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ネギま!―剣製の凱歌― 第二章-第17話 三日目、序
作者:佐藤C   2012/07/26(木) 13:17公開   ID:fazF0sJTcF.



 修学旅行、二日目の深夜。

「白い髪の少年はどうだった?あと月詠っていう神鳴流剣士」

「いえ、あまり芳しくありません。月詠は色々と出てきましたが、白髪の少年の方はほとんど…。しかしその少年とは別に、彼女達に雇われている少年がいるという情報が得られました」

 詠春は机に積み重なる書類を手に取って士郎に渡し、自身の口からも説明を始める。

「では月詠から。元来、彼女の様に二刀を使う神鳴流というのは実は珍しいものではありません。しかし彼女の最も特徴的な点は、神鳴流剣士の多くが使う野太刀を使用しない事でしょう。伝統ある『魔を祓う剣術』ではなく、小回りの利く二刀を使った……『斬るためだけの剣術』です」

 おぞましいほど楽しげな笑みを浮かべる眼鏡の少女を思い出して、士郎は納得する。彼女は間違いなく戦闘狂の部類に入る……いや、もしかしたら………下手したら、それ以上の"ナニカ"かもしれない。
 そんな事を考えながらパラパラと資料をめくる士郎の顔は、眉間に皺が刻まれていて酷く険しい。
 目を細めて文面を漁る手を止めると、彼は父に問いかけた。

「……白髪の少年は?」

 詠春は、苦虫を噛み潰したように渋面を作った。

「そこに書いてある以上の事は何も……。『フェイト・アーウェルンクス』という名前と、一ヶ月前にイスタンブールの魔法協会から日本へ研修に送られた…という事だけです」

 何かが頭の隅に引っかかったような気がして、士郎は無意識の内に呟いた。

「…………『アーウェルンクス』…?」


(…なんだ、どこかで聞いたことがあるような……誰に……?)


 己の記憶を探るも、士郎は何処でそれを聞いたのか思い出せない。
 そんな彼と同じく、その名前に心当たりのある詠春も表情に翳りを見せるが……士郎は義父のそんな様子に気づかなかった。









 第二章-第17話 三日目、序









 翌朝のホテル嵐山では。
 朝食を終えた3−Aが、座敷でとある一人の生徒に群がっていた。

「おーっこれが豪華賞品か――っ」
「ラブラブキッス大作戦の優勝者に相応しいね!!」

 彼女達の中心に居るのは珍しい事に、引っ込み思案で大人しい宮崎のどかだ。
 一体何事かと言うと、彼女達はのどかが得た優勝賞品―――昨夜の何とも恥ずかしいゲームの賞品―――を一目見ようと、彼女の周囲を取り囲んだのである。

 その手に握られているのは、藍色を基調とした模様が描かれた、白い長方形のカード。そこには英数字とラテン語らしき表記で、のどかの名前と姿が描かれていた。
 知る人が知れば目を剥くであろうソレは、魔法使いとの契約の証…「仮契約パクティオーカード」である。


「はーい皆さん、今日は完全自由行動日よ。そろそろ準備して出発してね」

「は――い!」
「行くよ大阪―――!!」きゃっは――♪

 しずな先生の号令で3−A生徒達が散ってゆく。
 彼女達の中にいたのどかも、景品のカードを大事そうに抱いて自分の客室に駆けていった。


「えへへ―――♪」


(きゃー!!ネギせんせーとのファーストキスの証です――!!しあわせ――――♪♪)


 ……しかし。
 彼女のこの幸福の裏には邪な企みがあったと知る者は少ない………。



 …その頃、その数少ない者達は、旅館で人気のない休憩所に集まっていた。


「ちょっとネギ!!こーんなにいっぱいカード作っちゃってどう責任とるのよ!!」
「ええっ!?ぼ・僕ですか!?」

 理不尽な責めにネギが悲鳴を上げる。そう、彼に実質的な罪は無い。
 昨夜の件で最も罪ありき者共は―――。

「まーまー姐さん」
「そーだよ。儲かったからいーじゃん?」

 いけしゃあしゃあと事を水に流そうとする、このオコジョとパパラッチ娘である。

「朝倉とエロガモは黙ってて!!」
「……はーい」
「エロガモッ!?(ガーン!)」

 反省の色すら見えない二人を放置し、明日菜は尚もネギにガミガミと説教を続ける。
 すると刹那もそれに対して言及した。

「もう。ゲームの景品らしいからコピーはしょうがないけど、マスターカードは渡しちゃダメよ?
 本屋ちゃんは一般人なんだから」
「魔法のコトも教えない方がいいでしょうね」

「あのー、アスナさんも一般人じゃ「今さら私にそんなこと言うワケ?このお子様は」…あう。
 で、でも、それもそうですね。宮崎さんには全て秘密にしておきます…」

 さんざん明日菜を巻き込んできてバツの悪い部分もあり、ネギは彼女の言い分に素直に首肯する。
 するとカモがあからさまに残念そうな息を吐いた。

「惜しいなァ、あのカード強力そうなんだけどな――。まぁ勘だけどよ。
 まーいーや、姐さんにもコピーカード渡しとくぜ。『来たれ』って唱えれば武器が使えるんだぜ!」

「えー、いいわよ別にそんなの。呪文とかハズカシイし」

「ぜ、絶対役に立つからさぁー。やってみてくれよ!」

 まさか断られるとは思わなかったらしく、カモは必死に明日菜を説得しようとする。
 すると明日菜も、この危険な修学旅行を乗り切るには必要だろうと思い直したのか、渋々ながら己が描かれたそのカードを受け取った。

「しょうがないわねー。……『来たれアデアット』」

 ―――パアッ…!!

 明日菜が呪文を唱えると光が瞬き、カードが見えなくなったと思うと…気がつけば明日菜の手にはスチール製のハリセン―――アーティファクト『ハマノツルギ』が握られていた。

「わ…スゴっ……!」

 まさに「魔法」と言わんばかりの光景に感嘆の声を漏らし、明日菜は目を輝かせてその一言を口にした。


「スゴイ!!手品に使える!!」

「ちゃ、ちゃんと使ってくれよぉ!?」

 それはもちろん「手品なんかに使わないでくれ」という、使い魔として心からの懇願であった。




 ◇◇◇◇◇



「ではネギ先生、そろそろ今日の予定の確認をしましょうか」

 話が一段落した所で刹那が話を切り出した。

「そうですね。僕は親書を長さんに渡しに行こうと思ってます」

「ってーか、元々それが兄貴の任務だしな。色々巻き込まれちまったケドよ。
 でもそうすると…このか姉さんの守りが薄くなっちまうんだよなぁ………」

「ですがそれはどうしようもないのでは…」

「……ふぁ〜あ」

「………ん?」

 カモが腕を組んで真剣に唸る中、それに水を差す欠伸が聞こえた。
 それを発した人物は気だるげな顔をしたまま、ネギ達の方へ近づいて来る。

「よ、お前ら」

「――し、士郎さん!?」

 黒い七分袖のTシャツに、クリーム色をした八分丈のズボンと厚底の黒いブーツを履き、腕には銀の腕時計を着けている。
 ネギ達の前に現れたのは、未だ眠そうに目を細めた士郎だった。


「朝に弱いところは変わらないんですね(くすっ…)」

(………ッ!?)

「ああ、おはよう刹那」

 がしがしと頭を掻く眠そうな士郎を見やると、刹那はクスリと柔らかい笑みを浮かべる。

 それを見て明日菜は目を瞠った。
 ここ数日、木乃香に対して素直になれず、感情を表に出したがらない刹那の姿ばかり見てきた彼女にとって、刹那がここまで自然に笑うなど想像もつかなかった。
 そんな明日菜の様子に気づかず、刹那は自然な足取りで士郎に近寄った。

「服、ズレてますよ。もっとこう、シャツを後ろに……」

「ん? いいって別に」

「いいえ、じっとしててください!」

「……あーい」

 襟元が前に寄り過ぎているTシャツを直そうと、刹那が士郎に腕を伸ばす。士郎の方が刹那より大きいため、彼女は背伸びして士郎の首に腕を回した。苦笑しながら士郎は、断っても聞かないこの幼馴染みの為すがままにされている。
 ……その光景を静かに見ていた明日菜が、ぽつりと呟いた。


「…なんか新婚さんみたいねー」


「――――――な、な、な、な――――――――――――!!?」

「ぐぁぁあああッ!?刹那!?絞まってる!シャツの首元絞まってる!!が………ッ」


 ―――ぎゅ――――〜〜〜……!!!

 『命危うし助けて俺。ただいまライブで大ぴんち。』
 そんなワードが士郎の脳裏をフルスピードで掠めて行った。

 顔を耳まで真っ赤にしながら、俯き加減であわあわと口を動かして狼狽える刹那。
 彼女は自分が腕を上げたまま士郎の首元を絞めていると気づいていない。
 そして当事者である士郎といえば、刹那とは違う理由で顔を赤くして苦悶に喘いでいる。

 そんな思わぬ事態にネギは困惑し、明日菜は慌てて刹那を落ち着かせようとして……再び煽る結果となった。

「――お、落ち着いて刹那さん!?ふ、雰囲気よ!!雰囲気がそれっポイって言っただけ!!
 中学生と19歳じゃ夫婦に見えないでしょ!?」

「ふ、ふ、夫婦……………っ!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 声にならない絶叫を上げる士郎は、「理不尽だ」と心の中で運命に吐き捨てた。




 ◇◇◇◇◇



「――――ムッ!?」


 ―――ピキィ―――ン!!


 その時どこかの宇宙世紀っぽい紫電がエヴァの頭を駆け巡る。
 ちなみにいま彼女はソファに寝転びながら読書中であった。

「マスター、どうされました?」

 お茶の支度をする茶々丸も、そんな主の挙動に反応して声をかける。
 エヴァは自身が抱いた何とも名状し難い感覚を、探り探りで何とか言葉にしようと考え込んだ。

「いや…、どこかで私を不愉快にさせる何かが起きた………ような気がする」

「…はあ。そのような第六感は私にはわかりかねます」

「フン、誰もお前にわかってもらおうなどと思っていない」

 エヴァは「訊いてきたのはお前だろうに」とでも言いたげに茶々丸を半目で睨んだ後、気を取り直して再び本に視線を戻す。
 そんな彼女達に対し、彼は心底迷惑そうに口を開いた。


「………お主ら、ここは学園長室なんじゃが」

「ん?今更だなじじい、ウチのクラスが修学旅行なのは知ってるだろう。私は呪いで行けないし、学校ここで受ける授業も休講だ。なのに登校しなければならないこの身の恨めしさが貴様にわかるか?」

 そう、彼女達を窘めようとしたのは、学園長の近右衛門。何を隠そうここは学園長室である。
 エヴァンジェリンはその応接用ソファを占領し、茶々丸は給仕室を完全に掌握していた。

「申し訳ありません学園長、今のマスターには居場所がないのです」

「オイこら、淋しい言い方をするんじゃない」

「……やはり寂しかったのですねマスター」

「んなワケあるかぁ!!」ガバッ!!

「………うるさくて仕事にならんわい………」

 ぎゃーぎゃーと主従漫才を開始した二人を余所に、近右衛門は本日何度目になるかわからない溜め息を吐いたのだった。




 ◇◇◇◇◇



「それで、旦那はどーして京都にいるんだ?」

「まあ…話すと長くなるから省くけど、じーちゃんに行けって言われたから、だな。
 あとお前達の事情もだいたい把握してる。それで今日の事なんだが―――」

 Tシャツの襟元がしわしわになった士郎は、何事も無かったかのようにカモ&ネギと会話している。
 その傍の休憩所の長椅子には顔を赤くした刹那が、朝倉と明日菜にぽんぽんと肩を叩かれながら小さくなって座り込んでいた。


「お前らには、木乃香を本山まで連れて来てほしいんだ」

「「「「「……………は?」」」」」

 一同は、揃って呆けた声を出した。


「え、なに、本山ってどこ?」

「……関西呪術協会の総本山……つまり敵の本拠地です。
 ネギ先生が親書を届けに行く場所でもあり…このかお嬢様と士郎さんの御実家でもあります」

 刹那の言葉に、ネギと明日菜は混乱した。

「え?なにそれ!?」
「このかさんの実家が敵の本拠地……!?」

「…なるほどな、そーいうコトか」

 腕を組んで顎に手を当てながら、カモはフム、と頷いた。

「えっ?どういうことカモ君!?」

「つまりだな兄貴。旦那がその本山に帰って来るように言うって事は単純に考えて、ここより本山の中に居る方が安全ってこった。
 そこから判るのは、このか姉さんを攫ったり親書を奪おうとするヤツらはあくまで協会の少数派に過ぎないってコトだ。関西呪術協会そのものは実は、敵じゃなくてむしろ味方……ってことでイイんだよな?旦那」

 訊かれた士郎は、僅かににやりと口の端を上げた。

「ああ、その通りだエロガモ。なんたって、関西呪術協会のトップが俺と木乃香の父親なんだからな」


 事情を知らなかった明日菜・ネギ・カモは今度こそ、開いた口が塞がらなかった。


「……あのー、あたしはもうサッパリついてけないんだけど?」

 朝倉の問いに答える者はいなかった。




 ・
 ・
 ・
 ・



 さて…本日は修学旅行三日目、完全自由行動日である。
 5班も私服姿に着替えて京都市街に足を向けた。

『日が暮れるまでは修学旅行を楽しんで来い。
 俺も父さんも木乃香にはそうしてほしいと思ってるからな』

『明日になれば味方の増援が来るから、敵は必死に仕掛けてくるだろう。
 本当なら楽しむどころじゃないんだろうけど……すまん。よろしく頼むな』

『俺も離れた所から様子を見てるから安心しろ。それじゃあ、行ってこい』



「ねえネギ。士郎さんが言ってたことってどーいうコトなの?」

 魔法と関わりのない班員から少し離れて、明日菜が歩きながらネギに尋ねる。
 ネギは「うーん」と少し考える素振りを見せて口を開いた。

「えーとですね。士郎さんと長さんは、このかさんにできるだけ「普通に」修学旅行を楽しんでほしいと思ってるんです。でもそれだともう危ないから、夜は本山で匿いたいみたいです」

「日中は私達が三人がかりでお守りし、このかお嬢様には普通の修学旅行を送ってもらうのです」

 正直、そんな回りくどい事をするなら…というより、木乃香の安全を考えるならさっさと本山に向かうべきなのだが……そこは「魔法とできるだけ関わらせたくない」詠春の親バカによるものだ。
 そもそも京都を修学旅行先と認めた木乃香の祖父、近右衛門にも大きな責任があるが…彼を責めても既に手遅れである。

「兄貴の親書は本山に入ったら渡せばいいしな。いや、大分ラクになったぜ。このか姉さんの護衛に集中しつつ、夕方には親書を渡せる。しかも夜は安全な場所で過ごせる。その後は援軍の到着だ。四日目以降は何の気兼ねなく修学旅行を過ごせるぜ?」

「え、ホントに!?やったじゃん!!」

「しかしその分、敵も必死にお嬢様と親書を狙ってくるでしょう。今日が正念場です」

 ようやく気苦労無く修学旅行を楽しめると喜ぶ明日菜だが、そんな彼女の浮いた様子に刹那が注意を促した。

「ん?でもそれだと、夜はこのかの実家に泊まるってことでしょ?
 他の先生やクラスの皆には何て言うの?」

「それは長や学園長が上手くやってくれるでしょう」

「それじゃあ皆さん。今日一日、張り切って行きましょう!!」

 話の最後を締めるように、ネギが拳を握って掛け声を上げた。


「ねーそこー、なに話してんの――?置いてくよ――?」

 ネギ、明日菜、刹那の遥か前方には、5班メンバーの夕映とのどかとハルナが歩いている。
 振り返ってこちらを見る三人の元に、ネギ達は小走りで駆けて行った。


 ―――という訳で本日、3−A・5班は「表向き」普通に修学旅行を送る事となった。




 ◇◇◇◇◇



 少年が、京都の入り組んだ路地を走っている。
 頭にニット帽を被り、黒い学ランを着た少年―――、歳はネギと同じくらいだろうか。
 彼はゲームセンターで眼鏡をかけた赤毛の少年と対戦した後、まっすぐに何処かを目指して駆けていた。

 何の変哲もない、人気のない路地裏で少年が立ち止まる。
 彼は周囲を窺って誰もいない事を確認してから、仲間に向けて口を開いた。


「やっぱり名字、『スプリングフィールド』やて。あとアイツらシネマ村に行くらしいで」

「やはり……あのサウザンドマスターの息子やったか……」

 それを聞いて彼女は、「それなら相手に不足は無い」と―――妖艶な笑みを浮かべた。
 肩をはだけた艶めかしい和服に身を包んだ眼鏡の女性。そして彼女の背後には、ゴスロリ服の少女――月詠と、白い髪の少年が付き従う。

 呪符使い・天ヶ崎千草が、仲間を従えて再び姿を現した。


「小太郎、アンタは本山の千本鳥居で張っとき。親書を渡そうとしてそこに来たら閉じ込めてやりや。
 月詠はんはウチと一緒にシネマ村に行きますえ。新入りはウチらの近くで待機。この前みたく邪魔が入ったら足止め頼むえ?」

「ええー!?俺が本山の方に行くんか!?罠なんて俺の性に合わんて!!」

 小太郎と呼ばれたニット帽の少年が不服そうに声を上げる。

「新入りが中々使えるみたいやからな。突っ込むしか能のないアンタは黙って言うコト聞いとき」

「………俺より、ソイツの方が強いゆーんか!?」

 小太郎は千草に食って掛かると、次は獣のように目を光らせてギッと白髪の少年を睨む。

「"使える"言うたんや。ま、そうやってすぐ頭に血ィ上る性格を直せゆーコトやな。
 ―――ほな…行きますえ!!」

 依頼主である千草の号令がかかった事は、作戦の開始を意味する。
 裏社会で「仕事」をしてきた小太郎もその辺りは理解しており、彼女に渋々従った。


(ウフフ。センパイに、あの赤い髪のお兄さん………♪ああ、早く死合いたいわぁ…♪)

(犬上小太郎……他人の力量も測れずに挑発するとは、やはり子供か……)


 各々の思惑を胸に、刺客達が動き出す。


「シネマ村は町中で劇をやるさかい、派手に術使うて動いても簡単にはバレへん。
 うふふ、ボウヤ達……。一昨日の借りはキッチリ返させてもらいますえ………」

 京都の街に、不穏な空気が漂い始めた―――。








<おまけ>
「ブレない精神」

刹那『な―――――!?///』
士郎『ぐぁぁああッ!?刹那!?シャツの首元絞まってる!!』

 いきなりの事態にネギと明日菜が慌てふためく中、彼女は急いで腰のポーチを漁り始める。
 …勿論、カメラを取り出すためである!!

朝倉「タイトルは「痴情の縺れ」…うーんナイス!逃してなるものかシャッターチャーンスっ!!」ごそごそ…

 ―――アッタマテッカーテーカ――!「アサクラキャメラ」〜!!(CV:大●のぶ代

朝倉「激☆写!!!」パシャパシャッ

明日菜『ふ、雰囲気がそれっポイって言っただけ!19歳と中学生じゃ夫婦に見えないでしょ!?』
刹那『ふ、ふ、夫婦……!!////』
士郎『………。』←ぐったり

 眼前の混乱など何処吹く風、彼女はここぞとばかりに眼前の光景を素早くフィルムに収めてゆく。
 具体的には士郎のTシャツの首元をぎゅーと握り締めながら顔を赤くして俯いて口をあわあわと動かしながら狼狽する刹那とそれを止めようと彼女を羽交い締めにする明日菜とぐったりして動かない士郎というわけのわからない構図であった。

カモ「なーなー朝倉の姉さん」ひょこっ
朝倉「何よカモっち」
カモ「その写真が高く売れる相手…教えてやろうか?」ニヤリ
朝倉「…ほう、興味あるね」二ヤリ

 二人はグフフと下卑た笑みを浮かべながら、確かに心が通じ合う。
 やはり似た者同士である。…お前ら、ホントマジで反省しろ。

カモ「ぐふふふ、姉さんもよぉく知ってる奴さ。なんと3−Aクラスの一人、エv…」

明日菜「懲りてないみたいねアンタら」

朝倉・カモ「「!!!(汗)」」

 こめかみに青筋を浮かべた明日菜が、腰に手を当てながら仁王立ちして二人を半目で睨む。
 その背後では刹那とネギが倒れた士郎を必死に介抱しているが気にしない。

明日菜「ねえカモ?」
カモ「は、ハイ姐さん!!」ビシィッ!

 にこやかに笑い掛けてくる明日菜に恐怖し、カモは姿勢を正して佇立する。
 それを見て彼女は、すっとそれを取り出した。

明日菜「さっそく"コレ"が役に立つ時が…来たみたいね?"来たれアデアット"」

カモ「え」

 現れたハリセンを、明日菜は両手持ちで思いきり振りかぶった。

 …思い出してほしい。
 アーティファクト『ハマノツルギ』は、ハリセンでありながらスチール製である。叩かれればもちろん痛い。
 覚えていてほしい。
 カモはオコジョ…国によっては準絶滅危惧種にすら指定される、保護されるべき小動物だという事を。
 何より、忘れないでほしい。
 明日菜は……異常な程の馬鹿力の持ち主だという事を―――

明日菜「ちょっとは反省――――しなさぁぁあああいッッ!!!」

 ハリセンが振れる音、空気を裂く音、標的に直撃した音、標的が距離を無視して一瞬で向いの壁に激突した音。
 これら全てが人間の耳に届くまで、僅か一秒の出来事である。
 清々しそうな笑みすら浮かべて「…ホームラン」などと呟くその姿に、朝倉どころかネギと刹那すら慄いた。

カモ「………。」 ←旅館の壁にめり込んでる

明日菜「………さて次は」チラッ

朝倉「明日菜さま、コレがさっきの写真のネガでございます」スッ…

 朝倉が床の絨毯に正座して、フィルムを両手で明日菜に献上する。
 それをひょいと受け取ると、明日菜は肩に抱えていた『ハマノツルギ』を無言で下ろした。

明日菜「ふーん、いい心がけね?」

朝倉「あ、あははは…じゃ、じゃあ」

 直後、ハリセンを振り抜いた明日菜は「ナイスショット」と満足そうに呟いた。



〜補足・解説〜

>二刀を使う神鳴流というのは実は珍しいものではありません。
 刹那もやろうと思えば二刀流で戦えますし、若かりし詠春も墓守り人の宮殿の決戦時に使用していた辺り、神鳴流で二刀流というのは必修科目なのかもしれません。

>アーウェルンクス
>どこかで聞いたことがあるような……誰に……?)
 士郎!師匠だよ!きっとラカン師匠だよーー!!ww

>その名前に心当たりのある詠春
 ナギが倒した筈の人物の名前が出てきて少し困惑気味の詠春。でもその名前を持つ人物が子供で、だけど自分の知るアーウェルンクスにそっくりなので「あいつの息子か?」とか思ったり。

>使い魔として
 普段から使い魔の領分を弁えておけば……。

>カモが腕を組んで真剣に唸る
 普段からこの真面目さを発揮していれば…。

>朝に弱いところは変わらないんですね
 第一話にも書きましたが、この小説の士郎はFate原作の士郎(夜更かししない限りはいつも決まった時間に起きられる)と違って朝に弱いです。まあ、第一話の時も今回も、ウチの士郎はバッチリ夜更かししてましたけど。
 そして刹那がようやく幼馴染みらしい発言を(ry

>「理不尽だ」と心の中で運命に吐き捨てた。
 理不尽ではない…これが非リア充の恨みだ!!リア充もげろ!!

>どこかの宇宙世紀っぽい紫電
 ニュー●イプ(?)。ちなみにときはきっと見えない。

>登校しなければならないこの身の恨めしさ
 授業もない、やることも無い、なのに学校にはいなければならない。地味に拷問だと思うのです。
 私だったら図書室で、歴史上の人物の伝記マンガを探して読み漁りますがねw

>エヴァンジェリンはその応接用ソファを占領し、茶々丸は給仕室を完全に掌握していた。
 応接用テーブルの上にはエヴァが持ち込んだ読書用の本が積み重なっており、茶々丸がティーセットと紅茶の茶葉を持参しています。

>うるさくて仕事にならんわい………」
 構ってくれる相手がいないので真面目に仕事している学園長。
 普段からそうだと、部下や孫からの株が上がるのに…。

>「それで、旦那はどーして京都にいるんだ?」
 カモには昨夜の記憶がなかったりするwwほら、前話で内蔵を潰されたからww
 刹那と明日菜は昨夜の告白騒動などで、なんやかんやで士郎に尋ね終いになっていました。

>日が暮れるまでは修学旅行を楽しんで来い。
 さっさと現存勢力で木乃香を護衛しつつ本山に招き入れるのが最善だと思われますが、まーネギま!世界の方々はそこらへん甘いですから(笑)
 ……原作のノリを、設定の強引さに対する言い訳にしてすいません…。理論立てが苦手だなぁ…。
 でも「木乃香は魔法と関わらずに普通に育ってほしいんだ!」と思っている詠春さんなら、実際にこんな甘い作戦を立てそうだと思うのは私だけでしょうか。

>敵は必死に仕掛けてくるだろう。
>本当なら楽しむどころじゃないんだろうけど……すまん。
 だからさー。あんたら甘いのよ――(汗

>シネマ村
 原作と異なり、千本鳥居編より先にシネマ村でバトルします。
 そしてシネマ村で襲撃される事で、ネギ達は前述した「作戦の甘さ」を酷く実感する事に…。

><おまけ>
 ……どうしてこうなったwww
 最近おまけが自重してないなぁ(汗

>保護されるべき小動物
 注意してほしいのは、「カモが」保護されるべき動物なのではなく、「オコジョが」保護されるべき動物であるということ。
 そして準絶滅危惧種に指定されているのは、ユーラシア大陸および日本に生息する亜種のオコジョであり、イギリス出身のカモは多分そもそも関係ない。


 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」No.29
 「第二章-第18話 三日目、激突シネマ村」(仮)

 それでは次回!


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 それでは次回。
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