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蒼穹のファフナーStrikerS 第四話 巡回 〜おひろめ〜
作者:朧   2012/12/16(日) 00:45公開   ID:g/r5KWCgl1o
 翌日、前日言われた通り真矢とカノンはシグナムに連れられ再び部隊長室へと来ていた。部屋の中には既にはやてとヴィータがおり、促されて二人は昨日と同じ様にソファーに座る。シグナムは今日も立ったままはやての後ろに控える。

「早速やけど地上本部から返事がきて、二人とも機動六課うちで正式預かることになりました。元の世界に帰るまでは六課ここにいてもらう事になります。待遇としてはお客さんになるんで基本的には自由にしてもらって構いませんが、不慣れでしょうから取り敢えずシグナムかヴィータがガイドとして就きますし幾らかは立ち入りを禁止させてもらう場所があります。面倒とは思いますがその点は理解をお願いします」

「それは当然だろうな。私達としても特に不満は無い」

 カノンが真矢に確認をとるように見やると同意するように頷く。

「それともう一つ、二人が持っているデバイスも預からせてもらいたいんです」

「デバイスってなんのこと? そんなの持ってないと思うんだけど」

 訝しげ顔を見合わせるとそのままの調子で真矢が疑問を呈する。それに答えたのはシグナムだ。

「我々と出会った時、お前達が着ていたのはバリアジャケットといって己の魔力で形成される防護服だった。大抵展開されていない時はデバイス、魔法を補助する機械に収納されているが何か心当たりはないか」

 シグナムの説明を聞き二人とも何故か右手にしていた指環に眼をる。

「そもそもその魔法というのはなんだ、そんな物が存在するのか?」

「この世界では機械文明と同じように魔法文明も発達してるんです。魔法が無い世界出身者からはオカルトの類に思われるのも無理は無いんですが、昨日シグナムとヴィータが空を飛んでたのも、シグナムの剣が炎を噴いたのも魔法の力なんです」

「魔法が使える者は体内にリンカーコアという物を持っている。大気中にある魔力素、魔力の素を取り込んで魔力に変えるが先天的なもので後天的に獲得する事はできない。つまり魔法はリンカーコアを持つ者だけが使うことができ、これが大きいものほど多量の魔力を持つ。そしてリンカーコアさえあれば例え魔法が存在しない世界であれ大気中に魔力素が存在していれば魔法を使うことが出来る」

 魔法の無い世界から来た二人に対し噛み砕いて魔法の説明をする。三人ともこの話を受け入れられずに管理局そのものへ不信を抱くことになった例を見てきているので刺激しないよう押し付けがましくならないよう注意して言葉を紡ぐ。

「持っている人と持ってない人との差は何かと聞かれても分かって無いんです。魔法がある世界出身かも、親とかが使えるかどうかも関係無いんです。私の居た地球も魔法なんてオカルトの中にしか存在しない所でしたから。ただ魔法が無い世界だと自分がリンカーコアを持っていることに気付かない人が殆どで、何らかの魔法世界との接触があって初めて知る事になります」

「まあそういうわけでお前ら二人には魔法を使える素地があるってことだ。それで魔法の発動を補助すんのがデバイスってわけで、シグナムの剣みたいな武器やバリアジャケットといった防護服を普段は収納してる。だけど普段の生活じゃ魔法は要らねえし、戦闘するなら必要になるだろうが客扱いの奴に戦わせるような事はしねえからな」

「そういう事なら構わないけど、このデバイスっていうのがどうなってるのか見てみたいんだけど、いいかな」

「勿論、元々確認するつもりやったからこの後すぐにでも行くつもりや。他に何か今のところで聞きたいことがあるなら言ってくれてかまへんけど」

 真矢が了承してくれたのに加え、こちらから言い出そうと思っていた事も提案され順調な話の進みに喜ぶはやて。

「それでは一つ頼みがある」

 カノンが真矢と二、三言葉を交わした後に切り出す。

「何や? 絶対とは言えんけど出来る限りのことはするで」

「私達がシグナム達と出会った森にまた行くことは可能だろうか?」

 最初の要望がどんなものが来るかと幾らか構えた所に来たのが案外普通の事だったので、内心構えた分の落差が大きくガクッときたりもしたがそれを面に出すような真似はしない。

「それぐらい問題は無いけど、二人だけやのうて他にも誰か一緒に行く事になるけどええか?」

 二人が頷くのを見るとはやてが勢いよくソファーから立ち上がり、それに僅かに遅れてヴィータも立ち上がる。

「よっしゃ、まずはデバイスの確認から行くで。それからうちの部隊はフレンドリーなのが特徴やし、私のことも呼び捨てにしてくれても構へんよ」

「それじゃ私達のことも好きに呼んでくれて構わないから」

「そうか遠見に羽佐間、どれぐらいの付き合いになるかは判らんが宜しく頼む」

 立ち上がった二人とはやてが握手を交わすのに続いてシグナムとヴィータも握手をすると、二人と共に先頭を切って部屋から出ようとするはやての後を追う。



「というわけでここが二人のデバイスについて調べてみるところや」

 そう言ってはやてに連れてこられた部屋には眼鏡を掛け茶色の髪を伸ばした女性がいた。五人が入る際のドアの音に気付くと振り返り笑い掛ける。

「お待ちしてましたよ、私が六課のデバイス関連を一手に仕切るシャリオ・フィニーノです。私のことはシャーリーと呼んでください。それで……どれ、どれなんですか?」

 自己紹介をしながら目を輝かせ迫ってくるシャーリーに思わず身を引いてしまう真矢とカノン、とそれを見て笑いながら窘めるはやて。シグナムとヴィータは初対面の相手にも平常通りのシャーリーに呆れている。

「シャーリー近い、もう少し離れんと二人が困っとるよ。シャーリーはデバイスやメカのことになると周りが見えなくなる時があるけど勘弁したって」

 二人ともはやてのフォロー? に納得したように頷きデバイスだと思う指環を渡し、受け取ったシャーリーは嬉々としてそれを機械にセットし調べ始める。

「それで、どうなんや」

「うーん、そうですね。どちらもバリアジャケットと武装が入っているだけで他に特別なものは無いです。設定されてる武装はこれですがどちらも非人格型のアームドデバイスで、名称はドラゴントゥースとルガーランスで登録されてますけど」

 そう言って画面に映し出されたのは狙撃銃と長い両刃の片手剣だった。

「おっ、これは凄いのがはいってんな。二人ともこれに見覚えは……あるみたいやな」

「確かに私も真矢もこれに覚えはある。だが誰がどうしてこの設定をしたのか、は分からない」

 感嘆混じりのはやてとは違いカノンと真矢には困惑の色ばかりが見てとれる。

「ま、それは取り敢えずいいんや。どうして持っとるのか判らんのにそこを考えても分からんからな。変な物が入ってないのを確認するのが今回の目的やからバリアジャケットと武装だけならなんの問題も無い。シグナム……やのうてヴィータはどうや」

 剣型のデバイスを食い入るように見ているシグナムだと「戦ってみたい」と言い出しかねないと急遽ヴィータに方向転換する。

「いや、別にどうってこともねえな。おかしい所が無いならそれでいいだろ」

「せやな。シャーリー、次に行くからデバイス返して」

「……このデバイスの仕組みとかもっと詳しく調べたかったんですが」

 残念そうに呟きを漏らすシャーリーから二人がデバイスを受け取りるとはやてに続いて部屋から廊下に出ていく。

「それじゃさっき言った通りデバイスはこっちで預からせて貰うけどええな。勿論還るときには返すし、メカフェチのシャーリーにも勝手に弄らせんで大事に保管することは約束するよ」

 それに応じて二人がデバイスを渡すとそのままヴィータに回して保管するよう指示を出す。ヴィータが保管庫に向かうのを見送ってから二人へ向き直る。

「ついでといってはなんやけど、このデバイスルームは立ち入り禁止って事で。色々と大事なもんが在ったりするから」

 はやては二人が頷くのを確認するとそのまま歩き出し、前を向いたまま後ろをついてくる二人に話し掛ける。

「なんか疑問とかあったら言ってくれて構へんで」

「それならだけど、八神さんも気にせず直接言っていいから」

「ん、何のことや?」

 気軽に聞くがその内容に思わず振り返ってしまう。

「シグナム達が付くのとかデバイスを預かる理由の事だ。勿論決まりだと言うこともあるだろうが、私達が問題を起こそうとした時の為の備えだろう」

「その通りや。でも言い訳させて貰えるんならそういう意図がある事は否定せんけど、今回の措置自体は管理局の規定に従ったことで二人だけ特別な措置をとったってわけやない」

『主はやて、よろしいのですか』

 カノンの言うことを認める発言にシグナムが慌てるが、本人はいたって平然と歩みを再開させる。

『二人ともその事について不快に思ってる様子もない。やったら否定する意味もないし無駄に否定してこじらせる方が面倒な事になる可能性が高い、そやろ?』

 念話ではやてと話すのと同時に二人の様子を後ろから観察し、マイナスの感情が無いことを見てとると納得して念話を打ち切る。歩きながらのカノン達には察知できない頭越しの会話を終了させつつ、二人は何事も無いかのように振舞う。直接言わないのであれば目の前で内緒話をしているなどという事を無意味に悟られる必要は無いからだ。



「フェイトちゃん」

 変わらずはやてを先頭に廊下を歩いていると不意に長い金髪の女性を呼び止め手招きすると、自身は呼ばれて寄って来た女性と二人の間に立つ。

「機動六課ライトニング分隊隊長のフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官や、執務官ってのは事件が起きた時にその捜査を指揮して法を執行する役職。で、こっちが昨日言ってた二人」

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです、分からない事があれば何でも聞いてください」

 フェイトに対し真矢とカノンも自己紹介をしたところで新たな単語への疑問を口に出すカノン。

「ライトニング分隊とはなんの事だ」

「あぁそやったな。ここには二つの実動部隊があってスターズ分隊とライトニング分隊って言うんやけど、例の機械が出た時とか戦いになるって時に前線に立って戦う部隊になるんや。私は後方でサポートをするロングアーチの隊長でもあるし、ここの課長で前線部隊も含めた部隊長やな。因みに副隊長はシグナム、スターズ分隊の副隊長はヴィータが務めてるんよ。だからフェイトちゃんはシグナムの直属の上司ってことや」

 はやての説明に挙動不審になるフェイト、その視線の先には最後尾を歩いていたシグナムの姿がある。

「いや、確かに役職としてはそうだけど、シグナムは部下っていうかなんていうか。その……シグナムの上司って立場が落ち着かなくて。それに本当の意味での上司は私じゃないし」

 動揺のあまり関係ないことまで口走り始めたフェイトをはやては必死に笑いを堪え、シグナムは苦笑しながら見ていたがそれに気付くと顔を赤らめる。

「テスタロッサ、主はやてに付き合うよりもやる事があったのではないか」

「そうだった、いま少し急いでるんだから。これからよろしくね」

 挨拶もそこそこに小走りに廊下を駆けていくフェイトをそれぞれがそれぞれの表情で見送る。

「いやあ、いつもながらからかいがいがあるなあ。あ、フェイトちゃんは六課で管理局の本局や他部署との連絡や折衝、情報収集といった事をを担当してるから六課に居ないことが多いんよ。どっかの部隊に所属してる執務官は大体こういう役目に就くことが多いんやけどな」

 聞くだけでも大変な仕事をしている相手を振り回しておいて悪びれないはやてを心なしかジトッとした目で見る真矢とカノン。シグナムはいつもの事過ぎて一々反応しない、自分に直接関る事でないのに相手をしていては身が持たないからだ。

「まあお前達は誰が隊長かなんて事は気にしなくていい。皆の話の中で役職で出た時に誰のことかわかればそれで十分だ」

その代わり管理局の人間で無い二人は役職など気にしなくていいと告げる。からかった後に突っ込んでくれる事が少なくなった事に内心少し寂しく思いながらはやても歩みを再開させる。

「もうお昼やし食堂に行こか。スターズの隊長とはそこで会えるやろうし」

 食堂で食事を受けとるとはやては辺りを見回し誰かを発見するとそこへ向けて真っ直ぐに歩いて行く。
 その先には山と盛られたスパゲッティとサラダ、そしてそれを囲む五人の男女がいた。テーブルを囲んでいる中で唯一の男性、まだ少年と呼ばれる年齢だ、がはやてとシグナムに気付き立ち上がりかけるがはやてが止める。

「そのままでええよ、なのはちゃん達にも紹介するわ。羽佐間カノンさんと遠見真矢さん、二人とも次元漂流者で六課に滞在することになっとる。高町なのはちゃん、スターズ分隊の隊長で新人フォワード達の教官も担当してるんよ」

「高町なのはです、なのはと呼んでもらってかまいませんよ。こっちは今の話にもあったフォワードの子達です。それじゃ皆も自己紹介してね」

「エリオ・モンディアル三等陸士です、ライトニング分隊所属です」

「キャロ・ル・ルシエ三等陸士、同じくライトニング分隊です」

「スバル・ナカジマ二等陸士、スターズ分隊です」

「スターズ分隊、ティアナ・ランスター二等陸士です。ところで八神部隊長、次元漂流者の方と仰いましたが、服装は管理局のものですけど」

「ん、そりゃ万全の態勢で流される次元漂流者なんかおらんから格好はしゃあないやろ。大抵身一つで飛ばされて来るんやから」

 はやての答えに皆納得したように頷くと今度はこれまでの会話の殆んどをカノンに任せていた真矢が口を開く。

「ねえ、エリオ君とキャロちゃんて何歳なの?」

「僕もキャロも十歳ですけど……あっ、いや別に強要されてここにいる訳じゃないですよ」

「そうです、私もエリオ君も自分の意志でいるんですよ」

 真矢の顔を見て聞きたい事に思い至った二人の答えを聞いた真矢がはやての方を見ると難しい顔をしている。

「幼すぎて一般的に児童労働いうんはわかるけどな、時空管理局は年齢より実力と本人の意志の方が強い力を持つからその辺は無視されがちなんや。ただ二人が自分の意志でっていうのは本当やで。二人の保護者はあんまいい顔しとらんからな」

 幼い頃から時空管理局にかかわり自らも覚えのあるなのはは苦笑し、エリオとキャロは「やっぱり」といった風に少し落ち込んでいる。だが考えを変える気はないようでなにか言おうとするが、それを遮る形で真矢が続ける。

「なら私にはいけないとは言えないけど……、戦うことだけだとそれしか無くなっちゃうから。戦いとは関係ない平和な思い出を持たないとだめだよ」

 内容は普通のことだがその言葉に込められた想いの深さに誰も言葉に出来ず沈黙がその場を覆った。

「うん、染みる至言やな。心が痛むわ」

 沈黙を破ったはやての口調こそ軽いものだったが、その眼差しは真剣そのものだった。
 もの問いたげなティアナが口を開きかけるがそれを遮るように続ける。

「話に夢中になるのもええけどもうお昼も終わりになるで。質問は後にして皆早く食べんとなのはちゃんが恐いんちゃうか?」

「はやてちゃん、私はそんな恐くないよ。ね、そうでしょ?」

 言いながら四人を見回すが皆が残り少ない時間に焦るように残っている食事に取り組んでいた為、誰からも同意を得られず図らずもはやての言ったことを四人とも肯定してしまった。

「明日やけどヴィータ連れてくから。予定を変えて悪いけど皆の面倒はなのはちゃんだけで見てくれるか」

 結果として午後の訓練の開始時間に遅れない時間に食べ終わることが出来たが、なのはが睨みを効かせたのと同じだと周囲がとるのも無理からぬ結果になってしまった。
 なのはの機嫌が若干悪くなったように感じ怯えるフォワード達を連れ午後の訓練に向かうなのはにはやてが声を掛けるが、常と異なり少ししか振り返らない。はやては平気な顔をしているがフォワードの四人は機嫌の悪さが表れていると思い少し距離を取ってついていった。

 そんな光景をはやてが爆笑しながら見送りなのはとフォワード達が見えなくなると、笑いを収めそれ以前の固い雰囲気のまま食事を続けていた中、はやてがポツリと漏らす。

「遠見さん達はそういう経験、あるんか」

「私は無いよ。ならないように周りが気をつけてくれてたから」

「私は……ある。理由も異なるし戦いにのめり込んだわけではないが……同じような事になったことはある」

「そうか、変な事聞いて悪かったな」

 流石のはやてもカノンの様子とその内容に軽々と踏み込む気にはなれなかった為、黙々と食事を取るしかない。食事を終え立ち上がると、暗い空気から切り替えようというのか大きく深呼吸をする。

「そんじゃ六課案内の最後に皆の訓練風景でも見に行こか」

 そう言って案内された所は六課隊舎脇の演習場だった。

「ここが六課自慢の訓練場や。空間シミュレータを使ってどんな場所、状況も再現出来る優れものなんよ。今の状況は……と」

 はやてが空中にモニターを描き出すと、二人がこの世界に来て最初に見た機械とさっき会った四人が戦っている様子が映しだされる。

「あれは管理局でガジェットと呼んでる奴でその中でもT型と分類されとる奴や。先に言った通り私等が戦う相手としては多少のバリエーションはあっても一番多い型やな」

 訓練風景をモニター越しに眺めているとはやてが呆気に取られることを言い出す。

「それで今日これからなんやけど、私は仕事に戻るからシグナムは二人を適当に案内して。そんじゃな」

 一方的に話すとそのまま走り去るはやてを呆然と見送った後、三人は互いに顔を見合わせる。
 取り残された中で六課のメンバーはシグナムだけなので、真矢とカノンはどうするかとシグナムを見ることになる。二人から問うような視線を向けられたシグナムはしばし考え込んだ末、二人をつれて訓練場を後にする。

「あら、シグナムどうしたの。珍しいじゃない、シグナムがここに来るなんて」

 案内された部屋には、管理局の制服の上に白衣を羽織った金髪の女性がいて、シグナムを見ると少し驚いたように話しかける。

「案内だ。話があっただろう、保護した次元漂流者を引き受けると。それで主はやてと共に回っていたわけだ」

「あら、でもはやてちゃんが連れて来るつもりだったみたいだけど、そのはやてちゃんはどうしたの?」

 手を頬にあて、小首を傾げながら尋ねる。聞かれたシグナムは幾らか答え辛そうにしていたが、目で促がされ問われるままに口を開く。

「途中までは一緒だったのだがな、仕事に戻ると言われ先に別れた所だ。ここに寄るようにとも言われなかったし、シャマルに会って小言を言われるのが面倒になったのだろう」

「まったく、仕事熱心というかワーカーホリックなんだから。あ、ごめんなさいね。私はシャマル、六課隊員の健康維持を担当してるの。怪我とかしたりしたらいつでも来て頂戴、大抵はここにいるから」

 はやての話が先に来た所為で真矢とカノンが放置されたが、区切りが付いたところで思い出され、医務室の主であるシャマルが自己紹介をする。

「シャマルは殆どの怪我や病気に対応できるからな、何かあったら来るといいだろう」

「治せないのは隊長の子達が仕事熱心すぎることかしら。何度言っても考えてくれないんだから。怪我とかとは関係ない事でも何でも相談してくれていいのよ。もちろん秘密は厳守するし、私の手に負えない事なら他を紹介することも出来るわ」

「まあ、何も無い方がいいのだがな」

 シグナムの言に皆で頷く。医務室は大事な設備であるが、利用が少ないに越したことは無い施設の代表格だ。
 その後シグナムがシャマルに何処か案内しておくべき場所について尋ねるが、シャマルにも思い浮かばなかったので、そのまま多少の雑談の後、解散となった。



 翌日、二人はヘリポートへと呼び出されていた。二人だけでなく共に行動していて案内も兼ねていたシグナム、そしてヘリポートに既にいたヴィータも用件は知らされておらず呼んだ人物、はやてを手持ち無沙汰で待っていた。

「御免な皆、遅なって。時間も押してる事やし取り合えず出発や」

 暫くしてはやてとフェイトが小走りにやって来る。フェイトもそこに居並ぶ面々を見て疑問に思ったが口に出して聞く間も無く、はやてに急かされ押し込まれるように皆と共に乗り込む。
 そしてパイロットのヴァイスを除いて総勢六人を乗せたヘリが大空へと舞い上がった。

「ねえはやて」

「ん、なんや」

「何でシグナムや羽佐間さんたちまで一緒に乗ってるの? もしかして地上本部に連れてく気」

「まさか、そんな訳ないやろ。皆目的はちゃうで」

 誰もが感じている疑問を最初に口に出したフェイトに笑って答えるはやて。はやてやフェイトが六課を離れることは別に珍しくもないが真矢とカノンは話が別である。六課から出掛ける理由が普通に考えれば存在しないからだ。何か本部から呼び出しがあって連れて行く、と考えるのは不思議なことではないが特別な事情が無ければそんな事はまず無いと言っていい。はやてはその線を否定すると周りに座っている皆を見渡しながら続ける。

「まずは遠見さん達を要望通りシグナム達が見つけた所に降ろして、それから地上本部でフェイトちゃんを、最後に私を聖王教会までってのが今回のフライトプランや。シグナムとヴィータは遠見さん達と一緒で、またガジェットが出てきたらちゃんと二人を守るんやで」

「出かけたい」と希望を出した二人と、その場に同席していたシグナムとヴィータ。だが昨日の今日であるし目的を聞く前に連れ出されたので、はやてが何処へ連れて行こうとしているのか不思議に思っていた。はやての説明に、皆(ヴァイス以外)先に伝えておいて欲しかったと程度の差はあれど思っているがやっと納得する。

「八神部隊長、まもなく例のポイントに到着します」

「よっしゃ、まずはシグナム達や。降りる準備はええか」

 操縦席から声が掛かり、それを受けてはやてが最初の四人に準備を促す。四人とも持ち物はなく身一つで乗っているので準備というものも無く、ヘリが降下するのを待つだけといった風情だ。
 が、それはヘリがそれまでと変わらない高度で飛び続けることで裏切られることになった。

「ポイントに到達、後部ハッチ開きます」

 ヴァイスの声とともにヘリの後部ハッチが開き、強い風が機内に吹き込み全員の髪の毛を激しく掻き乱す。
 眼下に森を見下ろし待機するが、一向に降下する様子が無い。ヴィータが振り向きはやてに問いかける。

「着陸しないって飛び降りろっつうのか。あたしらは構わねえけどこいつらは無理だろ」

「大丈夫やって、だから二人おるんやないか」

 その意味を理解してしまったシグナムが恐る恐るはやてに聞き返す。

「まさか私達に二人を抱えて降りろと仰るのですか」

 外れて欲しい、といった願望が込められた視線の先には満面の笑みが待っていた。

「そうやで、誰も見てないから飛び降りても誤解される事もないし速く済む。わかったらGoや、悪いんやけどこっちの時間も余裕無いから過ぎても止まらんし、戻らへんよ」

「……あたしじゃ体格的に大変だからシグナム、任せた」

 疲れたように洩らしてヴィータが一足先に皆を置いて飛び降りる。後に残されたシグナムは、はやての無茶振りとヴィータに逃げられたのとで二重の意味で溜め息を吐きながら二人に歩み寄る。

「仕方ない。済まんが少しの我慢だ、ちゃんと掴まっていろよ」

 言うな否や二人の腰に手を回し抱えあげる。二人がそれぞれが肩を掴んだところで機外へと歩を進める。
 短い浮遊感の後に地面に立った一同が上を見上げると、閉まっていくヘリのハッチとその隙間からにこやかに手を振るはやてが見えてしまった。そのため四人は遠ざかっていくヘリをしばらくの間ただ呆然と見送ってしまった。


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■作者からのメッセージ
実は一番悩んだのはタイトル、というよりほぼ毎回悩んでます。

魔力があるというだけなのに誘うのも変かなと思ったのでまだ勧誘しないことにしました。え、直ぐに入る事になるんでしょって、その突っ込みは無しの方向で。

2013.09.12 六課案内に医務室を追加
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