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マブラヴオルタネイティブ-フォーアンサー 【第拾肆話】謁見 〜邪魔〜
作者:首輪付きジャッカル   2012/07/14(土) 20:15公開   ID:DrLCfJXBaFQ
「殿下、拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極にございます。
私は帝国本土防衛軍 帝都防衛第一師団 第一戦術機甲連隊所属、沙霧尚哉大尉であります」
「…おもてを上げるがよい。
此度…このような形でそなたと顔を合わさねばならぬこと―――真に遺憾です」
 現在クーデター軍のリーダー、沙霧尚哉大尉と征夷大将軍煌武院悠陽殿下御剣冥夜はそれぞれの戦術機の上で向かい合っている。
 始め沙霧大尉はこの謁見方法に渋っていた。しかし月詠中尉が交渉の末何とか元々こちらの狙い通りの謁見方法になるようにした。そして現在に至る・・・

「殿下に多大なる心労をおかけ致しました事、塗炭とたんの苦しみであります。されど―――
帝国に巣喰った逆賊共を討ち、全ての膿を出し切るまで今暫くの間、ご容赦を賜りたく存じます」
「…私は、そなた達を斯様かような立場に追い込んでしまった自らの不甲斐無さが口惜しいのです」
「殿下・・・」
「そなたの声明にあったように、帝国議会や軍のあり方と私の意思との間に浅くない溝ができてしまっていたことも事実です。
されど、政府は政府なりに国や民のことを想い力を尽くしてきたに違いありません。
その思いが純粋であるが故に、齟齬や対立が生まれるのは往々にして起こりうること。そして、それを御しきれぬ我が不徳こそ責められるべきなのです」
「畏れながら殿下!」
 大尉がそれは違うとでもいうように声を荒げる。
「将軍のご尊名において行われるべき政が、殿下の御意思とたがえているという現状こそが、許されざることなのです。
無論、人のなすことに絶対はございません。
ですが、それを正そうとする心を持たぬやからは、殿下のそのような言葉すら都合のよい隠れ蓑に利用しているのです。
―――齟齬が生じたのなら…それを正すのは殿下ではなく政府や軍でありましょう。
しかし残念ながら、今の彼らにそのような自浄作業はもはや望むべくもありません。
先の帝都での戦闘の際、仙台臨時政府から伝えられた殿下のお言葉は『即時無条件武装解除』でした。しかもその命が伝えられたのは顧みるに、既に殿下が帝都城に居られないはずの時刻・・・おおかた、彼の者達が握り潰そうとしていた折り、殿下のご不在をり、急遽偽名を発したのでございましょう」
 そう。故に彼は臨時政府から発せられた殿下のお言葉を信じられなかったのだ。
「幸い私どもは、真のご下命の内容をさる信頼できる筋の者から聞き及んでいましたので、彼の者の奸計に陥ることはございませんでした」
「………」
 さる信頼できる筋の者とはつまり鎧衣左近のことである。
「私が決起せし同志達に戦闘停止を命じたのは・・・彼の者達が用意した偽名の遥か以前にございます。
されど何故彼の者達は、殿下の命を私どもに伝えなかったのか…」
「………」
「―――畏れながら、彼の者達こそが逆賊。殿下がお心をいためる由は微塵もございません!!」
 強い意思を持った声で大尉は言った。
「―――」
 殿下は暫く黙った後、言った。
「―――大尉…そなたの申すことはわかります。されど今の帝国の有様…
これが将軍である私の責任である由はなんら変わるところではない。
米軍や国連軍の介入を許してしまっているのもまた然り―――
―――故にそなたたちが私のために血を流す必要は無いのです…!」
「殿下・・・畏れながら・・・殿下の潔く崇高な御心に触れ、万感交々ばんかんこもごも至り、心洗われる思いにございます。
しかしながら、米軍および国連軍の介入は重大な内政干渉であり、国家主権を脅かす蛮行であることは、決して変わることはありません。
事ここに至り、しばらく賜りました機会…斯かる事態を招いた不面目を棚に上げてでも、殿下にお伝えせねばならぬことがございます」
「…申すがよい」
「―――此度の件…米国の思惑を成就せんがための謀にございます…!
―――帝都での戦闘は帝都城警備の斯衛部隊に対し我が同志部隊が先制攻撃を仕掛けたことが発端とされています。結果的にそれは事実であります。されど部隊指揮官は発砲を命じておらず、一兵士が暴走し、上官に射殺されるまで発砲を続け、反撃に出た斯衛部隊に対し、撤退しながら応戦したというのが事の顛末です。
そして不思議なことに、同じ時刻に同様のことが帝都城の周囲数箇所で発生しておりました。
その中のとある部隊の将校が命令を無視して発砲した兵士を射殺せず逮捕し、連行してきたのです。その兵士を精査したところ、その兵士は米国諜報機関の工作員であることが判明いたしました」
「―――!?」
 御剣はこの手の情報を知らない。もちろん殿下も知らないのだが、この時御剣は
この情報を沙霧大尉の口から聞き、動揺してしまった。
「極東での復権を望む米国政府は、米軍派遣の口実を作るため帝都での騒乱を望んだのです。帝都の戦闘から米軍が殿下を救出・保護し日本の騒乱を平定する―――
これが米国の当初描いていた筋書きです。
そしてまた、米軍を容易く引き入れ殿下の戦闘停止命令も握りつぶした仙台臨時政府の者達こそが、帝都を戦火にさらした張本人なのです!!
さりとてそれを許した私の罪、拭える物で無いことは重々承知しております・・・
……?」
 沙霧大尉はふと殿下の様子がおかしいことに気づく。何と殿下は涙を流していた。
涙を流し、静かに殿下は言った。
「そこまで………そこまで国を…民を…この煌武院悠陽を想うのならば・・・
何故そなたは人を斬ったのですか…!!」
涙を流しながら強く叫んだ。
「殿下…」
「血は血を呼び、争いは争いを呼びます。そのような仕儀をもたらしたそなたたちの行い―――それは私や民の心を汲んだものであると本当に言えるのでありましょうか?将軍の意思を民に正しく伝えることがそなたたちの本意であったとしても、それが伝わらぬもの…それを阻むのもを排除することが許される道理があろうか?
それを許すのであれば…天元山の人々を力ずくで排除した政府を非難する資格・・・そなたにあろうはずがない。民の意思を語る資格があろうはずが無い!」
「・・・」
「国とは…日本という国は民の心にあるもの。そして将軍とは民の心にある日本を映す鏡のようなもの―――私はそう考えています。
もし映すものがない鏡があったら―――それは何と儚い存在であろうか―――
日本を守るというのは即ち民を守るということ。民のない国などありはしないのです。そなたがそれを一番わかっていながら…そなたは道を誤ったのです
されどだそなたたちに残された正道があります。そなたたちの過ちを雪ぐ道が・・・
一刻も早くこの争いを終わらせ民を不安から解放せねばなりません。そしてそなたの志に賛同する者達を一人でも多く救えるのは…ほかでもないあなただけです。
日本の行く末を憂うそなたの想い…そなたの志はこの私がしかと受け取りました。
これより後は常に此度の件を戒めとし、民のため国のため日本の為に尽瘁する所存です。煌武院悠陽の名にかけて…そなたに誓います」
 その言葉を聞いた大尉は暫く目を閉じ、何かを考えた後言った。
「殿下…我が同志の処遇―――くれぐれもよろしくお願いいたします」
 終わった。
これで彼らは兵を退く。これでクーデターは終わった・・・



その時だった
―――ドォン!!―――
銃撃音・・・争いは未だ終わらない


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■作者からのメッセージ
どうか次回で追われることを切実に願う
作品集その2に1〜19話あるのでぜひそっちから見てくださいね〜
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