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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その9
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/11/12(月) 20:50公開   ID:I3fJQ6sumZ2
 「スパイク1、致命的損傷、大破」

 「柿崎大尉ーーー!」

 管制官の告げる宣告に、第二中隊の隊員が声をあげた。
 戦況開始わずか1分もたたないうちに放たれた120mmが、第二中隊隊長柿崎真一大尉機の管制ユニット付近を直撃したのである。

 「ばか固まるな。動け!」

 副隊長である第二中隊第二小隊の広中竹蔵中尉の警告はすでに遅かった。
 続けざまに放たれた二発の120mmが、スパイク3の頭部ユニットと、管制ユニットに着弾、無残にも機体を粉砕する。

 「スパイク3、致命的損傷、大破!」

 一瞬にして第十三大隊の精鋭2機を仕留めた機体の搭乗者、神宮司まりもは次に狩るべき獲物を探すが、現在位置からの狙撃できるような機体はすでにいない。
 皆無数に乱立するビル群の影に身を隠したのだろう。仕方なくまりもは現在地で狙撃を断念し、そしてあろう事か敵陣中央へと単独での吶喊を行った。

 「いつまで惚けている、貴様ら。新人があれだけ活躍しているんだ。我々も続くぞ!」

 その光景に一瞬我を忘れて見入っていた第一中隊の隊員に、第一中隊隊長渡辺美咲大尉が発破をかける。
 彼女は日本帝国軍では珍しい女性衛士である。しかし第一中隊の隊長を努めるほどの歴戦の猛者でもある。その瞬時の判断能力と状況把握能力は抜群だ。

 「「はっ!」」

 「フライヤー1、神宮司まりも少尉か、確かに衛士養成学校卒業仕立てとは言えない腕前だが、単独の特攻でどうこうなるほど我々の仲間は安くないぞ?」

 独りごちる渡辺大尉だったが、すぐにこれから行われる一方的な蹂躙劇に目を奪われることになる。

 「は、速い!なんだ、なんであんな高速機動でビルの間を駆け抜けられるんだ!?」

 「スパイク9、左腕損傷、中破」

 ビル間をまるで稲妻のような機動で走り抜けるまりもが駆る撃震弐型。
 迎撃のために36mmをばらまくが牽制にすらならない。速度を落とすどころか、ますます加速してスパイク9に襲いかかると、右手に握った八十九式近接日本刀で左肩ごとごっそりとこそぎ落としていく。
 エレメントを組むスパイク10が36mmで、止めをさそうとするまりも機を狙うが、まるで弾道が読まれいるかのように全て避けられてしまう。

 「くそっ、あたらねえ、なんなんだ、あの動き。人間の動きじゃねえ!うぁ!?」

 「スパイク10、管制ユニット破壊、致命的損傷、大破」

 まりも機の左手に握られた八十九式滑空砲で反撃、スパイク10のど真ん中、管制ユニットを打ち抜く。しかもスパイク9を相手取りながら、まるで二つの視界を持つかのごとく的確にスパイク10を撃墜したのだ。
 その光景に、シミュレータールームの小塚次郎少佐がうなり声を上げる。

 「凄まじいな。確かに以前見たデータでは、実際に複数目があるかのような動きをしていたが、実際に目の前でやられるとなると、正直、自分の目を疑うな」

 「いえいえ、あの程度は少尉にとっては序の口ですよ。むしろ、慣れない戦術機戦なんで手こずっているみたいですね」

 「慣れない?というか、あれで手こずっているだって?」

 「はい」

 一応まりものCP役のはずの隆也だったが、仕事らしい仕事をせずに小塚が見つめるモニターを一緒になって見ていた。

 「養成学科での訓練は主に対BETA戦を想定したのものが殆どで、対戦術機、つまり対人戦を前提の訓練は殆どおこなっていないんですよ。割合で行くと9:1くらいですか」

 「なんだと?なぜそのような偏った教練を?」

 「戦術機は人類の刃であり、BETAを屠るための牙です。それに対人戦と対BETA戦では戦闘前提自体が変わってしまいますからね。前線で少しでも長生きするためには、その方がいいんですよ」

 前提条件というのはいろいろと挙げられる。
 例えば、対人戦では生き残る確率がそもそも違ってくる。降伏が可能、あるいは戦闘不能状態に陥れば見逃されたりする対人戦と違って、対BETA戦は負け=死亡である。
 またBETAは対人戦と違って駆け引きをしてこない。基本行動は前進と、攻撃だ。回避、という選択肢がまずない。対人戦はある程度弾を避けられることを前提に銃を運用する必要があったりと、いろいろと行動の先読みをする必要があったりするのだ。

 「理屈はわかるが、世の中そんなにあまくはないぞ?対人戦の必要性が全くないとは思えないが」

 「ええ、ですので最低限の対人戦訓練は行っています。その際は、不殺まりもと言われるくらいの活躍をしていたんですが、今回は久しぶりの対人戦ということと、相手の力量が高いだけあってそこまでの余裕はないみたいですね」

 「不殺?」

 「ええ、簡単です。管制ユニットに一切損傷を出さずに相手を戦闘不能に追い込む。別名、だるま作りのまりもとも呼ばれていましたが、そちらのほうは本人が嫌がるので周りには広まっていないですね」

 小塚の頭に四肢を切断、あるいは破壊された戦術機を睥睨するまりも機の姿が浮かぶ。ぶっちゃけ、怖い。
 それに、相手を殺さずに完全無力化するにはそれだけ圧倒的な力量が必要だ。知れば知るほど期待のルーキーの力量に驚かされる。

 「おや、どうやら調子を取り戻したみたいですよ」

 隆也がモニターを見ながら小塚に告げる。
 モニターには四肢と頭部を切断され無力化された撃震弐型が転がっていた。

 「スパイク9、戦闘行動不能、大破と認定」

 長刀でだるまを一機作り上げたまりもは、次の獲物を探してセンサーに目を向ける。

 「図に乗るなよ、新人!」

 その頭上から奇襲をかける4機の撃震弐型。
 副隊長の広中中尉はまりもの存在を早急に排除する必要があると認め、中隊から一個小隊を対まりも用として裂くことを決定したのだ。

 「ようやく暖まってきたところです、先輩方こそお覚悟を」

 静かにまりもが告げた瞬間、一方的なまりもの蹂躙が始まった。
 制空権を握った第一中隊の4機からの銃弾を嘘偽りなく紙一重でかわすまりも。
 その機動は今まで彼らが見てきたどの国の機動とも違っていた。
 人間の機動を越えた機動、それを戦術機が可能とすることは頭では皆理解していた。だが、頭で理解していただけで誰もその本質に迫ったことは無かった。
 それをいままざまざと見せつけられていた。
 怪奇な三次元機動は、人間には到底出来まい。それをまりも機は苦もなく実現していた。
 体感時間は一瞬。実際の時間にしても数秒だろう。
 気がつけば眼下にいたはずのまりも機が頭上に位置していた。
 そして無残にも四肢を打ち砕かれて落下していく3機の戦術機。

 「終わりです」

 急降下するまりも機に対して衛士が回避行動を取るが、それはまるで読まれていたようにまりも機から放たれた120mmが吸い込まれていく。
 一瞬にして両腕をもぎ取られ、体勢が崩れて機体の制御が失われる。
 狙いしましたように降下中のまりもが残った両足を切断していく。

 「スパイク5、6、7、8。戦闘行動不能、大破と認定」

 管制官の声がややうわずっているのも仕方がないだろう。
 それだけの機動だったのだ。おそらくこの場に居る誰もが目を疑ったに違いない。
 いや、一人だけ例外がいる。立花隆也だ。

 「さすがまりもん、レーザー級に照射されるぎりぎりのタイミングを見誤っていないな。とは言え、対人戦で光線級を意識するのってどうなんだろうな?」

 「もう、今は軍務中、神宮司少尉でしょ、立花伍長」

 先ほどの苛烈かつ勇猛な機動を行ったとは微塵も感じさせない柔らかい声が、隆也の鼓膜を震わせる。

 「あいあい、了解。でも与えられた状況を最大限生かすのは最低限必要なんじゃないですかね、神宮司少尉。今回は対人戦でBETA出現の制限も掛かっていないんですが。あえて飛行高度に制限を課すのどうなんです?」

 それに返す隆也の言葉に、まりもはゆっくりと頭をふった。

 「そうね。でもだからって楽な状況に甘えるのはよくないと思うの。それに私の敵はあくまでBETA。だからそれを忘れない意味でもね」

 「あいあい、了解。神宮司少尉はきまじめでいらっしゃる」

 「ふふ、そういうこと」

 会話を交わしながらもまりもの駆る撃震弐型は速度をゆるめることなく、残敵に向かって移動している。
 ここまで来るともはや大勢は決している。
 ちなみに第一中隊はまだ接敵していない。これは第一中隊が遅いというわけではなく、まりもの進撃速度と殲滅速度が桁違いなせいだ。
 だがすでに第二中隊は7機の機体を失い、残りは5機。さすがに彼我戦力差がここまで離れては逆転は難しいだろう。
 しかしそれでもなお戦意を失わないのが帝国軍第十三大隊だ。第二中隊の広中中尉は、最大の脅威であるまりも機の破壊を最優先事項とした。せめて一矢報いようとしたのだ。

 「神宮司少尉、あまり帝国軍をなめるなよ!」

 広中中尉と残りの4機。広中中尉が意図しないとはいえ、実質一個中隊対神宮司まりも1機の図式が出来上がっていた。
 その状況を、計画通り、と悪い笑顔で見つめる隆也。
 現状を認識して、驚愕する渡辺大尉。
 あまりの展開に、モニターを興味深げに見つめる小塚。

 「気をつけてください、中尉。やつの武器は異常なまでの戦術機機動と、恐るべき先読みの射撃能力です」

 中隊付きのCPが渡辺に伝えるが、それが焼け石に水だということは今までの戦況を見てきたCPが一番よくわかっていた。
 あれは理屈ではなく、実際に目で見るまでは決して理解の出来ない機動だ。

 「神宮司少尉、敵さん総員で来ますよ。どうします?」

 「言わなくてもわかっているでしょ」

 「迎撃ですね、分かります」

 「そういうこと。いい場所はない?」

 「向かってきている5機との距離と、それまでの地形を考えると、ああ、このあたりがいいかもですね。少尉の得意な三次元機動の真価を発揮できる」

 「なるほど、これはいいわね」

 「でしょ?というわけで、せいぜい遊んでやってください」

 「ええ、言われるまでもないわ」

 興奮のあまりほんのり上気した顔を、色っぽいな、今晩あたりよろしくお願いできないかな、などと考えて見つめる隆也だった。
 その会話の十数秒後、まりもの乗る撃震弐型はやや開けた広場に佇んでいた。
 迎えるは、最精鋭の第二中隊の駆る5機の撃震弐型。
 普通に考えると絶望的な戦力差だ、誰もが気後れするに違いないこの場において、まりもは違った。
 機体の数の差がどうした、とばかりに5機の撃震弐型に対して突撃を行う。
 牽制でばらまかれる36mmを軽やかに躱し、飛翔するまりもの駆る撃震弐型。
 本命はこちらとばかりに、120mmを躱した先に撃ち込まれるが、それをあり得ない機動で避けるまりも機。いや、ただ避けたのではない。それは攻防一体の機動。
 一瞬にして間合いを詰められた2機のエレメントを組む撃震弐型に対して近接長刀を振るうと、すぐさま上空に退避しながら120mmを撃ち込む。
 その交差で1機は頭部と左腕、左足、1機は右腕と左腕を破壊されていた。
 上空にいるまりもに向けて、接近戦を挑む機体が2機。狙撃体勢に入った地上の1機。
 それを平行思考の内の一つで冷静に把握し、残る平行思考で機体の状態とこれから取る攻撃手段を思考。
 一瞬にして計画が組みあがり、まりもの乗る撃震弐型が宙を舞う。
 衛士にかかるGの限界を無視したかのような高速空中機動で、一瞬にして接近してくる2機の撃震弐型の背後を取りると、左の八十九式滑空砲と右の八十九式近接長刀でそれぞれの機体を破壊していく。
 地上の狙撃体勢を取った機体がトリガーを引く暇さえなく、だるま状態にされていく仲間の機体。それを見る狙撃体勢を取った機体に乗る広中中尉は、まりもの駆る撃震弐型の動きを美しいとさえ思っていた。
 だがそれは一瞬のこと。すぐさま思考を切り替えて、狙撃を実行するが弾がまりもに当たることはなく、それどころか狙った獲物はこちらにめがけて空を駆けてくる。
 36mmをばらまき距離を取ろうとするが、すぐにビルが背面に立ちふさがりそれ以上の撤退を防がれる。

 「ただでやられると思うな!」

 長刀を抜き放ち、まりも機と対峙する広中機。それに構わずに一気に距離を積めるまりも機。
 剣戟の交差は一瞬、両腕の半ばから長刀で断ち切られ、落ちていく長刀を握ったままの広中機の両腕。
 交差した勢いを消すためにビルを蹴りつけ逆立ち状態で反転、降下しながら頭部と両足を断ち切るまりも機。

 「第二中隊全機、戦闘行動不能、大破と認定。第一中隊の勝利です」

 管制官の惚けたような声がシミュレーター室に響き渡った。
 ちなみに出番が無かった第一中隊の隊長渡辺美咲から、独断専行甚だしい、とまりもがお小言を食らったのは、きっとたぶん全く出番がなかった自分たちの隊の鬱憤を少しでも和らげるためのものだったのだろう。
 事実、彼女の目は笑っていた。
 これが「撃震オブ撃震」「私が撃震だ」「神宮司の前に撃震乗りはなく、ただ彼女の後を追うのみ」と言われることになる、まりもの伝説のはじまりだった。


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