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蒼穹のファフナーStrikerS 第六話 襲来 〜フェストゥム〜
作者:朧   2013/02/20(水) 00:34公開   ID:i8Mb.5WCBac
「シャーリー状況確認、アルトとルキノもこのシステムの割り出しを急いで、全くなんやこれは。グリフィス君にも心当たりはあらへんよね」

 いきなり立ち上がり六課からの制御を無視して走り続けるプログラムに、司令部内が慌ただしく動き始める。

『……い……』

「ん、グリフィス君何か言った?」

「いえ、僕は何も」

 声が聞こえたように思ったはやてが側にいるグリフィスに確認するが否定される。気のせいかと思った時、再び声が響く。

『お願い……』

「誰やっ!」

 いきなりの事に自分を注視する四対八個の視線を無視し、椅子を蹴立てて立ち上がると声の発生源と思われる右斜め後ろを猛然と振り返る。

「誰や……あんた」

 そこには黒髪を腰まで伸ばし、貫頭衣の様なものを着た十代前半に見える女の子が赤ん坊を抱いて立っていた。赤子と判断したのはその抱き方と僅かに見える小さな手からだが、いつの間にかそこにいた事と足が僅かに宙に浮き後ろの壁が透けて見えている事から見て、明らかに普通の範疇からは外れている事がわかる。
 瞬時にバリアジャケットに着替えると右手に持つ騎士杖・シュベルトクロイツを少女に向けて構え、左手には夜天の魔導書を開きいつでも動ける状態をとる。しかし、

「八神部隊長、何をしておられるのですか?」

 グリフィスの怪訝な声にはやてが視線を横に動かして辺りを見回してみると、多少の差はあっても皆、いきなりの行動に疑問を持っている事が見てとれた。

「もしかして皆には見えてへんの、この子」

「この子が見えてないのか……、と言われましても急に立ち上がってバリアジャケットに着替えると、デバイスを壁に向けて構えているようにしか見えませんが……」

 グリフィスが他の三人と顔を見合わせ、同じように困惑に彩られていることを確認すると代表して答える。

「なんやて、じゃあこの子は……」

『お願い、真矢達を連れてきて。早く』

 自分以外には見えも聞こえもしないものがいる、という状況に、幻覚・幻聴の類いに襲われたかと混乱に陥りそうになるはやて。
 その声が語る内容が全く理解出来ないものであれば、混乱しているなりに強引にでも無視することは出来た。だが、聞こえてきた言葉の中に知った名前が含まれていたことで急激に頭が冷却され、冷静さを取り戻した為に無視するという選択肢は取れなかった。

「遠見さん達の知り合いか。どうしても必要なんか……名前は?」

 周りの訝しむ反応を気にすることを止め、相手が頷くと二人をここへ呼ぶために名前を聞く。

乙姫つばき。真矢達を助けてあげて』

「分かった、グリフィス君すぐに人をやって遠見さんと羽佐間さんをここまで案内して。シャーリー、二人は今自室にいるはずやから通信繋いで」

「八神部隊長、よろしいのですか?」

 乙姫の姿が見えず声も聞こえないグリフィス達には全く理解出来ていない。だが、はやてが詳しい内容も聞いていないと思えるのにも関らず、相手からの要求を受け入れているのようなで思わず確認をとる。
 それに対するはやての答えとその理由はいっそ清々しいまでに簡潔だった。

「分からん。けど今何が起きてるのかも分からん。ただ私らにとって悪い事が起きとるとしても分からんのではどうすることも出来ん、ならわかるに話して貰う。逆に問題を起こそうとしているとしても今は他に面倒なことも無いからな、まず大抵の事には対処できる。どの道この状況をなんとかせなかんのや」

 理解できない状況に思うところはあるが、一応の納得と共に二人は指示に従い手を動かす。はやての眼前にモニターが浮かび上がり、急な通信に戸惑う二人が映し出される。

「二人とも直ぐ司令部に来てほしいんや、案内はもう向かわせたから」

 単刀直入に用件を告げるはやてを二人とも困惑を湛えて見返してくる。特にこの出動前に司令部に立ち入らせるわけにはいかない、と告げたばかりだからだが、それもはやての次の一言で一気に変化を見せる。

「乙姫って女の子が二人を早く呼んでって言ってるんや」



 自室にいた二人の前に突然モニターが浮かび上がり、はやてがどこか戸惑いとともに司令部に来てほしいと要請する。
 いきなりの事に二人が思ったのは何故ということだった。未だ民間協力者でもない身分で司令部に入れる事は出来ないと言われていたからだ。
 だがそんな疑念もそれをただす前に続けられた一言で霧散する。

『乙姫って女の子が二人を早く呼んでって言ってるんや』

 その瞬間困惑を驚愕が凌駕しカノンは凍りついたように動きを止め、真矢は思わず立ち上がってしまった。それは画面の向こう側のはやてが驚く程劇的な反応だった。

「わかった、すぐ行く。カノン」

「ああ、最悪を想定したほうがいいかもしれんな」



 司令部に着いた二人を出迎えたのはまさしく最悪へと至る道のりだった。メインモニターに浮かぶ黄金の鍵と赤く描かれた『SOLOMON』の文字、フェストゥムが現れるという紛れもない証である。

「二人ともこっちや」

 正面のモニターを見ていた二人を右手からはやてが呼ぶ。そこにはやてと少し離れてグリフィスが立ち、他の三人とともに事態を見守っている。
 そしてその後ろに僅かに浮かぶ、半透明な黒髪の少女に二人の視線は惹きつけられる。

「乙姫ちゃん……」

『久しぶりだね真矢、カノン。でも今は先に彼女達を助けてあげて』

 そう言って手が塞がっている為視線で示す先には、起動しているソロモンに対応出来ていないシャーリー達がいる。乙姫に小さく頷くと司令部内の階段を駆け下りながらはやてに許可を求める。

「八神さん、このソロモンは私達の世界で使ってたものだから。今だけでいいから任せて」

 はやては真矢の要請に対しても先程と同じく、周りの方が呆気にとられるほどあっさりとそれを認める。

「八神部隊長、そんな簡単に宜しいのですか?」

 あまりにも簡単に許可を出した為、グリフィスが思わず本当にいいのかと若干の異議を込めて聞き返す。しかし今回もあっさりとした、だが明快な答えが返る。

「さっきも言ったやろ、私らには解らんことが起きとるんや。事の起こりに二人が関わってる可能性は低いし、もし危険があってそれに遭わせたいんならほっとけばええんやから。シャーリー場所空けて」

 連絡を入れた時、二人とも司令部内で起きている事を何も知らなかったとしか思えない反応だった。
 はやてはそう判断し、それに従ったシャーリーが空けた席に真矢が座る。画面に目を走らせ慣れた仕草でシステムを操作すると、ある一部分を指差しそれを覗き込んだシャーリーに問いかける。

「この座標は何処になるの?」

「これは山岳リニアレール、今なのはさん達がいるところです」

 それを聞くと猛然と振り返り、はやてを見上げる。

「八神さん、すぐに皆をあの場所から退避させて。それから頭の中に声が響いても答えないように」

「でも、まだレリックを確保出来ていませんよ」

 いきなりの事に理解が追い付いていないのは皆同じで、ルキノが意見するがカノンに倍する声量で返される。

「すぐに逃げさせないと全員死ぬぞ!」

 真矢とカノンがかなり切羽詰まった表情で訴えるので、その場の六課メンバーの緊張も否応無しに高まる。
 レリックの確保は大事だが出撃している仲間の方が大切だ、とはやてが退避を指示する。

「アルト、全員に緊急連絡。レリックの確保はええから至急その場から離れるように」

「了解しました。それと現場近くに急激な異常気象が発生しています。メインモニターに出します」

 画面がリニアレールから切り替わり映し出されたそこには、周囲の晴天から隔絶した明らかに異常な雲の塊が周囲の雲をも取り込んで巨大な渦を発生させている。

「急に出来たあの雲、あれが問題なんか。確かに異常だとは思うけどそこまでのことじゃ無い思うけど」

 はやてがそれを見た感想を漏らす。暴風が吹こうと魔法障壁を張れば問題は無い。その程度の技量は皆もっているからだ。
 だが二人とも首を横に振る。

「あんなものじゃないよ。あれも敵の一部といえるけど」

「敵だとして皆を逃げさせてどうするん。フォワードの皆はともかくなのは隊長もフェイト隊長も魔導師としては間違いなく一流や。けど二人も下がらせて打つ手段はあるんか?」

「それは……」

「スフィンクス型と断定。単体密度2.33、原子量28.0855、陰性度1.8、質量固定。実体化します」

 カノンが答えようとするのを遮るタイミングで響いた真矢の声に、はやてが視線をモニターに戻すと先程まであった雲の嵐は既に無かった。
 最前まで雲が渦巻いていたにも関わらず今は元の青空へと姿を戻し、代わりに眩いまでの輝きを放つ高さ三十メートル程の黄金の巨人が屹立していた。

「綺麗……」

 その姿を目にした誰からともなく思わずといった呟きが漏れる。

「美しいものが人類の味方とは限らないよ」

「ガジェット群がアンノウンに攻撃を仕掛けます」

 アルトの報告に目を転じれば、残っていたガジェットもあの黄金の巨人を敵と認識したのか、出現した巨人に向けて移動を開始する。列車内部に大量にいたT型と隊長たちが倒しきっていなかったU型に加え、未だ列車内に残っていたのかV型も僅かだが姿が見える。

「八神部隊長、あれがガジェットに攻撃するならその間に皆を少しでも遠くへ避難させろ。絶対に攻撃したりせず、出来るだけ注意を惹かないように徹底させるんだ。あいつらを死なせたくなければ逃げる事だけに専念させろ」

 ガジェットが巨人に攻撃を仕掛けるが何かに遮られ、届く前に壁に当たったように弾ける。巨人の腕が抱きつく様に広げられると巨人の背後で真っ黒い何かが蠢く。突如T型やV型を呑み込むように黒い球体が現れ消えた後、球体の範囲内に在ったものは何も、地面すら残ってはいなかった。空からもU型が攻撃を仕掛けるが腕の先にある指の部分から触手の様に伸び、U型を捕まえるとそのまま山肌に叩きつけ爆散させる。触手を避けようとして巨人にぶつかったU型の一部は爆散せず巨体の中に取り込まれる。
 巨人の出現に呆気にとられたのか足が止まっていたなのは達を、カノンに急かされたアルトが呼びかけることで再び動き出させる。
 それを見届けると同時に座っていた真矢とカノンが立ち上がる。

「二人共何する気や」

「八神部隊長、あそこへ行くのに何が一番早い方法なんだ?」

「シャマルに転送とばしてもらうんが一番やけど行ってどうするんや、勝てないんやないのか」

「方法ならあるんだよね、乙姫ちゃん。ごめんねこんなお願いする事になって」

 魔法戦技能において、なのはやフェイトに間違いなく劣る真矢やカノンが向かったとしても、二人以上の成果を挙げることは出来ないと考えたはやてが止めようとする。そしてそれは司令部に居る者だけに限らず両者を知る者なら誰もがたどり着く結論だ。
 だが二人はそんな周囲の考えを意に介さず少女の前に立つ。

『解ってるでしょ、皆が求めているものを与えるのが私の役目。本当にそれが欲しいのか選んでもらう為に。何を求めているのか、その人自身に知ってもらう為に。私にできるのは選んで貰うことだけ』

「私が欲しいのは皆を守るためのファフナー。でもこっちには無いみたいだから」

『本当にそれでいいの? ここは竜宮島じゃない、千鶴達はここには居ないんだよ。それに戦うと二人が見つかることになる。それは遅いか早いかの違いしか無いかもしれない。でも、それでも今戦うの?』

「確かにここは竜宮島じゃない。でも今、フェストゥムに皆が襲われてるのを見過ごす事なんてできないよ」

 はやて以外には真矢の声しか聞こえていないため、話の繋がりを理解できず口を挟むことが出来ない。
 はやてには聞こえているが、その内容と三人が醸し出す真剣な空気に割ってはいる真似など出来ず、ただ見守る事しか出来ない。

『カノンはどう?』

「確かにこの世界に来たのは私の意志ではない、だが六課ここの皆を護ってやりたいと思う。それは私自身が選んだことで後悔はしない。ただ母さん達に無事だと知らせておいて欲しい、そうでないと母さんがどうなるか心配だ」

『それが二人の選択なら私はそれを助けてあげるだけ。ごめんね、二人に押し付けるみたいになっちゃって』

「そんなことない、私達が選んだことだから」

『ありがとう、これが私に出来る精一杯。もっと話したいけどもう無理みたい。島や千鶴、容子達のことは心配しなくていいけど、二人だけで無理しないで必ず帰ってきて』

 微笑む真矢につられた様に一緒になって微笑む少女。真矢とカノンに幾つかの物を残すとその少女は徐々に姿を薄れさせると腕に抱えていた赤子を残し最初から居なかったように消えてしまった。
 少女が消えてからも赤ん坊は残っていたが後を追うように消えていった。

「有り難う、さよなら乙姫ちゃん」

 真矢が消えた少女がいた所を見つめて小さく呟くと顔をあげる。

「私の方が早く着けるし少しぐらいなら増えても大丈夫だから。何かあった時の為にカノンはここにいて」

「仕方ない、真矢の方が速いからな」

 少女から受け取ったものをカノンに渡しながら告げる。カノンも自分が行こうと思っていたようだが真矢に同意して引き下がる。

「はやてちゃん、いきなりどうしたの」

 真矢と少女が話している途中に、はやてが念話で呼んでおいたシャマルが入ってくる。急な呼び出しに戸惑っているが説明する時間も惜しいと無視して続ける。

「シャマル、大至急遠見さんをあそこまで転送おくってくれるか」

「それはいいけど、でもあそこまでは届かないわよ。それでもいいの?」

「構へん、六課ここ現場むこうとの直線上に限界まで跳ばせばいい。それでええやろ?」

 真矢が頷くのを見てシャマルに合図を送り、司令部から転送されるのを見送る。

「羽佐間さん、今の話はなんやったんや? それで皆は、遠見さんは大丈夫なんやろうな」

 正体不明の敵のことより、とにかく向こうにいるなのは達の心配をするはやて。はやてだけでなく、少女の声も聞こえず真矢とカノンが話している内容から類推することしか出来なかったシャーリー達もカノンを見つめる。振り返ったカノンの気配は張り詰めてはいたが先程と比べると若干ではあるが弛んでいるように感じられた。

「真矢が着けばすぐに終わる。だからそれまで皆が逃げ切れればいいんだが」

 そうして見上げたモニター内では、ガジェット群を全滅させた巨人が次の目標として一目散にその場から離れようとしているスバル達に目をつけたように移動を開始する。追いかけるように黒い球体が幾つも発生し、消えた後は例外なくその範囲内が抉れた痕跡が残るだけ。まだ遠いが当たった時の嫌な想像を誰もが振り払えずにいた。
 必死に遠ざかろうとするが巨人の動きの方が速く、走るフェイト達が黒い球体に追いつかれようとした時、巨人が何かをぶつけられた様に震えると黄金の体が急激に黒く染まる。染まりきると巨人の全てを呑み込む大きな黒い球体が発生・消滅した後には巨人が消えた空だけが残っていた。
 それと同時にメインモニターに走っていたプログラムも消える。何が起きたのか理解できない沈黙の中、カノンがゆっくりと息を吐き出す。

「真矢、間に合ったな。八神部隊長、あの敵はもう倒したから皆が逃げる必要はもう無い」

「ちょい待ちいや、本当にあれを倒したんか? 遠見さんも見当たらへんし」

『はやて、前の方に巨大な人型が現れたけど。今度は何、また新しい敵? だとしたら』

「シャーリー」

「はい、映像出します」

 フェイトからの通信に即座に目標を映し出させると、そこには巨大な紅紫色の人型機械の姿があった。片膝立ちの姿勢で長大なライフルを構え、銃口は今まで巨人がいた空へと向けられていた。
 先程のものと同じく急に現れ、巨大な武器を携えたものをフェイト達も危険と危険と判断し攻撃を仕掛ける勢いで接近する。

「待て! あれは真矢だ」

 カノンの一声に飛び掛ろうとしていたフェイト達が空中で急停止する。止まるのを見てから説明を付け加えるカノン。

「あれがさっきの敵、フェストゥムと戦う為に造られた兵器ファフナー。ノートゥングモデルの七番目の機体、マークジーベン。真矢の機体だ。もう敵は消滅して、その証拠にソロモンも敵は存在しないと沈黙しているからな」

「そうか。フェイトちゃん、新しいのが遠見さんやって言うから相手せんでええ、まずはレリックの封印急がせて。さっきの敵のおかげといっていいか知らんけどガジェットもいなくなったしリニアレールも停まっとる。なのは隊長とフェイト隊長は事後処理を、レリックは皆と一緒に持ってきてくれればええ。ヴァイス陸曹は全部終わってから皆を乗せて戻る為に待機しといて」

 はやてがフェイト達に指示を出している間に、画面の中では紅紫色の機体がゆっくりと立ち上がると、地表をホバリングしながらその場を後にして六課へ向けて移動を開始する。

「さて羽佐間さん、あの敵やら機体やらについて話してもらうで。悪いけど拒否権は無しや」

「わかっている、だが皆に話すとしてもその前に大事な話がある。真矢が戻ってからだが先に話がしたい」

「……シグナムとヴィータを同席させても構わんな、私一人では決めきれんかもしれんから。理由は六課で二人と長いのはあの二人やからや」

 少し考えた末に同席者を求めるはやて。ここ機動六課の最高権力者ははやてであるが、一人だけで全てを決定するかといえばそうではない。大抵隊長陣の誰かを相談相手とするのだが、今回の場合二人と付き合いが比較的長いシグナムとヴィータを選択する。それにカノンは躊躇うことなく承諾の意を込めて頷く。

「シャーリー連絡、至急シグナムとヴィータに戻って来るように伝えて。ついでになのはちゃん達に疑問に思うことだらけやろうけど後でって事も伝えといてや。今こっちに聞かれても答えられんからな。色々は皆揃って帰ってきてからや」



 真矢がなのはやフェイト、フォワード部隊と別れ先に戻って来るのを出迎えるためにカノンとともに隊舎から出たはやては視界に入ったものへの驚きに目を見開く。

「何やねん、これは」

 隊舎脇の何も建っていない、何も無いはずの場所に見慣れない形をした機械が勢揃いしていたからだ。

「これらは全てファフナー、フェストゥムと戦う為のものだ。しかしどうしたんだ? これ程とは」

 後半は口の中で呟くのに留め、ファフナーを見上げるカノン。

「それよりもこれ、隠した方がええよね。どうするかは皆揃ってから考えるとして、こんなもんがあるのが見つかったら面倒なことになるから。取り敢えず魔法で見えなくする程度やけどな」

「出来るならやって欲しいが、取り敢えず真矢が戻るまで待ってくれ。真矢のも一緒にして欲しいしこれだけあると真矢にも先に見せておきたい」

「分かった、取り敢えずみんなが戻ってくるのを待ちやな」



「待っとったで遠見さん、……ってどうしたんやその格好は」

 真矢が乗ったマークジーベンが戻ってくるとはやてが駆け寄る。片膝をついた紅紫色の機体から降りてきた真矢の姿に驚く。真矢が着ている制服のいろんな(上腕、脇腹、大腿部、ふくらはぎ)部分が破れていたからだ。

「これを見てもらったら取り敢えず先に着替えやな、そしたら周りから見えんようにするから」

 そう告げるとちょうど戻ってきたシグナムとヴィータが先程の自分と同じように驚くのに苦笑する。直ぐに問いただそうとする二人を押し留め二人から少し離れた場所で待つ。

「凄いね、カノンのマークドライツェンだけじゃなくて他のファフナーまであるなんて」

 そこにあるファフナーを見上げながら真矢が残っていたカノンに話しかける。感嘆含みの言葉とは裏腹にその口調と表情は明るいものではない。

「ああ、やはりそういう事なんだろうな。それにあれがあるしな」

 カノンも同様の事を考えていたらしく、答える声からは心配の色が読み取れた。声を潜めているためはやてたちには何か話しているという事しかわからない。

「だが、今考えても私達にできる事はほとんどない。取り敢えず彼女らに話すとして、その前に真矢は着替えてきた方がいい。私は先に行っているぞ」

 話は終わりだと頷きかけるとそれを受けたはやてが手の上に本を浮かばせ、あるページを開くとファフナーに霧が掛かる。かと思うとその霧が晴れた後ファフナーの姿は忽然とその場から消えていた。

「光の屈折率を変えて見えなくしただけで、実際にはちゃんとあるから。遠見さんは着替えたら部隊長室まで来て、私は先に行ってさっきのを二人に見せとるから」

 一度部屋に戻る真矢と別れカノンははやて達と共に部隊長室へと向かう。
 着替えた真矢が部隊長室にきた時、はやてはカノンと共にシグナムとヴィータに先程の戦闘の映像を見せている途中だった。戦闘映像とそれに付随してその前にあった司令部での一連の遣り取りをシグナムとヴィータが一通り見終わったところではやてが真矢とカノンに話を促す。

「シグナムとヴィータにも事態を知ってもらったところで皆に説明するより前にする話、聞こか」

「敵の能力については取り敢えず置いておく、これはそれ以前の問題だからだ。それはさっきの敵がまた出た時、私達がいると六課ここが狙われる事になるという事だ。だが私達が居なければ六課が狙われる可能性は幾らかは下がるだろう。それでも私と真矢をここに置いておくつもりがあるかということだ」

「あれ、フェストゥムとか言うとったな。それで何で二人が狙われるとわかるん。その根拠はなんや?」

「さっき乙姫ちゃんが言ってたでしょ、『戦うと二人が見つかることになる』って。フェストゥムが私達を狙ってくる可能性は十分に高いの」

「確かに言うとったけど、でも二人だけやないやろ。あの子の言い方だとここも狙われる理由があるみたいやったけど。そこんとこはどうなんや」

「確かに私達以外にもここが襲われる理由があるみたいだったけど、それが何なのかまでは私達には分からない」

 関係が有る真矢とカノンはともかく、六課まで狙われる理由には真矢とカノンも想像すら出来ていないようにはやて達には見えた。根拠といえばあの少女が語った事だけにもかかわらず、二人ともそれを全く疑ってはいない様子にはやて達は困惑を隠すことが出来ない。

「お前達とはやてにしか見えず声も聞こえない少女か。理由はその子が言ったってだけなんだろ。あたしらに見えるかはわかんねえけど、おまえらだけじゃなくはやてにも見えてたって事は幻覚の類いじゃ無えとは思うけどよ。そいつにまた来て貰ってもっと詳しく聞くことは出来ねえのか?」

 録画された映像ではシグナムとヴィータだけでなく、はやてやカノンもその姿を見ることは出来ず音声も記録されていなかったのでその存在にもっと疑問を持ってもいいのだが、はやてが見る事が出来たからか存在を前提とした疑問をヴィータが投げ掛ける。よく知る者に聞けばよいのにそれをしようとしないのは何故か、と。
 我知らず頷くはやてとシグナムとは違い真矢とカノンの表情は冴えない。

「それは無理だよ。まず私達から呼ぶ事が出来ない。それに乙姫ちゃんはたぶんもういないから」

 三人とも真矢が挙げた理由の内、前者はともかく後者の意味が分からず首を傾げる。世界が違う相手に対して話しかける手段がないというのは十分に納得できる理由である。

「いない、とはなんだ? 死んだという事とは違うのか」

「厳密には違う。だがもう会う事が出来ないのは確かだからそういう認識で構わない」

 シグナムの踏み込んだ質問に違うとしながらも曖昧さの残る答え方をするカノン、違いを説明する事は可能だが長くなるだけで今はそこまで詳しい話は必要無いとの判断からだ。対するシグナムにしても違いを理解出来なくとも結論として話が聞けないというのであれば何時までも拘っているわけにはいかない。結論が出ない六課が狙われる理由以外にも聞くべき事があるとシグナムが続ける。

「無理だというならそれは置いておくとしよう。奴らが来るとして、この世界にどれぐらいの数がいる可能性があるんだ」

「正確な数は分からない。私達の様に何らかの理由で飛ばされてきた物だけならそう多くはないだろう。ただミール、母体ともいえる物がいる場合はその限りでは無くなる」

「成る程、どれぐらいの数・頻度で来るか全く分からない。だがお前達がここを離れれば六課が直接襲われる可能性は単純な計算ではあるが半分以下になる、というわけだな」

「そうだ、私達が狙われる可能性の方が高いと思う。だから……」

巫山戯ふざけるんやないで!」

 不意にダンッというはやてが机を叩く音とそれに続く怒声がカノンの話を遮る。

「それを聞いて私らが『じゃあ二人共どっか行って』なんて言うと思っとるんか、舐めんでくれるか。さっきなのはちゃん達を助けてくれたのは、私達を仲間と思ったから戦ってくれたんと違うんか。そんな仲間を追い出すわけない。それにあの子も二人に六課ここにいて欲しいと思っとるんやないんか。だからあんなにも多く送って来たんやろ。違うか?」

 はやての最後の部分に痛いところを突かれたように動揺を露にするが、なお懸念を呈する。

「本当にそれでいいのか、冗談や比喩ではなく本当に死ぬかもしれないんだぞ」

「お前達だけだったらやられちまうから、その子もはやての前に現れたんじゃねえのか? だったらあたし達も一緒に戦って危険を減らすほうがいいに決まってんだろ」

「二人に繋がっとる厄介事も纏めて受け止める気がなければ最初から民間協力者になって欲しいとは頼んだりせえへん。それにあの子にも頼まれたしな、二人の力になって欲しいって」

 既に共に戦うことを前提としているヴィータと考えを同じくするようにはやてとシグナムも二人に頷きかけ、更に乙姫に頼まれたとはやてが駄目押しをかける。

「はやて、シグナムさんとヴィータさんもありがとう。でもね、考えが変わったら何時でも言ってくれていいんだからね」

「そういう戦いになる、ということだ。簡単な相手だと思っているのなら考えを改めたほうがいいし、皆にも強制はしない」

 最後の一押しが効いたのか六課から離れようとするのは止めたが、それでも未だ真矢が心変わりを薦めるような事を言うのに対して反論しようとするが、機先を制したカノンの言い様にはやても思わず口をつぐまされる。

「それならフェストゥムと戦うために皆にも説明するけど、その前に急いでやって欲しいことがあるの。他の管理局の部隊がフェストゥムを発見しても手を出さないようにって事、後で説明するけどファフナーでないとフェストゥムとはまともに戦うことも出来ないから。それと隊舎の設備で重要な部分を地下に移す事と非戦闘員も含めた全員が入れるだけのシェルターを地下に建設して欲しいの」

「先の戦闘で見ただろうが、あの黒い球体の攻撃を防ぐのは困難というより不可能だ。それに敵の厄介な能力は地下には届きにくいからな。ただ地面のすぐ下では意味がない、最低でも地下四十メートルぐらいは必要だと思うし地上施設は最悪壊れる事を覚悟してくれ。重ねて言うがフェストゥムの話を皆にした後に考えを変えても構わないからな」

「襲われた時は皆をそこに避難させればええんやな。それとあの機体の格納庫も地下でええか、表に出したままにしとく訳にはいかんから」

「それで構わないが格納庫とシェルターを隣同士にはしないでほしい。でないと格納庫を突破された時に危険だからな。それとファフナーには勝手に触らないよう皆に伝えておいてくれ」

「わかった、すぐに手配させる。メカ好きや好奇心の強いのがうちにはおるからな、注意しとくわ。それじゃ皆のところで詳しい話してもらうで、皆もそろそろ帰って来た頃やろ。ただ皆がどうするかまでは私の一存では決められん、それぞれ選んでもらうけどええな」

「その心算だけど……、もしかしたらそう言っていられなくなるかもしれない事は承知しておいてくれるかな」

 いざ実務的なことに話が移るとカノンとはやてによってスムーズに進む。カノンが必要だと提示していることが、はやてにとってそれを受け入れてもそれほど問題が無い事が大きな理由である。

「フェストゥムと戦う際に基本は私達が指示することになるが、それでもいいか」

「もちろんや、あんなのと戦うのに経験者の言うことに逆らうつもりはあらへんよ。とすれば、正式に民間協力者になって貰った方が私としても本部とかに対して都合がええんやけど。あの敵は間違いなく危険視されるから六課付にしとかんと下手せんでも二人とも本部にしょっぴかれるし、そうでなくても身内って事にしとかんと私としても便宜をはかりにくいから。その辺はどうやろか?」

「こちらの事情に巻き込んでしまった以上、その方がいいというならこちらからお願いする。ただ一つだけ出来ない事もあるが……」

「大抵のことなら構わんと思うけど。最初に協力者になって六課入りして欲しいと頼んだのはこっちやしな」



 何処とも知れぬ深い地の底、数多の水槽が立ち並ぶ通路を抜けた先にその男はいた。

「どうなさったんですか? ご機嫌ですね、ドクター」

 後ろに控える秘書風の女性が声をかける。今回の計画は所定の目的を達せられなかったにも関わらず、様子を見ていた男は狂ったように笑い続けている。男の前に広がる大画面のスクリーンに映し出されていたのは先程リニアレール事件に出動したなのは、キャロ、スバルだった。

「これが楽しくないわけないだろう。これほど興味深い素材が揃っている上にプロジェクトFの生きて動いている子供たち。そんな物が集まっただけでも面白いのに、更に新しい物が二つも同じ所に現れるとはね」

 男が話している途中でなのはとキャロの映像がエリオとフェイトに切り替わる。そしてそれらに重なるようにして黄金の巨人と紅紫色の巨人の姿も加えられる。

「あれらが何なのかドクターは御存知なのですか」

 高らかに笑いの波動を響き渡らせる男とは対称的に女性の声に揺らぎは感じ取れない。だが男はそんな事に構わず未だ声に笑いの余波を残しながら指示する。

「知らないとも、だがだからこそ面白いのだよ。少なくとも片方はプロジェクトFの残滓ざんしと共にあるようだからね。残滓とあれ、どちらも手に入れたいものだ。ウーノ、君の調査と並行してドゥーエにも探るよう指伝えておいてくれ」

「承知しました、ドクター」

 女性が一礼し闇に溶け込むように消えた後も男の笑い声は響き続けていたが、やがて吸い込まれる様に消えていった。

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■作者からのメッセージ
後書きに前話を投稿してから追加・修正した所のお知らせをしようと思います。今回は初めてなのでこれまでの分を。細かい誤字・脱字の修正は除きます。
2012.12.20 第三話  2013.2.17 第五話
詳しい部分はそれぞれの話の後書きをご覧ください。追加となっていても前後の繋がる部分は若干修正されている場合があります。

今更ですが感想を書いていただいた場合、返事も感想欄でしています。そちらをご覧ください。
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