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Cross†Destiny〜死を誘う音楽〜 【オープニング】
作者:泉海斗   2013/01/10(木) 11:38公開   ID:PPoQrEUnCiY
【1】
通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細通じゃ
天神さまの 細道じゃ
ちょっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに まいります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ

【2】
帰りゃんせ 帰りゃんせ   
お宮のご用がすんだなら この道通って帰りゃんせ   
お宮のご用はすんだけど かわたれ時には お化けが出ます   
お宮のお土産なに買うた おすしにお団子かしわもち   
おすしをくれねば通らせぬ おとっさんのお土産あげられぬ  
お団子くれねば通らせぬ おっかさんのお土産あげられぬ
取った子返せば通 らせる 返しましょう 返しましょう

                 *

 季節は春。
 三月もいよいよ今日で終わり、明日からは新しい月が始まる。

「あーぁ、とうとう明日から新学期かぁ」
「わたしたちも三年生、いよいよ受験だよねぇ」

 駅の階段を歩いている少女たちの会話が聞こえる。
 彼女たちも新学期前の最後の休みを遊び歩くことで満喫していた。
 そろそろ夕方になろうとしている時間帯であるためか、彼女たちが階段を上り終えると、視界は一気に茜色へと染まった。
 彼女たちが歩くプラットホームには、帰宅の途に着こうとしている学生やサラリーマンたちの姿が多く見られる。

『――五番線に五時四十分到着の滝原市方面行きの列車が参ります。危険ですので、黄色い線の内側までお下がりください』

 駅内アナウンスにしたがって、彼女たちも線の内側に立つようにする。
 周りには多くの者たちが並ぶようにして立っており、さまざまな内容の会話が交錯し合っており、雑然としている。
 そんな雑然としている雰囲気の中に一曲の懐かしい音楽が流れ出した。
 この曲が流れ出すのは、もうすぐ列車がホームに到着することを知らせるためだ。

「そういえば面白い話を聞いたんだけど」
「面白い話?」
「この駅なんだけど、出るらしいよ?」
「出るって……何が?」

 年頃の女子高生らしく、噂好きの様子だ。
 しかし一緒に立っている少女の方は、その噂がどの手のものなのかがある程度予想できたためなのか、顔がやや引き攣っている。

「この駅に子どもの幽霊が出るんだって。それにその幽霊を見た人は呪われるって噂なのよ」
「やめてよ。わたしがそういうの苦手だってわかってるでしょ?」

 詳細に噂のことを話す少女に対して、抗議の声をあげる。
 笑いながら、抗議する友人のことをなだめていた少女であるが、

「そ、そんな……」

 笑顔が浮かんでいた表情が、一瞬にして凍りついたようなものへと変わる。

「ど、どうしたの……」

 友人の彼女を心配するように声をかける。
 だが表情が凍りついたまま、口を半開きにして凍りついたように動かない。まるで肩の向こうに見える何かに釘付けにされているかのようだ。
 自分の後ろに何がいるのか。嫌な予感を感じながらも、彼女はゆっくりと身体の向きを変え、そして言葉を失った。
 さきほどまで彼女たちが立っていた横には誰の姿もなかったはずだ。
 しかし今はまるで突然現れたかのように少年の姿があった。
 背丈からしてまだ小学校低学年くらいの男の子。
 春とはいえまだ三月。明日から四月になるが、まだまだ肌寒さが残っている。
 それにもかかわらず、少年の服装というのは半袖半ズボンという夏服であった。
 違和感があるのは服装だけではない。彼の顔はまったく生気のない、まるで死人のようなものだった。
 彼女たち以外の人間で、少年の存在に気付いている者は見当たらない。
 もしいたのなら、彼女たちと同じく、違和感を覚えるはずなのだ。
 漂っている空気のように、彼の存在感は希薄だった。
 さらに噂のことも相まってか、少年に対して恐怖が生まれた。
 向こう側から列車の走る音が聞こえてきた。
 彼女たちも乗る、滝原市方面に向かう列車だ。
 二つのライトから放たれる光が徐々に大きくなる。列車特有のガタゴトという音が近づいてくる。徐々に速度を落としているだろうが、まだ十分に早いと思えるくらいだ。
 早く止まってほしい――。
 少年から目を話すことができなくなっている少女たちの共通の思い。音がすぐそばまで近づいているというのに、列車がまだ遠くを走っているかのような錯覚を覚える。
 そしてその列車が彼女たちの目の前を通り過ぎようとした時だった。
 突然少年が足を踏み出したのだ。
 それも後ろではなく、列車が走ってくる前の線路に向かって。
 それに気付くものは、彼女たち以外に存在しない。
 不意に足を踏み出した少年がこちらを振り返ったような気がした。
 彼女たちは、その少年の顔をしっかりと見た。
 その顔に浮かんだ表情から感じられたこと、それは――悲しみ、そして、救いだった。
 今ならまだ間に合うかもしれない。そう思って少年を追かけるようにして少女は金縛りにあっていたかのように動かないでいた身体を無理やりに動かした。
 やや足取りも悪く、少年のもとへと向かう。

「ダメえ!?」
「そ、そこの君! 危ないから黄色い線の内側に下がりなさい!」

 少年に続いてプラットホームと線路との境界線となっている黄色い線を少女が踏み越えたため、友人とそれに気づいた駅員が慌てて声をあげる。

「危ないよ! だから戻って!」

 少女が少年の腕を掴んだ。
 少年が弾かれたように、こちらを振り返った。
 少年は驚いた、そして、悲しそうな表情を浮かべていた。
 どうして、そんな表情をするの――。
 少女には分からなかった。
 それは彼女が少年の浮かべた表情の真意を理解する時間がもうすでに残っていなかったから。
 さきほどよりもより一層眩しい光が少女の視界を明るく照らした。
 視線の先に見たホームへと入ってくる列車――それは彼女たちを視界に捉える鋭い二つの目、鋭い顎を持った蛇のごとき長い胴体を持ったそれが地を這うかのように得物である彼女たちへと迫っていたのだ。
 ふと気づいたことがあった。少年の姿がすでにプラットホームになかったのだ。
 ここに来てようやく理解する、自分が線路へと身を投げ出してしまっていることに。
 助けを求めようとして、視線をプラットホームへと向ける。
 少女は自分の目を疑う。友人が、駅員が、多くの群集がこちらを見ている中、その中にいたのだ、彼女が助けようとして手を伸ばした少年が。
 少年の後ろに立つ、同じように際立った違和感を持っている女性の姿もあった。
 まさか彼女が――。
 そう思った、次の瞬間――すっかり茜色に染まった空を貫くように、けたたましい列車のブレーキ音が響き渡った。
 痛みなど感じるよりも前に、少女の身体は粉々に砕かれた。
 もはや原形など留めていない、身体は残らず肉片へと変わった。
 空を染め上げる茜色よりも深い赤色が列車の先端を染め上げる。
 それだけではなく、晴れ渡った空から血肉の雨がプラットホームへと降り注いだ。
 まもなくプラットホームは阿鼻叫喚の渦に呑み込まれた。
 そこは男性も女性も、大人も子供も、若者もお年寄りも関係なく、一瞬にして地獄絵図と化した。
 ただそこら一面には真っ赤な鮮血の花が咲き誇っており、まるで念仏のように彼女のことを弔うように、プラットホームには隣の線路に列車がやって来るのを伝える音楽が流れていた。

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■作者からのメッセージ
はじめましての方は、はじめまして。
いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
作者の泉海斗です。
この作品は現在部屋に投稿しているCross†Destiny〜凍てつく魂〜と同時に投稿していきたいと思っています。
ご意見、ご感想をいただけると幸いです。
この物語を読んでくださったみなさまに、無上の感謝を。
それではまた次回!
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