ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

蒼穹のファフナーStrikerS 第七話
作者:朧   2013/09/29(日) 01:05公開   ID:jBL8cEY./Lw
 リニアレールへレリックを確保しに向かったメンバーの内、空ではなのはとフェイトがU型を押さえリニアレール内部を初陣のフォワード部隊が順調に制圧していく中、リインは戦場の喧騒から離れ列車制御に入っていた為全体を俯瞰する余裕があった。だから出動した中では異変に気付くのが最も早かった。

「何ですかね、あれは。どう見てもおかしいです」

 急速に現れた雲の塊について空を飛んでいる者達に警告を発しようとするが、その前に六課本部から全員に発せられた緊急通信に掻き消される。

『皆さん、急いでその場から離れてください。レリックの確保が未だなのも分かっていますが最優先です、なのは隊長とフェイト隊長もすぐに離脱してください』

 急な命令変更に戸惑うフォワードが現場指揮を任されたリインに説明を求めようとする。

「リイン曹長、何ですか今のは?」

「判りません。ですが緊急なんていうのは滅多に無いです。急いで移動します」

 ティアナに答え列車制御システムへのアクセスを打ち切ると先頭をきって空を飛ぶ。エリオはキャロとフリードに二人乗りし、ティアナはスバルとウイングロードの上を走る。なのはとフェイトも直に合流するが追加情報も無くそれ以上の事はわからない。
 ただフリードは騎乗しているキャロが慌てるほどの勢いで飛び、なんとか抑えようと試みているがその全てを振り払って全力で飛び続ける。

「皆さん、あれを」

 キャロが手綱をとるフリードに乗っていて唯一自力で移動していないエリオが指し示したを見ると先程まで在ったはずの雲が無くなり、代わりに黄金の巨人が屹立していた。

『あなたは、そこにいますか』

 次の瞬間、全員の頭の中に響いたのは心を撫でるようなひどく透明な声だった。心の波が鎮まり、今の状況も何をしているのかも全てを忘れ、ただ心穏やかになるのを感じていた。
 そんな平穏を打ち破ったのは機械が爆散する音、それは巨人に攻撃を仕掛けたガジェットの悉くが逆に破壊される音だった。そしてアルトからの通信で我に返ると、何時の間にか止まっていた動きを再開させる。
 ガジェットを全滅させ追いかけるように動いてきた巨人、そこから放たれる黒い球体に追いつかれそうになったなのは達を救ったのは更に現れた新たな存在だった。
 不意に現れた紅紫色の人型機械が黄金の巨人を消滅させた後、出動メンバー全員で現地の職員への引き継ぎと処理を行っていた。

『ねえティア、さっきのなんなのかな。金色のはガジェットとも戦ってたし、最後のやつはあたし達を助けてくれたみたいけど』

『スバル……、あんたね、それぐらい見たから分かってるわよ。それに後のは遠見さんだって八神部隊長が言ってたじゃない。でも問題はあれらが何なのか分からないって事でしょうが』

 作業中なので直接ではなく念話で話をする。雰囲気を察してかそこにエリオも加わる。

『フェイトさんは何か知ってるんですか?』

『ううん、私やなのはも初めて見るよ。それにはやても同じで知らなかったと思う。知ってたらちゃんと教えてくれてた筈だから』

『ですよね』

 本来無駄話は注意する立場のフェイトだが、自身が答えを持ち合わせていない事もあってか念話でネットワークを形成して先程の敵について話すことを咎めたりはしなかった。
 ただ本部に質問するのは止められていることもあり情報が自分達が見た極僅かしか無いため、根拠の無い推論に終始しその話も直ぐに終わる程度のものでしかなかった。



「という訳であの敵に対抗するためにも、二人には正式に六課の民間協力者になって貰う事になりました」

 六課に帰還した出撃メンバーを待っていたのは、『どういうわけだ』というツッコミをしたくなるようなはやての宣言だった。そんな視線を浴びるも平然と無視し、はやては集まった人員を見渡した。集まっていたのはシャーリーを筆頭とするロングアーチスタッフ、スターズ・ライトニング分隊員、シャマルやザフィーラといったはやてが呼んだ者達だ。

「つまりそういうわけで六課はカノンと真矢と一緒にあの敵と戦うことを目的に加えることになる。それであの敵と戦うための情報やら方法やらを説明して貰うからよく聞くように」

「あの敵はフェストゥムと呼ばれるもので、私達の世界で宇宙からやって来た生命体で、他の生物の同化もしくは消滅を目的としている。情報だが取り敢えずフェストゥムの攻撃についてから説明する」

 相変わらずツッコミをしたくなる発言をしつつ、反応しようとするのを視線で抑えるはやてに手招きされカノンと真矢が話を始める。

「フェストゥムの攻撃方法は基本的に二種類でワーム・スフィア現象と同化だ。ワーム・スフィアは歪曲回転体と呼ばれる超物理的な運動を起こす物だ。これは任意の空間に限定して発生するブラックホールに等しいもので、空間を球体にねじ切り呑み込まれたものは消失する。攻撃を防ぐのはまず不可能だと思ったほうがいい」

 先程の戦闘映像の中でT型とV型がフェストゥムの黒い球体に包まれ破壊された場面を映し出す。ガジェットだけでなく地面や崖をもきれいに抉り取る球体とその跡の滑らかさに息を呑む。内容だけでなく実際に結果として現れた事象に対し認識が追いつかない者もいる。

「それって防ぐのは難しいにしても避けることは出来るんか? 何の前兆もなく急に発生してるみたいやけど」

 余裕があると皆に示すためか常に笑みを浮かべているはやてにしても今は真剣そのものだ。

「確かに何時攻撃が来るのかは分からないが、フェストゥムも適当に攻撃してくるわけではない。攻撃する瞬間に相手がいる場所を狙うようで発生までにはタイムラグが有り、動き回っていればそれなりの確率で避けることが可能だ。威力も当たるまで分からないが、それこそ本当に強いものから弱いものまで様々だ」

「同化っていうのは文字通りフェストゥムと一つになるってこと。説明するのは難しいんだけど存在そのものをフェストゥムに吸収されてしまうの」

「同化される際の方法は二種類あって接触する場合と読心による場合がある。前者は文字道り触れたところから吸収されてしまう。さっきもフェストゥムにぶつかったガジェットで取り込まれたのがいただろう。これは触れなければ問題は無いが読心による場合はそうはいかない。私達の心を読んで同化を仕掛けてくる。心を読んで私達とフェストゥムを精神的に同じものとする、同じだから一つになれる。そうして同化してくる」

 言葉だけでは全くわからないと顔中に書いてある面々を予想通りといった感じで見るカノンと真矢。

「分かり難いと思うんだけど、どういう理屈でやられるのか正確にわかっているわけじゃない。取り敢えずそういうものだと知って貰うしかないの」

 そして映像をフェストゥムが実体化した箇所で停止させる。

「この時映像では分からないけど現場にいた皆には聞こえたんじゃない、『あなたは、そこにいますか』って」

 真矢が確認を求めるのに併せて現場に居なかった者の眼が出動した者に一斉に注がれる中、出撃した者を代表してなのはが立ち上がる。

「念話とは感じが違ったけど確かに頭の中に響いてきたよ」

「心を撫でるような優しい、とても透明な声だった。何故か心が穏やかになっていった不思議な声だったね」

 その横でフェイトが補足し、スバル達も同じように感じたらしく頷いて同意を示している。

「今回出現したのはスフィンクス型というタイプでその問いかけをしてくることから質問者型ともいう。そして『いる』と答えた者は同化しようと、『いない』と答えた場合は攻撃を仕掛けてくる。返事をするなといったのは反応を返す事で敵に思考が読み取られ易くなるからで同化される危険が増す」

 更に映像は捕まったU型が山肌に叩きつけられ爆散したところに差し掛かる。

「このフェストゥムは人型をしているがあくまでも『型』であってその型に納まるものではない、だからこのように一部が伸びてきたりする。捕まった時は直ぐにフェストゥムを切り離すか巻き付かれた部分を切り落とす必要がある。その部分から侵食・同化され、同化された場合助ける事はまず不可能だ。例えるならフェストゥムという海に対して個人など水の一滴で混ざったそれを見つける様なものだからな。それとフェストゥムが常に展開している高次元の防壁、これがあるから生半可な攻撃では傷をつける事さえ出来ない」

 実際ガジェットはT型からV型まで攻撃を仕掛けていたがどれも弾かれフェストゥムに届いたものは一つもない。稀にU型が体当たりするように衝突するも同化されてしまう。
 そして最後に紅紫色の巨人・マークジーベンがフェストゥムを倒した映像が映し出される。

「ファフナー、宝物を守るために竜になった伝説の巨人の名を受けフェストゥムとの戦いのために開発された機体だ。これはノートゥング・モデルというタイプの七番機、マークジーベン。ファフナーで戦うのには理由がある。フェストゥムの読心能力、これは同化を仕掛けてくるだけでなく文字通り我々の思考を読むため攻撃が効かない一因となっているが、ファフナーに乗っていればこの読心能力を完全ではないがある程度防ぐことができる。この読心を防げない場合すぐに同化されてしまうが、ファフナーに乗らなくてもある程度地下にいれば防ぐことは可能だ」

「カノン、質問。わざわざファフナーで接近戦を仕掛けんでも遠距離から倒せばええんやないの? 私らには魔法もあるし」

 それでシェルターを地下深くにと言ったのか、と納得するはやて、だが危険が多いにも関わらず接近戦をする必要性には疑問を投げ掛ける。相手が強敵であればあるだけ近づかない方が安全であり、遠くから倒すべしというのがセオリーである。

「フェストゥムにはレーダーが無効化され有視界戦闘しかできず、読心能力でこちらの思考を読む。事前に作戦や行動を読まれるので苦戦を強いられ、攻撃も避けられ防がれるので思考防壁を持ったファフナーが開発された経緯がある。それ以前の兵器、通常のミサイル等は殆んどが役に立たず幾らか効果がある方法といえば核などを使い全てを吹き飛ばす事ぐらいだったとされているな。魔法で倒せるかは使った事が無いから判断出来ないがフェストゥムに無効化されるか防がれるか、いずれにしても効果は無いのではないかと思う。ただ生身でフェストゥムの前に立つなど失敗すれば勿論成功しても死ぬ可能性が高いから止めた方が良いと思う」

「ミサイルってのが私の知ってるのと同じ様なものやったら魔法は無理な可能性が高いな、基本的に威力が違う。更に法的に使えんとはいえ質量兵器も効果が薄いんか、難儀な相手やな」

 はやてが腕を組んで考え込むが聴き慣れない言葉に真矢が疑問を浮かべる。

「質量兵器って何の事?」

「質量兵器って言うのは簡単に言えば魔力を使わない物理兵器、の事なんだけど管理局法で保有が禁止されてるんだよ」

「えっと、でもファフナーも質量兵器に分類されると思うんだけど……」

 フェイトの説明を聞いた真矢が申し訳なさそうに続けるのにその場が凍りつく。

「ま、まあ後でなんとか例外として許可取るしかないな。無理そうやったら……とりあえず魔力を使って動いてるって事にしとけばなんとか……ならんかな?」

 はやての言い訳に誰もが苦しすぎると思ったが代案を思いつく訳でもないのでその話題を横へ避けて次へ移る。

「これがフェストゥムに関する大雑把な説明になる。それではやてに聞くがこれを聞いても尚さっきの質問についの答えは変わらないか? 決して強制するつもりは無い。ただ改めて聞いておきたいだけだ」

 その場の全員の目がはやてに向けられる。『質問』の内容を知らない者もこれが重要な分岐となることを察し、余計な口を挟もうとはしない。

「私の答えは変わらん。確かに大変な相手やけど変える事は無いし変える心算も無い、理由はさっきも言った通り。これが答えや」

「はやての決断には感謝する。だがフェストゥムとの戦いは危険だから皆に強制したくない。戦わなくても私達が守ってみせる。それはよく考えて決めて欲しい」

 それで終わりとばかりにはやてに場所を譲るとカノンと真矢は部屋を出ようとし、それを止めようとする者をはやてが止める。二人が退室した後、最初に動いたのはなのはだった。

「はやてちゃん、さっきカノンが言ってた『質問』て何のことなの?」

 その横ではフェイトも同じように問うように見つめ、知っているシグナムやヴィータも含めた全員の視線がはやてに注がれる。

「一言で言えば二人を追い出すかどうかや」

「どういうこと? はやてそれにどう答えたの、まさかそんなことするつもりじゃ」

 一気にざわめく周囲と一瞬の忘我から抜け出したフェイトが若干きつい口調で質問を重ねる。

「落ち着けテスタロッサ、それにお前達もだ。主はやてがそんな事をする筈が無いだろう」

 シグナムが肩に手を置いて押し留め、同時に周りにも声をかける。はっとして若干ばつが悪そうな様子を見せるフェイト。

「あの敵フェストゥムは二人を狙ってきてなんでかは本人達にも分からんそうや。だから六課の危険回避として六課から離れた方がいいんじゃないか、と聞かれたわけや。勿論私は拒否したけどな。もっとも皆がどうするかは自分で決める事や、管理局員としての本来の仕事とはちゃうから必ず参加しろとは言わへん。しなくても何かあるわけや無い、自分の意志で決めて欲しいという事や」

「私は……」

「ストップ」

 はやてが喋り終わるのとほぼ同時に口を開き自分の答えを出そうとするフェイトにすかさず制止をかける。

「今その答えは要らんのや。私はもう答えを言ったようなものやけど、なのはちゃんやフェイトちゃんにフォワードの皆の意見を左右されるわけにはいかん。だからカノン達にも話が終わったら直ぐに退場してもらったんやから。皆も相談するのはええけど他の人の考えに乗っかったらあかんからな」

 後半は専らフォワードに向けての注意であり、それぞれ隊長に近寄りかけていたエリオ達が動きを止める。

「あとこれで決定ってわけやない、後で変えるのも自由や。先のとこはともかく今の段階で必ず戦えとは言わん。私や六課としては協力するのに皆には自己判断でいうんは矛盾してると思う。それでも自分で決めてもらわなかん。結論は急やけど明日、隊舎前に集まった時に出してもらうから。参加する場合はそのまま、しないにしても万一の時の為に一応話は聞いておいて貰うからそのつもりで。それじゃ私も消えるけど、くれぐれも流されんで決めてな」

 そして真剣に悩む一同を置いてさっさと退出して行ったのだった。六課の意向とは即ちはやての意向でありその場に留まることではやての意思に流されないように、との意図であり実際居たとしたら未だはやてに慣れていない新人達が萎縮したことは間違いない。
 もっとも多少多くの情報を持っている身で質問攻めにされるのを避けようとしたという面も否定は出来ないのだが。



 翌日、隊舎前に集まった面々にはやてが意思確認をすると前線部隊員は皆参加するとの決意をあらわにした。ロングアーチは前線には出ないがはやてが見学させ、その他物見高い見物人(野次馬)が数名いたがシグナムやヴィータが解散させていた。

「皆が一緒に戦おうとしてくれるのは嬉しいけど、幾つか注意があってそれを守れる人だけにお願いするよ」

「まずはやてに確認を取った事だが、フェストゥムとの戦闘に関しては私か真矢の指示に従うこと。どんなに納得できなくても従う事、出来ないと思うなら乗らないでもらう。それとファフナーで戦うのはフェストゥムと戦う時だけ。ファフナーはフェストゥムと戦うための兵器だからファフナー同士で戦うことも許されない」

「それにフェストゥムに対してのみ使用するって事で特別に質量兵器としてのファフナー使用許可を取ろうとなんとかしとる所や。だから取れたとしてもそれ以外の一般の事、例えガジェット相手でも使うなんて事したら六課も問答無用で取り潰しになってまうし、私の責任問題だけやのうて皆もただでは済まんくなる。そこんとこしっかり覚えといてや」

「もう一度だけ言っておくけど本当に死ぬかもしれないって事は忘れないで。降りたくなったらいつでも言ってくれて構わないから」

 それでも誰も離れる者はいなかったのでカノンが前に出て話をし始める。

「皆にはまずグノーシス・モデルという誰でも搭乗できるファフナーで慣れてもらって場合によっては別のものに換わっていく。コクピットは首の所にあるという事を一応覚えておくこと。手袋の類いはファフナーに乗る時は外す事、手の神経から情報を読み取るのに邪魔になるからだ」

 はやてが指を鳴らすと何も無かった所から濃緑色の機体が姿を現す。幻影系の魔法で周囲から隠していたもので、隊舎の周囲に同様の措置を施されたファフナーが並んでいる。表立って見えると何かと面倒が生じる可能性が高いからで、昨日なのは達が戻ってくる前に施されたため前線メンバーにとっては初めて見る物に思わず声が上がる。

「誰でも乗れるって事は他のには乗れねえ場合があるのか。それに遠見のはノートゥング・モデルっつってたけどそれはどうしたんだ」

「ファフナーを動かす時には指先の神経を通じて繋がるんだけどこの時に「ある種の脳の状態」を形成する必要があるの。この状態をシナジェティック・コードといってこれが形成されないとファフナーを動かす事はできないの。グノーシス・モデルはある程度の訓練によって誰でも疑似的なシナジェティック・コードを形成する事が可能な機体だよ」

「そうだな……、六課にいる皆は多かれ少なかれ魔力を持っているのだろう?」

 皆が頭上に疑問符を浮かべているのを見てとったカノンがしばらく考えた後に逆に聞く。

「そやね、でもある程度以上持っとるのはここにいるので殆どやし、シャーリー達みたいに持ってない人もおるよ。けどそれがどうかしたんか?」

 質問の意図が読み取れないが取り敢えず答えるはやて。実際には戦闘に出る者を除くと持っていない、もしくは持っていてもそれ程のレベルではない者の方が多数を占める。

「皆に解り易く言うならシナジェティック・コードの形成数値は魔力の量で、ファフナーはある程度以上の魔力を必要として動くと考えればいい。グノーシス・モデルは魔力を持たなくても使うことができる。これはグノーシス・モデルに魔力を生み出す機構が内蔵されていると考えればいいだろう。グノーシス・モデル以外のファフナーはそういった装置で生み出す量では足りないためある程度以上の魔力を持ってないと乗れない、といった所だが解ってもらえたか」

 カノンの例え話に理解の色が浮かぶのを確認すると真矢が幾らかの補足をする。

「コードの形成を魔力の量に例えたけどこれには他の事、例えば魔法の使い方が上手いとかは関係無くって純粋に量だけがポイントだし訓練で大きく変化することもないよ。生まれついての素質が全てといえるの」

「それで私達もノートゥング・モデル目指してファフナーに慣れていけばええんやな」

「いや、ノートゥング・モデルではなく別のモデルだな」

「ん、何故だ。それが最も強力だからお前達も乗っているのではないのか?」

 強力な物があるのならばそれを目指すべきではないかとシグナム、頷くなのはやフェイト。

「ノートゥング・モデルは色々と特殊で必要なシナジェティック・コードの数値も桁外れだ。それになにより乗る機体が無い」

 最後の理由になるほどと思わず手を打つ。どれ程乗れる条件が揃っていても乗る先が無ければ意味が無い。

「ちなみにどれくらいの数値が必要なの?」

 乗らないと分かっても興味津々なフェイト。

「魔力量に換算するのは基準が分からないから無理だが、私達の世界でノートゥング・モデルに乗れるだけのシナジェティック・コードを形成できるのは10万人に1人ぐらいの割合だとされているな」

 示される基準の高さとそれに適合出来る二人に驚きの目をむける。

「でも私達の中に乗れるのがおるかもしれんやろ。やったら新しく造るってのはどうや」

 はやての案にそれもそうだ、と乗れるのではないかという機運が再び高まる。

「無理だ。ここで造ったとしても見た目が同じなだけのノートゥング・モデルの紛い物にしかならない」

「何でだ、さっき言ってた特殊性ってヤツか。何だソレ」

「特殊な部分が出来ないってのは正しいんだけど御免ね、そこはちょっと秘密なの」

 真っ向から秘密と言われても聞けば教えてくれる場合と無理な場合とがある。そして今回は後者でと感じたのでノートゥング・モデルの話から離れようとする。が、楽天家気質なスバルだけは違った。

「条件が厳しいのは分かりましたけど私達も乗ってみたら案外上手くいくかもしれませんよ。もしかしたらカノンさん立ちより上手いかも」

「皆にはまず無理だと思うけど、元々ノートゥング・モデルはそれぞれに合わせた調整がしてある専用機だから他の人では上手く使えないんだ。それにスバルがリボルバーナックルを大事にするのと同じように私達もノートゥング・モデルを、自分の機体を大切に思ってるの」

「それってどういう事……」

「馬鹿っ、あんたのそれがどういう物か考えれば解るでしょ」

 聞き返そうとするのをティアナに止められ、小声で叱られると流石のスバルもその意味を悟る。他の皆もリボルバーナックルの由来を聞いていた為それ以上口を挟もうとはしなかった。

「ノートゥング・モデルのことはまあええとして、グノーシス・モデルの話を続けようやないか」

 不可能だという断定に皆疑問を抱いている事は明らかだが、取り敢えず抗弁のしようが無い為はやてが話を進めようとする。

「その前に武器についてだけど装備しているのは二つ。右腕の機関砲と左腕のレーザー砲、レーザー砲は連射が利かないから注意してね」

「それからファフナーはデバイスではないし魔法で造られている訳でもない、壊れた時に自動で直ったりはしない。だからといって大事にしすぎてやられては意味がないが」

「ファフナーも基本的にはシャーリーが整備主任することになるけどそれでええな?」

 両手を胸の前で組んだシャーリーが期待に眼を輝かせている。だが答えはシャーリーにとって少々残念なものだった。

「グノーシス・モデルは任せるがノートゥング・モデルの方は戦闘で壊れた際はともかく日常の整備は私達がやる。下手に触って大変なことになると困るからな」

「えー、下手になんて触りませんよ。でもだったらなんでグノーシス・モデルは構わないんですか?」

「グノーシス・モデルと違ってノートゥング・モデルの中心部は私達には知識が無いから手出しが出来ない、最悪再起不能になりかねない。私達もパイロットであってメカニックではないから問題が起きても対処できない。それにノートゥング・モデルは機密の塊だからおいそれと見せるわけにはいかん」

「そうですか……」

「シャーリー、残念だけど仕方ないよ」

 沈むシャーリーと慰めるフェイト。メカオタクとして見てみたかったという心残りがあるが機密の壁に阻まれるのではどうすることも出来ない。

「そういうことならしゃあないわな。シャーリーが弄くっていいのと悪いのを線引きするとして、それで仕舞っとくとこの配置をするって事でええな? 皆も触ったらあかんで」

 はやてが宣言しシャーリーが泣く泣く、残りの皆が神妙な様子で頷くのを見回すと続きを促がす。

「皆が出撃する時は単独で戦ったら駄目だよ。皆は九人だけどフェストゥムが出現した時に居ない人もいるかもしれないからその時に居る最大人数でチームとして動けるようになる事が今の目標だから」

「でもそれだとカノンと遠見さんは二人組になるけど大丈夫なの」

「ノートゥング・モデルの基本戦術は二人一組ツインドッグだし、私達の事は心配しなくていいから」

 フェイトの心配にも淀み無い返事を返す。更にカノンからも厳しい言葉が降る。

「私達の事よりも自分達が生き残る事をまず考えてくれ。はっきり言って私達のことを心配する余裕は無い可能性が高い」

「あとグノーシス・モデルには無線が付いているから連絡手段はそれで、皆には念話って手段があるけど多分無線の方が傍受され難いと思う。ノートゥング・モデルには付いてないから指揮所としか通信できないけどデバイスに待機状態のままで皆のところに通信を開けるようにして欲しいんだけどお願いできるかな? それで緊急時は話すことになるの」

「勿論です、任せて下さい。カノンさんのも同じようにすればいいんですよね。でも無線の類くらいここにも有りますからデバイスではなくてファフナーに直接付ける事も出来ますけど?」

「確かにそうする方が便利かもしれないがノートゥング・モデルに何か加えたりする心算はない。はやて、シャーリー達にもする機能的な話はこれで終わりだから真矢と一緒に抜けさせてもいいか?」

 元気を取り戻したシャーリーが勢い込む。が提案に関しては却下される。

「ええけどどうするんや」

「ソロモンの使い方を教えて使える人を増やしておかないと。私も戦うのに何時もオペレーターやるわけにはいかないし」

「ソロモンってあのシステムの事ですよね。聞き忘れてましたけどあれって結局何なんですか?」

「私達の世界でも唯一のフェストゥム早期警戒システム、仕組みとかは分からないけど正確さについては疑う余地はないよ」

「だとすると常に誰かに居てもらわなかんな、何人か専門でシフト作った方がええよな」

 ガジェットの場合出現した所に部隊を送り込む方式で他の管理局組織からも情報が入るが、それとは異なりフェストゥムは六課に向けて侵攻し、また六課近辺に急に出現する事により時間的余裕が無い可能性もあるので警戒を怠るわけにはいけないからだ。

「その辺りははやてにお願いしていいかな、私も入れてくれていいから」

「とするとシャーリー、アルト、ルキノ、それにグリフィス君も入れてあとは真矢と私ぐらいかな。それでローテーション組むとしてシャーリー達は大変になると思うけどええかな?」

 部隊長としてあちこち飛び回る必要のあるはやてと有事には出撃する可能性のある真矢を夜間に詰め込むことは難しいため、残り四人が主として分担しなくてはいけなくなるからだ。

「まあ仕方ないですね。僕達の方で皆の負担がなるべく少なくなるように考えてみます」

 グリフィスが代表して答える後ろで頷く。

「それじゃそれでいくとして皆は真矢についてソロモンの講習を受けてきてや、私はまずはこっちからいくから」

 隊舎へ戻っていく五人を見送ると改めてカノンに向き直る。

「始める訳やけどグノーシス・モデルの数増やした方がええかな?」

「最初だから一人ずつの方がいいだろう。それに広く取る必要があるからな」

「そやなあ、何とか演習場所を確保せんとな」

 六課自慢のシミュレーターがいくら広大だといえど生身の人間が運用する目的で造られており、20メートル以上の巨体を響かせるには手狭といわざるを得ない。

「場所が取れる時はともかく、取れん時の為に魔法とシミュレーターの併せ技で実際に乗らんでも同じ様に出来すようにするしかないやろな」

(ファフナーを小さくしたパワードスーツのようなものをデバイスのバリアジャケットで生成してシミュレーターで生み出した疑似フェストゥムとで訓練できるようにシャーリーと打ち合わせ、場合によってはマリーさんにも協力してもらって……。ああ御免シャーリー、マジで眠れない日が続くかも)

 はやては心の中でこれからしばらく無茶な激務に忙殺されるであろうシャーリーの冥福を祈った。



 はやてがリインと共に書類仕事に精を出しているとノックが響く。入室の許可を出しながらまた追加か、とうんざりするが予想に反してそこにいたのはシャマルだった。

「あれシャマルが来るなんて珍しいな、なんか問題でも起きたんか」

「あのね、はやてちゃんが呼んだからでしょ。仕事のし過ぎなんじゃないの? 少しは休む事も大切よ」

 前半は呆れて、後半ははやてを気遣うシャマル。

「そうなんよ。見てやこの書類の山、ちょっと手伝ってえな」

「これははやてちゃんがさぼってた分が多いだけですぅ」

 これ幸いとシャマルに同情を求め、あわよくば押し付けを謀ろうとするがリインに内情を暴露される。

「無理だけはしちゃ駄目よ。いいわね」

 差し伸べられそうだった救いの手はあっさりと退かれていき、はやてはガックリと机に突っ伏す。

「シャーリーだって頑張ってくれてるんだから。それにそういった書類だと私が手伝うわけにもいかないでしょ」

「まあそんなんばっかやけどな。それじゃ本題に入るけどその前に、リイン頼むで」

「分かりましたですぅ」

 リインが廊下に出ていくのを見送ると改めてシャマルに向き直る。

「最近真矢とカノンが結構訪ねとるようやけど、二人ともどこか悪いんか」

「わざわざ私を呼ばなくても直接聞けばいいじゃない。それに確かに来てはいるけど別に診察してる訳じゃないわ、ちょっとした話ぐらいよ」

「成る程、でホントの所はどうなんや」

 シャマルの笑顔が一瞬固まり、大きく息を吐き出す。

「やっぱりはやてちゃんには隠し事出来ないわね。でも診察してないのは本当、真矢ちゃん達が持ってきたデータに沿って薬を造っているだけだから。それぞれ個人用の薬だってことだけど何の為かは教えられないって。診察したわけじゃないけど二人とも特に異常は無さそうだけど。あ、これ皆には内緒よ、そういう約束なんだから」

「私に話すのはええんかい」

 若干呆れ気味のはやて。

「きっとはやてちゃんには隠せないわよって言ってあるもの、それで良いって言ってくれたし。余計な心配を掛けたくないんじゃないかしら」

「そか、ならこの話は取り敢えず仕舞いや。呼びつけて悪かったな」

「そんな事ないわ、何時でも呼んで構わないわよ。ただ私が手伝える事には限りがあるし部隊長室に往診、なんてことはさせないでね」

 釘を刺すシャマルに首を竦めるしか無いはやてだった。



 それから数日、六課隊舎地下に対フェストゥム用の改造を施すための工事が昼夜を問わず行われていた。現場には何故か赤い宝石を嵌めた杖のデバイスを構えた隊長の姿があり作業員が青い顔をして死に物狂いで働いていた……らしい……が真偽の程は定かではない。ただそんな噂話が出るほどに通常の工期よりも短期間で完成した事は確かである。
 工事が終わったにも関わらず表面的な違いは殆ど見受けられず、そもそもどうなったのかは部隊長以下数名にしか知らされていなかった為一般の課員は何のための工事だったのかと首を捻る程である。唯一誰の目にも分かるのは、ファフナーの為に巨大な空間が造られ天井部から出撃する格納庫兼修理等を行う場所となった事で、その開閉部から何処にあるのかということは誰の目にも明らかだった。

 そして今日、完成した格納庫の御披露目となった。
 集められた者達の前には降りるためのエレベーターと人一人が通れそうな穴がある。全員がエレベーターに乗り込むと急速に下がっていくが直ぐには着かない。

「あの八神部隊長、これってどこまで潜るんです? それに隣にあった穴、あんなもの何のために造ったんですか?」

「それは着いてからのお楽しみや」

 ティアナとはやてがそんな話をしているとようやく目的地に到着する。扉が開いた先には空間が拡がり真っ先に出たはやてが皆の方を振り向く。

「ようこそ、地下85メートルの世界へ。ここがファフナーの格納施設や」

「85メートル、ですか……」

「そうや、ここの天井まで45、それから地上まで40、合わせて85や。それとあの穴はあそこに繋がってるんよ」

 そうして指差された先の天井には上でみたのと同じ大きさの穴が開いていた。

「あれは私らみたいなのが飛び込むためや」

 全く理解できないでいるのに説明を加える。

「エレベーターより自由落下のほうが速いし魔法を使えば激突することもない。でもシャーリー達はそうはいかんからエレベーターがあるという訳や。カノンや真矢、あとはキャロ以外は基本穴から降りて来るように。当然やけど上に行くときに使うのは禁止や、ぶつかるからな」

 フェストゥムが出現した際に急ぐ必要のある者のうち未だ魔法が使えないカノンと真矢、移動系の魔法とは縁の薄いキャロを除けば皆何かしらの手段を持っている。
 使うべき者が使えないと困るという理屈は分かるが方法があまりにも過激だと言わざるを得ない、が有効なのも確かで反論しがたいものがある。

「それでシャーリーが先に来とるはずなんやけどな」

 辺りを見回すと壁に沿うように濃緑色のグノーシス・モデルが並んでおり、その一角にシャーリーはいた。

「あ八神部隊長、こっちですよ」

「楽しそうやな」

「それはもう、こんなに未知の機械に囲まれるなんて」

「と言っても触れるのは一種類だけで殆ど触るの禁止やけどな」

「ううっ、それは言わないで下さいよ。考えないようにしてるんですから。それよりそこの床がエレベーターになってまして、地上まで通じるようになってます。流石に全員分一気に上げられる程の大きさはありませんから順番になりますけどね」

「ここの話はこんな所やろうな。……あ、それから改めて言うとくけどあっちのは触ったらアカンよ」

 そこはグノーシス・モデルが両側の壁に分かれて並んでいるのに対して奥側の壁、地上へのエレベーターの正面に紅紫色のマークジーベンと赤色のファフナーが並んで立ち、その背後の壁際にはシートを被せられ判別不能の状態になっているファフナーが幾つもある。それをシャーリーが物欲しそうに見つめていた。


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
サブタイトルは未定、後ほどつける予定です。
2013.09.10〜09.20 第一話〜第六話まで少しずつ変更

テキストサイズ:26k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.