作者:戦壊
2013/04/03(水) 00:48公開
ID:0yWLOsjZ4v.
「.......であるからにして、君達には清く正しい高校生活を......」
長い。
陰梨はため息をつきつつ、校長を見上げた。
毎度思うが、なぜ学校の校長というのは話が異様に長いのか?
俺からすれば、というよりここにいる生徒からすれば、ほぼ校長の言っていることは伝わっていないだろう。
陰梨は軽く顔を横に向け、周りの生徒達を見る。
全員とは言わないが、殆どの生徒は横の生徒と雑談をかわしている。
それどころか立ち寝している奴すらいる。
「......まったく、無駄な時間だ。」
「そうですか?私は為になると思いますけど。」
その声に振り返ると、女生徒がこっちをキョトンとした顔で見ていた。
「.......」
誰だ?この女。
栗色の髪に、ツインテール。そしてなぜか前髪に大きなリボンを着けている。
見覚えがない....つまり知り合いではないのは確実。
それに、俺はあの日以来、最低限誰とも親しくしないようにしている。特に、女とは。
「あの、どうかしましたか?そんなに私を凝視して?」
「いや、何でもない。」
少し迂闊だったな。今後は気を付けるとしよう。
「そうですか....あ、私は鏡 狂歌《かがみ きょうか》です。同じ、クラスですよね?よろしくお願いします。」
そう言うと鏡は笑みを浮かべ、俺に手を差し出してくる。
また、この顔なのか?はぁ......本当、なまじ顔がいいと女が寄ってくる。
この女が顔の良さで俺に話しかけたかは分からないが。
俺はその手を見てから鏡の顔に視線を移した。
「.....斎藤 陰梨だ。」
俺はそれだけ言うと前に向き直った。
後ろから鏡がまだ何かを言っていたようだが聞こえないふりをし、校長を再び見上げる。
「それでは皆さんが楽しい高校生活を送れるよう、祈っています。」
それを最後に校長は頭を下げると壇上から降りていく。
やっと終わったか。
「それでは、次に新入生代表挨拶、斎藤 洸也君。」
洸也!?
「はい!」
その聞き覚えのないようなあるような声をどっちつかずな気持ちのまま俺は壇上を上がる弟らしき生徒を見る。
短髪で整った顔立ちの男だ。額にはあの時の怪我でついた傷が....
間違いなく、洸也だ。
「僕達!新入生一同はこれからの高校生活を充実としたものにできるよう、努力することを誓います!」
その堂々とした物言いには昔の洸也とはかけ離れていて、違和感を感じた。
周りから拍手が巻き起こり、洸也は校長に一礼すると壇上から降りていく。
「それではこれで新入生代表挨拶を終わります。これで始業式は終わりますが、先生からは何かありますか?....無いようですね。では、これで始業式は終わります。礼!」
生徒達は礼をすると我先にと体育館から早足に出ていく。
俺もそれに続くように体育館玄関に向かう。
「あの、陰梨さん。」
とは行かないようだ。
「何ですか?」
俺は声色に不機嫌さを乗せ、返す。
そんな俺の様子に鏡が一瞬たじろぐ。
「え、えっと。あ、あのぅ....」
「用がないならもういいか?教室に早く行きたいんだが。」
「!.....一緒に教室に行きませんか?」
鏡は俯いたままそう言った。
耳が赤くなっているのが見える。
だが、そんなものは関係ない。この女も所詮、俺の容姿に惹かれただけに過ぎないのだろうからな。
こういうことは俺が高校に上がる前にも度々あったことだ。対処法も知っている。
だから、既に俺の答えは決まっている。
「断る。」
「!?」
「教室くらい1人でいけばいい。何より俺とあんたは他人だ。」
「ぅぅ....」
鏡の肩が小刻みに揺れる。
それと同時に周りが俺を非難してくる。
これでいい。
これで俺の学校での第一印象は最悪になった。
これからは俺に話しかけようとする奴はいないだろう。
陰梨は周りの連中を無視し、鏡を残したまま体育館を出た。
「待て!そこのお前!」
この声は.....
俺は恐る恐る振り返った。
「....何か用か?新入生代表。」
そこに立っていたのは予想通り、洸也だった。
洸也は拳を震わせながら、こっちを睨むように見ている。
どうやら俺には気づいていないようだ。
「謝れよ」
「何の事だ?」
「惚けるな!さっき、女の子を泣かしていたのは見てたぞ!」
面倒な性格になったな。昔は素直だったんだが。
「お前はどこのガキ大将だ?それと、あれはあの女が勝手に泣いたんだ。むしろこっちは被害者だろうが。」
俺はそう言った後、薄ら笑いを浮かべ、洸也に背を向けた。
さあ、どう反応をする?
「ふ、ふざけるな!あの子に謝れ!」
その声と同時に洸也が走り出す音が聞こえる。
やっぱり来たか。
というか洸也はこんなに正義感強かったか?
.....まぁ、どうでもいい。もう俺には関係ない話だ。
俺は洸也の足音に合わせて、体を反らす。
「なっ!?」
予想通りだ。
洸也の放った拳は空を切った。
それを見て、俺は挑発するように呟いた。
「これはお笑いだ。全国大会に出るほどのボクシングの腕前を持つ新入生代表がまさか初心者相手に空振りとはね。」
「な、何だと!」
洸也はもう一度拳を握りしめる。
「こら!お前達!」
だが、そこに先生が止めに入った。
洸也は体育会系の先生3人に押さえられながらも叫んだ。
「け、決闘だ!あ、明日の放課後!体育館に来い!」
決闘?どこまでもガキの発想、だが.....
相手にしなければ良かったのかもしれない。
だが、俺は....
「いいだろう。」
と呟いた。