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魔法世界のあかい魔術師一家 旧 プロローグ&一話・二話 
作者:愚か者   2013/06/06(木) 12:52公開   ID:DAQkf3y8MWg

――――プロローグ――――

 あの聖杯戦争から約十数年……、俺はいつも傍らに居た彼女のおかげで紅い弓兵の様に世界と契約をしようとは思わなかった。

 紅い弓兵の最後は孤独だが、進んだ道は何一つ間違ってなかった。

 いや、間違いっていた。そう、それに気付けなかったのが紅い弓兵の間違いに違いなかった。

 俺は自身の可能性の一つを超え、常に傍に居た彼女のおかげで紅い弓兵と同じ間違いを起こさずに済んだ。

 この身は正義の味方全てを救う存在を目指し、人を救い続けてきた。

 救えず零れ落ちた命は数多く、救えた筈の命もまた……数多かった。

 なら、何があの紅い弓兵との違いだったかと言うと……。あの紅い弓兵は本当の意味でその手に残った命を見てなかった。だから、救えたモノすら見えず救いと言う行為に走り続けた。

 しかし、俺は彼女のおかげでその手に残った命を見ることが出来た。救いと云うのは助けたら終わりでは無く、その心も救わねば裏切られて当然だと言うことを教えて貰った。

 そうやって彼女と世界中を周りながら、数多くの戦場を二人で周り人々を助け続けてきた。

 時には、彼女の制止を振り切り。神秘の秘匿を破り、魔術を人目に曝しもした。




 そんな折、俺と彼女の前に一人の魔法使いが現れる。その人物は俺と師である彼女の大師父である、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。第二魔法の使い手だった

 大師父は一目で俺の魔術が心象風景を映し出す【固有結界】であることを見抜き、懐から宝石剣を取り出し
「どれ、どの程度の投影品が出来るか」
 と言って俺にソレを見せ、すぐにそれ見て解析してしまった。

直後、すでに俺の頭の中はその情報によって狂いそうになっていた。

 そうして、出来た結果は三割程度が成功した宝石剣。しかし、本当に重要な部分は殆ど外見だけしか投影されていなかった。

「ふむ、なるほどのぉ……。結果は三割、それでいて重要な部分は意味を成しておらんか」

 大師父は一人、何か納得顔で頷き言葉を続ける。

「のぉ……錬鉄の英雄よ、おぬし何処までこの宝石剣を理解できた?」

「えっと……、三割程度で……すが……」

「やはりのぉ、まだまだ理解が足りんかったか。理解できんから、理解できる範囲で作り上げたという訳か……。なるほど、なるほど、理解が足りないからこの程度なのか。まぁ、良い……。遠坂よ面白い小僧を弟子にしたようじゃの」

 この会話が、大師父と始めたあった時の会話だった。

 その後……大師父は暇になると俺たちの所をよく訪れるようになる。

 俺は大師父が家に来る度に胃薬を用いていたので、家にはいつの間にか胃薬が常備されるようになっていた。




 大師父との出会いが在ったように、もう一つの出会いが在った。

 出会った人物の名は、遠野 志貴という。

 俺と志貴の関係は……一言では言い表せないだろう。

 互いに相手を決して認められない仲ながらも、同じ様なシンパシーも感じている。

 戦場や殺し合いになれば互いに認められない嫌悪感を全力でぶつけ合い、そうでない平和な時はまるで殺し合いが嘘の様に見える位……志貴とは馬が合う。

 周りはこの関係を不思議がっているが、別段不思議なことでも無い。

「なぁ、正義の味方エミヤ……。俺達が殺し合うのはそんなに不思議なことか?」

「ふむ。私個人としては別段、不思議でも無く可笑しくも無いと思うが……貴様はどうだ?」

「ああ、その意見には同意するね。特に、今日みたいに月が奇麗な夜は……殺し合いにピッタリだ」

「ああ、私達の仲は今の状態が一番良い。覚悟は出来ているのだろ、殺人貴ナナヤ?」




 思い出すのは大切で、掛け替えのない思いで……。

 アーチャーの記憶の中で見た。黄金の朝日の中に消えて行った彼女アルトリアは丘へ帰り。

 遠坂のサーヴァントとして聖杯を破壊した彼女セイバー。気を失っていた、俺は知らないが英霊の座へ向かったのだろう。

 アルトリアとセイバーは同じ人物だが、違う。

 英霊エミヤ シロウと衛宮 士郎が異なるように……。




 ああ、俺は遠坂……いや、凛から教えられてばっかだな。

 もし、今度が在るなら……凛から教えて貰った分。凛を幸せにしたい。

 世界との契約なんて御免だが、凛と共に幸せを謳歌・・したかった。

 謳歌? ああ……。ホントに俺とアーチャーは別人だな。

 あいつは最後まで未練なんてモノを持ってなかったのに……。

 俺は俺の自分勝手に凛を巻き込んで、今までの人生が幸せでもっと生きたかったなんて……。

 すぐ傍を見ると、俺と同じく血塗れで倒れている凛の姿が在る。

「……凛、二度目の生が在るなら……、……今度は、最初から……凛と、幸せを……謳歌したいな……」

「そ……おね……。わ……たしも……よ、士郎……」


 まったく、己の幸せに気づいておらなかったとは驚きじゃ。

「さて、あの子アルクェイドからの頼み事の内容が……まさか、この二人のことだったとわな……。人生何が起こるか解らぬモノだ」

「宝石翁、この二人が依頼の対象者か?」

「ああ、宜しく頼む……」

「なに、報酬は貰っている上に……錬鉄士郎鮮血の遺体を更に貰うんだ。失敗するようなことはしないさ……」

 さて……この二人を人形に移し替え、冬木の家衛宮家に送り届けた後が楽しみじゃな……。



 side 士郎

 目が覚めると見知った天井が見えた。

「あれ、ここは……俺の家衛宮邸か?」

 辺りを見て確認をする。
 
 うん。この家具の配置、物の少なさ……。間違いない。

「なんで、目が覚めたら家に帰ってきているんだ?」

 俺の最後の記憶は、海外の地で凛と共に力尽きたのが最後の記憶の筈。

 未だ混乱している頭を整理しようとした時、
「目が覚めたのか、士郎」
 と声をかけられた。

「志貴か。志貴が居るということは彼女達も来ているのか?」

「いや、俺とシエル先輩と宝石翁だけだ。詳しい話は居間でしよう。立てるか?」

 その問いかけに半ば唖然としながら頷きを返す。しかし、志貴が次に言った言葉を聞いて。頭が理解を拒絶した。

「ああ、それとこの家もう衛宮の家じゃなくなったぞ」

「……は? すまない志貴、もう一度言ってくれるか?」

「この家はもう、衛宮のモノじゃなくなったんだ」

「…………なんでさ」

「この家の土地と権利を、遠野が買い取ったんだ」

 何故、家主が知らない間に土地と権利が売買されているんだ? ……おかしいだろ。

「まあ、衝撃が強いのは解るが……詳しい話は居間で……な」

 そう言って俺の肩を軽く二〜三回叩いた。

「あっ……ああ。そ、そうだな」

 俺、今日からどこで寝ればいいんだ。遠坂の家で、一方的に世話になるなんで嫌だぞ。

 まあ、結果から言えばそんなことを気にする必要はなくなる訳だが……。


 Side 士郎out


 Side 凛

 
「それにしても驚いたわ、何よこの体。魔力量と放出量が随分と跳ね上がっているじゃない?」

 今、私の目の前には埋葬機関第七位のシエルと……大師父が居る。

「それはそうでしょう。何せ青崎鐙子さんが総合的に見合った人形を作ったと言っていましたから……」

「そう、それよ。なんで、真祖の姫君が封印指定の人形遣いに頼んだ訳? 遠野は例の契約があるから別として……」

「そうですね、ややこしい話になりますよ……」

 そんな話をしていると、居間の扉が開かれ士郎と志貴の二人が居間に入ってきた。

 志貴の顔には苦笑いが浮かんでいるが、士郎は未だ混乱した頭を整理しきれていないようだ。

 まぁ、確かに事情を知らなかったらそうなるわよね。

「士郎。今から事情を説明してあげるから、少しは落ち着きなさい」

「……ああ、そうだな。遠坂」

 まだ微妙に混乱しているみたいね。けれどシエルはややこしい話になると言った以上、この程度では済まない筈……。

「まず、士郎君たちがこの家にいる理由ですが……これは単純に運んだからです」

 まぁ、誰かが運ばないと此処にいる理由にならないものね。

「次に、士郎君たちの現在の体は蒼崎製の人形です。先ほど凛さんには体の様子を見て貰いましたが……何か不具合はありますか?」

「一寸調べてみます。……同調・開始トレース・オン」 

 多分、士郎も私と同様に驚くことになるだろう。

「…………。同調・開始トレース・オン…………なぁ、遠坂」

「どうしたのよ、士郎?」

 なんだろ、士郎の驚きようは少し変な風に感じる。

「人形に体を移したのは……わかった。わかったんだ……」

「一体どうしたのよ?」

「あー、怒るなよ。……約束された勝利の剣エクスカリバーの投影が可能になった。あと、真名開放も……」

 …………は? 《エクスカリバー》の投影が可能? 更に真名開放もって……。

「ちょ、一寸、待ちなさい士郎!? それ間違いじゃなくて!?」

「ああ、《エクスカリバー》の投影が可能になった」

 士郎が今まで《エクスカリバー》の投影が不可能だったのは、脳への負担が激しかったから不可能だった筈……と、言うことは士郎の体には脳への負担を軽減する仕掛けがしてあるという訳か。

 これで、更に士郎のデタラメに磨きがかかったわね。

「……ふむ。衛宮よこれを解析して見よ」

 そう言って、大師父が士郎に見せたのは宝石剣だった。

「……っはぁ。――ッ!」

 大師父の宝石剣を二度に渡り解析させられたのだ、士郎も堪ったもんじゃないと思う。

「……ほぉ、前に比べて随分としっかり投影出来た様だの。ほれ、遠坂受け取るが良い」

 そして、士郎が投影した宝石剣を私に寄こす大師父。

「大体七割半程出来ておったぞ。残りの二割半は自力で何とかせい」

「……こほん。申し訳ありませんが、話がズレ始める前に軌道修正をしても宜しいでしょうか?」

「あ、はい。他には問題特に無いですね。魔力量がかなり増えてますが……もう、そう言うもんだと思っときます」

「そうですか、それは良かった。では、本題に戻りますが……士郎君たちには、この世界を出て行って貰います」

「まぁ、その為に色々と準備していた訳だし。文句無いわよ」

「……遠坂、聞いてないぞ」

 ええ、士郎には言ってないもの。

 士郎の怨みがましい視線は気にしない。

「それで、士郎の工房にある魔剣の類は遠野に土地毎売っちゃているから……」

「っな!? 遠坂お前……」

 私は士郎の言葉が終るよりも早く反論を開始した。

「誰の所為でこうなってると思ってるのよ!! 散々“神秘の秘匿”は無視するは! 【固有結界】は展開するわで、魔術協会からは執行者、聖堂教会からは代行者が派遣されてるのよ! 今回のシエルの行動だってかなり危険な行動なんだから、あんたは黙ってなさい!」

「……ぐ。だっ……いえ、なんでもないです……」

 士郎の反論を睨んで黙らせる。

「まぁ、そう言う訳で秋葉さんと話し合いの結果。遠坂と衛宮の土地と権利は遠野のモノとなったんです。一応、明日がこの世界最後の日となります。今日中に必要な分だけは纏めておいてください」

「……わかりました」

 ……っと、そうだ。このままだとうっかり聞き忘れる所だったわ。

「ねぇ、シエル。なんで、真祖の姫君がこの話に係わってきたの?」

「……ああ、そうでしたね。まったくあの吸血鬼は……早い話が聞き耳を立ててたんですよ。それで遠野君にアプローチを掛けようとしてたんです。そしたら、結果的に遠野の依頼金に上乗せが掛ったんです」

「なるほどね」

 つまり、シエルが言うややこしい話と言うのは遠野邸で起こった騒動と言う訳ね。


 Side 凛 end


 Side 士郎


 こうして俺と凛が産まれた世界最後の日が決まった。

 うん。なんて言うか、言葉にすると別の意味で怖いな。

 実際、最後の日は別れの言葉を言っている暇も無く。荷物の準備に追われ続けていった。

 これから向かう先はどんな所か分からない。

 大師父曰く
「二人とも人が住める世界に落としてやるから安心せい」
 とのこと。

 勿論、大師父に凛が
「落すってなんですか!?」
 と訊ね。

 俺が
「ちゃんとした世界なんですよね!?」
 と訊いたら……。

 帰って来た答は
「ちゃんとお主ら二人揃って同じ世界に落とすんじゃから、そんな無責任なことはせん!」
 と言い返された。それでも落とすって表現を使わなくても……。

「さて、その内気が向いたら、お主らの居る世界へ顔を出すからそれまでに住居くらい決めておいて貰おうかの」

「……わかりました、大師父」

「はぁ……、苦労の種は尽きそうにないわね」

 ああ、遠坂それには同意だ。

 そうして、俺と遠坂は眩い虹の光に包まれて並行世界へと移動した。

 虹色の光が治まると、身体全体を覆うのは無重力にも似た感覚と浮遊感。

 それですぐに理解すると同時に浮かんだのは――あー、アーチャーの記憶の中にも在ったなぁ……こう言うの。と言う感覚だった。

 それでも、たぶん、おそらく、いや、きっと……ここまで高い場所から落ちるなんてことは無いな。

 だって、上を見ても下を見ても青。この下が海なのか大地なのか判断がつかない。

 さすが蒼崎の体か、強化したらこの状況でも問題なく動かせた。

 とりあえず、体勢を立て直して弓を投影して置こう。

 もう、この落下速度を殺す方法は一つしか浮かばない。

 そんなことを考えてるとやっと終わりが見えてきた。

「お、下は地面か」

 さて、上手くいくか……。

「I am the bone of my sword《我が骨子は捻じれ狂う》」

 弓を構え、偽・螺旋剣Uカラドボルクを地面に向け放つ。

偽・螺旋剣Uカラドボルク

 ある程度カラドボルクが離れていないと、俺自身が巻き込まれるからな。

「そろそろ良いだろ、壊れた幻想ブロークン・ファンタズム

 足元で強力な爆発が起きた。

「良し、成功したか……ッ!?」

 ヤバイ、思ったよりも距離が近すぎたようだ。

 ふむ、確かに落下速度は幾分殺せたようだ。しかし、今度はブロークン・ファンタズムの所為で何処かに吹っ飛ばされるに違いない。

 
 Side 士郎 end
 

 Side タカミチ


「明日菜ちゃん、こっちだ急いで!」

「でも、ガトウさんが!」

 明日菜ちゃんの気持ちも解る。僕だって力になれるのなら師匠の力になって側で一緒になって戦いたい。でも、今の僕たちじゃあ師匠の手助けになるどころか、足手纏いにしかならない。

「ガトウさん! 嫌、話して! ガトウさんの所に行くの!」

「駄目だ! 今の僕たちじゃあ、足手纏いにしかならないだ! 頼むから言うことを聞いてくれ明日菜ちゃん!」

「だって! このままじゃ、ガトウさんが!」

「頼むから……ッ!?」

 僕の言葉が終わるよりも早く、もの凄い轟音が響く。

「まさか! もう、追いつかれたのか!?」

 しかし、それは僕の杞憂だった。

 轟音が鳴り止むと、瓦礫の中で動けず大胆不敵な態度をした彼が居た。

「やれやれ。また、とんでもない場所に辿り着いたらしいな……。済まないが手を貸してくれないか? 此方に攻撃の意思は無い」

 彼は紅い衣服を纏った小さな騎士だった。何故か知らないが、そう理解することが出来た。

「それを信じろと言うのかい……」

 だからと言ってそれが信用に値すかと言うと、それは否だ。何よりも僕は彼のことを知らない。

「ふむ。しかし実際には手を貸して貰わなければ、私は動けないのだが」

「もし、なにかしら怪しい行動を取った場合。覚悟は出来ているんだろうな?」

「ああ、了解した。君らには手を出さないと誓おう」

「わかった。少し待っててくれ、念の為に彼女を避難させたい」

 そう、紅い騎士に伝えると彼は「構わんよ、君の態度は間違ってないのだから」と答えた。

 僕は明日菜ちゃんを紅い騎士から少し離れた場所に連れて行き、「此処で少し待っていて欲しい」と伝える。

 結論から言おう。彼は言葉通り何もしなかった。

 だから、安心してしまった。しかし彼女――明日菜ちゃんはその隙を見逃さず、ガトウさんの所へ走り出してしまう。

「ッ! しまった、明日菜ちゃん戻るんだ!」

「彼女は何故、急に走り出したんだ?」

 彼は信用して良いのだろうが、師匠から明日菜ちゃんを託された以上……迂闊なことは言えない。

 しかし、僕一人の力では彼女を連れ戻すことも出来ない。

「くそっ! 師匠から頼まれてたのに……」

「ならば、私が行こうか。これでも、多少は自信はあるのでね」

「無理だよ、君には……。だって君はまだ子供じゃないか」

「…………待て、今何って言った?」

 は? 僕は何か可笑しなことを言ったのだろうか?

「いや、だって、君はどう見たって僕より年下の子供じゃないか」

 僕が彼の問いに答えると、彼は小さな声で何か呟き
「…………なんでさ」
 と困惑の表情を浮かべていた。

 
 Side タカミチ end


 Side 士郎


 目の前の少年から発せられた言葉を聞き、自分の体を調べてみると肉体年齢が十一歳前後まで退行していることに気づいた。

 空を落下中に調べてみれば、すぐ分かった筈だ。

 ああ、そうか。現実逃避をしていたから気付かなかったんだな。

 しかし、服まで縮んでいることを考えると……本当に俺達が住める世界に落としただけなんだな。

 大師父が自分の魔法を失敗するなんて、考えられない。いや、下手したら……本当にその条件に合う世界に俺達を落としただけじゃないんだろうか?

 ああ、遠坂が言っていた
「苦労の種は尽きないわね」
 ってこう言うことか。こう言うことなのか!!

 俺は声を大にして
「大師父の馬鹿野郎〜〜〜〜〜」
 と叫びたい気分である。

「えっと、なんか呆けてるところ悪いけど。君はこの先に在る緊急用のゲート通って応援を呼んで来てくれないか?」

 っと、今は大師父のことは頭の隅に追いやって措かないと。

「悪いがそれは無理だ。何故なら、私はその緊急用のゲートとやらを知らない」

「緊急用って言っても普通のゲートと何も変わらないから、急いでくれ!」

 俺はそれ以前に普通のゲートとやらも知らないんだ、ハッキリ言おう百パーセント無理だ。

「いや、済まない。私の言い方が悪かった、私は秘匿された世界から来たばかりで、そのゲート自体を知らないのだよ」

 まあ、この言い方なら間違いはないから大丈夫だろう。彼とあの子――アスナと言った女の子から魔力も感じ取れたし。秘匿されているのが何なのか具体的には言ってないから、勝手に勘違いをして貰おう。具体的には世界か魔術か、あるいは両方か。

「な! この魔法世界以外に秘匿された世界が存在するのか!?」

 そうか、両方か。

「悪いが、そう言う訳だ。君にはそのゲートに向かって貰わなくては困る」

「それなら、僕も一緒に……」

 彼の声を遮り俺は彼に告げる。

「後続の助けが必要なのだろ。なら、一人は確実に連絡に向かわないとなるまい。そして、この場でそれが出来るのは君しかいない。自分の行うべきことを間違うな、間違えれば後には悲惨なことしかないぞ」

 あのアーチャーの様に、戦場で狂った者達の様に……。

「わ、わかった。すぐに応援を呼んで戻ってくる、君も無茶はするな!」

「了解した。ああ、そうだ。敵はどの位だ?」

「上級魔族や魔物の大群だ、だから君は明日菜ちゃんの保護を第一に考えてくれ!」

 さて、凛は傍に居ないが正義の味方を始め様。

 決断をすると同時に 俺は一人駆け出してしまった女の子の元へ向かって走る。

 驚いたことにあの子の足は五歳児にしては速かった。しかし、俺が追い付けないと言うほどの速さではない。

「これなら、あと数分で追いつけるか……」

 いや、追いつかねばならない。あの子の向う先は、間違い無く危険に満ちた場所なのだから。

 あの子の所まであと少しと言うところで、あの子の動きが止まる。

 あの子、目がけて数体の異形がその命を奪わんと襲いかかろうとしている。

 俺は即座に足を止めて、弓とを投影して異形の生物へ矢を放つ。

 元より、弓を構えた時点で矢が中ることは目に見えていた。だが、初めて見るタイプばかりなので矢に使用した剣は、宝具とまではいかなくとも非常に格の高い魔剣・名剣を使用した。

 その甲斐あってか、あの子に襲いかかろうとして居た異形の生物達は俺が放った矢によって倒れて行った。

 次が来る前にあの子の元へ急いだ方が良いだろう。今なら丁度、自分に起きた事態が理解出来てないので足が止まっている。

「これなら、次が来る前にあの子の元へ辿り着けるな」 

 未だ目には遠くで数多くの異形が蠢いているのが分かる。出来るなら彼の師匠と呼ぶ人物も助け出したい。衛宮 士郎が誰かを助けたい気持ちは間違いでは無いことは、あの第五次聖杯戦争でアーチャーと戦いで得た。本物の気持でもある。

 そして、あのアーチャーと今の俺との違いは誰かを助けた後に在ると思う。アーチャーのヤツは人を助けても、その後の助けた人を救ってはいないと俺は考えている。

 俺も凛が居なければ零れ落ちたモノばかりに目が行って、その手に救った命を救えていなかっただろう。この手で救えるのは限りが在る。しかし、次を救う為に救ったモノを守れなければ……それは救ったモノをその手から零しているのではないか? なら、救ったモノに目を向け、守れて、始めて人は人としてその人物を救ったと言えると言う考えが今の俺――衛宮 士郎の在り方だ。

 ああ、今の俺は親父とは違うが間違いなく魔術師なのだろう。その手に救った一をしっかり救うために、九の犠牲を容認している。それでも救った誰かがまた、誰かを救うことを願い。誰かが誰かを救うのなら、大きく見れば九の犠牲ではなく一の犠牲で多くの人が救える。

 そう、俺が凛に救われたように。俺に救われた誰かが誰かを救う、そうすれば例え夢のような理想でも正義の味方は存在し、人々を救い続ける。

 この考えは一人では無理だった、凛が道を示して一緒に考えてくれたからこそ、俺は理想を抱きながら世界と契約をせずに済み、凛と共に幸せになりたいと言う夢を持てた。

 なら、目の前の女の子を救うことが出来ない訳ではない。この身、この意志、世界は違えど英霊エミヤ シロウヤツは英雄、人を守る一振りの剣。ならば、あの女の子を救って見せよう。

 
 Side 士郎 end


 Side 明日菜


 私には何が起きたのか理解できなかった。

 私に向って襲い掛かって来る、魔族と魔物。それが、絶え間ない轟音が鳴りやむと同時に横たわって居た。

「……なに、が……おこったの?」

 これでも私は“魔力”と“気”を合わせた咸卦法を使える。でも、これは違う。辺りには轟音となった原因と思える剣が横たわる死体に突き刺さっている。

 魔法なら兎も角、唯の剣でこんなことを出来る人を私は知らない。同じように剣を飛ばす人を見たことは在るけど、絶対ジャックじゃない!

 ジャックが正確に、的確に剣を飛ばすことが投擲出来る筈がない!

 ナギなら、もっと別の方法で助けてくれる。

 じゃあ、誰が私を助けてくれたの?

「ふう、間に合ったようだな。あまり、他の者に迷惑を掛けるべきではないぞ」

 後ろから聞こえてきた声は……あの紅い騎士を思わせる私より年上の子供。

「さて。彼が応援を呼びに行ったので戻るぞ……と言いたいが、その眼は良く知っている。また、連れ帰った所で戻られても面倒だ。私の言うことに従えるなら、先へ進むぞ。だが、従えられないのならば無理をしてでも連れ帰る。どうする?」

 え? 私を連れ戻しに来たんじゃないの? ううん、そんなことよりも私は聞きたいことが在った。

「今の……剣は、貴方が放ったの?」

「そうだが? 現状、私と君以外に誰かいるのか? 言っとくが、ああ云った異形の怪物と言う答えは止して貰いたい。私はこれでも、れっきとした人間だ」

 そう言って、上級魔族や魔物の死体を指さす。

「どこから、放ったの?」

「なに、此処から八百メートル程――では、分からないか? そうだな、大体あの大岩辺りから放ったと言った方が分かりやすいか」

 そして、指さす方向をみると遠くに岩が見える。アレが紅い騎士の言う大岩なんだと思う。それで分かったのは、とても遠い場所から放ったと言うこと。多分、ジャックやナギ……ううん、他の誰にも無理なことなんだと思う。

「それで、どうするのかね? 先へ向かうのか、連れ戻されるのか?」

「あっ、お願い! ガトウさんの所へ連れて行って、言うこと聞くから!!」

「了解した。では、私が道を作ろう」

 その後、赤い騎士は近くの一寸高い場所に立つと
「私が合図したら周りのことは気にせずに、いいから走れ! 後、泣き言は聞かん!」
 と言って何処からか弓を取り出し、剣を構える。

 そして、何本もの剣を放った後
「今だ、走れ!」
 と言った。

 私はその言葉と紅い騎士の言葉を信じて、脇目も振らずに一生懸命ガトウさんの所へ向けて走る。少しでも振り向いたり、立ち止まることは許されない。だって、魔族・魔物の群れが最初の剣の矢によって、屍となって私の道を塞ぐことはなかったから。

「ガトウさん!! 死なないで!!」

「なっ!? お嬢ちゃん、なんで此処に!?」

 紅い騎士のお陰で私は怪我一つ無く、ガトウさんの所に辿り着くことが出来た。

 けど、そこで見たガトウさんは……。


 Side 明日菜 end


 Side ガトウ


 目の前には、タカミチと一緒に送り出したお嬢ちゃんの姿が在った。

 いや、それ以前にお嬢ちゃんは怪我一つしていない。つまり、お嬢ちゃんを此処へ連れ戻した誰かはお嬢ちゃんに怪我一つ負わせず、此処まで送り届けたことを意味する。俺はそんなことが出来る人物に心当たりは無く。可能性が在る人物もまた、この近くに居る筈がない。

 それに、あの剣の道は何だ!? 近くに軍隊が来ているのか!? いや、軍隊なら剣を飛ばす必要はない。なら、ラカンか? いや、それも無いだろう。あの男に此処まで器用なことは不可能な筈だ!

 そんな時、見た目十一歳前後の子供が剣を飛ばしながら近づいて来た。恐らく使っているのは具現系の魔法が魔法具アーティファクトだろう。

 紅い騎士はお嬢ちゃんの頭に手を置くと撫でながら
「良く、約束を守れた。此処からは私に任せろ。君とそこの人物は私が守ろう」
 と何喰わぬ顔で言う。

「無理だ、坊主はお嬢ちゃんを連れて早くここを離れるんだ!」

「ほう。何故、無理と決めつけるのかね? 可能ならその理由を教えて貰いたい」

 その顔には笑みが在り。それは嘲笑っているのか、皮肉げに笑っているのか判断がつかない。

「はは、明らかに数が違いすぎだろ……。それとも坊主はこの数を如何にかする手段が在るのか?」

 俺もこの小さく紅い騎士に対して、皮肉を混ぜて答える。

 しかし、この小さい騎士から帰って来た言葉は俺の予想を超えていた。

「ああ、在るとも。そもそも、勝算も無い戦いに参加するほど私は自殺願望が在る訳ではない。勝算が高いからこの場までこの子を連れて来たのだ」

 なっ、勝算が在るだって!? こんな子供がそれほどの力を有しているなんて思えない。

「坊主、どんな力が在るか知らないが……圧倒的な数の前には個々の力なんて及ばないんだよ。覚えておいた方がいい。さぁ、今からでも急いで逃げるんだ!」

 そう、現に俺がいい見本だ。敵さんは倒しても倒しても、際限なく湧いて出てくる。

 しかし、小さな赤い騎士は
「ならば、在る処から持って来れば良い。幸い、此処には“無限の剣”が在る。それに足りなければ、他から補うのが……我々“魔術師”だ」
 と丸で俺の言葉を意に介してない。いや、それ以前に何処に“無限の剣”が在ると言うんだ?

 お嬢ちゃんも
「何処に、“無限の剣”が在るの?」
 と小さな紅い騎士の小僧に問い掛けている。

「ならば我々“魔術師”の世界に於いて、最も魔法に近い大禁術をご覧に入れよう。見ているが良い、魔法世界の術者」

 そう言って紅い坊主は、上級魔族や魔物の大群と向き合う。その姿は正に騎士、其の者の姿だった。

 迫りくる大群を相手に小さな騎士は何処からともなく双剣を取り出し、魔族や魔物と戦いを始めた。

「I am the bone of my sword《体は剣で出来ている》」

 迫り来る爪、牙、腕、脚、尾。その全てを避ける。

「Steel is my body and fire is my blood《血潮は鉄で、心は硝子》」

 しかしその動きはチグハグで、経験と行動が伴っている様には見えない。

「I have created over a thousand blades《幾度の戦場を越えて不敗》」

 剣には才能を感じさせず。体さえ追い付けば、坊主の剣は努力の末に辿り着いた剣だとすぐに理解できてただろう。

「Unaware of loss.《唯の一度も敗走はなく》 Nora ware of gain《唯の一度も勝利もなし》」

 しかし、未だに渡りあえているのは恐らく豊富な経験を持っているからだろう。

「With stood pain to create weapons.Waiting for one's arrival《担い手は、ここに一人。剣の丘で、鉄を打つ》」

 だから分からない。あの小さな紅い騎士の少年が……。

「I have no regrets.This is the only path《ならば、我が生涯に意味は要らず》

 そして俺とお嬢ちゃんの前に立ち塞がる様に戻って来る、それは小さな紅い騎士が戦い始めてから唱えていた呪文の終わりも意味していた。

「My whole life was “Unlimited Blade Works”《この体は――“無限の剣”で出来ていた》」

 小さな紅い騎士が呪文を唱え終わり、その言葉が紡がれると――世界は別のモノと化していた。


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
お久しぶりです、愚か者です。
あかい魔術師一家の投稿が余りにも遅くなってしまって申し訳ありません。
当初はこんなに遅く成るなど考えても居ませんでした。
理由は幾つか在りますが、大きな理由は二つ。
仕事が夜勤のモノになり、書く気力が湧かなかったのと。
完全に一から物語を考えた際、最初の構想から頓挫・挫折したのも在ります。
此方の旧版はなるべく日を置かずに、ストック分を投稿するようにします。
今迄、申し訳ありませんでした。

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