ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その8
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/11/04(日) 19:50公開   ID:jkr/fq7BJDE
1993年8月 インド後方支援基地

 ラリーサ・ドゥヴェは、オルタネイティヴ3の第二世代として生み出された人物である。
 彼女の他の第二世代の殆どは、実験により命を落としている。実験と言っても、非人道的な人体実験からBETAへのアプローチまでその詳細は様々だ。
 人体実験からは、次世代の糧となるための貴重なデータが得られているし、BETAへのアプローチについては良好な結果は出ていないが、この計画の命題を考えれば全く問題のない行動だ。
 そう、彼女には問題意識を覚えることすら無かったはずである、本来であれば。
 そこには、おそらく彼女へ遺伝子提供を行った人物の能力が由来する。その能力とは、すなわち予知能力。
 それにより彼女は多くの人々の未来を見ることができた。だがそれはオルタネイティヴ計画には無用な能力。計画実行に求められるのは異星起源種との意思疎通を可能とする能力であるリーディングとプロジェクションであった。
 彼女は自身の能力により、最悪の選択を避けることが出来た。つまり自分がその能力に目覚めたことを知らせれば、リーディング、プロジェクションの強さと天秤にかけられ、結果未来予知を研究する方が有意義であるという結論が出ること。それにより自分は別の能力開発セクションに送られ廃人になるまで予知能力の研究を行われたのちに、遺伝子サンプルを取り出されて破棄されるということ。
 幸いにして彼女には多少なりともリーディングとプロジェクションの能力を発現することが出来た。そのため彼女は、自分の真の能力を偽って日々を過ごすこととなる。
 祖国を、そして他の兄弟姉妹を騙しているという負い目はあったが、それ以上に自分が無意味に殺されることに抵抗があった。
 自分はオルタネイティヴ3のために生まれたのである。それがそれ以外の目的のために利用されてそのあげく死んでいくなど、それは死よりもなお恐怖を覚える屈辱であった。
 自身の能力を隠して生きていく日々。
 だが第二世代の能力者は、能力の低さ故に破棄が決まった。破棄とはいえ、生体実験に回されるようなことはない。簡単に言えば、前線送りだ。
 その結果として、残り少なかった第二世代の子供達はわずか数人にまで減ってしまった。そのわずかな生き残りの中に、彼女は当然のごとくいた。自らの持つ予知能力を最大限に生かした結果だった。
 オルタネイティヴ3に自身の存在を賭けたにもかかわらずに、一方的に破棄された彼女。だが、それ以上に無意味に死んでいった兄弟姉妹たちの無念が彼女の胸を焼いていた。
 結果として再びオルタネイティヴ3直属の作戦部隊特殊戦術情報部隊に着任した彼女に渡された命令は、第四世代の子供達のお守り兼ねたスワラージ作戦への参戦。
 彼女の胸中は複雑であった。再びオルタネイティヴ3を、彼女の兄弟姉妹たちが果たせなかった目的を果たすために力を振るうことができる喜び。自分たち以上の力を持つ、そして自分たちが行うことが出来なかった祖国への貢献が出来る第四世代の子供たちへの嫉妬。なによりも、裏切られたと思った祖国への愛憎。
 しかしなによりも彼女の胸を占めていたのはたった一つのビジョン。すなわち自身の死。
 それはどうやっても覆しようがない未来だった。今までも絶望的な状況に陥ったことがあったが、それでも彼女は生き残ってきた。それはどこかにかならず自分が生き残るビジョンが見えたからだ。
 それが今回は見えない。そう、まるで自分の死を宣告するかのように。どのビジョンも自分の死を映していた。
 レーザー級に撃ち落とされる未来、突撃級に吹き飛ばされる未来、戦車級に食い散らかされる未来。全ては死に染まっていた。
 そこで初めて彼女は、自分が妙な安堵感を覚えていることに気づいた。
 必要とされなくなった自分が、ようやく死ぬことを許されたのだと、安堵の吐息を漏らす。それは、一体どんな心境なのだろうか。無意味な死を拒み、祖国に、兄弟姉妹と共に尽くすことを喜びとし、オルタネイティヴ3に協力することが全てだった人生。
 その終着地点は死。ただただ死。なにを紡ぐこともなく、ただ死んでいく。
 本来ならば無念の想いを抱くはずが、彼女は全ての楔からの解放すら感じていた。
 ただ一つ思い残すことがあるとすれば、一緒に戦術機にのる少女の事だ。彼女はまだ絶望も希望も知らない。ただ祖国のために尽くすだけの存在だ。
 初めて彼女は空に祈る。出来ればその少女に幾ばくかの救いがあることを。



1993年8月 インド後方支援基地 帝国軍領域

 薄暗い戦術機整備用ハンガー内には第十三戦術機甲大隊の整備兵たちが勢揃いしていた。ぐるりと彼らに囲まれるような位置に一人佇む隆也。

 「で、新入りよ、当然わかってるんだろうな?」

 整備兵の中で、隆也の正面に立っていた壮年の男が口を開いた。整備場で怒鳴り散らし続けたためか、かすかにかすれているがよく通る声だった。

 「もちろんです、整備班長。大陸帰りの整備兵に、新規に大陸派兵部隊へと入る整備兵の掟、しっかりとたたき込まれましたからね」

 隆也は両手にそれぞれ持ったボストンバッグを見せつけるようにしていやらしい笑みを浮かべた。

 「ほぅ、若いのに肝も据わっている。大したもんだ。だがお前さんは、学校を出ただけのひよっこのくせに、いろいろと特権を持っている。特に戦時での独自行動権限なんかは最たるものだ。一言で言えば、俺たちはお前のことを気に入らない。そんな状況を、はたして覆せるかな?」

 隆也の態度に整備班長の口元にも不敵な笑みが浮かぶ。

 「自信はありますよ、まあ、見てもらえればわかると思いますが」

 隆也はバッグを地面に下ろすと、もったいぶってゆっくりとジッパーを開いていく。
 中から姿を現したのは本。大きさはA4サイズだろうか。

 「たとえば、これです」

 隆也が取り出した本を見た瞬間、周りを取り囲む整備兵たちのどよめきがハンガー内を揺らす。

 「その絵柄、間違いなくドエロス高田のもの。俺が見たことがないと言うことは、最新作か!?」

 整備班長のエロスに満ちた目が、隆也の手に掲げられた本に向けられている。
 ドエロス高田。日本帝国が世界に誇るアングラ文化であるHMANGAのなかでも、一際独身男性、あるいは前線の性欲を持て余す男性たちに、尊敬と敬意を払われている作品を作り出す作家。

 「それじゃ、その中にあるのはドエロス高田の最新作だというのか?」

 驚愕の声が漏れる。ドエロス高田の本を耐性のない若い男性兵に与えた結果、翌日に仕事もままならないほどに衰弱して現れるか、栗の花の匂いが籠もる部屋にて失神している姿が発見されるかのほぼ二択であった。
 それ故、かのHMANGAは最上級者用のSSSランク本として、初心者には決して見せてはならない一種の封印指定ものになっている。
 その最新作を持ってきた隆也は、それに対して含みを持たせた笑みを返す。

 「ええ、ですがそれだけではありません。全方位完全対応畑山、ょぅι゛ょ好き好き熟女もありよ津田、溢れ出る劣情の大柳」

 「ま、まさか、あのエロス四天王の全ての最新刊を持ってきているというのか!?」

 驚愕が、戦慄が、そして圧倒的なまでの性欲が倉庫内に充ち満ちる。
 エロス四天王。その名は海外にHMANGA愛好家ですら知らぬものはいないビッグネームだ。その全ての最新刊を持ってきているとは。
 女兵士がみたら、最低、と一言で表せるそんな風景がそこにはあった。

 「その通りです。いずれも最新刊、内容は言わなくても想像はつくでしょう?そしてさらに、帝国軍内務省の3大美女の最新グラビア写真集です」

 止めだった。全員言葉がでないほどの衝撃を受けている。

 「認めよう、立花伍長整備兵。我ら第十三戦術機甲大隊所属整備班は、貴様を歓迎する」

 額に脂汗を浮かべ、呻くように整備班長が告げる。そして整備班長のごつい手が、隆也に差し出される。それを握る隆也。
 それはまさしく紳士同士の握手だった。後に神技に至る整備術を誇るとされる第十三戦術機甲大隊所属整備班と立花隆也の邂逅の瞬間でもある。



1993年8月 インド後方支援基地 帝国軍領域

 薄暗い通路を颯爽と通り抜ける竹中の後を、まりもはついて行った。向かう先は、大隊ブリーフィングに使われる部屋だ。36名を数える人数を収容出来るだけあってかなり大きな部屋だ。
 その部屋には今頃小塚次郎少佐が鍛え上げた最精鋭である第十三戦術機甲大隊の衛士たちがそろっているはずだ。
 理由は簡単。まりもの紹介と、新人に対して前線での心構えを教えるためである。

 「ついたぞ。神宮司少尉。貴様は平時には大隊の指揮下にあるとは言え、戦時においては別行動を許されている。ある意味特別扱いをされている。そのことを快く思わない連中もいるだろうが、そこは割り切れ。人間どうしても嫉妬という感情はなかなか制御しきれいないものだ。無論、軍規を逸脱するような嫌がらせがあった場合は、報告を上げれば適切に処理する。まあ、そんなくずのようなことを行う奴は我が大隊にいるとは考え辛いが、相手は人間だ。どうしてもないとは言い切れない。軍規に触れない程度の嫌がらせを行う可能性は捨てきれない」

 「はい、わかっています」

 「そうか、最初は馴染めないかもしれないが、根は気の良い奴らだ。すまんが最初のうちは我慢してくれ」

 「はい、了解しました」

 「すまんな。よし、では入るぞ」

 ブリーフィングルームの扉を開け、先に中に入っていく竹中。そして続いて中に入るまりも。
 瞬間、72の目がまりもを見つめる。
 好奇の目線が殆どだが、中にはまりもの胸をなめるような視線も混じっている。竹中が気にしていた嫉妬の視線はほとんどない。
 まりもは一瞬で自分に向けられている視線の種類を判別し、その主を頭に刻みつけておいた。情報は多い方がよい、とは隆也の言葉だ。
 横では竹中がまりもについての説明を行っている。戦時中には特別な権限を有すると言うことに話が及んだときには、さすがに嫉妬の視線が多くなったが一時的なものだった。

 「では、神宮司少尉、貴様から一言挨拶をしろ」

 「はっ、自分は神宮司まりも少尉であります。本日より第十三戦術機甲大隊に配属されました。栄えある第十三戦術機甲大隊の一員として戦列に加われることを嬉しく思います」

 一歩前へと足を踏み出し無難な挨拶をすませた後、再び元の位置へと戻ったまりもに対する先任たちの反応は様々だったが、全体的に見れば好意的なものだった。

 「よし、では第一中隊から順番に自己紹介をしろ。神宮司、貴様はとりあえず覚える努力だけはしておけ。さすがに一度にこれだけの人数は覚えきれないだろうからな」

 「はっ、了解しました」

 竹中の号令で順番に自己紹介を始める大隊員たち。ちなみに女性は3名。まりもを入れると4名だ。
 これはある妥当な数字である。後方支援国家である日本帝国にはまだまだ男性の予備人員がいるからだ。徴兵制度も男性にのみ課せられているため、女性の軍人自体が少ないのだ。
 全員の自己紹介が終わり、ブリーフィングが終わるころになったとき、一人の男性が手を挙げた。
 確か第二中隊隊長柿崎真一大尉といったか。

 「竹中大尉、こちらとしては神宮司少尉の力量を計る意味をかねて、実戦演習を行いたいのだがどうだろうか?神宮司少尉はそれぞれの中隊に一度配置され、全ての中隊との連携戦闘を経験してもらう。少尉においては実戦経験の豊富な衛士と共に演習を行う機会となるし、我々は少尉の力量を計ることができる。非常に有意義な演習となると思うが?」

 「なるほど、だがそれは許可出来ないですね」

 その発言に考え込むことなく、却下の返事を返す竹中。

 「知っているものいるかもしれないが、神宮司少尉が今回の作戦で使用するのは特殊な機体で、シミュレーターが用意されていない。そのためシミュレーションでの模擬演習を行うためには、少尉は本来乗機となるのとは違う機体を操作することになる。それは、いままで培ってきた機体の操縦感覚を乱すことになりかねない」

 その理由を聞いて、柿崎は肩をすくめた。

 「特別扱いか、仕方ないな」

 「竹中大尉、発言をしたいのですがよろしいでしょうか?」

 柿崎の声を遮るように、まりもが竹中へと声をかけた。

 「ああ、かまわないが」

 「では、お言葉ながら自分は訓練生時代から撃震弐型には乗り続けています。基本動作を確認する意味でも、戦場で戦ってきた先人の胸を借りる意味でも、今回の演習はよい機会だと思います。ご一考願えないでしょうか?」

 意外なまりもからの演習参加の申し出。まあ、確かにマイナスよりもプラスの方が多いかも知れないが、先進技術実証機撃震参型の戦線投入によるデータ収集は次期日本帝国の戦術機開発に取っては必要不可欠なものだ。
 おいそれと首を縦に振るわけにはいかない。

 「わかった。だが先ほど言ったように、少尉の操縦感覚に微妙なずれを生じさせるおそれもある。そのため小塚少佐に判断を委ねることとする。それでいいか?」

 「はい、異存ありません」

 「こちらも異存はない。まあ、少佐のことだ、面白そう、の一言で許可しそうだがな」

 柿崎がまりもに目をやりながら呟いた。
 その通り、小塚次郎は面白そう、というだけで本国の小塚三郎の許可も得ずに、勝手に演習の許可を下した。
 ちなみにまりもがなぜこうも好戦的な申し出を受けたかと言えば、隆也から勝負を持ちかけられたら必ず受けろ。そして度肝を抜いてやれ。戦術機の操縦とはどういうものか、その根幹から覆してやれ、との指示を受けているからだった。


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:10k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.