「裏コマンド?」
「そう、裏コマンドだ。略して裏コン。裏の婚活でも、裏のコン○ームでもないぞ」
「…それがどうしたの?」
一瞬突っ込みたそうにしたのを、意志の力でねじ伏せたようだ。やるな、まりもめ。
「撃震ALには幾つかの封印がされているのは知っているな?」
「ええ、3つの封印があるんでしょ?」
「そうだ。そのうち1つめの封印は裏コマンドにより解除される。なので今の内に一つ目の封印を解いておこうと思ってな」
そう、撃震ALはその本来の力を封印されている。それでもなお、従来の戦術機とは一線を画する能力を持っている。
それにもかかわらず、おれは一つ目の封印を解こうとしている。
それはなぜか?
理由はすぐに分かるだろう。
「でも、いいの?先進撃震参型のときだって、気の封印解除はかなり慎重にしていたのに」
「ああ、なにせ今回は出し惜しみなし、だからな。第一の封印くらいは最初から解いておいて問題ないだろう」
「ちなみに、それを解くとどうなるの?」
「先進撃震のMOSとの完全同調、およびGによる身体への負荷が0になる。あとは、主機の出力が倍になるな。ちなみに気が使えるようになるのは、第二の封印からだ」
「えっと、確か撃震ALの主機の出力って…」
「通常出力で10万馬力を超えるから、ざっくりと20万馬力だな」
まりもの目が点になった。まあ、無理もない。戦術機で10万馬力とか、普通の開発者なら頭を疑うレベルなのに加えて、それが倍になるのだ。
「いっとくが、先進撃震参型の封印解除状態もそれくらいの出力はあったはずだぞ」
「ええ?確か通常出力が、一万馬力じゃなかったの?」
「気による増幅機能を舐めるなよ。それくらいはいくって事だ」
まりもが呆然としている。まさか自分が駆っていた戦術機がそこまでの化け物だとは思っていなかったのだろう。
「というわけで、第一の封印を解除する。さ、まりもんは、戦術機の管制ユニットに座った座った」
「え、あ、うん」
まだ衝撃が抜けきっていないのか、おれにされるがままに撃震ALの管制ユニット着座するまりも。
ちなみに格好は97式衛士強化装備だ。
撃震ALの調整作業中だったから当然なのだが、おれにとっては必然だ。つまり、このタイミングを待っていたのだよ。
「さ、席に着いたな、まりもん」
「ええ。それで、これからどうするの?」
「まあ、まあ、そう慌てなさんな。焦らすのもテクニックの一つなんだから」
「なんの話をしてるのよ…」
ジト目で見つめるまりもを無視しつつ、先進撃震参型からのまりもの相棒であるMOSを専用装置に接続する。
「あれ、それMOSじゃ?」
「ああ、裏コマンドはMOSに認識させる必要があるんでな。よし、MOS機動」
音声指令に従い、MOSが起動する。
「これより、第一の封印を解く最強コマンドを入力する。入力を確認したら、処理を実施しろ」
「了解しました。グランドマスター」
これからなにが起こるのかよく分かっていないまりもを放って、MOSに指示を出す。
「よし、準備は整った。これより裏コマンド入力を開始する。あ、まりもん、管制ユニットのハッチを閉じて」
「え、あ、うん」
管制ユニットのハッチが閉じ、管制ユニット内での出来事は周囲から知られることが無い状態となった。
「よし、それでは、まず97式衛士強化装備のモードを、ノーマルから特殊モードへ切り替えてくれ」
「特殊モード?なにそれ?」
「ん?ああ、そういえば、マニュアルには記載していなかったな。手首にあるコンソールを青ボタンを長押しして…」
特殊モード起動の方法を教えること数分、特殊モードの起動に成功。
「わざわざこんな難しい仕組みにするなんて、絶対に何かあるわね…」
確信したかのような目でおれを見つめるまりも。さすが、正解だ。この特殊モード、別名着たままエッチモードという!
「ふふふ、まあ、それはおいおい分かることさ。今は、その身をもって確かめるがよい!」
がばっ、とまりもの胸にのしかかる。
「ちょっと、隆也くん、こんなところで…」
「おっと、勘違いするなよまりもん。これは今から実行する裏コマンドに必要なだけだ」
いいつつ、おれはまりもの右胸のポッチに、そっと左手を伸ばした。
「えっ?あっ!ち、ちくびが浮かび上がってる!?」
おれの手が伸びる先を見て、まりもが驚愕の叫び声をあげる。そう、衛士強化装備だって立派な軍用装備だ。乳首の輪郭が外部から見て取れるようなフィッティングは従来ならしない。
だがこの特殊モードは違う。
「ふふ、気づいたかね、まりもん。だが、それだけではないんだぞ、さあ、裏コマンド入力の開始だ」
紳士的な笑みを浮かべながら、おれは左手の人差し指でまりもの右乳首を上方向に2回つま弾く。
「上、上」
「んっ!」
まりもの背がびくん、とのけぞる。
意外な刺激に驚いたのだろう。思わず声が漏れそうになるのを必死に堪えている。
この特殊モードの衛士強化装備は、エロエロモードの名に恥じない特殊機能を幾つかもっている。その一つがこれ、装着者の触った部位に対して特殊な微弱電流を流す、というものである。
つまり、これを使えば単なる愛撫が敏感な神経を直接愛撫するかの如く効果をもたらすのだ。
「下、下」
「んうっ!」
続けざまに、まりもの右乳首を下方向に2回つま弾く。
まりもの頬は真っ赤に染まっている。良い感じに発情しているな、ぐふふ。
っと、いかんいかん、おれは真面目に封印解除をやっているんだ。決していやらしいことが目的ではないぞ。
「左、右、左、右」
「んんっ!!」
左の指でまりもの右乳首をつまみ左、右とリズムよくこね回す。
「B!」
「くふぅ!」
まりもの左のびーちくにキッス、頭文字を取ってコマンドBと言われている行為を実行。
そしてそのまま乳首を加えると、ちゅばちゅばちゅばちゅばっ、としゃぶりまわす。
「A!」
「ああっ!」
まりもの甲高い声あえぎ声、つまりコマンドAを引き出す。
瞬間、
「裏コマンド入力確認、搭乗者による封印解除規定を確認、これより第一の封印を解除します」
というMOSの声と共に、撃震ALの封印されていた機能が動き出す。
「よし、封印解除成功!」
ひとりガッツポーズを取るおれ。そこで頭部をがしっと捕まれた。
無論、相手は1人しかいまい。
「りゅーやーくーん?これは一体、どういう事かしら?」
「い、いや、だからこれが、封印を解くための儀式、裏コマンド入力だってばよ」
頭部に食い込む指の威力がました。相当気で強化している感じだ。
厳に、今の握力だと普通の人間だと頭部がミンチになっていてもおかしくない。
だんだんと指先から気がこぼれてきている。まるで、光ってうなっているようだ。
「まさか、シャイニングか!?」
と驚愕の叫びを挙げるおれ。
「残念、ゴッドよ」
不敵な笑みと共に答えるまりも。
めりめりと、指先がさらに食い込んでくる。それと同時に圧倒的な量の気が送り込まれてくる。
「ま、まさかのヒートエンド!?」
そのときに、ぐぎゃーという叫び声が、撃震ALの管制ユニットからこぼれ出たとか、出なかったとか。
それはともかく、桜花作戦開始をあと4日に控えたこの日、撃震ALの第一の封印が解かれた。
「どうしたのかね、立花伍長」
「いえ、性欲を持て余した末の行動で負った傷が」
小塚三郎さんに、おれは頭部を包帯でぐるぐる巻きにした状態で報告書を持ってきていた。
そりゃ、不審がられるわ。
「そうか、君も苦労している様だね」
「ええ…」
なぜか遠い目をして同意してくれる三郎さんに、妙な親近感を覚えつつおれは肝心の資料を三郎さんの手元に持っていく。
「これが、『雷雲』の基本仕様書か」
「ええ、動力は大型ML機関1機、小型ML機関2機、最大出力は、凄乃皇弐型の10倍です。また、公にはしていませんが重力偏差型機関を搭載しています」
「あの、先進撃震参型に搭載していたものと同型か?」
「いえ、あれよりもさらに変換効率を上げた物です。良くも悪くも、先進撃震参型はプロトタイプですよ」
「なるほど」
重力偏差型機関については、機密中の機密情報だ。なにせ、この技術を使えばG弾使用後の重力偏差を解消する技術の開発も可能なのだから。
従って、今まで押さえ込んできたG弾推進派が息を吹き返す可能性もあり得る。
とはいえ、今となっては、その勢力が盛り返してきたところで、趨勢に大した影響を与えることもあるまい。
重力偏差の解消技術と行っても、そもそもこの重力偏差型機関自体がブラックボックスに近いところがある。その解析だけでも十数年。応用技術を考えると二〜三十年近い期間が必要となってくるだろう。
「それよりも、興味を惹かれるのは制御中枢ユニットに戦術機をそのまま使っているところだな」
「最悪の事態を想定し、00ユニットを無事に回収するための策です。他意はありません」
「そういうことにしておこうか」
三郎さんはお前の考えていること、大抵わかるから、といったような目でこちらを見てから、資料に再び目を落とした。
「中枢ユニット、撃震アンリミテッド、か」
そう、超弩級万能型機動要塞「雷雲」の制御ユニットには、撃震ALと双璧をなす機体、撃震アンリミテッド、通称撃震ULが使用される。
ちなみに性能面で比較すると両者はほぼ互角。機動性では撃震AL、火力では撃震ULがそれぞれわずかに上待っているか。
それだって、操縦者である衛士の腕前次第でなんとでもなる範疇だ。
なぜ撃震ULなる機体を作ったのか?
名目上は確かに00ユニットの非常時の緊急離脱用ユニットだが、実際は違う。全ての機能を解き放った撃震ALは、その積んでいる機関の特性から現有兵器では対処できない強大な存在となる。
まりもが乗っている限り万が一はないとは思いたいが、生憎とまりもにはAL因果律がある。それがなにをどう作用するかは今のところ不明だが、一応何かあったときの対抗手段として撃震ULを作ったのだ。
「撃震ALも大概だったが、撃震ULも大概な機体だな。ブラックボックスのオンパレードだ。特に主機は一体何なんだ?」
「それについては、香月博士からも厳重な機密指定がされております」
「なるほど、ということは、立花伍長お手製のものということか?」
「さて、なんのことでしょうか?」
お互い長い付き合いだ、手の内は分かっている。三郎さんも、言わなくてもこれがおれが手がけた物だと言うことを分かっているのだろう。
それでもなお聞かなければならいのは、宮仕えの辛いところだな。
「それでは資料については以上です。機密性が高い故、今回は小官がお渡ししましたが、これからのことを考えると機密回線を敷いた方がいいですね」
「そうだな、とはいっても、そうすることで、私の部署が第四計画の情報を独占するのではないかと勘ぐる連中が多くてな」
「なるほど、確かに、小塚少佐は今イケイケドンドンで勢力拡大中ですからね」
「嫌な言い方をするな。なにも私は好きこのんで政争なんかに首を突っ込みたくはないんだよ。私は一介の技術者でありたいだけなのに。そもそもだな、君が…」
あ、やばい、地雷踏んだ。
「あ、それでは、失礼します。雅奈技術中尉もお元気で」
暗に後は任せた、というメッセージを込めて、雅奈に声をかけておく。
「はい、伍長こそ、身体に気をつけて」
包帯で顔を隠した謎の整備兵が執務室から飛び出したあと、小塚三郎少佐の執務室からは甘い声が聞こえてきたとかこかなったとか。