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魔法世界のあかい魔術師一家 旧 六話&七話&八話
作者:愚か者   2013/06/22(土) 18:42公開   ID:pU9enW1mras


―――― 二 話 ――――


 
 Side 士郎


 俺が関東魔法協会と一戦を交えてから数日が経ち。俺達は今、京都を目指している。そこに関東魔法協会と日本を二分する関西呪術協会の本部が在ることが判ったからだ。

 話は少しそれるが、この数日の間にアスナは俺の妹として明日菜と言う漢字を考えた。

 神楽坂 明日菜。ああ、この響きはこの子に在っている。名前とはただ単に、その者を示す言葉では無い。そこに在る子供への願い、そう言ったモノが込められている。だから、俺は明日菜の名を変えはせずにこの子に合いそうな漢字を当てた。この名前を聞いた時の明日菜の喜び様には驚いた。

 しかし、そうなると先の魔法協会への失態が頭に浮かぶ。

 何故、あの様な行動を取ってしまったのか。少し考えてみれば、自ずとその理由が浮かぶ。

 彼らは、彼らなりの正義で動いていたが。ソレが一方的な正義と理想ばかりで動いていた事を理解していない。故に、そこに明日菜の意志は無く。自分達の行動こそが正義だと、盲信していた様に見えた。

 実際は、全員が全員そうでないのかも知れない。しかし、彼らの姿を通して――聖杯戦争当時の――過去の自分を思い出してしまった。今なら聖杯戦争当時のアーチャーの気持ちが少し解る気がする。いや、アレは別モノか。アレはその理想を突き進んだが故の感情。俺の持つ感情とは、別モノか。どちらも現実を見ていない愚か者を見ていると言う意味では、同じだと思うが。

 それでも、凛が居たらもっと上手く立ち回れたに違いない。

「お兄ちゃん、どうかしたの?」

「いや、如何しようもない自分に少し嫌気がさした。けど、明日菜を連れ出したことには後悔なんてしてないからな」

「じゃあ、なんでそんな暗い顔してるの?」

「いや、明日菜を連れ出す時にもっと上手いやり方が在ったんじゃないかと思うとね……」

「ふーん。でも、私、お兄ちゃんは何も間違ってないと思う!」

 ああ。明日菜にそう言って貰えるなら、俺も連れ出した甲斐が在った。

「良し。じゃあ、もうひと踏ん張りだ! もう少しで京都に入れるから、ゆっくりする事も出来るぞ!」

「うん!」

 そう言って明日菜を抱えて、身体強化を掛けた後に夜のビルとビルの間を飛び交う。

 幾つかのビルを飛び交うと結界の内に入ったようだ。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「いや、なに。結界の内に入ったようだから、少し警戒をしておこうかと……」

 周りを見回すと、此方に向かってくる者が数名確認出来た。

「さて、今度は喧嘩を売るような事態には気をつけないとな」

「あはは、そうだね。でも、お兄ちゃんの魔法って見た感じ何でも在りな気がする」

 あははは…、確かにその通りだ。あの第五次聖杯戦争で金ぴか(命名:凛)改め、ギルガメッシュとの戦いで片っ端から投影していたから……実際に殺し合いになれば、何でも在りだ。

 まず、ゲイボルクだろ、カラドボルクに、ルールブレイカー、カリバーン、グラム、エクスカリバー、デュランダル、ダインスフレ、ヴァジュラ、フラガラック……古今東西全てとは言わないが。ほぼ、全ての伝説の武器の原型が【固有結界】の内には在るからな。

「凛がいつもデタラメと言うだけあるよな……」

「お姉ちゃんが如何かしたの?」

「いや、何でもないんだ」

 お、すぐ傍まで来たな。

「明日菜、悪いが念の為に一寸離れててくれないか?」

「うん」

 さて、今度こそ対応に気をつけないとな。

「失礼、私は関西呪術協会の使いの者です。神楽坂 士郎様ですね」

「ああ、確かにそれは私の名前だが……魔術師としての名は衛宮だ。だから、この場合は衛宮 士郎となる」

「わかりました。では、衛宮様。長がお待ちなので、付いて来て頂けますか?」

「其方から何か手を出さない限りは、其方に従おう」

「分かりました。では、付いて来て下さい」

 そう言うと道案内に来た女性は、少し先へ行く。

「お兄ちゃん。大丈夫だった?」

「ああ。大丈夫だったから、一緒に行こう」

 俺は再び明日菜を抱えると、道案内の女性に従って進む。

 道中、道案内の女性との会話で
「ふふ……。十一歳の子供が十二人もの魔法使いを無力化したと言う話を聞いた時は驚きましたが。実際に会ってみると、とてもそんなことをした人物だとは思えませんね」
 と言う話から俺の事を少しでも見極め様としているのが理解出来た。


 Side 士郎 end



 Side 詠春 


 今、私の前にアスナ姫を連れて来た紅い騎士を思わせる子供は何処か見た目に合わないイメージを感じます。しかし、同時にアスナ姫の懐き様から見ても信じるに値する人物だと思えました。

「あ! 詠春だ」

「お久しぶりです、アスナ君。それに、初めまして神楽坂 士郎君。私は関西呪術協会の長を務める、近衛 詠春と言います」

「此方こそ、初めまして近衛 詠春殿。それと、今の私は“魔術師”の衛宮 士郎と敢えて名乗らせて貰う」

 ふむ。それは神楽坂の性は裏で使う気は無いと言うことでしょうか?

 私もアスナ姫のことを伏せる為に対外的にアスナ君と呼んでいますし、それと同じことなのでしょう。

「わかりました。それでは、まず聞きたいのですが。何故? あの様なことを行ったのですか?」

「まず、理由だが……彼らが明日菜の意志を無視していたからだろうか」

「と、言いますと……」

「まず、自身の大切な家族などを例に挙げるとすると。子供が不幸だから、親でない他人が記憶を封印して育てると勝手に言っているから。ご自身の家族の誰かがその様な目に在ったら――まず、止められる筈だ」

「ええ、そうですね。子供の人生は子供の人生ですから。それを家族でも無い赤の他人が記憶を封じて、勝手に育てるなんて誰も許しません」

「そう言う事だ。明日菜だって明日菜の人生が在る。それを不幸になるから、記憶を封印する、そんなのはその人の否定でしかない。それに彼らは明日菜の話を聞こうともしなかった」

 士郎君は言葉を吐く内に、その声が段々と大きく、怒りの感情が見て取れるようになっていた。

「確かに。しかし、それでも彼らもまた、その答えを良しとしない思いを胸に抱いているのですよ」

「それは知っている。だが、彼らは明日菜と話し合おうとせず、共に悩もうともしなかった。彼らは立派な魔法使いマギステル・マギと言う言葉を使い、自分達を正当化させようとしていた様に私には映り。それが、人の否定と言う方法を取ろうとしていた様に見えたんです。勿論、私があの場で怒りにまかせて暴れたのは認めます。あの場は私も悪かった。改めて彼らに合うことが在るのなら、謝罪もさせて頂きます」

「わかりました。しかし何故、あのようなこと言ったのですか?」

「詠春殿、人の否定とは何だと思いますか?」

「人の……否定ですか。そうですね、今までの人生の否定でしょうか」

「ええ、私も同意見です。人の記憶を勝手に封印すると言うのは、その人物の今迄を否定しているのと何の違いが在るのでしょうか? 私には一緒の様にしか見えない。挙句……その罪から目を背けて、立派な魔法使いマギステル・マギを盾に罪から自分を守っている様にしか見えない。だから、私はあの場で争ってでも明日菜を連れ出しました」

 なるほど、私達は知らず知らずにアスナ姫の此れまでを否定すると言うことだったのですね――彼の考えからすると。

「しかし、他の方法も在ったでしょうに……」

「いや、全く。耳が痛い、序に一つ昔話をしましょうか?」

「ほう、それは君の昔話ですか?」

「ええ。そんなに楽しい話でもないですが、聞いて下されば。貴方達が明日菜に仕様としたことの、末路が分かると思います」

「それは一体……」

 士郎君の昔話に何故、アスナ姫の記憶を封印した場合が関係するのでしょうか?

 そう。この時の私は彼が言う本当の意味での、人の否定の末路が如何いうモノか知りもしなかった。

 もし知っていれば、彼の――士郎君の行動は当然だと思える理由が其処には存在しました。

 彼は自身の記憶を語る前に、アスナ姫を呼び。
「これから、私の過去を話すが聞くか――明日菜?」
 と言ってアスナ姫に問い掛けます。

 勿論、士郎君に懐いているアスナ姫が首を横に振る筈は無く。必然と聞き手は、私とアスナ姫に私の護衛の女性の四人に成る。

「話す前に、申し訳ないが……彼女は外して貰えないか?」

「それは何故ですか?」

「これは詠春殿を信頼に値すると見たので、話す事です。申し訳ないが、彼女は信頼に値するか分からないので」

 聞いた話ですと、“魔術師”は秘密主義だと言っていましたし。士郎君の此れは“魔術師”として守るべきルールなのでしょう。

「分かりました。ですが、話が漏れないようにしますが。彼女は何時でも動ける位置に居て貰っても?」

「それは、当然の事。無闇に人を遠ざけるのは、この場合間違いだと私も思います。だからこそ、組織の上に立つ人物で、明日菜の話の中に出てくる貴方だから話す気になった」

「そうですか。では、貴方の信頼に応えられる様にしないといけませんね」

 その私の言葉を聞いて苦笑いを浮かべると、士郎君は自分の記憶を話し始める。

「先に言っておきますが、衛宮は私本来の姓ではありません。私……いや、俺の記憶の始まりは呪われた黒い太陽に燃える街、人だった何かから始まります」

「呪われた……黒い太陽?」

 アスナ姫が士郎君に訊いた言葉は、そのまま私にも当て嵌まり。士郎君に聞こうと思っていたことでした。

「ああ、そうだよ。他にも呪われた泥と、俺達は呼んでいるけど……」

 それが何を指すのか分かりませんが、呪いと言われる位ですから良いモノでは無いようですね。

「その泥は……在る儀式の果てに得る筈の中身でした。ですが、私が全てを失った第四回の前に……。開催した側の一つの家が罪を犯し、中身を既に呪いで汚染していたんです」

「汚染と言うことは、元は違ったのですか?」

「はい。元は無色にして、透明な……純粋な力でした。その力を使えば、我々魔術師の世界の魔法にも届く可能性の在るモノでした。また、純粋故に死者蘇生と言うのも可能だったと思います」

「信じられませんね。そう言った儀式が在ったと言うことは……」

 全く、彼ら“魔術師”の言う魔法とは如何言うモノなのでしょうか?

「お兄ちゃん。“魔術世界の魔法”って如何いうモノなの?」

「それは私も気になりますね。教えて貰えませんか?」

「俺も全てを知っている訳では無いので、答えられるのは精々二つじゃないでしょうか。それも、名前を知っていると言う程度ですし。それでも良いですか?」

 私は彼ら“魔術世界の魔法”と言うのに、興味を惹かれ。その名前だけでも知りたくなりました。

「ええ、構いません」

「私も知りたい!」

「答えられるのは、第二魔法と第三魔法ですね。第二魔法が“並行世界の運用”で、第三魔法が“魂の物質化”だったと思います。先程も言いましたが知っているは名前だけなので、これ以上の事を俺は知りません」

 並行世界に魂……ですか。随分と抽象的ですね。

「詠春殿、明日菜。話を戻しても宜しいでしょうか?」

「え、ええ。話を戻してください」

「分かりました。第四回の最中に何が在ったかは、俺は知りませんし。儀式は既に汚染されていたことを除けば、滞り無く進んで行ったと思います。そして、儀式の終わりと共に前から続く呪いが中身を汚染しだしたのです」

「つまり、儀式の終わりまでは汚染されていなかったのですか?」

「はい。儀式の中身は在る一定の条件が満たされる迄は、それを得ることは不可能で無色透明な純粋な力です。それを得ることが可能になる際に、呪いが発動して中身を汚染しだすんです」

 しかし、彼らの行った儀式とは一体何なんでしょう?

「ねぇ、お兄ちゃん。その……儀式って何?」

「そうだな、一言で言えば……何でも望みが叶う儀式だった。今までの人生のやり直しも、望むモノも、欲するモノも、それが手に入れば叶う筈のモノだった」

 そこで、士郎君はアスナ姫にも聞こえないような小さな声で
「唯、一つの事を除いて……」
 と呟いた。
 
 全てを叶う筈のモノを持ってしても叶わない願いとは何なんでしょう?

「それで、儀式の内容ですが。これは至ってシンプルです。七人の魔術師マスターと七騎の使い魔サーヴァントが殺し合う戦争です」

 殺し合いの儀式ですか……。

「因みに、たった七人ですが。それは戦争と言っても、何も違いの無い戦いですよ。何せ、呼び出されたのが――過去の英雄ですから」

「一寸、待って下さい! 君達は実在したかも判らない過去の英雄を呼び出したのですか!?」

「ええ、正確には……過去の時間軸から切り離された【英霊】と呼ばれる存在を呼び出したのですが」

 【英霊】? これも初めて聞く言葉ですね。

「その、【英霊】って何?」

「過去に偉業を成し遂げて、人々の信仰心を得た者達のことです。簡単に言えば、凄いことをしたから褒め称えられた人物のことだよ。そして、とても強い人達のこと」

「じゃあ、ナギやお兄ちゃんも!?」

「そうだな。俺じゃ無い俺は……英雄と言われていたから、ソイツは【英霊】だったよ」

 ん? 今彼は何と言いましたか? 士郎君では無い士郎君が英雄と呼ばれていた?

「士郎君、それは……一体如何言う意味ですか?」

 私の問いを聞くと士郎君は複雑な顔をしながらも
「そのことに付いては、順番と言うのが在りますので……今は聞かないでください」
 と、そう答える。

「わかりました。順番と言うからには何か関係が在るのですね?」

「はい。それで、七騎の使い魔サーヴァントは召喚される際に七つのクラスに収まります」

「七つのクラスですか?」

「はい。剣の騎士セイバー弓の騎士アーチャー槍の騎士ランサー狂戦士バーサーカー騎乗兵ライダー暗殺者アサシン魔術師キャスターの七つのクラスが一般的ですね。玉にそれ以外のクラスも召喚されるそうですが、俺が参加した第五回の儀式では今言われたクラスで戦いを始めました」

「士郎君、君も参加者だったんですね」

「はい。ああ、そう言えば。俺は見た目と違って実際は二十代後半です。この魔法使いの世界に来る際に、何故か十一歳前後まで後退しましたが……」

 士郎君はそう言うと何処となく、遠い目をしていました。ですが、私が驚いたのは士郎君が実際は私と余り変わらない年齢と言うことです。しかし、同時に納得もしました。最初、士郎君に感じたモノは正しかったと……。

「通で、最初に士郎君と会った時に妙な違和感を持った訳です」

「いえ、此方こそ驚きました。そんな違和感を持たれていたとは」

「……??? 何々、如何いうこと?」

「その内、明日菜にも教えるけど。俺の秘密が一つ、バレてたってことだよ」

「本当に、教えてくれる?」

 アスナ姫の問いかけに士郎君は
「ああ、約束だ。明日菜にもちゃんと教えるよ」
 と答えると、アスナ姫は喜びの感情を表に出す。

 それは見ていて仲の良い兄妹の様に見えた。いえ、士郎君の年齢を考えると仲の良い親子でしょうか。何にしても二人の仲は良いのでしょう。


 Side 詠春 end



 Side 明日菜


 この時の私はお兄ちゃんの秘密を一つ教えて貰えることが嬉しかった。

「まず、俺がマスターになった経緯ですが。ランサー、真名クー・フーリンとアーチャー、今はまだ真名である名前を伏せさせて貰いますが。その戦いを見てしまい、ランサーの槍に心臓を貫かれました」

 だから、今お兄ちゃんが言った言葉に驚いた。

「嘘!? お兄ちゃん、心臓槍で突かれたの!?」

 信じられなかった。私なんかよりも強くて、優しいお兄ちゃんが、心臓を貫かれたなんて……。

「良く生きていましたね。でも、それだけでは無いのでしょ? それでは君が生きている理由には成りませんから」

 ほら、詠春だって驚いてる。でも、それだけじゃ無いって……如何言うこと?

「ええ。その命を救ってくれたのが俺の最愛の女性です。申し訳在りませんが、彼女の名前は彼女の安全の為に伏せさせて貰います」

「わかりました。しかし、魔術と言うは凄いことが出来るのですね」

 その詠春の言葉にお兄ちゃんは苦い笑いを浮かべながら
「魔術は採算性が、割に合わないですよ。火を起こす魔術ですら、そこら辺のライターに比べて材料費が高く付きますから」
 と言った。

 それって、初級の魔法より大変じゃない?

「一命を取り留めた俺は家に帰りましたが、当然口封じにランサーが来ました」

 お兄ちゃんは強いから戦ったんだよね。

「俺は生き残る為に戦いましたが、すぐに追い詰められました」

 嘘、お兄ちゃんが!?

「そこで、俺は……彼女――セイバーと出会ったんです」

「それで、君は五回目の儀式に参加したと言う訳ですか」

「はい。彼女との出会いは今も鮮明に思い出せます」

「それで、セイバーさんは如何いった英雄だったんですか? 彼女と言うくらいですから、ジャンヌ・ダルクですか?」

 なんで、詠春はそんなに興奮しているんだろ?

「いえ、セイバーの真名はアルトリア・ペンドラゴン。アーサー王です」

「なっ!? 伝説のアーサー王が女性だったと言うのですか!?」

「はい。俺が召喚したのは伝説のアーサー王で間違いありません」

 そう言うお兄ちゃんの顔は何処か誇らしげで、寂しそうで、遠い所を見ているようだった。だから、お兄ちゃんが此処に居るように服の一部を掴む。

「大丈夫、何処かに居なくなったりしないから。そんな泣きそうな顔をしないでくれ、明日菜」

 お兄ちゃんのその一言が、私はとても嬉しかった。

「うん!」

 私が返事をすると、私の好きな優しい笑みを浮かべてくれる。

「その日が、俺にとっての運命の日だったんでしょうね。最愛の女性が俺と同じく、魔術師でマスターだった。彼女は先に言った、アーチャーのマスターでした。最愛の女性と共に訪れた教会では人の古傷を抉り、優越に浸る神父――言峰との出会い。教会からの帰りでは、養父の実の娘――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがサーヴァント《バーサーカー》。真名ヘラクレスを連れ、俺達の前に敵として現れた夜でした」

 え!? お兄ちゃんにもお姉ちゃんが居るの! やっぱり、魔術師の世界にいるのかな?

「それは、辛い思いをしたのではないのですか? 義理とは言え、お姉さんと最愛の女性と殺し合う事になるのですから」

 なんで、殺し合いになるの? う〜ん、あ! この儀式って殺し合いの儀式だったんだっけ。

「ええ、そうですが。それでは彼女が生きている理由にならないので、少し補足します。この儀式の仕組みは、【英霊】が元居た場所に戻る際に出来る大きな力を得る事で、儀式で使用される器は満たされることになります。ですので、必ずしもマスターで在る魔術師を殺さなければならない訳では無いんです。要は【英霊】さえ倒せればいいのですから」

「そうですか。ですが、どうやって【英霊】だけを倒すのですか?」

「そうですね、勝ち目なんてほぼ存在しません。ですから【英霊】の縁り代で、現界に必要な魔力を供給するマスターを狙うんです。それが最も効率の良い勝利方法ですから。そして、供給元で在るマスターが死ねば。いずれ【英霊】は現界出来ませんから」

 だから、殺し合いなんだ。

「それにしても、なんて儀式なんでしょう。過去の偉人を呼び出し殺し合わせるなど……」

「詠春殿、その考えは間違えですよ。【英霊】は生前に残した未練が在るから、召喚に応じるんです。ランサー、クー・フーリンの場合は戦えることを喜んでいる節も在りましたよ。まぁ、絶対命令権の【令呪】で本気で戦えないことを嘆いても居ましたけど」

 戦いが好きって変わった英雄さんなんだ、クー・フーリンって人。


 Side 明日菜 end



 Side 士郎 


 俺は聖杯戦争のことをある程度暈しながらも、俺が経験した聖杯戦争のことを話している。それは学校に張ってあった結界ことや遠坂との同盟、柳洞寺で起こったこと、俺の家にキャスターが現れた時のこと、アーチャーの裏切りとイリヤスフィールの死、教会で起こったことを話せるだけのことを話した。勿論、俺とアーチャーが使う【固有結界】の存在は伏せておいた。その話の中で、俺はアーチャーの真名を除いて知りうる限り【英霊】の名を明らかにもした。

 明日菜はイリヤスフィールの死を聞きくと、泣きそうな顔を浮かべる。が、俺が言った
「なら、明日菜が毎日楽しそうに生活すれば。きっと、イリヤスフィールだって喜んでくれるよ」
 この言葉に元気付けられたのか、笑顔でこう言った。

「それなら、私は毎日を楽しく過ごすよ。だって、イリヤお姉ちゃんにいつまでも笑っていて欲しいもん!」

 それを聞いて俺は、
『ああ、これなら大丈夫だ。明日菜は俺の様にならない』
 と安心できた。

 しかし何故、アーチャーが俺を其処までして殺そうとしているのかと当然訊いてくる。

 詠春さんは、俺とアーチャーの間に何かが在ると話を聞くうちに確信したようだ。

 そして、話の内容はアインツベルン城での対決に入る。

「俺とアーチャーは崩壊した城の中で互いに睨み合い、アーチャーの過去が明らかになります。アーチャーの話す内容は、記憶を封印された明日菜が辿る可能性の一つだと思って下さい」

「それは、一体?」

「俺とアーチャーは全てを一度失っているんです。そこで助けられた養父の嬉しそうな顔に憧れ、養父の夢を継ぐと――正義の味方になると誓ったんです」

「じゃ、なんで。そこまでしてお兄ちゃんを殺そうとしたの? お兄ちゃん、別に悪いことした訳じゃないよね」

 明日菜が俺に悲しそうな声で、訊いてきた。

「いや、俺も全部が正しい行いだったとは思っていない。けれど、俺は彼女の力も在って自分の進んできた道が間違いじゃないと信じている。でも、アーチャーのヤツは自分が進んできた道に絶望を感じて間違いだったと思ったんだ」

「やはり、その言い方ですと……士郎君とアーチャーは何か関係が在る様に思えます」

 そろそろ、アーチャーの真名を明かすべきだな。

「はい。俺とアーチャーの関係は起源が全く同じ人間。そして、アーチャーの真名は【英霊】エミヤ――エミヤ シロウ。俺の可能性の一つでした」

「未来の自分ですって!?」

 俺は詠春さんに【英霊】が時間軸から離された存在であること、聖杯戦争なら可能であることを説明した。

「アーチャーの言った過去は当時の俺の未来でした。今から話しますので、聞いて貰えますか……」

 詠春さんと明日菜は頷きを返すと、俺の次の言葉を待つ。

 俺は過去を思い出しながらも、俺とアーチャーの戦いを話す。


 Side 士郎 end



 Side 詠春


「俺とアーチャーの戦いは異質でしょう。何せ。同じ動き、同じ太刀筋、同じ戦い方。しかし、アーチャーが未来の俺である以上そこに差が生まれます」

 それはそうでしょう。当時の彼にはそこまでの経験と時間がないのですから。

「しかし、俺はアーチャーと剣を打ち合う毎にアーチャーの――【英霊】エミヤの人生を追体験させられて行きました。俺とアーチャーでは、異なる儀式の内容・人生。アーチャーの最後は信じた人に裏切られ、絞首台でその人生を終えました」

 後に士郎君が語る、アーチャー――【英霊】エミヤ シロウの人生は何とも言えないモノでした。

 ですが、同時に彼――【英霊】エミヤほど偉大な魔法使いに相応しい人物も居ないでしょう。彼は唯、人の助けのみを求めていたのですから……。

「俺は、アーチャーの言うとおり。借り物の思いでも、美しいと感じたから憧れていました。ヤツの言うと通り、脅迫概念が在ったんでしょう。俺にはそれしかないと思っていたから、逆らうことも否定する事も出来なかった。それをアーチャーに言われましたよ」

 これが、一度全てを失った士郎君の在り方。

「アイツは……そんな偽善では何も救えない。否、元より何を救うのかも定まらない。その理想は破綻して当然だ。誰もが幸福で在って欲しいなど、空想の御伽話だ。といいました。しかし正義の味方になりたいと言う想いは、間違いなく俺の内から零れたモノ。義父の夢はいつしか俺自身の夢となっていたんです。だから、明日菜には自分の思いを否定して貰いたくない。俺の様になって欲しくなかった。だって、明日菜は自分の感情を持って行動している。それを奪われたくなかった」

「…………」

 私は士郎君に何て声をかけるべきか、言葉がすぐに浮かびませんでした。

 私たちは一度も全てを失ったことのない身。故に、アスナ姫がそうならないと言う保障は何処にもない。記憶を封印しても、記憶を取り戻した時にアスナ姫が自分のことを如何思うかは知りえない。彼――【英霊】エミヤの様に自身を否定しないとは、私には言いきれません。

 ならば、彼に任せてみましょう。

「士郎君、一つ聞いても良いですか」

「はい。何でしょうか?」

「君は、アスナ君の家族だと言ってそうですね。それに間違いありませんか?」

「はい。俺は明日菜を家族だと――妹だと思っています」

 士郎君は、私の問いかけに強い眼差しを持って答える。

「アスナ君。君は士郎君を家族――兄だと言えますか」

「うん。私はお兄ちゃんの妹、神楽坂 明日菜!」

 アスナ姫に問い掛けた言葉は、どちらかと言えば確認に近いですが。やはり、私の予想通りの答えが返ってきましたね。

「わかりました。関西呪術協会の長として、神楽坂 士郎君と神楽坂 明日菜君を向かい入れましょう」

「ありがとうございます。詠春さん」

「ありがとう、詠春!」

「暫くの間は我々、関西呪術協会の本山で生活して頂きます。それと、関東魔法教会には話を付けますので。後日、謝罪に向かって頂くことになると思います」

「わかりました。重ね重ね申し訳ありません、詠春さん」

 最も、これには私と義父さんにとっても都合も良いことなのでお礼を言われる筋合いは無いかも知れません。

「それで、申し訳ないのですが。我々魔術師は魔法使いとは違って、秘匿主義なので出来れば私は雇われの身にして頂きたいです」

 これは、都合が良いかも知れません。西の者では東の者が警戒するでしょうから、どちらでもないフリーの魔法使い――いえ、魔術師でしたら此方の被害もないですし。上手くいけばかなり、西と東の緩和剤になるかもしれませんね。なにより使者としてなら、殺し合うことはないでしょう。

「わかりました。それでは、魔術師“衛宮 士郎”を雇わせて頂きます。仕事は、貴方の腕を見てから決めますが。基本、本山での子供達の面倒と護衛をお願いします」

「わかりました」

 その後、彼は
「中途半端もなんですし、儀式の終わりまで。良ければ、話しますよ」
 と言い。

 それにアスナ姫が
「知りたい! 教えて、お兄ちゃん」
 と言った事で彼の体験した第五回目の儀式を聞きました。

 しかし、人類最古の英雄王。ギルガメッシュと戦った時のことは話してくれず。

 ただ一言
「俺とアーチャーの取って置きですから、答えられません」
 と言われたのが気になりましたね。


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■作者からのメッセージ
投稿遅れてすみません。
体調崩して、寝込んでました。
今回も突っ込み所が大いですが、何分古いのを少し修正しているだけなので――ハッキリ言います。

元から駄文なんです。

すみません、お見苦しくて。
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