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魔法世界のあかい魔術師一家 旧 三話&四話&五話
作者:愚か者   2013/06/11(火) 19:01公開   ID:pU9enW1mras


―――― 一 話 ――――

 Side ガトウ


 俺は今……目の前で起こったことが理解できずに居る。いや、出来る人物なんている筈がない。

 見渡す限りは、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣の世界。

 何だこれは!? 此処は一体何処だ!? 何が起こった!?

 この小さな騎士の坊主は今、何をした!?

 坊主が呪文を唱え終わると同時に炎が走り、炎に包まれた後には果ての無い剣の墓標と、世界を包み込む様な鮮やかな赤を思わせる夕焼けに浮かぶ数多くの星空。

「……此処、何処な……の?」

 お嬢ちゃんも自分の身に何が起こったことが理解出来ず、不安顔をしている。無理もない。

 俺だって未だ、自分の身に何が起こっていか理解出来ていないんだ。

「一体、……これは?」

 俺は、俺とお嬢ちゃんを守る様に立ち塞がる小さな騎士に訊ねる。が、丁度――紅い騎士の坊主は魔族と魔物の大群に向かって、声高らかに宣言した。

「ご覧の通り、貴様たちが挑むのは“無限の剣”――――――剣載の極地!」

 その声が、この世界に響き渡ると――地に刺さっていた剣が次々に浮かび上がる。

 浮かび上がった剣の大軍は、全て此方に敵意を向けるモノに目標を定めている。

「さあ―――――恐れずして、掛かって来い!!」

 小さな紅い騎士の号令と共に全ての剣が一斉に襲い掛かる。

 それは正しく戦争。剣軍と魔群の……。

 在る剣は一撃で敵を貫き、在る剣は一撃で首を刎ね、在る剣は敵を切り捨て、在る剣は複数で敵を仕留め、在る剣は折られ、在る剣は砕け、在る剣は消し飛び、在る剣は俺とお嬢ちゃんを守っている。

 もし、これが紅い騎士の坊主の言う様に“無限の剣”ならば魔群に勝ち目は無い。

 どれだけ消し飛ぼうが、折れ砕け様と……無限ならその果ては無い。ならば、勝ち負け等とうに付いている。魔群が勝つ為には、紅い騎士に此れを使わせてはいけなかった。

「さて、余り話している時間は無いが……質問に答えよう。この術は術者の心象風景を映し出す、魔術の到達点――魔法に最も近い大禁術。その名も【固有結界】と言い、これは私の心の風景――名を“Unlimited Blade Works”《無限の剣製》と言う。その人生を剣と化した男が到達した一つの世界。故に此処には全てがあり、何も無い」

「……なっ!?」

 術者の心の風景を映し出すだって!? そんな魔法聞いたことが無い! いや、それ以前にこの紅い騎士の坊主は『魔法に最も近い大禁術』と言っていた。なら、これは魔法じゃなくてなんだと言うんだ!?

 この紅い騎士の坊主は一体何者なんだ? 全てが俺の常識外だ、この坊主の使う魔法――【固有結界】なんて聞いたこともない。本当にこの紅い騎士の坊主は何者だ。

 
 Side ガトウ end


 Side 明日菜


 凄い、私は目の前の光景を見てそれしか浮かばなかった。

 今まで見てきた魔法のソレとは全く違う、魔法。

 術者の心の風景を映し出すと言うソレは……余りにも現実離れした風景だった。

 一番近いのはラカンのアーティファクトだろうけど、それとは違う。

 上位魔族を一撃で切り伏せ、貫き、刎ね、討ち倒すソレは現実の風景なのかすら疑いたくなる光景だった。

 ナギが居れば、目の前の光景に心躍らせて居たのかもしれない。

 アルが居れば、彼の人生を収集したがったかもしれない。

 詠春が居れば、余りの非常識さに逃避に走ったかもしれない。

 ラカンが居れば、彼と張り合おうと勝負を挑んだかもしれない。

 タカミチが居れば、彼に師事を仰ぐかもしれない。

 クルトが居れば、彼に色々な質問をぶつけたかもしれない。

 分かっているのは、彼はこんなにも凄い力で私達を守ってくれる。それはだけは、不思議と理解出来た。

 だから、私は彼にこの世界のことを聞きたくなった。

「ねぇ、なんでこの世界はこんなにも悲しくて、温かいの?」

 彼はとても優しい笑みを私に浮かべて、答えてくれた。

「悲しいのは、救えなかったから。温かいのは救ってくれた人がいたからだよ。死者はね、蘇らない。過ぎてしまったことを、無かったことには出来ない。そんな可笑しな望みは、持てない。だから、救えなかった者達から目を逸らす訳にはいかない。だって、それは――自分を否定するのと同じ事だから。誰にも人は否定できない。俺に出来るのは、信じた道を否定せずに進むことだけ。だって、君は君なんだから……」

「私は……私?」

「そうだよ。君の感情は君自身の内から零れた、本物の思いなんだ。だから、誰にも否定できない。それは誰に何と言われようと、間違いなんかじゃない」

 何故だろう? その一言に胸の内が熱くなる。

 私は空っぽの筈なのに……。

 目の前では以前、剣の軍と魔族・魔物の大群が戦いを続けているのに……。

 私は少しも不安や恐怖を抱くことは無かった。

 場違いかもしれないけど、この時私は確かに彼に救われたんだと思う。

 だから、私は声を張り上げて
「頑張って! 剣の軍団さん!! 負けないで!!」
 と叫ぶ。

「クククッ、そうだな。安心しろ、君の眼の前で闘っている軍団は決して負けない。彼らは不敗の軍団。必ず、君たちを守り通してくれよう!」

 そう言って彼はいつの間にか足下に在った剣を引き抜き、
「さあ、魔群よ! これで終わりにしよう!」
 と更に号令を剣の大軍に掛けた。


 Side 明日菜 end


 Side 士郎


 女の子と出血の酷い男性を護るために、随分と派手なことをしてしまった。

 しかし、それだけだ。俺も女の子も彼も生きている。あの子には辛いかも知れないが、彼はそう長くは無いだろう。それでも、彼のことを胸に抱き忘れずに生きて欲しい。

 魔力は残り一割半在るかどうかと言う状況だが、人形に移ってから魔力量がかなり増えているので辛うじて不足の事態に応じられるだろう。

「坊主は、一体……誰だ?」

「ふむ、名前のことを聞いているなら衛宮 士郎と言う。私の使った魔術に対いて聞いているなら、魔術が秘匿された世界から来た“魔術師”だと言おう。それとも私の強さに対いて聞いているなら、魔術の秘匿された世界で英雄となる筈だった男だと答えよう」

 俺は彼が聞いてきそうなことを予測して質問に答える。

「英雄になる筈だったと言うのは、どういう意味だ?」

「なに、在る儀式で未来の自分と出会いその生涯を追体験してしまったのだよ。最もそのお陰で私は自分が、目指すべきモノが如何いうモノか知り。大切な女性と共に未来の自分を超えたと思っているがね」

 女の子は単純に驚いているようだが、彼はその言葉の意味を知って驚いたのだろう。

「ねぇ! その未来の自分は何て呼ばれていたの!?」

「錬鉄の英雄。そう、言われていたよ」

 女の子の問いかけに答えながら、俺は彼に声をかける。

「私が名乗ったのだから、貴方も名乗るのが礼儀だと思うが……」

「ああ、すまない。俺はガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグだ。こっちのお譲ちゃんの名は……」

「アスナ! アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア!」

「了解した。所で、ガトウ氏。申し訳ないが、私に貴方のミドルネームを使わせて貰えないか?」

 此れは前々から思っていたことだが、凛に“魔術師殺し”の衛宮の姓を名乗って貰いたくなかった。

 俺が遠坂の姓を名乗っても良いが、そうでない場合は凛に衛宮の姓を名乗らせることになるのが心苦しかった。

「随分と唐突だが、それはまたなんでだ?」

「なに、衛宮の姓を最愛の女性に名乗って欲しくなかったのでね。こうして知り合ったのも何かの縁だ、“魔術師”は基本等価交換で成り立っている。事後承諾になってしまうが私は魔術の秘奥を見せたのだから、ミルドネームを私の新しい姓を作る際に使わせて頂きたい。また、こうやって出会ったことを忘れずに済む」

「はは、随分と損な等価交換だな」

 全くだ。此方は【固有結界】を見せて、貰ったモノがミルドネームを使わせて貰う程度。彼女が居れば、間違いなく憤慨モノだろう。

「ああ、それくらいなら構わない。貰い過ぎと言う感じがしないでもないが……。やはり、秘奥と言うからには相当なモノなのだろう?」

「ああ。他の魔術師に見られれば、憤慨処の話ではないな」

 そう言って苦笑いが浮かぶ。

「ハハハ……。やはり、貰い過ぎか。それならいっそ、もう少し上乗せさせて貰うぞ」

「やれやれ、とんでもないな君は……。まぁ、条件次第で受けよう」

「なに、簡単さ。お譲ちゃんのことを頼む。タカミチって弟子にも頼んだが、錬鉄の英雄殿も頼りになると見た。タカミチと一緒にお譲ちゃんのことを頼む」

「ふむ、まぁ、私とて、此処で誰かに放り投げる気は無かったので良いだろ。その条件を受けよう」

「ああ、ありがとうよ。錬鉄の英雄」

 さて、私は少し離れるか。これ以上、アスナちゃんとガトウ氏の別れを削る訳には往くまい。

 暫くして、ガトウ氏が息を引き取った。アスナちゃんは悲しみの為に、暫く泣き続けていたが仕方のないことだ。きっと、アスナちゃんにとって親しい人の死は始めての事なのだろう。

 俺の様に始まりが黒い太陽と燃える街、人だった何か。そんな特別な状況でも無い限り、心が壊れることは無い。しかし、たった一人さえ救えなくて――何が正義の味方だろうか。

 ならば、俺がアスナちゃんに掛ける言葉は既に決まっている。

「アスナちゃん。そう何時までも泣いていると、ガトウ氏――いや、君のお父さんは安心して眠ることが出来ないと思うぞ」

 俺の言葉を聞いてアスナちゃんが泣きながらも
「ガトウさんが、私の……お父さん?」
 と聞き返してくる。

「ああ、そうだ。家族を家族にしているのは、血の繋がりだけじゃ無い。心の繋がりが人を家族にするんだ」

「心の……繋がり?」

「そうだ。誰かを大切に思う心が在って、家族は家族と言える」

 俺が爺さんとの思い出を大切にしているように、アスナちゃんにもガトウ氏との繋がりを大切にして欲しい。

「アスナちゃんはガトウ氏のことを大切に思ってなかったのか?」

 我ながら意地の悪い問いかけだと思いながらも、アスナちゃんの返事を聞く。

 実際、アスナちゃんは
「ちがう! ガトウさんのこと、ちゃんと大切に思ってたもん!」
 と叫ぶ。

「なら、君はガトウ氏の間違いなく娘だ。お父さんを何時までも悲しませて居ては駄目だ。お父さんに私は大丈夫だって、伝えてあげなければ」

 俺はアスナちゃんにそう急かすでもなく、諭すように話しかける。

「私は大丈夫だって、分かれば……お父さん。安心できる?」

「当たり前だ。アスナちゃんが笑って居れば、ガトウ氏にとってこれほど安心できることは無い」

「うん! 死人は蘇らない、過去は変えられないんだよね」

 恐らく、あの時に俺が言った言葉をそのまま使っているのだろう。それでも構わない、アスナちゃんが前を向いて歩いて行けると言うのなら……。

「ああ、その通りだ。そんな、おかしな望みは持っちゃいけない。今までのことが無かったことになって、嘘になちゃうから」

「うん、私頑張る! お父さんに何時までも笑って居て貰いたいから!」

 アスナちゃんの元気な返事を聞いて、俺は息を引き取ったガトウ氏の遺体を抱きかかえる。

「さあ。他の人が心配しているだろうし、皆の所に戻ろう」

 しかし、アスナちゃんはその場を動こうとはしなかった。

「どうかしたのか、アスナちゃん?」

「あ、あの、あのね! 士郎さん、私のお兄ちゃんに――家族になって下さい!!」

 最初が言い淀んでいたのは、拒絶されるのではないかという心配が在ったからだろう。

「ああ、俺で構わないなら……君の家族になろう」

「ホント! ありがとう、お兄ちゃん!」

 お兄ちゃんか……思い出すのは雪の精霊のような容姿をした少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。俺は救えなくて、アーチャーのヤツは救えた。爺さんの本当の娘。アーチャーの摩耗した記憶の中で、イリヤスフィールがアーチャーに明かした自分と親父との関係。

 もしかしたら、この出会いも義姉さんイリヤスフィールが運んで来てくれたのかもしれない。

「今度こそ、俺は家族を守ってみせるよ……義姉さん」


 Side 士郎 end



 Side 明日菜


 お兄ちゃんが何かを呟く、けれど私にはそれが何なのか分からない。そんな時、私とお兄ちゃんを優しい風が撫でるように去って行く。その中で私は知らない人の声を聞いた。

『意地っ張りで、頑固で、無茶ばかりのお兄ちゃんを助けてあげて。私の可愛くて新しい――妹』

 誰の声だったんだろう? 此処には私とお兄ちゃんしか居ないのに、それは不思議と私の心を温かくしてくれた。

「どうしたんだ、アスナ?」

「ううん。何か不思議な声が聞こえた気がしたから、一寸気になっただけ」

「そうか。さあ、皆が心配している。無事な姿を見せに行こう」

「うん!」

 それから、私はお兄ちゃんと他愛もない話をしながら駆けて来た道をゆっくりと戻る。

 そんな他愛のない話の中で、お兄ちゃんは私にあの魔法――【固有結界】のことを誰にも話さないで欲しいと言われた。

「なんでなの?」

「アレはね、誰にでも使えるモノじゃないから……黙っていて欲しいんだ」

「他の人にバレたら、どうなるの?」

「必ずね、今のアスナちゃんみたいに悲しい思いをする人が出来ちゃうんだ。だから、誰にも言わないで欲しい」

 お兄ちゃんがアレを使うってことは、今の私みたいな人が増えるってこと? それって、なんか嫌だ。

「うん、私言わないよ。お兄ちゃんと約束する!」

「そっか。それなら、安心だ」

 そう言ってお兄ちゃんは、私に優しい笑みを向けてくれた。

 他にも、お兄ちゃんの家族についてや友達について、私は色々聞いた。そして、その問いかけ全てに、お兄ちゃんは私にも解り易いように話してくれる。

 私は、お兄ちゃんと血の繋がりは無くても家族に成れたことが嬉しかった。


 Side 明日菜 end


 Side タカミチ


 僕が緊急用ゲートを使って、事の事情を説明すると。関東魔法協会の理事長は急いで人員を集めて部隊を編成してくれた。

 そして、魔法世界に戻り。急いで師匠達の居る場所へ向けて駆け出した。

 しかし、この時の僕は知らなかった。既に魔族と魔物の大群は、あの紅い騎士の少年によって死に絶えていたことを……。

 僕と魔法部隊は急ぎ足で駆け、遠くで誰かが此方に歩いて来るのが分かった。

 その足取りはゆっくりで、子供二人が此方に向って歩いて来ていた。

「良かった! アスナちゃんと彼も無事だったみたいだ」

 この時、僕は彼がアスナちゃんを連れ戻してくれたモノばかりだと思っていた。

 二人を視界に納めた、僕の目に映ったのは……無傷のアスナちゃんと彼。そして、彼の腕に抱きかかえられる様に横たわる師匠の姿だった。

 其の姿を見て、理解してしまった。師匠は亡くなったのだと。この二人を守ったのだと、勘違いをしていた。

 彼と合流してすぐ何人かは先行して様子を見に行った。

 僕は頃合いを見て、彼に
「師匠は君たち二人を守って誇り高く息を引き取ったんだね」
 と言った。

 ところが、思いもしない人物――アスナちゃんから
「違うよ、お兄ちゃんが私とお父さんを助けてくれたんだよ!」
 と言ってきた。

 そんな時だった、先行して様子を見に行った魔法使いが驚きの表情を浮かべながら急いで戻ってきたのは。

 話を聞くと、この先で魔族と魔物の大群は死体となって転がっているらしい。しかも、その全てが鋭利な刃物によって命を絶たれているらしい。

 アスナちゃんの話を信じるなら、ソレは全て彼が行ったことになる。しかし、誰もそんなことは信じない。いや、信じられないのだ。現に僕だって信じきれない。

 彼にどうやって、あの大軍を討ち倒したのかと聞くと
「悪いが、答える気は無い」
 と不敵な笑みを浮かべながら答える。

 なら、君は何者かと聞くと
「私は、此処とは違う世界――魔術が秘匿された世界で生きてきた者だ。故に君達とは扱うモノが違う」
 と、そう言った。

 最初は僕達を謀っているのかとも思ったが、彼の世界での魔術と魔術の常識を聞いて僕達の常識と全く違うことが分かった。

 特に異なって居たのが、その在り方だ。“魔術師”は個人の目的の為に、自分の工房と言う研究室に籠る者が大半らしい……。

「なら、君はそれ以外の“魔術師”なのか?」

 そう聞くと彼は
「私は“魔術師”で在って、“魔術師”でない存在。差し詰め、“魔術使い”だ」
 と言う答えが返ってきた。

 “魔術師”と如何違うのかと訊ねると
「私は魔術を道具として見ている」
 と言う。

 その後も彼に色々と質問を問いかけるが、魔術というモノについては何一つ分からなかった。

 この時、彼が如何いう人物か理解出来ていたら……こんなことにはならなかっただろうか。

 Side タカミチ end



 Side 士郎


 一先ず、何処かの組織と接触を取れたのは幸運だった。この組織を介して、戸籍を得る事も可能だろう。なにせ、今の俺は戸籍が無いので取れる手段も少ない。一段落したら然るべき組織と接触をはかり、戸籍を手に入れる心算だった。これで、戸籍の面は対応次第で如何にか成るだろう。

 しかし、“魔術”に対いては如何すべきか? この組織を信頼して“魔術”を開示すべきか、悩む。

「すまない、“魔術師”。君の名前を教えてくれないか?」

 俺が此れからのことを考えていると、この世界の魔法使いが名前を訊ねて来た。

「ああ、すまない。私はエミ――いや、神楽坂。神楽坂 士郎だ」

 俺はいつも通り衛宮と名乗ってしまいそうになったが、此処で衛宮と答えて話がややこしくなるよりもガトウ氏から貰ったミルドネームを使った新しい姓を名乗ることにした。因みに最後の“坂”は常に凛との関係を近いものと感じていたかったからだ。

「そうか、神楽坂 士郎君だね。それで、君は此れからどうする積りなんだい?」

「なに。これから何処かの組織と接触をはかって、自分の戸籍を用意する積りだった。そちらの都合さえよければ、其方の組織で戸籍を用意して貰いたいのだが?」

 さて、上手くいけば余り組織に組み込まれずに済むが。

「そうだね。我々としても君の言う“魔術”は未知の技術だ、出来るなら我々の組織で活用したい」

 当然、未知の技術と言うことも在って魔術を求めるか。

 しかし、一番の理由は俺が行った魔群との戦いが原因だろう。確かにアレ程の力を得ることが出来る“魔術”、組織が欲するに十分な理由だ。

 人は自然と強力な力、異端の力などの条理外の力に魅せられ、それを求める。そして、無意識の内にその力に恐怖する存在だ。やはり、“魔術”は開示すべきではないか。

「申し訳ないが。私はまだ君達の組織に対いて、何も知らない。よって、其方の組織を信頼し、開示しても十分だと思ったら、考えさせて貰う」

 まぁ、考えても結果は既に決めているので、開示することは無い。本当に考えるだけだ。それに嘘は言ってないから、屁理屈も通るだろう。

「わかった。なら、我々は君に信頼を得られるように頑張ろうと思う」

「了解した。なら、その行動しかと見させて貰らおう」

 俺と魔法使いの彼が話していると
「お兄ちゃん……」
 と声が聞こえた。

 振り返ると拗ねた顔をしたアスナが居た。

「アスナ、どうかしたのか?」

「一緒に、お父さんの所へ行って……お願い」

 やれやれ、俺達の新しい家族は甘えん坊の様だぞ……凛。

「わかった。一緒にお別れに行こうかアスナ」

「うん」

 ガトウ氏の葬儀は旧世界と呼ばれる別世界で行うらしい。

 旧世界とは、地球の事を指す言葉らしい。後で、歴史などを調べて見よう。もしかしたら、彼女セイバーなどの共通の歴史が在るのかもしれない。何せ、此処は並行世界だ。とても良く似た世界に来た可能性もあるからな。

 そんなことを考えながら俺は、アスナと手を繋いで緊急用と呼ばれたゲートで旧世界とやらに渡る。


 Side 士郎 end


 Side タカミチ


 今、僕は剣の檻の中で彼――士郎の戦いを見ている。

 士郎の動きはとても十一歳の動きとは見えない。士郎の動きは魔法の力に頼らずに研磨してきた『武』の動きと、何処までも見通すような眼で自分が戦う戦場を見ている様だった。だから、この場で他の魔法使い達と渡り合えているんだと思う。

 そして何よりそれを可能としているのは彼が持つ――魔術。

 僕達の一切知らない未知の体系で組まれた技術。

 魔法の矢を放てば、虚空に現れた剣が飛来し――相殺或いは打ち勝って、魔法の矢を無力化する。

 だから、遠距離からの魔法攻撃は余り意味をなさず。必然と戦いは近距離戦になる。

 今も、前衛の人が斬りかかるがその手に持つ中華風の双剣で軌道を逸らされる。他の二人の魔法使いも何とか足を止めずに援護をするが、余り効果が在るとは思えない。

 今、士郎の相手をしている魔法使いは足を止めることが出来ない。足を止めれば、その瞬間に剣が降り注いで檻の中となる。実際に十二人も居た麻帆良の魔法使い達は、三人を除いて僕と同じく檻の中だ。

 士郎は戦い方が上手い。常に周りを見て、一人一人確実に剣の檻の中に閉じ込めていった。

 だから残りの三人も足を止められず、常に動き続けるしかない。

 僕はアスナちゃんに辛い過去のことは忘れて、平和に暮らして欲しかっただけだ。確かに、それがアスナちゃんの為に成るのかと思う所は在る。

 でも、それを指摘されただけで周りの魔法使い達はそれこそが正義だと語気を荒くして言う。

 共に考えもしないで、一緒に家族になって生きようともしないのか。と士郎が訊ねれば……。

 彼らから返って来た言葉は、
「そんなモノは必要ない。我々、立派な魔法使いマギステル・マギの邪魔をしないで貰いたい、魔術使い」
 だった。

 士郎が
「それでは、あの子の意志は如何なる?」
 と訊ねれば。

「必要ないと言った! これがあの子にとって一番幸せな選択肢だ!」

 彼らだって苦しくない訳ないじゃないか、如何してそれが解らないだ……。

 他の人だって悩んだ末にこの結果を選んだんだ! 君に何が分かる!! 

 目の前で戦っている内の一人が士郎によって吹き飛ばされた。そして、動きが止まると同時に吹き飛ばされた女性に向って剣が降り注ぐ。

「これで、残り二人。どうした、魔法使い――君達は“正義の味方”なのだろう?」

 士郎は未だ。戦意を失っていない二人の魔法使い相手に向って、問い掛けの言葉を駆ける。

「なんで……こうなったんだ」

 僕は剣の檻の名で叫びながら、こうなってしまった過去を思い返す。

 
 Side タカミチ end


 Side 明日菜


 私がお兄ちゃんと共にゲートを潜ると、其処は旧世界の麻帆良と呼ばれる地の……近くに在る森の中だった。

「それじゃ。アスナちゃん、魔法使いの人達が、用が在るから向こうに来て欲しいって……。その、彼はこっちの方で話すことが在るから」

「やだ、お兄ちゃんと一緒が良い」

「アスナ、余り我が儘を言うな。何か在ったら、私がアスナを守ってあげるから……な」

「う……ん。わかった」

 そう言うと私は、トテトテと駆け足で彼ら――魔法使いさん達の方へと駆ける。

「ありがとう、士郎君。僕は高畑・T・タカミチ。以後宜しくね」

 この時は知らなかった。呼んでいた、魔法使いさん達の用が私の記憶封印なんて。

「そうか、やはり君がタカミチだったか。ガトウ氏から話は伺っている」

「あはは、師匠はなんて?」

「頼り無い……だそうだ」

「師匠は亡くなった後も、厳しいな」

 私は魔法使いさん達の方へ駆けながらも、お兄ちゃん達の話の方が気になる。

「彼らの方が気になる?」

 私に声を掛けて来てくれた魔法使いの女性は少しだけ――使命感に満ちていた様な表情だった。

「うん。私、お兄ちゃんと一緒が良い」

「大丈夫よ、すぐに終わるから」

 なら、良いかな。お兄ちゃんと一緒に居られるし。

 そんな時だった、お兄ちゃんが
「済まない、少し君達――魔法使いに話が在る」
 と言いながら、コッチに向って来たのは。

 お兄ちゃんと魔法使いさん達は、私から離れて何かを言い争い。

 突然、魔法使いさんの一人が語気を荒げて
「君は黙っていろ、魔術使い君! これは我々魔法使いの問題だ!」
 とお兄ちゃんを怒鳴る。

 対してお兄ちゃんは
「さて、そうは言うが――私はガトウ氏からあの子の事を託された身だ。私にも口を出す権利は在る筈だが……」
 と静かに答え。

 続けてお兄ちゃんは言う。

「君達には、あの子と共に考え、あの子と共に家族として生きると言う考えは無いのか?」

「そんなモノは必要ない。我々、立派な魔法使いマギステル・マギの邪魔をしないで貰いたい、魔術使い」

「それでは、あの子の意志は如何なる?」

「必要ないと言った! これがあの子にとって一番幸せな選択肢だ!」

 会話を続ける度にお兄ちゃんの表情には、怒りの色と呆れの色が混じり合いながら浮かぶ。

「……はぁ、呆れて物が言えんな。あの子――アスナは、私が家族として引き取らせて貰う」

 お兄ちゃんがそう言うと同時に
「ふざけるな!」
 と怒鳴り声が上がった。

 そこから魔法使いさん達は急に大きな態度に変えて、
「よく考えてみれば、“魔術師の世界”だ。そんな戯言を真に受ける必要は無かった。あの魔群とて、英雄ガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグがやったに違いない。良いかい坊や、嘘を吐くと立派な立派な魔法使いマギステル・マギにはなれないぞ」
 と諌める様にお兄ちゃんに話しかける。

 それに対してもお兄ちゃんは
「ふむ、それが一般的な考えなのだろうな」
 と答えるだけだった。

 でも私は知っている。お兄ちゃんの言葉が嘘でない事を。

 気付けば、私はお兄ちゃんの直ぐ傍によって袖を掴み
「お兄ちゃんは、嘘付いてないよ」
 と言っていた。

「ははは、そうかい。それなら、此処に居る俺達魔法使いを相手に勝ったら自由にして良いぞ」

 魔法使いさん達は大きな声で笑い声を上げながら、私とお兄ちゃんに向って言った。

「――では、そうさせて貰おう」

「は?」

 それは誰の声だんだろう? 気が付けば、空か降る剣が魔法使いさん達を一人一人閉じ込めてしまった。

 剣に囲まれて動けなくなった人達は、タカミチを入れて七人。

「なっ!? 突然、何をするんだ君は!!」

 私の近くの男の人がお兄ちゃんに怒鳴る。けれど、私はお兄ちゃんが意味も無くこんなことをするとは思えなかった。きっと何か理由が在るんだ。

「君が言った筈だが、『俺達に勝ったら自由にして良い』と。そもそも君らは人一人を否定している事になるぞ。それが貴様らの言う立派な魔法使いマギステル・マギなのか?」

 お兄ちゃんの言葉に動揺しながらも反論する男の魔法使いさん。

「違う! この子の記憶を封印するのはこの子の為だ!!」

「ならば、聞くが魔法使い。何故、記憶を封印することがアスナの為になるのだ。明日菜がそれを望んだのか?」

 話から察するに私の記憶を封印するのが、魔法使いさん達の目的みたい。それって、今までのお父さんのことやお兄ちゃんのことを忘れるってこと……?

「いや! 私、忘れたくない!!」

「なっ!?」

 私の言葉に驚いたのは、お兄ちゃん以外の全員だった。

「そら、アスナは自分の意見を言ったぞ! すでに貴様たちの言うアスナの為と言う言い訳は無くなった。君達の言うことも分からないでは無いが、それは本当にアスナの為になるのか?」

「僕達はそう信じている。そして封印する理由は、今までの辛い記憶はこの子から笑みを遠ざけることになるからだ!!」

「それも一理ある。が、それでもアスナがそれを拒んだ以上、別の道を探すべきではないか? 何故、アスナを引き取り家族とするのを最初から誰も考えて居ないのか教えてくれるか?」

「それは……」

 魔法使いさん達はお兄ちゃんの意見に、目に見える程うろたえる。

 お兄ちゃんの言うとおり、魔法使いさん達は誰も私の家族になろうとは言ってくれなかった。私は、お兄ちゃんに家族になって欲しかったから――お兄ちゃんになって下さいって言ったんだ。そしてお兄ちゃんは、それを受け入れてくれた。私の家族になってくれた。

「君こそ、言葉では何とでも言える。第一、君にこの子のことは関係ない筈だ!」

「関係なら在る。私はアスナの家族、兄だ。故にアスナの嫌がることはさせない。私は家族として、一緒に悩み、一緒に考え、一緒に答えを出そうと思っている。確かにアスナの過去は辛いモノなのかもしれない。だが、それは乗り越えることのできるモノの筈だ」

「無理だ! この子は過去を乗り越えるには幼さ過ぎる。だから、今だけ……今だけはその辛い過去を忘れて貰うんだ。この子の保護を買って出たガトウさんは亡くなった。だから、この子の身の安全の為にも安全な地で乗り越えることが出来る年になるまで、伏せておくんだ!」

 魔法使いさんが言う言葉をきいて、お兄ちゃんが
「悪いが、私にはそうは見えない。君達がアスナの記憶を封印したいのは、アスナのことを恐れているからではないのか? だから、保護を買って出たガトウ氏が亡くなった――今、アスナの持つ“何か”を恐れて記憶を封印しようとする。私には君たち魔法使いが、自分達は安全だ、自分達は味方だ、自分達は敵では無いとそうなるように動いているようにしか見えない」
 って、魔法使いさん達に言う。それを聞いて魔法使いさん達は一瞬――そう、ほんの一瞬だけ驚いた表情を浮かべていた。

「そんなことは無い!!」

「なら、君達の言う立派な魔法使いマギステル・マギとは何だ?」

立派な魔法使いマギステル・マギとは、陰ながら人のためになる魔法使いの事だ!」

 魔法使いさん達は|立派な魔法使い《マギステル・マギ》のことをお兄ちゃんに言うけれど、お兄ちゃんは
「人のためになる魔法使いか。しかし、別に魔法を使わなくても人を救うことは出来る筈だぞ。ただ、隣の人に手を伸ばす此れだけで人一人が救えるのだ。私がアスナに手を伸ばしたように。君達も誰かに手を差し伸べる、これだけで誰かが救える筈だ。しかし君たちは誰一人、手を差し伸ばさずにアスナの記憶を封印と言う。これは君たちの勝手が過ぎると思うぞ。人は、魔法や魔術など無くても人を救える。そんなモノは手段であれば十分だ。人を救うのに、魔法や魔術は別に必ず必要ではあるまい」
 と言いきった。 

「だが、魔法の力が在ればより多くの人が救える。助けられる! それの何が悪い! それが僕たちの目指している立派な魔法使いマギステル・マギの姿だ!!」

 魔法使いさんが言った言葉の何がいけなかったのか私は知らないけど、この時のお兄ちゃんは明らかに不機嫌になった。

「今言った筈だ、魔法など無くても人は救えると」

「違う! 魔法の力が在るからこそ、多くの人を救えるんだ! その姿こそが立派な魔法使いマギステル・マギなんだ!!」

「君たちは今、自分が言った言葉の意味が如何言うモノか分かっているのか?」

 そのお兄ちゃんの言葉に私を含めて、皆が息を呑んだ。それでも魔法使いさん達は気押されまいとお兄ちゃんに叫ぶ。

「ああ、知っているつもりだ! だから、僕達は立派な魔法使いマギステル・マギを目指していると言ったんだ!!」

「そうか、君達の意見はわかった。なら、立派な魔法使いマギステル・マギと言う夢を抱いたまま――溺死しろ」

 それは、私の知っている。どのお兄ちゃんよりも怖い顔だった。

 お兄ちゃんのその言葉を皮切りに、お兄ちゃんと魔法使いさん達は戦いを始めた。

 お兄ちゃんは何処からともなく、二つの剣を手に取り出して構える。

 魔法使いさん達はお兄ちゃんに向かって幾つも魔法を放ったけれど、上空から飛んで来る剣が魔法を激突して行く。勿論、全部じゃないけど。お兄ちゃんは幾つか選んで、あの上空に現れる剣で魔法の矢を消している。剣が上空から飛んで来るなんて、普通じゃないから――お兄ちゃんの魔法は、もう何でも在りなんだと思う。だって、あの世界からして普通じゃ無いもん。

 お兄ちゃんは迫って来る攻撃を剣で流し、受け、いなし、逸らす。それは私の目を惹き付けた。ああ、私のお兄ちゃんはこんなにも強いんだ。お兄ちゃんが森に入って行くと、魔法使いの人達もお兄ちゃんを追って行く。森の中で魔法が飛ぶ音、金属が交わる音、剣が降り注ぐ音が聞こえてくる。

 魔法使いさん達が森から出てくると入って行った時よりも、少ない人数になって居た。

「これが、“魔術”か……。こんなのを認められるか! 全員気を付けろ、彼はかなりの腕の持ち主だ! それに、上空に現れる剣にも気を付けろ!」

「声をかけるのは良いが……そら、上に気を付けろ!」

 お兄ちゃんの声が聞こえると同時に魔法使いさんに剣が降り注ぐ。

「ッ!? しまった!」

「これで残り、三人。存外、大したことは無いな――魔法使い」

 そう言った、お兄ちゃんは笑みを浮かべていた。

 魔法使いさん達の中で剣を持った人がお兄ちゃんに斬りかかるけど、お兄ちゃんはソレを逸らして斬りかかった人を吹き飛ばす。そこへ魔法の矢が飛んで来たけど、それを後ろに飛んでかわした。一番後ろの魔法使いさんが呪文を詠唱し終わって、上級の魔法を放った。けど、お兄ちゃんは魔法を前に花の様な壁を出すだけで魔法は防がれ、お兄ちゃんに届かなかった。

 そこへ吹き飛んだ人がもう一度斬りかかって来る、それを剣で捌きながら二人の魔法使いさんの所へ向かって移動する。

 切りかかった人がまた、吹き飛ばされた。そしたら吹き飛ばされた魔法使いさんの上から剣が降ってきて、魔法使いさんは剣の檻の中に閉じ込められる。

「これで、残り二人!」

 魔法使いさんは魔法の矢を撃ちながら、お兄ちゃんに近づかれない様にしているけどお兄ちゃんは魔法の矢を全部上空から飛んで来る剣で消して行く。お兄ちゃんは魔法の矢を消しながらも何処か目指しているみたい。

 お兄ちゃんが目指した場所は一寸、一寸だけ高い場所だった。あ、そっか! お兄ちゃんは弓も使えるんだった。そして、私が最初に見た時のように何処からともなく弓を取り出して剣を番える。そして、そこからが凄い。お兄ちゃんの矢は早い、兎に角速い。あっという間に二人の魔法使いさん達は剣の檻の中に閉じ込められた。

「ああ、言い忘れたが……私は弓の才能だけは一級以上だと言われている。言い忘れていて済まなかったな、魔法使い」

 えっと、それって……弓の腕が一番凄いってこと?

「さて、行こうかアスナ。此処に居るより、関西方面に向かおう。その方がアスナの為になるかもしれない」

「うん。ごめんね、タカミチ。私は誰の事も忘れたくないから、お兄ちゃんと一緒に行きます!」


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■作者からのメッセージ
誤字修正。多分、これで誤字は無い筈。
後、偉大な魔法使いを立派な魔法使いに変えました。
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