その日の夜、はやては部隊長室にシグナムとヴィータを呼び寄せていた。
「そんで二人はあそこで何がしたかったん?」
「何かを探してたようだな。森に残ったガジェットの攻撃痕をたどって多分だが最初に居た場所に行こうとしたようだからな。で痕が始まった辺りから辺りを探索し始めた」
「具体的にどのようなものかという事を聞いてはいませんが、地面ではなく己の背よりも高いところを主に見ていましたから小さいものではないと思います。おそらくですが、こちらへ来る寸前に近くにあったものが一緒に来ていないか、探していたと思われます」
「だろうな。あたしたちに空からも何か見えないか聞いてきたぐらいだったからな」
「それで、なんか見つかったんか」
「いや、何にも。結果だけを見るなら骨折り損ってとこだと思うぞ。あいつらがどう思ったかは知らねえけど、一緒にいたあたしらには何も出てこなかったとしか思えねえからな。今日はガジェットどもも出なかったし」
「魔法で隠されている物があるかとも思い調べてみましたが、発見出来たものは在りませんでした。あの周辺には何もないと思って問題ないかと」
二人の語る内容を聞き終えると自分に踏ん切りをつけるように大きく頷く。
「そうか、今の所不審な点は無しやな。話は変わるけどあの二人、正式に協力を求めることにするで。見極めはまだ不十分やけど、追々進めて行けばええやろ」
「何故ですか? もっと確実に見極めてからでいいではありませんか」
当初予定していた勧誘のスケジュールを急に繰り上げようとするはやて対し、些か拙速ではないかと懸念を口にするシグナム。
「今日、カリムに会いに行ったんは例の預言に今までとは内容が異なる新しいページが出来たって事で呼ばれたんや。預言が行える時期は決まってるから、二人が来たから新しい部分が出来たってのは穿ち過ぎだとは私も思う。ただ内容の本格的な解釈はまだこれからだとしても、今までにない部分が現れた時と同時期だということには良くも悪くも注目したくなるもんや。もちろん二人が預言に深く関っていて欲しいわけや無いけどな」
反応を確かめるように一度切り、二人を見て概ね肯定の反応を返しているのを確認する。
「だから関係が有るとしたら入れといた方が元々の目的にも合っとるし対処しやすいし、関係無かったとしても戦力が増えるのは悪いことやない。嫌な話、鍛えるにしても組み込むにしても早い方がやり易い。ま、どうしても入れておくのが駄目だった場合はその時考えればええやろ。今からそこまで考えるのはアレやし、そうなって欲しいわけや無いからな」
「はやての言いたい事は分かったけどよ、昨日の今日でいきなり方針変更っていうのはあんまりにも急すぎるだろ。少し間を置いた方がいいと思うぜ」
「ヴィータの言う通り簡単に態度を変えると皆にも思われては問題になります。それと高町とテスタロッサにも一応の了解は取っておくべきです。今の所彼女らが危険であるとは思っておりませんので、その部分さえクリアするなら私に異存はありません」
ヴィータもシグナムも二人を勧誘する事自体ではなくそこへの経緯について異議を述べる。それは隊としての纏まりや組織としての信用に関する事だったのではやてに異論のあろう筈が無い。
「二人の意見ももっともや、なのはちゃんとフェイトちゃんには私から話しとくけど数日はこのままでいくから頼むで。声かける時にはまた同席して貰うからその積もりでいてな」
二人が肯くのを確認してこの日の秘密会議は御開きとなった。
数日後、先だってはやてがシグナム達に宣言した通り再び真矢とカノン、それにシグナムとヴィータが集められた。
「遠見さん達が居た世界が見つかった訳ではないんですが……」
呼ばれたことで帰還への目処が立ったのかと思っている様子がある二人に否定するのは心苦しいと感じつつ、引き延ばしても意味がないので開口直後に告げるはやて。
「今日お呼びしたのは一つ提案というかお願いがあるからです。民間協力者として私達に手を貸してくれませんか?」
これまでそんな素振りも見せていなかったので急な申し出に真矢とカノンは驚くしかない。カノンの方がいち速く立ち直り根本的な疑問を口にする。
「なんで私達なんだ? この世界の人にも魔力を持っている人は少なくないのだろう」
わざわざ別の世界から来たカノンや真矢を戦力として欲しがる理由が二人にはわからない。
「確かに管理局員は多く居るし魔力を持ってる人もそれなりには居る。けどこれ以上六課に魔力を持つ局員は配置できんように規則で決まってる。でも民間協力者ならその制限に縛られる事はない、っていうのが一つ。それに私だって無節操に勧誘してる訳やない。二人に戦闘経験があるようで即戦力として期待できそうなことが二つ目の理由。以上は能力的な理由で二人が信用できそうな人物ってことが最後の理由やね」
そう言われて考え込む二人にはやてが話を続ける。
「それ以前に六課の目的を説明しとかなかんな。正式には古代遺物管理部機動六課といってロストロギアの回収を行う部署や。ロストロギアっていうのは今は滅んだ古代文明とかで作られた超技術の産物で現在は複製不可能なもの、簡単に言ってしまえばオーパーツみたいなもんや。その中でもレリックって言うもんの回収を専門にしてるんやけど、二人が襲われたガジェットもレリックを探してるみたいで鉢合わせする可能性が高い。だから実戦経験がある事はわりかし重要や。とはいえ重大なことやからこの場で返事が欲しいとは言わんし、断ったからといって二人に不利になる事は一切無い。協力者になれば基本行動は自由になるし二人には直接関係無いものでも色んな情報を知ることが出来る。ならない場合は今までと同じや、多少窮屈かもしれんけどな。考えて決めてくれて構わんから」
「それじゃ言葉に甘えて考えさせてもらっていいかな」
真矢が答えるとはやてはその場で断られなかったからか笑みを浮かべる。
「よし、それじゃとりあえずこれからもよろしく頼むで」
ここでカノンが気になっていたことを聞いてみる。
「一つ聞いてもいいか。何故素性の知れない私達を自由にしてそんな身内の様なものにまで誘うんだ? もし私達がどこかのスパイの類いだったらどうするんだ」
シグナムとヴィータが身構えるという程ではないが若干の緊張を走らせる。はやては今まで浮かべていた笑顔を消し去り、これまでになく真剣な顔つきになると毅然として告げる。
「確かにその可能性を考えなかったわけやないよ、疑い出せば限無いしどっちだという証拠も無いしな。ただ私が信じると決めただけや。それが結果として間違いだというなら遠慮なく敵対して構へんで。自分の見る目の無さ以外に責任を押し付ける気はないし、全力でそれを阻止するだけや」
「変なことを言って済まない。一応言っておくと私達にそのつもりはない」
その決意にあてられカノンはそれだけしか返せなかったが、シグナムとヴィータも緊張を解きはやても汲み取ったように笑顔に戻る。
真矢とカノンは機動六課の客分として与えられた部屋、壁の片側に机があり反対の壁際に二段ベッドがある、で話し合っていた。先程提案を受けた機動六課の民間協力者となるか否かだった。
「これまでこの部隊を見た感想から言えば協力しても構わないと思う。目的にしても問題は無いだろうが、真矢はどうだ」
どちらかと言えば肯定的なカノンに対し真矢は若干否定的なようだ。
「うん、レリックを確保するって目的は協力してもいいと思う。でも私はどっちかって言うと反対、私達が戦う敵はフェストゥムだよ。ファフナーは無いしフェストゥムもここにはいないと思う。でもだからといって相手を増やす事は無いでしょ。相手がガジェットだけならともかく、組み込まれたらそうは言えないと思う」
「その点は私も気になっていた所だ。後方でなら構わないが彼女の言い方では前線に入って欲しいようだからな」
「そういえば見つからなかったけどファフナーのことや薬のこととか、八神さん達に伝えておいた方がいいかな?」
六課に入るかという話はひとまずおいておいて、先日この世界で最初に居た場所へと行った時の事へ話が移る。
「いや、あの辺り一帯を捜して見つからなかったということは、私達だけが飛ばされてファフナーは来なかったのだろう。ならこの世界に無いのだしフェストゥムがいるわけでもないのだからわざわざ話す必要は無いだろう。薬にしても私達には分からないからな。乗らないし幾らか持っていたとはいえ何とかしないといけないだろう、私より真矢のほうが問題だしな。分かれば頼むことも出来るんだがな」
「そっか、何とかできるといいんだけどね。こっちにフェストゥムがいないのはいいことだけど……、竜宮島では私達はいなくなったと思われてるのかな、ファフナーだけが残ってるんだから。羽佐間先生なんてすごいショック受けてるだろうし」
「そうだな……母さんにしてみれば私まで、だからな。だがそれは真矢だって同じだろう、あの二人がとても平気でいられるとは思えない。早く帰らないと、せめて無事だけでも何とか知らせておきたい」
二人とも互いの家族のことを心配するが相手の心配がそのまま自分にも当てはまる事、亡くしてしまったと思っているだろう事を考えると、とても話を続ける気分にはなれかった。
翌日、二人の姿は食堂にあった。食事は課員と同じ食堂の為フォワードメンバーと一緒になる確率が高い。はやては忙しいためか同席していない場合が多く、今朝も姿は見えなかった。
「はやてちゃんから聞いたんだけど、二人とも勧誘されてるんだって」
「ああ、その話か。まだどうするか考えているところだ」
「あの……なのはさん、一体なんの話なんですか?」
聞いていたなのはとは異なり、話の見えないフォワードを代表してティアナがおずおずと質問する。
「それはね……」
「遠見さんと羽佐間さんに民間協力者になって欲しいってことなんですよぅ」
「「リイン曹長!」」
なのはが答えるのを突如遮り飛んで現れた小さな少女になのは以外が驚く。内容に驚いているのが四人、その姿に驚いているのが二人。
「え、それじゃ六課に入って貰えるんですか」
「スバル、決まったわけじゃないって。まだ考えてるって言ってるでしょ」
先走るスバルにティアナが注意した後、視線の束が二人に戻ると、宙に浮くリインを凝視したまま固まっている。
「あ、お二人とは初めてですね。六課の部隊長補佐をしているリインフォース・ツヴァイです。リインと呼んでください、よろしくお願いするのですよ」
困惑する二人になのはがリインのことを説明すると取り敢えず驚愕を収め挨拶を交わしている。
「ところでお二人とも六課に協力してくれるんですか?」
話を本筋に戻して突っ走ろうとするスバルを、「まだ考えている」と言ったのを覚えてないのかとティアナが呆れたように引き戻そうとするより速く、別の所から声があがる。
「急かしたりしたらダメですよぅ、遠見さん達が自分で決めるのが大事なんですから。それじゃ、リインは行くところががありますのでこれで」
小さく敬礼するとそのまま宙を滑るように飛行して行く。
「流石、魔法がある世界だと凄いものが見れるんだな」
「いえ、僕達もリイン曹長と同じ大きさの人は他には知らないですよ」
感心したようにカノンが呟くのにエリオが特別だと補足する。
「それじゃ私は先に行っているから皆も遅れないようにね」
返事が返ってくるのを確認するとなのはは先に席を立つ。未だ急がないといけない程時間が迫ってはいないので残ったフォワードメンバーも雑談を交えながら食事を続ける。
「ところで皆は何で時空管理局に入ったの? まだ普通に学校に通ったりしてる年でしょ」
大抵は皆の話を聞く側の真矢が珍しく話題を振る。居合わせた者はそれぞれに顔を見合わせる。
「あたしは四年前にちょっとした事故に巻き込まれちゃいまして、その時偶然なのはさんに助けて貰ったんです。その頃のあたしは泣き虫だったんですけど思ったんです、泣くのはもう嫌だ強くなりたいって。それから管理局の学校に通って災害救助部隊に居た所を六課に勧誘されたんです」
「何がちょっとした事故よ、空港火災に巻き込まれて一歩どころかあと半歩で死んでたんでしょうが」
明るく語るスバルをティアナが小突くがその内容とのギャップにはじめて聞いたエリオたちは驚きを隠せないでいる。
「ちなみにコイツのお父さんとお姉さんも局員で今は同じ部隊にいますし、八神部隊長も以前研修でそこの部隊にいたそうです」
「へぇ、スバルさんて管理局一家なんですね。もしかしてお母さんも局員なんですか」
「そうだったんだけど、あたしが小さい頃に事故で死んじゃったんだ。あ、気にしなくていいから。もう昔の話しだし。ちなみにあたしのリボルバーナックルは昔お母さんが使ってたものなんだ」
本人は明るい口調で語るものの聞いたキャロの方はそう簡単に割り切れるものではない。そこでスバルは自分から話題を変えるため別の人物を話題の中心に据えようとする。
「そういえばエリオはどこの出身なんだっけ?」
「僕は本局育ちなんです。本局の特別保護施設に八歳までいました」
エリオに話を向けるが答えにスバルが「しまった」といった顔になる。地雷を避けるつもりで自ら別の地雷原に踏み入ったようなものだからだ。今度はそんな顔をされたエリオが先のスバルと同じ様に慌てて言葉を連ねる。
「そんな気にしないでください。その頃からフェイトさんが保護責任者でいろいろと良くして貰いましたし魔法の勉強を始めてからは時々教えてもくれて、本当にいつも優しくしてもらいました。それでフェイトさんの力になりたくて」
「私も、エリオ君と同じでフェイトさんの力になりたくて六課が出来るときに転属を志願してここにきたんです」
エリオに続いてキャロもフェイトの為と楽しそうに語りその話題で盛り上がりそうになるが水を差す一言が投げ込まれる。
「楽しく話してんのは良いが、お前ら時間に遅れんなよ」
不意に後ろから掛かったヴィータの注意に時間を確認する。と余裕の無いものに表情を一変させると急いで食事に向き合い、済ませるとそそくさと席を立つ。
「それじゃお先失礼します」
「悪いな話の邪魔しちまって、ただあいつらが時間忘れてたから。なのはの説教をわざわざ喰らわせる必要も無えしな」
ヴィータも二人に一言断ると後を追うように歩いていく。残された二人は急ぐ事もないのでゆっくりと会話を交わしていた。
その日もフォワードの皆がなのはとヴィータにしごかれているそんな中、はやてが真矢とカノンを伴い演習場に足を踏み入れ、訓練風景を見ているとそれを見つけて全員が集まってきた。
「はやて今日はどうしたんだ、遠見と羽佐間を引き連れて」
「実はな……今日は皆に発表があるんや」
勿体ぶるはやてに何かと期待と不安の入り雑じった顔を見せるのはフォワードの四人、対して隊長陣の二人はそんなことは無く特にヴィータは呆れた顔でみている。
「なんと、羽佐間さんと遠見さんが正式に民間協力者として六課に協力してくれる事になりました。はい拍手ー……って訳やないんやけどな」
はやてのボケに素直に拍手し始めていたエリオとキャロを筆頭とするフォワード達は凍りついた様に動きを止めなのはは苦笑い、ヴィータに至っては呆れ返っている。ちなみにダシに使われた二人もリアクションに困ってなんと言うべきか迷っている。
「はやて、そんで結局二人を連れてなんの用なんだ」
はやての戯れ言を無かったように話を進めようとするヴィータに幾らかガッカリしながら本題に入る。
「そや、二人共デバイスは持っとったやろ。やからどのくらい戦えるのか見せて欲しい、と拝み倒して連れて来たんや」
「すまねえ、災難だな。けどよ、本当にいいのか」
この為にわざわざ保管庫に仕舞っておいた二人のデバイスを持ち出し、相当しつこく誘われのだろう明らかに疲れた様子の二人に取り敢えず謝り、確認を取ろうとするヴィータ。
「勿論、だから来てくれたんやろ」
何故か答えてくるはやてのテンションがやけに高いのを見て諦める。二人がデバイスを復元すると真矢がエリオのストラーダより若干短い長さを持つ狙撃銃、カノンはシグナムのレヴァンティンを越える長大な剣を携える。
「さてどうするかだが、これだったらガジェットが向かって来る設定でやるのがいいんじゃねえか」
「そやね、ただ走り回れっていうんはどんなもんかみるには適当やないな。しかし改めて見るとでかいな」
データ上では見た事があるが、実際に見て改めて感嘆をもらすはやての同意を得てから、ヴィータが二人に状況設定を説明する。
はやても流石に部隊を束ねる長と言うべきか、先程までの浮わついた雰囲気は綺麗に消し去っている。
「そんじゃ今回は場所は今のままで廃都市、敵はガジェットT型で向かって来るのを全部倒すだけだ。質問は」
「バリアジャケットで攻撃を防ぐことはできるのか?」
「今回の場合はまあ、そうだな。攻撃をくらうと幾らか衝撃は通るレベルだろう。怪我する事は無いからそこは安心していいが殴られたように痛くはあるぞ」
防御系の魔法を併用すれば衝撃も通さないようにできるが、魔法を使えない二人には今の所関係ない。
「それじゃ始めるぞ、あたしらは手出さねえからな」
はやて達が少し離れた観戦場所へと移動し始めたのを見ると、はやて達に届かない程度の音量で真矢がヴィータに相談を持ちかける。
「ヴィータさん、これって負けてもいいのかな? あんまりやりたくないんだけど」
ヴィータが先程思った通り無理に誘った事が明らかになりやはりか、とため息を吐きながら忠告する。
「幸か不幸かはやてに気に入られたって事だ。わりぃんだがああなったはやてはあたしにも止めらんねえからな。下手に手ぇ抜いてもばれるとまたって言い出しかねねえし、怪我しないと言っても痛いもんは痛えからな。よっぽどの理由がねぇなら取り敢えず今回は普通にやった方がいいと思うぞ」
少し離れたビルの屋上に移動し、真矢とカノンは道路に立ったまま相談をしている。終わったのを見計らったはやてがモニター越しに確認を取り開始を宣言する。それと同時になのはがシミュレータを操作しガジェットを出現させる。
「ガジェットは多少数を多くした分、出現位置はかなり離してあるがどうする」
ヴィータ呟く後ろでは、なのはがスバル達に問いかける。
「みんなだったらこの状況に対してどこに注意して対処するべきだと思う?」
「ガジェットの数が多いので囲まれないようにします」
「その為に、出来るだけ早いうちから攻撃をして数を減らしながら徐々に後退していくべきだと思います」
ティアナとエリオの回答は模範的といえるほど基本に忠実な物であり、現時点ではなのはとしても満足のいくものだった。
「うん、だけど今回みたいに向かって来るっていう設定の時以外は突っ込み過ぎたら駄目だよ。前衛と後衛の距離を考えないと駄目だし今回はいないけど伏兵がいるかもしれないからね」
「とはいえ遠見さん達はバインドとか使えんし二人やからな。攻撃してくる設定やから皆よりも早いうちに攻撃せんと滅多打ちにあう危険が高いんやけどな」
そんな観客達の思惑を別にして真矢とカノンの機動六課での初戦(模擬戦であるが)が始まっていった。
「……ヴィータ、感想は」
一方的と言える戦闘が粗方片付いた所で隣で見ていたヴィータに話を向ける。
「実力を見るってレベルじゃねえ、加わってくれるなら即戦力として申し分ないな。まあ羽佐間には近接用のバリア系や強化系が無いと大変だろうけどな。遠見の方はあの距離で正確に射てるんだから飛行魔法を使いこなせれば障害を無視して全体に射てていいんじゃねえか。それに二人とも元々魔法と縁の無い世界だから、使うのはここでだけだろ。だったら基本の戦い方はもうあるんだから、それに合うのを幾つか選べばいいだろ」
「そやな、魔法はデバイスに登録しといて、使う選択だけするって事すればええやろ。フォワードの皆には使えん手やけどな。にしてもT型じゃ相手にならんかったな。期待というか想像以上や、ますます欲しくなったわけやけど。V型でも出してみるか」
前半は半ば以上呆れて、後半は入った場合を想定した真面目な返事が返ってくる。自分でも満足気な感想を漏らすはやて。だが、その表情にどこか言葉とは合わない翳りを見つけたヴィータが疑問をぶつける。
「まあ、発展性は無いから幅広く成長させる事が出来ねえからな。そんではやて、何か問題でもあったか?」
「いや不満はないねんけどよく分からんと思ってな。二人してあんなに慣れてるみたいやったのに動きがどうもな、あの剣にしても銃にしても少しデカ過ぎる気がするんよ。それになあ……」
初期の時間差設定のガジェットは接近する前に真矢の射撃によって破壊されたため、急遽設定を変更して同時に突撃させることで幾つか近づく事は出来たものの、カノンが多少の被弾を恐れなかったことで容易く斬り伏せられるという結果に終わった。放たれた弾はガジェットの中心にある黄色い球体を撃ち抜いており、当たってもそれほどの衝撃を受けた様に見えなかったため、バリアジャケットは防御力に重点を置いているようだった。だが大剣を振るう際に思った通りにガジェットを斬れてないのではないかと思う場面があり、それを自覚してか斬るよりも突く方を重視しているように二人には見えた。また、真矢も余りに大きな狙撃銃の照準を幾らか合わせ難そうにもしており、今回は動かなかったがあの大きさでは満足に移動することができないのではないか。そして……。
「二人のコンビネーションがよすぎる。どんだけ戦えばあの領域に達するか、だろ」
「よおわかっとるやないか、ちょっとやそっとじゃあの域には達しひん。けどそうするとまた最初の疑問に戻るんやけどな」
それほどに戦い慣れているように思えるにも関らず、実際の行動となると今一つうまく出来ていないように見えてしまう。そんな話をしている間に残っていたT型が全て倒される。
「よっしゃヴィータ、V型を一体出しいや」
「そうだな、あれならいい勝負が出来るんじゃねえか」
そんな話の後T型と比べて巨大なV型を一体、T型を掃討し終えた二人の前に出現させる。人の身長よりも小さく円筒形をしたT型とは違いV型は人よりも遥かに大きく球体をしている。
「こいつはT型とは同じ様にはいかねえ筈だが」
ヴィータが言う通りT型を貫いてきた真矢の銃撃はV型のAMFに弾かれ霧散する。弾かれるのを見ると真矢はすぐに再攻撃を仕掛けるがその全てが防がれる。
「とりあえず遠見さんの攻撃は通らんな、羽佐間さんはどうするやろか」
思わず声が楽しそうに弾んでしまったためヴィータを除く後ろの面子からは、『不謹慎っ』といった目で見られるが、どうするのかを楽しみにしているはやての頬は緩んだままである。
代わってカノンが攻撃するがV型の装甲が硬く、形状が球体のため表面で滑りやすいこともあり、T型とは異なり表層を斬った程度では破壊できるほどの効果は見込めない。
「うーん、やっぱりあのAMFと硬い装甲を抜くのはちょっと無理やったかな」
「はやてちゃんもそう思ってたならやらなければいいじゃない。そもそもいきなりV型の相手をしろっていうのは酷いと思うよ。まだスバル達だって戦わせたこと無いんだよ」
なのはがはやてを
窘めるがヴィータは違う意見を持っていた。
「いや、あいつらまだ何かやるつもりだぜ」
カノンが突撃するのに合わせてV型も腕の様な二本の幅広のベルトと多数の細いアームケーブルを振り回し攻撃を仕掛ける。カノンに狙いをつけるが、AMFの範囲から出た部分はカノンに届く前に真矢からの弾が動きを阻害する。
カノンは右腕を大きく後ろに引き剣を頭の横に構え、反対に左腕を前に突き出した状態でV型に突進すると大きく剣を突き出す。剣がV型に突き刺さったと思うと、少しの間を置いていきなりV型が爆発・四散する。
「……えっとヴィータ、今羽佐間さん何したん?」
「ちょっと待て、今出す」
あまりの事に皆が呆気にとられる中、先程のカノンの映像がモニターに映し出され全員の視線が集まる。
接近したカノンがV型に大剣を突き刺し剣身を潜り込ませると、剣身が中心から縦にV型を斬り広げながらわかれる。カートリッジが排出されると柄部分から光の塊が二つに割れた剣身の間を通りV型に吸い込まれ、カノンが剣を引き抜き離れようとするのとほぼ同時にV型が爆発する。
「あの剣、おもろいもん内蔵してたんや。V型のAMF空間内でも全く減衰した様子が無いほどの魔力の塊、カートリッジの魔力は全部そこに注ぎ込まれてると見て間違いないやろうな」
「はやてちゃん、そういう問題じゃないでしょ」
「別に問題はあらへんやろ、デバイスが見たことが無い型でも二人が予想以上に強かった事も問題になるほどのことやない。そやろ」
本人達に問題が発生している訳ではない、と言われるとなのはも反論する材料を見つけだせない。
「なんでそんなに慣れてるかとか深いとこは流石に聞き難れえけど、デバイスのギミック程度ならまあ聞きやすいな」
「そういうわけや、いきなり全部教えてくれなんて言えんもんやろ」
「ただそれも全部六課に入ってくれてからの話だろ。無理に外堀埋めようってのは感心出来ねえぞ」
後ろにいるフォワードの皆が興奮に顔を輝かせている様子をチラッと見てはやてに釘をさすヴィータ。
「あ、やっぱ分かる。このぐらいなら許してくれる思ったんやけどな」
そんな話をしているうちにデバイスを仕舞って二人が戻ってくる。
「見事やったで。見事過ぎてますます欲しくなったってのが本音や。でも無理にと言うつもりはないのも一応は本音やよ」
戻ってきた二人にはやてが今後の方針を伝え、ヴィータが再びデバイスを預かるとなのはがみんなに号令をかける。
「それじゃ一度解散してお昼を食べてね。そしたらフォワードのみんなはデバイスルームに集合」
「あたしはシグナムや交代部隊の奴らと出かけてくるけど、居ないからってサボんなよ」
「ヴィータ副隊長、なのはさんがそんなことさせてくれるわけ無いじゃないですか」
口を滑らすスバルの背後でティアナは額を押さえ、なのはは……満面の笑みを浮かべていた。
「じゃあスバルは休憩なしでいいよね。私が付きっ切りで指導してあげるよ」
「や、やだなあなのはさん、そういうつもりじゃ」
額に汗を浮かべながら言い訳するスバル。口は災いの元だと誰もが思い口には出さない、二次被害を避ける意味でも賢明である。
「二人のバリアジャケットって同じものみたいでしたけどどうしてなんです?」
その後はやては聖王教会へフェイトの車に同乗して出かけ、なのはもいないので今はフォワードの四人と真矢とカノンだけでテーブルを囲んでいる。そんな中、口火を切るのは何時だってスバルだ。
「私達が元々いた世界で所属していた組織の制服だからな。皆でいえば時空管理局の制服で、設定したのは私達ではないがそういう意味では同じものでも不思議ではないだろう」
「じゃあデバイスも前から使っていたものなんですか」
「うん全く同じじゃないけど殆ど同じものを使ってたよ」
「ということはカノンさんの剣にあった仕掛けもあったんですか?」
興味を持ったエリオも会話に加わる。
「そうだ、ルガーランスというが元の世界でも内蔵している。違いは内蔵火器を使うのにカートリッジというのを消費する事か。意識としてはカートリッジを使ったというよりは、使おうとしたらカートリッジを消費したという方が正しいな」
そんな話をしているうちに昼食も終わりフォワードの四人は呼ばれているデバイスルームへ移動してしばらく後に鳴り響くアラート。隊舎が一気に慌ただしい空気に包まれる中、二人の眼前にモニターが浮かび上がりはやての顔が映し出される。
『レリックらしき反応が見つかったんや。場所はエイリム山岳丘陵地区、対象は山岳リニアレールで移動中』
デバイスルームにいる皆とも同時に繋がっているようでそちらに向けて頷く。
『そのまさかや、内部に侵入したガジェットの所為で車両の制御が奪われてる。数は最低でも30、U型やV型も出てるかもしれん。……皆準備はええか。グリフィス君は隊舎での指揮、リインは現場管制、なのはちゃんフェイトちゃんは現場での指揮。遠見さんと羽佐間さんは悪いけど自室で待機しといてくれるか、まだ正式な協力者になったわけやない人を現場に出したり司令部に入れたりするわけにはいかんからな』
「わかった、私達は食堂にいるから直ぐに移動する」
カノンの答えと他の所から上がってくる報告に併せて頷く。他に幾つも出ているであろうモニターを全て見据える。
『機動六課フォワード部隊、出動!!』
フォワード部隊がヴァイスの操縦するヘリで出動した後、司令部ではグリフィスを筆頭にシャーリー、アルト、ルキノの三人のオペレーターが戦況を分析している。
現場ではなのはとフェイトがフォワードメンバーに先駆けてガジェット相手の戦闘を開始する。
空戦型のU型を相手に二人の隊長が縦横に飛び回って撃ち落し、それによって確保した制空権内を四人を乗せたヘリが進む。列車上空から飛び降りた四人のうちスバルとティアナは前から、エリオとキャロは後方から貨物室のレリックを目指して進む。
内部には既に多くのガジェットT型が入り込んでいたが、これまでの訓練の成果か特に苦戦することも無く順調に進んでいく。
『スターズF四両目で合流、ライトニングF十両目で戦闘中』
リインから現場の状況が入る中、聖王教会へ出向いていたはやてが急いで戻って来た。
「ここまでは比較的順調です」
部隊長席に座ると直ぐに副隊長のグリフィスが報告を行い、引継ぎに重ねてシャーリーからも現場の状況が更新されていく。
「ライトニングF、八両目突入。……エンカウント、V型です」
僅かにスターズの二人より遅れていたエリオ達の前に大きな球体をしたV型が新たに立ち塞がる。
T型よりも遥かに強力なAMFの前にエリオの攻撃もキャロの魔法も無効化される。V型のアームに捕まったエリオが列車の外へ放り投げられる。キャロがエリオを追って飛び降りる姿を見て司令部内が騒然となるがはやてだけは落ち着いている。
「いや、あれでええんや」
その言葉に後ろに座るはやてを思わず振り向いた皆が画面に目を戻すと、キャロから魔方陣が浮かび上がる。光を放つ魔方陣の中から、キャロが何時も連れている白い竜が本来の姿を取り戻す。巨大な姿となったフリードが二人を救い上げ、キャロの魔法によって強化されたエリオの攻撃でV型を破壊する。それにより後は残りのガジェットを破壊してレリックを確保するだけだと誰もが思ったその時、異変は起こった。
「何これ? 勝手に」
シャーリーが驚きの声を上げるのと同時に司令部のメインモニターに黄金色の文字が幾重にも走りだす。
画面一杯が金色の文字で埋め尽くされるとそれらが一斉に消え、代わりに大きな黄金の鍵が浮かび上がる。
その巨大な鍵の中心部には赤で大きく『SOLOMON』と描かれていた。
始まり……それは戦い、そして驚愕。
存在しない筈だった……敵。
決意、それは守るべき……。
第六話 襲来 〜フェストゥム〜
あなたは、そこにいますか