―――ザザッ・・・ザッ―――
「飢餓でやせ細ってはいるが、いい目をしてるな、お前・・・」
目の前の女が言う。ここいらの人間じゃない。よそ者だ。
「・・・何か俺に用か?」
「いや、別に。・・・いや・・・なぁ、お前、私と一緒に来て傭兵になる気は無いか?」
少し考えるそぶりを見せた後、女は言った。
「傭兵ってのになれば、食べ物は食えるのか?」
「あぁ、仕事はいつも死と隣り合わせだが、成功すれば相応の報酬がもらえる。その金で飯でも何でも食えばいい」
「じゃぁ・・・なる」
「そうか、じゃぁ付いて来い」
―――ザザッ―――
「なぁ、この巨人はなんだ?」
「なんだお前?いくら難民だったとは言え、見たことぐらいあるだろ?ネクストACだよ」
あぁ、それぐらいは知ってるさ。こいつがかつて俺の家族を奪ったのだから。
「いや、俺が聞きたいのは何故何の前フリも無くこれの前に立たされてるかだ」
「ん?お前言ったじゃないか。『傭兵になる』って」
「いや、だから・・・」
「うだうだ言ってないで早く乗れ!」
いきなりケツを蹴り上げられる。待ってくれ。俺はこいつの動かし方を何も教わっていない。
「待てよ!俺こいつの動かしかたわかんねぇぞ!?」
「ネクストなんて慣れだ!ホラ乗れ!」
「お、おい!あ、ちょ・・・」
―――ザッ・・・ザザッ・・・―――
『ミッション開始。ラインアークの守備部隊をすべて排除する』
「初の依頼だ、頑張りますかねっと」
『企業のネクストだと!?畜生、こんな時に限って!』
ラインアークの守備部隊、
MTが攻撃を仕掛けてくる。
しかし威力が足らず、ネクストには傷一つ付かない。
『くそぉ、効いているのか!?』
『
PAだ!まずはPAを減衰させるんだ!』
火力を集中し、PAを減衰させようとする守備部隊。
しかし、
「そら!」
ライフルでMTの足場を崩してやる。するとMTはなすすべも無く海へ沈んでいった。
『全目標の排除を確認。よくやったな、ほぼ完璧だ』
「初ミッションにしては上出来だろ?」
『あぁ、だが調子に乗るなよ?敵が弱すぎたのだからな』
「ちぇっ、ちょっとぐらい褒めてくれればいいのに」
―――ザザッ―――
『レイテルパラッシュ、ウィン・D・ファンションだ。ワンダフルボディを確認、排除を開始する』
味方のリンクスはそういうと
OBで一気に旧ピースシティに駆けて行った。
「気合入ってるねぇ・・・」
『お前もさっさと行け。しくじるなよ?』
「はいはい」
自分もOBで後を追う。
『ようやくネクスト投入か・・・仕掛けが遅いな、インテリオル・ユニオンも』
そういうと敵ネクストはこちらに攻撃を仕掛けてきた。
先に走って行ったレイテルパラッシュが強力なレーザーを放つ。
あんな強力なレーザーを撃ってエネルギーがもつのが不思議だ。
向こうは上方から攻めてくるミサイルとショットガン。
ショットガンで俺のPAが大きく削られる。
「ちくしょぉ、うっとおしい!」
『大丈夫か?私一人でも行ける、お前は無理をしなくてもいい』
「あ、ありがとう」
『なんだあいつ、時々止まってるじゃないか・・・』
「ここだぁ!」
ウィン・D・ファンションの言うとおり、さっきからワンダフルボディは時々止まっている。
その隙を突いてブレード一閃!
『これは・・・死ぬってのか!?俺が!?』
『ミッション完了か・・・あれでリンクスとはな・・・粗製とはこのことか』
―――ザッ・・・ザッ・・・―――
「なぁ、お前、
AFを相手にしたことあったか?」
「ん、一応拠点型AF、ギガベースを二回ほど倒してるぞ?」
「じゃぁ決まりだ」
「ん?何が?」
『ミッション開始。BFFのAF、スピリット・オブ・マザーウィルを撃破する』
「あばばばばばばばばば」
『まずは
VOBで一気に
彼我の距離を詰める』
「あわわわわわわわ」
『おい、聞いてるのか?』
「聞いてる余裕がありません!」
なんだこの速さ!?時速2000kmを振ってるぞ?
普段使うOBは大体時速1200kmが関の山だ。しかしこのVOBという物はだだネクストの後ろにくっつけただけで
その普段の倍近くの速さを作り出している。
『まぁ超高速戦だ。目を回すなよ?』
「せめて出撃前に酔い止めを渡して欲しかった・・・」
『VOB使用限界だ・・・パージする!』
VOBがバラバラになり、背中が軽くなる。VOBは使い捨てなのだ。
『よいしょぉ!』
「ん?なんだ?」
突然横からネクストが襲ってきた。始めてみるやつだ。
『キルドーザか・・・わきまえない解体屋め。あくまで今回の目的はAFの撃破だ。そいつは無視しても構わんぞ?』
「いや、あのデカブツ相手にしてる時に邪魔されたらたまんねぇからここでこいつを倒す」
「そうか、好きにしろ」
『やっぱりかぁ!』
『ネクスト、キルドーザーの撃破を確認。これで心置きなくAFと対峙できるな』
「あぁ。しっかしでけぇな」
全長2.4kmにも及ぶ6脚の化け物が目の前に居る。なんでも主砲の射程距離は200km以上だとか。
ネクストのようなたかだか20mも無い機体で本当に倒せるのか心配になる。
『大丈夫だ、ブリーフィング通りやれば情報が確かなら倒せる』
「確かならね」
突然無数のミサイルがこちらを襲う。
「っぶね!」
咄嗟にQBで横に回避する。無数のミサイルが叩き込まれた地面には見事なクレーターが出来ていた。
「あぶね〜〜〜〜」
『気を抜くな!第二波、来るぞ!』
「うそぉ!!」
『どうやら懐に潜り込めたようだな』
「なんとかね。いやホント死ぬかと・・・」
『無駄口を叩いてる暇があったら、さっさとブリーフィングにしたがってこのデカブツを倒してしまえ!』
「へいへい」
無数のミサイルを回避しながら一つずつ砲台を破壊していく。
砲台を破壊すればダメージがメインシャフトに通って勝手に自壊してくれるらしい。本当に
杜撰な設計だと思う。
『第8ブロックにて火災発生!』
『第4ブロックも駄目です!』
『メインシャフトにも被害が及んでいます・・・もう持ちません!』
「もう良さそうだな・・・」
OBでスピリット・オブ・マザーウィルから離れる。
―――ドォン!―――
無数の残骸を散らしながら、巨大な要塞は崩壊した。
―――ザッ―――
「お前に面白い依頼が来てるぞ?」
「んぁ?」
あいつは面白いといいながらも表情は笑ってなかった。
「ラインアークを覚えているか?」
「あぁ、初めての依頼で襲撃した場所」
「そうだ、あそこの主戦力、ネクスト、『ホワイト・グリント』を撃破して欲しいそうだ」
「その『ホワイト・ナントカ』のカラードランクは?」
「ホワイト・グリントな。ランクは9だが実際の実力は数字以上だ。数字は当てにならん」
「無理じゃね?俺31だよ?」
「話半分に決断を急ぐな。何も一人で行くわけじゃない。ランク1、『ステイシス』との共同戦線だ。
これ以上の条件は無い。お前の可能性、試してみないか?」
「お前は、俺になら出来ると思うのか?」
「あぁ」
「じゃぁ、いっちょ期待に答えますか!」
『こちらホワイト・グリント、オペレーターです。貴方達はラインアークの主権領域を侵犯しています。
速やかに退去してください。さもなければ、実力で排除します』
通信で女の声が聞こえる。
『ふん、フィオナ・イェネフェルトか…アナトリア失陥の元凶が、何を偉そうに』
味方の、ステイシスのパイロット、オッツダルヴァが忌々しげにつぶやく。
『どうしても…戦うしかないのですね…?』
「そりゃぁそうだろ?話し合いで解決するならそもそもネクストで来るはずが無い」
『貴様、いいことを言ったな。そうだ、もう話し合いでは済まんのだ。殺しあうしかな』
ステイシスの右手に持つハイレーザーライフルの赤い閃光が相手のホワイト・グリント白い機体に向かって延びる。
しかしやすやすと当たる相手ではない。QBでかわし、かわしながら両手のライフルで攻撃する。
ステイシスが背中のミサイルを放つ。上方から敵を襲う、避けにくいものだ。
ホワイト・グリントが背中のミサイルを放つ。空中で複数に分裂し、再度敵を追尾する避けにくいものだ。
両機が爆煙に包まれる。その爆煙の中から、赤い閃光と2発の弾丸が走った。
超上位ランカー同士のハイレベルの戦闘。両機の戦いはそれは芸術といっても過言ではなかった。
そんな中自分は手も出せず、ただ見入っていた。オペレーターが何か言っているが知ったことか。
ただ見ていたかった。
しかし何事にも終わりはある。
『メインブースタがイカれただと!?狙ったか…ホワイト・グリント!
よりにもよって海上で・・・駄目だ、飛べん・・・』
言うようにステイシスのメインブースタは火花を放ち、機能を停止していた。
『…浸水だと!?バカな。これが私の最期と言うか!認めん…認められるかこんなこと!』
しかしメインブースタの推力を失ったステイシスは力無く海中に沈んでいった。
「おいおいマジか。あのバケモンと一人でやりあえと?」
『こんな状況だ、逃がしてはくれまい』
「だよぁ…どうするよ?」
『私は別にあれを倒せとは言わん。だが…必ず生きて帰って来い』
「まぁ精々足掻いてみるよ!」
俺は意を決して跳んだ。
「やばい!
AA・・・うあぁああああ!!」
ブレードで斬りに近づいたとき、ホワイト・グリントの全身が緑の光に包まれた。
爆発。そうとしか表現できない。俺のネクスト、ストレイドのPAは一瞬にして失われ、APも大きく削られた。
『退いて下さい、結果は既に見えています』
「結果は見えてる…だと?」
相手のオペレーターの言葉に、戦闘中ながら反応してしまった。
『はい。ランク1のステイシスも沈黙し、残っているのはランク31の貴方だけ。これ以上続けても無意味です。
立ち去ってください』
「確かに俺はそんな強くねぇさ・・・でもよ」
ギリッっと歯が軋む音がする。確かにこのまま続けても俺は死ぬだろうよ。でも・・・
「決め付けてんじゃねぇ!!」
叫びに怯んだか、慢心か、ホワイト・グリントが一瞬止まった。その瞬間、俺はQBで彼我の距離を詰めた。
ホワイト・グリントのミサイルが零距離で打ち出される。爆風で自分もダメージを受けることなど厭わないかのよう。
「ぐうっ・・・あっ・・・」
人生で初めて感じるほどの激痛。今の一撃でストレイドは右手と右足を失っていた。
「くそやろおおおおおおおお!!!!」
痛みを無視して左手のブレードを振るう。しかし、遅かったか当たりは浅い。
「逃げてんじゃねぇ!!」
ブレードを振った勢いでQB。身体ごとホワイト・グリントにぶつけて壁に押さえつける。
「くたばれええええええええ!!!!」
右肩のレーザーキャノン。
俺は一心不乱に打ち込んだ。
キャノンの砲口を相手のコアに押し当てて何発も。
『ホワイト・グリントの撃破を確認。もう、終わったんだ。もういいぞ?』
「あ?え?」
『本当に、たいしたヤツだよ、お前は。帰ったら一緒に旨い物でも食いに行こう』
「あ・・・終わったの・・・か?」
―――ザッ――ザッ―――
「旨かったなぁ、あそこの料理」
「あぁ、旨かった」
「ところで重要な話がある」
「ん?」
「お前のネクストが治せません」
「はぁ!?」
「お前派手にぶっ壊しやがって・・・貴重な機体なんだぞアレ」
「どうすんの?」
「そのことでな、依頼があるんだ。聞いたことぐらいあるだろ?唯一意思を持つネクストの話」
「まぁ、少しはな。暗い噂しか聞かないけど」
「乗って動かせたら報酬はその機体と1000000Cだそうだ」
「よし、乗った!」
「噂も聞いてるんだろ?本当にいいのか?」
「俺は死なない。死んだらお前が悲しむだろ?」
「む・・・まぁ、それなりに」
「だから絶対死なないよ。約束する」
「世間ではそういうのを死亡フラグと言ってだな・・・」
「うっさい!不吉になるからやめい!」
―――ザッーザーッ―――
「おぉ!俺の前のネクストと機体構成が近い!!」
「レイレナード製はいいものだ。我輩は先日貴様に敗れたあのアナトリアの傭兵を原点にこれを生み出した。
その原点の男を打ち破った貴様なら或いは・・・乗れるかもな?」
「御託はいいよ。早く乗らせろ」
「ふん。威勢はいいな。だが貴様で13人目だ。13番目の死神は貴様に何を与える?」
「ん?死神?」
「気にするな。乗ってAMS接続してみろ。生き残れたらこの機体はくれてやる」
「あいよ」
前に乗ってた機体と構成が近いので手馴れた感じで登っていく。
そしてコアに辿り着き、乗り込みそして・・・AMSに接続した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああアアアアアアアアアアアアアア
あああああああああああアアアアアアアアアアアアアアあああああああああアアアアアアアア
アアアアアアあああああああああああアアアアアアアアアアアアアアああああああああアアア
アアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
他者の意識が思考が声が想いが己に介入する。
某逆流王子とは違い、光ではなくはっきりとしたイメージが脳内を駆け回る。
「ゲホッ・・・オエッ・・・あああああああああああああああ」
血反吐を吐き、コクピットの内側を朱に染める。むせ返る血の匂い。
血・・・赤い・・・紅い・・・
そうだこれらの意識は全て・・・
「・・・紅い・・・」
「死神が与えたもうたのは生か死か?それとも?」
ネクストが歩き出す。闇に溶ける黒い身体は光をも溶かす。
ネクストの名は・・・
『「SICARIUS-シィカリウス-」』
この日、この時、この瞬間、彼の・・・ヘイブン=ユーリーの運命は狂いだす・・・
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「・・・夢?」
起き上がるといつも通りの横浜基地の自室。
いつもと違うのは部屋の電気が消えていることぐらいか。
「夜のうちに誰かが来て消して行ったか?ったく、おかげで夢見は最悪だ」
あの後、アルテリア・ウルナを襲撃し、ORCA旅団に仲間入りし、そして果てに・・・恩人を殺した。
忘れたい過去。忘れてはいけない、自分が選んだ道。
「さて、起きよう。行こう。あの小さな英雄も、そろそろ帰ってくる頃だ」
そういってキャエーデ=スペミンフィーメンは香月の研究室に向かった・・・