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Job Frontier つんデレ?な妻と陽気な夫 〜しばしの閉幕〜
作者:マスカレイド   2013/09/01(日) 22:11公開   ID:AOI9vdoxrJI
晴天の下、山小屋から出て行く男は振り返って軽く手を振り、王城へ赴く。
それを見送る女は軽く手を振り、小さく笑みを浮かべ、部屋に戻る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
やあ、アルカードだよ。
タニアがボクの事を認めてくれてからボクはようやく仕事を見つけた。
王宮ギャンブラー……国王を楽しませるために娯楽の相手を努める仕事さ。
王宮で住まなくてはならない都合上、暫くは彼女ともお別れだ。
ボクとしては今の彼女の境遇的に葛藤状態だったけど、彼女を止める為だ。
ボクが自分の為に働かないのなら自分がナイトとして働く、なんて無茶な。
『新しい命』をもう少し気遣って欲しいよ。
じゃあ、また会おう、My Love Wife……
――――――――――――――――――――――――――――――――――
全く、私が働けず、お前も私のことを気にしてこもりきりでは意味無いではないか。
とりあえず、寝床に入り、腹をさする。
そして昨日の事を思い出し、瞬時に頬を赤らめる。
あの時は、アイツに感化されて素直になりすぎてしまったが、やっぱ恥かしい……
アイツは私がアイツを好きだと勝手に思い込んでいるだけだから、
私がわざわざ言い返す必要などまるで無かったのだ。
結局、あの後の夜……いや、なんでもない。
思い出しただけで顔から火が出る……
私と……その……えっと……いや、私の為に彼が頑張っている傍ら、
自分が何もしないのは本当に辛い。
戦士として育った私には、ずっとじっとしていなくてはならないなんて難しい。
金は時々アイツが送ってくれる。
……全く、アイツにはいつも助けられてばかりだ。
あの時だって……
※   ※   ※   ※   ※   ※   ※  ※  ※
ルインド国、それが私の生まれた王国だ。
『明日、この国は襲われる。じゃが、ワシに見える限界はそこまでじゃ。』
百発百中の易者(フォーチュンテラー)の予言に怯えた国中が、
相手に備え本格的な戦の準備を行った。
当然、我々王宮騎士団とて例外ではない。
『しっかしまさか、こんな事になるなんてね。』
『アタシ嫌だぜえ。国が襲われる、しか分からない予言とか、シボフラじゃね?』
『バカ、そーゆー事を言うな。アタシら死を恐れない女騎士団だぞ?』
隊長まで一緒になって大爆笑をしていた中、私は周りから見ても分かるほど
浮かない顔をしていたのだろう。ふいに一人が私に聞く。
『ん?どしたタニア。浮かない顔しやがって。お前らしくないぞ。』
『あ?ああ、そう見えたか。はは……ははは……』
その時は苦笑で流した私だが、勝気な女騎士が口が裂けても言えないだろう。
『何か、嫌な予感がする。』などとはな。
『ま、救援軍(アイツラ)の出番は無ぇかもな。』
本来なら私もそんな団長に同調するはずだが、その時ばかりは、
待機援軍という名の暇人共に出撃を止めておきたかった。

翌日、特に大きな事件が起こるでもなく、正午を過ぎようとしている城下町であった。
私は妙な人だかりを見つける。何があったか尋ね、示された方向を眼にすると、
一人の男が壁を垂直に上へ上へと駆け上がっていた。
新手の大道芸と思った人々が歓声を上げる中、私は遠目に見えていたのであった、
こちらを横目で見下ろし笑い、懐から小型の円筒形を引き抜く彼を。
――――――ダイナマイト――――――――
「に、逃げろ皆――――――――――――!」
ニ、三本の筒が落ちてきた時、その正体を判断した私は叫んだ。
しかし、私の大声に気を取られた隙に、予言と私の予感は的中した。
耳をつんざく様な轟音が当たり一帯に響き、同時に包み込むような熱気と煙が起こる。
「な、なんだあ!?」「い、痛えぇええ!!」
瞬時に距離を取った私はかすり傷で済んだが、あの近辺に居た者、
且つ辛うじて生きていたものは血だらけで原型の分からないような哀れな顔をしており、
恐らく現状把握できていないのであろう、わめき散らす。
「おーおー、始まったか始まったか。行くぜ!!」
次々と駆けつける騎士団は見越したようにゲーム感覚だ。
膨れるように増える襲撃者に刃を向け、駆けて行く。
恐怖で逃げまとう人々の間隙を縫い、疾走する男がこちらに不適な笑みを浮かべる。
私はとっさの行動で彼を切り飛ばしたが手ごたえは無く、私が他の敵の対処をしている間に事を起こした。
一直線に飛び出すようなレイザー光を指先から放ち、軌道上の者達は胸元から血を噴く。
体長体重共に自身を越しているであろう巨剣を軽々と回した男が不気味に笑んだ瞬間、
その直径内の人々はバラバラになりになり、鮮血を放った。
恐怖の声、怒り狂う声、トチ狂った笑い声、老若男女から様々な絶望の声が飛び交う。
母を捜す少女さえも私が駆けつける前に撃ち抜かれ、倒れた。
「な、なんと言う事だ……あんなに小さい命までも……」
そのときの私は何も見ていなかったであろう。
敵と分かれば斬って、斬って、ひたすら斬った。
それと同時に我に返る。炎上した城で待機援軍へのノロシが撃ちあがったのだ。
「いけない。止めなくては……」
向かおうとした矢先、聞きなれた声が金切り声を上げる。
既に息絶えた同僚達の手を握る団長の胸に深々と爪痕が刻まれていた。
「団長!!しっかりしてください!貴方ほどの方がこれしき……!」
私は始めて泣いた。私より強い団長がコロシを楽しむだけのヤツラに負けるはず無いと思っているのだ。
「涙は止せよレディナイト。アンタはできるだけ生き残れ。そして、いつかこの国の無念を、晴……ら……」
私の言葉を制した指が簡単に滑り落ち、最後まで強気な笑みを浮かべた団長は遂に戦死した。
「誰か、誰かいるか?生きているか―――――――――――――――――!」
私は必死に叫んだ。まだ居るかもしれない命を思い。
だが、祈り虚しく、国王の声さえ聞こえてこない。
―――――――――――――――――!!!!!
不意に膝に貫かれた痛みが広がる、止め処なく流血する膝を抑え、前方に目を向ける。
「へえ、まだ居たんだ……生き残り……」
ダイナマイト男が興味なさそうに言い、
「ちょうど良かった。僕もっと色んな剣技を試したいな。」
大剣の男が愉快そうに笑い、
「ま、俺の直撃だ。死ぬ死ぬ、すぐ死ぬ。」
私の膝を撃ったレイザー男が冷たく笑う。
「ま、死んでよ……さっさとね。」
ダイナマイトの男が懐から出した爆弾を私に放った。
――――――コノママオワラナイ――――――――
それが割れて私を包み込む前に割れた膝に鞭打ち私は爆風に紛れて逃げる。
ひたすら走り、ルインドから離れた山中まで駆け抜けた。


後は待機軍に出停を掛けに行くだけだ……
だが、無茶をした膝の痛みは並のものではなく、私は遂に山中でへたり込んでしまった。
痛い。初めて味わった感覚だ。ああ、私もここまでか。
多少弱気な女戦士も居るものだ。すまない……団長、約束は……
「キミ、大丈夫!?すっごくヤバイじゃん!知り合いのドクターからもらった薬があるんだ!」
何だコイツ、シルクハット、ステッキ、モノクル……ああ、賭博者(ギャンブラー)か。
わが国の待機援軍、もとい暴走族(ロウダー)に続いてロクデナシと嫌われる日陰者。
金を巻き上げる程度の者に、この私が……?私は騎士だぞ?
逃げたとは言え、それくらいの誇りは自負しても良いだろう。
「な、離せ!自分の事は自分でどうにかする!」
私は彼に拒絶の意を示した。
駄目だ、そう言い、奴は言う事を聞こうとしない。
ふざけた奴だ。所詮ギャンブラーが間に合わせの薬で私を助けようなど……
「放っとけ!お前、本人が同意しないんだぞ!何様……「放っとけるわけ無いじゃないか!」
ソイツの強い口調に私はたじろいだ。
何故だ?いつもへらへら笑って感情を押し殺すギャンブラー風情が、なぜ泣いている……?
寄りによって『偶々会った』私などに、思い切って尋ねてみた。
彼は私の拒否を無視しながら淡々と膝を手当てしていき、徐々に痛みが和らぐ。
「だって、人が……しかも、女の子が怪我をしてるんだよ?
確かにキミは強い戦士かもしれないけど、それでもまず第一には女の子なんだ。
それにキミ、放っといたら、死ぬ気だったでしょ……?若い癖して。」
!!図星だ……確かに図星だ。だが、なんと言う図々しい物言いだ。
「私は強くなど無い!!祖国も護れず、勝手にこんな所まで逃げ出し!そんな奴に存在意義などあるか?無い!
祖国も堕ちた!もう帰るところも無い!この際、、私は死んでしかるべき女だ。」
激昂した私はかなりムキになっていた。
自分の存在を逆なでするような言い様に思えて仕方が無かったのだ。
奴は突如うつむいて震えだした……
いくら御節介でも流石に恩人相手にキツイことを言いすぎたか
「そんな事無い!誰だって命は同じだ!」
不意に彼は叫びだす。その目は怒りとも悲しみとも取れない表情だ。
つい謝る私に彼も謝罪で応え、息を少し吸う―――――――――――

「自分を大事に思えなきゃ周りを大事にはできない!
だって、自分が大事なものを護る為には、自分がいつまでもそれを護って生きられるように、
自分を壊さないよう大事にしなくてはいけないんだ!!護るって……きっとそういうことなんだ……」

―――――――――――――――――!!
何故か彼の言葉が深く胸に響いた。いつだって戦場では覚悟を決めていた私にはそんな事を思ったことは無かった。
キミ、ルインドの生き残り?
そう聞く奴に私は頷いた。
「じゃあさ、僕が良い行き先を探してあげるから、暫くは僕の家にいなよ!」
普通、こんな事を言う者には裏がある。私はそう思い、丁重に断ったが、彼は聞かず、結局私を居候にしたのであった。
さっさと出て行くために悪態をつこうが、心を開かなかろうが、アイツはあらゆる手を使い私を逃がそうとしなかった。
※   ※   ※   ※   ※   ※   ※  ※  ※   ※   ※   ※   ※  ※  ※
結局、アイツは良い宛てを見つけてくれなかった……
いや、寧ろ見つけてくれたかもしれない。こんな私を受け入れ、家族として愛してくれる。
昔の私にはバカらしくて認めたくなかったが、今の私には、アルカードに対する感謝しかなかった。
「ありがとう、アルカード。私も頑張るよ。私と、お前と、そして……」
『坊や』の為に、な……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とある荒野、血塗れた二輪機動車が轟音を伴って駆け抜ける……
跨るものの目は……復讐者(リベンジャー)そのものであった……


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■作者からのメッセージ
暫く、アルカードとタニアの話は閉じて、実質の主人公三人の話に移りたいと思います。
最後のバイク男はまだ出ません。
あと、襲撃者とかも今は深く考えていません、勿論子供も(苦笑)
まあ、どういう系の人かはすぐ見当がつくかもですが。
ただ、暫くは投稿できませんかね……?
結構長いけど読んでくださった方、ありがとうございました。では
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