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ネギま!―剣製の凱歌― 第二章-第16話 二日目、恋愛カンツォーネ
作者:佐藤C   2012/07/22(日) 14:47公開   ID:O/mbFQ/Twn6



 のどかの為に活路を開いた夕映は、のどかとネギの居る304号室を防衛するべく奮戦していた。

「あっ!何か凶器を出したです!?」
「ゆ、ゆえ吉!本で殴るのは反則ーっ!!」
「枕の上からなら無問題です!!」


『ひゃああああああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!』


 その時304号室から突如響いた、布を裂く様なけたたましい悲鳴!
 それを聞いた一同はすぐさま一時休戦し、急いで部屋の扉を開け放つ。



 ―――電気も点いていない、真っ暗な部屋だった。
 にも関わらず室内が明るいのは、開け放たれた窓から射しこんだ月光によるものだと理解する。
 そこから吹きこむ風がカーテンを静かに揺らした直後―――少女達はそれに気づく。
 一筋の月光が、布団の上に倒れた人物・・・・・・・・・・の姿を照らしめた。

 目に飛び込んできたその光景に彼女達は息を呑む。



 彼女達のクラスメート、宮崎のどかが…力無くその身を横たえていた。


 ―――ヒュオッ――ザワザワ……。


 窓の外で風になびく木々の音が、誰も言葉を発しない静寂の中に響く。
 震える声でその沈黙を破ったのは……中国人留学生、古菲だった。



「ほ………本屋が死んでるアル………!!」









 土曜ミステリー 31人の美少女探偵C
  〜戦慄の修学旅行!京都の闇にのどかが沈む!?クラスメートの無念を晴らせ!!〜









「アホですか!!そんなワケないでしょう!!
 のどかっ!大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」

 夕映はのどかの肩を抱き抱えて呼びかける。
 しかし彼女の口から出た言葉は、到底正気のものとは思えなかった。

「う、う〜ん……ネギ先生が五人………」
「何を言ってるですかっ!」

「ム、ネギ坊主は窓から逃げたアルかッ!!」
「史伽!!追うよっ!!」
「あっお姉ちゃん!!」

 夕映とのどかを放置して、他のメンバーは窓を飛び出てネギの後を追って行った。


 ・
 ・
 ・


《え――5班の宮崎選手が果敢にもネギ部屋に突入しましたが、どうやら失敗した模様!
 ネギ先生は逃走しました!!》

「……な、なぁ朝倉の姉さん」
「何よカモっち」

 冷や汗をかいて顔を青くするカモに朝倉が振り向くと…彼女も絶句する。カモが管制しているモニターには衝撃的な光景が映っていた。

「なんか………ネギの兄貴が五人いるように見えるんだけど」
「……な………?」

 モニターにはネギの分身達五人が、それぞれ別の廊下を歩く姿が映し出されている。
 彼らは「キスをする」という誤った命令を実行する為、独自に行動を開始した―――。






 第二章-第16話 二日目、恋愛カンツォーネ






 その頃、本物のネギはというと。


「……ふう、異常なし。そろそろ旅館に戻ろうかな」

 旅館の周囲を徘徊しながら、彼はそう結論した。
 しかしその旅館でこそ異常が発生しているという…皮肉な事実を彼は知らない。

「でも、のどかさんのこと……本当にどうすればいいんだろう…」


「…いつまでも先延ばしにはしておけないよね………よし!」

 決意を胸に、ネギは旅館に踵を返した。




 ・
 ・
 ・
 ・



 主催者側も異常を察知した頃……。

 旅館の周りに描かれた魔方陣の前に立つ、黒いコートの人物がいた。
 彼はその場に屈みこむと、右手を顎に添えて魔法陣の観察を始める。


(……二重円の外円、その内側に十二星座、内円には六芒星………仮契約の魔方陣だな。
 こんなバカをしでかすのは―――)


『げへへへ。いっちょブチューッといっちまうかぁ?仮契約!!』


 魔法陣の解析を開始したその人物―――士郎は、頭を抱えながら約一名(一匹)の首謀者を浮かび上がらせた。
 ………そう、アルベール・カモミール…。


(……しかしどんな構造してるんだ、消えないぞこの魔方陣!?)



 〜以下、とある人物達の回想〜

『急ぐぜ姉さん!もう作戦開始まで時間がねえ!!』

『合点!……そういえばさカモっち。仕掛けた魔方陣って何かの拍子に消えちゃったりしないの?』

『ああ、その心配は無え。普段、人や動物が来ないような場所に敷いたかんな。それに不測の事態にも備えて……』

『俺っちをどうにかしない限り決して消えないような仕組みになってんのさ!!』ドヤァ


 〜回想終了〜



 やがて士郎は諦めたように、すっくとその場から立ち上がった。

「………行くか。旅館」

(どんな理由か知らないが、そう簡単に一般人を魔法の世界こっちに巻き込まれちゃ堪らない。みっちり締め上げてやる……ククク…)

 いま第7話から再び、怒気を纏う赤髪の鬼神が降臨した。(※メタネタ




 ◇◇◇◇◇



「う、う〜ん………」

「私がネギ先生を連れて来ますからここで休んでいるですよ、のどか。よし、行くです!!」

 気絶したのどかを304号室の布団に寝かせ、夕映は勇んでネギを探しに立ち上がった。


 ――ガラッ

 するとその時、部屋の引き戸が開け放たれる。

「…あれ、どうしたんですか夕映さん?何で僕の部屋に…」

「ネ、ネギ先生!?いや…丁度良かったです、実は――」

「そう…ですね。僕も丁度良かった、…のかな」

「え?」

 思いがけない反応に、夕映は呆けた声を出す。
 それに構わず、ネギは僅かに顔を俯けて……やがて意を決したように顔を上げて夕映を見た。

「今日、のどかさんに告白されて考えたんです。
 ……突然こんなこと言いにくいんですが………僕、僕は………」



「―――夕映さんのことが………」


(―――ビクッ)


 夕映の肩が、思わず震えた。


「キス…してもいいですか?夕映さん…………」


 煩いほどに耳を叩く激しい音の正体が、自らの心臓の鼓動だと夕映は気づかなかった。


「えっ…………な、な……ネ、ネギ…先生……?」




 ◇◇◇◇◇



裕奈「………。」
千雨「…………。」

士郎「………………………。」


(…えーと………)


 ホテル嵐山に入った士郎は、玄関ロビーで静かに正座する二人の少女…裕奈と千雨を見つけて言葉に詰まる。

「…何してるんだ?」

「…あははー。見てわかんない?」

「………正座してるな」

 裕奈は開き直ったように頭を掻いてアハハと笑う。

「いやー、騒ぎ過ぎて新田に正座させられてんの」
「…ったく、巻き込まれていい迷惑だっつの…」

「…………流石だな」

 流石、元気(騒がしさ)には定評のある3−Aである。と士郎は思った。


 ――ジィ―――……。


「…………なんだよ…いや何ですか?」

 じっと自分を見つめてくる士郎を快訝に思い、千雨は彼を問いただす。

「…いや?千雨ちゃん、修学旅行楽しんでるなーって」

「楽しんでるワケねーだろこんな状況でッ!!アタシはムリヤリ参加させられたんだよ!!
 てゆーか何でアンタがここにいるんだ!?実家が京都とは聞いてたけど!!」

「そんな照れるなって。クラスメートとこんな馬鹿ができるのは学生のうちだけだぞ?うんうん」

「人の話を聞けーーーーーーーっ!!」

「裕奈ちゃん、ネギがいま何処に居るか知ってるか?ちょっと用事があるんだけど」

 顔を赤くして必死に捲くし立てる千雨を余所に、士郎は裕奈に話を訊く。

「いやーそれがさー」


 ―――「ラブラブキッス大作戦」、「ネギにキスした者が勝者」。
 裕奈から話を聞いた士郎は本気で頭が痛くなった。今度から頭痛薬を常備していた方がいいかもしれない。

 しかしお陰で、彼もようやく事態を把握した。そしてネギは現在304号室にいる。
 こんな騒動の中でカモとネギが一緒にいるとは思わないが、手がかりはネギだけだろう。
 そう考え、士郎は急いで304号室に向かった。




 ◇◇◇◇◇



「…夕映さん」

「あっ」

 頭が真っ白になった夕映は、抵抗することも忘れて容易く壁に押し付けられる。
 夕映は何とかしなければという一念だけで、とにかく思いつく限りの論理でネギを非難した。

「み、見損ないましたよネギ先生!!のどかに告白されてすぐ私に迫るなんてそれはないでしょう!!それに…のどかがそこで寝ているというのに……っ!!」

 チラリと横目で視線を向ければ、気絶したまま布団で眠るのどかが二人のすぐ傍に居る。

「…すみません。それでも………僕、夕映さんとキスしたいです」

「――あ、うっ………?」

 見惚れるほど真剣な表情で、じっと顔を覗き込まれる。そうなれば夕映は、赤面しながら言葉にならない声を出して口籠るしかなかった。冷静な思考など、とっくにどこかへ置き忘れてしまっている。


(ま、まさかそんな、ネギ先生が私のことを……? い、いや、この状況は何か変です!!落ち付きなさいダメです私。のどかは先生のことが―――…!!)


「夕映さん」


 ―――グイッ


「や……だ、だめ…………あっ…!?」

 ネギの腕が回されて、夕映は頭に手をかけられる。
 そのまま顔を強引に、ネギの方に引き寄せられて……


(だ、駄目です――――――――――!!)


 ぐいっと、別の誰かに体を引っ張られた。


 ―――トサッ……


(あ………。)


 夕映はそのまま、その人物の腕の中に収められる。
 筋肉質な硬い腕と逞しい胸板は、何処か暖かくて安心した。


「大丈夫か?」

 キス未遂の茹で上がった思考のまま、夕映は声の主を見上げて目を瞠った。


「………し、士郎さん!?」

 自分を抱きすくめるその人は、心配そうな表情をして腕の中の少女を見下ろした。


《邪魔するんですか、士郎さん?》


 剣呑な声でネギが言い放つ。
 その目は異様な光を湛えており、夕映の目にもはっきりと異常が理解できた。
 そして決定的だったのが、部屋のテレビから聞こえてきた朝倉の声だ。

『五人の先生が一斉にキスの体勢に入った―――!!しかしこの期に及んで各班なかなかキスの実行に移らない!!そして5班の綾瀬選手はどうなったのか!?このカメラの位置では見えない!!』

 それでようやく、夕映は眼前に立つ「ネギ」の正体に気づいた。

「な……!ではコレは――この先生はニセモノということですか!?」

《いいえ、ネギです》

 思わず「ネギ」を振り仰いだ夕映は開いた口が塞がらない。
 こんな精巧な偽物が、アホなクラスメート主催のくだらないゲームに用意されるとは思いもしないだろう。……一番驚いたのも朝倉だろうが。


「夕映ちゃん」

「!! な、なんですかっ」

 士郎に声をかけられて夕映はハッとし、先程の自分の痴態を思い出す。
 彼女は頬を赤く染めて、ただでさえ小柄なその身を、士郎の腕の中でさらに小さく縮こませた。


(あ、ああああっ!!なな何ということでしょう…10歳の子供…しかもニセモノに迫られて、あまつさえ押し切られそうになっていた所を………そ、それはつまりキ、キスしようとしていた所をみ、見ら、見られられ…………っ!!!)


「もう大丈夫だ。安心しろ」

 芯の通った強い声に羞恥を忘れ、夕映は再び思わず顔を上げる。
 自分を見下ろすその人が頼もしくて、あまつさえそのまま微笑みかけてくるものだから―――夕映はカァッと頬が熱くなった。

「う、あ…………は、はい…」


(……うぅ…さっきといい今といい、今日は何だか男性に丸めこまれてばかりです……)

 おそらく今日は男性運が最悪の厄日に違いないと、夕映は必死にそう思った。


 自らの腕の中にいる少女がそんな事を考えているとは露知らず。
 士郎は目の前に怪しく佇む「ネギ」を、ひと睨みして吐き捨てた。


“――――失せろ”


 ―――ボウンッ!!


「ひゃあっ!?」

 士郎が言霊を放つと、偽ネギは激しい爆発を起こして消滅した。
 "式"を構成する術式が解かれた事で噴き出した煙が部屋に充満する。士郎はそれに紛れて、夕映にバレぬよう床に落ちた人型の紙を回収した。

「…な、何ですか今のは!?けほっこほっ」

「さあ、大方朝倉のやつが用意したゲームの仕込みじゃないのか?」しれっ


 他の偽物もこの部屋に居ないようで、ならばもう士郎は此処に用はない。
 夕映を適当に誤魔化して、彼はこの場を後にする事にした。

「うーん、ネギはここには居ないみたいだな。じゃあな夕映ちゃん、俺はもう行くよ。気をつけてな」

「ぶ、物騒なことを言わないでくださいっ」

 去っていく士郎の台詞に、夕映は背筋が寒くなった。

(まだニセモノがいるみたいではないですか……いや、ゲームはまだ続いているようですし、何より主催者が朝倉さんなのですから……その方が自然かもです………)

 正解、ちなみにあと四体もいるのである。


「う、う〜ん………? ゆえ〜?」

「!! 目を覚ましたのですねのどか!!」




 ◇◇◇◇◇



 同じ頃、明日菜と刹那は、旅館内の見回りを終えてこっそり大浴場に入浴していた。

「もー、せっかく仲直りするチャンスだったのに。何でこのかから逃げるのよー?」

「そ、そのような事を言われましても…。
 私の様な者がお嬢様のお傍にいるワケには……それにやはり身分が…(ごにょごにょ…)」

「なにぶつくさ言って――……ん?」

 明日菜がふと、何かに気づいたように顔を上げる。

「ねえ、何か旅館の方ヘンじゃない?」
「…たしかに。害意はないようですが………逆にそれが不気味というか、事態が読めませんね……」

 言われて刹那も異常に気付くが、その正体までは判別できない。
 ……若干10歳の少年の唇を14〜15歳の少女達が狙うという、犯罪紛いのゲームがその気配の発生源だと知ろうものなら、二人はどんな顔をするだろうか。

「んー。なんか気になるなぁ………そろそろ上がろっか?」
「そうですね」

 湯船を出ようとして刹那が立ち上がると、妙な視線が彼女を射抜いた。


 ジィ――――………。


 明日菜が半目をして、じっと刹那の体を凝視していた。

「な、なんですか?」

「いや、桜咲さんの肌って本当にキレイよねぇ……。羨ましい…」

「!? い、いや私なんかそんな……!!
 か、神楽坂さんだってスタイルいいじゃないですか!!」

 照れた刹那は咄嗟にタオルで体を隠して明日菜を褒め返す。
 しかし、すると明日菜は遠い目をして、その顔に乾いた笑いを貼りつけた。


「………もっとスゴイのがウチのクラスにはわんさかいるわよね………?」

「……………すいませんでした……」


 そのガールズトークは、どちらも傷を負うだけの不毛な会話に終わったのだった…。




 ◇◇◇◇◇



 のどかと夕映は、旅館の廊下をひた走っていた。

「のどか!アナタはさっき『ネギ先生が五人』と言いましたね?」

「う、うんー。びっくりしてよく覚えてないけど………」

 会話しながらも走る速度を緩めない二人の少女。
 しかしお前ら、もはや他の先生達に見つからないようにとか考えてなくね?

「考えてみたのです、ネギ先生がこんなアホな騒ぎに参加するとは思えません。ソレはおそらく朝倉さんが用意したニセモノ…本物は別のどこかにいるハズです!!」

「あ、そっかー………。!? あわわっ!?」

「な、なんですか!?」

 二人は驚いて足を止める。
 彼女達が発見したのは、彼女達が走る二階廊下の先で、まき絵が目を回して倒れている姿だった。近くの観葉植物の鉢は倒れ、彼女愛用の新体操用リボンは遠くに飛ばされている。

 この状況が如何様にして発生したのか、夕映には心当たりがあり過ぎた。


(…ああ、ニセ先生が爆発したのですね……)←遠い目


「安心してくださいのどか。ネギ先生のニセモノが爆発した衝撃で気絶しただけでしょう。先を急ぐですよ」

「ば、爆発!?せんせーが爆発するのっ!?」

 のどかの叫びを無視し、夕映は彼女の腕を引っ張って駆けだした。



 そのまま一階に駆け下りた先の廊下で、二人は再び異常を発見する。
 着衣を乱れさせて廊下の床に倒れ伏す人物達はなんと、2班の楓と古菲だ。その内まだ意識のあった楓が、夕映に気づいて途切れ途切れの言葉を漏らす。

「…リ、リーダー……(ケホッ)」

「まさか…バカレンジャーの武闘派が二人とも……!?」
 
「不覚…で、ござ………(ガクッ)」

「長瀬さーーーーーーーーーーーん!!」



 そのまま一階廊下を移動中、のどかが窓を指差した。
 ええ、あの二人は放置しましたよ。by夕映

「ゆ、ゆえっ!!中庭でふーちゃんとふみちゃんが…!!」

 窓の向こうの中庭で、鳴滝姉妹が二人仲良くのびていた。

「死して屍拾う者なし、です」

 しかし夕映は無視した。
 これは真剣勝負ゲームなのである!!



 ―――そして、玄関ロビーに到着した二人が目撃したのは。


“――――BOMッ!!”


「………委員長……。」

 夕映は呆れた声を出す。
 その光景は委員長・雪広あやかが、偽ネギにキスをして爆発に巻き込まれる瞬間だった。


「そ………そんなバカ…な………無念…(ガクッ)」


(最後の一人だったからホンモノだと思ったのでしょうが、やはり……)


《なんと全員がニセモノ!!この瞬間トトカルチョはあたしの総取りかぁーーーーーーー!?》

 そんな声がモニター向こうから聞こえてくる。
 朝倉さん、不測の事態でも儲けを計算するその精神は脱帽です。
 しかし同時に各々の客室で、賭けに参加した3−A生徒達のあなたへの怒号が響いていますよ?

 ――その時、玄関ロビーの自動ドアが音をたてて開け放たれる。
 そう、それは……。


《…と? おぉーーーっと、ここで本物の登場だぁーーーーーーー!!》

 マイクを握る朝倉の手に力が籠もり、各客室の3−A生徒達が歓声を上げる。
 色んな意味でバッチリのタイミングで、本物のネギ・スプリングフィールドが旅館に戻って来た。

(!!今度こそ本物の先生です!!ほら、のどか………!)

(っう、うん………)

 夕映はのどかに囁いて、彼女の背中を押し出した。


「あ……。…宮崎さん………。」

「せ………ネギ先生……。」


 すると顔を合わせた途端に、二人は顔を赤くして黙り込んだ。




 ◇◇◇◇◇



「まったくウチのクラスは――…。せっかく奈良で本屋ちゃんがネギに告白したのに」
「本当か!?あの大人しい宮崎さんが………スゴイな」
「士郎さん、なぜ当たり前のようにここにいるんですか?(じとー…)」

 ネギとのどかの初々しい光景を物陰から窺うその三人は、明日菜と刹那、そして士郎だった。

「実はな、この『ラブラブキッス大作戦』でキスしちまうと、何処でも仮契約が成立するようにしやがったんだよ……カモミールが」
「な、なにそれ!?あ・のエロガモ〜〜…!!」
「お、お嬢様は参加されてないですよね!?」あせあせっ

「あっ、なんか話し始めたわよあの二人!!」



 ・
 ・
 ・



 話を切り出したのはネギだった。

「……あの…お昼のことなんですけど…」

「!! い・いえ――、あのコトは聞いてもらえただけで――……」

「…すいません宮崎さん。僕まだ10歳だし、人を好きになるとかよくわからなくて………それに、先生と生徒だし………」

「だから僕、ちゃんとした返事はできないんですけど――、あの……」

 苦しそうに俯くネギを見て、のどかは申し訳なさそうに、心配そうに彼を見つめる。
 ………そんな彼と彼女を、拳を握って応援する人物が、この旅館には三十人近くも存在するのはご愛嬌である。

 そして……ネギは意を決して顔を上げた。



「―――友達から……お友達から始めませんか?」


「………………はいッ♪」


 のどかはこれ以上ない笑顔で、ネギに頷いた。




 ・
 ・
 ・



「へ―――♪」
「そこらへんの10歳にあんな答え出せないぞ。やるなーアイツ」
「…………(照れ)」

 明日菜と士郎は二人の微笑ましい恋愛模様(?)を見て保護者な気分になり、刹那は顔を赤くして黙りこくる。

 しかし円満…もしくは良好に決着を見た筈の二人の会話に、不満げな表情をする者がロビーにいた。



「じゃ、そろそろ部屋に戻りましょうか」
「は、はい」


(………………。)


 その様子を見守っていた夕映は呆れたように、二人を半目で見つめている。
 すると彼女は、自室に戻ろうとするネギとのどかが自分に近づいてきたのを見計らい……。


 ――ガッ

「「あっ」」

 のどかの足を引っかけた。
 ネギは倒れるのどかを受けとめようとし、のどかはそのままネギの方へ倒れ込み―――


 ―――ちゅっ


 図らずも、二人の唇が重なった。


「あっ…すすすすいませっ……!!」
「いえっあのっ…!こちらこそ……!!」


夕映(…全く。この二人はこれくらいやらないと仲が進展しないです)はぁ…


 そしてこの人為的なハプニングに、観客達はモニター越しに沸き上がったのだった。

『おおーーーーーーーーーーー!!』
『本屋ちゃんの勝ちだーーー!!』
『優勝・宮崎のどかーーーーー!!』
『誰か賭けたやついるーー!?』


 そして物陰の三人組は。

「な…なにやっちゃってんのよネギのヤツ………!!」
「いや、アレは夕映ちゃんが原因だろ。ホント何やってんだ……」
「……………(赤面)」

 明日菜は顔を赤くし、士郎は頭を抱え、刹那は頭からプシューと湯気を出しながら俯いた。



「コラァ!!何やっとるかーーーーーーーーーーーーーー!!!」

『!!!』

 甘い空気と盛り上がりを一蹴する激しい怒声が轟き渡る。
 玄関ロビーを引き裂いたその声の正体は…3−Aの室外退出禁止を言い渡した鬼の生活指導・新田先生の降臨によるものであった。ちなみに彼の後ろには、連行された他の生徒達がぞろぞろと列を為して連なっている。

「―――全員、朝まで正座ーーーーーーーーーーッ!!
 ネギ先生もです!!まったく、生徒と一緒になって遊ぶとは………!!」

「ええーーーーーーーっ!!?」

 完全なとばっちりである。…強く生きろ、ネギ少年……。

 こうしてゲームに参加した10人+ネギは、ロビーで正座したまま次の朝を迎えるのだった。




 ・
 ・
 ・


「あ、新田先生。ちょっとよろしいですか?」

「ん?おお、士郎君じゃないか!!
 どうして京都に……ああ、そういえばご実家が京都だったな」

「ええ、ちょっと用事があって帰省していたんですが…それより、この騒ぎには首謀者がいまして………」




 ◇◇◇◇◇



「よっしゃーーー!!宮崎のどか仮契約カードGETだぜーーーー!!」
「おおっ!ニセ先生とのキスでもカードは出るみたいだね、計6枚じゃん!!」

「大がかりだった割には成果がショボイが仕方ねえ!!」
「そろそろズラかるよカモっち!!」


 ――ガチャッ


「え?」

 荷物を大雑把にまとめて背負い、カモと共に部屋を出ようとした朝倉。
 しかし自分が手をかける直前にドアが開き、その向こうから顔を出した人物を見て、彼女は上ずった声を漏らした。


「なるほど朝倉……お前が主犯か」

 おに の にった が あらわれた !!


「…ありゃ―――……」

 >にげられない!


 こうして、朝倉和美は捕縛された…。


(ま、それなりに儲かったし?「私は」良しとしますかね…)


 そんな朝倉の視線の先には。


(だ、旦那!!潰れる!潰れる!!内臓が潰れ…ギャアアアッ!!……ごぷッ)

(クク……どうしたカモミール?
 お前が逃げないように、ほんの少しばかり強く掴んでいるだけじゃあないか?)

 士郎が片手で、カモを「ぎにゅっ」と拘束していた。
 背中を向いているためその表情は窺えないが、若干黒い笑いを浮かべている様に見えて朝倉はブルリと肩を震わせる。

「何してる朝倉、さっさと来い!ロビーで正座だぞ!!」
「はーい」


(………骨は拾ってあげるよ、カモっち)


 こうして悪は滅び、修学旅行二日目の夜はようやく幕を閉じたのだった。








<おまけ>
「繋がる主従」

士郎「もう大丈夫だ。安心しろ」
夕映「う、あ…………は、はい…」

 自分の腕の中で小さくなる少女を抱いて、士郎はつい思ってしまう。

士郎(…かわいいな)


 ―――ゾクッ!!


士郎(………ッ!!?)

 このとき士郎は、背中に氷を流しこまれた様な悪寒を感じる。
 しかし彼は終ぞ、その正体がわからなかった。
 "何だろう、この嫌な感じは"――……。


 …その頃、麻帆良。

エヴァ「…………。」むすっ

茶々丸「どうかしましたかマスター、そんな険しい表情をされて」
エヴァ「いや……何故だかものすごく嫌な気分になってな」
茶々丸「…はあ…」

 半目になって眉を顰めながら口をへの字に曲げるエヴァを、茶々丸は怪訝な表情で見つめた。



〜補足・解説〜
 ちょくちょくオリジナル描写やアレンジを挟みつつ、大部分は原作通りです。
 しかし前話といい今回といい、多分こーいうのが、最近問題になっている「原作をそのまま写したかのような二次小説」なんだろうなと思ったり。
 ほら、「大部分が原作通り」って自分で言っちゃってますし(汗

>土曜ミステリー 31人の美少女探偵C
 毎回、主人公達のクラスの誰かが事件に遭遇、もしくは巻き込まれ、それを31人のクラスメート達が一致団結して解決するというストーリー。麻帆良ケーブルテレビMNNにて絶賛放送中の、スポ根バイオレンスアットホームラブコメ青春ドラマ。
 シリーズ毎にメインを張るキャラが異なっており、第一弾から重要な役割を担う事が多かった宮崎のどかがシリーズ四回目にして初のメインを務めた。
 しかし(後に生存が判明するものの)メインキャラである彼女が死亡するという展開が多くの視聴者を絶句させた。後にそうなった理由が明かされるものの、その展開上、メインの割に出番が序盤と終盤しかないという不憫さを味わっている。
 神楽坂明日菜、近衛木乃香、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、宮崎のどか…と続き、次回は綾瀬夕映がメインになると次回予告で発表された。原案担当のC・サトー氏は「夕映ってかわいいですよね」と意気込みを露わにしている。

>恋愛カンツォーネ
 カンツォーネとは、オペラ用語で「小歌」「民謡」のこと。
 ヴェルディ作「リゴレット」の「女心の歌」や、モーツァルト作「フィガロの結婚」の「恋とはどんなものかしら」などがある…らしい。作者はにわかである。

>消えないぞこの魔方陣!?
>俺っちをどうにかしない限り決して消えないような仕組み
 そーいうモンなんだということでひとつww
 条件を設定するほど強力になるっていうのはどっかのハンター漫画みたいですが。
 後日、感想欄にて「ルールブレイカーを使うんだ!」というニュアンスのご指摘を頂きました。
 そのため、ルールブレイカーに関する矛盾点の解決策として、『発動している特殊な魔法をカモ自身が解除しない限り、ルルブレで初期化しても即座に何度でも魔法陣が復活する』という設定とします。

>「夕映ちゃん」
>「な、何ですかっ」
 旧・剣製の凱歌では「士郎と夕映を仮契約させるか」迷っていましたが、改訂版ではそんなことはなかったよ(笑)
 というかそんな事したら、今以上に改訂に手間取るじゃないですかっ!!(泣)

>士郎が言霊を放つと、偽ネギは激しい爆発を起こして消滅した。
 …あれ、士郎は陰陽術に関して素人のハズなのに……?

>そのガールズトークは、どちらも傷を負うだけの不毛な会話に終わった
 3−Aのスペックの高さが生んだ弊害(笑)
 あのクラスは下手したら、嫉妬とコンプレックスの温床(もしくは発生原因)になってると思うんだ。

>この『ラブラブキッス大作戦』でキスしちまうと、
 このとき「ラブラブキッス大作戦」と言うのがちょっと恥ずかしいと思っている士郎です。

><おまけ>
 女の勘って怖いですよね。理屈じゃないってのがもう…(汗
 対してエヴァの不機嫌を士郎が察知できたのは、直感(偽)のスキルによるもの。


 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 「第二章-第17話 三日目、序」

 それでは次回!

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 それでは次回。
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