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敵であり、獲物であり、友である 第十七話 戦いの後の夢の中
作者:時雨   2013/02/12(火) 12:36公開   ID:wmb8.4kr4q6
「おや、あれは…」

満月が昇る闇夜の空からフワフワと飛んでくるのは、その闇夜に溶け込んでしまいそうな真っ黒い蝶だった。
まるで高級ホテルのような日本庭園を通り飛んでくるそれを、屋敷の縁側に出てきていた馨はにっこり笑い右手を宙に翳すと、ヒラヒラと飛んできた蝶はフワリと指に止まるり、淡い光を放つと形を変え何枚かの書類に変わる。
その数枚の書類を斜め読みする、黒い浴衣に彼岸花が描かれた内掛けを肩にかけた馨は、末尾に書かれた言葉に口元を上げ、空に浮かぶ月に笑みを浮かべた。

「面白くなってきたじゃないか」

末尾にはこう書いてあった…。

コートから見えたスカートはどうみても城楠学院女子のものに間違いありません。
この甘粕が保障します!!


なぜ其処まで甘粕さんが女子高生の制服に詳しいのかは、…まぁ、あえて言及しないことにして、それよりもあの城楠学院の女子にまつろわぬ神出現同時期に海外にいた者がどれだけいるのか、とっても見ものだ。
それにしても、この小さな島国に二人の王が誕生するとは、これは喜ばしいことなのか、それとも破滅への予告なのか、いずれにしても近年まれに見るほどにこの国は荒れることになるだろう。もちろん、まつろわぬ神もそうだけど、それ以上に…。

「ときに神よりも人間の方が恐ろしいことがあるからね」

このことで、9割9部9厘まず間違いなく彼女が王であることが確定するわけなんだけど、ある意味、草薙という少年以上に厄介なことになりそうだ。

馨が上空にその書類を放り投げると、ヒラヒラと宙を舞いながら人魂のような青白い炎を放ち、燃えカスも残すことなく消えていった。

「さぁ、僕等の戦場の始まりだ」

低い声で告げるは、静かな始まりの言葉。
それは、良くも悪くも動き出す音であった。
何を失い、何を求め、何を犠牲にするのだろう。
例え死なないとしても、戦場とはそういうものだ。

僕等はあの二人の王のもとで、どうなってゆくのだろう。

醜く欲にまみれた姿を晒すのか、正義とういう名の戦いに身を投じるのか、…それは誰にもわからない…

             …それでも…

「退屈よりかは、ずっとましだけどね」

ポツリ、ポツリとつき始めた明かりを眺め言葉を紡ぐと、満面の笑みを浮かべながら静かに部屋へと帰っていった。





庭には色とりどりのバラが咲き乱れ、そのバラから香る香りにつられるかのように、鳥は美しいさえずりを捧げる。そんな美しく、幸福そうな庭園とは裏腹に、その庭園の先にある宮殿のような大きな屋敷の一室では、さながら戦場のような緊迫感が流れていた。

「それでは、確認が出来たのですね?」

「はい。顔の方は確認できませんでしたが、まず間違いあるません。日本で行なわれた戦場に七人目のカンピオーネ草薙 護堂様の他にあと一人、カンピオーネがいたと思われます」

「だが、報告によればその御仁は結界をはり、魔術と武装で戦っていたというじゃないか。しかも、草薙様がくるまでは劣勢だったとか、何処かの高位魔術師とは考えられないか?」

コのじに置かれた巨大で荘厳な木製のテーブルと、そこに並べられた椅子に腰をかけるのは、髭を蓄えた紳士や、壮年の淑女だがいずれも人の上に立ってきた威厳とオーラが見て取れるような人物ばかり。だが、その中でただ一人、車椅子に座りながら、誰よりも冷静な瞳でその場を仕切る美しい女性がいた。
その人物こそイギリスグリニッジ賢人議会の特別顧問を務めるアリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールであった。
彼女は24という若さでありながら、現在この賢人議会では最大の権力を手にしているといっても過言ではないだろう。だが、それは彼女が唯単に優秀だからという理由だけではない。彼女はその美しき身に強大な能力を宿していた。
その能力と彼女の聡明さに畏怖と敬意をこめて、こう呼ぶ…『天』の位を極めし魔女…プリンセス・アリスと。


「お言葉ですが、神をその場にとどめるほどの結界を、そんな短時間で張れる高位魔術師をわたくし存じ上げないのだけれど、貴方はごぞんじで?」

車椅子のひじ置きに、片方ずつ肘を置き指を組みながらニッコリ笑って言うと、先ほどまで興奮しながら席を立ち、席に座る皆に向かって言っていた紳士は息を呑みながらゆっくりと座り、皆はその男から視線外しそのままアリスの方に向くと、固唾を飲んでアリスの言葉を待った。

「…恐らく、その方は間違いなくカンピオーネでしょう。確か、5年程前から噂は流れてましたわね。…その頃に不審なまつろわぬ神の消滅というと、ギリシャのレムノス島に現れたという神だったかと思うのですが…」

「はい。ですが、その時に出現した神の目撃者は誰もおりません」

アリスの斜め後ろに佇む、黒いスーツを着た女性が的確かつ短めに答えるが、
周りの紳士、淑女は唸るようにするだけで、誰も何も答えることはしなかった。
だが、その中で答えるのがアリスであった。

「ですが、今回のかの方に関する報告書によると、様々な道具でかの女神に立ち向かっていたとありますし、草薙様との共闘のさいにも武具を使っていたとあります。その種類には共通性は感じられないとのことですが…五年前のレムノス島に関する神のなかにそのことと符合する神を、わたくし知っておりますわ」

「というと…」

「はい…確実とは申しがたいですが、オリンポス十二神の一神ヘーパイストスが一番可能性としては高いのではと思います」

「なるほど、かの神は鍛冶の神。神々に神具を創っていたといわれる神から簒奪したのであれば、様々な道具を神具に変え、戦っていたとしても違和感はないですな」

「ですが、これはあくまで推測の域をでません。しかも、かの方は他の神からも簒奪した可能性があります。かの方が使っていたのは武装だけではありません。戦っていた時に魔術を使っていたという報告が上がってきています。ですが、神に効く魔術は限られているにも関らず、かの方の魔術はどの魔術もある程度の効果があったと報告にあります。このことから、この魔術もなんらかの神から簒奪した能力かと考え、かの方に対する調査の強化が必要かと思うのですが、皆様どうでしょう」

「「「異議なし」」」






「なぁ、エリカ」

「なにかしら、護堂」

春の麗らかな日差しから、少しばかり暑くなってきた今日この頃。
窓から降注ぐそんな陽射を浴びて俺と今、我が校で一番の話題を独占している転校生、エリカ・ブランデッリは、窓際の俺の席で昼食を共にしていた。
しかも、エリカはなんら気にすることなく、勝手に俺の前の奴の席に座り微笑みながら食事をするものだから、まぁ〜教室の中が五月蝿いこと、五月蝿いこと…。

「なんで!?何故、あの平凡間抜け顔の草薙ばかり!!!」

だとか…てか誰が平凡間抜け顔だ。余計なお世話だっての。

「どうしてだ!?エリカさん!!僕は貴女の為なら死ねるのに!!どうしてそんな脳無し馬鹿と一緒にいるんだ!!!!!」

脳なしって…お前…。

「俺は君を手に入れる為なら…草薙を呪い殺してみせる!!?!」

今の俺の常識てきにありえそうだから、やめてくれ。

聞えてくる文句に一々突っ込みを入れてたら、なんだか物凄く疲れた。
いや、マジで。これなら野球をやってたときの方がまだ楽だったような…。

「あら、護堂。なんだか仕事帰りのサラリーマンのように疲れきってた顔をしてるけど、どうかしたのかしら」

くそぅ、わざと芝居がかったように棒読みで言いやがって…。
エリカの顔は正に恐く魔の如くニマニマ笑いながらこちらを見ているので、確実な確信犯だというのは見て取れる。
それでも周りにはボロが出てないというんだから不思議だ。
多分、今のこいつから悪魔の翼と尻尾が生えてきてもおどろかないというほど似合いなのに!!!?

「まぁ、護堂をからかうのはこの辺にしておいて…。護堂、私に何か聞きたいことでもあったんじゃない?」

こいつはとうとう俺をからかうことに対して、隠すことすらやめたらしい。

俺はでかい、それはそれはでかい溜息を吐いた後、今朝の朝刊と昨日の夕刊・朝刊の話をし始めた。

「俺が、あいつを撃退したときの被害報道なんだけど…」

「あぁ、あれほど迅速に隠蔽工作できるんだもの、日本の正史編纂委員会も捨てたもんじゃないわよね」

「いや、そうじゃなくって!?…いや、確かにそれは助かったけど!!」

アテナが起こした大停電などの報道は大きく報じられるてはいるが、確かに詳しい情報はどこからも報じられることはなく、ネットですら疑惑には上がっていても真実に近いものは殆どなかった。あぁいうきらいのものは神様や魔術とか好きそうなのに、一つのキーワードすら上がってないところを見ると、なんたら委員の人達が見事になんとかしているんだろう。それは確かに助かる、けど!!!

「俺がやっちまった公園(浜離宮恩賜庭園)のことはでかでかと新聞やテレビなんかでも報道されてんのに、なんであいつがぶっ壊した所は、なんも報道がされてないんだ!」

アテナを撃退するためだったとはいえ、白馬を使ってあそこの敷地に馬鹿でかいクレーターを作ったのは確かに俺だ。あんな現場が有るいじょう、あれ自体を誤魔化すことなんて無理だって事ぐらい、俺だって理解してる。でもなぁ・・・!!

「俺だって派手に壊しちまったけど、あいつだってめちゃくちゃ倉庫なりなんなり破壊してだろうが!?なんでそっちは倉庫のその字も出てないんだよ!!?」

確かに俺ほど派手にはぶっ壊してはいなかったかもしれない、けどあいつだって倉庫や工場をいくつも全焼、大火事を起こしてたじゃねぇか。通常のときより大きなニュースが舞い込んでるからって、あれがどこにも報道されてないのはおかしいだろうが!?

「あぁ、そのことね」

「そのことねって、エリカはその理由を知ってるのか?」

「あら、知ってると思ったから私にきいたんじゃないの?」

ニッコリ笑って質問に質問を返してくるエリカに、俺はムッとするも、何も言い返すことができなかった。確かに俺は、エリカならなんらかの情報を握っているとは思ってきいたんだけど、なんでもないかのように言われると何故かむかつくのは俺だけだろうか。

「で、なんでなんだよ」

「それは簡単よ。被害自体がなかったから」

「無かった?いや、確かにでかい工場とか倉庫が跡形も無く吹っ飛んでたはずだ!?」

「そうね、それは私も見たわ。でも、委員会が隠蔽工作を行なおうとした際には綺麗さっぱり直っていたらしいわよ?何もかも全部」

何事も無かったように言うエリカの口調だか、その眉間にはいつもなら絶対に公衆では見せな皺がより、気に入らないという表情がありありと見て取れる。
こいつが思わずこんな顔してしまうんだから、口調でいうような簡単なことではないんだろう。なにせ、エリカは類稀なる政為者だ。そんな彼女が例え相手が唯の高校生だったとしても、こんな顔を見せることはまずない。何かまずいことがあったとしても、その笑顔とオーラで黙殺させるはずだ。

「なぁ、それって…」

「けして容易に出来ることじゃないわ。術ってのは万能にみえて決してそうではないの。攻撃や破壊なんかよりも、護りや何かを創りだすことは何百倍と難しい…。それなのに、一晩もしないうちにそんなこと出来うる魔術師なんて、世界で数人もいないわ。うんん、今の時代じゃ一人だっていないかもしれない」

「それじゃあ、それをやったのは…」

「えぇ、恐らく貴方と戦ったカンピオーネに間違いないと思うわ」

神妙に言うエリカには悪いけど、そんな便利な権能があるなら俺と仲間になってもらって、戦った後に修復とかやってくれないかなぁ、なんて思ってると、正面にいたエリカに思いっきり頬をつねられてしまった。

「いてぇ〜よ。はにゃせ」

「どうせ、護堂のことだから馬鹿なこと考えてるんでしょう。だから馬鹿な真似する前に忠告してあげるわ。絶対にあの方を仲間にして権能を使ってもらおうなんて馬鹿なこと、あの方の正体がわかったとしても、絶対に本人の前で言ってが駄目よ」

そういって思いっきりつねっていた俺の頬を話してくれたけど、俺にはよく理解は出来なかった。つねられた頬をさすりながら、エリカを恨みがましく見れば、今度はエリカが、でかい溜息をついていた。

「あのね、護堂…貴方、全然私の言ったこと理解してないでしょ」

「いや、だってあいつ、カンピオーネだっていっても直接攻撃の権能って持ち合わせてなかったみたいだし。ここはギブ&テイクで助け合っていくのがベストだろ」

カンピオーネがどういうものかってのはピンとはきてねぇけど、これだけは判る。
カンピオーネってのはどんな状況下においても、どんなに可能性が小さく汚いてでも、勝利を掴みとろうとする奴がなるんだってことぐらいは。なら、あいつが攻撃系をもってないなら、その塊である俺と協力することが戦闘で勝利するベストな選択だろ?

「…護堂…もしかして、いまだにあのカンピオーネを貴方が助けたなんて馬鹿なこと思ってるわけじゃないわよね」

「は?実際そうだろう?」

あいつは、俺が見たときアテナとは防戦一方だったわけで、俺がそこに介入したから戦いの流が変わったんだろう?なら、あのカンピオーネを俺が助けたってことになるんじゃねぇのか?

「…あのね、貴方は見えてなかったかもしれないけど…護堂、貴方が結界を破壊しなければ、あのカンピオーネはアテナに攻撃は可能だったのよ?しかも、それで戦いの流は大きく変わっていたはずよ。貴方、あのカンピオーネに思いっきり殴られてたじゃない、その理由がそれ。ったく、一つのことを思い込むと周りが見えなくなるのは貴方の悪い癖ね」

「げっ!?そうだったのかよ!!」

あの時、態々助けようとする人間に思いっきりぶん殴ってくるもんだから、戦いを邪魔する奴は気に入らない、唯の戦闘狂かなにかかと思ってた。実際ドニとかそんな感じだったし、それと同種なのか…。

「そんな貴方が、さも俺が攻撃してやるからサポートしろなんて言って見なさい、確実に抹殺するまで攻撃してくるわよ。あのカンピオーネ。私だったとしても、全身くまなく切り刻むまで、地の果てまでも追いかけるもの」

「…」

別に上から目線でサポートしろなんて思ったわけじゃないけど、実際問題オブラートに包まなければそう意味になるだろうと思い、エリカの言葉に何も言い返すことは出来なかった。けど、それでも今まで噂で聞いたり、実際戦ったドニなんかよりも確実に好印象はもてた。なにせ、奴らは周りのことなんてお構いなしの戦闘狂だ。まともな常識なんて落ち合わせてるとは思えない。けど、この前の奴は周りのことを考えて建物なおしていったし、戦ってたときもリズムというかなんというかそういうのが、ピッタリ合っていた気がする。なら、やっぱり仲間になってい一緒に戦った方がいいって思うのは変わんないだよなぁ…。

「…護堂、やっぱり貴方わかってないわ」

そんなことを考えてるのはお見通しとでも言うかのように、エリカは額に手を当てながら大きな、大きな溜息を吐いていた。



今はまだ、ひと時の夢の中。
一戦を終えて穏やかな時を刻む者もいれば、新たな戦いに向けて動き出す者もいる。
さぁ、踊り狂い泣き笑え…それが神殺しの戦場。


それが、カンピオーネの定めなのだから…。




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■作者からのメッセージ
ここまで読んでいただき、真にありがとうございます。
やっとこさ一巻が終わり、ようやく二巻に入ることが出来ます。ここまで来るのに結構かかってしまい、しかも思いっきりキャラを破壊してきているのですが、もし
それでもいいと思ってくださる心の広い方がいらっしゃりましたら、幸いです。
テキストサイズ:12k

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