイフェイズ時に、モンスターBOXの維持コスト、500ポイントのライフを支払う」
旭:6000→5500
「メインフェイズに入る。俺は、永続魔法 デンジャラスマシン TYPE−
6を発動。バトル、一撃必殺侍で攻撃」
「え!?どうして攻撃力1200の一撃必殺侍で攻撃力1800のラヴァルバル・チェインを攻撃するんすか!?」
「一撃必殺侍には、戦闘を行う時、コイントスで裏表を当てれば、相手モンスターを効果破壊する効果がある。危険な賭けだが、この不利な状況ではしょうがない」
安定の解説ありがとう、三沢。
「面倒ね。私は、
罠カード
妖かしの
紅月を発動。手札のアンデット族モンスターを一枚捨てて、相手の場のモンスター一体の攻撃を無効にして、そのモンスターの攻撃力の数値分、自分のライフを回復する。その後、バトルフェイズを終了する。私は、手札の火車を捨てるわ。これにより、私のライフは、1200ポイント回復」
カミューラ:6000→7200
うぐっ、あ、あれ?これってもしかして、おれ、カイザー役?
「ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー。
私は、ラヴァルバル・チェインの効果を発動。デッキから、
酒呑童子を墓地へ送る。
そして、墓地の
馬頭鬼の効果を発動。このカードを墓地から除外して、自分の墓地からアンデット族モンスター一体を特殊召喚する。私は、ゾンビ・マスターを特殊召喚。
さらに、ゾンビ・マスターの効果を発動。手札のヴァンパイア・バッツを墓地へ送り、墓地から
酒呑童子を特殊召喚。
酒呑童子の効果を発動。1ターンに1度、自分の墓地のアンデット族モンスター二体をゲームから除外する事で、デッキからカードを一枚ドローする。墓地の火車とヴァンパイア・バッツ除外し、ドロー」
ガン回りしてやがる............あんな変なアンデッドデッキなのに。
「バトル、ラヴァルバル・チェインで、一撃必殺侍を攻撃」
「ちっ、さすがにゾンビ・マスターと酒天童子でエクシーズはしてくれないか。
モンスターBOXの効果を発動。表を宣言......裏だ。続いて、一撃必殺侍の効果。表を宣言.............また、裏............」
ダメだ。心折れそう。
旭:5500→4900
「続いて、酒呑童子でダイレクトアタック」
「今度こそ表!............キター!!!」
「ちっ、ゾンビ・マスターで攻撃!」
「もういっちょ表!............っしゃー!!」
来てる。来てるよこれ。波が来てる。
「ちっ、運のいいやつ。
私はこれでターンエンドよ」
「こっから俺のターン、ドロー!
まずは、スタンバイフェイズ時に、デンジャラスマシン TYPE−
6の効果発動。サイコロを一回振って、1が出たら自分が手札を一枚捨てて、2が出たら相手が手札を一枚捨てて、3が出たら自分がカードを一枚ドロー、4が出たら相手がカードを一枚ドロー、5なら相手の場のモンスター一体を破壊して、6だったら大・爆・発!
ノリにノッてる俺の出目はもちろん............」
6 。
泣いていいよね?
「ろ、6が出たから、デンジャラスマシンは破壊され墓地へ。
続いてモンスターBOXの維持コストを支払う」
旭:4900→4400
「メインフェイズ。俺は、一撃必殺侍を召喚。
バトル、一撃必殺侍でゾンビ・マスターを攻撃。
表出ろ!......よーしよしよし。効果により、ゾンビ・マスターを破壊。
カードを一枚セット。ターンエンド」
あー、運がいいんだか悪いんだか。
「私のターン、ドロー。私は手札から、速攻魔法 手札断殺を発動。
お互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ送り、デッキからカードを二枚ドローする」
おー、ありがたいありがたい。うん、なかなかおもしろおかしい手札だなー。あはは。
「ハァー、まったく、どうして私があなたのギャンブルなんかに付き合わないとならないのかしら。このカードで終わりにしてあげるわ。
私は手札から、
魔法カード 幻魔の扉を発動!」
!!来たか。展開的におもしろそうだったから禁止カードにしなかったアニメオリカ!
「なんだそのカードは!?」
ざわつく後ろの奴ら。だが、まだ驚くのは早い。早過ぎる。
「このカードの発動時、相手の場のモンスターを全て破壊する!」
ちっ、まあ、こっちの被害は一撃必殺侍しかないからいいか。それより、だ。
「さらに、このデュエル中に一度でも一度でも使用されたカードを、召喚条件を無視して、特殊召喚する!」
「な、なんだと!」
「馬鹿な!全体除去に加えて、そんな効果まであるのか!!」
そう。遊戯王のアニメオリカは、だいたいが屑カードか、ぶっ壊れカードだ。で、このカードは分かりやすいほどに後者。
「ただし、代償は私自身の魂。ゲームに負けたら私の魂は幻魔の物」
「なるほど、命と引き換えのインチキカードってことか」
「なんだけどー、せっかくの闇のカードなんだから―、もっと闇のデュエルらしく使わせていただきますわー」
カミューラの顔が吸血鬼らしく歪む。美女だったのになー。もったいない。
「なに?」
俺はとりあえず、その場のノリで言ってみる。驚かなかったら怪しまれるし。
「例えば、あなたの大事な大事な後輩に、身代わりを頼むとしたら?」
そういうと、カミューラは二人に分身した。片方が、三沢のほうに空中浮遊しながら近づいていく。
「わ、わぁぁぁぁあ!」
そのまま、三沢を門へと連れていく。
「くそ!これでもくらえ!」
シュッ、と、俺はカードを投げた。練習しまくったから、アニメキャラばりに投げれる。
カミューラのすぐ横を通り過ぎるカード。
「あら、何?かすってもいないわよ?もっとちゃんと狙いなさーい?」
「え?いや、狙い通り、一直線だったけど?」
「は?」
カミューラが後ろを振り返る。
そこには、幻魔の扉によって拘束されている、
ダークネスの魂が封印されたカード。
「..................」
カミューラは無言で、三沢を幻魔の扉に拘束させる。
「えっと、別に一人じゃなくてもOKってこと?」
「ええ。その通りよ」
あー、マジか。まいったなー。ていうか、三沢、鍵の守護者なのに生贄にできるのか?もしかして、ただの脅しか?
うーん、分からん。
「で、要するに、俺のライフが0になれば、三沢は解放されると?」
「ええ。別にサレンダーでも構わないのよ?」
「やーだね。サレンダーだけは絶対にしねー。
で、今の言葉、本当だな?俺のライフが0になったら、三沢は解放すると」
「ええ。本当よ」
「高貴なヴァンパイア一族の血に誓って?」
「高貴なヴァンパイア一族の血に誓って」
「そっか。なら良かった」
「せ、先輩!俺のことはかまわずに、勝ってください!」
「ふふ。この状況で勝てると思うの?
私は、幻魔の扉の効果を発動。と言っても、あなたはたいしたモンスター使ってないのよねー。私は墓地より、ゾンビ・マスターを特殊召喚。
さらに、手札から、ヴァンパイア・バッツを召喚」
うっ、倒せなかった時のリカバリーまで考えてるのかよ。確かに、カミューラの手札はこれで0だし、当然か。次のターンブラックホールとかが来ても、その次のターンの攻撃モンスターは残るって寸法だな。めんどくさ。
さて。
ヴァンパイア・バッツの効果により、アンデット族モンスターの攻撃力が200ポイントアップした。
これで、ヴァンパイア・バッツの攻撃力は800+200=1000
酒呑童子は1500+200=1700
ラヴァルバル・チェインは1800
ゾンビ・マスターは1800+200=2000
そして、俺の残りライフは4400............
見えた!俺の、勝利のイメージが!
「さて、では、終局といきましょうか。
バトル、ヴァンパイア・バッツでダイレクトアタック。舞え、ブラッディ・スパイラル!!」
「モンスターBOXの効果を発動。表を宣言する」
よし、表か。順調順調。
「ちっ、ならば、酒呑童子で攻撃」
さて、ここ。ここだ。ここで俺は、絶対にダメージを喰らってはならない。でも、モンスターBOXには期待できない。さっきから空気と化している伏せカードを使ったら逆転の芽がなくなる。と、いう訳で。
「俺は、墓地のカイトロイドの効果を発動!自分の墓地のこのカードをゲームから除外する事で、相手の直接攻撃によって発生する自分への戦闘ダメージを、一度だけ0にする!」
「なに!?」
手札断殺で落ちたカイトロイドの効果を使用する。
いやー、カイトロイドいいね。ネクロガードナー程じゃないけど。直接攻撃された時、手札から捨てても墓地から除外してもダメージ0にできるし。
風だから、このデッキではドラゴンフライで呼べるし。
「え!?どうしてこのタイミングで!?」
みんな口々に騒ぐ。カミューラも、ポカーンとしている。
だけど、ただ一人、他の奴らとは違う意味で、目を見開いている奴がいる。
三沢だ。
どうやら、俺のやろうとしていることに気付いたらしい。流石だな。
「ラ、ラヴァルバル・チェインでダイレクトアタック!」
「表を宣言。外れろ!」
「「「ええっ!?」」」
よし、裏か。
旭:4400→2600
「あ、あなた、馬鹿!?」
「馬鹿言うな。ライフはちゃんと残るよ。背水の陣ってやつさ」
「訳の分からないことを......
ゾンビ・マスターでダイレクトアタック、イモータル・カーニバル!」
「外れろ」
旭:2600→600
くくく、計画通り。
「ターンエンドよ。
何を企んでいるのか知らないけど、無駄よ。この人質を忘れたの?」
「忘れちゃいねーよ。
大丈夫だ。安心しろよー、三沢。
お前の死は無駄にはしない。キリッ」
「..............................」
「「「え?」」」
「よーし、じゃあ勝つぞー」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「え?何?」
「何って............見捨てる気!?」
「え?いや、そりゃそうだろ?死にたくないし」
「..............................」
「三沢、よくお前とこんな話をしたよな。
『デュエルモンスターズにおいて、2:1交換はそれほど悪くない。逆に、ヒーロー・ブラストのような0:1交換には心ひかれる。だが、基本は1:1交換だ。一番安定していて、なおかつ、状況次第では莫大なアドバンテージとなる。だから、基本は1:1交換を狙うべきだ』
良かったな、三沢。立派な1:1交換だ。それも、莫大なアドバンテージを稼げる方の」
「...................................ふ............」
「ふ?」
「.......ふ、ふ、ふざけんな!そんな言葉では騙されませんし、納得もしませんよ!」
「でもお前、俺のことは構わずにとか言ってたよな?」
「それとこれとは話が別です!先輩がこんな人だとは思いませんでした!鬼!悪魔!人で無し!!」
ハッハッハッ、そんなことは最初から分かってただろうに。
「..................あなた、最低ね」
「何とでも言え!
俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、俺は、モンスターBOXの維持コストを支払う!」
旭:600→100
くはははは、これで、俺は、無敵だ!!!!!!!!
「メインフェイズに入る。俺は手札から、カップ・オブ・エースを発動!コイントスを1回行い、表が出た場合、自分がデッキからカードを二枚ドローし、裏が出た場合、相手はデッキからカードを二枚ドローする」
「くっ、そんな賭けが成功するわけ..................」
「今の俺には、失敗なんて存在しないぜ!
っしゃー!表!ツードロー!!」
さて、肝心のドローカードは......最っ高、となると、いい感じのセリフでも言おうか。
「カミューラ、覚悟しろよ?
このドローで、俺の勝利の方程式は完成した」
「なんですって!?」
「いくぜ。モンスターをセットして、
魔法カード 強制転移を発動。お互いはそれぞれ自分の場のモンスター一体を選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える。俺の場のモンスターはこの裏守備モンスターだ」
「私は....................念の為、酒呑童子でも渡しておこうかしら」
無駄無駄無駄ー!!!!
「バトルフェイズに移行。酒呑童子で、裏守備モンスターに攻撃。
そしてこの瞬間、裏守備モンスター、ダイス・ポットのリバース効果が発動する」
「ダ、ダイス・ポット、ですって!?」
そう、これが、俺の逆転への一手だ。
「互いにサイコロを振り、相手より小さい目が出たプレイヤーは、相手の出た目が2〜5だった場合、相手の出た目×500ポイントダメージを受ける。相手の出た目が6だった場合、6000ポイントダメージを受ける。お互いの出た目が同じだった場合はサイコロを振り直す。
これでお前に6000ポイントのダメージを与える。そうすればお前の残りライフは1200 。モンスターBOXのせいで、お前はうかつに攻撃できない。そして次のターン、何とかして勝つ」
「.............................まさか、最後までギャンブルを仕掛けてくるとは思わなかったわ」
「いいだろ、別に。そういうデッキだし」
「よくないですよ!人の命賭けて置いてよくそんなこと言えますね!」
「まぁまぁまぁ、落ち着け三沢。俺の命だってちゃーんと賭けられてるし、文句言うなよ。
さて、とっとと始めようぜ、カミューラ」
目の前に、サイコロが出現する。コイン同様、手にとれるみたいだ。
「さぁさぁみなさんお待ちかね、ご唱和ください。
運命のダイスロール!!!!」
いやー、このセリフ、一度は言ってみたかったんだよねー。いやー、満足満足。
負けちゃったけど。
「ふふ、ふふふふ、あーっはっはっはっはっはっはっはっは、残念ね。失敗なんて無いですって?笑わせないで頂戴。
私が6を出してしまうなんて。それに対してあなたは1?あーっはっはっはっはっはっは」
とても醜く、カミューラは笑う。
美人さんはどんな表情してても美しいって言うけど、ありゃ嘘だな。
なーんて益体も無いこと考えている俺の頭上に、超巨大サイコロが出現した。
カミューラのデュエルはダークネスのデュエルよりは痛さ控えめだけど、さすがにあれは痛そうだな。
まあ、いいか。これで三沢は助かる。重畳重畳。
「............あーあ、せっかくの大・逆・転のチャンスだったのになー。三沢生贄にして助かるつもりだったのに、いやー残念。間違えて助けちゃったなー」
「せ、先、輩............?」
「そんな顔すんなって。助かったんだぜ?憎き俺も死ぬんだしよ。もっと朗らかに笑えよ」
流石の俺でも少し、心が痛む。
「先輩............もしかして、最初からそのつもりで............さっきまでの言動も............俺が悲しまないように........................」
もうお別れの時間も終わりか。
この分だとあと2,3秒でぶつかる。
さて、じゃあ、カッコよくキメよう。
「みんな............GOOD LUCK!!」
どーん。
旭:100→0
◆
三沢大地は、扉から開放された。
だが、三沢の心には一片の喜びも無く
膝をつき、涙を流す。
「お、俺の、俺のせいで............先輩が、俺のせいで........................くそっ..............くそおっ!!」
「くはははははははは、いいわね、その顔。私はそーんな顔が見たかったのよ。くくく、あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは「あー、いってー。こりゃ、ちょっとひびくらい入ったかなー」は?」
さて、ホントのホントに茶番はここまで。
女神様達はずうっと前から予想してただろうけど、俺は死ぬ気なんてさらさらないし、見捨てる気も全くない。
「なーんちゃって。うっそぴょーん」
煙が少しずつ晴れていく。
そこには当然、二本の足で立つ俺の姿............やべ。透けてる。幽霊みたいなもんだからかねー。
「先..................輩?」
「ど、どうして............確かにあなたのライフは0になったはず............いや、今でも0のはず!」
うんうん、その通り。
「じゃあどうして、どうしてあなたは人形になっていないの!!!」
『
大嘘吐き』
『俺の死を、無かったことにした』
とか言えたらそれはそれで括弧いいんだけど、あいにくそんなチート貰ってないし、正直に答えよう。
「俺の場をよく見てみろよ」
「え?
な、何よ、そのモンスターは!?」
わざわざデュエルディスクの一番端に出して発見を遅らせるという小粋な演出をした甲斐があった。
右端の、薄暗い所にいる真っ黒なモンスターと、俺の心臓とが、細い、光の糸でつながっている。そのモンスターの胸には、∞の記号。
「インフェルニティ・ゼロ!
さて、効果を分かりやすーく説明してやろう。
まず、カード効果によるダメージで、自分のライフが0になったとき、このカード以外の手札を全て捨てることでのみ、このカードは手札から特殊召喚できる。そして、このカードが表側表示で俺の場に存在する限り、
俺はデュエルに敗北しない」
「な、なんですって!?」
「そんなカードが、この世に存在するのか!?」
「もちろんこいつは無敵じゃない。戦闘破壊耐性はあっても効果破壊耐性は無いし、ダメージ500毎にこのカードにデスカウンターを一つ置いて、三つ乗ったらこのカードは破壊される」
はっきり言って、普通の状況では出すこと自体難しいし、出してもすぐ死ぬ。でも使いたかった。しかも、能動的に、カッコよく。
で、ギャンブルデッキみたいになった。自分でも意味が分からない。
「そんなモンスターを、狙って出すですって!?」
「言っただろ?今の俺には、失敗なんか無いって」
こうなるなんて、全く計算してなかったけど、案外、この世界にいらっしゃる愛しの女神様じゃない女神様が、色々頑張ってくれたのかもなー。
ありがとうございます。
「ちっ、でも次のターン、除去カードか表示形式変更カードを引けば............」
インフェルニティ・ゼロを攻撃表示にしてサンドバック、か。いや、あのデッキ、月の書くらい入ってたりするのかね。おー、怖い怖い。でも、
「次のターン?ねーよ、そんなもん」
「な!?」
「限界を超えた俺には、失敗も成功も無い。有るのは大成功だけだ!
俺は、永続
罠 リビングデッドの呼び声を発動!」
「り、リビングデッドの呼び声?あなたの墓地には、ドラゴンフライと一撃必殺侍しかいないはず............」
「ところがどっこい、もう一体いるんだな、これが。
さて問題、いつ捨てたでしょーか。回答者は三沢君!」
「手札断殺か......あるいは、インフェルニティ・ゼロを特殊召喚するときに捨てた手札か、いえ、手札断札は無いでしょう。カイトロイドの効果が発動した時、カミューラは、デュエルディスクの機能で先輩の墓地を確認していましたから」
「ピンポンピンポーン。大正解。今回は特別に2000ポイントやろう」
「いりません」
つれないなー、もう。
「つーわけで、出でよ、第七のセフィラ、勝利を司るネツァクの守護天使の名を冠す神よ------時械神 ハイロン」
現れたのは、天使族のくせに天使に見えず、かといって神にも見えない、そんな、奇妙なモンスターだった。
「こ、攻撃力0の神ですって!?」
「なめてもらっちゃ困る。
バトルフェイズを続行。行け、ハイロン、ゾンビ・マスターに攻撃!」
「せ、先輩!?」
「慌てんなって。
時械神 ハイロンは、自身の効果で、戦闘では破壊されず、戦闘によって発生するダメージも0となる」
旭:0→0
「............だから何?何がしたいのかしら」
「お前も慌てんなって。すぐに終わらせてやるからよ。
バトルフェイズを終了。そしてこの瞬間、時械神 ハイロンの効果が発動する。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、自分のライフが相手ライフより下の場合、
互いのライフポイントの差分のダメージを相手に与える」
「え?あ、ああっ!!」
「I2社にようこそ!歓迎するぜ!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ」
カミューラ:7200→0
そして、幻魔の扉は閉じた。ダークネス吹雪の魂を飲み込んで。