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マブラヴ 転生者による歴史改変 39話
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/03/24(日) 17:59公開   ID:jkr/fq7BJDE
 「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」

 「は?」

 「また師匠のおかしな言動がはじまったよ」

 呆然とした声と、どこか諦めたような声が聞こえてくるが気にしない。
 ここは柊町の隠し格納庫、国連風に言うなら黒い亡霊の秘密基地である。
 そこには、今年の4月から日本帝国軍所属高等部の衛士育成学科に入学予定のマブヘタレと今年の4月から中学生になるマブシルバーが揃って立っている。

 「いいか、卒業式を間近に控えて学校が自由登校になった今が最適な経験獲得のチャンスなんだ。それを無駄にするわけにはいかないため、諸君らには少々早いが漢になってもらう!」

 「え、漢ですか?」

 「師匠が漢とか、やばいなんかいやな予感しかしない」

 さすがシルバーこと武、伊達に長い付き合いはしていない。代わりにヘタレの奴はやや戸惑っている模様。

 「なに、実に簡単なお仕事だ。これから各員に装備を配るのでそれを装着後、オリジナルハイヴまで散歩に行ってくる。そして憎いあんちくしょうであるBETAを狩って狩って狩りまくる。そしたら経験がっぽがっぽ、戦闘経験も積めてお得な一日となることだろう!」

 「お、オリジナルハイヴ!?」

 「BETA!?」

 さすがにびっくりしたのか、ヘタレも武も目を丸くしている。

 「そうだ、はっきり言っておまえら経験の燃費が悪いんだよ。おぢさんが別けてあげるにも限度があるってもんだ。だもんで、自分で必要な経験は自分で稼いでもらうことにしました。異論は認めません、以上!」

 一息に捲し立てると、傍らにあるボタンをポチッと押す。それと共にハンガーが音を立てて開き、中に漆黒の強化外骨格が3体鎮座しているのが見えてきた。
 3体ともおれが手ずから仕上げた特殊仕様の強化外骨格、これ一体で戦術機が一体は買えるほどの金が掛かっている。ちなみに性能面では、従来の強化外骨格なぞ目ではない。全機共に気増幅機関を備えており、武装については長刀、12.7mm重機関銃のシンプルな組み合わせだ。ちなみに光学迷彩、ステルス塗装は標準装備である。
 それと強化外骨格を着る前に着用するインナースーツ。これは基本性能は衛士強化装備と同等の機能を持つが、それよりも遥かに優れた素材で出来ている。もちろんその他機能も衛士強化装備を大きく上回っている。ただ、外見はかなりごつく女の子が着ているのを見ても全然楽しくないのが欠点だ。

 「これは?」

 「すげえ、かっこいい!」

 ヘタレは及び腰で現れた強化外骨格を見ている。反対に武は興味津々だ。漢のロマンが分からんとは、やはりヘタレはヘタレだな。
 ちなみになぜヘタレをあえてヘタレ呼ばわりしているかというと、単純にヘタレだからだ。
 マブアクアこと速瀬水月、マブエターナルこと涼宮遙、この二人に好意を寄せられているというのにもかかわらず、こいつ、答えを出していないのだ。二人が紳士協定ならぬ、乙女協定でヘタレの意志を尊重して答えを出してくれるまで待っているなどという約束事を交わしているのを良いことに、あっちへふらふら、こっちへふらふらと、足下が定まらないことったら限度を超えている。この間なんかは、中学の卒業式に緑色の髪の毛にカエルの髪留めをした女の子に告白されてニマニマしていた。そのときは、これから衛士教育学科にいくので、今はそんなことは考える余裕がない、とかいってふっていたけど。それにしても気になるのが、そのヘタレに告白した相手だ。おれはその相手を見た瞬間、なぜか震えが止まらなかった。普通にメガネの似合う可愛い女の子だったというのに。
 それはともかく、同い年で切磋琢磨しあっている水月と遙とヘタレ、女2人に男1人という状況でお互いに憎からず思っているもの達の中で甘酸っぱい何かが芽生えるのはまあ無理も無かろう。おまけに最近では、マブマダーこと涼宮遙の妹である茜までもが、なぜかヘタレを気にしている。こいつのどこがいいかわからんなあ、と思ってステータスを見ると、なんか変なもんが発現していた。

 特殊技能情報
 ・元祖恋愛原子核

 うん?なんだこれ。恋愛原子核ってなんだ?おまけに元祖?
 これがもしかしたら、このどうしようもないヘタレがやたらともてる原因かもしれんな。
 くそう、技能の封印が出来たらのなら、こんなヘタレにこんなうらやまけしからん特殊技能なんて持たせていないのに。
 それはともかく、これから楽しい楽しいBETA狩りだ。

 「最初は着方が分からないだろうから教えてやる。しっかりと見て覚えろよ」

 「いや、待ってくださいよ師匠。急にハイヴとかBETAとか言われても」

 「孝之さん、師匠にはそいうこと言うだけ無駄だよ。なんせ、まりもちゃんもこうなったら言うだけ無駄だって言ってたし」

 「そうは言ってもなあ、ハイヴだぞ、BETAだぞ?おまえ怖くないのか?」

 ヘタレが吼えている。それに比べて武の落ち着き様ったらありゃしない。これで武の方が、3つ年下っていうんだから、ヘタレのヘタレさ加減は押してしるべしだ。

 「そりゃ怖くないといったら嘘になるけどさ、それをいったら師匠とまりもちゃんの稽古の方がよっぽどか怖いし」

 「う、まあ、確かに」

 なんか知らんが、おれとまりもの稽古はマブレンジャーたちにそれなりにトラウマを植え付けているらしい。おかしいな、これでも優しく教えたつもりなんだが。

 「観念したか、ヘタレ?よし、そしたらしっかりと覚えろよ。おれは野郎に手取り足取り教えるような無駄は極力したくないからな」

 ヘタレが観念したのを確認してから、おれは装備の装着をゆっくりと行った。手順を確認するかのように一つ一つ確実に行っていく。ちなみに見るだけでは分かりにくいところは説明を交えている。そして数分後、インナースーツを着込んでから強化外骨格を身に纏ったおれがハンガー内に登場していた。

 「よし、今のでやり方はわかったろ、おまえらもさっさと装備を身につけろ」

 「「はい」」

 と言うわけで、2人は悪戦苦闘して装備を着込んでいる。ちなみに武のは特別製である。さすがにある程度サイズに余裕が持たせてあるとは言え、13歳の子供にはフィットしないのでしょうがない。
 待つこと十数分。ようやく全ての装備を装着した2人、二機の強化外骨格がハンガーからおぼつかない足取りで出てきた。

 「よし、準備は良いみたいだな。これからオリジナルハイヴまでは飛んでいく。今回は初回と言うことで、おれが引っ張って行ってやるから、とりあえず速度の心配はするな。いつも通りの要領で空を飛ぶことだけを考えろ。あ、ちなみに音速の壁を突破するから、気による強化はしっかりとしておけよ」

 いっておれはワイヤーを、ヘタレと武が乗り込む強化外骨格に結びつけた。
 地上へと続くリフトに乗り込みながら、簡単にこれからの旅程と行動予定を告げていく。

 「ハイヴ内でBETA討伐って…」

 「さすが師匠、無茶なことを平然と言ってのける、そこにしびれもあこがれもしないけど…」

 なぜかどよーんとするヘタレと武を無視し、おれはこのような暴挙に出た原因であるAL因果律に思いを馳せていた。
 こいつらの死亡確定である1998年と1999年。それまでにこいつらを生身でBETAと戦えるだけの戦士に仕立て上げる。そのためには少々の無茶はかまうものか。とはいえ、さすがに武は早すぎたかな。でもまあ、最前線の国家では13歳にもなれば歩兵としてBETA戦に参加しているらしいからな。ここはまあ、試練と思って我慢してもらおう。

 「よし、それじゃ行くぞ、準備はいいか」

 「はい、なんとか」

 「俺もいいですよ」

 「よし、それじゃ楽しいお空の散歩だ。行くぞ!」

 おれを先頭に2体の強化外骨格が続いて大空に向けて飛び立つ。
 最初の数分は何とかおれに着いてきていた2人だが、徐々にスピードを上げるおれについてこれなくなってきた。2人とおれをつなぐワイヤーがピンと張ってくる。

 「おいおい、まだ時速800キロ程度だぞ、本番はこれからだってのに、しょうがない奴らだ。まあ、初めての強化外骨格での飛翔術でこれだけ出せれば十分と言えば十分だけどな」

 ヘタレと武との通信回線を接続する。

 「よし、2人はそのまま飛翔術を維持、あと気による機体の強化も忘れるな。これから音の壁をぶち破る」

 「「えっ!?」」

 「喋るなよ、舌を噛むぞ」

 ぐん、と身体にかかるGが跳ね上がる。後ろの2人を繋ぐワイヤーは限界まで張っている。そして数十秒後、けたたましい音と共に音速の壁をぶち破り、おれ達3人はオリジナルハイヴへと飛行のコースを取った。



 「というわけで、やって参りました、カシュガルハイヴことオリジナルハイヴです。というか、おまえら生きてるか?」

 ハイヴの入り口から少し中に入ったところで、ようやく一休みしたおれが声を掛けると、死にそうな返事が返ってきた。

 「な、なんとか。でも地表数メートルのところを音速を超えて飛ぶとか、師匠どんだけぶっとんでるんですか」

 「あわわわ、岩が、目の前に岩があ」

 ヘタレは死にそうになりながらも何とか無事らしい、ちっ。あと武は少々錯乱しているようだ。ちょっと電気ショックを与えてみるか、びりっとな。

 「あがっ!?はっ、こ、ここは?」

 「おう、正気に戻ったか、武」

 「あ、師匠、ということは、良かった、俺、生きているんだ」

 さめざめと泣き出しやがった。これじゃまるでおれがいじめっ子じゃないか。でもしょうがないだろう。レーザー属種の迎撃をさけるために低空飛行をするのは。まあ、そのおかげで、ソニックブームでそこそこの数のBETAを倒したことにより経験が入っていたりするが。

 「さてと、いままでのはオードブル。本番はこれからだぞ、気合い入れろよ」

 こんな会話を交わしている最中にも、BETA共の気配はだんだんと近づいてきている。

 「武器の使い方は説明したとおりだ。後は今までの研鑽の成果を見せろ!」

 「「はいっ!」」

 「武は地上入り口から近づいてくるBETAを排除、ヘタレは地下から近づいてくるBETAを排除しろ。おれは適当におまえらを援護する。何か質問は?」

 「目標撃破数にとどくまでずっとこの場にいるんですか?」

 「いや、効率が悪くなったら下の方に潜っていく。その方が狩るBETAの数が多いからな。ちなみに今日のノルマを倒すまではお家には帰らせないんだからね!」

 「はあ、わかりました」

 おれのあまりのお茶目さにめろめろになったのか、ヘタレは盛大なため息を漏らすと地下へと重機関銃の銃口を向けた。

 「し、師匠、きた、きた、本物のBETAが」

 武のうわずった声が聞こえてきた。

 「武、思考を切り替えろ。それと思い出せ、おれを折檻するときのまりもんを。そして考えて見ろ、どっちがおそろしいかを」

 「は、はいっ!って、あれ、まりもちゃんに比べたら全然圧力を感じないし、むしろ弱そう」

 「そうだろう、そうだろう。荒ぶるまりもんに比べたら、死に神すらも生ぬるいというものだ。わかれば、冷静に刈り取れ。やつらBETAは、単なる経験の元でしかない」

 「はいっ!」

 一瞬にして冷静さを取り戻した武が長刀片手に闘士級に斬りかかる。一瞬の交差で、闘士級の輪切りが完成。そのまま動きを止めずに跳躍したかと思うと、後ろにいる戦車級に対して重機関銃を撃ち込んでいく。一撃一撃が確実に一匹一匹のBETAを刈り取っていく。
 ハイヴ内という限られた空間を立体的な機動で縦横無尽に動き回り、確実にBETAを殲滅していく姿は、初陣のそれとは思えないほどの完成された動き。

 「機動兵器の適正有り、は伊達じゃないか」

 呟きながらおれはヘタレへと視線を向ける。
 おれと武との会話を聞いていたのか、ヘタレは浮き足だった様子もなく、ひたひたと近づいてくるBETAに向かって対峙している。そして両者の距離が一定に縮まった瞬間、ヘタレが爆発したかのような勢いでBETAに向かって駆けだしていた。
 ヘタレはどちらかというと平面機動が得意らしい。
 長刀を両手に持ってBETAの隙間をぬるぬると動き回っている。そのたびに動いた軌道上にいたBETAが沈んでいく。小型種はともかく、大型種にその方法で行くのか?と思っていると、大型種については刀が体内に届いた瞬間、内部に気を送り込んでいるようで、ヘタレが長刀を引き抜くと内部からボンとはじける。あれだ、秘孔を突かれたみたいだ。
 2人ともなかなかの腕前だ。ヘタレについては、もう少し三次元機動を意識すればいいだろう。そして武だが、奴はある意味天才だな。日頃の訓練では大したことはないかもな、と思っていたのだが機動兵器に乗り込んで戦うとなった瞬間激変する。
 もともとマブレンジャーたちに化している訓練はある程度機動兵器に乗っての機動を意識したものではあったが、武のやつがここまではまるとは思っていなかった。うーむ、腐ってもExメインヒーローか。
 ちなみにまりもに施した訓練は、純粋に戦闘能力を上昇させるためのものだ。あのころは、戦術機で無双とかの発想が無かったからな。
 あとで聞いた話だが、その日決壊寸前の敦煌防衛戦の最中、なぜかBETAが急に転進し、多くの統一中華戦線の将校が九死に一生を得たという。
 またそれにより稼ぐことが出来た1日のおかげで、国連軍の増援部隊が間に合い防衛戦の再構築に成功した。
 前線送りにされた趙将軍が、敦煌の奇跡と言われる大逆転劇を起こし、そして軍部の腐敗を一掃するのはまだもう少し先の話になる。
 もっとも、裏では日本帝国情報省外事二課とCIA極東戦略室の活躍があったそうだが、おれは知らんからな。うん、おれは無関係だ。


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