出動先にいた二人の次元漂流者の少女遠見真矢と羽佐間カノン、とシグナム及びヴィータを乗せたヘリはヴァイスの操縦で機動六課に戻って来た。
「はい到着っす、御利用ありがとうございました。っと」
ヴァイスの軽い声とともにヘリが着陸するが二人はまだ眠ったままだ。
「二人とも起きてくれ、着いたぞ」
声をかけ軽く揺さぶると目を覚まし、目の前にいるシグナムに一瞬戸惑ったようだがすぐに今の状況を思い出しようだ。が互いを見て先程と服装が異なっていることに気づき不思議そうな声を上げる。
「カノン、どうしたのその格好」
「真矢こそ」
二人とも服装自体ではなく、お互いの服装が変わっている事に驚いているようだ。真矢は黄色のTシャツに白い袖なしのジャケットとデニムのホットパンツでカノンは白のTシャツに緑と白の横縞のノースリーブを重ね着して細身のパンツという格好だ。ついでに言えばシグナム達もバリアジャケットから管理局員の制服に変わっている。
「おーい、さっさと行くぞ」
一足先にヘリから降りたヴィータが呼び掛けてくるのに合わせ、頭を捻る二人にシグナムも声をかけて移動を促す。
「これからについて部隊長から話がある。もっとも二人とも疲れているだろうし、今日の所は大まかな事だけになるだろう。聞きたい事等があれば明日以降にでも出来る限り答えると約束しよう。だからとりあえず移動してくれ」
ヴィータが先頭でシグナムを最後尾とし二人を挟むように部隊長室を目指す。当然だがヴァイスはヘリの整備があり、また報告する事もないため(面白そうだと来たがっていたが)同行してはいない。
「んじゃ少し待っててくれ。はやて、入るぞ」
ヴィータは部隊長室に着くとノックもそこそこに一人で入る。
先に報告する事が目的だが一緒に文句も言ってるだろうとシグナムは思っていたのだが、反してすぐに戻って来ると皆を室内に招き入れる。
部屋の中には補佐官のリインの姿も今はなく、はやてだけが正面の机の向こう側に座っている。立ち上がったはやてが二人にソファーを勧め自分はその対面に、ヴィータははやての隣に腰掛けシグナムはその二人の後ろに立っている。
この配置はもしもの時の為の備えでいざという時にはヴィータは文字通りその身を盾にしてはやてを護るということであり、それを怠り主であるはやてを危険に晒すようなことは
守護騎士としてあってはならない。
「ようこそ機動六課へ。私は八神はやて、ここ時空管理局機動六課の部隊長をしてます。まずはいきなり厄介事に巻き込まれた事にこの世界にいる者として謝罪させてもらいます」
「いや、私達こそ彼女達に危ない所を助けて貰ったからな、私は羽佐間カノン、こっちは遠見真矢だ」
自分達とそれほど年の変わらない女性が部隊長と名乗ったことに驚く二人だが、頭を下げるはやてに真矢とカノンも危ない所を救って貰ったと感謝の意を伝える。頭を上げると少し柔らかい雰囲気になったはやてが先を続ける。
「そう言って貰えると助かります。羽佐間さんと遠見さんも一応の事は説明されてると聞いてますが簡単にもう一度説明しますと御二人は次元漂流者、つまり何らかの理由で元々いた世界からこの世界に流されてきたいうことになります。私達はそんな方を元の世界に還す事を仕事の一つとしてやってます。それで早速ですがお二人がいた場所の星の名前とか周りの有名な星の名前とかなにかありますか、細かい住所だと調べ難いんである程度大きな枠で教えて欲しいんです」
「私達がいた星の名前でいいなら地球だな」
カノンが答えた途端一気に笑顔になったはやてを二人は訝しげな顔で見る、それに気付いたはやてが詳しい説明をする。
「地球ってすぐ脇に月が回ってる地球でええですよね。やったらすぐにでもお帰し出来ます、実は私も地球出身なんですよ。それで地球のどの辺です」
「
竜宮島という日本の南、太平洋上に位置する小さな島が私達の住んでる場所だ」
帰る為の展望が開けたと思った真矢とカノンの顔も明るくなるが、その未来もはやてが打ち込みながら言った次の一言で暗雲が立ち込める。
「私は日本の海鳴市という所に四年前まで住んでて今でも時々行くんです……ってあれ? 竜宮島なんて島はあれへん。かしいなぁ」
首を捻りながら再検索しているはやてを横目に小声で真矢とカノンが言葉を交わす。
「無いとすると竜宮島をこの時空管理局というところが見つけてないのか。だが聞くだけでも複数の世界を股に掛けるほどの組織が、あの島の場所が分からなくても島の存在自体を知らないということがあるのか」
「それは無いとは思うけど、でも逆にそれぞれの細かい事情は把握してないって事はあるかもしれないよ。ただ彼女が四年前まで日本に住んでて、今も日本があるってことは私達がいた所とは違うんだと思うよ」
短い相談を終えはやてに向き直ると、それを待っていたようにはやてが申し訳なさそうに切り出す。
「私達が知ってる地球に竜宮島という地名は無いんです。だから残念ですけどまた違う世界なんだと思うんです」
「だと思う。私達の知る日本にも海鳴市という名前の都市はないからな」
はやての予想にカノンも頷いて同意する。海鳴という市が日本に存在したかどうかは知らないが、今存在しないことは確実なのだから。
「そや、そっちの地球は今何年です? 私達の所は西暦2015年になりますけど」
「私達の所では西暦2148年になる。だとすると」
「同じ地球でも未来から来た、って可能性もあるんやな……。てことは私は152歳のお婆さんてことになるかもしれんのか……」
斜め上のことでショックを受けるはやて、それを眺めるシグナム達は呆れて言葉も出ない。
「いや、まそれはいいとして……残念やけど御二人をすぐに還す事はできないですね、世界が見つかってないし方法が無いですから。見つかって還ることが出来るようになるまでは時空管理局にいてもらわないといかんのですけど、大体は最初に保護した所ですから御二人の場合はここになると思いますが」
その視線に気付いたのかいったん咳払いをすると今後のことに話を移す。竜宮島の様子が心配で早く戻りたいのだが此処ではすぐに還れない。だからといって他に頼る手段もない、とカノンが真矢を見やると小さく頷き返す。
「分かった。出来るだけ早く帰れるよう取り計らって欲しい」
此処に厄介になることに決め、真矢とカノンが二人で頭を下げる。
「わかりました。発見された世界と探されている世界の情報は管理局全体で共有されますので見つかり次第連絡が来るはずです。どちらにしても一度本部に連絡しないといけませんし聞きたいこともあるでしょうが、また明日にするとして今日は部屋に案内するんで休んでください。服は管理局の制服しかないですが自由に使ってもらって構いません。シグナム、案内してや」
「わかりました、二人とも私に付いてきてくれ。客間へ案内する」
三人が出ていった後、部屋の中には沈黙が満ちていた。はやてが何か考え込んでいるのでヴィータも話し掛け難いのか、微妙な雰囲気のまま沈黙を保っていた。
そんなうちにシグナムが二人を案内して戻ってくると先程まで二人が座っていた所に座り、それに併せてヴィータもはやての隣から対面に移動する。二人が座るのとほぼ同時にはやてが顔を上げる。
「そんじゃ報告、聞こか」
「ガジェットの出現ポイントに到着した際、追われていた彼女らを発見、ガジェットを殲滅し規定に従い保護、然る後にヴァイス陸曹の操縦するヘリに同乗し帰還しました」
「そういやはやて、次元震があったならそう言ってくれよ。次元漂流者がいる可能性を考えとくからよ」
先だってやけに早いと思った理由をシグナムは悟った。ほとんど報告は後回しにされていたからだ。
「別に関係ないやろ、いたとしてもやる事は変わらんしシグナムもヴィータも油断する訳ないしな。ただちょっと私が二人ががっかりする様子を想像して楽しんだだけや」
「しかし何故報告を後回しにして二人と会われたのです? それほど急ぐ理由もなかったのではありませんか」
「まあそうなんやけどな、私の
第一印象を大事にしようと思ったからや。それで続きは」
はやてが堂々と言ってのけたその理由にヴィータも気を抜かれてしまう。反論する気を無くした二人に平然と報告の続きを求める。
「本人達に自覚がなかったとはいえバリアジャケットを身に付けていた事からもリンカーコアはあるでしょうし戦闘経験もあるのではないか、と思います。ただ私達が着いた時にガジェットと戦っていた様子はありませんでしたし、私達がガジェットを攻撃した後も戦闘に参加しようとはしませんでした」
「それに二人とも武器の類いは所持して無いようだったぞ、デバイスに設定されてねえのかは判らねえが。だがあたし達に対して敵意や悪意の類いは感じられなかったしバリアジャケットが解除された後の反応から見ても魔法のことを知らないのは間違いないと思うぜ。この世界の事を知らない事を加味しても今の所危険な奴等じゃねえとは思うぞ」
「しかし何故その様な事まで聞かれるのですか」
シグナムの質問に相手が
家族だからか苦々しい顔つきになるのを繕うことなく心中を漏らす。
「
六課は色んな所から睨まれてるからな、もしかしてって可能性があるんやったら地上本部に引き取ってもらえるような報告にしようか思ってな。そうでなければ民間協力者としてはどうかと。知っての通り部隊としては魔力リミット限界やけど民間協力者はその範疇の外やからな。無理強いする気はあらへんし、どれくらいの魔力を持ってるかはまだはっきりと探ってないけど、戦力はもしもの時を考えると幾らあっても困る事はないやろ」
はやての意図は二人にもよくわかる。人材は欲しいが悪意を持って送り込まれるかも知れない管理局内部の人間は扱いが難しいのに加え、既に優秀な魔導師が入れるほどの余地が無いため、更なる裏技を駆使しても戦力は増えるに越したことはない。
幸いと言っていいかは微妙だが六課は他の地上部隊からは距離を置かれている分、その辺が自由にやりやすいのは事実だ。干渉が少ないということは、もしもの時に助けてくれる手も少ないということだがこういう時には便利な面も持つ。
「もし協力して貰おうってんならあの遠見って奴の方を説得するべきだぜ」
ヴィータの意見は図らずもシグナムと同意見だったが、それを聞いたはやての眉がピクリと動く。
「なんでや? 主に羽佐間さんの方が話してきた訳やけど」
最初の時から話すのはカノンの方が多かったがシグナムとヴィータが受けた印象はそれだけで終わるものではない。
「確かにそうでしたが遠見真矢の意見を無視する事は無さそうです。羽佐間の方が主に会話してきた訳ですが別に
主導権を取っている訳ではないようですし、重要な決定に際しては遠見の意見の方を尊重しているようにも思えました」
「そうか、二人が言うならそうなんやろ。まあ当たってみるにしても何日か様子を見て取り敢えず問題が無さそうならって事になるけど。それまで二人に色々と頼む事になるからな、そこんとこはよろしく頼むで」
シグナムとヴィータが頷くのを確認してまとめに入る。
「それじゃ二人とも今日は御苦労様や。なのはちゃんやフェイトちゃんには私の方から伝えとくから」