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ぼくらの〜それでもゲームは終わらない〜 第4話「小森和枝」
作者:nasubi   2013/12/01(日) 11:25公開   ID:vTzT7IJMLOA
10月も、もう半ばが過ぎた。金木犀の香りが漂って冷たい風が吹きすさぶ秋の昼下がり。私は部屋の明かりをつける気力すら無くしたまま私は力なく食卓の傍でへたり込んでいた。傍らにはユウさんだった物を横たわらせて。カーテンの隙間から差し込む夕日がユウさんの体を照らす。身動き一つ見せないユウさんの肌の白さときたら、薄明かりの中でも分かった。
 コエムシにはあの戦いの後夫の遺体をどうするか聞いてきた。私はまだあの時悲しみに落ち、泣き叫ぶような力があったものだから、コエムシにすがるように自宅に移してと言った。あれから既に3週間、今はもうユウさんの人形に見慣れてしまった。ついでに、感情はおろか、食欲も尿意もさっぱり消えてしまったようだ。もう全てのことが面倒くさいと思えるような、そんな感じ。実はついちょっと前からやたら電話が掛かってきていた。多分ユウさんの職場の人からだ。それも午前と午後きっちりと。1日に5回くらい。うざったいので電話に繋がっているコードを引っこ抜いておいた。
 私は今は悲しくともなんとも無い。もうそんなもの、あの球体ロボの中に置き忘れてきてしまった。球体ロボ……。そういえば今度は榎戸さんって方がパイロットになったらしいけど、あの方も選ばれた直後にコックピットの床に頭を何度も叩きつけながら嫌だ嫌だと連発してたな。今更そんなこと言ってどうするのよ。
 「死ぬんでしょ、私たち」



              
            第四話「小森和枝」





 10月……、もう何日になったかしら。水と飴玉だけを適当に放り込んでいるだけでもまだ私は生きている。でも、さすがに体の力が抜けてきているのも確かだ。かと言って、何を食べようかと考える気分も私にはないわ。
 あれから、ユウさんが死んだ日からずっと考えていた。そう、これは夢かもしれない。球体ロボもコエムシの存在も実は私の妄想であって、実際はそんなもの無いのかもしれないし、あるいは私はゲームセンターのゲームを満喫しすぎて実生活にも影響を及ぼすほどになっいて、ゲーム廃人になってるのかもしれない。夫の存在も名倉さんの存在もゲームの世界観を脚色するための演出上の存在なのかもしれない。
 以前SF映画でこんな場面があったっけ。現実と夢の境界線など実に曖昧なものであり、今見ている情報を脳が認識しているに過ぎないから夢か現実かは関係ない、と。なら、これだけの妄想も現実として認識可能かしら?
 考察によって膨らんだ風船をパチンと割ったのはドアのベルだった。私は当然のごとく無視した。だが、今回のベルはなかなか諦めてはくれなさそうだった。コンコンと扉をノックし始めた。
 「しつこいわね」
 テーブルに手を伸ばして角につかまって体を支えながら立ち上がった。暗がりの中、壁を伝って玄関へと向かう。手探りしながら扉のロックを解除して開けた。久々に入ってくる日射。私の目がすぐに受け付けない。私は目を細めた。だが、日の光も自分が思っていたほど長くは苦痛にならなかった。黒いスーツを着込んだ男が3人がそれをいくらか遮ったからだ。
 「はい……? 」
 3人は私の顔を見るなり少しばかり動揺した顔をしたが、また無表情なまじめな顔になって、真ん中の男がこう切り出した。
 「小森和枝さんですね? 」
 「そうですが」
 男は、胸ポケットから名刺を取り出して私に差し出した。
 「我々はこうゆう者です」
 「国家防衛軍特別対策室、佐々美……さん? 」
 私がその名刺を受け取って確認するのを見計らって次にこう続けた。
 「あなたに用件があって参上しました。内容は……分かりますよね? 」
 私は力なく玄関の靴箱に寄りかかった。
 「国家秩序を乱すようなことは何も……」
 男達が無表情に私に視線を向ける。私は逆に視線を彼らから反らした。
 「分かってます。勿論。だって、理解できないわけが無いですもの」
 どうやら、夢かどうかなんてことはもう自らの中で議論の余地は与えられることは無さそうだ。



 ***



 黒塗りの車に黒ずくめの男なんていかにもという設定だけど、私は今その男達に連れられ、旧防衛省付近に来た。今は国家防衛省市ヶ谷支部として使われている。
 市ヶ谷支部の正面前に車は近づいたが、中に入ることなく通り過ぎた。私が不思議に思った顔をしていたのか、職員の1人が私に説明する。
 「裏から中に入ります。直接正面玄関から入ると顔を見られかねないので」
 「……」
 裏は正面玄関ほど広々とはしておらず、建物の影に隠れて随分とひっそりしていた。車が中に入ると脇の駐車場に停車し、出るようにと私に促した。佐々美さんと2人の職員の後ろについて歩く。白を基調としたラウンジを通り、奥のエレベーターへ向かった。佐々美さんがボタンを押して入ろうとすると誰かが佐々美さんに声を掛けてきた。佐々美さんと2人の職員が振り向いたので私もそれに倣った。見てみると、女性職員に引き連れられた中学生女の子と大学生くらいの女の子がいた。2人とも球体ロボのパイロットの娘だった。
 「見つかったんだね。そっちも」
 佐々美さんが少しくたびれたような物言いで女性職員の1人に話しかけると、その人は深刻そうな顔をしてうなずいた。
 エレベーターの中では誰も言葉を発しない。当然だ。職員の方たちの側としては国家の緊急事態なのだろうし、私たち選ばれたパイロットとしても雑談を交えるほどの余裕も無かった。
 エレベーターの表示が16階に到着して出ると、私たちは正面にある部屋に通された。広い部屋。作戦会議室のような場所だった。茶色いニスの塗られた巨大な楕円の机、大きめの黒い椅子が回りに並べられ、壁には巨大なスクリーンが備え付けられていた。そして、椅子にはもう既に何人かのパイロットが着席している。女性職員の方に自分達も座るよう促されたので、空いているところへ座った。周りを見ると皆様子はまちまちで、落ち着きが無い人や、黙って下を向いている人もいた。気が気ではないのだろう。
 私が席についてちょっと後になってから、正面の壁にある巨大なスクリーンの前へ白い軍の制服を着た方が3人ほど歩いてきた。3人が並び、真ん中の若い男性将校が前に一歩踏み出した。
 「皆さんにはご足労掛けました。私は国家防衛軍特別対策室副室長、関政光と申します」
 あんなに若いのに副室長なんだ。
 「国家の緊急事態なのでね、率直に申し上げます。我々があなた方をここへお連れしたのは他でもない、あの巨大ロボットについてです」
 スクリーンに白い球体ロボが映し出された。
 「約1ヶ月前、最初は東京タワー付近に突如として出現。以後、最長で2週間程の間隔で4回出現した。そして、その度ごとに毎回別のロボットと交戦している。これと時同じくして、あなた方がロボットの現れた時間帯に限って僅かな時間だが忽然と姿を消しているという証言を得た。その情報を集めると全員がかつて科学ツアーのメンバーだったという共通点が導き出された」
 関という方がこれまでの経緯を説明すると、パッと画面が切り替えられ、戦闘の様子が映し出された。まるでこのロボットの出現が恐怖と同時にいかにも面倒ごとだと言わんばかりに見える。
 「どうゆう訳か聞かせて頂けますか? 」

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